FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、最近炎のにおい染み付いてむせてる紅椿の芽です。



このところ、大学が忙しくてまともに執筆できてません。今後、しばらく間が空くかもしれませんが、失踪はしないので、ガラパゴスゾウガメが東京マラソンを完走するのを見届けるような気分でお待ちください。



そんな事はさておき、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.31

晴れて亡命に成功したシャルロットは、私達IS学園派遣部隊に配属される事になり、また戦力が増加する事になった。本当に中隊規模の戦力となりつつあるこの派遣部隊だけど…………正直に言って、まだ一部の教師達からはあまりいい目では見られていない気がする。IS学園において、私達FAパイロットはある意味異物だからね…………ISも凌ぐ戦闘力を有している事が気にくわないのかもしれない。でも、基本的にそれを発揮するのは戦闘行動に入った時のみだし、人に向ける気は更々ない。まぁ、やっかみみたいなものだって割り切るしかないのかもしれないね。

 

「それにしても…………その機体、大分改造されてるね。原型をギリギリ留めているってレベルじゃない?」

「私から見てもそう思うぞ。とても私の機体と似た機体がベースとは思えん」

 

とはいえ、そんなことをぼやいていても仕方ない。そういうわけで、シャルロットの持つフレームアームズ、[SA-16b-CⅡ フセット・ラファール]の性能チェックを同じスティレット乗りのレーアと共にする事になった。

 

「まぁ、共通部分が胴体と二の腕、大腿部だけって話だからね。その分、機動性はかなり増しているはずだよ」

「それは…………そんな特殊な推進ユニットを搭載してればそうなると思うよ」

 

シャルロットが駆るフセット・ラファールの推進ユニットは少し特殊な形状をしていた。ユニット自体はスティレットとはあまり変わらないようだけど、その取り付け部から少し下——背中と腰の中間のあたりに、可動式大型スラスターノズルが取り付けられている。しかも、それらを線で結ぶと丁度正三角形になるような配置で、互いの動きを阻害しないようになっていた。他にも肩裏にスラスターノズルが取り付けられており、とんでもなく機動性を重視しているように思える。

 

「機動性を増しているのは推進器だけじゃなくて、装甲の方も大きいよ。まぁ、ランディングギアは取り付けられてないんだけどね」

「装甲も? 確かに、角がやけに尖っているみたいだが…………これ自身が武器とか言うなよ?」

「一応、アーマーエッジは近接格闘戦にも耐えられるそうだよ」

 

…………なんか、ものすごく物騒なことを聞いた気がするんだけど。確かに両肩のスタビライザー、脛装甲のエッジはかなり鋭くなっている。さらに、爪先と踵の装甲には小型のブレードが装備されている。これがアーマーエッジのようだ。もしかしてじゃなくて、これ完全に全身刃物でしょ? どんなイカれた機体に仕上げてるの、フランスは…………。こんな尖った性能の機体を扱えるの、そうそういないと思うよ。逆を言えば、こんな機体を任せられるシャルロットはかなりの技術を持っている可能性が高いということだろう。

 

「兵装としては何か搭載してるの? さすがにそのアーマーエッジだけが武器ってオチはないでしょ?」

「当たり前でしょ!? てか、それだけで行くって、自殺行為でしかないよ!?」

「射撃武器無しで近接戦を行うのは確かに危険だな」

 

どこかの誰かさんにぐっさり刺さりそうな言葉を放つレーアだけど、実際、近接戦を行う機体には基本的に射撃武器が何かしら搭載されている。援護もない状況で近接武器一つで突っ込むのは、ベテランかよほどの大馬鹿かのどっちかだよ。私のブルーイーグルだってベリルソードの近接戦がメインだけど、ショット・ランチャーの機能を持つベリルバスターシールドやセグメントライフルを装備しているしね。

 

「一応、格納されている兵装はブルパップ式アサルトライフル、四連装空対地ミサイルランチャー、ロングライフルとかだよ。他にもあるけど、全部言うと大変だから、後で報告書に纏めて渡しておくね」

「空飛ぶ弾薬庫か?」

「…………ガトリングガンと対地ミサイルを両腕に装備して、両腰に爆弾倉を取り付けてるレーアには言われたくないと思うよ?」

 

それでも十分、シャルロットは重武装な気がする。多分、武装とかを聞く限りは制空戦闘と近接機動射撃戦向きなのかもしれない。というか、かなりマルチロールな仕様だと思う。となると、戦場で配置するには前衛か中衛のどちらかになるね。ラウラと話し合って戦術を考えなきゃ。

シャルロットの機体を空飛ぶ弾薬庫と評したレーアだけど、レーアもレーアで重装備だ。両手にガトリングガン(M547A5)空対地ミサイル(S-41B)を装備して、両腰には小型爆弾を投下する爆弾倉を取り付けてるという対地攻撃の鬼といった状況。しかも、ベースはACSクレイドルという複合装備を取り付けて、スラスターを追加したスーパースティレットⅡという高機動機体…………爆弾投下を終えたらすぐに制空戦闘を行えるという、恐ろしくも頼もしい機体だ。流石、元ブルーオスプレイズ。水中のアント狩をやってのける機体だけあるよ。

 

「そうか? 私としてはこれが当たり前だからなんとも思わないんだが…………というか、お前の機体の方が重装備だろ」

「うぐっ…………で、でも、私の場合は陸戦型で支援砲撃機だし! 重装備になるのは仕方ないじゃん!」

 

私の場合、ブルーイーグルに乗ってる時は違うけど、防衛線の構築が主任務だし、遊撃なんてことはあまりない。だからこそ、耐久力と制圧力を高めるために重装備化してしまうことが殆どだ。逆に空戦型に求められるのは即応性だし、重装備よりは機動性の底上げか優先されるとの事。瀬河中尉がそう言ってた。セシリアのラピエールのように必要最低限の装備で機動性を維持しているのはわかるけど、レーア程重装備にしているのはあまり見たことがないよ。

 

「それはそうだがな…………」

「前に一夏がその機体で模擬戦してる映像を見たことがあるんだけど…………どう見ても一個人が扱う量の弾薬じゃないと思うんだ。あれ、一機で三機から四機くらいの火力を有してるでしょ」

 

そう言ってシャルロットは私が今装備している榴雷を指差してきた。まぁ、国防軍はあまり予算を割かれないせいで配備できる機体数に上限があるみたいだし、軍属となって前線に出る人も他の軍と比べると少ないから、個々の性能を限界まで特化させなきゃいけないんだよ。それ故に火力を増強したのだと、葦原大尉が言ってたっけ。ここに来る前、左腕にグレネードランチャーが増設されたのはそれが理由との事。まぁ、『軍備増強反対』とか言って騒いでいる人たちがいるから、保有数を増やせないという理由もあるみたいだけどね。

 

「っていうか、今は榴雷についてじゃなくて、シャルロットのラファールについてじゃないの!?」

「おっ、そうだったな」

「あ、うん、そうだったね」

「二人ともナチュラルに忘れてた!?」

 

完全に今日のお題を忘れていた二人に思わず私は頭を抱えそうになった。まぁ、シャルロットが自然体でいられるようになったのはいい事なんだけどさ…………何か方向を間違えてしまっているような気がしてやまない。

 

「冗談だよ、冗談。僕の機体の性能チェックだってのは覚えてるから」

「…………二人揃って私の事弄りに来てない?」

「気のせいだ。それよりも、模擬戦でも行うのか? 性能チェックとなればそれが一番手っ取り早いが」

「うーん、それはまだ無理かな。シャルロットの全武装に合った模擬弾を用意しなきゃいけないわけだし、雪華に詳細を渡してからでも遅くはないと思うよ」

 

それでも一週間後には行いたいけどね、の私は付け加えた。シャルロットの機体の詳細はまだ雪華に渡してない。というか、雪華はラウラの機体につきっきりだから、今はそっちで手がいっぱいだそうだ。一人で十機近い数を整備してるんだから、そろそろオーバーワークになるんじゃないのかって不安になって来る。まぁ、基本的な整備は私たち自身でやるけどね。それに、私なら定期的に基地でメンテナンスを受けられるし。そうでもしなければ、雪華が過労で倒れてしまうかもしれない。それを避ける意味合いも含めて、一週間後くらいが適正かなと思ったまでだ。尤も、此の所様々な改造機体を整備してテンションが跳ね上がっている雪華の事だから、無茶してでもシャルロットの機体に関することに首を突っ込んで来そうなんだけどね。

 

「わかった。それじゃ、僕はこの機体の資料を作成して雪華に渡せばいいんだね?」

「そういう事。機体データの提出がまだなのシャルロットだけみたいだから早くした方がいいよ」

「うぅ…………僕、資料作りとか苦手なんだよねぇ…………」

「優等生が何を言ってるんだか。私以上に成績がいい癖に」

「…………二人とも、成績が平凡な私にすっごいグッサリ刺さって来るんだけど」

 

実際のところ、レーアもシャルロットも同じくらい頭がいいよ。というか、私が平凡すぎるだけなのかもしれない。テストの成績なんて、殆ど一般人と同じくらいだし。本当、私が中尉の階級にいてもいいのかわからなくなってくる。士官学校を卒業したわけじゃないから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけどさ…………たまには上官らしく振舞ってみたいと思う。まぁ、自分から上官と部下みたいな関係じゃなくて、タメで接してって言ってるからね。…………レーア達に勝てるのが多分報告書作成くらいしかない。戦闘においてはほぼ機体の性能のおかげだし。

 

「…………まぁ、とりあえず、今日のところはこれで解散にしよ? そろそろアリーナの閉館時間だし」

「もうそんな時間か…………わかった、先に機体を片付けてくる。アリーナの入り口で集合だな」

「うん。それじゃ、またあとでね」

 

とりあえず今日のところはこの辺でやめておくことにしよう。時間も時間だし。それに…………なんだかお腹空いてきちゃったから、早くご飯が食べたい。榴雷は負荷が低いけど、それでも体力を使うわけだし、今日はあんまりお昼ご飯食べてないからね。流石に時間がないからと言って購買のお握り一個で済ませたのがまずかったのかも。

 

「僕達もそろそろ移動する?」

「そうだね。それじゃ、お先に」

 

私はシャルロットにそう言うと、ショックブースターを点火、ピットへ向けて飛び上がった。ピットの床へ着地すると、床に使われている特殊合金がなんか軋むような音を立てていた。…………私の機体で軋みをあげるんだったら、ラウラの機体はどうなるの? フレームアームズの中でも超重量級の輝鎚がベースなんだよ? 床が抜けたりしないのかな…………その辺がある少し不安に思えてきた。

 

「——って、えぇぇぇぇぇっ!? そ、その機体で空飛べるの!?」

 

案の定、シャルロットはこんな重装備の機体が空へと飛び上がったことに驚いていたのだった。

 

 

「——周辺に敵影無し」

「…………何をしてるの、レーア?」

 

アリーナの出入り口で集合した私たちだけど…………なんかレーアが謎のゴーグルを装備して辺りを見回しているんだよ。あまりにも異様な光景に私もシャルロットも思わずなんと突っ込んだらいいのかわからなかった。

 

「いや、以前一夏が襲われたのはこの辺に伏兵がいたからだろう? ならばこの辺の茂みに潜んでいる可能性も否定できないからな…………サーモゴーグルで警戒しているのだ」

 

…………ああ、そういうこと。まぁ、確かにあの時は茂みというか建物の陰から出てきた人たちに連れていかれて、防風林の中でやられたんだっけ。でも、その時のパターンじゃいくら熱源探知装置であるサーモゴーグルを使ったからとはいえ、見つけられるかどうか怪しいよ。まぁ、こんな風に警戒してるってあからさまに見せていれば、向こうも下手に行動をしてこないだろうし、ある意味抑止力みたいな感じになっているのかもしれない。とはいえ、やってる事が恐ろしく怪しさ満点なのは言うまでもない。もしかすると周りから奇異の目で見られてしまうかもしれない。それだけはなんとしてでも避けなきゃ…………!

 

「あ、あのさ、レーア。別にそこまで神経を尖らなせなくていいよ? 私ならもう大丈夫だし、多分襲われることはないと思うから」

「希望的観測は身を滅ぼす事になるぞ。それでもいいのか?」

「別に希望的観測とかじゃないんだけど…………レーアの行動、周りから見れば大分怪しいよ?」

「うぐっ…………」

 

私がそう言うとレーアは引きつったような表情になった。やはり、怪しい動きをしてるという事に自覚があったみたいだ。それなら最初からやらなきゃいいのに…………まぁ、私の事を考えてした事みたいだからなんともいえないんだけどね。

 

「それに、あの時は一人だったからやられただけで、こうして複数人でいれば大丈夫だって」

「…………一夏がそう言うのなら、今後は控える事にしよう」

「やめる気は無いの!?」

「当たり前だ」

 

そう言い切るレーアに私はどんな言葉をかければいいのかわからず、思わず眉間の間を押さえてしまった。そんなドヤァっていった感じで胸を張られても困る。…………なんか私の周りにいる人のほとんどが、私に対して過保護すぎるように思えてくるのは気のせいなのかな?

 

「え、えーと、その、一夏? 大丈夫?」

「…………多分大丈夫。というか、これからどうツッコミを入れればいいかわからなくなってきたよ」

「…………ドンマイ」

 

挙げ句、シャルロットに合掌をされる始末だ。本当どうしたらいいのかなぁ…………? というか、私ってこんなツッコミキャラだったっけ? 最近、自分の立ち位置がよくわからなくなってくる事がたまにある。

 

「…………まぁ、いっか。とりあえず早い所寮に戻ろ? 大分日が傾いてきたしさ」

「そうだね。それに、早くいかなきゃ食堂の席が埋まっちゃうよ」

「違いない。それなら急ぎ足で向かうとするか」

 

というわけで、若干早足で寮へと向かう私達。ツッコミ仕切れなかったり、色々と振り回されたりする日常だけど…………血と硝煙の臭いが立ち込める戦場よりは何倍もいい。こんな日常でも、平和である事に間違いはない。そんな日常がいつまでも続けばいいなと思ったのだった。

 

 

晩御飯を食べ終えた後、珍しくヴェルが早く寝静まった自室で私は書類整理をしていた。武岡中将への報告書とかそういうのは毎週のように作って送らなきゃいけないし、私の業務だからね。一日でも遅れてしまうと大惨事になるから、しっかりと作っておかなきゃいけないんだよ。なお、雪華はラウラの機体整備で疲れ果て、既にヴェルと同じく寝ている。ただでさえ輝鎚の整備は重労働と言われるレベルなのに、改造機ときているからその労働量はハンパない事になっているって言ってたっけ。流石に整備担当を少なくともあと一人増やすべきなんじゃないかなと私は思わず思ってしまう。

 

(とはいえ、整備士を派遣するにしても、流石に館山や横須賀からは無理だろうし、ブルーイーグルを整備できるのは雪華と楯岡主任だけだし…………増援は望めない、かぁ…………)

 

報告書に整備士増援の願いを途中まで書いてから、その一文を削除した。判断としては間違っているかもしれないけど、下手に混乱を起こさないようにするにはこれが一番なのかもしれない。一ヶ月ごとに横須賀基地か館山基地に行って機体を整備してもらってるわけだし…………非情かもしれないけど、私には増援の決断を下す勇気がなかった。

 

(本当…………どうしたいんだろうね…………部下の事を考えなきゃいけないのに、負担を減らす決断を下せないなんて…………これが少し前だったら、指揮官失格だよ…………)

 

次々と増えていく機体を整備しなければならず、雪華の疲労は日に日に蓄積していっている。私達自身、自機の整備は自らの手で行なっているけど、最終的な整備は雪華にしか任せられない。雪華がいるからこそ、私達は最大限の力を発揮できるのだ。だから、万が一雪華が倒れてしまう事になったとしたら…………私達の部隊は壊滅してしまうかもしれない。そんな不安が私にはあった。

 

(一先ず雪華にまとまった休みを取らせなきゃ…………それこそ無理にでも休ませなきゃね)

 

報告書の作成を終え、送信した私はそんな事を考えながら、椅子にもたれかかった。なんだか考えていると少し頭が疲れてきちゃったよ…………ふと、思わずため息が漏れてしまった。そんな時、ドアをノックする音が聞こえてきた。まだ就寝時間でもないから、誰か来てもおかしくはないけど…………誰だろう? とりあえず、出ない事には確かめようがないから、私は応じる事にした。

 

「あれ? ラウラ? どうしたの、こんな時間に」

「夜分遅くに済まない。一夏、少し時間あるか?」

「うん。話長くなりそう? それなら、中に入って来て。お茶くらいは出すから」

「済まないな。言葉に甘えさせてもらうぞ」

 

訪ねて来たのはラウラだった。一瞬、何か緊急事態でも発生したのかと思ったけど、彼女の表情を見る限り、そういうことではないようだ。なら、一体どういう要件で来たのだろう? とりあえず、お茶用にお湯を沸かしてこよう。こういう時、電気ケトルって凄い便利だよね。すぐにお湯沸くし。

 

「ところで、ラウラって緑茶飲めるっけ?」

「我が部隊はドイツ一日本文化を取り入れているからな。向こうでも此方でも毎日飲んでるぞ」

 

そういえば、前に親日部隊って言ってたっけ。今になって思い出したよ。というか…………あの部隊の日本への理解が若干変な方向へ曲がりに曲がっているような気がしてやまない。転校して来てすぐのラウラの自己紹介を聞いてしまったら、そうも思いたくなるよ。そんな風に物思いに耽っていたら、電気ケトルがコポコポと音を立て始める。あ、お湯が沸いたみたい。さーて、お茶っ葉お茶っ葉…………。

 

「…………ピヤゥ…………」

 

そんな時、ふと鳴き声が聞こえた。檻の方を見ると、ヴェルが少し眠たそうな顔をして起きている。もしかして、さっきから物音を立てていたからそれで目が覚めちゃったのかな? それとも単に早く寝たから起きてしまったのかな? どちらにせよ、さっきから何度も首をかくかくしているから相当眠いんだと思う。なお、雪華は未だに眠り続けている模様。…………余程疲れていたんだね。

 

「む? 一夏、お前の鷲が目を覚ましてしまったみたいだぞ」

「うん。でも、すぐに寝ちゃうと思うから、そのままにしてあげて」

 

実際、また巣のようなところに丸まって眠り始めるヴェル。君は本当に大空の覇者である鷲なのかと疑いたくなるくらい愛くるしい動きをするものだから、時々それを目撃した雪華が悶えてるんだよね。まぁ、私も人のこと言えないけど。再び静寂さが部屋を支配し始めた。聞こえてくるのは私が急須でお茶を淹れる音だけ。

 

「はい。熱いから気をつけてね」

「うむ。かたじけない」

 

湯呑みを受け取ったラウラは早速啜り始めた。あ、私はすぐに飲まないよ。猫舌だし、あんまり熱いのは得意じゃないからね。…………お陰で散々子供扱いされることとなったよ。というか、激アツのお茶を一気飲み出来る悠希と明弘がおかしいだけ。私はいたって常人であると思いたい。

 

「それで、こんな時間に何の用なの?」

 

私は早速本題に入るとした。余程のことがない限り、ラウラが訪問してくるなんてことはないはずだ。故にどんな用事で来たのか気になってしまう。緊急事態ではないということだけはわかるんだけど…………本当になんなんだろう?

 

「いや、大した話ではないのだがな…………学年別トーナメントの仕様変更について聞いてるか?」

 

そう言えば、そんな話もあったっけ。てか、今月末じゃん、学年別トーナメント。確か、今までは一対一のシングルマッチだったけど、今回からは二対二のタッグマッチに変更なったんだっけ。

 

「確か、タッグマッチに変更なったんでしょ?」

「そうだ。どうも前回の襲撃を意識しているようでな、万が一の際はツーマンセルで対応に当たらせる腹づもりのようだ」

 

そう言うラウラの顔はなにやら渋そうな表情だった。無理もないよ。前回の襲撃者はISじゃなくて、純粋な兵器として完成されたフレームアームズ。それも、月面軍の最高戦力と言っても過言ではないフレズヴェルクの量産型…………ISなんて歯が立たないはず。実際、ISとフレームアームズでの異機種間模擬戦——四月にあったクラス代表決定戦——でフレームアームズが如何にISよりも攻撃力が高く、ISを撃破する可能性が高い事を私が証明しちゃってるのに…………。それでも対応させるなんて…………生徒たちに死ねと言ってるの!?

 

「そ、そんな事したら、確実にIS側が——」

「——ああ、蟻共(アント)に屠られるだけだ。よくて重傷、下手すればあの世送りだな」

 

そう言うラウラの顔は非常に渋いものだった。関係のない民間人を死なせるような真似をしたくないという思いが滲み出ている。かく言う私も同じだ。なにを思って襲撃者に対応をさようとしているのかはわからない。私達に戦果をあげられる事を疎ましく思っているのだろうか。もしそうであるなら、避難に徹して欲しい。私たちは民間人を守るために戦うのは当たり前だが、必ずしも守りきれる保証はない。大事なのは、私たちが時間を稼いでいる間に避難してもらって、そこから敵を一気に叩く…………これが一番安全性の高いプランだ。避難している最中なら私達も全力で支援する。しかし、この話を聞く分には自らそれを放棄しているように思えてならなかった。

 

「…………ねぇ、この事は織斑先生か決めた事なの? あの人、非常時における指揮権を有してる筈だし…………」

 

あまり信じたくない事だったが…………お姉ちゃんがこれを命令したのではないかと言う疑念が浮かび上がってきた。お姉ちゃんは非常時において、教員部隊の編成と指揮を執る事ができるようになっている。勿論、ISとフレームアームズの関係を知っているお姉ちゃんがそんな命令を下すはずがないとはわかっている。でも、もしかするとお姉ちゃんが…………と思ってしまったのだ。

 

「教官はタッグマッチについては賛成だが、有事の対応については反対の意見を示していた。極力戦闘を避け、時間稼ぎに徹しろ、と会議で話したそうだ」

 

それを聞いてホッと安心する私。お姉ちゃんという良識ある人が残っていた事と、お姉ちゃんは人の道を踏み外さなかった事に対して私は胸をなでおろした。

 

「しかしだ、それで事態が沈静化するとは思えん。万が一の際は——」

「——多少強引な手を使ってでも止める、という事、だね?」

「その通りだ」

 

戦闘領域に突っ込んできたなら、私達は状況の維持の名目で捕縛が許可されている。下手にかき乱されて、こちらの状況を悪化させられたくないからね。現に日本なんか毎日のように基地に抗議デモをしてくる団体とか普通にあるし、女性権利団体も何故か抗議デモに参加しているからね。あんなのでも、私たちが守らなきゃいけない民間人である事に変わりはないから…………。故に戦闘領域から強引に退去させなきゃいけないが為に、捕縛が許可されているのだ。

 

「この件に関しては追々他の者にも話そうと思っている。だが、まずは副官のお前に話しておかなければと思ったまでだ」

「そういう事。まぁ、これに関してはどう対処すべきか、みんなと話し合わなきゃね」

 

実際、どうなるかわからない事案だし、対策のしようがないと言ってしまえばそれまでだ。だからと言ってなにも策を講じないわけにもいかない。取り得る最善の策をもって事に当たらなければ、それこそ重大な損失をもたらす結果になるかもしれない。とはいえ、この異機種混成部隊でどれほどできるかはわからないけどね。

 

「さて、この件はひとまず終わりだ。実は、話はもう一つある」

「えっ…………?」

 

ラウラは唐突にそう言ってきた。もしかするともう一つやばそうな案件があるのかもしれない。私は思わず息を飲んだ。

 

「なに、そこまで緊張する事はない。単に学年別トーナメントで戦闘最小単位(エレメント)を組まないか、という誘いをしたかっただけだ」

「ほぇ…………?」

 

ラウラの口から出てきた予想外の言葉に私は間の抜けたような声を出してしまった。いやいや、さっきまでの重々しい空気はどこに消えたのさ。勝手に事を重く想像してた自分が阿呆らしく思えてきたよ。

 

「わ、私とラウラがエレメント?」

「なんだ、私では不満なのか?」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど…………私達の機体って、どっちも重装砲撃型でしょ? そんな偏ったエレメントで大丈夫なのかなぁ、って…………」

 

ラウラの輝鎚改造機——シュヴァルツェア・ハーゼは、私の榴雷と同じ重装砲撃型。機動性は劣悪の一言に尽きる。直掩機も無しで砲撃を行うのってかなり危険な行為なんだよね。その為、第十一支援砲撃中隊では砲撃中の榴雷部隊に直掩機として轟雷と漸雷が近接戦のカバーをしてるし。まぁ、榴雷も敵の接近を許さないように、リボルバーカノンやらアサルトライフルが搭載されてるんだけどね。

 

「確かに、偏った編成である事は認める。しかしだ一夏、お前は自分が二機同時保有者(ライセンサー)という事を忘れてないか?」

「忘れてはいないけど…………もしかしてブルーイーグルを出す気?」

 

ラウラは私の言葉に頷いて答えた。確かにブルーイーグルは近距離から中距離を担当できる機体だ。性質としては遊撃機に近いものだし、ラウラからの砲撃支援とあれば、編成として最高のものになるかもしれない。元からブルーイーグルのベース機であるバーゼラルドも輝鎚の支援が必要な機体だったみたいだし。

 

「…………残念だけど、ブルーイーグルは実戦仕様で待機しておく事にしておいたから、学年別トーナメントに出す事は無理だよ。リミッターをかけたとしても、すぐに敵を駆逐する迄に時間がかかるし、もう模擬戦で出す事はやめようかなって決めたんだ」

 

現に前回の襲撃では、リミッターを解除するまで時間がかかって、フレズヴェルクタイプを撃破するまでかなり時間がかかってしまったからね。即応性がかなり低下していた事が露呈したわけだよ。榴雷なら模擬弾を搭載する事で乗り切れるだろうし、先頭の要としてブルーイーグルは実戦仕様待機が一番だと判断したまでだ。

 

「そういう事だったのか…………それなら仕方ないな」

「その、ごめんね。でも、榴雷でもいいなら私は喜んでエレメントを組むよ?」

「なにを言っている。ブルーパーでフレズヴェルクを撃破した戦績があるお前なら、私は安心して背中を預けられるからエレメントを組もうと持ちかけたのだ。こちらこそよろしく頼むぞ」

 

そう言ってラウラは私に右手を差し出してきた。私もそれに応じるよう右手を差し出し、出された手を握った。というか、今になって思い出したけど、私って榴雷でフレズヴェルク撃破したんだっけ…………あの時は本当命がけだったよ。

 

「では、これで話は終わりだ。期待しているぞ、中尉(・・)

「了解しましたよ、少佐殿(・・・)

 

互いにそう言って、ラウラはそのまま部屋を後にしていった。それにしても、学年別トーナメントかぁ…………何事も起きなきゃいいんだけどね。クラス対抗戦の時のような前例があるからなんとも言えない。そんな事を考えながら、湯呑みを洗い終えた私はそのまま眠りについたのだった。






機体解説

・SA-16s2-E スーパースティレットⅡ対地攻撃仕様

対地攻撃機であるSA-16E ストライク・スティレットに肩部可動スラスター、複合兵装[ACSクレイドル]を追加した機体。新型の地形追従レーダーや爆弾倉の設置により、従来のE型よりも高い掃討能力を誇る。また、胸部リフトファンを保護する為、鋭角的な専用ベーンがE型より引き継いで採用されている。状況によっては対地攻撃だけでなく制空戦闘も行う事が可能であり、他のSA-16s2 スーパースティレットⅡよりも汎用性が高いとされている。
本機はアメリカ海軍第七艦隊所属第八十一航空戦闘団『ブルーオスプレイズ』や米陸軍第四十二機動打撃群へと優先配備されている。余談ではあるが、ブルーオスプレイズは揚陸任務も行う為、海兵隊と呼ばれることもある。

[SH-4100-E セイレーンmk.Ⅱ-Eプラス]
主翼の代わりにACSクレイドルを接続して推力を上げた対地攻撃仕様の主機。約十五パーセントの推力増強に成功している。

[M547A5 ガトリングガン]
対地掃討用として開発されたSA-16の主兵装。本機ではこれを両腕に装備している。なお、SA-16s2-Eのパイロットであるレーア・シグルス少尉はこのガトリングガンで狙撃まがいの事をできると噂されている。

[S-41B 空対地ミサイル]
M547A5同様、SA-16の主兵装。こちらも両腕に二発ずつ装備、携行している。

[腰部爆弾倉]
腰部に増設された爆弾倉。量子変換技術によって米軍が使用している各種爆弾を使用する事が可能。しかし、搭載上限は十二発である。

[ACSクレイドル]
増加装甲、追加スラスター、機関砲、近接戦闘ブレードを集約した複合武装。本機の要と言っても過言ではない重要な装備である。





今回はレーアの搭乗しているスーパースティレットⅡ対地攻撃仕様でした。早い所、セシリアやラウラ、シャルロットの機体を紹介したいものです。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。



-追記-
時間ができたら活動報告の方でアンケートを取りたいと思っているので、そちらの方も用意ができたらよろしくお願いします。

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