FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、ここ最近リンクス復帰を果たした紅椿の芽です。



正直、投稿間隔が開きすぎて申し訳ありません。割と課題と運転免許取得と積みプラと、いろいろありましてこちらの作業進行が遅れています。これからも投稿間隔が長くなるかもしれませんが、失踪する予定はないので、ガラパゴスゾウガメが東京マラソンを完走するのを見届けるような気持ちでお待ちください。



さて、こんな作者の言い訳は置いておいて、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.33

「邪魔だぁぁぁぁぁッ!!」

 

両腕に構えたガトリングガンを非装甲アントに対して放つレーア。大型のガトリングガンより放たれる幾多もの弾丸はアントを蜂の巣にし、完全に破壊し尽くす。それでも数あるうちの一機であり、未だその総数はほとんど変わっていない。

 

(本当、害虫みたいに幾らでも湧いてくる…………!!)

 

内心そのような愚痴をこぼしながらアントの集団に爆弾を二発投下した。小型弾頭ではあるが、その破壊力は高く、アント大戦勃発時より運用されている。だが、その爆弾の威力を知ってか知らないでかはわからないが、アント達はその場から散開し始める。それによって効果的な位置に投下できなかったわけではあるが、それでも数機のアントは爆風に飲まれた。非装甲であるが故に耐久性が低いアントに対しては極めて有効な一撃である。爆発の際に生じた破片が容赦なくセンサーを打ち砕き、その場へ沈黙させた。

 

「そらぁぁぁぁぁっ!!」

 

残ったアント群に向けて両腕のガトリングガンを掃射するレーア。時折、反撃として対空ミサイルやら銃弾やらが放たれてくるが、紙一重で躱し、反撃とばかりに掃射を叩き込む。装甲と比べて強度に劣るアーキテクトは否応なく銃弾に穿たれ、その場に崩れ落ちた。

 

「エイミー! そっちの状況はどうだ!?」

「相も変わらず、目の前(アント)だらけですよ!」

 

丁度彼女の後方でアントを撃破しているエイミーはそう嘆いた。そう嘆きの声を漏らしながら、オーバードマニピュレーターへと換装した両腕でアントを引き裂いた。不快な金属音が鳴り響くとともに、アントの単眼センサーからは光が消える。この様子だけを見れば、彼女達の方が優位に立っているように思えるが、未だに約四個中隊(48機)ものアント群が残っているのだ。決して気の抜ける状況などではない。

 

「そこっ!」

 

学園の防風林に紛れて、イオンブースターキャノンの発射体勢になっていたシュトラウスに照準を合わせたエイミーは、迷いなく両背部の滑腔砲を放った。装填されていたAPFSDSはシュトラウスの曲面装甲であろうとも容赦なく貫き、頭部と胴体を破壊する。発射体勢にあったがシュトラウスは頭部へとエネルギーが集中しており、流路が耐えられなくなったのか、破壊された頭部を起点として爆散した。

 

「倒しても、キリがない…………っ!」

 

飛びかかってきたアントを殴り潰すエイミー。相手もまた、同じように拳型の兵器——インパクトナックルを装備していたが、それをはるかに超える強度を有しているオーバードマニピュレーターの前では非力であった。右半身を吹き飛ばされ、物言わぬ骸となったアントを一瞥すると、彼女は次の敵へ照準を切り替えた。そんな時鳴り響く後方警戒のアラート。振り返ったエイミーの目に映ったのは、バトルアックスを振り上げているコボルドの姿。

 

「エイミー! そこを退けッ!」

 

レーアの声に反応したエイミーは展開していた履帯ユニットを逆回転させてコボルドから距離を取る。直後、レーアの放った対地ミサイルがコボルドの頭を後ろから吹き飛ばした。だが、機能中枢まではダメージが達していないのか、動きを止める気配はないが、頭部光学センサーによって情報を得ることができず、大きな隙を晒してしまう。それを見逃すエイミーではなかった。

 

「トドメです!」

 

履帯を回転させ、コボルドへ距離を詰めるエイミー。そして、胸部に貫手を叩き込んだ。装甲を引き裂かれ、機能中枢を破砕されたコボルドは力なく両腕を下げる。エイミーは完全に敵機が沈黙したことを確認すると、手を引き抜いた。

 

「…………すみません、レーア。助かりました」

「気にするな。仲間のフォローをするのは当たり前だろう?」

 

互いに背中を預け合いながら、銃弾とキャニスターをそれぞれ放つ二人。一見アンバランスな組み合わせかもしれないが、アントの攻撃は決して許さず、次々とスクラップが生産されていた。そんな強固な二人の間を縫うかのように一発の砲弾が超音速で通過していった。

 

「な、なんだ今のは!?」

 

突然の事態に動揺を隠せないでいるレーア。他のアントへの牽制射撃を行いながら、その砲弾が飛来してきた方へと目を向けた。そして——敵は防風林の中にいた。白くのっぺりとした頭部、漆黒の装甲、そして火力偏重な装備構成——見間違えるはずがない。敵と以前交戦したことのある彼女なら尚更だ。

 

(まずい! 奴とエイミーが邂逅したとなれば…………あいつが正気でいられるかわからないぞ!!)

 

レーアはそう懸念していた。エイミーと敵とにはとある因縁がある。それ故にエイミーが正気を失ってしまうのではないか——レーアの脳裏にはそんな言葉が浮かんでいた。

 

「…………そうか…………またお前が…………」

 

そして、その懸念は現実のものとなる。レーアの耳にはいつもの丁寧口調を失ったエイミーの声が聞こえてきた。すぐに冷静さを取り戻させなければいけない——そう彼女は思ったが、周囲への牽制を続けなければいけない以上、攻撃の手を緩めるわけにはいかなかった。

 

「…………また私の前に現れたな、この亡霊(スペクター)がぁぁぁぁぁ——ッ!!」

 

エイミーは飛んでくる銃弾など気にもせずにそのまま敵へと突っ込んでいく。彼女の目には、単なる敵としてだけではなく、かつての戦友の姿を模した亡霊として映っていたのだった。

 

◇◇◇

 

『オスプレイ26よりグランドスラム04! まずい事態になった!!』

 

砲撃を続けていた私の耳に、電磁加速の音に混じってレーアの叫び声が聞こえてきた。しかも、かなり切迫しているような様子だ。一体何が起きたのだろうか…………最悪の展開が頭の中を過ぎる。

 

「こちらグランドスラム04! 一体何があったの!?」

『ブラスト09が暴走! 現在単機でウェアウルフ・スペクターと交戦している!!』

 

ウェアウルフ・スペクター…………聞きなれない機体の名前が耳に入ってきた。ウェアウルフと言っている以上、おそらく轟雷系統の機体とは思われるけど…………まさか!

 

「ラウラ! 黒い榴雷の反応は何個ある!?」

「ここのエリアに二個、レーア達が交戦しているエリアに一つだ!」

 

戦況マップにもラウラからの報告と同じ結果が示されていた。一機別の方へと逃げられてしまった…………! おそらく砲撃の爆煙に紛れて防風林の中へと隠れたのかもしれない。でも、今更そんなことを考えても、私自身が何かすることができるわけではない。

 

(流石に支援をまわせるような状況じゃない…………!)

 

私達は目の前の黒い榴雷二機に見事足止めされているし、そのほかの場所も殲滅はまだ完了していない。こんな状況で支援として引き抜いたりしたら、その場所から戦線が崩壊する。そんなことになったら、大惨事になってしまうのは間違いない。それだけは絶対に避けなきゃ…………!

 

「くっ…………!」

 

再び向こうから砲撃がやってくる。私とラウラは学園の土地から展開された防護板の裏に身を隠した。この防護板は複合装甲でできており、結構防御力があるそうだけど…………正直どこまで耐えられるのかはわからない。

 

「物量も火力も向こうが上だな…………!」

「攻勢に出ようにも出れないよ、これ…………!」

 

向こうからの攻撃の合間を縫って私はグレネードを撃ち込むけど、その度にそれ以上の攻撃が飛んでくる。防護板の一部はロングレンジキャノンの直撃を受けて抉れていた。迂闊に頭を出そうものなら一発であの世に送り込まれてしまうだろう。背中に薄ら寒いものを感じてしまった。

 

『一夏! ラウラ隊長! 支援を要請する! こっちが持たないぞ!』

 

レーアの切迫した声が聞こえてくるけど、対応をどうすればいいのか…………最終的判断はラウラが下すから、私が勝手に決めるわけにはいかない。今の状況を打開できずにいる自分が腹立たしく思えてきた。

 

『スレイヤー24よりグランドスラム04及びハーゼ01。担当エリアのアントは当該エリアより移動、ブラスト09及びオスプレイ26の担当エリアへと進行中。これよりラファール12と共に援護へと向かう』

 

そんな時聞こえてきた箒からの報告。どうやらラファール12——シャルロットと共にレーアとエイミーの支援に向かってくれるとのことだ。私はラウラの方へと目を向ける。すると彼女はシュヴァルツェア・ハーゼのわずかにしか動かせない頭部を縦に振って肯定の意を示してくれた。そこからの私の判断は早かった。

 

「グランドスラム04、了解。おそらく向こうは非常にまずい状況になっている可能性が高いから、可及的速やかに支援に向かって!!」

『スレイヤー24、了解した!』

『ら、ラファール12、り、了解です!』

 

戦況マップには二人の光点がレーア達の方へと向かっているのが表示されていた。シャルロットは若干戸惑ったような返事をしていたけど、これが彼女にとっては初の実戦だからね…………テスト運用としてフレームアームズを扱ったことはあるみたいだけど、実際にアントを前にした事はないそうだ。いくら非装甲のアントに対しては強力な兵器であるフレームアームズであっても、パニック状態に陥った兵士が扱ってしまえば棺桶に成り果てるって訓練時代に聞かされたっけ。…………できればそんな事態にならない事を祈りたいよ。

 

「ひとまずこれで向こうはどうにかなりそうだな…………!」

「こっちは状況最悪だけどね…………!」

 

一方の私達は完全に反攻の手立てが見つからない。コボルドとかはなんとか倒せてはいるけど、あの黒い榴雷は未だに健在。あれをどうにかしない限り、私達に勝機はない。味方としては頼りになる榴雷だけど、敵に回るとこんなにも厄介だなんて…………!

 

「奴は一体どれだけの弾薬を搭載しているんだ…………!? そろそろ弾切れになってもいい頃合いだぞ!」

「おそらく量子変換分全て弾薬に割り振っているんだと思うよ…………でなければ、ここまで持つわけがないんだから!」

 

ロングレンジキャノンによる攻撃は終わったようだけど、黒い榴雷はシールドを跳ねあげていて、その裏面にあるグレネードとミサイルを放ってきていた。二機同時による攻撃だから密度が高い。周りのコボルドやらシュトラウスも攻撃を仕掛けてくるから気が抜けない。接近戦で一気に片付けたいとは思うけど、この状況でブルーイーグルに換装するのは無理。この状況を榴雷で乗り切らなきゃ…………!

 

「ッ…………!? 後方より接近する機影有り! 数は四! 」

「回り込まれた!?」

「違う! この反応は——」

 

そんな時、ラウラが私たちの後ろから接近してくる機体があることに気がついた。別働隊に背後を押さえられてしまったかと思ったけど、どうやらそうではないらしい。というか、この反応…………アントじゃない——まさか…………!?

 

『この程度、私達で十分片付けられるわ! 行くわよ!』

『『『了解!』』』

 

接近してきたのはまさかのラファール・リヴァイヴ…………IS四機で編成されている教員部隊がこっちへと向かってきている。どうして!? 避難命令とエリア進入禁止の命令はお姉ちゃんを経由して出したはずだよ!?

 

「一夏! 避難命令は確かに伝わったはずじゃなかったのか!?」

「織斑先生経由で伝わっているはずだよ! 迎撃を最優先したから、黒い榴雷が確認された後だけどね! それでもちゃんとしたよ!」

「くっ…………つまり独断行動というわけか! そこの教員部隊! 直様転進してこの場から離脱せよ! 繰り返す! 速やかに離脱せよ!」

 

ラウラが接近している教員部隊に対して警告を行う。その間、攻撃の手が弱まるから私はハウザーモードのセレクターライフルとアサルトライフルを取り出して攻撃を開始する。時々ロングレンジキャノンが飛んでくるからその都度防護板の裏に隠れるけどね。しかし、ラウラが警告をしても、教員部隊は一向に転進する気配はない。なんでなの…………対アント戦じゃISは無力にも等しいと言われているのに…………!

 

『フン! その程度の敵、私達ならすぐに片付けられるわよ! あんたの命令なんて聞く必要ないわ!』

 

ダメだ…………完全に聞く耳を持ってくれてない。本当にこのままじゃまずいって状況だってのに…………!

 

『それに、私達は最強のISを装備しているのよ。これくらい簡た——』

 

直後、鳴り響く照準警報(ロックオンアラート)。私は防護板の裏に身を隠した。それから数瞬置いて金属を激しく打ち付ける音が聞こえてきた。同時に何かが弾けるような音も…………嫌な予感がする。

 

『か、香木原先生!? 香木原先生しっかりしてください!!』

『な、なんなのよ!? なんでISの武器が効かないのよ!!』

『う、嘘でしょ!? どうしてなの!?』

 

ふと後ろを向くと地獄絵図と化していた。様子を見るに一機はシールドエネルギーが枯渇、残る三機は茂みから迫ってきたコボルドに対してアサルトライフルを撃っているけど、対IS用のそれでは有効打どころか傷一つつけることができないでいる。しかも、黒い榴雷のうち一機は向こうにターゲットを絞ったのか、教員部隊にも砲撃が降り注いでいた。

 

『嫌ぁぁぁぁぁっ!!』

『し、死にたくない! 死にたくない…………ッ!!』

 

砲撃は確実にシールドエネルギーを削っていっているようで、悲痛な叫び声が回線を通して聞こえてきた。だから早く避難してってラウラが言ったのに…………!! なんでこうも厄介ごとばっかり舞い込んでくるのかな!!

 

「…………ラウラ、敵への牽制をお願い」

「了解した…………あいつらをさっさとどこかへどかしてくれ。死なれては後々面倒だ」

「わかった…………じゃ、後はお願い」

 

私はセレクターライフルを教員部隊に襲撃を仕掛けているコボルドに対して放った。装填していたのは成形炸薬弾。着弾と同時に爆発が発生し、直撃を受けたコボルドはその場に崩れ落ちた。

 

「そこの教員部隊! 撤退を支援します! 今すぐにこの場から離れなさい!」

 

両脇に抱えるようにハウザーモードのセレクターライフルを構え、敵陣に榴弾を落とす。同時にグレネードランチャーからチャフグレネードを放って敵のFCSに干渉させた。これでしばらくは捕捉されないはずだ。この間に早くどこかへ避難させなきゃ…………!

 

「だ、誰があなたの命令なんか——」

「——死にたくなかったら、さっさとこの場から離れて! シールドエネルギーが尽きたISなんて足手まといです!!」

 

飛んでくる銃弾を左肩のシールドで弾き、シールドエネルギーの尽きている教員部隊を保護する。幸いにも向こうはラウラが派手に暴れてくれているおかげで、黒い榴雷は完全に彼女へと釘付けになっている。そんな時、一条のビームがシールドへと着弾した。同時に舞い上がる水蒸気。リアクティブアーマー内に充填されていたジェルが蒸発したようだ。あたりには水蒸気が立ち込め、即席のスモークが展開された。

 

「さぁ、早く!!」

 

今になって状況を理解したのか、教員部隊は気絶した一名を引きずってその場から撤退していった。正直言って今のは完全に妨害行為にも等しいよ…………おかげでこっちは余計な手間がかかっちゃったわけだし。とはいえそんな事をぼやいていられる暇なんてない。グラインドクローラーを展開し、私はもう一つ展開されていた防護板の裏へと身を隠した。

 

「ラウラ! 教員部隊の撤退を確認したよ!」

『これで不要な死は避けられたというわけだな!』

 

向こうの防護板の裏からラウラは連装リニアカノンを使って攻撃を加えている。私もイオンレーザーライフルモードに変更したセレクターライフルを放って攻撃を再開した。何機かのコボルドやシュトラウスはそれで沈黙するが、指揮をしていると思われる黒い榴雷には未だこれといったダメージを与えられてない。このイオンレーザーライフル、射程が短いからそれに比例して威力が減衰するという光学兵器にありがちな問題があるそうだ。…………素直にハウザーモードへと切り替えた方がいいかもしれない。

 

(このままじゃ…………こっちがすり潰されてしまう…………!)

 

どうやら増援も来ているようだ。その証拠に撃破数に対して残存機体数が多すぎる。状況は依然として変わらず、明確な反撃の糸口を見つけられずにいる私は奥歯を噛み締めていたのだった。

 

◇◇◇

 

「どうだ? 実戦の空気には慣れたか?」

 

レーアとエイミーの支援に向かっている箒は、シャルロットに向かってそう言った。彼女は今回が初の実戦参加である。民間協力という形をとってはいるが、其の実、一般兵士となんら変わりはない。新兵はふとした事で恐慌状態に陥り、時として重大なミスを引き起こすことがあると、新兵教育をしたこともあるラウラから箒は言われていた。

 

「す、少しはね…………で、でも、あんな物量を相手にし続けるの…………?」

 

未だに正気を保ってはいるが、流石にあの物量だけは慣れないようだな——シャルロットからの返答を聞いた箒は内心そう思った。同時に、かつて入隊したばかりであった自分も同じように思っていた事を彼女は思い出した。機械であるが、自分たちと同じ人型をしており、何度倒しても無数に沸き続けるアントと初めて対峙した時は物怖じしてしまった事が箒の脳裏をよぎる。シャルロットも同じように感じているのかもしれないと箒は思った。

 

「ああ。奴らを完全に駆逐しなければ、私達は大切なものを失ってしまうことになるかもしれん。だからこそ、戦い続けなければならないのだ」

 

シャルロットからの質問に箒はそう言い切る。その言葉に嘘はない。戦う理由は人それぞれだろうが、その根底にあるものは同じはずだ。だが、おそらくシャルロットは自分がどうして戦うのか、その理由をまだ見つけられずにいるのかもしれない。そう思った彼女は、シャルロットに言い聞かせるように、そして自分に言い聞かせるように言ったのだった。

 

「そう、なんだ…………」

「お前にだって大切なものはあるはずだ。理由もなく破壊を続けるのならば、奴ら(アント)と同類になるぞ」

 

機械にはプログラムを実行するしか能が無いが、人間は自らが考え、自らの意思で動く事が出来る。何より、行動の裏にあるのは、電子化された数字ではなく、不確定要素の多い感情が突き動かす意志。それがフレームアームズとアントの違いなのかもしれない。

 

「——さて、間も無くレーア達の交戦エリアへと突入する。気を引き締め——ッ!?」

 

レーアとエイミーが交戦しているエリアへと突入する直前、箒の妖雷に多数の敵性反応が検出された。その数、全部で九つ。変則三個小隊でも編成されているのか、と彼女は思ったが、戦況マップに表示されたそれらの動きを見ると、どうにも違うように思われる。こいつらをこのまま放置しておくわけにはいかんな…………——そう判断した箒はすぐにシャルロットへと回線を繋いだ。彼女もおそらく確認はしているだろうが、もしかすると気がついてないかもしれない、そう箒は思っていた。

 

「シャルロット、状況は戦況マップで確認したか?」

「う、うん…………この下に敵がいるんだよね…………?」

「そうだ。だが、ここからは別行動となる。お前はこのままレーア達のところへ向かえ。指示はレーアに仰ぐといい。私は少し別件で離れる」

「ま、待って!? ほ、箒は!? 箒はどうするの!? ま、まさか…………単機で!?」

 

シャルロットは箒が単機であの数の敵に向かうことが容易に想像できてしまった。その危険性は新兵同然の彼女にだってわかる。ならば自身以上に戦場を巡った箒ならばより危険性をわかっているはずだ——なのに、単機で向かうような言動をしたものだから、シャルロットは不安を抱いてしまった。

 

「危険すぎるよ! 僕だってやれる——」

「新兵同然のお前をわざわざ危険性の高いところへ連れて行くわけにはいかん。——なに、心配するな。すぐに戻る。後は任せたぞ」

 

気が気でないシャルロットへとそう言った箒は進路を変更、そのまま地上へと降下していった。場所は学園の防風林エリアでも最も茂っている場所だ。可能な限り木々に接触せず降下した箒は、地上へと軟着陸する。そして、反応があったところへと歩みを進めた。妖雷は極めて隠密性の高い機体である。故にこうして敵機に感知されず接近する任務を行うことが可能なのだ。

 

(しかし、一体何が起きているのだ…………識別可能が八、未確認機(アンノウン)が一つ、か…………)

 

戦況マップ上で点滅している八つの赤い光点の下には[NSG-04σ]と型式番号が表示されていた。その型番から箒はヴァイスハイトの二個小隊であると判断したが、残る一つの赤い光点には[UNKNOWN]としか表示されていない。敵の新型なのか、それとも秘匿性の高い任務を引き受けている友軍機なのか、断片的な情報しかない現状で彼女は判断しかねていた。

 

(もう少しで、奴らの交戦圏内に入る——ッ!?)

 

ヴァイスハイト達の交戦圏内付近にまで接近した箒の目にはにわかに信じがたい光景が飛び込んできた。彼女はその光景に思わず息を飲んでしまう。ヴァイスハイトが八機も展開しているのは別に問題じゃない。それらの装甲が全て毒々しい紫と翠に染まっているのも関係ない。だが、その八機がまるで取り囲むように、その手に構えた長銃——ベリルショット・ランチャーを、片膝をついた真紅の機体に向けていたのだから——。

 

◇◇◇

 

「こいつでも食らいなさい!」

 

振り下ろされた青龍刀型近接戦闘ブレードは深々とアントへと食い込み、その重量も相まって敵を叩き切る。その時の反動を利用し、鈴はもう片方の青龍刀型近接戦闘ブレードを振るい、背後のアントを切り裂いた。刀刃のチェーンブレードが金属を引き裂いていき、内部の配線を切り裂いて行く音と、チェーンブレードのギアが上げているけたたましい音が不気味に響き渡っていた。

 

「それにしてもしつこいわねえ…………! セシリア! そっちはどうなのよ!?」

 

背部の重レーザー砲を放ち、付近のアントを数体纏めて吹き飛ばした。それほどの破壊力を持ってしてでも、何度でも湧き出てくるアント。減らない敵に鈴は苛立ちと焦燥感を感じていた。いくらコボルドやシュトラウスの割合が低いとはいえ、非装甲アントが脅威とされてるのはその圧倒的物量。大戦初期からこの物量に各国軍は苦戦を強いられてきたのだ。残弾数に余裕があるとはいえ、それでも油断などできない。鈴は自分の支援についているセシリアに現在の状況を問いかけた。

 

「現在六機を撃破! 残敵もそこまで多くはありませんわ! 精々十数機といったところですの!」

「十分多いわよ!!」

 

セシリアはその手に構えているストロングライフルを放つ。長大なリニアレール砲身によって加速された飛翔体は真っ直ぐ突き進み、非装甲アントの頭部のみを撃ち抜いていく。何発放っても、それらはまるで吸い込まれるかのように着弾していくのだ。これにはセシリアの駆るラピエール狙撃仕様の射撃精度が高いというのもあるが、それ以上に彼女自身の狙撃適性が高いというのが大きく関係している。操縦者の意のままに動くフレームアームズならではの芸当であり、プログラムされた動きと判断しか取れないアントにはできないものだ。物量で劣る各国軍が今日まで耐えてこられたのは偏にフレームアームズあってのものだと言えるだろう。だが、アントより性能では優位に立っていたとしても、この量は鈴にとって少々くるものがあるようで、思わず嘆きの声を上げてしまっていた。

 

「ですが、嘆いていても仕方ありませんことよ! 一夏さんやラウラさんはこれよりマズイ状況になっていますわ!」

「そんなこと…………言われなくてもわかっているわよ!!」

 

セシリアにそう言われた鈴は、青龍刀型近接戦闘ブレードからリニアライフルに装備を切り替え、一気に畳みかけていこうとする。不測の事態に備えて重レーザー砲の残弾は可能な限り温存しておきたいのだろう。それでも、射程と威力を強化されたライフルの一撃は非装甲アントにとって致命的な一撃となった。既に四機が破壊され、物言わぬ骸と化している。

 

「だったらさっさと片付けて支援に向かうわ! セシリア、援護は任せたわよ!」

「ええ! ならば五分以内に片付けていくとしましょう!」

 

鈴の言葉にセシリアは返事と次の弾倉を装填することで答えた。それを横目で見た鈴はフルフェイスバイザーの下で獰猛な笑みを浮かべる。バオダオの放つ獰猛なオーラ以上に凶暴そうなものだ。チャームポイントである八重歯を見せた笑みを浮かべた鈴は、スラストアーマーのスラスターに火を灯し、セシリアはストロングライフルの狙撃用スコープとラピエールのセンサーを同調させ、得物を構えなおす。

 

「それじゃ…………行くわよ!」

「承知しましたわ!!」

 

セシリアがストロングライフルを放つのと同時に、鈴は再びアントの群れへと突撃していく。吹き付ける雹のような攻撃は確実にアントの数を減らしていったのだった。





・SA-17SP ラピエール 狙撃仕様

SA-16 スティレットを支援するために開発されたSA-17 ラピエールを長距離狙撃仕様へと改装した機体。元のラピエールより高感度のセンサーを搭載しており、高い索敵性能を誇る。また、射撃時の手ブレ、風向等による弾道のズレを可能な限り抑える為の高性能射撃管制システムが搭載されており、圧倒的射撃精度を有している。しかし、索敵や狙撃用のシステムに量子変換のリソースを割かれてしまっており、搭載されている武装は極めて少ない。現在、英国海軍第八艦隊所属の狙撃部隊に配備されている。



[ストロングライフル]
超大型の狙撃用レールガン。リニアレールによる加速を用いている為、リニアライフルと呼ばれることもある。折り畳むことが可能であり、これによって携行性を高めているが、並みのFAを優に超える大きさである。

[アサルトライフル]
プルパップ式の標準的アサルトライフル。射撃精度を高めてあるが、携行マガジン数は三つと補助兵装的意味合いが強い。

[ハンドガン]
FAサイズのオートマチック拳銃。高い携行性を誇る。弾数は多くなく、装填されているマガジン分しか使用できない。

[レイピア]
超硬度メタル製の刀身を持つ細剣。耐久性が低い武器であるが、緊急時に攻撃をいなす事を主眼に置かれている為、問題はないとされている。





今回はセシリアの乗機であるラピエール 狙撃仕様を解説しました。残るは箒とシャルロットだけ…………どっちが先に解説できるのやら。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



-追記-
活動報告でアンケートを行う予定です。
そちらもよろしくお願いします。



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