FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、紅椿の芽です。

この間発掘したACVDのエンブレムエディットで第十一支援砲撃中隊のエンブレムを作ってみました。


【挿絵表示】


写りが悪いかもしれませんが、だいたいこんな感じのものだってイメージしてください。

では、前書きはこの辺にして。今回も、生暖かい目でよろしくお願いします。







Chapter.17

『——それで、この話は本当なのだな?』

「——ええ、私が実際にこの耳とこの目で得た情報です。一応、そちらへは詳細事項をまとめた書類データを送ってあります。どうかお目通しを」

『——わかった。閲覧が完了次第、再度君へ連絡しよう。詳しい事はその時だ』

「——了解しましたわ、ガルヴィード様。では、後ほど」

 

一夏と秋十の試合終了後、共に観戦していたエイミーやレーアと別れ、人目のつかないところで連絡を取り合っていたセシリアは端末を閉じた。報告を終えたセシリアはどこか疲れたような表情をしている。しかし、それは報告が大変だったからではない。それよりももっと大きく、さらに面倒な話がこの後に控えている事が容易に予想できたからである。彼女自身、何か面倒事が起こる事は予想していたが、よりにも入学して一週間も経たないうちにそれは起きてしまった。そして、その内容も下手をしなくても外交問題に匹敵するもの。その事がより一層彼女を疲れさせていたのだった。

 

(——ですが、これももうすぐ終わるもの。塩を塗り込むのは、傷が新鮮なうちでなくては…………貴方の天下は刹那的なものですわ)

 

そう心の中で呟いた彼女は、まるで何事もなかったように寮へと歩みを進めたのであった。

 

 

『——夜分遅くにすまないな、セシリア』

「——いえ。こちらこそ、朝からあのような報告をしなければならなかった事をお詫び致しますわ」

『その必要はない。君は、君のなすべき事をしただけだ』

 

寮へと戻り、夕食を済ませたセシリアの元に来たのは、セシリアがガルヴィードと呼んでいた男からの通信であった。向こうの様子は彼女が知るいつも通りの雰囲気ではあったが、声音にはどこか呆れが含まれていた。それを耳にしたセシリアもまた、彼にそのような思いをさせる書類データを本国にいる彼に朝早くから見せてしまうことになり、申し訳ない気持ちになっている。しかし、それを感じ取った彼は、彼女に対して労いの言葉をかけるあたり、極めて紳士的である事を改めて彼女に感じさせるのだった。

 

「そう言っていただける事、心より感謝致します」

『そうか。しかし、君のその素直な心と礼儀正しさは我々英国七大貴族(セブンスブライト)の中でも特に秀でている。先代のオルコット家当主、シルヴィア・オルコットの遺産の中では君ほど値を付けられないものはない』

「私には勿体無きお言葉にございます。セブンスブライトの一席を預かる者として、これからも精進させていただきます」

『ハハハ、昔、私を少し年の離れた兄のように思っていたセシリア嬢はどちらへ向かわれたのだろうな』

 

少なくとも貴方の記憶の中にはいますわ、と答えたセシリアは少しだけその疲れが取れたかのように気を休める事ができた。彼女が幼い頃から親交のあったガルヴィードの言葉には、先程までの上司と部下という関係性を全く感じさせず、むしろ近所に住む少女と会話をする青年といった雰囲気である。この一週間、頭痛に悩まされていたセシリアにとって、この瞬間はその悩みから解放されるとともに、少し懐かしさを感じていたのだった。

 

『——さて、そろそろ本題に移るとしよう。その前に、他にその場に人はいるのか?』

 

しかし、そんな雰囲気も束の間。咳払いをしたガルヴィードはそうセシリアに告げる。

 

「いいえ。この場には私一人のみです。同居人には席を外してもらっています」

『そうか。ならば、問題なく話せるか』

 

セシリアからそう言われたガルヴィードは少し間を置いてから言葉を発した。

 

『君を除いたセブンスブライトでの協議の結果、一度本国で査問会を開くことになった。そこでファルガス家への処遇等を決める。君もリーガン・ファルガスと共に本国へ帰還してくれたまえ』

 

ガルヴィードはセシリアへ帰還命令を出した。それも、この都度問題を引き起こしてくれたあのイギリス代表候補生、リーガン・ファルガスと共にだ。その命令が意味するのは、護送役か、もしくは監視役か…………いずれにせよ、これ以上の面倒事を引き起こさないためのお目付役であると、彼女は思った。

 

『移動手段として超音速機をオーストラリア経由で成田へと送る。これならば学業と護衛任務への支障は最低限のものになる筈だ』

「では、こちらの方で彼女を拘束しても良いと?」

『抵抗した場合に限ってのみ許可しよう』

 

それを聞いた彼女は、一週間の溜まったストレスを晴らすべく例え抵抗しなくてもスタンガンでも突きつけてやろうと考えたのだった。いくら一夏がボコボコにしてくれたとはいえ、自身の戦友に侮辱と取れる発言を幾度と無く繰り返した代表候補生をそう簡単に許せるほどセシリアは優しくなかった。持ち込んでおいたスタンガン、もしくはテーザーガンのどちらを使うか、頭の片隅でそのようなことを考えていたのだった。

 

「了解しました。その任務、謹んでお受けさせていただきます」

『そちらにいる我が国の人間でまともなのが君しかいないというのが残念でならない。苦労をかけさせるが任せたぞ』

「いえ、ガルヴィード様直々の命を任せられる事、光栄に思います」

 

セシリアのまるで主人に仕えるような態度を見たガルヴィードは思わず笑みをこぼしていた。昔の面影は残っていない。もう一人前の淑女である、そう彼は内心思っていた。

 

『では、本国で待っている。それと、彼女に伝えてくれないか?』

「それは、リーガン・ファルガスへ、でしょうか…………?」

『まさか。グランドスラム中隊の英雄にさ。『君への非礼を詫びよう。ただし、やりすぎるのは程々にしてくれ』と。頼まれてくれるか?』

 

ガルヴィードの言葉にセシリアはくすりと笑みをこぼした。やりすぎるなと言っている割に、当の本人はやけに綺麗な笑みを浮かべているのだから。それに、セブンスブライトを総括する彼からの侘びの言葉、それを贈られる一夏は、説明を受けたらどのような反応をするのだろうか。きっと彼女の事だ、見た目通りの可愛らしい反応を見せてくれるに違いない。それを考えただけでも可笑しくてたまらなかった。

 

「ええ、わかりましたわ。その言葉必ずや紅城中尉へとお届けいたします」

『頼んだ。では、私はこれで失礼する。皮肉のように聞こえるかもしれないが、良い夜を過ごしてくれ』

 

そう言ってガルヴィードは通信を切った。セシリアは通信が完全に切れたことを確認すると椅子にもたれかかった。ここに来て一気に疲れが押し寄せてきたのだろう。その証拠に彼女はため息を一つ吐いた。

 

(——ですが、悪い芽を摘み取るのも人の上に立つ者としての役目。ガーデニングもなかなか大変なものですわ…………)

 

明日は朝早くから気の滅入るような事をしなければならない。それに、まだ自分の隊の指揮官にその旨を伝えていない。せめてそれだけでも済ませておこうと思った彼女は椅子から立ち上がり、部隊指揮官である一夏の部屋へと向かったのだった。正直な事を言えば、彼女と一夏はケータイのメールアドレスも電話番号も交換済みである。しかし、今の彼女にはそのメールを打つ気力も、電話をかける気力も出なかった。むしろ、その気力を持ち直すために、現状部隊の癒しと化している指揮官のもとに向かうというものである。その際に旨を伝えるそうだから、一応合理的であるのかもしれない。

 

「すみません、一夏さん。セシリアです。中に入れてもらってもよろしいでしょうか?」

 

一夏の部屋の前まで来たセシリアは、中へ入れてもらうため扉を軽くノックした。いくら消灯時間前とはいえ、最低限のマナーは守らねばならない。ましてや、相手は同年代でタメ語で話してと言われていても自分の指揮官であることに変わりはない。より一層、無礼な真似はできないと自身に言い聞かせていたのだった。

 

『うん、いーよー。入ってきてー』

 

だが、返ってきた返事は自分の考えている指揮官の返事としては非常に軽い物。かしこまって挨拶したのは間違いではないが、一夏相手なのであればもう少しフランクに話しかけても良かったのではないかと、セシリアは一瞬思った。

 

「では、失礼いたします——」

 

住人から許可が下りたため、セシリアは普通の挨拶をして中へと入ったが…………その中の光景を見て思わず言葉が出なくなってしまった。何故なら——

 

「あ、ごめんね。今丁度、シャワー浴び終わって、髪も乾かし終わったところなんだ。私の事は気にしなくていいから、その辺の椅子に座ってて」

 

——風呂上がりで、なおかつ普段はおろしている髪を纏め上げており、その色っぽいうなじについたわずかな水滴とおそらく湯の温度のせいでほんのりと赤くなっている頬、そしてご満悦そうな微笑み顔…………そのどれもがセシリアの視界を埋め尽くし、占拠していく。おまけに着ているパジャマもクールな淡い蒼が基調となっているが、どこか可愛らしいデザインをしているのも相まって、色気と可愛らしさ、その両方を同時に装備した一夏は、今の疲れが溜まっているセシリアにとって、自分の疲れを吹き飛ばすのに効果抜群であった。

 

(ちょっと待ってくださいまし!? なんなんですのこの可愛らしさは!? 地球にはまだこのような方が…………最早天使、そう天使も同然ですわ!! あぁ…………直々に伺った甲斐がありましたわ〜!! …………あ、意識が…………意識が飛びますわ…………)

 

予想をはるかに上回る破壊力であり、疲れどころか意識まで持っていかれるところであったのだった。しかし、そんな事を知らない一夏は、何故セシリアが入り口止まってしまったのかを理解できず、不思議に思って小首を傾げる。それを見たセシリアが再び脳内で暴走するのは誰にでも予想できた。

 

「? どうしたの?」

「い、いえ! なんでもありませんわ!!」

 

必死になってなんでもない事を証明しようとするが、ここで慌てることは自ら何かあった事を教えるようなものだ。だが、一夏は今髪を乾かす事に集中しており、別段彼女の動きなど気にも留めていなかった。

 

(やべーですわ…………不謹慎ですが、これは愛が噴き出そうになります…………)

 

日本とはつくづく恐るべき兵器を生み出しているのだと、この時セシリアは内心思っていたのだった。

 

「あ、なんかお茶でも飲む? よかったら用意するよ?」

「い、いえ! お気になさらずに。業務連絡をしに来たようなものですから」

 

そうだ、自分は明日からの事について伝えに来たのだ——突然の事に惚けてしまっていたが、これを怠ってしまうわけにはいかない。それに、ここに長居しては彼女の精神がどこまで理性を抑えられるかわからなかった。故に、非常に残念なことではあるが、一夏からの申し出を断ることにした。なお、セシリアに特殊な恋愛感情はない。一先ずは、先ほど一夏に促されたように椅子へと腰を下ろすのだった。

 

「業務連絡? それって…………意外と他人に聞かれたらマズイ代物?」

「…………ええ。ところで雪華さんは?」

「大丈夫。雪華なら、ほら」

 

そう言って一夏が指差す先には布団の中に潜り込んで眠っている雪華の姿があった。しかも、起きる気配は微塵も感じられない。

 

「今日の模擬戦まで、雪華は私の榴雷の調整をずっとしていてくれたから…………その疲れがどっと出たみたくてね」

「そういえば、整備担当は雪華さんだけですものね…………」

「でも、布団の中に潜り込んでまで眠るなんて、なんだか子供っぽいよね」

 

貴方も人の事を言えないと思うんですが——そう言おうかと思ったところで、セシリアは言葉を出すのを止めた。雪華を見る一夏の顔は、まるで頑張った娘を見守る母親のようにも見えたから…………今その事を口にするのは野暮なものであると判断したからである。本当に不思議な人だ、そう一夏に対して思ったのだった。

 

「そうですわね。——では、業務連絡の方に移ってもよろしいでしょうか?」

「そうだね。一体何があったの?」

 

雰囲気を変えたセシリアに釣られ、一夏もまた任務時のような真剣な顔つきになる。セシリアは軽く一息つくと、連絡事項を伝えた。

 

「明日の零時よりしばしの間、本国への一時帰還命令が発令されましたので、しばしの間、この部隊から外れさせていただきます」

「一時帰還命令? となると、あの代表候補生絡みの件?」

「お恥ずかしながら…………内容についてお話しすることはできません。それと、この事は内密に…………」

「わかってるって。みんなに聞かれても、こっちで適当に言っておくから」

「…………感謝いたします」

 

一夏自身は大した事をしたわけではない。ごく当たり前のことをしただけである。だが、あの口煩い女尊男卑主義者をしばらくの間相手しなければならないという億劫になる仕事が控えているセシリアにとっては、少しばかり心労が減りそうな気がしたのであった。

 

「…………なんかお疲れ気味だね、セシリア」

「やはりそう見えますか…………?」

「うん。セシリアが頭痛のタネを抱えているのはクラスの誰もが知っていることだし」

「…………本当、あの無知っぷりには頭が痛くなりましたわ。あのような者が私と同じ貴族だなどと、信じたくありませんわ」

「あはは…………」

「それに一夏さんにあんな真似までして…………本当、申し訳ありません」

「セシリアが謝る必要はないよ。非があるのは向こうなわけだし、それに…………」

「それに?」

「私達は影の住人だからね…………事実は殆ど隠蔽されてるから、知らないのも非難されるのも仕方のない事なんだよ…………」

 

そう言う一夏の目は、とても悲しそうな目をしていた。セシリア自身、自分達がやっていることは隠蔽されてしまっているということは知っている。だが、自分にはセブンスブライトの一席という肩書きがある為、非難を受けることは殆どなかった。受けたとしても同じ貴族間でのものである為、仕方ない事と割り切っていた。しかし、目の前にいる一夏にはそんな大層な肩書きは存在していない。日本の英雄と言われようとも、国がそれを報じない限り、IS至上主義の蔓延したこの世界では腫れもの扱いされる。セシリアはそれをついこの間、目の前で見てしまった。それ故に、今の一夏の言葉はやけに重く感じられたのだった。

 

「ごめんね、なんか余計に疲れそうな話をしちゃって」

「いいえ、一夏さんの心境を聞けて良かったですわ。では、夜も遅いのでそろそろ失礼します」

 

セシリアはそう言うと席を立ち、一夏の部屋を後にする。もしかすると、彼女は逃げたかったのかもしれない。あの悲しげな瞳から…………。セシリア自身、何故命を懸けて守っている者にこのような仕打ちがあるのだろうか、その事が頭の中を駆け巡る。日本とは違い、イギリスの女尊男卑思考は一部にとどまっている。故に多くの国民が、伝統と格式のある軍に敬意を表している。だが日本はどうだ。自国とは全く違う、女尊男卑とIS至上主義の風に当てられた者たちが、自分達の国と命を守っている者達を非難し蔑んでいるのだ。そして、それを目の前の少女に強いるのか…………一夏の悲しげな瞳がセシリアに今の現実を如実に伝えているようだった。

 

「そう言えば、一夏さんお伝えする事がもう一つありましたわ」

 

部屋を出る直前、セシリアがある事をふと思い出した。彼女はもう一つ、一夏へと伝えなければならないことがあった。それも、自身の所属する英国七大貴族(セブンスブライト)を総括する者からの伝言を。

 

「えっ? 何?」

「英国七大貴族を総括する者からの伝言です。『君への非礼を詫びよう』との事でした。では、良い夜を。おやすみなさい」

「あ、うん。おやすみなさい」

 

ガルヴィードからの伝言を伝えると、一夏は予想していなかった事に、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。予想した通りの反応を見せてくれた事を確認すると、セシリアはそのまま部屋を後にしていった。伝言の一部を伝えなかったが、セシリアはこれでいいと思っている。やり過ぎ、だなんて言葉を出すのはもう少し事が落ち着いてからでも遅くはない。自室へと戻る彼女の足取りは、来る時とは違って少しだけ軽くなっていたのだった。

 

 

「——さて、これで全員揃ったようだな」

 

イギリス某所にある議事堂にてガルヴィードはそう言葉を漏らした。彼の目の前には向かい合うように座る六名の姿がある。その中にはセシリアの姿もあった。この七名——セブンスブライトの中では最年少である彼女であるが、その周囲にいる大人にも引けを取らない落ち着き払った態度をしており、貴族のあるべき姿を体現しているとセブンスブライト内外問わず評されている。そして、そのセブンスブライトを総括するガルヴィードと向き合うように座らされているのは、件の代表候補生、リーガン・ファルガスだ。リーガンの手には反抗できないようセシリアの手によって手錠がかけられていた。その事に怒りを感じているのかはわからないが、ガルヴィードの言葉があるまで彼女の事を睨み続けていた。尤も、そのような視線を受けてもなおセシリアは毅然とした態度を貫いていたが。

 

「では、これよりガルヴィード・ウォルケティアの名の下に議会を開く。皆、異論はないな?」

 

ガルヴィードの言葉に反論する者などこの場にはいない。いたとして、リーガンではあるが、セシリアを始めとする六名の放つ雰囲気に口を開く事すら阻まれていた。

 

「ここに来た以上、異論など元からありませんな。貴方もそうでしょう、ゲルネーク公」

「全くその通りだ、エルヴァレス公。女尊男卑という悪しき風潮を消し飛ばす彼を信用しなくては、老人として立つ瀬がないわい」

「ゲルネーク公のお元気の良さは相変わらずだ。我々も見習わねばならないな、ザルガルド公」

「よしてください、ディメニン公。これ以上あなたが元気になったら止められる気がしませんよ」

「オルコット女公、すまないな。わざわざ日本から帰国したというのに、相変わらず元気の良すぎる顔ぶれで会議が始まらなくて」

「ヒルツ公、お気になさらずに。最早これは一種の通過儀礼のようなもの。無かったらかえって落ち着きませんわ」

 

この中で唯一の女性当主であるセシリアだが、その毅然とした態度故、周りに集う貴族の中でも引けを取らない。むしろ、その中に溶け込んでいる。そして、その会話も日常的に交わされるような会話であり、ガルヴィードを含めた七名の中に、一般的な貴族がする互いの懐を探り合うような素振りはない。誰もが高貴であるが故に、民を導くことを義務としている為、そのような下賎な真似はしないのである。

一方で、同じ歳なのになぜこうも違うのか、なぜ私がこんな目に遭っているのか——女尊男卑に染まった思考がリーガンを惨めな思いにさせていく。自分を優位に立たせるはずだった女尊男卑という風潮が今の自分の首を絞めているとは気づかずに。

 

「皆の者、本日集まって貰ったのは談笑する為ではない。我が国の代表候補生、リーガン・ファルガスへの処罰についてだ」

 

ガルヴィードのその言葉を聞いた瞬間、リーガンは思わず目を見開いた。ここに来るまでの間、彼女を引き連れてきていたセシリアからはセブンスブライトからの呼び出しとしか聞かされていなかった。勿論、セシリアが嘘をついていたわけではない。ただ、彼女に与えられた情報が少なかっただけだ。処罰など聞いていない、なぜ私が処罰されなければ——自分は選ばれた者、他は自身に付き従う者と認識している彼女にとって、処罰が降ることは理解ができなかった。

 

「オルコット女公からの報告によれば、日本への侮辱ともとれる言動、人種差別に抵触する発言、初の男性操縦者への暴言、そして日本国防軍、及び日本国防軍人に対する明らかな侮辱——これだけでも時と場合によっては日本との戦争状態に入りかねん状況だ。さらに、国防軍人である紅城一夏中尉への暴力、と…………君は一体何がしたいんだ?」

 

ガルヴィードによって淡々と述べられていくリーガンの犯してしまった過ち。それを今この場で初めて耳にしたガルヴィードとセシリア意外は様々な反応を見せる。ため息をつく者、呆れ返る者、怒りを露わにする者、冷ややかな目を向ける者、眉間を押さえる者…………反応こそ違えど、その根底にあるものは、拘束されているリーガンへの失望のようなものであった。

 

「加えて、代表候補生更生プログラムを受けてもなお、紅城中尉への暴言は止まらず。結果的に我が国の第三世代機[ブルー・ティアーズ]を大破させた、と…………本当に君は代表候補生なのかと疑いたくなる内容だ」

 

実際のところ、この中にリーガンへ期待を抱いているものなどいない。代表候補生はどこまで行こうと結局のところ、数ある中の候補にしか過ぎない。替えなどいくらでも存在しているのだ。これからは選考基準に性格の審査を含めるべき、もしくは自らが審査を行うかとガルヴィードは考えていた。

 

「ウォルケティア公、ブルー・ティアーズの件ですが、どうやらもうメインユニットが多大なダメージを受けていて、修復には軽く見積もって一ヶ月を要するとの事です」

「これは派手にやってくれたな…………技術局の奴らが泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶ。コアは無事だったのか?」

「はい。ですが、こちらも辛うじてという状態です。曰く、『あと一ミリ、ブレードが食い込んでいたら怪しかった』、だそうで…………」

 

ザルガルド公からの報告を聞いた面々はさらに頭を抱える。一体何をどう怒らせたらそうなってしまったのか、日本との戦争状態突入がこの程度で済んだからよしとするべきなのか——その問答に答えはないが、しばらくは頭痛の種になる事は確実であった。そして、リーガンはその事実に顔を一気に青くする。自身に与えられた特別な力の象徴である専用機がそこまで無惨に破壊されていた事に絶望感を抱いた。違う、私のせいじゃない、壊したのはあの国防軍人のせいだ——反論しようにも、彼女の言葉を聞き入れる耳など誰も持ち合わせていない。既にこの場において彼女は爪弾きにされているも同然なのであった。

 

「せめてもの救いがあるとしたら、予備のパーツが揃っていた、ということだけか…………」

「それと、日本との戦争にまで発展しなかった事もありますな…………国防軍の練度は世界屈指ですから」

 

もし、戦争状態に突入していたら…………そのことを考えたエルヴァレス公の顔には冷や汗が浮かんでいた。物量で勝る米中露、そして質で勝る日本…………このいずれの国一つでも敵に回したら最後、英国の未来はない。

 

「だが、儂としては国防軍人である紅城一夏中尉を侮辱したことが許せんのぉ」

「ゲルネーク公…………もしや、あの時のことを仰られるのでしょうか?」

 

この中では最高齢となるゲルネーク公がその貫禄に満ちた声で言う。そのことに対して、ほぼ彼の付き人と言っても過言ではないディメニン公が尋ねた。

 

「ディメニン公、その通りだ。かつて儂等が国防軍の演習を視察しに行った時だ。基地の近くで渋滞に巻き込まれてしまってな、そこらから歩いて向かったのだが、慣れない土地故に道に迷ってしまったのだよ。その時に儂等を基地まで連れて行ってくれたのが、紅城中尉だったのだ。国防軍人は誰もが親切だが、彼女ほど心優しい者は初めてだったな、ディメニン公」

「あの時、ゲルネーク公に対して『お爺ちゃん、大丈夫ですか?』と彼女は尋ねてきたものだから、こちらは内心冷や汗ものでしたよ」

 

その後で今回の重役と聞いて慌てふためいていましたがね、とディメニン公は付け加える。そんなエピソードがあったとは知らなかったセシリアは、一夏の優しいところは相変わらずだと思い、他の面々も初めて聞かされ、自ずと感嘆の声を漏らした。そして、そんな心優しい軍人を貶めたリーガンへと冷たい視線が集中する。

 

「な、何故…………」

「何故、か…………それは君自身がよく知っている筈だ。他ならない君が蒔いた種が芽吹いた結果。もし、それに気づいてないのなら——君は愚者に他ならない」

 

リーガンの言葉に反応したヒルツ公。彼なら私の事へ口添えしてくれると、淡い希望を抱いた。しかし、返ってきたのは辛辣な一言。ヒルツ公自身、初めからリーガンに期待など寄せていない。

 

「ヒルツ公、その辺にしておけ。諸君、時間はあまりない。そろそろ彼女への処罰を決めるとしよう」

 

処罰の言葉が聞こえた瞬間、リーガンの背筋に寒いものが走った。自分のこの先が他人の手によって決められる…………今まで自分の思うように進んできた道を変えられる恐怖は計り知れない。思わず彼女は震え上がった。

 

「リーガン・ファルガス。ブルー・ティアーズを国家へ返却、及び君の代表候補生資格を剥奪、そして君をIS学園より退学させる事に決定した」

「なぁっ…………!? そ、そんな…………」

 

ガルヴィードより告げられた自身への罰。自分が今の地位から降ろされる——女性権利団体からの援助により就くことのできた、本人からすればいて当然の場所から弾かれる事は、彼女にとって自分の命を絶たれるも同然のことであった。

 

「加えて、ファルガス家には資産の二割を接収、ブルー・ティアーズの修理費を六割提出、そしてこの度学園での模擬戦で使用した弾薬費の全額支払いをしてもらう事にする」

 

追い打ちをかけるように提示される新たな罰。自身だけではなく、その一族も貴族としてこの先生き残れるかを不安にさせる内容だ。リーガンはこれを横暴だと捉えたのか、ガルヴィードに向かって反論をした。

 

「それは…………いくらウォルケティア公とはいえ、横暴です!! それでは、私の一族は——」

「——忘れたのか。君は代表候補生、即ちは何れ代表への道を歩む可能性を秘めた者だ」

「な、ならば尚更の事——」

「——だが、いくら候補生といえども、他国を貶める発言など許される筈がない。君はその愚行を犯した。責任は君への処罰だけでは済まない。ならば、君の一族へと飛び火するのは明白な事であろう。ヒルツ公の言葉を借りれば、これは君が蒔いた種が芽吹いた結果。自分で蒔いた種は自分で手入れをしなければならない。無論、政府と話し合った結果だ。変える事はできない。最悪の事態にならなかった以上、これでもかなり譲歩した方だ。国外追放にならなかっただけマシだと思うがいい」

「あ、あ、あぁぁ…………」

 

身の振り方を間違えた結果、自身の身を破滅へと追いやってしまった。ガルヴィードは言葉にこそ出していないが、もう道は残っていないと暗に伝えている。今のリーガンの目の前にあるのはセブンスブライトの面々ではなく、ただ暗く先の見えない闇であった。声にならない悲鳴をあげ、現実を否定するかのように彼女は首を振った。

 

「せ、セシリア! あ、貴方からも何か言って!! わ、私は…………私は——」

 

そんな時、リーガンは視界に映ったセシリアへと助けを求める。セブンスブライトの中で唯一の女性であり、自分と同年代…………少しは情けをかけてくれると思っていた。

 

「そうですわね——」

 

何か口添えをしてくれる——セシリアの言動に淡い希望を抱いたリーガンであったが、

 

「——私の現在の指揮官であり、戦友であり、親友である一夏さんを侮辱した人に手を差し伸べられるほど、私は親切ではないんですの」

 

その希望はいとも簡単に打ち砕かれた。尤も、セシリアは彼女を許す気など毛頭無い。セシリアにとって一夏とは、憧れであり目標である。彼女も一夏と同じように国民を守ることに誇りを持っており、例え自分たちが蔑まれていようとも、守る為に戦っている一夏の思いを彼女は知った。そうである以上、その思いを土足で踏みにじるような行為を彼女が許せる筈などなかった。

 

「それと、これだけは言っておきますわ。貴方が一夏さんに向けて放った、『戦争ごっこ』の言葉…………それは貴方にも言える事でしてよ? 命のやり取りが無く、エネルギーが切れたら勝敗がつく——戦争がこんなにも簡単なら、この世に軍隊は存在しませんわ」

 

まさか自分の言った言葉でとどめを刺されるなど思いもしなかっただろう。しかも、この場にいるリーガン以外は皆軍属であり、セシリアは言わずとも、セブンスブライト総括であるガルヴィードも英国海軍第八艦隊の空母を一隻預かる身である。セシリアの言葉は実に的を得たものであり、リーガン以外の誰もが納得する言葉であった。

 

「ぁ、ぁ、ぁぁぁぁっ…………ぁぁぁぁっ…………!!」

「では、この議題は以上とする。衛兵、その者を連れ出せ」

「「御意」」

 

この世の終わりのような表情をしたリーガンはガルヴィードの呼び出した衛兵二名に連れられ、議事堂から姿を消した。彼女が退室すると同時に、ガルヴィードとセシリアを除いた五名は溜息を吐いていた。世の中に存在している女尊男卑という風潮。かつての大英帝国が奴隷を用い、差別的階級を有していた事を省み、現在ではそのような差別社会が拡大しないようにセブンスブライトが設立された。しかし、それでもなお風潮に染められた悪の芽は芽吹いているという事実には、憤りを通り越して呆れしか出ないのである。

 

「皆の者、本日は忙しい中ご苦労であった。後は各自の持ち場に戻ってくれ」

 

忙しいのはお互い様だ、とゲルネーク公が立ち上がって退室したのを皮切りに、それを支えるようにディメニン公といった流れで次々と退室していく。最後にザルガルド公が一礼し、議事堂にはガルヴィードとセシリアだけが残された。

 

「セシリア、まだいるのか? 君も学園に戻らねばならないのだろう」

「ええ、私にも任務がありますから…………ですが、ガルヴィード様に後見人としてなっていただいている手前、このような面倒事を持ち込んでしまい、申し訳ありませんでした」

 

ガルヴィードへと向き直ったセシリアは彼に頭を下げた。両親が亡くなった時、彼女の後見人として名乗り上げたのは、他でも無い彼である。昔からの付き合いがあるとはいえ、自分のような年端もいかないような小娘にここまで親身になってくれる彼には感謝の念しかない。しかし、今回、自分が原因では無いにせよこの場に問題を持ち込み、彼の手を煩わせてしまった——その事を彼女は負い目に感じていたのだった。

 

「なに、気にすることはない。前にも言ったが、君は、君のなすべき事をしたまでだ。君の報告で厄介ごとの火種をまた一つ消す事ができたのだからな」

 

そう言って口角を吊り上げ笑みを浮かべるガルヴィードの顔を見たセシリアは、相変わらず業務的な方だと内心思うが、そんな彼なりの優しさが大層嬉しく思えた。

 

「しかし、彼女にお詫びの品を差し上げなければならないな…………セシリア、君に何か考えはないか? この手合い、私は少々苦手でな…………」

 

だが、非礼に対する詫びの言葉だけに終わってしまうのは、セブンスブライト総括であるガルヴィードとしてはいただけなかった。かといって、一夏の知らないようなものを渡してしまい、逆に混乱をさせるわけにはいかない。とはいえ、彼が今まで女性に対して贈った物は宝石などの装飾品がほとんどだ。決して身分を低く見ている訳ではないが、そのようなものを贈るわけにはいかなかった。下手をすれば賄賂とも受け取られる可能性が高いからである。故に、同じ女性であり、なおかつ彼女とも付き合いのあるセシリアに頼むのは理に適ったことであった。セシリアもまた、彼からの相談に全力で応えようとする。しかし、一夏のことを思い返してみれば、詫びの言葉だけでも相当驚いているわけであり、これ以上驚かせるのは…………と一瞬考えた。だが、できるのであればさらに驚かせてみたいものだ、とも思っている。セシリアにとって一夏は、自身の指揮官だけでなく、精一杯愛でる対象でもあったのだった。

 

「そうですわね…………」

 

ならば、どのようなものが良いのか、セシリアは脳をフル回転させて選択する。そして、一つの答えにたどり着いた。

 

「では、このようなものはどうでしょうか?」

「なるほどな。ではすぐに手配するとしよう。遅くとも君の出国三時間前までは用意させてもらうよ」

「感謝致します。では、私もこれにて」

 

そう言ってセシリアは議事堂を後にした。さて…………一夏は一体どのような反応を見せてくれるのだろうか、そう考えたら今日の疲れも少しならどこかへ吹き飛びそうな気がしたセシリアなのであった。

 

◇◇◇

 

「あ、あのー、セシリア? これって一体…………」

 

セシリアがイギリスから帰ってきた日、私の部屋にセシリアは二つほど箱を持ち込んできた。一つはまるでお歳暮とかに送るようなものに見える。一体なにが入っているのだろうか? それが気になって仕方なかった。ちなみに今雪華はこの部屋にいない。なんでも、機体の調整の件で箒の部屋にいるとの事。おそらく雪華もこの場にいたら何が入ってるか気になったに違いない。

 

「これは、イギリスからのお詫びの品との事だそうです」

「お詫びの品…………?」

「はい。先日まで起きた、我が国の代表候補生の非礼に対してのお詫びですの」

 

そんな事急に言われてもね…………結局、私がファルガスさんを一方的に攻撃して倒しちゃったわけだし、しかも試作機のISを大破させちゃったから、そっちの方で責任追及があるのかと思ったよ…………。

 

「お詫びって言うけど、この中身ってなにが入っているの?」

「それは、こちらになりますわ」

 

そう言ってセシリアは箱を一つ開けた。中から出てきたのは、カップとソーサー、そしてポットのセットである。しかも、見た感じ相当高級そうな雰囲気を放つ物だよ…………見ただけで超高価だって予想できちゃうくらいなんだもん。雪のように真っ白な陶器に描かれた蒼の紋様がとても美しかった。

 

「こちらは私の家であるオルコット家と後見人となっていただいているウォルケティア家御用達のお店に置いてある茶器です。是非とも使ってください」

 

…………はいぃぃぃぃぃっ!? こ、こここここれ! こ、これ!? これがセシリア御用達のお店で取り扱っているカップなの!? しかも、セシリアって貴族だよね…………? もう完全にこれ超高級品じゃないですか、ヤダー。是非使ってと言われてるけど、絶対に使えない、というか使えそうにない。飾り物になりそうな気がするよ…………。

 

「それと、こちらの方もどうぞ」

 

セシリアはもう一つの箱を開ける。そこには幾つかの缶が入っていた。…………ねぇ、なんだか物凄く嫌な予感がするんだけど…………。

 

「え、えっと、セシリア? これは一体…………」

「こちらはセブンスブライト及びイギリス王室御用達の紅茶専門店より取り寄せたアッサム、ダージリン、ニルギリ、キャンディ、ディンブラですの。ただし、茶葉だけでは一夏さんが自由にお飲みになれないかと思いまして、無理をお願いしてティーバッグをそれぞれに用意させていただいてありますわ」

「ちょっと待って!? 王室御用達って言ったよね!? それって超高級品じゃないの!? お詫びとして受け取れないよ!!」

 

だってそうでしょ!? 確かにファルガスさんは私達を散々バカにしたけど…………でも、ここまでお詫びをされる必要もないと思うんだけど!? むしろ、ここまでしたら贈収賄容疑で捕まったりするんじゃないの!? セシリアの用意したものがあまりにも突飛すぎて、思考回路が焼ききれそうになる。本当にイギリスで何があったのさ…………。

 

「いえ、私達としてはこれだけでもお詫びとしては足りないんですの…………」

「足りないってどういう事!? 私には十分以上なんだけど!? むしろ過剰だよ!?」

「一夏さんにそう思っていただけるのは嬉しいです。ですが、今回の件、もし一夏さんが国防軍司令部へ報告していたとしたら…………日本とイギリスは戦争へと発展する可能性が非常に高かったのです。しかし、一夏さんがこの件を内密にしてくださったお陰で、戦争という最悪の展開にはなりませんでした」

 

まぁ、戦争なんて誰って嫌だよね…………私達は守る為にアントとの戦争を続けているわけだけど、国家間なんて…………人間同士が殺しあうなんてのは私は嫌だ。私がそういうのを経験した事がないから言える事なのかもしれない。軍人としてどうなのかと言われるかもしれないけど…………人間同士で殺しあうなんてのは絶対に嫌だし、したくもない。

 

「また、セブンスブライト内にもゲルネーク公のように一夏さんのお世話になった方もいらっしゃいます。お礼もできず、ましてやこのような非礼をしてしまったわけですから…………複雑ですが、これらにはそのお礼とお詫びの両方の意味がありますの」

 

ゲルネーク公…………? なんだっけ、その名前どっかで聞いた事がある——って、中隊の演習を視察に来たイギリスの少将じゃん! 確かあの時、道に迷っていたから、道案内してあげたんだっけ…………ただ、お忍びのようで階級章とかもなかったから、最初は道に迷った普通のお爺ちゃんかと思ったんだよね…………その後でそばにいた人から少将と聞かされて、速攻で反射的に敬礼しちゃったっけ…………。

 

「しかし、我が国の犯した行いは決して許されざるものではありません…………此度の件、大変申し訳ありませんでした。たとえ一夏さんから報復されようと、私達セブンスブライトは甘んじてそれを受け入れるつもりです」

 

そう言ってセシリアは頭を下げてきた。けどさ…………ここまで真剣に謝られたら、逆にこっちが困るような…………私がらみの事で悩まられるの、私苦手だし…………。自分勝手かもしれないけど、自分のせいで相手が苦しむんだったら、悩まないでサバっとして欲しいんだよね。

 

「別に報復とかなんて考えてないよ。セシリア達は何も悪くないわけだし。それに…………あれは仕方のない事だったわけだからね。おまけに、こんな高級品を贈られたら、こっちが謝っちゃいそうだよ。だから、この件はこれで終わりにしよ? ほら、顔上げて」

「感謝いたしますわ…………!」

 

本当、あのファルガスさんも貴族とか言ってたけど、セシリアの方がよっぽど貴族らしいよ。私もよくわからないんだけど、自分の事だけでなく組織としてのことにも責任を持てるってところがすごいと思う。それに、セシリアは誠実な人だから…………許さないわけにはいかないよ。だって、臨時とはいえ部下であって、私の友達だから…………。

 

「では、この話は終了! もう少し明るい話でもしようよ」

「それは是非——と言いたいところですが、これよりセブンスブライトへ報告をしなければなりませんの。ですから、今夜はこれまでですね」

「そっか。うん、それじゃまた明日ね」

「ええ、また明日お会いしましょう」

 

そう言って貴族とか令嬢とかがするようなお辞儀をし、セシリアは私の部屋を後にしていった。また明日っては言ったけど…………今夜、アントがこっちに向かって来たら会う事になるけどね。でも、そんな会い方なんてのはない方がいいに決まってる。心の中で、今日の夜も平和な時間でありますようにと願った私だった。

 

「ただいま——って、何その高級品!? 一夏、何があったの!?」

「あー、うん。セシリアから貰ったんだよ」

「どういう経緯で!?」

 

◇◇◇

 

一夏の部屋を後にしたセシリアは自室に戻る途中考え事をしていた。

 

(本当、一夏さんの優しさは底がしれませんわ…………)

 

本当ならこちらが罵倒し返されてもおかしくなかったこの件。しかし、一夏はそのような事を全くせず、あっさりと許してくれたのだ。挙句、謝るのは自分たちの側であるのに、彼女の方が申し訳なさそうな顔をしていた。リーガンに対しては淡泊な態度であったが、何故彼女はここまで他人に優しくする事ができるのだろうか。自分は、土足で親友の心を踏みにじった人間と同じ出身であるのに…………どれだけ心が広いのか、セシリアにはまだ計り知れなかった。

 

(しかし…………ここまで優しい彼女を貶す人がいるの事は、この件ではっきりとしましたわ。もし、リーガンと同じ行為をしたものがいるとしたなら——次は私の手で、確実に排除させていただきます)

 

心優しい軍人(一夏)が何故傷付かなければならないのか…………セシリアにはそれが未だに理解できない。もし、彼女に仇なす者が現れたとしたら…………セシリアは黙っていないことだろう。友人に手を出されて黙っていられるほど、彼女は人ができてないわけではない。

 

(任務として与えられた護衛対象は織斑秋十。ですが、私の護衛対象にはもう一人追加ですわね)

 

セシリアは護衛対象の中に一夏を追加した。部下が指揮官を守ると思うことは至って普通のことだ。セシリアも同じように守りたいと思い、そして…………彼女の優しすぎる心をも守りたいと思うようになったのだった。なお、セシリアは、一夏に対して特別な恋愛感情等を抱いていない。

 

 

翌日。朝のSHRにて、千冬によりリーガンが退学となったことが伝えられた。詳細な事について千冬は触れてないが、全員が入学早々のあの一件が原因であることを悟った。だが、クラスの大半が日本人である一組の中でした日本を侮辱するような発言により、このクラスでの彼女の地位など無いも同然であり、退学となった事にも特別興味も関心も何一つ寄せる者はいなかったのだった。




今回はキャラ紹介及び機体解説は行いません。

感想や誤字報告待っています。では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。

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