FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
どうも、紅椿の芽です。
最近、HMMのジェノザウラーを購入するか迷ってます。ところで、ジェノザウラーを可愛いとか思ってしまうのは私だけですかね? …………フレームアームズ関係ないな、この話。
そんな話はさておき、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。
連休が明けてからしばらく経った。未だに学園には修理の終わってない区画があるらしいけど、それでも普段通りの日常に戻っている。外を見れば朝練に励んでいる部活動もあるくらいだし。もしかして精神的にやられてしまった人とかいるかと思ってたけど、そんなことはなかったみたい。それはそれで安心したよ。今みたいな平和が一番だからね。
「ピヤウ、ピヤウ…………」
「はいはい。すぐにあげるから待っててって。ヴェルは食いしん坊さんなんだから」
尤も、私の日常は変わってしまったけどね。休暇終わりについて来てしまった、ちょっと小さめの蒼い鷲。どうしようかとお姉ちゃんに相談したら、別に飼ってもいいとの事。というわけで私の部屋で飼われることになったんだよ。餌も食堂のおばちゃんが鶏肉の切れ端とか牛肉の切れ端をくれるからそれでまかなっている。とはいえ私の後ろをよくついてくるものだから、困ったものだよ…………今じゃ、私の左肩に止まる始末だ。強靭な皮でできたガンパッチをつけ、爪に鞘を付けているから爪が食い込んだりなんてことはないけど、もしなかったら爪が食い込んでいることだろう。ちなみに、ヴェルって名前をつけたのは私だよ。なんでその名前になったのかって? え、なんかヴェルって響きが良くない? なんか可愛いのと綺麗な感じがしてさ。私がヴェルの餌である鶏肉を餌やり用割り箸で差し出すと、ヴェルはそれを喜んで食べていく。
「もう、そんなに急がなくてもご飯は逃げないよ?」
私の言うことなんてそっちのけで鶏肉をついばんでいくヴェル。その一生懸命な姿が可愛らしく見えてくるんだ。前のようないたずらはもうしなくなったし、肩に止まったまま廊下に出たりするとヴェルは他の生徒たちに頭を撫でられることがある。その度に気持ち良さそうな表情をするから、一部じゃ人気があるようだ。
(とはいえ、普段はこの檻の中に入れるしかないからね…………自由に動き回れるようにしてあげたいけど)
私の部屋には猛禽類用の檻が備え付けられた。私が学校に行っている間はここに入れておくしかない。いくらヴェルが大人しくなったとはいえ、好奇心旺盛でそこら中を動き回ることは時々あるし、小さいとはいえ鷲だから人に危害を加えてしまう恐れだってある。そういう事態になるのは極力避けなきゃいけないからね…………でも、ずっとこの檻の中にしかいられないというのも辛い話だ。本当はあの空を自由に飛び回りたいんだろうに…………ヴェルの気持ちをわかることができたらいいのにと心から思った。
『一夏ー、そろそろ行かないと遅刻するよ?』
「わかった。今行くから待ってて」
先に部屋を出ていた雪華からそろそろ行かないと遅刻してしまうと言われてしまった。時計を見れば…………まぁ、なんとか間に合うかなくらいの時間だ。多分、間に合うから大丈夫だと思う。けど、朝からこんなにもヴェルに構っていたんだなって思った。
「それじゃ、私は学校に行ってくるね。ヴェル、大人しくしてるんだよ?」
「ピヤウ…………」
私が檻の扉を開けるとヴェルは私の肩から降りて中へと入って行った。そして、お気に入りの位置と思われる止まり木の真ん中付近に止まった。しばらくの間一人にさせちゃうのはかわいそうだけど…………流石に連れて行くわけにはいかないからね。
「ごめんごめん、待たせちゃったね」
「朝からヴェルちゃんに構いすぎでしょ。ほら、早くしないと遅刻するって」
部屋を出ると真っ先に雪華からの小言をもらう羽目になった。正直、この状況じゃどっちが上官なのかわからなくなってくる。まぁ、ヴェルのお世話をしていたのは否定しないし、構いすぎてるのも自覚はある。だって、仕草が可愛いんだし。でも、雪華の言う通り、そろそろ行かないと遅刻しそうなのは確実だ。
「はいはい。それじゃ、行こっか」
さて、今日も一日頑張るとしますか!
◇
「ねぇ、これなんてどうかな?」
「えー? そのメーカー、見た目だけしか取り柄がないって評判だよ? それよりこっちは?」
「イングリット社ねぇ…………シンプルすぎない? だったら、ミューレイとかどうよ?」
「いやいやいや、皆の衆〜。ここは断然、ファクトリーアドバンス社に限るなりよ〜」
「「「変態企業降臨!!」」」
教室に行くと、なんだか少し盛り上がっているような感じだった。みんなカタログみたいなものを持ち寄って見比べたりしている。一体何があるんだろう…………SHRまで残り五分だと言うのに。
「あら、一夏さんに雪華さん。おはようございます」
「おはようセシリア」
「おはよう」
私たちの姿を見つけたセシリアがこちらへと寄ってきた。なんだかまたイギリスに帰っていたみたいだけど、大丈夫かなぁ…………主に体調的な問題で。まぁ、見た目元気そうだけどね。貴族オーラも出てるし。
「それにしてもセシリア、これってどういう状況? 私、よくわからないんだけど…………」
「どうやら皆さん、個人用ISスーツの購入時期になったからですわね。このご時世、ISスーツもファッションの一部と認識されていますから」
「他にもISとの相互信号伝達に関わるとかって言ってたっけ。前に説明があったけど、一夏は知らなかったの?」
「あ、あはは…………」
この状況の理由をセシリアと雪華に説明されてようやく知った。てか雪華………… 私がそんなことを知っているわけないでしょ!? ラウラが新しく派遣部隊の隊長となったとはいえ、結局国防軍には報告書を提出しなきゃいけないわけだし、何よりアナザーとの交戦の方がインパクト強過ぎて頭の中から綺麗に抜けていたよ…………。それに、ある意味私たちには関係の無い話だからね。
「まぁ、ヴェルちゃんの世話ばっかりしてるから、忘れてても仕方ないよね」
「そこまでヴェルに付きっ切りなわけじゃ無いよ!?」
「ですが、寮ではいつも一緒ですわよね? まるで…………えっと、なんていうんでしたっけ? あ、箒さん! 日本で猛禽類を操る方のことをなんていうんでしたっけ?」
「鷹匠の事か?」
「そう、それですわ!」
「まぁ、一夏は鷹匠と言うには程遠いがな。単にヴェルの奴が懐いているだけだろう」
さらりと箒にディスられたような気がするんだけど…………別に私は鷹匠を志しているわけじゃないし、てか、元を辿ればヴェルが私から離れなくなっちゃった事が発端だし…………って、言い訳してる場合じゃない。このさらっとディスられてる中尉ってどうなのさ…………立場フリーで話していいっては言ったけどさ、人としての私の立場が怪しくなってくるよ。
「諸君、おはよう」
「皆さん、おはようございます」
「「「お、おはようございます!」」」
丁度SHRが始まる時間となったのか、お姉ちゃんと山田先生が教室へと入ってきた。というか、お姉ちゃんのカリスマ性が上限値を超えているような気がするんだけど…………ただ入って挨拶しただけなのに、みんな自分の席に戻って直立不動の姿勢になって返事してるし。言っておくけど、ここは軍隊じゃありません。ちょっと特殊な学校の一クラスです。なお、私を始めとする派遣部隊の面々と秋十は至って普通に挨拶したけどね。
「早く席につけ。話が始められんぞ」
お姉ちゃんの一言で全員が席に座る。しかも、寸分の狂いもなく。…………カリスマ性が変な方向へと向かってないか、たまに不安になるんだけど…………これって大丈夫なの? というか、みんな絶対どこかで訓練受けてきたでしょ。
「連絡事項だ。今週から実機訓練が始まる。改めて言うが各員、実習の際にはISスーツを忘れるなよ。忘れた者は水着、それすら忘れた者は…………まぁ、下着で構わんだろ」
その発言だいぶ問題があると思うんだけど!? 大丈夫じゃないでしょ! 第一、男子が一人いるんだから、そんな事をしたらセクハラ行為で秋十が捕まるよ!? 当の本人は頭を抱えて頭を垂れている。まぁ、一応健全な男子高校生だから、一線を越えたりはしないと思うけどね。…………一瞬、葦原大尉なら大手を振って喜びそうな気がしたけど、あの人の名誉のためにすぐに忘れるとしよう。それが正しい判断だと思う。
「また個人用ISスーツの発注の締め切りは明後日だ。こちらも忘れるなよ? その他に、次に行われる予定の学年別トーナメントだ。貴様らにとっては初の公式戦となる。良い成績が残せるよう研鑽を積め」
「「「は、はい!」」」
ISスーツは私たちには関係の無い話だとして、学年別トーナメントかぁ…………私たちも出場することになるのかな? いや、だってほら、リミッターとかかけておかないと、向こうを容易に大破させちゃう攻撃力になっちゃうし。できれば出場停止命令とか出てくれると嬉しかったりする。そっちを心配する必要がなくなるし。それに、もし参加して全員が出場していたとなると、また前回みたいに襲撃された時、対応が遅れてしまうかもしれない。まぁ、最終的に判断を下すのはラウラの役目だけどね。
「さて、山田先生。続きを頼む」
「は、はい! 今日は皆さんに転校生を紹介します。それも二名です!」
では入ってきてください、と山田先生は入口の方に呼びかけた。にしても二人…………? 一人は多分ラウラだと思うけど、もう一人って誰?
「失礼します」
「失礼する」
扉が開かれると共に最初に入ってきたのは流れるような銀髪をした小柄子——ラウラだ。お姉ちゃんと似た凜とした佇まいをしている。しかし、問題はもう一人の方だ。金髪にアメジストの瞳が特徴的…………そこまでならまだよかったよ。一般的な気品のある外国人的な感じがするし。でも、そんなことが全く気にならないくらい、その子はとんでもない破壊力を秘めていた。
だって——男の子、だったんだから…………。
◇
「シャルル・デュノアです。フランスからやってきました。皆さんよろしくお願いしますね」
あまりにも突飛した状況に誰もが言葉を発せずにいた。お姉ちゃんだけが若干のため息をついていたくらいだ。私だって、頭の処理が追いつかなくてオーバーヒートでもしそうだよ…………。
「お、男…………?」
誰かがふとそんな声を漏らした。やはり、現在の状況が読めてないような感じだ。
「はい。こちらに同じ境遇の方がいるとの事で、本国から転入を——」
「「「きゃあぁぁぁぁっ!!」」」
彼が口を開いた瞬間、黄色い悲鳴がクラス中を駆け巡った。無論、そんなものに対応する時間がなかった私は思わず耳を塞いでしまう。さすがにこの爆音には慣れる気がしないよ…………耳栓、ちゃんと買っておくんだった。この状況でも微動だにしないラウラとお姉ちゃんは本当にすごいと思う。なお、秋十はもろに受けて撃沈した模様。
「来たわ! 二人目が来たのよ!」
「しかもイケメン! かなりの美形!」
「あのアメジストの瞳…………堪らないわ!」
「織斑君とは違う守ってあげたくなる系よ!」
「今年の夏コミが捗りますなぁ!」
…………このクラス、少し残念な人が混じってるよ。というか、ふと今になって考えてみたんだけどさ、二人目が出たなんてニュースあったかな? 最近見てないからそう感じるだけなのかもしれないけど、秋十の時はかなり大々的に報道してたし、普通なら大騒ぎになっているはずだよ。なのに大騒ぎになってないし…………なんか変な感じがして来たよ。
「——いい加減、静まらんか。他のクラスはまだSHRの最中だぞ」
しかし、お姉ちゃんのドスの効いた声で喧騒は一瞬にして収まってしまう。まぁ、こんな状態のお姉ちゃんには逆らえないよね。尤も、家での決まりごとを破った場合はその限りじゃないけど。
「そ、そうですよ! それに、まだもう一人の紹介が終わってませんから!」
山田先生がお姉ちゃんの後に続いてそう言う。けど…………なんだかその後を追う姿が子犬のように見えてしまったのは心の中に留めておくことにしよう。山田先生の言葉にみんなは一斉に視線をラウラへと向けた。その視線を一手に受けたラウラはふと不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍で少佐をしている。ここにいる紅城一夏達とは戦友だ。彼らに何かあろうものなら、私が裁きを下す。それと——日本文化を知りたいから、このゲイジュツ書を持っているものがいたら来てくれ」
そう言ってラウラが懐から取り出したのは…………同人誌だった。そういう文化とはあまり節点のない私でもわかる…………絶対にラウラ、変な情報を教えられている、これ。
「って、ラウラ!? 完全に色々と間違ってると思うんどけど!?」
「心配ない。私の副官が教えてくれたのだ。日本とはこういう文化に富んだ世界であると!」
「間違ってないけど間違ってるよ!?」
ラウラは私の知らないところで変に毒されてしまったようだ。というか、その文化自体なんとなくダメな気がするんだけど…………間違ってはいないんだけど、その文化が日本のメイン文化じゃないよ。とはいえ、一概に否定はできるものじゃないし、あそこまでラウラに胸を張って言われてしまっては何も言えない。…………それと、後ろの何人か、同類が来たとか喜ばないの。
「紅城、積もる話もあるだろうが、それは後回しにしておけ。これでSHRは終了だ。次はグラウンドにて二組と合同の実技演習を行う。遅れるなよ?」
最後の連絡を終えたお姉ちゃんと山田先生はそのまま教室を後にした。さて…………次の授業まで残り十分かぁ…………間に合うといいんだけど。そんな事を考えながら私はパイロットスーツへと着替え始めたのだった。
◇
「遅い」
乾いた音がグラウンドに鳴り響いた。原因は秋十と新しく来たデュノア君。物の見事に遅刻してしまった為に、お姉ちゃんの振るう出席簿の贄となってしまったのだ。叩かれた秋十はいつも通り悶え苦しみ、デュノア君も涙目になって叩かれた頭をさすっていた。ただ、その仕草…………かなり女の子っぽく感じてしまう。だが、こっちには箒やレーアのような男前すぎる女の子もいるわけだし、女の子っぽい男の子がいても別に不思議じゃないと勝手に結論づけていた。
「何をしてるんですか、あの二人は…………」
「遅刻など、軍では許せん行為だな」
「…………二人とも、ここが学園ってこと忘れてない?」
その光景を見ていたエイミーとレーアからはかなり辛辣なコメントが来た。まぁ、軍属の私たちからしたら、遅刻なんて懲罰物だし、一人の遅れが全体の存亡を左右することだってあるからね。でも、ここはあくまで学園という立場にあるわけだし、少しくらい大目に見てあげてもいいと思うんだよね。単に私が甘いだけなのかもしれないけど。
「一夏の言う通りだな。普通の学生には学生の、我々には我々の作法があるだろうからな」
「ラウラの言う通りだ。とはいえ、遅刻を褒めているわけではないがな」
「そのくらいでいいんじゃない? 私達のようにギチギチしたスケジュールで動いていたら、すぐにバテるわ」
「それに関しては私も同意だよ。学校なんだから大目に見てあげてよ」
どうやらラウラや箒、鈴と雪華は私の意見に同意みたい。普通に考えて、私達のように詰め込まれた日常を過ごしていたら疲れ果てちゃうよね。
「そういえば、一夏さん。山田先生の姿が見えないのですが…………」
セシリアに言われて今来ているのがお姉ちゃんだけだってことに気がついた。あ、あれ? 山田先生はまだ来てないの? …………なんだか無性に嫌な予感がする。そう思っていた時だった。
「あぁぁぁぁぁ〜〜!! ど、どいてくださぁぁぁぁぁい!!」
まさかの山田先生の悲鳴。そして声のした方を見上げると、ISを纏ったと思われる山田先生がこちらへと向かって来ている。正確にいえば落ちて来ていると言った方が正しいかな? ——って、問題はそっちじゃない! 突然の状況に誰もが呆然としている。このままのコースで山田先生が墜落したら大惨事になることは確実だ。
「セシリア、ごめん! 生徒をこの場から退避! 誘導任せるよ!」
「了解しましたわ! 一夏さんは!?」
「ちょっと受け止めてくる!」
セシリアに避難誘導を任せ、私は榴雷を起動、展開した。少し懐かしさを感じる装甲の感覚が伝わってくるけど、今はそんな事を気にしてられない。
「ちょっとどいて!」
グラインドクローラーを展開して落下予測地点へと向かう。なんでこんな時に限って列の最後尾の方にいたのかって思いたくなるよ。でも、そんな事をぼやいてなんていられない。
『こっちは避難完了ですわ!』
『こっちも同様だ!』
セシリアとレーアからの通信が入る。周りを見れば既に避難は完了しており、万が一墜落したとしても、その際に生じた破片が害を及ぼす可能性は低くなった。でも、不安要素は可能な限り取り除くべきなんだよ!
私は両腕のリボルバーカノンとグレネードランチャーを一度格納した。これで両手は武装も何もない。私は両腕を広げてその場に待ち構えていた。
(…………今——ッ!!)
「きゃあっ!?」
私は落ちて来た山田先生を受け止めた。その際の反動で後ろに下がってしまいそうになるけど、展開したグラインドクローラーのおかげでその場に踏みとどまる。安定性の高い榴雷だからこそできる技だ。それにしても、なかなかの衝撃だよ…………!
(しまっ——!?)
そんな時、受け止めた際の衝撃で舞い上がった石がみんなの方へと飛んでいってしまった。あの衝撃で飛んで来たらたとえ小石であろうとも生身の人間には十分な脅威だよ!
『鉄塊は鉄塊らしく、盾になってやるさ』
だが、ラウラが起動した輝鎚のおかげでその石は弾かれた。ふぅ…………ラウラがあそこにいてくれてよかったよ。一方のこっちも山田先生の推力を完全に殺しきる事が出来て、ようやく止まってくれた。
「全く…………何をやっているんだ、山田先生。紅城達が行動を起こさなければ、生徒の身に危険が及んでいたぞ」
「…………返す言葉もありません。みなさん、本当にすみませんでした!!」
そう言って頭を下げる山田先生。でも、本当に被害が最小限で済んでよかったよ。墜落事故なんてものは一番怖い事だからね…………訓練時代に私が轟雷の練習機を用いて訓練していた時に、近くを飛んでいた練習機のスティレットが墜落事故を起こしたんだよ…………周りに土や石を巻き上げ、地面を抉ってやっと止まった時には、惨状と言っても差し支えない状況だった。幸い、パイロットは命に別状はなく、今はどこかの部隊に配属されたけど…………それでも重傷を負ったみたいだし、もしあの場にいたのが轟雷装備の私ではなく、素のアーキテクトを装備した誰かだったら…………被害は確実に大きくなっていたに違いない。間近で見たからこそ、同じ事を繰り返させないようにしなきゃいけないんだ。役目を終えた私は一度榴雷を解除した。
「諸君、いいか。ISとは確かに素晴らしいものだ。だが、一度操作を誤ってしまえば、大惨事につながる事もある。今回がそのいい例だ。何も被害が及ぶのは自らだけでなく、その周りの人間にも被害が及ぶ。諸君らがISを扱う時はそれ相応の覚悟を持て。これを理解できない者に、ISを扱う資格はない。いいな! わかったか!」
「「「は、はい!」」」
お姉ちゃんの言ったことはとても大事なことだよ。ISだけじゃない、自転車も車も、そしてフレームアームズも…………人より優れたものを扱う時は事故を起こさないという覚悟を持って扱わなければいけない。特に、私達のように兵器を扱う身としては尚更のことだ。事故というものはいつか起こってしまうものだけど、その被害を最小限に止める事を忘れてはいけない。この一件を通して、ISへの認識が変わってくれるといいんだけどね。
「いい返事だ。それでは専用機持ちを班長としてグループに分れろ」
お姉ちゃんはそう言って指示を出すけど…………
「織斑君! 私に教えて!」
「デュノア君! 手取り足取りお願いします!」
殆どの人は秋十とデュノア君のところへと殺到してしまった。まぁ、ここって男子に飢えている場所とかって言ってたからそうなる事は火を見るよりも明らかだったけどね。一応、私達のところにも来てくれてはいるけど…………秋十達と比べたら少ないよ。といっても四、五人くらいだからちょうどいいくらいだけどね。
「この…………馬鹿者どもが! 出席番号順に入っていけ! 指示を聞けん者はグラウンド十周だ!」
お姉ちゃんの鶴の一声によってささっとばらけるみんな。その行動力の良さに思わず苦笑いが出てしまった。
「紅城さん、よろしくお願いします」
「こっちこそ、今日はよろしくね」
グループの中で代表になったと思われる子が私に挨拶をして来た。私はその子の顔を見て返事をする。返事はちゃんと顔を見てやらなきゃいけないよね。
「皆さん! 訓練機はこちらにありますので取りに来てください!」
山田先生が訓練機を取りに来るように私達に指示を飛ばす。山田先生の後ろには打鉄の他、ラファール・リヴァイヴも用意されていた。
「みんなはどっちの機体がいい?」
「そうだねぇ…………私は打鉄かな? 安定性は高いそうだし」
「操縦が簡単なリヴァイヴでもいいかも。私、ISにあまり乗った事ないから」
「まぁ、紅城さんが選んで来た方ならどっちでもいいよ」
結局私任せなのね…………といっても、私はISに関してはあまり知識はないし、どっちを選べばいいのかわからない。強いて選ぶとしたら…………安定性の高い打鉄かな。
「わかったよ。それじゃ、とりあえず打鉄にするね。もし残ってなかったらリヴァイヴにするから」
「「「はい!」」」
というわけで、ISを受け取りに行く事になったわけだが…………あのカートを押して持ってこなきゃいけないのかな…………? この時、かなり重労働を任せられたんじゃないのかなって思ったのだった。
◇
「各班、ISは行き渡ったな? では、起動と歩行、そして停止を行え。各班長はサポートを頼む」
そう指示を飛ばすお姉ちゃん。結局、私達が選べたのはリヴァイヴだったよ。安定性は打鉄に負けるけど、操縦の簡易性が高いって言われてるから、訓練向けではあると思うよ。
「それじゃ、始めよっか。出席番号順に始めていってね」
「「「はーい」」」
出席番号が一番早かったと思われる子がリヴァイヴへと乗り込んだ。ISは胸部が完全開放状態になっており、乗るのはフレームアームズと比べてはるかに楽な感じがする。膝立ち状態になっている機体へと体を納めたその子は自然な流れで両足立ちを果たす。でもねえ…………人間よりも長い手足だから、バランスを取るのに苦戦している模様。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。ちょっとふらついただけだし」
「わかった。それじゃ、十歩くらい歩いて、機体を解除してね」
拙い動きだったけど、その子は歩き回って機体を解除した。それにしても、ISってもしかするとフレームアームズより扱いにくい機体なのかもしれない。フレームアームズは人の動きを完全にトレースして動くから、自分の体を動かすのと同じ要領でやれるんだよ。特に陸戦型の轟雷系統は扱いやすい。とはいえ、ISのように絶対防御なんてないから、事故が起こればすぐに命に関わる事態になるけどね。
「あのー、紅城さん?」
「うん? どうかしたの?」
私が思わず考えにふけっていたら、突然声をかけられた。多分、次の順番の子だったはず。一体何かあったんだろうか?
「その…………乗れないんだけど…………」
「あー…………」
よく見たら、リヴァイヴが直立して解除されてしまっている。確かにこれじゃ乗るのは難しいかな。装甲の隙間に足をかけて登るって手もあるけど、あれは手を滑らせたら怪我をする可能性があるからね。どうしようかな…………?
(あ、そうだ!)
一番安全な方法と考えていい案が思いついた。私はブルーイーグルを展開する。
「ちょっとごめんね?」
「えっ!?」
私はその子を抱き上げた。ブルーイーグルの腕部にはフォトンブースターが付いているため、一旦腕と胴体のブースターをカットする。電磁推進とはいえ、プラズマ化した粒子が漏れている恐れもあるからね。安全性には最大限努力しなきゃ。若干、お姫様抱っこみたいな感じになっちゃったけど、そっちの方が安全に運べるから仕方ない。私は背部と脚部のブースター、スラストアーマーを使ってコクピット付近までゆっくり上昇した。
「はい。ここからなら安全に乗れるよ」
「う、うん…………あ、ありがとう…………」
そう言ってその子は打鉄へと乗り込んだけど…………なんで顔を赤くしたの? 変な所でも触っちゃったかな…………でも、それにしては顔が少しにやけているような気がするよ。本当に何があったんだろう? 私には理解できなかった。
「それじゃ、機体をしゃがませて——」
今の子がタスクをこなしたから、今度こそちゃんとしゃがませるように言おうとしたけど、その前にすでに降りていて…………打鉄は直立していたよ。しかもなんだか、周りの人たちも乗せてみたいな願望を剥き出しにした眼をしてるし、一番最初に乗った子なんて嘆いているんだよ…………私には訳がわからなかった。
「え、えっと…………」
「紅城さん! 私もあんな感じに乗せてください!」
「わ、私も私も!」
完全に目がマジだ。それにしてもなんで私に乗せて欲しがってる訳…………本当に理解ができない。
「あ、あはは…………」
私は思わず乾いた笑いが出てしまった。結局、最後の人まで私が抱き上げて載せる羽目になったのだった。
◇
授業終了後、各班の代表は使ったISを返却するとの事だったため、私はISをカートにロックする作業を始める所だった。膝を折って鎮座している目の前のリヴァイヴは、先ほどまでみんなに自由に扱われていた。あんな風にみんな扱える事が少しだけ羨ましく思えた。私の場合、IS適性が壊滅的なまでに低いから、乗ったらどうなるかなんてわからないんだけど…………少しだけ乗って見たいという思いがあった。山田先生やお姉ちゃんから少しだけなら乗っても構わないと言われてる。フレームアームズしか触れた事がないから、いい機会になるだろうって。
(す、少しだけならいいよね…………?)
私はそのネイビーカラーの装甲に手を触れた。その瞬間、手先に電流が一瞬走ったような感覚に襲われた。思わず手を引っ込めてしまう私。今のは一体…………でも、ちゃんと手は動くし、特に異常もない。
(ちょっとだけなら大丈夫…………)
そう思って再び手を触れた。今度は何も起きない。装甲に触れているという感覚がしっかりと伝わってきた。今度こそは大丈夫だと判断した私は装甲の隙間に手をかけて登り始めた。フレームアームズでも同じようにして登った事があるし、乗り込むのは形状的にこっちの方が楽だからね。そんな事を思いながら、コックピットに到達した私は体をそこへ納めた。何も違和感はない、そう思った時だった。
(ッ——!?)
突然だった。急に頭の中をかき混ぜられるような痛みが襲ってきて…………今何が起きているのか理解ができなかった。それ以上に頭が割れそうなほどに痛い…………! しかも、機体が鉛のように重い…………! 練習していた子たちみたいに操るのは無理だよ…………! 私はその場に崩れ落ちる。立ち上がるのは…………無理…………!!
(適性の低さが…………ここまで来るとは…………!!)
立ち上がろうとしたけど、うまく力が入らない…………! 視界が暗転し、何かに叩きつけられる感覚が来た後、私の意識は何処かへと消えていったのだった。
キャラ紹介
ヴェル(cv.イヌワシ)
体長:52㎝
幼鳥のイヌワシ。体つきは他のイヌワシと比べてもかなり小さい。また、色素異常による突然変異によって本来黒い羽根は蒼く染まり、腹側の羽毛は白く染まっている。本来は開けた山間部や平原に生息するイヌワシではあるが、ヴェルは何故か都市部へと迷い込んでしまった。現在は一夏に保護され、彼女に非常によく懐いている。なお一夏曰く、ヴェルという名前に特に意味はない模様。
今回のキャラ紹介は前回から登場した蒼い鷲ことヴェルでした(最早人型ですらない)。一夏が名付けた理由は曖昧な感じですが、ちゃんと命名理由はありますよ? ヒントはイヌワシをロシア語にしてみてください。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。