FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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Fiona Glint様、評価をつけていただきありがとうございます。



どうも、気がついたら文芸部に放り込まれていた紅椿の芽です。
文芸部に入れられた結果、オリジナルを書いてくれと言われたので、こちらの更新はさらに遅くなると思います。申し訳ございません。



では、言い訳はこの辺にして、今回も生暖かい目でよろしいお願いします。





Chapter.25

戦闘があったその日の夜、私とラウラは学園長室へと呼び出されていた。まぁ、どうせ戦闘の当事者だから呼び出されたというわけなんだろうけどね。一応、報告書自体は館山基地の方に送っておいたから、そっちが遅れてしまうという事態にはならないよ。正直言ったら、なんで学園長室なんて遠いところでするのかなぁ…………? だってさ…………

 

「痛っ…………」

「大丈夫か?」

「う、うん…………大丈夫、だよ…………」

 

無理矢理戦闘機動なんてしてしまったものだから、足首の捻挫がぶり返してしまったんだよ…………ものすごく痛い。松葉杖をついて移動しているため、ものすごく動きにくい。治りかけていたところで無茶をしてしまったから、多分傷口が開いてしまったのだと思う。いや、切り傷とかじゃないけど。それでも痛い事に変わりはない。

 

「そうは見えんぞ。いっその事、事情を話して私だけで行ってこようか?」

「心配しなくても大丈夫だよ…………これでも臨時の指揮官だったわけだから…………上官として仕事をしなきゃ…………」

 

隣を歩くラウラから凄く心配そうな目を向けられる。私より背が低いけど…………それでも、私より階級は明らかに上だ。階級章を見たら大尉から少佐に昇進してたんだもん。思わずそれを見た瞬間敬礼をしてしまったよ…………まぁ、松葉杖をついている状態でそれをしてしまったから、転びそうになってしまったけどね。

 

「そうか…………お前のような真っ直ぐさを他の奴らにも見習わせたいものだ」

「大袈裟だよ。私は、私に課せられた責任をなんとかしてこなしているだけで…………実際、しばらくの間は箒に指揮権を預けていたし」

「色々と大変だったんだな…………」

 

そう言ってラウラは何処か申し訳なさそうな顔をしていた。別にラウラがそんな表情をする必要はないのに…………。

 

「しかし、お前が万全な姿でいるのを見たのが初の顔合わせの時だけとはな…………こんなに負傷している者を見たことがないぞ」

「あうぅぅ…………」

「責めているわけではないんだがな…………」

 

実際、私の負傷率が一番高いという指揮官にあるまじき事態となっているのが現状だ。しかも、一週間はずっと寝ていたり、ずっと寝られなかったり、といろんなことがあったしね。

 

「どうやら、ようやく到着したみたいだぞ」

「うわぁ…………なにこの基地司令とかがいそうな部屋のドアは…………」

 

私たちの目の前には高級そうな木材でできている重厚な扉があった。どう見たってこれ、基地司令とかがその奥に鎮座しているような部屋の扉でしょ? 館山基地の場合、金属製の扉だけど、部屋の中から威厳溢れるオーラを感じるから武岡中将がいるのがわかるけどね。ただの木製ドアかと思ったら、横にカードリーダーが取り付けてあった。そこに私は学生証をスキャンさせると、扉が圧縮空気の抜ける音ともに開いた。…………レトロな感じに見せかけて、何気にハイテクなんだけど。

 

(まぁ、とりあえず行かないとなにも始まらないか…………)

 

そう思った私は、意を決して学園長室へと足を踏み入れたのだった。

 

 

「一年一組所属、紅城一夏、ただいま参りました」

「ドイツ軍少佐、ラウラ・ボーデヴィッヒ、同じく参りました」

 

学園長室へと入ったらそこには結構な数の教員が集まっていた。お姉ちゃんや山田先生だけでなく、まさかの生徒会長までもがこの場にいた。そして、私たちの対角線上にいる壮年の男性こそ学園長である轡木十蔵さんだ。元陸上自衛隊幕僚長とかっていう噂もあるけどどうなんだろうか…………。とはいえ、放たれているオーラは基地司令に近いレベルのものを感じるよ。

 

「よく来てくれたね、二人共。一先ずそこに座ってくれたまえ」

 

そのまま指示された通りに私とラウラは椅子へと座った。私は捻挫しているところをぶつけないように慎重に座り、机に松葉杖を立てかけた。ふぅ…………やっと座れた。松葉杖を使っているとどうしても疲れてしまうからね…………一ヶ月も使っていた時は本当に大変だったよ。まぁ、地面に捻挫した足をつけて歩くよりは全然いいけどね。あれは本当に痛いから…………ていうか、こんな状態でよく戦闘機動なんてできたものだよ。しかも、一番動きが激しいとかと言われるブルーイーグルでだし。

 

「特に紅城君、怪我人であるにも関わらず呼び出してすまなかったね」

「い、いえ…………」

 

学園長にまで心配される始末である。周りを見たらなんだかお姉ちゃんや山田先生、そして生徒会長までもが申し訳なさそうな顔をしていた。別にそんな顔にならなくてもいいのに…………見てるこっちが申し訳なくなってくるよ。

 

「では、本題に入るとしよう。本日の議題は他でもない、クラス対抗戦時に発生した襲撃についてだ」

 

学園長から告げられた言葉に部屋の空気は一気に重いものへと変わっていく。そりゃそうだよね…………だって、こんな平和かもしれないところが襲撃されたんだから。一ヶ月近く経った訳だけど、アントの出撃なんてなくて戦場とは別の世界のように感じていたよ。でも、その感覚は今日無理矢理戻された。私をはじめとする派遣部隊は実戦を経験したりしているから耐性ができていたけど、ここにいるのは実戦とか戦場とかとは無関係な民間人がほとんどだからね。ショックは大きいはずだ。

 

「第三アリーナに侵入した襲撃者は内部にいた織斑秋十及び更識簪両名の他、アリーナにいた生徒達には一切攻撃を加えずに停滞。避難完了と同時に攻撃を開始した——これで間違いないかね、織斑先生?」

「ええ、それで間違いはありません。紅城から避難完了の報告を受けた直後だったのでしっかりと覚えています」

 

言っていることは間違いなくあのフレズヴェルクタイプによる襲撃についてのことだろう。アリーナにいた人たちを避難させ終えた時にお姉ちゃんへ通信していたのを覚えている。その時に、フレズヴェルクタイプがベリルショット・ガンを向けてきたから窓を突き破って、あいつが侵入してきた時に開けた穴へと飛び込んだんだっけ。凡そは学園長が言っていることで間違いない。

 

「加えて、学園の北西方面でも戦闘が行われたと…………。詳しい説明を頼めるかね、紅城君」

 

今度は箒達が対応してくれた大隊規模のアントによる襲撃だ。学園長は私に説明しろと言ってきたけど…………私はほとんど戦況マップで確認しただけだし、どっちかと言ったらフレズヴェルクタイプと交戦していたから説明なんてできそうにないんだけど…………まぁ、機密情報扱いのものもあるし、その辺をぼかしてやらなきゃね。

 

「北東方面より侵攻してきた敵は大隊規模でした。これに対処すべく、篠ノ之箒以下四名及びラウラ・ボーデヴィッヒ少佐の支援による攻撃で全機撃破、殲滅しました。また、侵入者も同様に私が撃破しています」

「殲滅…………? 操縦者はいなかったのかい?」

「はい…………全機、無人機です」

 

無人機という単語に私達やお姉ちゃんを除くすべての人が驚いていた。まぁ、無理もないよね。私達はアントがすべて無人機である事を知っているから、何が無人化されても驚かないと思うけど、『ISは人が乗って初めて起動する』という固定観念を持っている人達からしたら誰だって驚くはずだ。

 

「ISの無人化ですって…………!?」

「どこの国がそんな技術を…………!?」

 

口々にそういうけど…………あれ、月面回路っていう人工知能らしいです。しかも、ISじゃなくてアントだし…………。なお、ISの無人化技術は未だに確立されていない模様。唯一できるのは束お姉ちゃんだけらしい…………まぁ、ISを一人で作ったり、フレームアームズを作ったりした人だから案外普通にやってそうで怖い。でも、こんな風に襲撃をしたりするような人でない事は確かだ。あの人、単に作って楽しむって部類だし。

 

「そうか…………わかった。座ってくれ」

 

そう言われて私は再び椅子へと腰を下ろした。ふぅ…………片足立ちっていうのはやっぱり疲れるよ。自分で再び足を痛めておいていうのもなんだけど、早く治ってほしいよ…………。

 

「今回の襲撃による被害の報告を頼む」

「は、はい。えっと、今回の襲撃において、第三アリーナの防護シールドは破損、システムにも異常が出ています。また、避難の際に隔壁のロックをすべて破壊しているので、そこも一応含みます。また、紅城さんが襲撃者を押さえ込む為に出た際に窓を破壊しちゃってますね」

 

私の名前が出た瞬間、こちらへと向けられる視線。あうぅぅ…………一斉に集まった多数の視線のせいで私は思わず縮こまってしまった。やっぱり、この視線に慣れるのだけはまだ無理だよ…………本当に慣れないんだって…………。

 

「続いて学園島北東方面での戦闘による被害を報告します。建物自体にはダメージはありませんが、地面が抉れたり、防風林の一部が焼けてしまっているので、修復のため一時この区画を閉鎖する必要があります」

「人的被害は?」

「避難時に転倒して軽傷を負った人が数名だけですので、人的被害はゼロに等しいです」

 

人的被害がなかったと聞いて胸をなでおろす私。よかった…………誰も命を落とすようなことにはならなかったんだ。守ることが主任務の私たちからしたら、それほど嬉しい情報はないよ。

 

「では、修理の手配を主計課に出しておいてもらえるかね?」

「わかりました。今日明日中には申請書を提出しておきます」

「任せたぞ。最後に、何か質問がある者はいるかね?」

 

学園長のその問いに対して挙手をする人がいた。お姉ちゃん達とは違うサイドにいる教師だ。

 

「学園長、紅城は侵入者を撃破したと言いました。つまり、強固なアリーナの防護シールドを突破するような機体と同等の戦闘能力を有していると考えられます。そのような危険な機体を一個人に預けておくのは些か危険だと考えます。すぐさま、機体をこちら側で預かるべきです!」

 

どうやらブルーイーグルが危険な機体だから、学園で管理するとかっていう話だ。確かに対フレズヴェルクを意識した機体だからかなり過剰なまでの攻撃力を有している事は否定しないよ。でも…………ふざけないでよ。あの子は私が託された機体なんだよ…………そう易々と渡せるようなものじゃない。それに…………あれは動く重要機密の塊。渡したら私が軍法会議にかけれられてしまう。

 

「それに関しては私から意見を言わせてもらおう」

「織斑先生…………」

 

そこに待ったをかけたのはお姉ちゃんだった。その威厳溢れる態度に皆の意識は飲まれていた。

 

「確かに紅城の扱うブルーイーグルは攻撃力の高い機体である事は否めん。だが、彼女は正規の訓練された兵士だ。反旗をひるがえすなどありえん。その時点で貴様のいう管理する意味がないと思うのだが?」

「ですが! 実際、紅城やその周りの人物と模擬戦を行なった機体は悉く中破あるいは大破してるんですよ!? 中には精神的にやられている者だって…………」

「だが、紅城達が模擬戦をした時は必ずといっていいほど模擬戦を申し込んできた側に非があると私は思っている。理由を聞く分にはどうしても紅城達が悪いようには思えん」

 

お姉ちゃんは一度息を吸うと再び言葉を続けた。

 

「それにだ、管理した後で万が一このような事態になった際、誰が乗るつもりだ。まさか貴様か? それならやめておけ。あのようなじゃじゃ馬は紅城のような練度の高いパイロットにしか扱えん。私も似た機体に搭乗したことがある。奴はパイロットを選ぶ機体だ、少なくとも貴様には扱えんよ」

 

お姉ちゃんに論破された教師は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。ていうか、ブルーイーグルの元であるゼルフィカールって、お姉ちゃんがそこまでいうほど操作が難しい機体だったの…………? あの時はがむしゃらだったからかもしれないけど…………初めて乗った時でも割と普通に扱えていたし…………もしかするとこっちでは操縦系統が違うのかな?

 

「——他にはあるかね?」

 

剣呑な雰囲気が漂っていたが、学園長の一言で一気に引き締まった雰囲気に変えられた。学園長の言葉に反応する人はいない。隣に座るラウラはずっと腕を組んで目を瞑ったままだ。てか、ラウラは一言も発していないんだけど…………一体どんな用で連れてこられたの? 本当疑問しか出てこないよ。

 

「それでは、今回の会議は終了としよう。では、各自解散してくれたまえ」

 

結局、話がどこへと落ちたのかわからないまま、会議は終了してしまったのだった。次々と教師達は学園長を後にしていく。学園長も奥の部屋へと引っ込んでいった。残ったのは私とラウラ、それにお姉ちゃんだけだ。え? 山田先生? なんだか書類を色々抱えてすぐに出ていっちゃったよ。

 

「ねぇ、ラウラ」

「なんだ?」

「ラウラって、なんでここに呼ばれたの? 全然話なんてしなかったんだけど…………」

「…………実を言うと私もわからん」

「えぇ〜…………」

 

衝撃の回答に私はそんな呆けた声しか出なかった。いや、だって本人がわからないんじゃ私だってわかるわけがないよ…………。

 

「——さて、ボーデヴィッヒ。貴様がこんなにも早く到着した件について説明を頼む。予定より一週間以上も早いぞ」

「戦闘行為が確認できた為、支援に来た次第であります、教官(・・)

 

ラウラの説明に思わず引っかかる単語が出て来た。あ、あれ…………? い、今、ラウラ…………お姉ちゃんの事を教官って呼んだよ、ね…………?

 

「あ、あの…………織斑先生…………その、教官って…………」

「ああ、前にドイツに借りを作ってしまってな。その時にボーデヴィッヒのいた部隊を少し指導しただけだ」

「私にとっては最高の教官だったのだ」

「その歳で少佐まで上り詰めたお前の方が凄いと私は思うがな」

 

結構知らないことが多すぎて頭が少しパンクしそうになった。いや、だってそうでしょ!? 自分のお姉ちゃんがドイツ軍で教官をしていたとか信じられないでしょ!? 完全に私は蚊帳の外のような気がするよ…………てか、周りの人たちが凄い功績を持っていすぎて辛い。

 

「ああ、それと一夏、一言言い忘れていた」

 

ラウラはおもむろにそんな事を言って来た。言い忘れていたって…………一体何を忘れていたの?

 

「紅城一夏中尉。現時刻をもって臨時指揮官の任を解除、以降は派遣部隊指揮官の私が引き継ぐ事になる。私が到着するまでの間、よく仕事をこなしてくれたな」

 

…………もしかして、ドイツから派遣される指揮官ってラウラの事だったの? それならなんでここにラウラがいるのかがわかった気がするよ。ラウラはドイツ軍特殊部隊隊長だから適任だろうしね。とはいえ…………別にラウラがいない間、私はちゃんと任務を遂行できたのかな…………。どっちかと言ったらみんなの足を引っ張ってしまったことの方が多いような気がするよ。

 

「了解しました。では、以降はよろしくお願いします、ボーデヴィッヒ少佐」

「以前と同じようにラウラで構わん。階級付は公の場だけでいい」

 

そう言って不敵な笑み浮かべてくるラウラを見て、やっぱり変わってないなぁってふと思った。そういえば初めて会った時も同じようなやり取りがあったような気がする。

 

「そこで着任式をしている二人、そろそろ寮に戻れ。ああ、ボーデヴィッヒの部屋も用意してある。鍵はこれだ」

 

咳払いをしたお姉ちゃんはラウラに向けて鍵を投げた。って、それ投げていいものなの? ラウラはそれを普通に片手で取っていたけどね。一応、部屋番号の書いてある棒みたいなやつ、強化アクリル製なんだけど…………痛くないのかな?

 

「感謝いたします。では、私は手続きがまだ残っていますので先に失礼します」

 

ラウラはそう言うと私たちに向かって敬礼をして学園長室を後にしていった。私も思わずそれにつられて敬礼をしてしまう。とはいえ松葉杖をついている状態でしているから、ものすごく体勢が辛いんだけどね。結局、最後まで残ったのは私とお姉ちゃんだけだった。

 

「それじゃ、私は先に出ていますね」

「まぁ待て」

 

私は先に部屋を出ようかとしたけど、それをお姉ちゃんに引き止められてしまった。

 

「どうかしたんですか?」

「いや、お前にちゃんと礼を言ってなかったと思ってな…………よく学園を守ってくれた。ありがとう、一夏(・・)

 

お姉ちゃんはそう言って私に柔らかな笑みを向けて来た。私のことを名前で呼んだってことは、もう公の場じゃないってことを意味しているのかもしれない。でも、どこで何を聞かれているのかわからないから、私は公私の公の態度を貫く事にするよ。その方が安全だからね。

 

「いえ…………私は自分の任務を果たしただけですよ、織斑先生。それに…………私よりもラウラの方が戦果をあげてますから…………私なんて大した事はしてません」

「謙遜するな。あいつを倒せるのはお前くらいしかいなかったんだ。…………軍人とはいえ、お前は私の生徒だ。教え子を戦いに駆り出させてしてすまなかった」

 

そう言ってお姉ちゃんは頭を下げて来た。…………本当、真面目すぎるよ。お姉ちゃんとしては私を戦場に送り出す事なんて心の中ではよくなんて思ってない事は私にだってわかっている。ましてやお姉ちゃんは教師としての立場にいる。お姉ちゃんの言う通り、自分の教え子が戦場に向かうのは、例えそれが仕方のない運命だとしても嫌なんだろうね。でも、私はお姉ちゃんに頭を下げてもらうために戦ったわけじゃない。お姉ちゃんの優しい笑顔を失わせたくなかったから、あのフレズヴェルクタイプを倒すべく戦場に自ら出たまでだ。

 

「気にしないでください。私は日本国防軍の軍人ですから。では、私も寮に戻りますね」

 

私はそう言ってその場を後にしようとした。それにしても松葉杖をついている状態で方向転換するのは全く慣れないよ…………あいかわらずの拙い動きで学園長室を後にしようとした時だった。

 

「一夏、ちょっと待て」

「織斑、先生…………?」

 

再びお姉ちゃんに呼び止められる私。いったい何事だと思って私は思わずその場に立ち止まった。すると、お姉ちゃんはおもむろに私の前にまで歩いて来て体勢を低くした。

 

「戦闘機動をして松葉杖をついて歩くのは大変だろう? 寮まで私が背負って連れて行こう」

 

えーと…………つまり、お姉ちゃんは私をおんぶして寮まで連れて行くっていってるの…………? 結構凄いことをさらりと言ってのけるお姉ちゃんが凄いと思ったけど、それ以上に羞恥の感情が湧き上がって来た。いやいやいやいや、おんぶ!? 私もう高校生だよ!? さすがにそんな子供みたいなことをして貰うわけにはいかないって!

 

「い、いえ! 自分で行けますから大丈夫です!」

 

そう言って一歩踏み出そうとした時、うまく力が入らなくて転倒しそうになった。あ、危ない…………今転んだら思いっきり頭を打ち付けていたよ。だけど、その様子を見ていたお姉ちゃんは私が虚勢を張っていたって事に気がつくなり苦笑していた。

 

「心配するな。今は全員自室待機中だ。外には誰もいないから見られる心配はない。それに、現役を引退した身とはいえ鍛練は怠っておらん。生徒一人を背負うくらいどうって事はないさ」

「で、ですが…………」

「遠慮するな。その疲れた身ではまた怪我を増やす事になるかもしれんぞ?」

 

完全に論破されてしまった。私には言い返す言葉がない。お姉ちゃんの言っていることは正論だからね…………それに、外には誰もいないって言ってるから、大丈夫かな…………?

 

「…………じゃ、お願いします…………」

「ふふっ、素直でよろしい」

 

私はお姉ちゃんの背中に自分の体を預けた。なんだろう…………ここ最近人肌が恋しくなっているのかわからないけど、お姉ちゃんに触れたらなんだかすごく暖かい気分になって来た。お姉ちゃんは私がしっかり掴まったことを確認すると、松葉杖を持って立ち上がった。

 

「それじゃ行くとするか」

 

私はお姉ちゃんの言葉に頷いて答えた。お姉ちゃんはそれを聞いて軽く微笑むと、そのまま学園長室を後にした。室外に出ると、本当に誰もいなくて、いつもなら賑やかな学園は少し不気味なくらい静かだった。私にはそれがいつもの戦闘の後にある一時の静寂のようにも感じられる。私にはそれがなんだか辛く思えた。

 

「…………ねぇ、お姉ちゃん(・・・・・)

 

思わず私はそう口に出していた。誰もいないからいいとどこか油断したところもあるのかもしれない。でも…………今だけなら別に問題ないかなって思っている自分もいるのは確かだ。

 

「どうした、一夏?」

 

お姉ちゃんは私が急にいつもの呼び方をした事に少し驚いたような感じだったけど、すぐにさっきまでの優しい感じに戻っていた。

 

「…………やっぱりお姉ちゃんはさ…………私が戦うのは嫌なのかなって…………」

「当たり前だ。お前は私の家族なんだぞ。誰が好き好んで家族に戦えなどと言えるものか」

 

お姉ちゃんはさも当然であるかのように答えて来た。まぁ、普通はそうだよね…………私もお姉ちゃんが自ら戦いに行くなんて言ったら絶対止めに入る気がする。

 

「だが…………私にお前の意思を止める権利などない。放任主義ではないが、お前はお前の自由にすればいいさ」

 

ただ怪我はあまりするなよ、心配で私は眠れなくなってしまうからな——そう言うお姉ちゃんはどこか笑っているような感じだ。まるで私の事だから不安になる事はないと言わんばかりに。それでいて、私の事を誰よりも気にかけていてくれているような気がした。

 

「そっか…………ありがと、お姉ちゃん」

「礼はいらん。しかしだ、お前は少し無茶をしすぎだろ。聞いたぞ、一度査問会送り覚悟で出撃したこともあったそうじゃないか」

 

…………一番知られてはいけない事を知られてしまった事に私は言葉を失ってしまった。って、それどこで知ったの!? 絶対知らないと思っていたのに…………。

 

「まさか普段は優しいお前が誰かに手を上げるなんて聞いて何があったと思ったが…………やっぱりお前はお前だった」

「それってどう言う意味…………?」

「仲間を思いやる事が出来る優しい奴って事だ」

 

そう言ってお姉ちゃんは軽く微笑えんだような気がする。背中からじゃ私にはお姉ちゃんの表情が見えないからね。でも…………お姉ちゃんにそう言ってもらえて、少し嬉しかった。

 

「それにしても、こうしてお前を背負っていると昔を思い出すな…………」

 

お姉ちゃんはふとそんな事を呟いていた。既に日はかなり傾いていて、少し暗くなり始めていた。

 

「お前や秋十が小学生の頃は、あのバカ()や箒、そして柳韻さん達と剣道をしたり、バカみたいにはしゃぎまくったりして…………疲れ果てて眠っていたお前をよく背負って帰っていたものだ」

 

そんな事があったんだ…………小学生の頃なんてほとんど覚えてないよ。

 

「まさかこの歳になってもお前を背負う事になるとは思わなかったがな」

「むぅ…………背負うって言って来たのはお姉ちゃんの方でしょ」

「それもそうだったな」

 

私の返答にお姉ちゃんは苦笑していた。自分で言っておきながら普通そう言うかなぁ…………。少しの間笑っていたお姉ちゃんはふと一息ついた。

 

「…………なぁ、一夏」

「なに、お姉ちゃん?」

「…………もう、あの頃のような日は来ないんだろうか? またバカをやれる日はくると思うか…………?」

 

お姉ちゃん口から出て来た言葉は、いつもの凜とした感じのものではなくどこか弱々しい感じのものだった。前にもこんな感じの声を聞いた気がする…………確か前に束お姉ちゃんとあった時、こんな感じの声音で話しかけられたんだっけ。でも、お姉ちゃんのこんな感じの声は初めて聞いた気がするよ。それにしても…………お姉ちゃんがそんな事を思っていたなんてね…………私は初めて知った。けど、私は…………それに対してはっきりとした答えを出す事は出来ない。

 

「…………ごめんお姉ちゃん。私には答えられないよ」

「そうか…………」

 

少し落胆した感じになってしまうお姉ちゃん。私が上手く答えられなかったのも大きいけど、この先の見えない戦争が続く限り、昔のような日々は帰って来ない。だから——

 

「——だから、私は戦うよ。その日々を取り戻すために」

 

もとよりそのつもりだからね。私はお姉ちゃんと秋十、そして弾の平和な日常を守りたい…………昔の平和な日々を取り戻すために戦う。それが私が私自身に課せた命令だ。

 

「…………そうか。だが、そこには必ずお前もいるんだぞ」

 

わかってるよ、と私はお姉ちゃんに返した。そのためにも私は強くならなくちゃ…………彼奴を——フレズヴェルク=アーテル・アナザーを倒すためにも、みんなを守るためにも。

 

(アナザー…………私はあなたに負けない。必ず私が討ち取るよ…………!)

 

そう決意を胸にした私はふと空を見上げた。いつの間にか出ていた一番星が私達を優しく照らしている。その時、青い流れ星が見えたような気がしたけど、気のせいだと思って特に気にも留めないでいたのだった。






今回はキャラ紹介及び機体解説は行いません。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。



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