FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

23 / 46
提督ニート様、評価をしてくださりありがとうございます。


お久しぶりです、紅椿の芽です。
無事に大学に入学できました。
今後、更新間隔が延びる可能性が高くなります。申し訳ありません。

では、前書きはこの辺にして、今回も生暖かい芽でよろしくお願いします。






Chapter.23

あれから私の体調はみるみる良くなっていった。悪夢にうなされる事は無くなったし、手の震えも治まった。ご飯も時間はかかったけど、普通に食べられるようになったしね。体は健康そのもの。とはいえ、右足首の捻挫に加えてまだ数箇所の打撲が治ってない。そんなわけで、実技とかも見学だし、松葉杖をついて移動しなきゃならなくなった。なんだか、前にもこんなことがあった気がするよ…………。おかげで、部隊の指揮は箒に一任、フレームアームズへの搭乗はほぼ厳禁、おまけに移動時には誰か一名の同伴が必須と…………前の二つはわかるんだけどさ、最後のは何? そんなに私が子供っぽく見えるの? まぁ、一人でいたから襲われたっていうのはあるし、補助という意味合いでも必要なんだろうけどさぁ…………言われてるこっちからしたら、子供扱いもいいところだよ。しかも、最後のは怪我が治ってからも続くらしいし。もし怪我が治っても、用をたす時に付き添われているところを見られたりでもしたら…………『一人でトイレにも行けない残念軍人』という不名誉な称号がついてしまいそうだ。それだけはなんとしてでも避けなきゃ…………!

とまぁ、いろいろあったわけだけど、いつの間にか四月も末。桜は散って若葉へと姿を変えている。いろんな意味で激動の四月だったよ…………部隊を派遣する事は決まるし、臨時の指揮官にはなるし、こっちにやって来て早々に決闘を申し込まれるし、ボコボコにされてベッドの上で一週間以上過ごしたし…………もう、なんなの? 私に何か恨みがあるんじゃないかってくらい、嫌なことがこっちに来てから起きてるんだけど。この先も色々と起きそうで嫌だなぁ…………とか言っても、今後どうなるかなんてわからないし、とりあえず備えておくかなくらいのレベルでしかできないんだけどね。

話が逸れたけど、IS学園にとって四月の末っていうのはある意味一歩を踏み出す時になるんだよ。今日、行われているクラス対抗戦は、クラス代表だけになっちゃうけど、一年生にとっては初の公式戦となる。スポーツとしてのISに公の場で初めて足を踏み入れることになるのだ。まぁ、それ以上に優勝商品である食堂のデザート半年フリーパスが目当てであるんだろうけど。私もアリーナに来て観戦する予定なんだけどさ…………周りの声の中にフリーパスの声も混じってるんだよね…………確かに商品は欲しいけど、それ以上に普通に応援してあげてよ!

 

「それにしても、随分と熱気がすごい事で…………」

「仕方ないだろう。女というのは甘いものに目がないそうだからな。目の前にフリーパスなどという餌をぶら下げられたら食いつくに決まっている」

 

周りの熱気に当てられて、ちょっとのぼせかかっている私の横に座っているのはレーア。本人は、私にはわからん、と言ってまるで興味がないように話す。…………男前すぎでしょ。

 

「それよりも、試合はまだなのか? 私はそっちの方が気になって仕方ないぞ」

「もう少しで始まるから、それまでの辛抱だよ」

 

レーアは、試合が始まるのを今か今かと待っているようだ。初戦は一組対四組。最初から専用機持ち同士の対戦となる。四組の方はよくわからないけど、噂では中距離から遠距離が戦闘領域とかって聞いてる。一方の一組…………秋十の白式は雪片一振りというアホみたいな近接特化型。近く前に蜂の巣にでもされるんじゃないのかと思ってしまう。だから、箒やセシリア、それにレーアが秋十の特訓に付き合ってくれたとの事。まぁ、こっちは模擬弾を使用したらしいけどね。下手したら私がやったみたいに無残な姿へと変えてしまう可能性がある。なお、鈴は他クラスのため特訓には参加せず、雪華とエイミーは私の看病に付きっ切りだった。前者はともかく後者は…………本当にごめん。

 

「それはそうだが、私達が鍛えたあいつがどこまでやれるか…………訓練担当官として気にならないわけがないだろう?」

「それはそうかもしれないね。で、訓練の時の秋十はどうだった?」

「見てからのお楽しみ、と言ったところだ。言っておくが、射撃は伸びなかったぞ」

「まぁ…………うん。大体予想はできたよ」

 

レーアは思わせぶりに言ってくる。どうやら相当秋十の成長に自信があるようだ。とはいえ、あの近接ブレード一本しかないような、ある意味気の狂った機体を扱わせるって…………初心者への対応が鬼すぎるよね。射撃武装の一つくらいあっても良かったと思ったけど…………射撃が伸びなかったって言われたから、あっても無理か。どういう訓練を秋十にさせたのか気になる。そういえば、お姉ちゃんも射撃はダメだって言ってたっけ…………なんで私は普通に撃って当たるのに、上と下は撃っても碌に当たらないの? 私がおかしいのかな…………?

 

『さぁぁぁて! 始まりました、クラス対抗戦! 放送はこの私、新聞部部長の黛薫子がお送りします!』

 

そんな時、クラス対抗戦の開幕を知らせる放送が流れた。てか、秋十のクラス代表就任パーティの時、私にインタビューしてきたあの人が放送担当なんだ…………なんとなく心配になってくる。だって、インタビューの結果を一部捏造するという事を平然とやろうとしていたからね…………そんなことがない事を私は祈る。

 

『では、第一試合のコール!! 世界初! 純白の翼を広げ、舞い飛ぶ騎士! 一組代表、織斑秋十ォォォォォッ!!』

 

そのアナウンスと共に秋十はピットゲートより飛び出してきた。飛んでいる姿勢は私と模擬戦をした時より格段によくなっている。…………相当レーアに扱かれたんだろうなぁ…………。てか、舞い飛ぶ騎士って何? どっちかというと、秋十は箒と同じ武士に近いと思うんだけど。

 

『対するのは! 生徒会長が愛でる、日本の移動弾薬庫! 四組代表、更識簪ィィィィィッ!!』

 

今度ピットゲートより飛び出してきたのは、鈍色の装甲が特徴的な機体を纏った少女——更識簪だった。一応私も少し面識はある。色々立ち直った時に秋十から紹介された。使っている機体は打鉄弐式といい、打鉄の装甲を削り、機動性向上と火力強化を図った機体だそうだ。というか通り名が…………移動弾薬庫って…………。

 

「移動弾薬庫なら私の隣にもいるのだがな。それも、一人で焼け野原を作れるレベルのやつがな」

「…………それ、私の事言ってる? まぁ、確かに中隊名からして一掃とかは得意だけど…………焼け野原は誇張表現だよ」

 

そう言ってレーアは軽く笑いかけてくる。まぁ、榴雷にはかなりの砲弾やらミサイルを詰め込んでいるけど、全部投射したって、焼け野原にするにはまだ足りないよ。それに、弾薬庫みたいに直撃を受けてすぐ爆発なんて事はないし。そこまで榴雷はヤワじゃない。

 

「尤も、お前を相手にした場合、武装要塞を相手にとるようなものだがな。既に学園中のあちこちで畏怖されているぞ」

「私、そこまでの事をした記憶がないんだけど…………普通に模擬戦しただけだし」

「私たちにとっては普通じゃないんだな、これが」

 

むぅ…………なんか私が常識外の事をしたように言われたような気がするよ。ジト目でレーアを見たけど、彼女はどこ吹く風といった感じだ。

 

「まぁ、そうむくれているな。そろそろ試合が始まるぞ」

 

レーアにそう言われて私は一度ため息をついてからアリーナの中央で向かい合っている二人へ目を向けたのだった。

 

◇◇◇

 

「まさか一回戦から当たるとか思ってもいなかったぜ」

「こっちも。こんなにも早くぶつかるなんてね」

 

現在、俺——秋十——と簪はアリーナの中央で向かい合っている。簪の纏う打鉄弐式にはこの白式と違って多数の射撃武装が搭載されているとか…………羨ましいと思ったが、即座に訓練で弾がほとんど当たらなかった事を思い出す。ていうか、そもそもで俺自身、射撃なんてものは苦手だ。射的なんてやろうものなら全弾外すくらいの自信がある。逆に一夏姉なら結構当てるんだけどな。

しかしだ、射撃武装がないって事は牽制ができないってレーアに言われた。つまり、突撃しようものなら相手は恐ろしい勢いで遠距離攻撃を叩き込んでくるという…………いかん、本気でこれは死ぬ。それに簪の事だ、近接攻撃なんて賭けに出ず、遠距離から一気にやってくるに違いない。…………嬲り殺しどころか、蹂躙されそうなんだが。いつぞやの一夏姉がやった時みたいに。

まぁ、始まってもいない試合に悲観する事はないか。俺は箒やセシリア、そしてレーアに散々色々叩き込まれてきたんだ。技術に知識に根性に精神論…………ありとあらゆるものを叩き込まれた。これだけ手助けしてもらったんだ、悲観なんてする事はない。

カウントダウンが始まり、試合開始まで本当に残りわずかってところだ。緊張して汗が至る所から出てくるが…………それ以上になんか高揚感がやってきていた。多分、試合に対して俺自身が興奮しているんだと思う。簪がどんな手を使ってくるのか…………俺はそれに対して戦うのかを考えただけでワクワクしてきた。

 

「ねぇ、秋十」

「なんだ、簪」

「全力でいくからね」

「それはこっちのセリフだ」

 

簪もまたこの試合を楽しみにしているようだ。その証拠に少し口角がつり上がっている。普段のおどおどしたような様子からは全くもって想像できない。よく小動物っぽいって言われると本人は言っていたが、目の前にいるのはその小動物の中でもかなり獰猛な種類のやつだと思う。それを見た俺もまた、自然と口角がつり上がった。

 

『試合開始ッ!!』

 

その号令とともに俺は一気に駆け出した。生憎、俺の機体に射撃武装なんてものはついてない。牽制できないから、相手が全力で弾幕張ってくるのはわかっている…………けど、そこで怯むわけにはいかない。こっちが撃てないなら…………撃たれる前に一気に近づくしかない。

 

「真っ直ぐすぎるのは、致命的だよっ!」

 

簪は突っ込んでくる俺に向かってビーム砲を撃ってきた。桃色のビームは俺の横ギリギリを掠めていく。シールドは作用してないが…………くっそ怖え…………。続いて二発目がやってくるが、俺は少し大袈裟に回避する。いや、誰だってあんなものに近づきたくはないわ。

 

(荷電粒子砲…………マジでか。あいつ、赤い恐竜(ジェノブ○イカー)とかが持ってるあの武装が付いてんのかよ…………)

 

白式から解析データを見せられて思わず内心ビビった。若干漫画の方のイメージが入っているかもしれないが、それでも十分恐ろしい武器だ。加えて白式は紙装甲との事…………当たりたくねえ。

 

「よく避けるね! でも、これならどう?」

 

距離を離された俺に簪は躊躇いなくミサイルを放ってきた。その数、およそ八発。普通の人ならビビるかもしれない。俺も前の俺だったらビビってる。けど、その程度の数は…………何度も見てきたんだよ!!

 

「そうらぁぁぁぁっ!!」

 

当たりそうな二発のミサイルを俺は切り落とした。その爆発に巻き込まれて残りのミサイルも誘爆していく。物理刀状態の雪片でもかなりの切断力だ。

 

「この程度のミサイルは、生憎散々見たんだよ!!」

 

一夏姉の模擬戦の映像を見させられて、あの暴力的な弾幕を何時間も連続して見させられて、それを模したとかっていうシミュレーションデータで訓練させられたりしたら、否が応でも避けられるようになる。爆風を受けてか少しシールドエネルギーが減らされてしまったが、この程度ならかすり傷だ。

 

「どんな訓練をしたらミサイルの群れに慣れちゃうの!?」

「さっきの五倍近くのミサイルや砲弾の映像を見させられたらこうなるわ!」

 

ミサイルを撃墜させられて動揺した簪に向けてさらに加速させた。ここまで近づければ、十分なんだよ…………っ!!

 

「ぜらぁぁぁぁっ!!」

 

俺は一気に雪片を振り抜いた。その瞬間だけ、雪片のレーザー刀身を展開する。雪片の特性でもあるバリア無効化攻撃は確かに強力なものだが、あまりにも強力すぎる為シールドエネルギーを消費するという、いわば諸刃の剣。常に展開しっぱなしでいたら、俺が自滅してしまう。それを避けるべく、箒から居合切りの要領で教えられたんだが…………

 

『だからな、これをこうするんだ』

 

…………目の前で銃が一瞬にしてレーザーソードに変わるようなものを見せられては、見て学ぶのも辛かったわ。まぁ、おかげでこんな芸当もできるようになったんだけどな。

俺は敢えて装甲のある部分を狙った。バリア無効化は絶対防御にまで及ぶことがあるそうで…………そんなものを生身が殆ど出ているところに振るってしまえは大惨事に繋がると教えられた。だからたとえ突破したとしても、装甲で覆われている部分ならギリギリ防御してくれると判断したまでだ。

 

「くっ…………! まだ一ヶ月も触ってないのに、ここまで…………!」

「うおっ!? 危ねえ!?」

 

だが、簪はその手に薙刀を展開して俺の一撃を防いでいた。しかも一瞬動きが止まったのを狙って、また荷電粒子砲を撃ってくる。俺は大きく距離をとったが、今度のはウィングスラスターを掠めていった。シールドエネルギーも削られている。

 

「かなりの強敵だね…………秋十」

「お前に言われても嫌味にしか聞こえてこねえよ…………」

 

不敵な笑みを浮かべでこちらに顔を向けてくる簪がやけに大きく見えた。一合でわかる…………あれは小動物の皮を被った猛獣だ。今の俺には明らかに荷が重すぎる相手…………だが、だからって引く理由にはならない。そう思うと、雪片を握る手に力が入った。

 

「素直な評価なんだけどね。一ヶ月も経たないうちにここまで強くなっているんだから。——だから、一気に決める!」

 

簪はそう宣言すると右手に構えた薙刀の切っ先を俺に向けて一気に突っ込んできた。その動きは俺のやったそれと非常に似ているが、唯一違う点がある。向こうは左手に構えている荷電粒子砲を撃って牽制してきてるんだ。着弾と同時に舞い上がる土煙が俺の視界を妨げる。煙幕みたいなものか…………! 俺はそこから抜け出す為に、簪に向けて突撃を敢行する。向こうが突っ込んでくるなら、こっちも突っ込んで攻撃可能な距離まで近づいてやる。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

距離を縮めた俺は再び雪片を振るった。距離としては問題ない。そして、振り抜く直前に何か手応えを感じた。多分、今のがシールドバリアを切り裂く手応えなのかもしれない。前回一夏姉には一撃もいれられなかったから、初めての感覚だ。

 

「…………お返しっ!」

「ぐっ…………!」

 

反撃とばかりに簪も薙刀を振るってきた。俺はそれを雪片で受け止めるが…………伝わってくる衝撃を殺しきれずに腕が一瞬しびれるような感覚に襲われる。重てえ…………薙刀と刀じゃリーチが違うから、こうも近接してればこっちが有利なはずだぞ…………なのに、簪の奴、持ち手を一瞬で切り詰めて振るってきた。持て余しているような感じもなく、薙刀までもを自分の体のように扱っている。一方の俺は未だに振り回されているような感じだ…………でも、まだ俺は負けたわけじゃない。どんなに泥臭くてもいい、どんなに意地汚くてもいい…………せめて、俺をここまで鍛えてくれた奴らの思いを無駄にしない戦いをしてやるよ!! そうだろ——白式…………ッ!!

 

◇◇◇

 

「一気に激しくなったな…………そうでなければ、散々扱いてきた意味が無いがな」

「…………一体、どんな訓練をしていたの?」

 

試合の熱はかなりの上がってきている。周りもその熱に当てられてか、かなり盛り上がってきている。汗かいちゃいそうだよ。というか、秋十の挙動がかなりキレのある動きになっているような気がするんだけど。少なくとも、私と模擬戦した時よりは明らかに動きが良くなっている。しかも、簪ちゃんって日本の代表候補生なんでしょ…………? それに食らいついて一歩も引かないんだから、かなりの腕だよ。まぁ、シールドエネルギーの残量からしたら、秋十の方が下なんだけどね。それでも、その一歩も引かない姿にみんなは興奮気味のようだ。

 

「何と言われてもな…………日本でいう鬼ごっこや居合切りの練習だぞ?」

「…………ごめん、もっと詳しく」

「そうだな…………鬼ごっこは、私とセシリアが鬼で、秋十が私に銃撃されながら高速移動、セシリアが不意を狙うからそれを避けさせて、懐に飛び込むというやつだ。居合切りは箒に任せておいたから詳しい事は私も知らないぞ」

「…………よっぽどハードな事をしていたって事はよく分かったよ」

 

レーアから聞かされた秋十の訓練内容に思わず私は合掌してしまいそうになった。だって、内容がまんま空戦型FAの戦闘訓練なんだから。ブルーイーグルを扱うことになってから、私も空戦型の訓練をしているからそのエグさは私の体にも染み付いている。こっちは攻撃をほぼ不可能とされているのに対して、向こうは弾切れを考えずに攻撃してくるから、否応でも周囲を常に警戒しなきゃいけなくて、精神的に参りそうになる。しかも、私はその後に通常の陸戦用FAの訓練もあったし…………よくやってこれたなぁって、今しみじみと思うよ。

 

「だが、その分、やった甲斐はあったようだぞ?」

 

レーアにそう言われて、試合の流れを見ると、シールドエネルギーの残量が秋十も簪ちゃんもだいたい同じ数値になっている。つまり、秋十がそこまで追いついたということだ。まさか代表候補生にも引けを取らないところまで来るなんて…………本当、秋十の成長速度は速いよ。私なんてすぐに追い抜かれちゃいそうだ。

 

「そうだね。でも、ここまでになるとは予想できていなかったよ。本当、凄いね」

「そうだろう? 私がいたブルーオスプレイズの訓練を用いたのだからな。強くなってくれなければ、こっちが困ってしまう」

 

よりにもよってそこの訓練を使ったの…………? まぁ、過程はどうであれ、秋十の特訓に付き合ってもらったことは感謝しないとね。

試合開始からすでに十分が経過。試合の熱も最高潮に達している。観客の熱も冷めるどころか、まだまだ上がりそうなほどだ。そんな時、私のケータイに電話が入った。胸ポケットからケータイを取り出して相手を確認すると…………まさかの葦原大尉だった。一体どうしたんだろう…………普段ならほとんど連絡をしてくることなんて無いのに。

 

「あ、はい。こちら紅城です。何かあった——」

『一夏! 緊急事態発生だ! 降下艇基地よりアント群が流出! 連中は二手に分かれ、一つはそっちに向かってるぞ! 数は約四十だ!』

 

聞こえてきたのは葦原大尉の焦った声と、私が一番聞きたくない報告だった。…………しかも、数も大隊規模ときたから、ね。現在稼動できるのは私以外だけど…………そうなると、支援砲撃が可能な火力投射面制圧能力を持った機体はエイミーのウェアウルフくらいだ。セシリアのラピエールも遠距離狙撃型ではあるが、一気に仕留めるほどの火力はない。航空支援ならレーアのスティレットもできるはず…………でも、敵の編成は不明だから…………。

 

「大尉、敵の内訳は?」

『指揮官らしく中央に居座るヴァイスハイトが三つ、その周りにはコボルドとシュトラウスがこれでもかと湧いているぞ!』

 

海を渡ってくる以上、飛行距離の長い機体でくるのは当たり前のことだ。だが、コボルドもかつては高高度のラピエールを追い詰めたって話もあるくらいだから、空対空戦闘も視野に入れなきゃ…………となると、後方から攻撃可能なのはセシリアとエイミーになる。とはいえ、エイミーの機体も直接戦闘向きだから…………ああ、もう! なんでこっちには直接戦闘向きが多いの!?

 

「——了解しました。では、これより派遣部隊の指揮に移ります」

『ああ、そっちの事はお前に任せるからな! 頼んだぞ、臨時派遣部隊長!』

 

そう言って電話は切られた。多分、時間はほとんど無い。一刻も早く対応に当たらなきゃ…………!

 

「レーア、少し外に出てくるね。…………それと、すぐに出撃できるよう準備も」

「了解した」

 

一度アリーナの観客席から通路へと出た私は迷いなくブルーイーグルの頭部通信ユニットのみ展開、起動させた。勿論、コール先は——

 

「——待機中の全ユニットに通達。現在、アント群が北東方面より接近中。数は大隊規模。フェンサー15(セシリア)及びブラスト09(エイミー)は後方より火力投射、それ以外の編成はスレイヤー24()に一任する。全機、状況開始——ッ!!」

『フェンサー15、了解!』

『ブラスト09、了解!』

『スレイヤー24、了解!』

バオフェン05()、了解!』

 

全員からの返答を確認した私は、一度観客席の方に戻ろうとした、その時だった。

 

「ッ——!?」

 

アリーナを激震が襲った。松葉杖を使っている私は思わずバランスを崩してしまいそうになったけど、近くに壁があったおかげでその場に倒れるという事態にはならずに済んだ。激震の直後、通路に用意されている非常灯が一斉に赤く染まった。ま、まさか——

 

(間に合わなかった、の…………?)

 

最悪の展開が脳裏をよぎる。あの物量と火力に物を言わせた攻撃が、ここにも振るわれるなんて…………ここなんてすぐに陥落してしまうよ!

 

『こちら、オスプレイ26! グランドスラム04、聞こえているか!?』

「レーア!? どうなの!? 状況は!?」

 

レーアからの通信に少し安心した。どうやら、そっちの方にはダメージは無いみたいだ。

 

『緊急事態につき、機体を展開した。それよりもだ、現在、一機がアリーナ内へと侵入! ただし、観客に被害はなし! 秋十と対戦相手も健在だ!』

 

だが、と言ってレーアは言葉を続ける。

 

『侵入者のコードはNSG-XM…………おそらく、フレズヴェルクタイプだ』

 

レーアからの報告に、私は安心していた気持ちなどすべて吹き飛び、代わりに拭いきれない恐怖が襲いかかってきた。冗談じゃない…………あいつの攻撃力じゃ、ISなんて一撃で沈むに決まっている。私はリミッターを掛けていたからそんな事態にならなかったけど、向こうはリミッターなんて掛けていない。その悪夢が現実となってしまう…………! それに、今は攻撃をしてきてないみたいだけど、それがいつまで持つかなんてわからない。

 

「織斑先生、聞こえていますか!?」

『紅城か!? お前は無事なのか!?』

「私は大丈夫です! それよりも、アリーナの状況を教えてください! 早く!」

 

私はお姉ちゃんにアリーナの状況を教えてくれるように言った。通路側にいる以上、観客席を含めたアリーナ全体の状況は把握できてない。お姉ちゃんは管制室にいるって言っていたし、非常時の指揮権を有しているから、情報を仕入れるには最適だ。

 

『…………現在、アリーナの防護シールドが破損。同時に全隔壁のシステムがダウン。観客席と通路は分断されてしまっている。教員部隊の突入にも時間を要する。だが…………侵入者は魔鳥らしき機体だ。ISは無力に等しいと考えた方がいい。幸いにも奴は動く気配が無いから、織斑と更識には退避するように命じた』

 

退避を命じたと言っても、隔壁が閉鎖されてしまっているんじゃ避難なんてできない。それに、観客席には多くの生徒がいる。初の男子生徒の公式戦だから、例年以上に観客席が埋まってしまっているのが裏目に出た結果だ。避難するにも時間がかなり経ってしまっている。早急に対応しなければ…………! 民間人を守るのが私の仕事なんだから…………!

 

「…………隔壁の破壊許可を申請します。後ほどどのような厳罰を科しても構いません」

『…………了解した。破壊を許可する。避難誘導を任せるぞ!』

「了解——ッ!」

 

隔壁の破壊許可を得た私は通信先をレーアへと変更した。

 

「レーア! 隔壁を破壊して観客席と通路を繋いで! 避難誘導も任せるよ!」

『了解だ! 隔壁の側にいるなら、お前も離れてくれ!』

 

レーアの言葉通りに私は隔壁より距離を取った。直後、隔壁のロックを切り抜くかのようにブレードが突き出された。そのまま、隔壁のロックは綺麗に切り取られ、強引に扉が開かれる。その先頭から姿を現したのはスーパースティレットⅡ対地攻撃仕様——レーアの機体だった。両肩のスラスターを折りたたみ、体を屈めて出てくる。

 

『いいか! 落ち着いて、二列になって避難しろ!』

 

レーアは通路へと我先に出ようとする生徒たちに向かってそう声を放った。こんなところで混乱を起こされて、圧迫死とかそんな事態になったりするのはいただけない。レーアの気迫のある声に気圧されてか、生徒たちは言われた通りに避難を始めた。

 

『それよりも一夏、お前はどうするんだ? その体じゃ——』

「いや、私だってやれるよ。捻挫ごときで黙ってられるほど、私はおとなしくないからね」

 

私はレーアにそう答えると、ブルーイーグルを展開した。一度制服やら包帯やらギプスやらが量子化され、パイロットスーツが装着される。その直後、全身を六角形の非発光体が覆っていき、非発光体が消失したところからブルーイーグルが展開された。リミッターがかかっている状態だし、まだ捻挫が完治したわけじゃないど、私にだってやれることはある。

 

「私も隔壁の破壊作業を行う。レーアは、破壊作業が完了後、北東方面の戦域へと向かって! 既に箒達が交戦状態に入っているから!」

「なら、分担して早く終わらせよう。私はこっち側を、一夏は向こうをやってくれ」

「それじゃ、そっちは任せたからね!」

 

決して広くはない通路の中を機体をギリギリ浮かせる程度の推力で次の隔壁へと向かった。横幅の大きくなってしまうブルーイーグルには少し厳しかもしれないけど…………榴雷よりは足首への負担が低いから、こっちを使うしかない。それに、タクティカルナイフよりもイオンレーザーソードの方がすぐに切れそうだからね。

隔壁は全部で六ヶ所。うち一箇所は破壊済み。私の任された方面には二箇所残っている。あのフレズヴェルクタイプがいつまで待ってくれているかわからないから、手早く破壊しなきゃ…………!

 

「そっちには聞こえてる!? これから隔壁を破壊するから、扉から離れて!!」

 

一つ目の隔壁に到着した私は隔壁の向こうに声をかけた。熱源センサーを見る限り、扉からは離れてくれたようだ。なら、やることは一つだ。イオンレーザーソードを短刀状態で展開、ロックを切り抜くように突き刺した。鋼鉄が高温で焼き切れる音がする。くり抜くかのようにロックを破壊した私は、それを掴むと一気に抜き取った。そして、力任せに隔壁をこじ開ける。くうっ…………これ、重い…………! 動力を失うとここまで動かすのが大変だなんて…………!

 

「慌てずに! 大丈夫だから! 二列に並んで! そのまま避難して!」

 

どうやら、こっちには三組のクラス代表がいたようで、彼女がまとめ役となって避難誘導をしてくれている。これならすぐに避難できると判断した私は次の隔壁へと向かう事にした。それにしても、何故あのフレズヴェルクタイプは攻撃してこないんだろうか…………正直、攻撃なんてし放題だと思うんだけど…………わけがわからない。

 

『こちらスレイヤー24! グランドスラム04! やばい事態になった!』

「どうしたの!? 何があったの!?」

『奴らの、増援が来たぞ——!!』

 

◇◇◇

 

「どけぇぇぇぇぇっ!!」

 

箒は自身の機体である妖雷を駆り、その手に持つ日本刀型近接戦闘ブレードをシュトラウスへと振るい、頭部と右脚部を破壊する。だが、その攻撃を知っていたかのように、控えていた次のシュトラウスが飛びかかってくる。さらに、その後ろで控えているコボルドに至っては戦列を並べて突撃するシュトラウスを支援しているようにも、彼女には見えた。

 

「くっ…………雑魚のくせに生意気な!」

 

サブマシンガンで弾幕を張り続けているアントを青龍刀で叩き潰した。だが、次のアントがバトルアックスを振るってくる。鈴はその一撃を紙一重でかわすと、両背部の大型イオンレーザーカノンを放った。破壊の奔流を至近距離で受けたアントは上半身を綺麗に吹き飛ばされる。しかし、そんな強大な一撃があろうとも、アントの軍勢は未だ減る気配がない。

 

「この程度の数…………あの時と比べたら…………ッ!!」

 

通常のマニピュレーターへと換装したエイミーは両手に構えたロングライフルで次々とアントを無力化していく。滑腔砲は支援用の榴弾が切れ、残されたAPFSDSによる直接射撃による攻撃のみとなっている。流石に彼女にとってこの状況は自国でアントを相手するときよりは少ないが、それでも手を焼いてしまっていた。

 

「弾倉交換に入ります! しばしのお待ちを!」

 

セシリアの構えているスナイパーライフルも弾が切れ、弾倉交換に入った。その間、前線にいる箒達に支援砲撃の手が届くことはない。再装填はすぐに終わるも、その間にまたアント群はわずかにだが増加する。しかし、支援砲撃の手が弱い今、戦力の少ない彼らにとってはその僅かな増加も致命的な一撃になりうるものであった。

 

「そういえば、雪華はどうしてるのよ? ——っと、危ないわねぇ…………ッ!」

「あいつなら今日一日寮で寝てるつもりだそうだ。整備を一人でさせてるから、特別に許可が出たそうだぞ——チィッ! ブラスト09! そっちに一機抜けたぞ!」

「了解! 速攻でスクラップにしてやります!」

 

攻撃の隙間を一機に抜けられたが、カバーに入ったエイミーによって、頭部と胸部を撃ち抜かれ、その場に沈黙する。このままでは埒があかないと判断した鈴は敵群へと一気に突っ込もうとするが、正面に出てきたヴァイスハイトによって足止めされてしまう。

 

「こいつ…………ッ!」

「——バオフェン05、一度離れてください!」

 

ヴァイスハイトと切り結んでいた鈴はセシリアのその声に反応してその場から離脱する。ヴァイスハイトはそのまま鈴を追撃しようとするが、胸部に叩き込まれたAPFSDSの一撃によってその動きを止めた。指揮官機クラスの機体が撃破されたことに一瞬同様とも取れる動きを見せたアント群ではあるが、直様攻勢へと戻る。

 

「助かったわ…………ありがと、セシリア。にしてもこいつらまだ湧いてくるわよ…………」

「せめてあと一人支援砲撃機(ガンナー)がいればまだ楽なんですが…………」

 

いない人ねだりしても仕方ありませんわ、とセシリアは割り切る。実際、戦力としてはこれ以上増やすのは厳しいところだ。レーアが合流する手筈にはなっているが、いつ合流するのかわからない。さらに言えば、ほぼ最高戦力であるとも言える一夏は負傷中。実質、この場にいる人間でのみ戦闘を継続するしかなかった。厳しい戦いを強いられた彼女達は各々の得物を構え直し、再度攻撃を開始したのだった。

 

◇◇◇

 

『——って、どういう状況なの!? 何があったの!?』

「雪華か!? アント群の襲撃だ!」

『通りで部屋の警報システムが起動しているはずだよ…………! それで、現在の戦況は!?』

「極めて最悪だ!」

 

目を覚ました雪華は箒に教えられた情報に目が一瞬にして覚めた。雪華も雪華で派遣部隊の機体データを確認するべく、タブレット端末を起動し、現在の損傷度を表示した。既に交戦状態にある機体は中規模のダメージを受けている。致命的な一撃を受けてないことが幸いだった。そして、何よりも一番驚いているのは…………

 

(ブルーイーグルが稼働中…………!? 嘘でしょ!? 一夏は…………まだFAに乗れる体じゃないのに…………!!)

 

ブルーイーグルが稼働中であるということだ。正直、今の一夏の体では過度の負荷によって傷が悪化する可能性だってある。それを本人も理解しているはず。なのに、何故起動しているのか…………雪華は戦況マップを表示する。表示される光点には[YSX-24RD/BE]と表示されているが、その近くにいるのは[NSG-XM]と[UNKNOWN]が交互に表示されていた。雪華には嫌な予感が走る。確か、ブルーイーグルには武装へリミッターがかかっていたはず——その事が脳裏をよぎった雪華は全身の血が一気に引いていくような感覚に襲われた。

 

(まずい…………あれじゃブルーイーグルは本当の力を発揮できない…………! 早くリミッターの解除コードを…………!)

 

そう思い立った雪華は直様、ブルーイーグルへと回線を繋げたのだった。





機体解説

・JX-25CX バオダオ(雹刀)

SX計画により開発されたSX-25 オリジナル・カトラスを中国がOME生産したJX-25Fジィダオ及びJX-25T レイダオの機能を一機に集約した汎用機。外観としては背部よりレイダオの腕部イオンレーザーカノンが突き出ている。また、両腕にスラッシュシールドを装備、両肩にはスラストアーマーを装備しており、攻撃力以外にも機動力、防御力に関しても抜け目はない。開発に際して、中国が開発中の第三世代IS[甲龍]をモチーフとしたという噂も飛び交っているが真偽は定かではない。現在は凰鈴音の専用機という扱いである。

[IR-M13SG リニアライフル]
セグメントライフルを強化したリニアライフル。バレルが延長され、射程と威力が強化されている。継戦戦闘能力強化を図ってか、弾倉は一回り大きくなっている。

[青龍刀型近接戦闘ブレード]
青龍刀型の近接戦闘ブレード。刃部はチェーンソー状になっており、切断能力を高めている。しかし機構が複雑故、整備に手間がかかる。

[ACS-14GP イオンレーザーカノン]
レイダオの腕に搭載されている重レーザー砲と同様の物。
通常のFAが使用できる武装としては破格の威力を誇る。ジェネレーター・セルを追加することで継戦戦闘能力を高めたが、その分コストが高騰した。





今回は鈴の機体であるバオダオを紹介しました。
感想及び誤字報告をお待ちしています。
では、また次回、生暖かい目でよろしくお願いします。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。