FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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Chapter.03

空気を割く音の直後に鳴り響く、晴天の空には似合わない派手な爆音。戦闘開始から早一時間、撃ち放たれる砲弾はひたすら前線基地へと未だ降り注いでいた。既に補給コンテナ一個分の砲弾を撃ち切ってしまった私は残った砲弾を撃ちながら、次の補給コンテナの到着を待っているという状況だった。

 

(残弾三十パーセント…………まだ榴弾は残っている!)

 

支援砲撃用の榴弾は数が少なくなってきた。曲射弾道で狙える砲弾はこれの他にもう一つあるけど、そっちはまだ使えそうにない。これら以外に残っているのは直接射撃用の装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)のみ。でも、補給路が絶たれたわけではないし、まだミサイルもリボルバーカノンも残っているから戦える。

 

『こちらフェンサー15(セシリア)よりグランドスラム04、アント群がそちらへと向かっています! 警戒を厳に!』

「こちらグランドスラム04、了解。どうやら、基地は相当数のアントを隠し持っていたみたいですね」

「全くだ! それと、補給コンテナが百八十秒後に投下される。ブラスト09(エイミー)はコンテナを回収。フェンサー15とオスプレイ26(レーア)は交代で補給に当たれ」

「ブラスト09、了解!」

『フェンサー15、了解しましたわ!』

『オスプレイ26、了解。先にフェンサー15を補給に当たらせます』

 

次第に他の機体も弾切れや推進剤の枯渇が目立つようになってきた。この時ばかりは空戦型じゃなくて良かったと思う。あっちは推進剤の消費も考えて戦闘行動を取らなきゃならないからね。…………というか、さっきさらっと流れたけど、シグルス少尉のコールサインがオスプレイって…………それって、今太平洋上に展開している米海軍第七艦隊所属第八十一航空戦闘団『ブルーオスプレイズ(蒼ミサゴ)』のコールサインでしょ!? 一回日本で合同演習した事あるから知っているけど、そこにいたの!? …………周りの一つ階級下の隊員が物凄い肩書きを持っていすぎて驚きそうになった。でも、今は冷静さを失ってはいけない。目立たない役目かもしれないけど、支援砲撃担当が冷静さを欠いたら戦線の維持ができなくなるって訓練時代も、葦原大尉からも言われ続けてきたからね。

 

「リボルビングバスターキャノン、残弾ゼロ。弾着確認!」

 

基地に直撃したのを確認すると、リボルビングバスターキャノンのシリンダーを展開し、残った薬莢を排出した。発射された大型榴弾の破壊力は凄まじく、基地の外壁を吹き飛ばしたと共に、派手な爆煙を上げ、何体かのアントを巻き込んでいたのが確認できた。しかし、未だにアントの数が減らない。まぁ、あくまで面制圧攻撃だし、それに私の場合は拠点攻撃だから、積極的にアントを叩いているわけじゃないのもあるからそう感じているだけなのかもしれない。

 

「どうだ? 基地の方は何処までダメージを与えている?」

「爆撃部隊からの情報だと、既に格納庫らしき建造物とその他プラントへの爆撃成功、残っているのは地上構造物だそうです」

「やはり一筋縄ではいかないか…………長期戦になるな、これは。ブロッサム01(千冬)、そちらの戦況は?」

『ブロッサム01、現在六機撃破といったところだな』

「ブリュンヒルデは好調みたいですね、大尉」

 

空の方ではお姉ちゃんが無双しているようだ。しかし、一時間経過しているからには相当体力を消費しているはず…………このままでは拠点攻略どころか消耗戦になってしまうんじゃないのかな…………いやいや、そんな事はない。そうならないために私達が頑張らなきゃいけないんだから。

 

「私たちも負けてられんぞ、中尉?」

「もちろんです!」

 

それにまだ士気は下がってない。ボーデヴィッヒ大尉は自機であるシュヴァルツェア・ハーゼ(輝鎚改造機)に装備された二連装リニアガンを放った。口径自体は私の主砲(ロングレンジキャノン)ほどではないが、それでもコボルド程度なら容易く撃破できるだろう。でも、油断はできない。基地から出てきたアント群は既に私達の約一キロ先まで迫ってきている。ミサイルは射程外、主砲の榴弾も残っていない。こうなったら直接射撃をするしか…………!

 

「大尉! 補給コンテナの回収が完了しました!」

「よし! グランドスラム04はすぐさま補給を開始、ブラスト09はその穴をカバーしろ!」

「グランドスラム04、了解。補給に入ります」

「了解しました! これより砲撃を開始します!」

 

私が補給の為に回収してきた補給コンテナまで下がると、入れ替わるようにエイミーが私のポジションに入った。まるで榴雷の主砲のように配置された二門の低反動滑腔砲からはおそらくAPFSDSが放たれている。あの一撃は戦車とも引けを取らないほどの威力を持っているらしい。っと、他人の事を気にしている余裕なんてない。補給コンテナを解放し、中から砲弾が収められているケースを取り出す。そして、そのケースを私は量子変換(・・・・)した。ISのように一応緊急展開ができるように、一応武器や弾薬も量子変換して格納することができる。このおかげで通常兵器よりも多くの武器弾薬も持ち込むことができ、戦線に長くとどまることができるのだ。おまけにその量子変換した弾薬類は直接武器に装填することができるという…………ある意味ISに似た兵器、それがフレームアームズだ。リボルビングバスターキャノン用の砲弾まで回収し終えた私は、展開しているシリンダーを閉じた。さてそれじゃ、戦線に戻るとしますか。

 

「グランドスラム04、戦線に戻ります」

 

そう報告すると同時にリボルビングバスターキャノンを放つ。本体重量と駐退復座機による反動軽減があるからといっても、それでも体を軽く退け反らせるほどの反動がくる。駐退復座機によって砲身が元の位置に戻ると同時にシリンダーが回転し次の砲弾が撃てるようになる。正直、ロングレンジキャノンの交互射撃よりも発射間隔が短い。これなら短時間で大量の砲弾の雨降らせられるけど、すぐに弾切れになりそうだ。しかし、そんな攻撃を受けてもアントの群れは進むことをやめない。無人機だからこその行動だろう。それ故に感じるこの無機質な殺意は何処か気分が悪くなるように感じるのだ。

 

「了解した。フェンサー15とオスプレイ26の補給は完了したのか?」

「私が回収してもってくるまでに二人とも補給済ましちゃいました」

「そうか。ブラスト09はあと二十発撃ったら補給。先に私が補給させて貰うぞ」

「了解です! でも、早くしてくださいよ?」

「もうアリ(アント)の群れが八百メートル先まで迫ってきてます。数およそ三十!」

 

非常にまずい事態になった。基地から約三キロほど離れた地点から砲撃を行ってたわけだが、もう彼我の距離は八百メートルを切ろうとしている。ゆっくりと歩いているもの、走ってくるもの、武器を構えているもの、チェーンソーを振り回しているもの、そしてその先頭をコボルド(NSG-12α)シュトラウス(NSG-25γ)の混成部隊が突き進んでくる。その軍団の中央にはアントが作り出したフレームアームズ、ヴァイスハイト(NSG-04σ)が指揮をとるかのように佇んでいる。よくある編成の集団だが、だからと言って油断はできない。

ここまで来たら曲射弾道の榴弾は使えない。撃ったとしても、集団の後ろを吹っ飛ばすだけで、足止めなどにはならない。それに足の速いシュトラウスがいるから一刻も早く攻撃を仕掛けないといけない。でも、榴雷のロングレンジキャノンを最大限に発揮できる状況になった事は否めない。制式名称、六七式長射程電磁誘導型実体弾射出機とあるように、その本体はレールキャノン。専用のAPFSDS等を用いることでアントに対し絶大な破壊力を生み出す。実際、ヴァイスハイトをこの一撃で撃破することができたしね。

 

「まずは一機!」

 

直接射撃体勢に移行し、装填されたAPFSDSを放った。電磁気が空気中に響き渡る前に砲弾は突き進み、直撃したアントは胴体を貫かれ地に崩れ落ちた。様々な武器が世の中で出回っているらしいけど、私が知る中で実弾兵器最高クラスの火力を持った機体は榴雷くらいしか知らない。輝鎚も搭載量は多いけど、あっちは基本装備だとライフルしかないし、どっちかと言ったら装甲に全振りしてるようなものだしね。それに、榴雷はそこそこの機動性もあるから、陣地転換をしなきゃいけない支援砲撃にはもってこいだ。

 

「本当、ブルーパー(榴雷)のキャノンって馬鹿げた威力ですよね!」

「それに関しては同意だな」

 

補給を終えた二人が再び戦列に加わる。エイミーは滑腔砲だけではなく、両手にライフルを構えて合計四門の砲火を敵に浴びせていた。一方のボーデヴィッヒ大尉はリニアガンとロケットランチャーという重火力をもって次々とスクラップを作り出していた。それなりに重火力での砲撃を行っている二人に馬鹿げた威力と言われても実感がわかない。でも、まだこの榴雷に搭載された火器の半分しか使ってないからね。

 

「それにしても、全然減りませんね…………」

「確かにな…………もう壊滅させても十分な火力を叩き込んだはずだぞ…………」

 

二人の言う通り、もうあの程度の集団なら壊滅してもおかしくない火力を投射したはず…………なのに、減るどころか逆に増えているような気がしてやまない。というか、実際増えてない!?

 

「あの群団、確実に増えてますよ! およそ四十…………いや五十! 内ヴァイスハイト四機、コボルド及びシュトラウスを複数確認!」

「大隊規模じゃないか! 一体どこからそれだけの数が出てきたんだ!?」

 

突然の増援にボーデヴィッヒ大尉も驚きの声を隠せずにいた。私だってそうだ。バイザーから伝わってくる情報に目を通していくたびに絶望感が全身にのしかかってくる。でも一体何故これだけの数をこんな短期間に…………。

 

『こちらオスプレイ26! そっちにこっちから増援が出て行った! なお、担当区域内のアントの殲滅を確認。直ぐ支援に向かいます!』

『フェンサー15より各機へ。こちらからもそちらへと増援が出て行きましたわ! ただし当該区域にアントは残存せず! 直ちにそちらへ向かいます!』

 

そういう事だったの…………! シグルス少尉やオルコット少尉が担当していた区域からこちらへ流れてきたアントが合流し、一気にこっちへと攻め込んできたわけか! 二人はこちらに支援に来るとは言っているけど、多分距離的に間に合わない。

 

『ブロッサム01だ。一度補給のため戦線を離れる、すまない』

 

お姉ちゃんも補給のために下がったし…………こうなったら、私達でなんとか凌ぐしかない。それに、二人の言う通りなら基地の方にはアントが残ってないはず。それなら見せてあげるしかないね…………なんで私の所属する第十一支援砲撃中隊がグランドスラム中隊と呼ばれているのか…………。

 

「くっ…………間が悪すぎる! このままだと三機ではどこまで持つかわからんぞ!」

 

距離は六百メートルにさしかかろうとしている。このままでは向こうの射程内に入られるのも時間の問題だ。でも、こっちの全力砲火を敵に浴びせられる距離にも来てもらえた。

 

「大尉! ローチェ少尉! これより榴雷の総火力投射を行います! 一度後ろに下がってください!」

「しかし中尉! いくら中尉のブルーパーが重火力支援砲撃型でも、単機であれは…………!」

「むしろ近くにいたら私の砲撃に巻き込まれます!」

「…………やれるんだな、中尉?」

「大尉!?」

「ええ…………やってやりますよ。中隊の名にかけて」

 

私の説得に応じてくれたのか、私より後方に二人は展開してくれた。よかった…………これなら全武装を展開できる。榴雷のバイザーを再び下ろし、照準を合わせる。多数の敵でもこのバイザーによって遠距離でも近距離でも補足する事が可能だ。そして、両肩に接続されているシールドを跳ね上げる。そこには地対地ミサイルランチャー(一六式対地誘導弾射出機)が装備されている。誘導性能は低いけど、こういう面制圧を必要とする時に限っては頼りになる、私の切り札だ。同時に両脚のミサイルコンテナを展開する。こちらは破壊力、誘導性能共に標準的だ。装填されているミサイルはコンテナと肩とで合計七十六発。

 

「全安全装置解除! 一斉射、開始!」

 

補足を完了した直後、私は迷いなく全てのミサイル、ロングレンジキャノン、リボルビングバスターキャノンを放った。一斉に放ったという事もあってか、恐ろしい反動が機体と体を襲う。その爆音は私の周囲の空気までもを振動させた。直ぐに機体の反動軽減システム(カウンターリコイル)が起動し通常姿勢に戻るが、それでも体に一気にかかった負荷はなかなか消えない。そして、数秒の時間を置いて再び爆音が鳴る。アント群が爆炎に呑まれ、破壊されていく様が見えたが、油断はできない。

 

「やったのか!?」

「いいえ…………まだです!」

 

視界にはまだ運よく回避できたコボルドやシュトラウス、ヴァイスハイトが損傷しながらだが生き残っている。私はミサイルの再装填が完了した事を示すウィンドウに目をやると、再びミサイルを放った。そして再び鳴り響く轟音。足止めになっている事を確認してから、今度は成形炸薬弾を放った。一気に貫通するAPFSDSとは違い、こっちは炸薬の力で作る徹甲弾。着弾すれば榴弾のようにもAPFSDSのようにもなる。それに、下手するとAPFSDSは爆風で折れちゃうかもしれないからね。装填してある砲弾を飽和攻撃のごとく叩き込む。爆音は私達のいるところの空気だけでなく、地面までも揺らしていく。さながら地震(Grand Slam)のように。ミサイルはさっき放ったのが全てだ。全力砲火をし終えた私はシールドを元の位置に戻し、ミサイルコンテナも閉じた。

 

「…………一斉射、完了」

「流石グランドスラム(一掃)中隊というだけの火力だな…………」

 

先ほどの攻撃に大尉が感嘆の声を漏らす。地震のごとく大地を揺らし、全ての敵を一掃する——それが第十一支援砲撃中隊がグランドスラム中隊と呼ばれる所以だ。だが、この程度(・・・・)の火力投射で殲滅できるのなら簡単な話だよ…………いつもは私の他に同じポジションに当たっているのが五機いて、そしてその火力全てを出し切って今攻めてきた軍勢の四倍を各中隊の協力もあってようやく制圧できるんだから…………いくら素のアントがほとんどを占める構成とはいえ、不安要素は残る。

 

「油断はできません…………ローチェ少尉、敵機は?」

「え!? えっと…………ま、まだ中破状態のヴァイスハイトが二機と半壊しているシュトラウスが一機生き残っています!」

「やっぱりかぁ…………」

 

ヴァイスハイトは轟雷にも引けを取らない重装機。あれだけの火力を投射しても生き残っている事が多々あるんだよ。それに、シュトラウスはかなり高機動だから避ける事ができたんだと思う。まぁ、片足が吹き飛んでいる以上、その場でもがくしかないと思うけど。

ヴァイスハイトは右腕を吹き飛ばされながらもこちらへと突っ込んでくる。またもう一機は装甲のいたるところを破壊されているにもかかわらず、主武装であるビーム・オーヴガンを向け、一機目に続いて向かってきた。あれだけのダメージを受けながらも突き進んでくるのは、中身が人間などではなく、人工知能(月面回路)で動いているからだろう。なおかつ人に近い思考をしているから退く時は退く。でも、殆どがこのように突撃してくるだけだ。この単純な戦法に私達はいつも苦しめられてきたんだ…………!

 

「こうなったら…………全機、格闘戦用意! その前に潰せるだけ潰すぞ!」

 

そう言ってボーデヴィッヒ大尉は武器を展開した。大尉の機体の丈ほどもある大振りの大剣——ユナイトソード(HWU-03)だ。遊撃中隊の人も好んで使っている事が多いから、私にとっては見慣れた武器だ。

 

「まぁ、近接格闘戦もそれなりにこなしてきましたからね!」

 

エイミーは構えていたライフルを投げ捨て、代わりに両手にタクティカルナイフを構えた。榴雷にも緊急用の格闘戦装備として格納されている。エイミーはそのナイフを逆手に構え、いつでも突撃できるような態勢になった。

 

「近接格闘戦は久しぶりになるかなぁ…………まぁ、やれるだけ頑張ってみるよ」

 

通常支援砲撃しかしてない私だけど、万が一接近された場合に対応するべく、近接格闘戦の訓練を何度も経験してきた。元から榴雷・改自体が乱戦下における生存性を高めた機体だからね。私は、格納していた近接武器を取り出す。日本刀型近接戦闘ブレードだ。国防軍では搭載していない機体はないというほど普及している。

 

「いかにも日本人らしいな、中尉!」

「中尉もサムライかなんかだったりするんですか?」

「私はそうじゃないよ。でも、ブリュンヒルデの方がサムライかも」

 

この短時間で相当軽口を叩けるほど仲が良くなっている私たち。だからこそ、生き残りたいという思いは強い。こんなところで死ぬわけにはいかないからね。

 

「さぁ、派手に行くとするぞ!」

 

ボーデヴィッヒ大尉がそう言って、自ら切り込もうかとした直後だった。こちらに向かってきていたヴァイスハイトの一機が突如飛来したミサイルによって地に崩れ落ちた。そして、もう一機の方も構えていたビーム・オーヴガンを破壊され、頭部を吹き飛ばされて物言わぬ骸となった。なお、もがいていたシュトラウスは既に沈黙している。

 

『大尉、出鼻をくじくような真似をしてすまないな』

『ですが、この段階で無理に近接戦で危険を冒す必要性もありませんわ』

「全く…………支援に来るのがギリギリすぎるだろ」

 

そう、支援に向かっていたシグルス少尉とオルコット少尉による攻撃だったのだ。おかげで近接戦で危険を冒す事がなくなって良かったと安心している私がいる。ただ、支援砲撃中隊には積極的に近接戦を仕掛けている人がいるんだけどね。

 

『それと、こちらの推進剤が切れかかってきた。一度後方に撤退させてもらいますよ、大尉』

『同じくですわ。それと、これで稼働中の機体は殲滅完了です』

 

そう報告して二機は私達の頭上を過ぎ去っていった。後に残ったのは燃えている草原と、崩れ落ちている無数のスクラップ、それと漂っている硝煙の匂いだけだ。でも、さっきの報告が間違いなかったのなら、これで全て終わったんだよね…………?

 

「だそうだぞ? ハーゼ01(ラウラ)より各員に伝達。アント群の殲滅及び基地の攻略は完了だ。あとは内部施設を破壊するだけだ」

 

ボーデヴィッヒ大尉からそう伝えられた。その声音は何時ものように冷静そうにしていたけど、少しだけ弾んでいた。多分この作戦が最終段階までうまく進んだからだろう。私達国防軍は未だに日本の抱える第二次降下艇基地、海上都市睦海(むつみ)降下艇基地の攻略どころか押さえ込むので精一杯だしね。葦原大尉曰く、国防軍の責任ではなく政治的なごたごたがあるとの事。まぁ、IS至上主義のこの御時世だから仕方ないけどさ…………なんで、みんなで協力しあうってできないんだろ。少なくとも私達はこうやって国の垣根を越えて戦っているのに…………。

 

「それにしても大尉、やりましたね! これで彼奴らにも一泡ふかせられますよ!」

「そうはしゃぐな…………と言いたいが、何分私も舞い上がってしまいそうだ。なにしろ自分が指揮した作戦が今のところ負傷者無しだからな」

「犠牲が無いって、なんだか嬉しいですよね。誰も死ななくて本当に良かったです」

「とはいえ、まだ基地中枢の破壊は済んでいない。気を引き締めていくぞ」

「「了解」」

 

ボーデヴィッヒ大尉がそうやって締めるけど、当の本人がまだ少し喜びを隠せずにいる。そして、それに続く私達の足取りも重装機を使用しているにもかかわらず軽かった。作戦は最終段階に入っている。基地の制圧で最も重要となるのは、この基地中枢の破壊だ。基地も無人であるため、その管理を行っているのはアントの——月面軍の高度な人工知能、通称月面回路。これを破壊しない以上、例え各施設を空爆によって破壊し、保有するアントを殲滅したとしても四十八時間以内に復旧が完了し、アントの増産を始め、再び蹂躙し始めるのだ。それこそアリと同じだ。それを破壊すれば、基地機能は失われ、ただの鉄屑と化すだけ。それによって攻略完了となる。ただし、破壊と言っても電子的に破壊するのではなく、物理的にだからね。そのために攻略の時には必ず重装機を一機随伴させるのが定番だ。

 

「でも、大尉も中尉も重装機ですから簡単な事——」

 

エイミーが何か言おうとしたけど、私には最初の部分以外聞き取れなかった。私の意識が別の方向へと集中されたからだ。直後に鳴り響くロックオン警報。そして、榴雷の高感度バイザーがこちらに接近してくる機体を見つけた。それと同時にこちらに向かってくる光弾。まずい…………今からじゃ、あれを避けられない…………!

 

「ローチェ少尉!!」

「えっ、なに——きゃあっ!?」

 

私はエイミーを蹴り飛ばした。その直後、榴雷のシールドは下半分が吹き飛ばされた。こんな攻撃…………ヴァイスハイトやコボルドのビーム・オーヴガンの比じゃない!! まともに受けたら榴雷でも耐えられない!!

 

「い、一夏さん!! 一体何が!?」

「せっかく無事に帰れると思ったのに…………最悪の事態になったよ」

「ああ…………まさか本当にいたとはな…………くそっ!!」

 

突然の攻撃に毒付く私たち。視線の先に映ったのは紫色の装甲と緑色のクリスタルユニットが特徴的な機体。識別コード、NSG-X1[フレズヴェルク]。その奥には赤い装甲と紫色のクリスタルユニットが特徴的な機体、NSG-X3[フレズヴェルク=ルフス]。国連軍を何度も絶望の淵に追いやった魔鳥が二羽、私たちの前に現れたのだった。

 

「くっ、ハーゼ01よりブロッサム01! 魔鳥と会敵した! 至急援護を頼む!」

『ブロッサム01、了解した! すぐにそちらへ向かう! 死ぬなよ!』

『オスプレイ26、同じく支援に向かいます!』

『フェンサー15、こちらも支援に向かいます!』

 

ボーデヴィッヒ大尉は後方で待機しているお姉ちゃんやシグルス少尉、オルコット少尉に支援を要請した。でも、あそこからここまでそれなりに距離がある。いくら足の速い空戦型でも、ここに来るまで最低でも私達は三十秒耐えなきゃならない。三十秒——聞く分には短い時間だけど、おそらくあの魔鳥を相手にするにはとても長い時間になると思う。それほどあの二羽の魔鳥は私たちを圧倒していた。でも…………退くこともできない。私たちが逃げたら魔鳥達は絶対民間人に手をあげる事だろう。それだけは絶対に避けなきゃいけない。それに…………こんな気弱な私でも軍人なんだ。軍人なら、おめおめと先に逃げるわけにはいかない!

 

「さて…………生き残るぞ!」

「「了解!!」」

 

私達は一斉に武器を構え直した。ボーデヴィッヒ大尉はリニアガンと専用ライフルを。エイミーは両手にサブマシンガンを。そして私は、砲弾をA(Anti)TC(T Crystal)S(Shield)弾に変更したリボルビングバスターキャノンを。今ある全火力を目の前の魔鳥めがけて放った。

 

「私はルフスを押さえる! お前達はそっちを頼むぞ!」

「了解しました! そう簡単に死なないでくださいよ、大尉!」

「この鉄塊(輝鎚)の装甲は伊達ではない事を見せてやるさ!」

 

ボーデヴィッヒ大尉は単機でルフスを押さえに向かった。ただ、ブリーフィングで見たときに、とんでもない重火力を載せたルフスを押さえるのは多分難しいと思った。でも、今は大尉の事を信じよう。大尉の機体はフレズヴェルクからの防衛戦に対して開発された、歩く鉄塊(輝鎚)だから。

 

「エイミー! 敵にありったけの火力を叩き込むよ!」

「向こうが逃げなきゃいいんですけどね!」

 

私達はこちらに向かってくるフレズヴェルクに向かってありったけの砲弾をぶつける。しかし、向こうは私がATCS弾を放っているという事を知っているのか、リボルビングバスターキャノンの一撃は避けていく。ただしエイミーが連続して銃弾を叩き込んでくれているおかげで向こうも攻撃はできないでいる。フレズヴェルク系統が持っている光学兵装——通称ベリルウェポンは彼らの張っているバリアと干渉する為、攻撃時にはバリアを解除しなきゃいけないらしい。だから、バリアを張っている今はまだ攻撃される心配はない。けど、油断はできない。フレズヴェルクは機動性に特化した機体だ。私はデータでしか知らないけど…………この榴雷には非常に不利な相手だという事だけは分かる。

フレズヴェルクは両手に構えているスナイパーライフルにも似た武器を構えてはいるが、攻撃する素振りは見せない。それどころかその場を動く気配すらない。一体どういう事なの…………ヴァイスハイトでも動き回って回避するというのに…………それとも、そうするまでもないという事なの…………? なら、その判断を後悔させてあげる!!

 

「こいつでもくらえ!!」

 

リボルビングバスターキャノンとロングレンジキャノンの同時砲火。どちらも弾速に関してはこの距離では避けられない——そう思っていた。だが、砲弾が当たる直前、一瞬フレズヴェルクの頭部クリスタルユニットが光ったかと思ったら、一撃必殺の砲弾は空を切っていた。

 

「!? いない!?」

「どこに!? あいつはどこに行ったの!?」

 

視界から突如として消えてしまった事に動揺を隠せない私達。けど、それ以上にさっきから鳴り響くロックオン警報がこれまでにない危機である事を突きつけてくる。そして、そのロックオンレーダー照射を受けている方向が矢印で示された。方向は——上!!

 

「くうっ…………!!」

 

ミサイルコンテナを破棄し、機体を軽くした私はその場から跳躍して退避した。直後着弾する光弾。着地と同時に前面のアウトリガーを展開して機体を安定させる。エイミーは…………うまく退避できているね。でも、このままじゃラチがあかない…………支援の到着はもう直ぐだけど、どこまでやれるのか…………不安になってきた。

 

『遅くなってしまったな!』

 

そう言って一機の機体がフレズヴェルクへと肉薄していった。通信越しに聞こえてきた声。間違いないあのスティレットは、シグルス少尉の機体だ。となると…………支援が間に合ったんだ!!

 

「オスプレイ26! ブロッサム01とフェンサー15は!?」

『二人は向こうに向かった!! ここから反撃といこう、中尉!』

「了解! ブラスト09は大丈夫?」

『若干距離は離れてますけど、大丈夫です!!』

 

…………今気づいたけど、シグルス少尉が上官に思えてきた。でも、こんな事を考えられるほど自分の心が落ち着いてきたんだなと思った。しかし、気が抜けるという状況にはなっていけない。突然きたスティレットに驚いたのか、一度変形して距離をとるフレズヴェルク。そう、フレズヴェルク最大の特徴はこの変形機構だ。私もブリーフィングやデータでしか知らない事だけど、この飛行形態になる事で機動性はさらに高まるとの事だ。厄介とかそういうレベルじゃない。さらに、速度は今追いかけているシグルス少尉のスティレットよりも速い。

 

「オスプレイ26! ATCS弾で減衰させる事できる?」

『無理にでもやってやるさ!』

 

シグルス少尉は新たに細身のガトリングガンを両手に取り出して魔鳥と追いかけっこを始めた。しかし、あれだけ改造を施してある機体を圧倒するってどういう事なの…………私には支援ができそうにない。ただでさえあのスティレットを目で追いかけるのが精一杯だというのに、その前を行くフレズヴェルクを妨害するなど難しすぎる。下手に空中炸裂(エアバースト)弾を使ったら、シグルス少尉にも当たってしまう。私はリボルバーカノンを使い、フレズヴェルクに向かって攻撃する。しかし、相手はあまりにも速すぎる高機動型。そのほとんどが当たらず、当たったとしてもバリアに防がれるだけだった。

 

『こちらブラスト09! ATCS弾残り三十パーセント! このままじゃ本当にジリ貧で ——きゃあっ!?』

「ブラスト09!? どうしたの!?」

『へ、平気、です…………右の滑腔砲を吹き飛ばされただけですから…………』

 

すぐに私のところにエイミーの轟雷の破損状況が表示された。右の滑腔砲は接続アームを残して損失、右肩の装甲と頭部右側面装甲も融解寸前…………幸いなのは生身にダメージがない事かな。でも、これ以上長引かせるわけにはいかない…………そうなったら、誰かが死んでしまうかもしれない。それだけは避けなきゃ…………!

しかし、そんな私の思いを裏切るかのように、フレズヴェルクは私達の元に銃撃をしてきた。私はリボルバーカノン、エイミーはサブマシンガン、シグルス少尉は機関砲による攻撃を続けているけど、あの魔鳥はいともたやすく躱していく。ただ、激しく動き回っているため向こうの射撃精度が低く、まだ直撃はしていない。それだけがせめてもの救いだった。

 

『こなくそぉぉぉぉぉっ!!』

 

機関砲を構えながら攻撃の手をゆるめる事のないシグルス少尉の叫びが聞こえた。その直後、シグルス少尉の攻撃の手は止んでしまった。まさか…………!

 

『くっ…………! こちらオスプレイ26! 残弾ゼロ! 繰り返す、残弾ゼロだ!』

 

機関砲を投棄し、ブレードを構えて突撃するシグルス少尉。でも、もうすでにフレズヴェルクから大きく距離が離れており、接敵するのはもう不可能だろう。そして、攻撃の手が緩んだその一瞬をフレズヴェルクは見逃してくれるわけがなかった。フレズヴェルクは再び変形し、私たちの目の前から消えてしまった。このパターンはさっきと同じ…………! となると狙いは——!

 

「し、しまっ——」

 

フレズヴェルクはエイミーの背後から銃床で斬りかかろうとしていた。でも、あの距離で轟雷の機動性では避ける事なんてできない。でも…………何故か銃床が振るわれる速度が遅く見えた。もしかすると、まだ間に合うかもしれない——そう思った私は考えるよりも前に行動していた。

 

「エイミィィィィィッ!!」

 

リボルビングバスターキャノンの砲身を掴み、エイミーに向かって全力で振りかぶった。壊れちゃうかもしれないけど、そんな事言ってられない。

 

「な、なに——きゃあっ!?」

 

リボルビングバスターキャノンの基部は見事エイミーへと直撃し、そのまま吹き飛んだ。後で何か言われるかもしれないけど、それも覚悟の上だ。あれだけ派手なスイングをしたにもかかわらず、壊れるどころか、砲身すら曲がっていない。リボルビングバスターキャノンを再び振るい、今度はフレズヴェルク目掛けて思いっきりぶつけた。しかし、向こうは銃床で斬りかかろうとしている最中。リボルビングバスターキャノンの基部を斬られてしまった。しかし、それで十分。どのみち、向こうの足は止まったんだから。

 

「これで終わりだよッ!!」

 

私がロングレンジキャノンを構えて撃つのと、フレズヴェルクが銃を構え直して撃つのはほぼ同時だった。撃った対FA用徹甲榴弾はフレズヴェルクの両腕に直撃し、向こうの撃った光弾は両肩のシールドを根元から吹き飛ばした。私は盾を失ってしまったけど、向こうは両腕を失った。そのまま大きく体勢を崩すフレズヴェルク。その隙を逃すわけもなく、対FA用徹甲榴弾の二門同時射撃による攻撃を叩き込んだ。ほぼ至近距離での着弾による爆風が機体を軋ませる。爆風が止んだ後、そこには胴体と下半身が分離した魔鳥の無残な姿が残されていただけだった。ロングレンジキャノンは両方とも砲身がオーバーヒートを引き起こしている。もうこれ以上の戦闘継続は不可能だと思う。でも、確かに目の前には魔鳥の残骸が転がっている。本当に倒したんだ…………。

 

「ち、中尉!! 紅城中尉!!」

 

エイミーが私の事を叫びながら呼びかけてきた。轟雷は派手に転がったせいか土汚れが凄くついている。元からカーキ色をしているからか目立ちはしないけど、溶融しかけている装甲が魔鳥の恐ろしさを未だに感じさせる。

 

「え、エイミー…………? け、怪我はしてない?」

「いいえ! 中尉のおかげで命拾いをしました! まぁ、その時に擦り傷を少ししましたけど」

 

表情は見えないけど、きっと笑っているんだろう。声からわかるよ。でも、擦り傷を負わせてしまったことは覆しようのない事実だ。それでも、誰も死ななくて良かったと思っているよ。

 

『グランドスラム04! 中尉、無事ですか!?』

「シグルス少尉…………私は無事だよ。まぁ、機体が榴雷・改から元の姿に戻っちゃったけどね」

 

シグルス少尉も無事みたいだ。弾切れと聞いて一瞬焦ってしまったけど、今はこうして生きている。さっきの絶望的な状況を乗り越えたという事に未だ実感はわかないけど…………でも、生きている。

 

『ですが、無事でなによりです…………そういえば、ずっとエイミーの事は名前呼びですよね?』

「えっ? まぁ、そうだね。仲良くなっちゃったし、私自身、歳が近い人同士では階級付より名前で呼び合いたいって考えているしね」

『なら、私の事もレーアと呼んでください。同じ第四十二機動打撃群なのに私だけ名前呼びでないのは少々不公平な気がします…………』

 

…………なんか、さっきまで凛々しかったシグルス少尉——じゃなくて、レーアが少し拗ねたような声でそう言ってきた。まぁ、名前で呼びたかったんだけど、米軍第四十二機動打撃群所属な上に元米海軍第七艦隊第八十一航空戦闘団所属という恐ろしいほどまでに輝かしい肩書きを持つ人間をそう易々と名前呼びできるわけがない。どんなことがあったらそこまでの軍歴を持つことができるんだろう? でも、レーアのその発言のおかげで、さっきまでの緊張は良い意味で解けてきた。

 

「わかったよ、レーア。その代わり、私の事も名前呼びでいいし、他の上官の前じゃなきゃタメ口でもいいからね」

『そ、それじゃ、よろしく頼む、一夏』

「なんだかんだで日米は溶け込みますよね」

「それでいいんじゃない? ところで、ボーデヴィッヒ大尉の方はどうなったの?」

『それなんだが…………』

 

レーアは報告しようとして言い淀んでしまった。えっ…………も、もしかして…………最悪の事態になってしまったのだろうか。

 

『ブリュンヒルデがルフスをボッコボコにしたらしいんだ…………ボーデヴィッヒ大尉の機体も目立った損傷もなし。それにルフス自体、武装もライフル二丁とかつての機体よりダウングレードしていたそうだ』

 

…………なにそれ。ボーデヴィッヒ大尉が無事と聞いて安心したけど、本当にボッコボコにしちゃったって…………お姉ちゃんは一体なにをしたんだろう。お姉ちゃんの使っている機体の詳細は聞かされてないし、束お姉ちゃんも今は後方でデータ取りらしいしね。でも、束お姉ちゃん、なにも話してくれなかったなぁ…………昔はしつこいくらい抱きついてきたのに。昨日会った時はなにも反応してくれなかった…………まぁ、思いつめたような顔をしていたから仕方ないとは思うんだけどね。

でも、何故ルフスはダウングレードしていんだろう…………いや、弱くなっているってのは嬉しいよ? でも、元から強い機体なんだし、手加減なんてする気ないから別に性能を下げる必要性はないでしょ。まぁ、今回がフレズヴェルクとの初戦闘だったからなんとも言えないんだけどね。それに、アントの考えていることなんて私達が知る由などない。

 

「なにをどうしたらボッコボコにできるんですか…………私たちはこっちがボッコボコにされていたのに」

「ブリュンヒルデって言うだけはあるよ…………あの人はISでもFAでも乗りこなしそうだもん」

『そういうわけだから、この周辺の高脅威目標は消失したわけだ。この後はどうするんだ、中尉』

「それじゃ、私達は命令通り基地中枢を破壊しに行くよ。そうしないと終わらないしね」

「『了解!』」

 

私達は再び基地中枢の破壊に向けて行動を開始した。やっと本当の目的に移行することができたよ…………ここまで来るのに本当大変だった。突然こっちに増援はくるし、フレズヴェルクには襲われるし…………命がいくつあっても足りなさそうだ。そんなことを思いながら、前線基地へと足を進めていった。

ただし、残っている武装はリボルバーカノンと格納武装のグレネードランチャー付きアサルトライフル、そして日本刀型近接戦闘ブレードくらい…………基地中枢を破壊し尽くせるかと聞かれたらかなり厳しい。残った榴弾を誘爆させるくらいしか方法はないかもしれない。

 

『ところで破壊の際どうします? おそらく中尉のロングレンジキャノンはオーバーヒートしてますし、かといって私の滑腔砲も弾切れですよ?』

「そうだね…………私の機体に榴弾がまだ残っているから、それをセットして誘爆による破壊をするしかないかな…………」

『私も弾切れだしな…………誰かライフルを貸してくれれば起爆を担当できるんだが…………』

『私の機体にロングライフルがあるから、現地に着いたらそれを貸すよ』

『わかった。エイミー、助かる』

 

とはいえ、なんとかこの方法でやるしかないというのが現状。途中で大尉達と合流できたらまた別な方法が出るかもしれない。

私もエイミーも履帯ユニットを展開して走行しているけど、やはり重量の違いが大きい為、私の進行速度が遅く、二人よりも後ろを行くこととなった。これはこれで殿みたいな感じだけど…………なんだか部下に置いていかれる小隊長みたいな気がする。まぁ、別に不服ってわけじゃないけど、置いてけぼりにされているような気がしてやまない。

 

(でも、これで本当に最後…………終わったら帰れるんだ…………)

 

そう思うとどこか安心して気が抜けてしまう。今までずっと国内での防衛戦しかしたことがなかったからね…………初めての海外遠征がうまくいきそうなことが嬉しい。葦原大尉にもちゃんと報告ができそうだ。そんな風に思っていた時だった。突然聞こえてきた風切り音。どこかの航空部隊が支援に来たのかなと思ってしまったけど、なんだか物凄い勢いで私達の元に向かってきている気がする。

 

『!? 中尉!! 後ろ!!』

 

レーアがそう叫んだ直後、私の耳にロックオン警報が鳴り響いた。あの風切り音は小さくなったが、代わりにエンジン音らしきものが聞こえてきた。思わず後ろを振り向く私。そして、私の視界に映ったのは——

 

「えっ——」

 

——今にも大鎌を私に振り下ろさんとしている、白く染まった魔鳥(フレズヴェルク)の姿だった。

 

『『ち、中尉ぃぃぃぃぃっ!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——そこから先のことは覚えていない。


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