FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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八神優鬼様、評価をつけていただきありがとうございます。



どうも、榴雷・改の予約戦争に負けた紅椿の芽です。



今更ですが、メインタイトルより(仮題)を取り外しました。



本当にここ最近は休日がなく、積みプラを消化できずにいます。そう言いながらも、オーバードマニピュレーターやらリボルビングバスターキャノンやらを買ってしまうという…………コトブキヤェ…………多々買いに明け暮れた結果がこれだよ。



と、積みプラに恐れ戦く作者はひとまず置いておいて、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.29

「…………あなたは一体何者なの——答えて、デュノア君」

 

私が向けた銃口はデュノア君らしき女の子の眉間へと狙いをつけている。それにしてもこれは一体どういう状況…………? まさかヴェルがこっちに飛んできたのはこの事を伝えるためだったのだろうか? ——いやいや、そんな予知能力をヴェルが持ってるわけないか。でも、ヴェルはデュノア君を避けている節があったし…………とりあえずそのことは考えなくていいか。それよりも今は目の前の事態だ。

 

「ひとまず秋十、そっちは織斑先生に言って面談室の一つを確保してきて。それも防音とかしてあるところ」

「い、一夏姉…………一体何を——」

「つべこべ言わずにやって。それと、先に箒をその場に連れて、秋十はそこで私が行くまで待機していて」

「わ、わかった…………」

 

私は秋十に指示を出して、面談室を確保するように言った。寮の部屋も防音仕様とはなっているそうだけど、いつどこで聞き耳を立てられているかわからない。盗聴器が仕掛けられていてもおかしくはないんだ。故にこんなところで話をするわけにはいかない。話される内容によっては秋十の命を左右する事に繋がるかもしれないし、こっちが不利になる話もあるかもしれない。警戒は常に厳としておかなければならないんだ。

 

「とりあえず…………あなたは服を着て。その格好で外を歩かせるわけにはいかないでしょ」

「あ…………う、うん…………」

 

私は目の前にいる金髪少女に着替えるように言った。流石に全裸で廊下を歩かせるなんて真似はしたくない。そうすれば女性としての尊厳を奪ってしまう事になる。私はそこまで落ちた覚えはない。彼女はさっさと体を拭くと、近くに置いてあったジャージに着替え始めた。その間も私は銃口を彼女へと向け続けていた。変な動きでもしたら躊躇いなく撃つ。覚悟だけはできていた。

 

「こ、これでいいのかな…………?」

 

そう言って両手を上げ、抵抗の意思がない事を露わにするデュノア君。どうやら胸はコルセットで押さえつけていたようで、今じゃ男の子に見えなくもない体になっている。でも…………さっきの姿を見た後では、どうしても女の子にしか見えない。そうわかってしまうと、銃を向けている自分が嫌になってくる。だが、ここで同情をしてしまっては向こうがどんな手を講じてくるかわからない。故に、油断も同情もできない。

 

「じゃ、通信機器の類はここに置いていって。それと、持っている専用機だけは持ってていいから」

「な、なんで専用機はいいの…………? そっちも回収した方が都合がいいんじゃ…………」

「軍人とはいえ、私は尋問なんて得意じゃないよ。それに、この状況でいて展開して逃げないって事は…………もう、私に従うって事だよね?」

 

私がそう言うと、彼女は小さく頷く。現在いるのは私一人と彼女だけ。逃げるつもりなら、既にISを展開して何処へでも逃げているはずだ。脱走のチャンスしかないこの状況を彼女は自ら棒に振っているようなもの。つまり、私に従うと言っているのだろう。とはいえ変な動きをさせないために、常に銃を向けていなきゃいけないけどね。彼女は私の指示に従って、ポケットからケータイとかを取り出し、机の上に置いた。

 

「それで全部?」

「う、うん…………これで全部、だよ…………」

「…………わかった。それじゃ少し待ってて。秋十からの連絡を待つから」

 

というわけで、秋十から面談室を確保したという連絡が来るのを待つ事にした。それができていなかったら、今行動しても意味がないしね。そんな時、私のケータイが鳴った。画面には秋十からの着信である事を示す表示が出ている。私はすぐに回線を繋げた。

 

『一夏姉、面談室はなんとか取れたぜ。千冬姉にはあまり事情を話してはないけど…………これでよかったか?』

「うん、それで大丈夫。事が分かり次第報告すればいいから。それじゃ、すぐに合流するから、そこで待機していてね」

『了解だぜ、一夏姉』

 

どうやら秋十は無事に面談室を確保する事に成功したようだ。なら、こんな危険が付きまとう場所に止まる理由もない。

 

「それじゃ、私達も面談室に行くとしよっか。ただし、あなたが先頭を歩いてね」

「わ、わかったよ…………」

 

私はデュノア君を先頭にして、面談室へと向かう事にした。反旗をひるがえす気がないとはいえ、不安要素は可能な限り除去しておきたい。彼女の背後を歩く私は、いつでも対処できるよう、腰に携えた拳銃に手を伸ばしたままでいたのだった。

 

 

面談室へと到着した私達を迎えていたのは、物凄く気まずそうな感じでいる秋十と瞑想している箒だった。箒に関しては、特務隊で扱っていた日本刀を立てかけていた。まぁ、箒は尋問とかも一応できると言っていたし、これならなんとかなるかな。

 

「ごめんごめん、待たせちゃったかな?」

「気にするな。今回の件を私なりに考える時間を作れたから問題ない」

 

なんでもないかのように答える箒。だが、少し目つきが鋭かったせいか、前にいたデュノア君が怯んでいたよ。別にそこまで怖いとか思った事はないんだけどなぁ…………箒って、どっちかって言ったらツリ目気味だし。

 

「な、なぁ一夏姉…………お、俺はどうなるんだ? こ、このまま、き、極刑物になるのか!?」

「どうだろうね。それを判断するのは上の人達だし、私たちにできるのは情報を集める事だけだから、それに関してはどうしようもないよ」

 

どうやら秋十は自分も何か処罰されるのでは無いかと不安に陥っていたようだ。まぁ、そう思っても仕方ない状況ではあるんだけどね。でも、その可能性は限りなく低いよ。世界初の男性操縦者にしてお姉ちゃんの弟という血統書付き…………下手に手を出せばお姉ちゃんを敵に回すということなんて明白だし、さらにはお姉ちゃんと知り合いの束お姉ちゃんまでをも敵に回す事になるし、世間的にもバッシングの飛び交う状況になるだろうから、その線は本当にないはずだ。だからこそ、誰も未だに秋十へ手を出してないという事でもあるんだけどね。とはいえ、私にははっきりと答えられない。必要のない事は知る必要もない——下手に首を突っ込んで首が飛ぶのは嫌だからね。

 

「だが、さっき話を聞いた分では、お前に非はない。極刑の線はないと考えてもいいだろう」

「そ、そうなのか…………?」

 

だが、箒からのフォローもあってか、少し落ち着きを取り戻す秋十。まぁ、箒なら部隊の特性上、こういう事に関しては詳しいだろうからね。本当、連れてきて正解だったよ。

 

「さて…………それじゃ、本題に入ろっか。デュノア君、洗いざらい話してもらうからね」

「うん…………」

 

私はデュノア君にソファへと座るよう促した。私は箒の隣に、デュノア君は秋十の隣に腰を下ろす。私達はデュノア君とあまり関わりがなかったから、もし何かあった時には秋十にフォローを頼むしかない。

 

「それじゃ…………僕の事を話すね。多分、気分の悪くなるような話しかないよ」

 

彼女はそう言うと、ぽつりと言葉を紡ぎ始めた。

 

「僕がここに来た理由は秋十のデータ取りが目的だったんだ」

「データ取り? なら、普通に入学して取っても変わりはないだろう?」

「実を言うとそのデータの中には、秋十の遺伝子も含まれているんだ…………髪の毛一本でも回収して来いと命令されてたんだよ」

 

目的がデータ取りというのはわかったけど…………まさかの遺伝子までをも回収とは予想ができなかった。そこまでやるのかと驚いてしまった。だが、よくよく考えてみれば、秋十の遺伝子データさえあれば、男性操縦者を新たに生み出す可能性が高くなると考える人はいるかもしれない。実際、そんな感じのことを言って詰め掛けて来た得体の知れない研究所の人とかいたしね。

 

「だから男のフリをして接近したのか…………」

「そう…………それに、同じ男性操縦者なら部屋も同室になる上に訓練も共にできる。つまり、白式のデータ——可能ならば白式の奪取も辞さなかったんだ」

「なあっ…………!?」

 

突然の事に秋十は動揺を隠せずにいた。だが、私と箒は別に驚く理由もない。データを一から集めるよりは、すでに集まっているデータを回収すればいい。そっちの方が効率がいいだろうし、その機体を解析して新型機を開発する事だって可能なはずだ。国防軍や国連軍で噂されている話では、ヴァイスハイトは鹵獲された轟雷を参考にして開発されたとかっていう話だ。そのようなことがあってもおかしくはない。

 

「しかし、何故フランスはそのような強硬策を選んだ? 下手をしなくても国際法やら様々な事に抵触するぞ」

 

箒の言う通り、危ない橋を渡りすぎである。リスクが大きすぎる方を歩むよりは、リスクが小さい方で堅実にデータを集めた方がいいはず。ましてや、こんな風にバレてしまった場合、フランスは国としての立場を失う事に繋がる。

 

「さぁね…………僕にはわからないよ。ただ、『織斑秋十のデータを回収せよ』としか命令されて、その命令通りに動いていただけだから…………」

「命令したのはフランス政府?」

「違うよ…………本妻の人にそう言われてね…………」

 

デュノア君は一息ついてからまた口を開いた。

 

「少し僕の身の上話を聞いてもらってもいいかな? なんだか、話したら気が楽になりそうだし」

 

止める理由もない。彼女は少し笑っているような感じだけど、何処か辛そうな表情を無理やり隠しているような気がするんだ。私達は首肯で返答した。

 

「ありがとう…………。僕の家は名前から分かる通り、デュノア社。そして、僕は社長の…………父さんと愛人だった母さんの間に生まれたんだ」

 

衝撃的な話だった。デュノア社なんて言ったら世界でもISのシェアの半数を占める大企業だ。訓練機として配備されているラファール・リヴァイヴがデュノア社製だったはず。

 

「二年前に母さんが死んじゃってからは、父さんに引き取られてね…………本妻の人と住む事になったんだ。でも、本妻の人は僕の事を蔑ろにしてたよ。そういえば初対面で頬を叩かれた事もあったね」

「え…………? ま、まさか虐待!? お、親父さんとかは何も言わなかったのか!?」

「見て見ぬ振り、だよ。今のご時世、女性が力を持っているからね。しかも父さんと本妻の人は政略結婚だった、って噂だし…………実質、会社も本妻の人が牛耳ってるようなものらしいんだ」

 

聞いていてなんだかイライラしてくるような展開だよ。私と秋十、そしてお姉ちゃんは父さんや母さんに捨てられたそうだからね…………なんでなのかは知らない。ただ、あの時、お姉ちゃんが私達を抱きしめて涙を流していた事は覚えている。不思議と近しいものを感じていたのかもしれない。秋十も拳を握りしめて怒りを隠せずにいた。

 

「そして、本妻の人から今回の命令を言い渡されて、今に至るってわけだよ。まぁ、ばれちゃった以上、此処にはもう長くはいられないけどね」

 

そう言い切った彼女はなんとなくスッキリとしたような表情をしていた。秘めていたものを吐き出したからなのかもしれない。

 

「…………お前はこれからどうなるんだ?」

 

私達が口を閉ざしていた時、徐に秋十がそんな質問を彼女へと投げかけた。

 

「さぁね…………とりあえず本国に強制送還、後は極刑に掛けられるか、一生を塀の中で過ごす事になるかもしれない。スパイならこれでも軽い方だと思うよ」

 

スパイ罪は確かに重い刑が科せられるって、訓練時代に学科で聞かされた事がある。彼女に課せられていた命令はもろにスパイ行為である。おそらく未遂で済んでいるとはいえ、それでも十分刑に掛けられる可能性は高いはずだ。それに、身分詐称までしているから…………彼女の言っている事はあながち間違いじゃないのかもしれない。

 

「でもね…………僕はこれでよかったと思ってるんだ」

 

だが、そんな考えも彼女が不意に呟いた言葉によって少しの間頭から離れてしまった。え…………これでよかったって…………もしかすると命を失う結果になってしまうかもしれないというのに…………。

 

「僕ね…………この学園に来てから楽しかったんだ。本当の自分としてではなかったけど…………それでも、みんなと楽しく喋ったり、一緒にご飯を食べたり…………そんな自由でいられる事が嬉しかったんだ」

 

それに、と彼女は言葉を続ける

 

「友達を…………みんなを裏切るような真似をする前にばれて良かったよ…………そうじゃなかったら僕は…………みんなに合わせる顔がないもん…………」

 

彼女の目からは涙が流れ落ちていた。…………大人っていうのは意外と残酷な人間なのかもしれない。私の周りには葦原大尉や瀬河中尉のような良識のある大人達がいたからよくわからないけど…………今の彼女の心境を考えたら、彼女の周りにいた大人達がどれほど彼女の心へ負担をかけていたのか…………私なんかには計り知れないよ。

 

「でも…………それも今日で終わり。短い間だったけど、ありがとね、みんな。…………あ、でも最後に紅城さんのヴェルちゃんを撫でてみたかったなぁ…………」

 

そう言って顔を俯かせてしまう彼女へとかけられる言葉なんて私には一つもなかった。こんな時どうすればいいのか…………私の頭は最適解を見つけようとするけど、全くもって見つからない。

 

「で、でもよ! 学園の特記事項第二十一条があれば二年くらいしかないけど、なんとかなるんじゃねえか!?」

 

秋十は学園の特記事項を持ち出してなんとかしようとするけど…………私としてはそれに反対だ。

 

「ごめん秋十…………私はそれに反対だよ」

「な、なんでだよ一夏姉!? これなら外部からの干渉を受けないんじゃ——」

「それはあくまで建前。水面下では各国の思惑が彼方此方にひしめき合ってる…………それがIS学園というものなんだよ。前にリーガン・ファルガスって代表候補生が国からの命令で退学させられたって噂があったでしょ? あの後セシリアに確認をとったら、本当の話だったよ。つまり、簡単に干渉する事ができるんだ」

 

秋十はそれを聞いて信じられないといった表情をしていた。無理もない。IS学園が中立の立場を取っている、一般的にはそう教えられているからね。おそらく秋十もそれを鵜呑みにしてしまっていたのかもしれない。だが、此処は様々な国の思惑がひしめき合って、なんとか均衡を保っている、緩衝地帯のようなものだってお姉ちゃんから教えてもらった。こんな所では特記事項もなんの意味も持たないとのことだ。だから、秋十の考えた案はあまり役には立たない。

 

「一夏の言う通りだ…………建前で動けるほどこの世界は簡単にできてない。無理矢理こじつけるならば、クラス対抗戦のアレも他からの干渉だと捉えることができる。——正直、残念だがこれが一番互いに被害のない結果を迎える方法だな」

 

そう言って箒は携えていた日本刀を鞘ごとデュノア君の首筋に当てた。確かにね…………これが一番の方法なのかもしれない。私も腰から拳銃を引き抜いて、彼女の頭に照準を合わせた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ一夏姉! それに箒も! なんでそうなるんだよ!? 他に方法とかあるだろ!?」

「スパイ容疑をかけられた以上、命の保証はない。ましてや拷問にかけられる可能性だってあるのだ。例えここが本当に他からの干渉を受けずに在学することができても、その後で処分を下される可能性が極めて高い。後で苦しむか、それとも今すぐに命を絶つか…………どっちが楽であるかは明白だろう」

「け、けどよ! なんならいっそ亡命するとか、そういう手もあるだろ!?」

「馬鹿を言うな! そう簡単に事が運ぶほど、世の中は甘くなどない!!」

 

箒の言う通りだ。この世界はそんな甘くなどできてない。秋十は私達のように世界の厳しい所を見てきたわけじゃないからこそ、そう言う事が言えるんだけど…………私達には只の綺麗事にしか聞こえてこない。それに…………これ以上苦しませるわけにもいかないからね。私も拷問にかけられた事があるから、その苦しさを人よりは知っているつもりだ。

 

「…………篠ノ之さんの言う通りだよ。世界は秋十が思ってるほど優しくなんてない。これが一番なんだ…………僕には、諦めるの選択肢しか残ってないんだ」

 

そう言って箒の顔を見つめるデュノア君。その僅かに首を動かした時に、何かが音を立てた。どこか金属同士がぶつかり合うような音。音の発生源を探してみると、何やらデュノア君の首からぶら下がっている。だが、彼女のもっている専用機のものとは違う…………私達にとっても見慣れた物——ドッグタグだった。しかも眩いオレンジ色に輝いている。

それを見た瞬間、私は不意に拳銃を下げた。もしかするとあれは…………。

 

「箒、一旦刀を下げて」

「なんだ? 何かあったのか?」

「うん。もしかすると彼女…………私達と同じかもしれない」

「どう言う事だ…………?」

 

箒は私の言う事を疑問に思いながらも、構えていた刀を下げてくれた。腰に拳銃を収めた私はデュノア君の前に行く。そのぶら下がっているドッグタグを見れば見るほど、確信へと進んでいく。やっぱりそうだ…………これは、アレで間違いない。

 

「ねぇ、デュノア君。一つ質問していいかな?」

「ぼ、僕に答えられる事なら…………」

「じゃ、なんで軍属でもないあなたがフレームアームズ(・・・・・・・・)を持っているの?」

 

そう、あのぶら下がっているドッグタグは私達が常に携行しているドッグタグと同じ——フレームアームズの待機形態だ。本来なら正式配属された軍人にしか支給されない代物であるにもかかわらず、代表候補生とはいえ民間人の彼女がそれを持っているというのはどこかおかしな話だ。フランス軍もフレームアームズを配備してはいるそうだけど、民間人の彼女が持っている事はまず無いはず…………どうして所持しているのかが気になった。

 

「…………な、なんで、僕がフレームアームズを持ってるなんて思ったの…………?」

「だって…………あなたの首からぶら下がっているの、これと同じでしょ?」

 

私はそう言って自分のドッグタグを取り出した。二枚持っている事自体珍しいとは思うけど、それ以上に同じものを私が持っていたという事が彼女にとっては驚きだったようだ。

 

「…………どうやら隠し事はできないみたいだね。そうだよ…………この子は、僕が父さんからリヴァイヴと一緒に貰った機体なんだ」

 

彼女はそうポツリと言葉を漏らしていく。首から下げていたドッグタグを机の上に置いた。そこには[SA-16b-CⅡ]の文字が彫られていた。

 

「この子の名前は『フセット・ラファール』…………フランスのFAであるフセットを改造した機体だよ」

「フセット…………? 聞いた事ない機体名だな」

「一般的にはスティレットの名で通じてる機体だからね。フセットは左腕にシールドが固定装備されているからすぐに見分けがつくと思う」

 

そう言ってデュノア君はデータを空間投影し始めた。そこには[SA-16 スティレット]と[SA-16b フセット]の姿が映し出されている。確かに、スティレットとはほとんど似た姿をしている。ただし、彼女の言う通り、左腕にバックラーシールドを装備しているため、スティレットよりも防御力を高めた機体である事が窺える。

 

「けど、どうしてその機体を君が持っているのさ? 私には理由がまだわからないんだけど…………」

 

だが、機体の説明を受けたところで彼女がどうしてフレームアームズを所持しているのかがわからない。軍人でもない彼女に何故彼女の父さんは、ISよりも強力なフレームアームズを預けたのか…………理解ができなかった。

 

「さぁね…………僕にも理由はわからない。でも、一つだけ確かな事はあるよ。僕の母さんは、本名アルミリア・ドッスウォール…………スティレットやフセットの設計を担当したドッスウォール社の技師だったんだ」

「なぁっ…………!?」

「う、うそぉ!?」

 

今度は私達が驚かされる番だった。まさかデュノア君の母さんが、最初期の反攻作戦で戦果をあげ、今もなお最前線で戦闘を継続し、数々のエースから愛用されているスティレットを設計した人だったなんて…………設計の際には束お姉ちゃんも立ち会って、なんか凄い設計技師がいたって前に言ってたから…………それがデュノア君の母さんだったわけかぁ。これに関しては驚かざるを得ない。

 

「だからこの子は、父さんだけじゃなくて、母さんから貰ったも同然なんだ…………母さんが最後に設計した機体らしいからね。ある意味、形見みたいなものだよ…………」

 

そう言ってドッグタグを見つめるデュノア君の目には、どこか懐かしさを思い出したのか涙が浮かんでいた。軍人としてはどうなのかわからないけど…………それを見てしまったら、私には処罰を下すのが難しくなってしまった。隣で聞いていた箒も同じように、どうすればいいのかわからない表情をしていた。そんな中、デュノア君がディスプレイに表示されていたあることに気がついたようだ。

 

「あれ…………なんかメッセージが来てる…………」

「メッセージ…………? 誰から来てたんだ?」

 

デュノア君は秋十に言われ、すぐさま差出人を確認した。

 

「…………父さん、からだ…………」

 

差出人が自分の父さんであった事を知ったデュノア君の顔に少し曇りが出ていたような気がする。だが、少し影を落としたのは間違いない。デュノア君は何を思ったのか、その文書を読み上げ始めた。

 

「『お前がこれを読んでいるという事は、無事にIS学園へと辿り着いたのだろう。その前提で話をさせてもらう。直様その機体と共に日本への亡命申請を行うといい。リヴァイヴに関してはフランス大使館へと預けてもらうことになるが、アルミリアが遺してくれたラファールはお前のものだ。そのまま持ち続けてくれ。それを持つにふさわしいのは私ではなく、他ならぬお前だと私は思っている。〔シャルル・デュノア〕は死に、〔シャルロット・ドッスウォール〕としてもう一度生まれるのだ。ケレスティナが課した命令も破棄しろ。お前の身柄を日本へと亡命させる事にはフランス大統領のサインも得ている。心配するな、事はなるようになる。お前には今まで大変な苦労をさせてしまった。お前の事に時間を割けなかった私が言うのもどうかとは思うが…………お前には幸せになってほしい。それが私の願いだ。もう私とは関係が無くなってしまうことになるが…………お前が私の娘であった事に変わりはない。——愛する娘、シャルロットへ。アラン・デュノア』…………」

 

…………読み上げ切ったデュノア君の瞳からは涙がこぼれ落ちていた。無関心だった父さんから、本当は愛されていた…………その事実を知ったからなのだろう。それにしても亡命か…………まさかだったけど、秋十が提案したプランが通るなんてね。とにかく、最悪の結果にはならなくてよかった。だが、まだ油断はできない。というか、このような重大な話を一介の兵士である私が聞いても良かったのだろうか。それはそれで問題にしかならないような気がする。

 

「という事は…………シャルルはここにずっといられるって事、なのか…………?」

 

涙を流して声を出せずにいるデュノア君に代わって秋十がそう呆けた声で私達に聞いて来た。こういうところは私には答えられそうにないから、箒に答えてもらうよう促した。

 

「大手を振って喜ぶ事はできんが…………まぁ、ここにいられる可能性が見えてきたというのは間違いないな」

 

尤もこれからが大変になるだろうがな、と箒は若干ぼやくけど、その表情はどこか緩んでいるような気がしなくもない。箒も内心は喜んでいるのかもしれない。その対面では未だにデュノア君が涙を流したままだ。それを秋十が慰めているが、慰めている本人が何やら貰い泣きをしそうな状態になっている。かく言う私も、この結末になって良かったと思っている。もし、あの時ヴェルがこっち来なかったら、この結果はなかったのかもしれないし、今よりも大きな被害となっていたかもしれない。もしかするとヴェルは 、この事に気がついていたのだろうか? 以前、デュノア君がヴェルの頭を撫でようとした時、いつもなら避けないそれを避けたのは、彼女に何かあると言う事を伝えたかったからなのだろうか? 様々な憶測が飛び交うが、ヴェルが何を考えていたのか、私には知る由がない。真相は藪の中だ。

 

「それでも良かったじゃねえか! なぁ、シャルル?」

「うん…………! 父さんが僕の事を気にかけていてくれた事を知れただけでも、僕は嬉しかったよ…………。これで僕は…………あの女に塗り潰された名前を取り戻せるんだ…………!」

 

彼女は涙を拭うと、私たちへと向きなおる。

 

「というと…………あなたの本当の名前ってこと?」

 

私が彼女にそう問いかけた。彼女は一度呼吸を整えてから口を開いた。

 

「…………『シャルル・デュノア』は偽名なんだ。本当の名前は『シャルロット・ドッスウォール・デュノア』…………父さんと母さんからつけてもらった大切な名前なんだ…………」

 

自分の本当の名前を名乗ったデュノア君——いや、シャルロットは、憑き物が取れたような顔になっていた。曇りは感じられない。本来の彼女を取り戻しつつあるのだろう…………そう私は思ったのだった。






今回もキャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。



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