FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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Chapter.02

『——当機はまもなくドイツ、ライプツィヒ・ハレ空港へと到着します——』

(やっと到着だよ〜…………一体何回乗り継ぎしたんだろ?)

 

もうすぐ目的地に到着するという機内アナウンスが流れた。それを聞いた私は少し体を伸ばす。というのもここに至るまで二回ほど乗り換えをしているからね…………日本から一度上海に飛んで、そこからインドを経由してドイツというルートを通ったんだよ。こんな複雑なルートになる理由は一つ、日本からドイツへの直行便が中国に作られたアントのカシュガル降下艇基地によって使えなくなったから。アントは軍や民間無関係に攻撃する。降下艇基地には多数の対空兵装が装備されているため、その上空を通るのは自殺行為にも等しいのだ。それに、北のルートを使うとなると、今度はイルクーツク降下艇基地があるからね…………赤道付近を回るしかなくなったのは辛いよ。なんといっても時間がかかるからね。

 

(でも…………なんでドイツまで来る事になったんだろ…………それに、ほぼフル装備の榴雷まで持ち込んで…………)

 

ただの海外遠征なら、別にフル装備にしなくてもいいはず。そもそもで榴雷を持ち込む理由もない。なのに司令から言われたことは、私が通常運用している榴雷、そのフル装備を持って行けとのことだった。今はおそらく飛行機のカーゴルームにコンテナ詰めされているはずだ。

 

(まぁ、現地でお迎えが来ているってことだし、その人に聞けば何かわかるかな?)

 

これ以上考えても無駄な事だと思い、一度窓の外を眺めた。そこには、到着予定の空港がどんどん近づいているのが見えた。まだ、アントに制圧されてない、そしてアントの存在を知らない人々が住んでいるであろう街の姿が目に映った。

 

(ここはまだ最前線にはなっていないんだね…………)

『——まもなく着陸体勢に入ります。座席に着き、シートベルトを着用してください』

 

そう思ったのと、着陸体勢に入ったことを知らせるアナウンスが流れたのはほぼ同時だった。

 

 

「ふぅ〜〜…………やっと着いたよぉ〜〜…………」

 

空港に着いて開口一番に出たのがそれだった。移動時間にして約三十五時間。向こうを出たのが午後の二時だったから、既にこっちは夜だ。少ないけどまだ人はいる。その中にひときわ目立つ人がいた。長い銀髪を揺らし、人と人との間を縫って私のところに向かってくる。ちょっと場違いかもしれないけど、綺麗な髪だなぁって思った。欧州の人ってみんな綺麗な金髪や銀髪が多いよね…………別にお姉ちゃん譲りの黒髪も悪いと思っているわけじゃないよ? でも、やっぱり金髪とか銀髪は綺麗だなって思っただけ。

 

「す、すまない! 待たせてしまったか?」

「…………えっ?」

 

その私に向かって来た人は開口一番にそう言った。ん? 待たせてしまった? というかその格好ってドイツ軍の制服だよね? というかその襟についている階級章って——

 

(た、大尉ぃぃぃぃぃっ!?)

 

正直信じられなかった。比較的背の小さい方だと思っていた私だけど、それよりも小さい目の前の彼女が大尉という事に内心驚いてしまった。というか、大尉自らお出迎え!? やばいやばい…………ここで変に答えたら、たとえ他国の人であっても上官に変わりないから、不敬罪で速攻解雇だよ!! ここは慎重に言葉を選ばないと…………いや、それよりこんなことになるんだったら持ってきた制服に着替えておくんだった…………。

 

「ん? どうかしたのか? 顔写真を見て貴方が紅城一夏だと思ったのだが…………もしや、人違いだったか?」

 

そんな風に顎に手を当てて首をかしげる目の前のドイツ軍大尉は身長の小ささも相まってかなり可愛らしかった…………って、そんなこと考えている場合じゃない! 大尉! 目の前にいる、話しかけられても全然返事できない情けない人が、その本人です!

 

「え、えっと、その…………」

「なんだ、言いたいことがあるならはっきり言えばいいだろう?」

 

人通りが少ないとはいえ、やはり人の目にさらさられているのはコボルドやシュトラウス、ヴァイスハイトの大群と撃ち合っている私には耐えられなかった。いや、答えられない私が悪いんだけどさ…………それでも、あんな状況でされたら誰だってそうなると思うよ。大尉に詰め寄られていた私が唯一口から出すことができたのは

 

「い、一旦失礼しましゅ! す、すぐに戻りましゅので、そ、その場でお待ちくだしゃい!」

 

恥ずかしさのあまり噛みまくった、逃げの一言、それだけだった。

 

 

(——絶対失敗した!!)

 

とりあえずトイレへと駆け込み、割と大きめの個室を借りた私は、その中で制服に着替えながらそう思った。あの大尉は『お、そうか。それでは、私はここで待たせてもらうぞ』とかと笑って言ってきてくれたけど、内心きっと馬鹿にされているんだろうなぁ…………それどころか相当根性無しとか思われているかも。向こうが私のことを知っていたなら、多分グランドスラム中隊のことだって知ってるはず…………私がこんなのだから、中隊のみんなも私と同類と思われることだけは避けたかったのに…………私のバカ!

 

「はぁぁぁ…………」

 

ついため息が漏れてしまった。このドイツ行きが決まってからため息をかなりついている気がする。自分があまりにも頼りなさすぎで泣けてくる。せめてもの救いは向こうが日本語で話しかけてきてくれたことかな…………ISが登場してからというもの、そのメンテナンスファイルを作った篠ノ之博士は何故か日本語で世界中にばらまいた。それを各国が自国語に直すには時間がかかるということで、公用語として日本語が広まっている。英語すら怪しい私にとってはありがたいことだった。

 

(これなら大丈夫かな…………?)

 

鏡を見て変になってないかを確認する。見たところ特に変にはなってなかったからよかった。最後に胸に盾と砲弾を象った部隊章——第十一支援砲撃中隊の部隊章——と階級章を取り付けて、と。

 

(それじゃ、気を取り直して謝りに行きますか)

 

まず、何よりも先にしなきゃならないのは、あの大尉への謝罪だろう。鏡の中に映った自分にそう言って、私はトイレを後にした。

 

 

「先ほどはすみませんでした!」

 

本当に大尉はさっき私と別れたところで、まさかの仁王立をして待っていた。あの姿を見た私は訓練時代の教官を思い出して、即座に頭を下げて謝った。大抵ああいう風に立っている人は怒っている場合が多い。下手すれば国家間の問題になるかもしれないと思った私は身体が反射的にそうしていたのだった。大尉からは何も言葉が来ない。そのせいもあって今この瞬間が一分一秒と長く感じ、緊張のせいもあって手汗が凄いことになっているのがわかった。

 

「何故、謝っているのだ?」

「…………えっ?」

 

だが、そんな私の緊張を他所に、大尉の口から出たのは抗議の言葉ではなく、単なる疑問系の言葉だった。それを聞いた私もつい顔を上げて、間抜けな声が出てしまった。

 

「確かに貴方は私に待てと言った。しかしそれはその軍服に着替えてくるためだったからだろう?」

「そ、それはそうですが…………」

「ならば別に叱責したりなどせん。まぁ、もとより怒ったりする気などなかったがな!」

 

そう言って豪快に笑う大尉。その特徴的な眼帯のせいでかなりの鬼かと思っていたけど、中身はかなり優しい人だった。そのことに胸をなでおろす私がいる。怒られなくてよかった…………というか、こっちに着替えてきて正解だったよ。

 

「大尉のお心遣い、ありがとうございます」

「別に気にすることではない。それよりも、貴官が紅城一夏で間違いないんだな?」

 

大尉がそう聞いてきたので、私は大尉に向かって敬礼をして答えた。

 

「はい。日本国防軍本土防衛軍第十一支援砲撃中隊所属、紅城一夏中尉です」

「そうか。私はドイツ軍特殊作戦群[シュヴァルツェ・ハーゼ]隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼むぞ、紅城中尉」

「い、いえ。こちらこそよろしくお願いします、大尉。あと、私の事は一夏で構いません」

「なら私の事もラウラと呼んで構わん。先ほどの事だ、貴官なら公私をわきまえて行動できそうだからな。お互い仲良くしようじゃないか」

「は、はい!」

 

この大尉——じゃなかった、ラウラはどれだけ心が広い人なんだろう…………というか、ドイツ軍特殊作戦群隊長ぉっ!? なんでこんな一般兵のお迎えにドイツの最高機密を握っていてもおかしくない人が来るの!? そんなことを思いながら、私はラウラに引き連れられて車へと乗せられた。迎えに来ていたのが黒塗りのベンツとかという、明らかにやばそうなものだったからかなりおっかなびっくりだったけど。それでも、なんだか落ち着かない。普段は基地から出るなんてことは滅多になかったし、出る時も一人で歩きで出てたし、一応学校には行っているけど、その時は私と悠希と昭弘とでヘリ(UH-60)に乗せられて東京の学校まで飛ばしてもらってたし。あれ? むしろヘリの方が落ち着かない? あと、国防軍には十三歳から志願できるけど、十八歳以下は週に三回午前中だけ東京にある学校で授業を受けなきゃいけない。ただし、緊急出撃が発令された場合はすぐに基地に戻らなきゃいけないんだけどね。それに、一般人も同じ学校にいるから私達が国防軍所属とは大っぴらには言えない。

 

「うむ? 何やら落ち着かないようだな?」

「え、ええ…………だって、ベンツって高級車じゃないですか…………落ち着いている方がすごいと思いますよ」

「そうか? 本当だったらドイツの凄さを教えたくてレオパルドを借りてこようかと思ったのだがな…………」

「隊長、それは流石にやめたほうがいいっすよ。凄さは伝わりますけど、代わりに舗装がガッタガタになりますって」

「こんな感じに止められてしまったのだ」

 

不本意だ、と言わんばかりにちょっとふてくされているラウラの姿は不謹慎だけど、まるで我儘を言ってお願いを聞いてもらえなかった子供みたいで、まるで妹がいるみたいに感じた。私にいるのは弟だけどね。でも、私の弟は何故か聞き分けがいいし、反抗なんてしなかったから、いつ反抗期が来るのかわからない。そもそもでもう一年近く会ってないからそれすらもわからないけどね。それに、もう前の名字じゃ無くなったから、戸籍上は弟じゃない、か…………それを言ったらお姉ちゃんも、だね…………。

 

「どうかしたか? 移動で疲れたのか?」

「いえ、大丈夫です。少し思い出しただけですから」

「そうなのか? だが、疲れたのであれば遠慮なく言ってくれて構わないぞ。我々は身体が資本みたいなものだからな。しかしだ…………」

 

ラウラはそう言って私のところをジロジロと見てくる。まるで初めて見たものに興味を示している猫みたいだ。多分、本人にそう言ったらものすごく怒られると思う。

 

「国防軍の制服は派手な色をしているんだな。我が国のは特殊作戦群というのもあるのかもしれないが、黒一色だというのに…………」

「ああ、それは私達のは希望があれば色の指定ができるんです。なんでも、灰色だけじゃ女の子には辛いだろうって、基地司令から言われました」

 

派手と言われても、私が選んだのは蒼。今の乗機である榴雷は基本色の白と灰色をベースとしているけど、それでもやっぱり蒼が好きだったから。私以外にも基地でオペレーターをしている人もピンクとか着ているし、その辺は結構融通が効くみたい。まぁ、それでも少佐以上になると基本色の灰色がかった白の制服を着用しなきゃいけなくなるみたいなんだけどね。別にあれはあれで普通だから私は嫌いじゃないよ。ただし、男子はその基本色のみ。まぁ、それが原因で暴動なんて起きてないからいいんだけど。

 

「ほう、流石日本人というべきなのか。今度我が軍の上層部にでも提案してみるとしよう」

「でも、大尉は黒がお似合いだと思いますよ。だって、とても凛々しく見えますから」

「ははっ、私より凛々しい人など数多いるだろう。少なくとも一人は知っているぞ」

「そうなんですか。どんな人なんですか?」

「それは秘密だ」

 

ふふん、と鼻を鳴らして自慢するラウラはやっぱり背伸びしたがりな子供にしか見えなかった。そういう私も十分子供なんだけど。でも、こんな素敵な大尉がそこまで言う人ってどんな人なんだろう? 変に焦らされた始まった分、余計気になって仕方ない。

 

「隊長、楽しいお喋りの時間はそこまでですよ。やっと基地に到着です」

「了解した。お前は私達を降ろしたあと、車を基地のガレージにしまってきてくれ。その後は適宜休憩を取るんだぞ」

「わかってますよ。じゃないと、獰猛な黒兎に吠えられちゃいますからね——っと、それじゃ、お気をつけて」

「ああ、お前もな。では、行くとしようか中尉」

「了解しました」

 

着いたのはドイツ軍の基地だった。ちょうど私達が乗ってきた車が去った後、コンテナを載せたトレーラーがやってきた。コンテナには何も書かれてはいないが、基地に入っていったところを見ると、あれに私の機体が載せられていることに間違いはない。多分、支給されたリボルビングバスターキャノンも。けど、そんな事よりも、さっきから肌で感じるこの感覚…………そう、無機質な連中を相手にしてきたからこそ感じる、熱い魂。それがこの基地には溢れている。私のいる館山基地と同じ感じだ。

 

「さて、挨拶がまだだったな。ようこそ、ベーバーゼー基地へ」

 

ベーバーゼー基地、ドイツが国内に抱えるブレーメン降下艇基地を攻略する為の最重要拠点へと私は足を踏み入れたのだった。

 

 

「これで全員揃ったようだな」

 

私がラウラ案内されたブリーフィングルームに入ると、そこには結構人が集まっていた。ドイツ軍のラウラや、制服からしてイギリス軍の人の他にアメリカ軍の人もいる。でも、みんな歳が若い。もしかすると私と同じ歳?

 

「では、今回集まってもらった目的を話す前に、親睦を深めることを兼ねて自己紹介をしようか」

 

壇上に立っているラウラがそう言ったが、このガチガチに固まった空気がほぐれることはない。というか、さっきみたいにフランクに接していたから私がただ慣れてしまったからなのかもしれない。まぁ、今のラウラはいかにも鬼軍人とかと言われてもおかしくないほど威厳があるように見える。それじゃ、周りが固まってしまっても仕方ないか。

 

「私が今回の指揮を預かるドイツ軍のラウラ・ボーデヴィッヒ大尉だ。以降よろしく頼む」

「「「…………」」」

 

…………誰か反応してあげて!! というか、ラウラが今回出向してきた目的の指揮官!? まずい、いろいろありすぎて頭がこんがらがってきたよ…………。

 

「むう…………仕方ない。誰かが進んで出てきてくれると思ったが、ここは指名してするしかないな。ならば、お前から順にだな」

「私ですか!? えっと、アメリカ陸軍第四十二機動打撃群所属、エイミー・ローチェです。階級は少尉です」

「同じくアメリカ軍第四十二機動打撃群所属、レーア・シグルス少尉です」

「私はイギリス海軍第八艦隊所属、セシリア・オルコット少尉ですわ」

 

うわぁ…………みんな名だたる部隊の隊員だよ。アメリカ軍第四十二機動打撃群って、国内のネヴァダ降下艇基地からの侵攻を阻止したり、二ヶ月くらい前に行われた第二次降下艇基地であるドバイ沖の海上都市ベイルゲイト降下艇基地攻略戦にも参加したというエリート部隊じゃん…………それに、イギリス海軍第八艦隊って、空母二隻と護衛の駆逐艦八隻で構成され、ブレーメン降下艇基地から溢れ出てくるアントを押しとどめて他国への侵攻を阻止している精強な部隊じゃん…………多分ここにいるのはその中でも選りすぐりのパイロットだと思う。…………ああ、周りが強烈すぎて胃が痛くなってきた。それに比べて私は——

 

「おい? 大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

 

——こんな風に他国の上官から心配される始末だよ…………。いけない、いけない。ここはちゃんとしないと…………

 

「だ、大丈夫です。ただ、周りの肩書きが凄すぎて驚いていただけです…………」

「そ、そうか。だが、お前も十分凄い肩書きを持っていると思うがな…………」

 

ラウラ——じゃなかった、大尉、それは多分日本国内だけの話だと思いますよ…………。でも、自己紹介をしないと先に進まないし…………頑張るしかないか。

 

「え、えっと…………私は日本国防軍本土防衛軍第十一支援砲撃中隊所属の——」

「「「日本国防軍本土防衛軍第十一支援砲撃中隊!?」」」

 

所属のところまで言ったら、何故かさっき自己紹介してくれたローチェ少尉やシグルス少尉、オルコット少尉が驚いた声をあげていた。あ、あれ? そんなに変なこと言ったかな? 普通にグランドスラム中隊所属って言っただけなんだけど…………。

 

「第十一支援砲撃中隊って、あのグランドスラム中隊!?」

「現代日本の防人で、任務成功率九十パーセント超えで、民間人死者を未だ出してないあの!?」

「そ、そういえば、グランドスラム中隊には初の実戦で逃げ遅れた民間人を守りながら、二機のヴァイスハイトと多数のアントを撃破した最年少のウェアウルフ・ブルーパー(三八式一型 榴雷・改)のパイロットがいるとか…………た、確かそのパイロットの名前は——」

「——ええっと…………改めて、日本国防軍本土防衛軍第十一支援砲撃中隊、通称グランドスラム中隊所属、紅城一夏中尉です。よ、よろしくお願いします」

 

そう言って私は冷静にお辞儀をしたが…………内心、かなりびっくりしていた。確かに私は初めて実戦に出た時、逃げ遅れた親子がいたから、榴雷のシールドで弾を防ぎながら避難させて、その途中で何機かアントを撃破していた。その後で隊長の葦原大尉に命令違反で怒られて、民間人を助けた事で褒められて、その事がきっかけで二ヶ月くらい後に中尉に昇進させられたんだっけ。あの時助けた二人は元気にしてるかな? というか、なんでその事が海外にまで広まっているの? 別に私はただ民間人を助けただけだよ? 本土防衛軍の名前を冠している以上、その役割を果たさないとね。多分、あんな変態の葦原大尉や悠希、それに昭弘をはじめとする館山基地の人はみんなそうすると思う。葦原大尉は私と同じ状況だったらしていたと言っていたし。

 

「以上で正規メンバーの紹介を終わる。次にこちらは国連軍からの人間だ。粗相のないようにすること。では、よろしくお願いします」

『失礼する』

『失礼しちゃうよーん』

 

ラウラがそう言った直後、聞こえてきた声は何故か聞き覚えのある声だった。待って…………今の声の人達は日本かもしくは世界のどこかに隠れているはずなのに…………なんで、ここで聞こえてくるの…………?

 

「今回、この作戦を開始するにあたって参加する事となった国連軍先進技術試験隊民間協力の織斑千冬だ」

「同じく、国連軍先進技術試験隊開発技術主任の篠ノ之束だよーん。よろぴくー!」

 

目の前のことが信じられなかった。国連軍の制服を身に纏ったお姉ちゃん(・・・・・)束お姉ちゃん(・・・・・・)がいるなんて、私には想像できなかったから。どうしてここにいるのかが理解できなくて、さっき以上に頭がこんがらがってきた。

 

「というわけで、本作戦にはかのブリュンヒルデも参加してくださることになった。では、これより作戦内容を説明する」

 

一通り自己紹介が終わったということで、未だこんがらがっている私を他所に、作戦内容の説明が始まった。そう聞いた瞬間、ハッとなったから良かったものの、これ聞いてなかったら大失態を犯していたところだったよ。

 

「今回、我々が攻撃を仕掛けるのは、ブレーメン降下艇基地より南東二十五キロに位置する、現在アントが建設している前線基地だ」

 

ブリーフィングルームのスクリーンにその前線基地の概要が表示された。どうやら無事に生き残っていた衛星での写真みたい。見る分には本隊であるブレーメン降下艇基地よりは遥かに小さい。でも、戦力がどの程度配備されているんだろう?

 

「戦力は建設中とあってか未だ多くはない。しかし、ブレーメン降下艇基地からの拡大となればこいつがいる可能性が高い」

 

今度スクリーンに映し出されたのは、全身を紫に染め、緑色のクリスタルユニットが特徴的な機体と、全身を紅く染め、紫色のクリスタルユニットを搭載し、両手に一丁ずつ背中に二丁の大ぶりの銃を構えた機体映し出された。私はその機体を知っている。というよりも、訓練時代に教え込まれた。

 

「国連軍呼称、NSG-X1 フレズヴェルク及びNSG-X3 フレズヴェルク=ルフス。ブレーメン降下艇基地におけるやつらの最高戦力だ」

 

別名魔鳥。現在存在している第一次降下艇部隊による基地は、ネヴァダ、カシュガル、イルクーツク、そしてここブレーメン。それらの基地は第三ステージと呼ばれ、アントの一大拠点となっている。そこで確認されている機体がこのフレズヴェルクと呼ばれる機体だ。一見装甲重視の榴雷や敵の量産機ヴァイスハイトと比べて脆弱そうに見えるが、実際はどんな攻撃も跳ね返す強力なバリアが張られているとのこと。そして、無人機であるため変形して高速移動形態をとるという特徴がある。このせいで、一撃離脱戦法を取られるとこちらが劣勢になってしまうとのことだ。一応対抗策はあるにはあるというけど…………それでも、今の国連軍の中では最も脅威度が高い相手であることに変わりはない。そんなのと会敵する可能性が高いなんて…………生きて帰れるのかな、私…………。

 

「なお、このルフスの方に関しては、半年前に実行されたバードハント作戦後、新たに確認された機体だ。強化されている可能性もあるため十分注意してくれ」

「その他のアント群に関しては何機いると推測されますか?」

 

ラウラが説明している中、ローチェ少尉が質問した。確かに未だ多くはないと言われても、実際にはどれだけいるのかわからなかったら辛いしね…………途中で増援なんか呼ばれたら弾が持つかどうか…………。

 

「基地規模から判断するとおよそ百五十はいるだろうな。しかし、ここを抑えられれば、これ以上の戦線拡大を防ぐ事ができると上層部は考えているようだ」

 

それでもね…………全部の戦力を合わせて六機。中隊の定員の半分くらいしかない戦力で拠点攻略というのもなかなか難しい問題だと思うんだけどな…………国連軍の上層部は一体どんな考えをしているのだろう?

 

「他に質問はあるか? ないならば作戦概要を説明する」

 

スクリーンには新たにマップが表示された。おそらく攻略目標の座標と地形データが出ているはずだ。

 

「まず手始めに空軍の爆撃と紅城中尉のM38による面制圧を行う。使用する砲弾は紅城中尉に一任しよう」

 

って、はいぃぃぃぃぃっ!? こんな作戦の初期段階から私が参加!? まぁ、確かに榴雷の目的や私のいる部隊からすると支援砲撃は十八番だけどさ…………明らかに火力が足りてないよ!? それでいいの!?

 

「その後は持久戦だ。ローチェ少尉と私で紅城中尉を援護しつつ、敵を蹴散らす。シグルス少尉とオルコット少尉はお得意の空戦で空から敵を潰してくれ。最後にブリュンヒルデ、貴方には遊撃を頼みたい。そして、万が一の時は——」

「——わかっている。奴らを焼き鳥にしてやればいいんだな?」

 

さらっと恐ろしい事を言っているお姉ちゃんに、この場にいる誰もが一瞬凍りついた。そりゃそうでしょ? だって、あのフレズヴェルクを焼き鳥にするって…………一体どんな機体を使ったらそんな芸当ができるの?

 

「では、説明は以上だ。質問があるやつはいるか?」

 

その言葉に反応するものは誰もいなかった。今の説明で大体は理解したし、特別やる事は変わらないからね。ただ、いつも通り支援砲撃をしつつ、こっちは敵を仕留めるだけ。

 

「作戦決行は明日。攻略目標より半径三十キロに住む民間人の避難が終わってからだ。それまで各自休息を取るように。以上、解散!」

 

 

(はぁぁ…………)

 

ラウラに案内されたこの基地のPXで遅めの夜ご飯にしていたんだけど、なんだか食欲が湧かない。別にここのご飯が美味しくないというわけじゃないよ。ただ、明日の事が気がかりで仕方ない。面制圧で徹底的に叩いて、できる限り数を減らしたいと考えるたびに、私にそんな事ができるのか不安になってしまう。

 

「あのー紅城中尉、席一緒になってもいいですか?」

 

そんな不安に陥っていた私に声をかけてくれる人がいた。映ったのはショートカットの淡い金髪。この髪をしていたのは…………

 

「ローチェ少尉? 別に私は構いませんけど…………」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

普通にオッケーを出しただけなのにこんなに喜ばれる始末。そんなに喜ぶことした、私? 私には全くもって心当たりがないんだけど…………。

 

「あれ? シグルス少尉は? てっきり二人はいつも行動を共にしているのかと…………」

「ああ、レーアなら向こうでセシリアさんと明日の打ち合わせをしています。それに、なんだか紅城中尉が一人ぼっちでいるのも寂しく見えてしまったので…………あ、あの、出過ぎた真似をしていたのならすみません!」

 

ははは…………少尉から心配されるほどコミニュケーション能力がないと思われて心配される中尉ってなんなんだろう…………ああ、ローチェ少尉の優しさに涙が出そうだよ。

 

「別にそんなことないよ。ただ悩んでいただけだしね」

「悩んでいたんですか?」

「そう、明日の事でね。上手くやれるか心配になってきたんだ…………」

 

つい弱音が出てしまった。さっきはなんだか大袈裟に色々言われていたけど、実際の私はちょっと弱気で、ただ誰かを失う事が怖い、どこにでもいるような若年兵なんだよ。こんな姿を見せてしまったら、さっき目を輝かせて私の事を話していたローチェ少尉はがっかりするだろうなぁとかと思ってしまった。

 

「そんなことないですよ! 中尉ならきっとできます! 私はそう信じていますから!」

 

けど、そんな弱音に返ってきたのは、目の前の少女からの全力応援だった。突然の事にビックリしてしまったけど、まさかそんな風に返ってくるとは思ってなかった。でも、その応援に私も答えなきゃなって思ったんだ。

 

「ありがとう、少尉。なんだか悩みが吹っ切れたよ。私はやれるだけのことをやってみる。それと、私の事は一夏でいいからね」

「えっ!? 私の方が階級下ですよ!? いいんですか!?」

「うん。プロフィールを確認したら同い年みたいだし、それなら名前で呼んでもらったほうがいいかなって。どうかな?」

「いいと思います! 一夏さん! 私の事もエイミーで構いません!」

 

そう言って私に敬礼を向けてくるローチェ少尉——じゃなくてエイミー。でも、なんだかその敬礼は目の前の少女には合わないような気がしてやまなかった。

 

「明日は私が一夏さんを護ります。ですから安心して攻撃をしてくださいね」

 

安心してと言われたけど…………その言葉に安心できない私がいた。何か嫌な予感がする…………でも、それがなんなのかは私にはわからなかったのだった。

 

 

「紅城中尉、少しいいか?」

 

用意された部屋に戻ろうとした時だった。背後から突然声をかけられてビクッとする私。未だに私はこういうのに慣れていない。昔された怪談話のせいで、余計に怖くなり、夜トイレに行こうとして通りかかった詰所の人に後ろから声をかけられて、あまりの恐怖に漏らしちゃったこともあったっけ…………あの後その人がどうなったのかは知らない。ひとまず、恐る恐る後ろを振り返るとそこには

 

「ブリュンヒルデ? どうかしましたか?」

「いや、君と話がしたいと思ってな…………」

「なら、中でしませんか? 多分聞かれたくない話なんでしょう?」

「…………察してくれて助かる。失礼するぞ」

 

そう言って私とお姉ちゃん(・・・・・)は部屋の中へと入った。まぁ、大体わかっているけどさ、まさかこんなところで巡り会うなんてね。本当、何があったのか聞きたいよ。

 

「さて…………やっと腹から話せるな、一夏(・・)

「そうだね、お姉ちゃん(・・・・・)

 

そう、私の目の前にいるブリュンヒルデこと織斑千冬は私のお姉ちゃんだ。こうして会うのは約一年ぶりだと思う。最後にあったのが訓練過程を終えて、正式入隊する前だったはず。

 

「どうだ、そっちでは元気にしていたか?」

「まぁ、出撃が最近増えてきたけど、でも、元気にしているよ。そっちこそ、部屋を魔境に変えたりしてないよね?」

「…………」

 

なぜか目をそらすお姉ちゃん。…………もしかして、本当にまた部屋を魔境に変えたりしちゃったの? お姉ちゃんは壊滅的なまでに家事全般ができない。掃除などしようものなら何故かゴミが余計に増え、料理しようものならアントですら逃げ出すかもしれない物体を作り出すという、ある意味とんでもない人間なのだ。それでも、IS操縦者としては最高だから『ブリュンヒルデ』の二つ名を持っている、自慢のお姉ちゃんなのだ。

 

「…………次の休暇が来たら一度家に帰るから、その時は覚悟しててね?」

「うぐっ…………善処する」

「そういえば、秋十は? 元気にしてるの?」

「ああ。まぁ、いろいろあったが元気にしてるよ。今回は五反田のところに世話になっている」

「弾君と蘭ちゃんのところか。それなら心配ないね」

 

一応弾君は同じ学校にいる身だし。ただ、秋十とクラスはかなり離れているし、私が午前中で帰るということもあってか全く会わないけどね。きっと他の女子に絡まれているに違いない。私の弟は無自覚に女の子を堕としちゃうからね…………なんとかなってほしいけど。

 

「帰ったら会ってやれ。お前に会えなくて寂しがっていたぞ?」

「そうだね。でも、名字が変わったから会いにくいというのもあるかな…………」

「なぁ、何故お前は織斑を棄てたんだ? 別にそのままでも良かったんじゃ…………」

「…………それだけは無理だよ。私達国防軍——いや、FAパイロットは世間では穀潰しとかと言われているから…………お姉ちゃんの顔に泥を塗りたくなかったの」

 

IS至上主義の昨今の世の中じゃ、私達はいわゆるはみ出し者。実態を知らされていない人からは相当嫌われている。おまけにIS操縦者との折り合いも悪いし、それに女性権利団体からの抗議もかなりくる。どんな英雄じみたことを成し得たとしても闇に葬られ、不都合なことが起こればマスコミに叩かれる。そんな様々な思惑が混在しているところに、輝かしい織斑の名前を持っていくことができなかった。だから、前の名字を棄てて、今の『紅城』を名乗ることにしたのだ。もう、名字が変わっちゃったけど、お姉ちゃんには妹としてみてもらえて良かったと思っている。

 

「別に私はそんなこと気にしないのだがな…………それに、お前が誰かを助けたということを私は誇りたいぞ」

「き、聞いてたの!?」

「扉越しにな」

 

そう言って、してやったり、という顔をしているお姉ちゃんはなんだかムカってしたけど、こんなお姉ちゃんを見るのは初めてだなぁって思った。世間ではお姉ちゃんが完全無欠完璧超人の鬼と思われているけど、ちゃんとした人間で、そして何よりも私の大切なお姉ちゃんだ。そこに変わりはない。

 

「はははっ、そうむくれるな。明日は遊撃を担当することになったが…………いざという時は私が助けてやるからな。フレズヴェルクの事は私に任せておけ」

「うん…………でも、お姉ちゃんも無理だけはしないでね?」

「善処してやる」

 

約束はできないんだ…………でも、お姉ちゃんの事だからちゃんと守ってくれそう。お姉ちゃん、約束を破った事一度もないからね。

 

「そろそろ就寝時間か…………お前の仕事も大変そうだが、お互い頑張るとするか」

「うん! それじゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみ一夏」

 

お姉ちゃんはそう言って部屋を後にした。部屋に残った私は直後不安に駆られてしまった。お姉ちゃんはあの魔鳥の事を任せてっては言っていたけど…………それほど簡単に済む話じゃない。勿論、お姉ちゃんが力不足ってわけじゃないよ。ただ…………あの魔鳥はとても危険な存在だ。一機で中隊クラスの部隊を壊滅させたとかという話も聞いた事がある。だから…………世界でたった一人のお姉ちゃんだから、絶対に死んで欲しくはない。もしもの時は——私がお姉ちゃんを守る。これも簡単に済む話じゃないけど…………でも、それくらいの決意はしないとね。そう思いながら、ベッドへと倒れこんだ。私の意識が微睡みの先に消えるまで殆ど時間はかからなかった。

 

 

『——作戦部隊に次ぐ。当該区域の民間人は避難完了。繰り返す、当該区域の民間人は避難完了』

「こちら作戦指揮官。了解した」

 

現在時刻五時五十分。こんな時間に避難活動を終える事ができたって相当すごい事だよね。その事を伝えるアナウンスが、現在待機中の輸送機(C-17G グローブマスターⅢ ドイツ軍仕様)の中で聞こえた。なんで輸送機の中にいるのかって? まぁ、シグルス少尉やオルコット少尉の機体は空戦型だから飛べるんだけど…………燃費が悪いし、長距離移動した後に戦闘機動を行おうものならすぐに推進剤が切れてしまう。基本的に長距離移動の際には輸送機が活躍する。一応ISと同じように待機形態にする事は可能だけど、エネルギーの消費が激しいんだよね。いくら無尽蔵にエネルギーを生み出すUEユニットとはいえ、それにエネルギー流路が耐えられない。多分ISでも無理。それを抑えるために別のエネルギーを使ってしまうから稼働限界がある。待機形態から緊急展開するとそこで抑制エネルギーを膨大に消費してしまう。それに、空戦型よりも陸戦型が多いFAだから、足となる輸送機が必要なのだ。日本でも最初はなんだかんだ言っていたけどこれ(C-17)日本版(C-17J)を使ってるし。

 

「さて、諸君。あの宇宙からやってきた忌々しい機械人形が再び我々に刃向かおうとしている。我々は軍人だ。民間人を守るのが務め。何より、我が祖国の土地を不埒は機械人形共にいいようにされてたまるものか! さぁ、いよいよ作戦開始だ。奴らに絶望の宣告(フェアツヴァイフルング・スマーケン)を下してやれ!!」

 

ラウラの訓示が終わると共に、待機していたタイフーン(EF-2000)十六機が一斉に離陸していく。あれ、大体四分の三が爆装した機体でしょ? というか爆撃もこれで大丈夫なの? アメリカとかは大胆に大型爆撃機(B-52 ストラトフォートレス)とかを投入している…………って、それはあのリアルチートな国だからできる技か。

 

『タイフーン01よりFA各機へ。お嬢さんらは心配するな。俺たちが盛大にアリ(アント)共を巣ごと吹っ飛ばしてやるぜ! タイフーンリーダーより各機、奴らを暴風圏内に案内してやるぞ!』

『『『うぉぉぉぉぉっ!!』』』

 

ちょうど私達の輸送機も離陸した後に、爆撃部隊の隊長からそんな言葉を受けた。きっと彼らも早く自分の国をアントから取り戻したい、その一心なんだと思う。そう考えると自然と気持ちが引き締まった。たとえここが日本じゃなくても、私達は一体でも多くのアントを倒す、それがFAという人類の反攻の刃を託された者たちの使命であると思っている。

 

「全くもって戦闘機乗り(ファイター)というのはどこのやつでも血気盛んだ」

 

少し苦笑交じりでシグルス少尉がそう言う。彼女は対地攻撃用に改造したスーパースティレットⅡ(SA-16s2-E)を装備している。というか、その言ってる本人も十分戦闘機乗りに近いと思うけど?

 

「いやいや、まだ戦車乗り(タンカー)よりはマシだって。あっちは血気盛んを通り越して暑苦しいよ」

 

そう言うのはエイミーだ。こちらは対照的に近・中距離での戦闘を主眼に置いた轟雷(M32)を装備している。一般機と違って背部に二門の滑腔砲を構えているのが特徴的だ。って、こっちも本人がむしろ戦車乗りを彷彿とさせるんだけど? アメリカ軍ってこういうノリの人が多いのかな?

 

「それに比べたら狙撃手(スナイパー)の物静かさは一線を画しますわ。静かなる情熱こそ戦場の美学です」

 

そう言って上品さを出しているのはオルコット少尉。彼女は追加バイザーとスナイパーライフルを装備した狙撃仕様のラピエール(SA-17SP)を装備している。ライフルはどうやらストロングライフル(HWU-01)の改造品のようだ。こっちもこっちで機体にパイロットが反映されているのか、それともパイロットが機体に反映されているのか…………どっちなんだろ。しかも様になっていてなんと言ったらいいかわからない。

 

「いやはや、こいつのせいでまともに動きがとれんな。サブアームがあって良かった」

 

そう言って武装を武器ラックから取り出していたのはボーデヴィッヒ大尉だ。彼女は見た目からは想像がつかないが、掃討戦用に改造した輝鎚(M48)を装備している。特に頭部が変わっていて、輝鎚・甲(M48type1)輝鎚・丙(M48type3)を足してそこにウサ耳のようなモジュールがつけられていた。烏帽子頭でも恐竜じみた頭でもない輝鎚って新鮮だなぁ…………。

 

「この中では私が一番浮きだって見えてしまうな…………」

 

そう言っているのはお姉ちゃん。装備しているのブリーフィングで説明された試作機改造型のゼルフィカール(YSX-24RD)。お姉ちゃん用に改造されているらしいけど、原型機を見たことがないからなんとも言えない。ついでに、この中では一番派手な色合いをしている。ちなみに一番地味なのは私。

 

「…………砲撃手(ガンナー)だってたまには熱くなりたいよ…………」

 

そう言って嘆いていたのは私。装備している榴雷・改(M38GS)はグランドスラム中隊用に改造されたもの。だけど、それ以上に目立つのは、今回支給された拠点攻略武装リボルビングバスターキャノン。かなり大きくて、両手持ちしないと扱えないというとんでもない代物だった。なんでこれを私に支給したのかなぁ…………第一すぐに実戦投入は動作の信頼的な意味もあって不安しかない。

 

「さて、そろそろお喋りは終わりだ。間もなく降下地点に到達する。さぁ、準備はできたか?」

「降下!? この高度から!?」

「流石に低空からのアプローチでしょ」

「こんな高度から落ちたら私の機体が地面に埋まったぞ」

「…………降りたことがあるのか?」

「…………ドイツ軍も時々とんでもないことしてますよね」

 

どうやら降下地点にもうすぐ着くらしい。高度が下がってきたという事は外を見ればよくわかる。さて、その前に一度全部の信管の設定を切っておこう。降下して万が一信管が反応したら、ある意味爆装している私は大爆発に巻き込まれること確定だ。

 

「で、ですが! 空母からの発艦ならまだしも、私は降下作戦など初めてですわ!」

「私に至ってはそれすら未経験だぞ!?」

「心配しなくていい。手本はちゃんと見せる。グランドスラム04、降下体勢に入れ」

 

どうやら大尉は私で見本を示そうというつもりらしい。別に嫌がらせ目的というわけじゃないことはわかっているし、砲撃担当の私が先に降りないといけないのはわかっている。

 

「グランドスラム04、了解」

 

私は降下用パレットの上に乗る。パラシュートはこれについているからこっちは特に装備する必要はない。おかげで背中の主砲を外さなくていいんだけどね。

 

「降下地点到達三秒前」

「グランドスラム04、いつでもいけます」

 

そりゃ、私たちの部隊はなんだかんだで空挺降下したことあるし、館山基地から北部戦線の支援の為稚内基地まで飛んだりしたことあるし。正直なところ、この程度の降下は慣れているのだ。そういえば、もう第二次降下艇基地カムチャッカ降下艇基地の攻略は進んでいるのだろうか。稚内基地があるのって、あそこから流れてくるアントの迎撃目的だし。まあ、今この場では関係ない事だけどね。とりあえず、私は降下用パレットのグリップを掴む。右腕のリボルバーカノンが干渉しかけたが、回転させて事なきを得た。後ろでカーゴハッチが開く音が聞こえる。もう間も無くだね…………さぁ、行こうか、榴雷。

 

「降下ぁっ!」

 

大尉のその声とともにパレットは射出され、大空へと躍り出た。パレットのパラシュートはしっかりと展開されている。さて…………それじゃ私の仕事を始めるとしますか。地上に降りた事を確認すると、すぐに姿勢安定用の前部アウトリガーと後部履帯ユニットを展開する。そして、主砲である六七式長射程電磁誘導型実体弾射出機(M67 LR-PSC)——ロングレンジキャノンを構えた。頭部のバイザーが降り、目標までの情報がダイレクトに脳に伝わる。FCSが目標である前線基地を捉えたと同時に、私は主砲を放った。電磁波特有の音が出たと思った瞬間に、砲弾は奴らの巣窟へと飛んでいった。それと同時に、弾道よりはるかに上から爆撃が開始された。それは本当の意味での作戦開始を意味しているように思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——この時、まさかあんな事になるとは誰も想像できなかったのだった。




学園編前まで来たら機体解説会でも挟もうかな…………。

誤字報告とか感想とか待ってます。

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