FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、紅椿の芽です。



最近、うちの一夏ちゃんは『いちかわいい』なのか『いちかっこいい』なのかが気になって仕方ないです。



さて、それでは今回も生暖かい目でよろしくお願いします。





Chapter.26

あの戦闘から一週間が経過した。今回の襲撃に関しては全員に箝口令が敷かれ、口外する事は厳禁とされた。表向きには高性能人工知能搭載型ターゲットドローンの暴走という扱いにはなっているけど、それがいつまでもつのかはわからない。なお、私にもフレズヴェルクタイプとの交戦はほぼ派遣部隊だけの機密事項という事になった。まぁ、アナザーが連れて来たって言ってたから、出所不明だし、睦海降下艇基地から来たかどうかもわからない以上は厳戒態勢だろうね。アーテルと交戦した事は一応報告したけど、会話をしたなんてところはログにロックをかけたよ。あんなものを見つけられたらまた査問会送りになるかもしれないからね。他にもブルーイーグルの塗装が剥げたから修復作業のために一度雪華が館山基地に持って行ったとか、ラウラが正式に派遣部隊長として挨拶したりとか色々あったよ。

そんな今の私だが、足の捻挫は完全に治り、今じゃ普通に歩けるようになった。おまけにアナザーを退けたという理由で休暇を一日もらう事になったんだよ。実際は退けたんじゃなくて、向こうが撤退して行っただけなんだけどね。

 

(うぅ〜…………服、これでよかったかなぁ…………?)

 

というわけで、私は休暇を使うべく自宅へと一度戻って荷物を取り終わった後、近くの複合施設『レゾナンス』へと足を運んでいた。取り終わった荷物は一緒に戻って来ていた秋十に預けて先に学園へと持っていってもらう事にした。その方が移動するにも楽だしね。今度秋十にはお礼に何か作ってあげようかな?

まぁ、その事は一旦置いておくとしよう。そんなわけで久々に着た私服が物凄く自信なくて、ショーウィンドウを鏡代わりにして自分の服装を見ていた。今日は弾から貰った髪留めの他に小さいリボンのついた白いカチューシャをつけてるよ。それで、服装は蒼っぽいパーカーと少し暗めの蒼を基調としたチェックのスカート、後は蒼いラインの入った白ニーソとブーツという感じなんだけど…………見ていてなんだか女の子っぽくないかなぁって思ってしまう。周りの子たちはみんなすこし露出がある感じの服を着ているんだけど、私の場合傷痕があるからそれを隠さなきゃいけない。そうなると自然と服も制限がかかっちゃうんだよ。傷痕を晒していたら、見た人は気分を害しちゃうかもしれないし、私自身人目に晒したくないからね。

 

(私もあんな服着て見たかかったなぁ…………)

 

近くにあったベンチに座っていた私の前を可愛い感じの服を着た女の子が通り過ぎていった。…………正直言って、今の私の服ってさ、結構地味な感じがするんだよね。私自身蒼系統が好きだからこんな感じに纏まっちゃってるんだけど…………周りの子たちを見てると、地味である事を否めない。

 

(はぁ…………)

 

内心溜息をついてしまった。空を見上げるといつも通りの青空が広がっている。ふと、蒼って結構ありふれた色なんだなあって思った。

そんな時、私の方に向かって全力疾走してくる人影が見えた。

 

「わ、悪い! 待たせちまったか…………?」

 

目の前には肩で息をしているような弾が来た。私は弾と待ち合わせをしてここに来たのだ。まぁ、すこし張り切りすぎちゃって、予定の一時間前に来ちゃったんだけどね。

 

「ううん。全然待ってないよ。私も今来たところだから」

 

尤も、待っていたとは言っても五分程度である。弾もはやる気持ちを抑えきれなかったんだと思う。だって、集合予定の五十分も前に着いちゃうんだから。

 

「そ、そうなのか…………でも、二人揃ってこんなに早く集まっちまうとはな…………」

「だって早く弾に会いたかったんだもん。そんな理由じゃだめ?」

「それは俺のセリフだっつーの。俺だってお前に早く会いたかったわ」

 

お互いに同じ気持ちだったというわけだ。そう言い切った後の私達は互いに顔見合わせて、なんだかおかしくなって笑ってしまった。そっか…………弾も同じ気持ちだったんだ。

 

「それにしてもその服、一夏によく似合ってるわ。なんか、いつもと違う雰囲気だな」

「そ、そうかな…………他の子からしたらかなり地味な服装だと思うんだけど」

「そんな事ねえよ。なんつーか、似合いすぎていい言葉が出てこねえ…………あえて言うなら、かっこ可愛い、か?」

 

弾の評価に思わず笑みがこぼれてしまった。服を褒めてくれた事は嬉しいよ。似合ってるって言ってもらえてよかった。でも、最後の評価はどうなのさ? かっこ可愛いって…………なんだか微妙な評価な気がする。

 

「それって褒めてるの…………?」

 

ちょっと悪戯っぽく弾に訊いてみた。面と向かって会えるのは入院していた時以来だから、少し悪ノリしているって自覚はあるよ。でも、ちょっとだけ弾を困らせてみたいという思いもある。

 

「いや、だってさ…………お前は何を着せても似合いそうだし、蒼系統の服を着てると、クールな感じにも可愛い感じにも見えるから、うまく表現できねえんだよ」

 

けど、私のそんなノリとは裏腹に弾から返ってきた答えに思わず心臓の拍動が強まった。顔が熱くなっていくのがわかる。きっと今頃私の顔はオーバーヒートを引き起こした銃身とかリンゴみたいに真っ赤になっているに違いない。目の前の弾もなんだか恥ずかしそうに顔を逸らしているけど…………私の方が顔を逸らしたいくらいだよ。今はなんだか直視できそうにない…………。

 

「…………め、面と向かって言われたら、恥ずかしいじゃん…………」

「…………言わせたのはどっちだ、全く…………」

 

うぅ…………原因は私の悪ノリです。正直、弾から反撃されるとは思っていなかった。しかも本人にはその気がないとしても、私には恐るべき破壊力を持った一撃だったよ。

 

「と、とりあえず、ここから移動しようぜ? ここにいたって何も始まらねえしさ」

「そ、そうだね。でも、特に行きたいところなんて今日はないんだよね」

「なら、適当にぶらついて目についたところに行くでいいんじゃね? どうせ時間はいっぱいあるしな」

「私はそれでいいよ。案内は任せてもいいかな?」

「おう、任せておけ!」

 

そう言って意気込んだ弾は私を案内するように先を進んでいく。時間的にほとんどの人が出かけるような頃合いだ。人も多くなってきている。人混みの中で弾を見失っちゃいそうだ。

 

「ちょ、ちょっと、弾! 待ってよ〜〜!!」

 

私は弾を見失わないよう、彼の後を追いかけたのだった。

 

 

「だ、弾! ちょっと、待ってって!」

 

若干駆け足で弾を追いかけていた私は少し息が上がっていた。ここ最近はまともに鍛えたりしてなかったから、だいぶ衰えたりしちゃったのかもしれない。

 

「あっ、悪い悪い。つい、お前といるのが嬉しすぎてさ」

「そ、そんなこと言って…………私の事を置いてけぼりにしちゃったらダメでしょ…………」

 

弾は私の声を聞いて止まってくれた。まぁ、彼に何か非があったわけではないけどさ…………こっちとしては滅多にこない場所だから、下手したら迷子になっちゃいそうだし…………高校生で、しかも軍人で迷子になるっていうのもどうかとは思うけど。

 

「それじゃ、手でも繋ぐか。それなら一緒に動けるだろ?」

 

弾はそう言って私の手を取った。彼の大きくて、あったかい手が私の右手を包んでいく。思わず彼の事をより一層意識してしまって、顔が熱くなってしまった。心臓の鼓動も強さを増していく。すぐそばにいる弾にまで聞こえそうなほど力強い音がしていた。でも、それ以上に、こうして弾と手をつなげたことが嬉しかった。

 

「そうだね。これならもう置いてけぼりにされる心配はないよ」

「ゔっ…………わ、悪かったな、先にガンガン進んで」

「別に責めてるわけじゃないよ。単純にそう思っただけだから」

 

バツの悪そうな顔をして頬をかいている弾の姿を見ていたら、思わず笑みがこぼれてしまった。こうやって、すぐそばで彼の顔を見られる機会なんてほとんどないから…………だから、なんだか新鮮に感じる。四六時中一緒にいる蘭ちゃんがすごく羨ましいよ。

 

「それじゃ、行こっ? 私は逃げないけど、時間は逃げちゃうからね」

 

気がつけば私が弾の手を引っ張っていた。わからないけど…………今はこの時間を一秒でも長く過ごしていたい。それが今の私の願いだから…………。

 

「じゃ、早速どこかで遊ぶとするか!」

 

そう言って私に向かって笑みを向けてくる弾。

 

「うんっ!」

 

私もそう返事をし、私達は今のこの時間を精一杯楽しむ事にしたのだった。

 

◇◇◇

 

(やっ、やべぇ…………お、俺、一夏と手を繋いでるぞ…………!)

 

一夏と手を繋いで歩いている俺——弾は、現在進行系で脳が処理能力を超えた事態に直面していて、頭の中がパンクしそうになっていた。いや、俺としては今日は何も予定が入ってなかったから、ギターのチューニングでもしようかと思っていたんだが、急に一夏から遊ばないかと誘われてな…………それで、現在に至るわけだ。来てみれば一夏は前とは違った雰囲気になっていて、めちゃくちゃ可愛いかったし、軍人のかっこよさも少し含んでいたから…………俺の拙い語彙力では表現できなかったぜ。

 

(しかし、あの髪留め…………よっぽど気に入ってくれたんだな…………)

 

俺は一夏の左前髪についている髪留めを見てそう思った。見ると傷とかも全然ついてない感じだ。元が超頑丈なジュラニウム合金だって話だが…………塗装なんかは使っていれば落ちてくるはず。なのに、全然そういうのもないところを見ると…………とても大事にしているんだと思う。それほどまでに気に入ってくれたと思うと…………あれを選んでよかったと心から思うわ。

 

(でも…………一夏が元気そうでなりよりだ)

 

前にあった時はベッドの上で、錯乱状態に陥っていたし、その時は物凄く体調が悪そうに見えたからな…………本当、元気になってくれてよかった。俺の目の前では一夏が無邪気にはしゃいでいる。これだけを見たら、誰も日本国防軍の中尉だなんて想像つかないはずだ。今の一夏には、軍人としての一夏じゃなくて、普通の女の子としての一夏として過ごしてほしい…………秋十のやつや一夏本人から聞かされた事を考えたらより一層そう考えてしまう。

 

「ねぇ、弾。ゲームセンターでも行ってみない? 私行った事ないから、行ってみたいんだ」

 

けど…………今はそんな深く考えなくてもいいのかもしれない。一夏が向けてきた無邪気な笑顔を見てるとついそう思ってしまう。なら、今の俺にできる事を全力でしてやろう…………俺たちの知らないところで俺たちを守ってくれている、心優しい中尉殿に。

 

「わかったわかった。でも覚悟しておけよ? 俺、結構強いからな?」

「ふふっ、お手柔らかにお願いするね」

 

それが、今の俺ができる精一杯の恩返しならば、な…………。

 

◇◇◇

 

「…………ほうほう、なかなかに甘酸っぱい雰囲気ですなぁ、あのお二人さん。そうは思いやしませんかね、数馬さんや」

「…………秋十、お前キャラ壊れてねえか? まぁ、甘酸っぱい雰囲気だって事は認めるけどさ」

 

弾と一夏の後ろをパパラッチよろしく秋十と数馬が尾行していた。一夏に先に戻っていてと言われた秋十であったが、おそらく何か裏があるだろうと掴んだ為、こうして二人の後をつけているのだ。なお、数馬も偶然二人が一緒にいるのを見かけて尾行していたところ、偶然にも秋十と合流したのだった。しかし、二人のあまりにも甘酸っぱい雰囲気にのまれ、つい彼らはブラックコーヒーを手にしてしまったのは自然現象なのだろう。

 

「それにしても、遠距離恋愛なのによくもこんなに甘々しい仲になるもんだな」

「一応、毎晩メールか電話しているらしいぞ。前に一夏姉が言ってた」

「そこまでなら一緒にいられりゃいいのにな」

「マジでそれな」

 

一層の事弾もIS動かせねえかな、と呟く秋十。だがすぐに、そんなことになったら四六時中甘々しい雰囲気をばら撒かれてこっちの身がもたないと悟ったのだった。だが、一夏にとって弾が一番の癒しである事は間違いない事実である。実際、精神的に参っていた一夏をすぐに立ち直らせた事がある。あの時の事を思い返すと、秋十は弾に頭が上がらない。

 

「それにしても、あの二人ってなんかやっぱりお似合いだよな」

「否定しねえしできそうもねえわ。今の様子を見ていたらより一層そう思うわな」

 

そう言って二人は同時にブラックコーヒーの缶を煽った。だが、不思議なことに、苦いはずのブラックコーヒーが彼らには甘く感じられたのだった。製糖工場かよ…………——ふと漏れた数馬の呟きはあまりにも的を得ていた。

 

「…………これ以上ここにいたら血糖値が上がるぞ。撤収しようぜ?」

「…………同感だ。けど、その前に」

 

数馬は徐にカメラを取り出すと、互いに笑顔になっている二人の写真を撮った。

 

「これでしばらく弾を弄れるわ」

「お前…………本当抜け目ねえな」

 

仲睦まじくゲームセンターに入っていく二人を見て満足したのか、秋十と数馬はその場から立ち去っていったのだった。なお、尾行していたことに一夏も弾も気づいてはいない。その後、数馬に恥ずかしい一枚を見せられた弾が揶揄われるのは別の話である。

 

◇◇◇

 

「つ、強え…………なんじゃその強さは? 初プレイでそんなに得点稼げるのかよ…………」

「あ、あはは…………」

 

ゲームセンターに入って、早速アーケードゲームで遊んだわけなんだけど…………なんか私が弾に勝っちゃった。最初に弾にオススメされたゲームがシューティングゲームで、ハンドガン型のコントローラーを使うやつだったんだよ。勿論、私は拳銃だって普通に使うし、撃ったことだってある。とはいえこれはゲーム、実銃とは勝手が違うから弾に負けると思ってたんだよ。でも、結果はご覧の通り。弾に勝っちゃっただけでなく、なんかハイスコアまで更新しちゃった…………やり過ぎた感がハンパない。

 

「てか、あのリロード速度、早過ぎねえか? しかもエイムの速さも尋常じゃねえし…………」

 

…………多分、軍人としての血が騒いだのかもしれない。多分、ああいうゲームは本職の力を出しちゃうから、私はやらないほうがいいのかもしれない。

 

「つ、次は違うのをしようよ! それなら多分大丈夫だと思うから!」

「エアホッケーだけは勘弁な」

 

先に弾からそう宣告されて戸惑った。…………もしかすると、弾ってエアホッケー苦手なのかな? 私はしたことないからよくわからないけど…………でも、できれば弾と一緒に笑って過ごしたいから避けておこう。もうちょっと大人しめのゲームはないのかな…………?

そんな時、私の目にはあるものが目に入った。クレーンゲームの筐体なんだけど、その中の景品にあるぬいぐるみストラップみたいなものが目に止まった。近くに行って見てみるといろんな種類のお魚やイルカ、シャチなどが可愛くディフォルメされていて…………ちょっと胸がキュンとしてしまった。犬とか猫とかも好きだけど、私はこういう感じも好きなんだよ。おそらく束お姉ちゃんの影響もあるかもしれない。あの人もこういうのが好きだからね。

 

「なんだ、それが気になるのか?」

 

私が食い入るように見ていると後ろから弾が声をかけてきた。

 

「うん…………でも、これって何かのキャラクターなの? 色々種類があるみたいだけど…………」

「確か『あくあらんど』とかっていうアニメのキャラだったはず。めちゃくちゃ人気のあるアニメだったんだよな」

 

俺は見た事ねえけど、と弾は付け加えて説明してくれた。へぇ〜、そんなアニメがあったんだ。私はあんまりそういうの見ないし、見る暇とかも無かったからね。こういう文化に疎いのは仕方ない。そういえば、簪がアニメとか好きって言ってたから、今度教えてもらおうかな? そのアニメについてはよくわからないけど、今目の前にあるぬいぐるみストラップが目から離れない。

 

「それじゃ、取ってやろうか? まさかの百円で二回もチャレンジできるっていう親切仕様だからよ」

「本当? じゃあ、お願いしようかな?」

「よっしゃ、任された!」

 

どうやら弾が挑戦してみるみたいだ。彼は意気揚々と百円玉を筐体に支払う。よっぽど自信があるみたいだ。

 

「ところで一夏、どれが欲しい? ある程度なら狙いは絞れそうなんだが」

「うーん…………弾に任せる。弾が取ってくれたものならなんでもいいよ」

「オーダーがむずいな…………」

 

弾は狙いを定めたのか、操作をし始めた。その目は真剣そのもの。時折筐体の横からのぞいて、アームを下ろす座標を確認している。そして、意を決したのかアームを下ろした。ラテン系のリズムみたいな音楽が流れて、アームの先端にある三本のツメが開く。これで一気にたくさんとれるみたいだ。

 

「さて、ここからどうなるやら…………」

 

弾は少し難しそうな顔をしてその様子を見つめていた。確か、クレーンゲームって取れない方が多いって聞くし、そう簡単に事が運ぶわけがない。実際、さっき掴んだものの内一つが落ちた。

 

「流石に一発目じゃ無理だったか…………」

「まぁ、仕方ないよ。これって運ゲーみたいなものなんでしょ?」

「そいつはそうだがな…………ま、ワントライ分残っているから、もう一回だ!」

 

結局、掴んだもの全部がツメがから落ちてしまったが、気落ちせず弾はもう一度挑戦することにした。さっきと同様、筐体の横から覗き込んだりしてアームを下ろす座標を見極めている。てか、目がマジだ…………別に単なるゲームなんだから、失敗してもいいのにね…………。取れなかったら取れなかったでそれでよし。でも、遊びに真剣になるってこういう事なのかな…………。

 

「くっそぉ…………場所ミスった…………」

 

下りたアームは確かにストラップを掴んではいるが、ツメが閉じる力が弱いのか何個かが一気に落ちていった。辛うじてツメには四つくらい引っかかっているけど、それもいずれ落ちそうな感じだ。アームが動いて揺れると一つ、また一つと落ちてしまう。だが、残った二個は今の所落ちそうにない。この二つならとれるんじゃないかと思った矢先の事だった。

 

「「あ——」」

 

アームが揺れて、ツメから二つとも落ちてしまった。普通ならここで諦めることになってしまうのかもしれないが、落ちた先にあったのは景品の受け取り口。その筒の壁面で軽くバウンドしたそれらは何事もなかったかのように受け取り口へと入ったのだった。その光景に、思わず気の抜けた声が出てしまった。

 

「…………なんか奇跡を見た気がするんだが」

「…………私もそれは思ったよ。とりあえず、何が取れたのか見てみようよ」

 

というわけで、弾がゲットしたストラップを受け取り口より取り出した。取れていたのは、ディフォルメされたイルカと——

 

「…………ジンベエザメ?」

 

ものすごいゆるキャラ感を醸し出しているジンベエザメのぬいぐるみストラップだった。蒼い背中に白いお腹、そして背中の白い水玉模様とつぶらな瞳…………なんだろ、ものすごくキュンとするんだけど。取り出した二つは一旦弾の手に渡した。

 

「イルカとジンベエザメが取れたのか…………よくそいつらが残ったもんだ。ところで一夏、お前はどっちが欲しい?」

「え? くれるの?」

「だって、お前めちゃくちゃ欲しそうな目で見てたじゃねえか。まぁ、流石に二つだと俺に割がねえから勘弁な」

 

そんなのわかってるよ。弾が取ったんだから、本来所有権は弾にあるんだもん。だから、もらう事に文句なんて言えないよ。私は弾の右手に乗っているジンベエザメを手に取った。

 

「それじゃ、この子にする」

「え? マジで? 普通ならここでイルカを選ぶかと思ったわ」

「可愛かったから選んだんだけど…………やっぱり変かな…………?」

「別に? 単に意外で驚いただけさ。人の好みなんて色々あるだろうし、お前が気に入ったのならそれでいいじゃん」

 

そう言って私に笑いかけてくる弾。それにつられて私も笑みがこぼれる。また大切なものが一つ増えちゃったね…………私の手に乗ったジンベエザメのぬいぐるみストラップを見て、私はそう思ったのだった。

 

 

「今日は楽しかったね。久しぶりに羽を伸ばせたよ」

「そいつは良かったな。おかげで時間がいつもより早く感じたわ」

 

夕暮れ時。私達はIS学園島行きのモノレールが停車する駅の近くにある広場みたいなところのベンチに座っていた。次のモノレールが来るまで時間がまだあるからね…………ギリギリまで弾と過ごしていたいんだ。実際、弾といると楽しくて、時間が経つのも忘れてしまう。

 

「でもさ、一夏って本当あんまり買い物とかしないんだな。蘭と行くといつも荷物持ちさせられるほど買うし」

「逆に言えば必要な時に必要な分だけ買うからそう見えるだけだよ。それに、私は軍務でほとんど休暇ないし、大抵のものは基地で買えるからね」

 

実際そうなんだよね。私服なんてあんまり持ってないし、軍から支給された制服着ていれば大抵事足りるもん。休暇だってあったとしてもそういう時に限って緊急出撃とかの命令が出たし、ブルーイーグルを任せられるようになってからはテスト任務で潰れたし。だから、こうして外出するなんてことは滅多にない。事足りてる以上、買い物もしなくていいしね。

 

「そういえば、お前軍人だったもんな…………今日のお前を見てたらそんな事忘れてしまってたわ」

「どういう意味…………?」

「やっぱりお前は一人の女の子だって意味」

 

弾はそう言って少し笑ってきた。そういう目で見てくれたんだ…………なんだか嬉しいな。多分、今の私は相当頬が緩んでいる。そんな気がするよ。

 

「ありがと、弾」

「礼を言われるほどじゃないんだが…………ま、いっか」

 

それでもお礼は言いたくなるよ。軍人としての誇りとかもあるけど、それ以上に私個人として見てくれることが嬉しかったから。そんな風に思っていた時だった。私の横にバサバサと翼をはためかせて一羽の鳥が降りてきた。綺麗な蒼の羽根が特徴的なその鳥は何故か私の背後に隠れようとしている。

 

「な、なんだこの鳥…………?」

 

弾も突然の事に驚きを隠せないようだ。私だって驚いているよ。でも、この鳥、何かに怯えているような気がしなくもない。

 

「——そこにいたのか、この馬鹿鳥!!」

 

けど、その理由もわかったような気がする。こっちに向かって走って来る人影…………私には見覚えがあった。ていうか、時々お世話になってる人だよ。

 

「…………魚屋のおじちゃん?」

 

私の住んでいるところの近くにある商店街の魚屋の店主であるおじちゃんだった。いつもの人当たりのいい笑顔ではなく、完全に怒っている感じの顔だ。

 

「お、一夏ちゃんに弾の坊主じゃねえか。すまんがそこをどいてくれねえか? 俺はその馬鹿鳥に用があるんだ…………!」

 

そう言って私の背後から顔を出している鳥を指差す。おじちゃんの顔を見たその鳥はすぐに見えないように隠れた。でもね…………尾羽が見えてるからばればれだよ。

 

「この鳥が何かしたのか…………?」

 

弾はおじちゃんにそう問う。普段は温厚なおじちゃんがこうしてガチギレする事なんて滅多に無い。そして、この鳥に用があるって言ってたから、多分この子が何か絡んでいるだと、弾も予想したんだと思う。

 

「こいつ、一週間前からいつも売り物の魚を勝手に持って行ってだな…………一番安いイワシとはいえ持っていかれるのは癪だ…………! だから今日こそはとっちめてやろうかと…………!」

 

理由としては十分正当なもの。そりゃ、売り物を勝手に持っていかれたら誰だって腹を立てるよ。儲からないし。でも…………鳥だって生きてるんだから、とっちめるなんてことはしないでほしい。

 

「あの…………今まで盗られた売り物の分のお金があれば、この子を許してくれますか?」

 

思わずそんな言葉が出ていた。だって…………ここまで怯えているのを見せられたら、おじちゃんにこの子を渡せそうに無い。私は甘いのかもしれないけど…………それが正しい事だって思っている。

 

「お、俺からも頼む、おっちゃん…………」

 

弾も私の言葉に口添えしてくれた。おじちゃんは少し考えるような素振りを見せると、少しため息を吐いた。

 

「…………わかった。お前さんらの顔に免じてその条件を飲もう。そこの馬鹿鳥、こいつらに感謝しとけよ」

 

おじちゃんは仕方ないといった顔をしていたけど、私たちの提示してくれた条件に納得してくれたようだ。私は財布を取り出して、このくらいの金額だと予想して少し多めにお金を出した。

 

「それじゃ、これで大丈夫ですか?」

 

私はおじちゃんにお金を渡した。それを受け取るとおじちゃんは少し考えるような素振りをしてから、渡したお金の半分を私に戻してきた。

 

「あのイワシ達はお前さんらが買ったって事にしとくわ。それで俺がまけたってならこの金額で十分だ。子供から全額取り立てるほど、俺はバカじゃねえよ」

 

そう言っていつも通りの人当たりのいい笑顔に戻るおじちゃん。それを見て私はほっとしたのだった。

 

「弾、後で厳の奴にこれからも贔屓してくれと言っておいてくれ。そんじゃ、邪魔して悪かったな」

 

おじちゃんはそう言うとその場を後にしていった。人影が見えなくなったのを気づいてか気づいてないかはわからないけど、私の背後からあの鳥が顔をひょこっとだした。

 

「全く…………これに懲りたらこんな悪さしちゃダメだよ」

 

私はその子の頭を優しく撫でてみた。羽根特有の柔らかさが少しくすぐったかったけど、触っていて気持ちのいいものだった。その子もなんだか目を細めて気持ち良さそうな感じの顔をしている。

 

「手懐けるの早くねえか…………?」

「そうかな? でも、この鳥なんの種類なのかな…………? 蒼い鳥なんてみた事ないし」

 

インコとかの仲間には蒼い鳥がいるみたいだけど、少なくともインコとかの種類には見えない。だってハトより少し大きい体してるし、少し獰猛そうな感じの嘴だからね。

 

「形としては鷹とか鷲みたいな感じだよな…………」

 

どうやら弾がケータイで調べてくれたようだ。鷹とか鷲かぁ…………そう言われてみればそう見えるかも。あれ…………鷲…………蒼い…………ブルーイーグル…………ただの偶然だよね? こんなピンポイントで来るわけないし、きっと偶然でしょ。この鳥はたまたま私のところに飛んできただけ。

 

「まぁ、そうだよね…………それじゃ、私そろそろ行くから。鳥さんもじゃあね」

 

ふと時計を見たらモノレールが到着する五分前だった。まぁ、猶予があるといえばあるけど、ギリギリよりは少し余裕を持って動いた方が安心するからね。私の言葉を理解したのかその蒼い鷲みたいな鳥は何処かへと飛んでいっていった。

 

「そっか。また、会えるよな…………?」

 

駅のホームに向かう私に弾はそう言いかけてきた。私は軍人…………いつ命を落とすかもわからない身分だけど…………

 

「うん。きっとまた会えるよ。だから、その日を待ってるね」

 

根拠のない約束くらいしてもいいよね? 約束すれば絶対果たそうという思いが強くなって、絶対果たせるようになるんだから。

 

「おうよ! 俺もその日を楽しみにしているからな!」

 

弾の元気な声が聞こえた。名残惜しいけど、これで休暇は終わりだね…………あっという間の時間だったよ。楽しい時間はすぐに過ぎ去って行くってのが身にしみて感じた。そんな事を思いながらホームを歩いている時だった。背後から足音が聞こえる。弾がギリギリまで見送りに来たのかなと思ったけど、それにしては足音が小さすぎる。ふと振り返るとそこには…………つぶらな瞳を私に向けているあの蒼い鷲がいたのだった。

 

(え、えぇぇぇぇぇっ!? さっき飛んでいったはずなのになんでここにいるの!?)

 

そのことに内心驚く私だけど、もうモノレールが来ている。急いで乗り込む私を追うかのようにその蒼い鷲も一緒に乗り込んで来てしまった。えぇ…………なんで着いて来ちゃったのなぁ…………? 正直、この子の考えていることがわからない。尤も、鳥と意思の疎通ができるわけでもないんだけど。

 

「えっと…………なんで来ちゃったの?」

 

私はふと蒼い鷲に問いかけてみたけど答えが返ってくるわけなんてなかった。足元から急に飛んで私の隣の席に立つ蒼い鷲。完全に私から離れる気は無いらしい。しかも、蒼い鷲も乗せたまま、モノレールは出発してしまった。こうなった以上、一度IS学園に連れて行くしかない。でも、どう説明すればいいんだろ…………てか、IS学園って動物を連れていって大丈夫なのかな…………?

 

(どうすればいいの…………?)

 

現在の状況に困惑する私と、それを見て不思議そうに小首を傾げる蒼い鷲。IS学園に到着するまでこの状況が続いていたのだった。





今回の一夏ちゃんの私服(パーツ風に紹介)

・パーカー:オーシャンパーカー(GOD EATERシリーズ)
・スカート:オーシャンフレア(GOD EATERシリーズ)
・ニーソとブーツ:劇場版アルペジオのイオナの衣装
・カチューシャ:三越榛名のカチューシャ



こんな感じです。


今回、キャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



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