FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
どうも紅椿の芽です。
今後は週一更新が基本となると思います。申し訳ありません。
そういえばアニメ『フレームアームズ・ガール』が始まりましたね。主としては次話もかなり期待しています。早く積んでいる轟雷ちゃんを組まねば…………。
では、現在の事情はこれまでにして、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。
「こ、のぉっ!!」
避難が完了したアリーナ内部で、私は目の前のフレズヴェルクタイプと交戦状態に入っていた。ベリルソードを振るうも紙一重で躱されてしまう。目の前の機体はフレズヴェルクと似通った特徴を持っているけど、肩にはブースターではなくベリルユニットの翼みたいなものが出ていて、全体的に生産性を上げたような、フレズヴェルクと比べてシンプルな外観になっている。だが、中身は同じようなものだ。両手に構えられたショートバレルのベリルウエポン——ベリルショット・ガンからは小さいながらも光弾が放たれてくる。それをなんとか躱すけど、依然として劣勢であることに変わりはない。
「これでも食らえ!!」
距離を取られてしまった私は左手のセグメントライフルを放った。電磁加速されたATCS弾が一直線にフレズヴェルクタイプへと突き進んでいく。当たれば一撃でTCSを突破可能だ。だが、向こうもその弾の特性を理解しているのか、その弾は回避されてしまった。未だにアリーナ内部にいる以上、ベリルバスターシールドの射撃形態とイオンレーザーカノンは使用できない。避難が完了したとはいえ、まだ通路には人が残っている。彼らを守る術であるアリーナを覆っている防護シールドをこれ以上破壊してしまうわけにはいかない。私はセグメントライフルを撃ち続ける。現在取れる最善の方法で対応してかなきゃ…………!
『————』
だが、向こうは私を嘲笑うかのように、弾丸を全て躱していく。その直後、反撃とばかりにベリルショット・ガンを再び放ってくる。私はそれをなんとか回避していくけど、一発が右肩のスラストアーマーを掠めていく。塗装されている部分が焼ける音が聞こえた。おまけに今のでアリーナ天蓋部防護シールドには大穴が開いてしまったようだ。
(まずい…………! このままじゃ、防護シールドが持たない…………! 崩壊したら、避難中のみんなは——ッ!!)
最悪の事態が脳裏をよぎった。そうなれば、ここが地獄と化すのは間違いない。でも…………そうならないために私達がここにいるんだ。こんなところで立ち止まってなんていられない。
『————』
再び攻撃を仕掛けてこようとするフレズヴェルクタイプ。TCSは完全なる壁として起動しているから触れることなんてできない。だが、攻撃時には一度TCSを解除する必要がある。ベリルウエポンで攻撃する際にTCSが干渉するからだとかなんとか…………つまり、攻撃のときこそ無防備になるってこと。そのタイミングを私は見計らう。
(今…………ッ!!)
放たれた光弾をギリギリで回避した私は武装を一度格納、急加速してフレズヴェルクタイプへと組み付き、武装を使われないように両腕を押さえ込んだ。急な加速で捻挫した足首が少し悲鳴をあげたけど、その痛みを忘れるために口の中を噛む。向こうは突然のことに反応できないでいるのか、TCSを再展開する気配がない。
「ここから…………出て行けぇぇぇぇぇ——ッ!!」
全てのフォトンブースターを最大出力にし、フレズヴェルクタイプを押さえ込んだ私はアリーナに開いた大穴から外へと飛び出した。向こうが暴れようが、イーグルユニットのスラスターまで全開にした私を押さえつけることなんて無理だ。一気に空域を離脱し、誰もいないと思われる海上へと抜けた。ここならいくら暴れても大丈夫だと思う。
「ふんッッッ!!」
『————!?』
私はフレズヴェルクタイプの両手をホールドした状態でそれのがら空きとなった胴体に蹴りを叩き込んで距離をとった。右足がダメでも、左足ならなんとでもなる。体をくの字に曲げて吹き飛んだフレズヴェルクタイプだが、直ぐに体勢を立て直して私に向かってくる。向こうはベリルショット・ガンの銃床の方を向けて斬りかかってきた。
「やらせるもんか!」
私はベリルソードを展開、それと切り結んだ。互いのTCSが干渉し合って、辺りにスパークが飛び散る。装甲がそれによって焼けるような音が聞こえてきた。だが、干渉波を受けて安定性が著しく低下したため、一度距離をとる。その間に空いている左手へイオンレーザーカノンを展開した。
「これはさっきのお返し!」
一条に高出力のイオンレーザーが放たれるが、その直線的な一撃は回避されてしまう。だが、それでも向こうの左足の膝から下を吹き飛ばした。
(でも…………これじゃ、埒があかない! 早くしないと、みんなが——!)
戦況マップに目をやれば、敵の増援を受けて苦戦しているように見える仲間の光点が表示されていた。部隊長なら、仲間を守るのは当然。一刻も早く、目の前の敵を倒して支援に行きたいのに…………! 試合用にとリミッターを掛けっぱなしにしていたのが仇となったようだ。せめて解除コードだけでも雪華に聞いとくべきだった。
(誰でもいい…………誰か、みんなに支援を! 私は…………誰も失いたくない…………ッ!!)
有効打を与えられないまま、時間が過ぎていくのがなんだか歯がゆくて仕方ない。思わず、誰かに助けて欲しいと、私は願ってしまった。そんな時だった。
『——こちらハーゼ01。これより戦闘領域に突入する。交戦中の各機は速やかに後退せよ』
◇◇◇
『こちらスレイヤー24、支援に感謝する!!』
返答の声を聞くに、余程切迫していた状況だったのだろう。それを聞いてまだ生存していることを認識した私は、どこか安心した気持ちになっていた。だが、それとは反対に、一刻も早い支援が必要である事を認識させられる。
「ならば一刻も早く後退してくれ。なるべく敵から距離を取ってな」
『ま、待ってくれ! そちらの機影が確認できないのだが…………今、何処にいるのだ!?』
見えないのも無理はない。私がいるのは高度四千メートルを航行中の輸送機の中だからな。生憎、私の機体で移動となってしまうと展開速度に難がある。無茶振りとはいえ、これくらいならどうとでもなる。
「悪いな、機長。無茶振りに付き合わせてしまった」
『こんな無茶な作戦なんて、お前さんでもなきゃ思いつかねえよ。降下タイミングはそっちに任せる。行ってきな』
「感謝する」
機長の言葉があった直後、ハッチが重々しい音を立てて開いていく。今回は突然の事のため、降下用パレットはない。精々後付けのパラシュートが無理矢理つけられているくらいだ。その程度でこの機体を減速できるかと言われたら否だ。だが、それもやってみなければわからん。何より、友軍の危機を救わずして何が軍人だ。
「機長、帰りは日本の空を楽しんで帰るといい。——ハーゼ01、降下する——ッ!!」
私はそのままハッチから飛び降りた。景色が異常な速さで移り変わっていく。だが、私にそんなものを気にしている暇などない。
「——
私の機体と私の体に埋め込まれたナノマシンを同調させた。これにより、地上の状況が急激にクリアになって伝わってくる。友軍と思わしき機体達は退避完了…………敵群は大体固まっている、か。
(敵の数は三十…………いや、四十か。ならば、一気に制圧してやる…………!!)
私は右手に
(まずは一つ!)
此方へと砲口を向けていたコボルドに向けて叢雲を放った。元は対艦対拠点用とされる重砲を無理矢理こいつに載せたような装備だ。コボルドのすぐそばを掠めただけにもかかわらず、奴の半身は消し飛んでいた。だが、それが原因となったか、ほとんどの機体が私に向けて銃口を向けてくる。そして、飛び交う銃弾や粒子ビーム達。腰部のブースターを使ってなんとか避けるが、何発かは私の機体へ着弾していく。それと同時に水蒸気が溢れ出てきた。これらは増加装甲のリアクティブアーマーに詰められていたジェルが蒸発したものだ。熱量兵器であるビーム兵器はこれでほぼ無効化された。それにだ、私に向かって放たれる銃弾も、こいつの前では痛くもかゆくもない。自由落下していった結果、現在高度九百メートル。時間はほとんど残されていないな。
「出し惜しみなどせん! 全弾、持って行くがいい!!」
叢雲のトリガーとリニアカノンのトリガーを引いた指はそこから動かさない。次々と放たれていく砲弾は敵の頭からつま先までを貫き、地面を穿っていく。後ほど修理費用の話とかが持ちかけられるかもしれないが、そんなことをいちいち気にしていたら戦闘に支障をきたす。轟音とともに大質量の砲弾が叢雲より放たれた。着弾時の衝撃波だけで付近にいた非装甲アントは砕け散る。リニアカノンも次々とアント共を駆逐していく。
(残存機体数は五つ…………五発もいらんな)
残ったヴァイスハイトやコボルド達に向けて叢雲とリニアカノンを放った。二機のコボルドはそこで撃破されるも、残った三機は私の方へと飛んでくる。チッ…………今のこの機体で空中戦など無理だ。ただでさえ危ういバランスでいるんだ、これ以上体勢を崩すわけにはいかない。
「さっさとカタをつけさせてもらう!」
リニアカノンを放ち、飛んで来た二機のコボルドをまず撃破した。だが、未だにヴァイスハイトは健在、右腕に構えたイオンブースターキャノンを放ってくる。またリアクティブアーマーの一つが弾け、水煙が発生した。しかしだ…………まだ私が負けたわけではない。リアクティブアーマーの下にある装甲にはダメージはない。
「ふんッ——!」
『————!?』
運悪く自由落下のコース上にいたヴァイスハイトは空中で私に蹴り飛ばされた。その衝撃で奴のイオンブースターキャノンは吹き飛び、体勢を大きく崩した。苦し紛れにビームオーヴガンを放ってくるも、体勢を崩しているが故に私の装甲表面を掠める程度だった。
「——こいつで終わりだ」
至近距離で叢雲のトリガーを引いた。対艦用の強力な砲弾が奴の胴体へと吸い込まれるように当たり、そのまま四肢を飛び散らせたのだった。残りは…………もういないか。周辺に敵性反応無し、殲滅は完了したといったところだな。
「——パラシュート、展開」
背部に無理矢理取り付けておいた三基のパラシュートパックが展開、落下速度に急減速をかける。だが、それでもこの鉄塊が落ちる速度はまだロクに落ちてはいない。腰のショックブースターを全開にしてさらに制動をかける。あいも変わらず馬鹿みたいに重い機体だ…………もう、こんなマネはあまり経験したくはないな。全ての推進剤を使い切って、ようやく私は地面に足をつけることができた。低高度での降下作戦は何度もやったことがあるが、高高度となるとまた勝手が違うものだな…………。
(だが…………こいつのおかげで助かったようなものだな)
私は未だに装備したままの叢雲へと目を向けた。馬鹿みたいに重い私の機体に、さらに重い対艦兵器まで持たされたわけだが…………この装備があったから私は彼らを守れたのかもしれない。私の視線の先には、傷付きながらも生き延びた戦士の姿があったのだった。
◇◇◇
(ハーゼ01って…………もしかして!!)
さっきの通信で聞こえて来たコールサインは私に聞き覚えのあるものだった。人員が変わってないのなら、支援に来たのはおそらく彼女だ。なら、心配する必要はないかな…………多分、大丈夫だ。
『————!』
「くうっ…………!!」
だが、未だに私は劣勢を強いられている。ベリルソードで切り結ぶが、こっちの出力が足りてないせいで、押され気味だ。
「こいつッ!!」
一度距離をとってセグメントライフルを展開、数回トリガーを引いた。放った四発の弾のうち一発は左肩を掠めたが、致命傷にはなっていない。しかも、向こうから返礼とばかりに光弾が飛来してくる。イーグルユニットを全開にして回避して行くけど、全部ギリギリでの回避だ。外へと出したのはいいが、そのせいで向こうの機動力を存分に発揮させてしまう結果になったような気がする。でも…………どんなに劣勢だって、私は諦めるわけにはいかない…………!
「くうっ…………お前なんかに——ッ!!」
放たれる機関砲弾を躱し、一旦セグメントライフルを格納しイオンレーザーソードを引き抜いた。強烈な熱量を誇るその武装でも、フレズヴェルクタイプにダメージは与えられていない。流石にTCSは貫通できないか…………。そのままベリルソードを振るうが、やはり受け止められてしまった。せめて、これさえ突破できるなら…………! 互いに一歩も引かない状況に陥っていた、その時だった。
『一夏! 聞こえてる!?』
「雪華!?」
雪華からの緊急通信が入って来た。その声には焦りが含まれているような感じだった。
『今からブルーイーグルのリミッター解除コードを教えるから! それを入力して!』
「入力!? この状況じゃ、外部アクセスでの入力はできないよ!」
放たれた光弾を避けつつ、セグメントライフルを放っている時に雪華にそう言われて、私は混乱していた。だって、リミッターを設けた時、外部アクセスで入力していたから、そうじゃなきゃできないはず。それを今しろだなんて…………自殺行為にも等しい。何より、海上に出かけている今、そんなことは無理だ。
『ボイスコマンドでの入力が可能だから! 外部アクセスは必要ないよ!』
ボイスコマンドでの入力が可能と聞いて、私には希望が見えて来た。それなら問題ない。なら、やるしかない。この状況を打開できるのはそれだけだ。
『解除コードは、[
「——了解ッ! コード[Brute Eagle]——!!」
そのボイスコマンドを入力した瞬間、[LIMITER RELEASE]の表示とともに、蒼い翼を模したアイコンが一瞬視界に映った。その直後、ベリルソードなどの武装の出力が本来の値まで伸びていくのが
「これなら…………ッ!!」
私はそのままベリルソードを押し込んだ。次第に強さを増していくスパークだけど、ある瞬間、スパークは消え去った。同時に、向こうのベリルショット・ガンにベリルソードの刃が食い込んでいく。そのまま、私はベリルソードを振り抜いた。金属を切り裂く音が聞こえたと思ったら、向こうの左肘から下を切り落としていた。
『————!?』
フレズヴェルクタイプはそれを脅威と感じたのか、胸部ガンポッドによる牽制射撃をして私から大きく距離を取る。あまりにも近距離で放たれたため、私は咄嗟にベリルバスターシールドを展開、TCSによる防御を行った。見えない壁に阻まれているかのように、銃弾は私の元には届かない。これがTCS…………シールドとして使ったことは少ないけど、こんなあまりにも強すぎる盾をフレズヴェルクとかは持っているんだ…………文字通り、見えない壁だよ。
『————!』
距離を詰めようと接近するも、向こうから幾多もの光弾が放たれてきた。TCSは互いに干渉する性質があるから、ベリルバスターシールドによる防御はできない。一度海面付近まで飛んだ私の後ろへと光弾は着弾していく。膨大な熱量を持った光弾は海水を蒸発させて、盛大な水煙を上げる。でも、これでいい。どうやら光弾は水蒸気とかが立ち込めている場所ではその威力が減衰してしまうそうだ。気休め程度だけど、水が盾の役目を果たしてくれているのだ。
「こっちだって…………!!」
私はベリルバスターシールドを射撃形態へ移行させる。この姿にするとTCSは解除されてしまうが、今はどのみち使えないから問題ない。砲口から規則的に蒼い光弾がフレズヴェルクタイプへと放たれていった。だが向こうも流石にこれはまずいと判断したのか、回避して攻撃の手を緩め、隙を見せてきた。これ以上長引かせるわけにはいかない…………ここでケリをつける——ッ!
「せやぁぁぁぁっ!!」
全身のフォトンブースターとスラストアーマー、そしてイーグルユニットを全開にしてフレズヴェルクタイプへと突っ込んでいく。強烈なGが全身を襲ってブラックアウトしそうになるけど、パイロットスーツ越しに注射された薬物のおかげで正常を保てた。向こうはベリルショット・ガンとガンポッドをやたらめったらに撃って、私の進路を阻もうとしているけど…………その程度じゃ私は止められないよ。初めてこの子で実戦に出た時は四方八方から銃撃されたからね。さっきまでやられていた分、きっちりと返させてもらうよ!
「こいつでぇぇぇぇぇっ!!」
クロー形態にしたベリルバスターシールドを突き出し、フレズヴェルクタイプへと突っ込んだ。砲口をこちらに向けていたようだけど、クローがフレズヴェルクタイプを押さえ込んだ時に向こうの得物は海面へと落ちていった。ハサミのように閉じていくクローの中でフレズヴェルクタイプはもがいているけど、もう逃げられない。メキメキと音を立てて向こうの機体が悲鳴をあげていた。TCSが干渉しているせいで、こちらの攻撃力が下がっているのかもしれない。
『———!?!?!?』
「——終わり、だよ…………ッ!」
クローが完全に閉じきるのと同じくして、フレズヴェルクタイプは胴体を引き裂かれた。歪な形に切り裂かれたその残骸は海面へと落下していった。やっと倒した…………これで目の前の敵は片付いたはず…………。戦況マップを確認すると、すべてのアントは排除されたようだ。となると…………これで状況終了かな…………長い戦いだった気がするよ。単騎でフレズヴェルクとやりあうのは初めてだったからね…………なんだか疲れちゃったよ。
『こちらハーゼ01、敵アント群は殲滅完了だ』
『スレイヤー24よりグランドスラム04へ。友軍機は損傷の大小があれど全機健在』
『グランドスラム04へ。生徒たちへの被害はほぼ無しだ。避難中に転んで擦り傷を負ったものもいるようだが、重傷者はいないぞ』
次々と入ってくる情報を聞いて、どこか安堵した気持ちになる。よかった…………誰も命を落とすようなことにはならなかったんだ…………というか、いつの間にか私に指揮権が来ているような気がするんだけど。
「ハーゼ01——いや、ラウラ、支援ありがとうね。おかげでみんな助かったよ」
『はっはっは。羽田に着いたと思いきや、戦闘行動が始まっていたからな。居ても立っても居られなくてな、輸送機からダイブして戦線に参加したまでだ。輸送部隊に無理を言って来た甲斐があったというものだな』
何という無茶をしているんだか…………でも、その無茶のおかげで助けられたのは間違いない事実だ。それがなかったら、今頃みんなは物量にすり潰されていたに違いない。
『では、合流地点でまた会おう。座標はそちらに送っておいたぞ』
「了解だよ。それじゃ私も帰投——」
合流地点に向かおうとした時だった。私の耳にはあの聞いたことのある風切り音が入って来た。間違いない…………この音、絶対に彼奴の音だ。その直後に鳴り響く照準警報。風切り音に加えて推進器の音も聞こえてくる。予想は確信へと変わった。
「ッ——!!」
背後を振り向いた私は構えていたベリルソードを振り抜いた。同時に発生するスパーク。突き出されていたのはグレイブ形態となっている大鎌——ベリルスマッシャー。そして、それを構えているのは
『ホゥ…………量産型トハイエ、フレズヴェルクヲ倒シタダケハアルナ』
白い装甲に青いクリスタルユニット、そして右肩にある紫色の羽根を模したマーキングが特徴的な機体——フレズヴェルク=アーテルだった。なんでこんな時に…………こっちは病み上がりでもう体力が持たないってのに…………!
『どうした一夏!? 何があった!?』
「アーテルと会敵! 現在交戦中!」
どうやら、私を示す光点が急に交戦状態に入った事にレーアは驚いてしまったようだ。だが、私もそっちに意識をさける余裕はない。目の前には単純に危険な相手がいるんだから…………そっちに集中しないと…………!
『支援は必要か!? いつでも私達はやれるぞ!』
「機体の損傷度を考えたらそんな事は無理でしょ! ラウラはともかく、もう他のみんなは戦闘不可能だよ…………あとは通信を切るから! 指揮は箒に聞いておいて! それじゃ、また後で!」
『お、おい! 待て、いち——』
私はそう言って通信を切った。既に一度距離をとって互いに睨み合うような状態に入っていた。どのみち、アーテルの相手をまともにできるのは私の機体くらいだし、それにこれ以上負担をかけるわけにはいかない。ただでさえ大隊規模を相手にとった後なんだから…………機体の損傷度を考えたら戦線から下げるしかない。
『ソノ程度デハ無イダロウ…………貴様ノ力、モット私ニ見セルガイイ』
「くうっ…………!」
再び振るわれたベリルスマッシャーを受け止める私。今度はグレイブではなくアックス形態となっていて、一撃が重くなったような感じがする。でも…………私だって負けてなんていられない!
「至近距離なら…………!」
私はイオンレーザーソードを左太腿から振り抜いた。だが、手応えは全く感じられない。その瞬間、背中に嫌な汗が流れ落ちた。同時に鳴り響く照準警報と表示される攻撃予測方向。
『ヤハリ、私ガ見込ンダダケノ事ハアル』
アーテルは既に私の背後へと回り込んでおり、その言葉とともに今度は大鎌に変形させたベリルスマッシャーを振り下ろして来た。私はそれを一気に海面へと向けて降下する事でギリギリ回避する。大鎌はその圧倒的な攻撃範囲を誇るが、その分取り回しに難があるって話を聞いていたけど…………目の前の敵はそんな事はないように自分の手足のように取り扱っている。しかも、二振りも装備しているんだから…………隙のない装備だよ。
「見込んだだけの事があるって…………それってどういう事!?」
『言葉通リノ意味ダ。貴様ナラ、コノ私ヲ楽シマセテクレルト思ッタマデダ』
「きゃあぁぁぁぁっ!」
振るわれた大鎌をベリルソードで受け止めたけど、その直後にもう一本の柄ではたき飛ばされた。なんとか体勢を直したけど、目の前にはあのアーテルが迫って来ている。私は一度急上昇をした。直後、私のいたところをグレイブが切り裂いていった。あ、危なかった…………直感を信じて動いてよかったよ。
「せやぁぁぁぁっ!!」
反撃とばかりに私はベリルソードを大きく振りかぶった。向こうは攻撃後の体勢を立て直すのにまだ少し時間がかかっている。これなら…………いける!
『ソウダ…………ソウデナケレバ、アノフレズヴェルクヲ送リ込ンダ意味ガ無イ』
「なんだって…………!? あなたが、彼奴をこっちに送り込んだの!?」
『貴様ノ実力ヲ測ル為ニナ。無論、貴様以外ノ者ニ危害加エルツモリナド無イ』
「勝手に乱入して来て…………その言い草ってある!? あなたのせいでどれだけ多くの人が危険にさらされたのか…………わかってるの!?」
『私ニハ関係ノ無イ話ダ』
上体を反らして振るわれたグレイブをギリギリで躱す。同時に左手に展開したセグメントライフルを撃った。リニアレールによって加速された弾はアーテルの肩を掠めただけだった。
「あなたには関係なくても、私には関係あるんだよ! 私は市民を守る国防軍人なんだからっ!」
ベリルソードを振るってアーテルから距離を取った。すぐさまグレイブとアックスが振るわれてくるけど、なんとか躱し切って再びセグメントライフルを放つ。装填されている弾がATCS弾である事を知ってなのか、その一撃一撃を向こうも躱していく。
『例エソレガ貴様ヲ認メヌ者達デアッテモカ?』
アーテルの言葉に一瞬私は戸惑ってしまった。確かに私達は世間一般的に蔑まれたりしているけど…………それでも、彼らだって守らなきゃいけない。何より、秋十やお姉ちゃんが生きる世界を守りたいんだから…………。
『答エハ言ワナクテモイイ。——潮時、ダナ』
ベリルソードと斬りむすんでいたベリルスマッシャーを大袈裟に振るうアーテル。私は再び距離を取った。その間にアーテルはベリルスマッシャーを両大腿部のウエポンラックに携えていた。
『今回ハ此処マデダ。中々ニ楽シマセテ貰ッタ』
今のアーテルからは交戦する意思は感じられない。それにアーテルの声は何処か喜んでいるような感じにも取れる。だが、次にどんな行動を取ってくるのかわからない。私はベリルソードを正面に構えて、何が起きてもいいようにした。それにしてもわからない…………急に攻撃を仕掛けて来たと思ったら、こんな風に撤退をしようとしている。アーテルの考えている事が私には理解できなかった。
「あなたは…………一体何がしたいの…………」
自然と口からそんな言葉が出ていた。私に背を向けていたアーテルはふと私の方へと頭を向けて来た。
『私ハタダ戦イヲ楽シミタイダケダ。貴様ガイル限リ、私ハ何度デモ貴様ト戦ウ』
今のアーテルがもし人間と同じように顔を持っていたのなら、酷く悪意に満ちた笑みを浮かべているのかもしれない。だけど…………これ以上の戦闘継続は私の身体的に厳しい。ベリルソードを正眼に構えていても、攻撃を仕掛けるという思考はなかった。
そんな時、私に向き直ったアーテルは何を思ったのか携えていたベリルスマッシャーの一本を取り出し、私へとその切っ先を向けて来た。
『私ハ[NSG-X2AN フレズヴェルク=アーテル・アナザー]。コノ風切音ガ聞コエタ時ガ貴様ノ最後ダ』
思わずアーテルの威圧感に飲まれてしまいそうになる。けど…………こんなところで私は引くわけにはいかない。
「紅城一夏…………あなたを討ち倒す者の名前だよ…………!」
口ではそんな事を言っているけど、構えているベリルソードの切っ先は小刻みに震えている。目の前に存在している魔鳥の恐怖が私の身体を少し支配していた。
『フッ…………次ニ会ウ時ヲ楽シミニシテイル、紅城一夏』
そう言い残してアーテルは何処かへと飛び去っていった。追撃する気力は残ってない。展開していた武装を全て格納した私は一度合流地点に向かうことにしたのだった。
「——グランドスラム04より各機へ。状況終了、これより合流地点へ向かう」
キャラ紹介
フレズヴェルク=アーテル・アナザー(cv.渕上舞)
形式番号はNSG-X2AN。ドイツにおける前線基地攻略戦において一夏に重傷を負わせ、その後も何度か一夏の前に立って来た。しかし、現時点で一夏の前に立ちはだかる理由は不明。
本来のNSG-X2 フレズヴェルク=アーテルとは違い、白色部はパールホワイトに塗装されており、右肩には紫色の羽根を模したマーキングが施されている。
今回はアーテルの紹介となりました(機体ではなくキャラ扱いですが)。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。