FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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祝・UA10000越え!

先日、この小説の支援イラストとして絵師のからすうり様より一夏ちゃんを描いていただきました。


【挿絵表示】


こちらは13のキャラ紹介[紅城一夏]の項に追加しておきます。
からすうり様、この場をかりて厚く御礼申し上げます。

では、今回も生暖かい目でよろしくお願いします。


Chapter.15

あれから一週間が経った。ようやく代表決定戦の日が来たのだ。既に、榴雷への対レーザーコーティングは完了しており、メタルサンド弾の装填も完了している。私の方もパイロットスーツを着用しているから、いつでも行けるという状態だ。

 

「それにしても、本当にこの機体で大丈夫なの? ブルーイーグルを使った方がよかったんじゃ…………」

 

第三アリーナのピットで一緒に待機している雪華がふとそんな事を言ってきた。その目はなんだか自信なさげな感じがする。でも、この機体を仕上げてくれたのは誰でもない、雪華なんだ。だから、私がいの一番にこの機体を信頼して使わなきゃいけない。

 

「大丈夫だって。雪華が調整してくれた機体ならなんとかなるよ。それに」

 

私は自分の後ろに駐機状態で佇んでいる愛機へと目を向けた。

 

「榴雷と約束したからね。一緒に勝とうって」

 

たとえその白い装甲を煤だらけにしようと、装甲の一部を破壊されようと、絶対に勝つって約束したし、何より一番最初に支給された機体だから…………だから、一緒に頑張ろって思ったんだ。

 

「全く…………本当、一夏って機体への思い入れが強いよね。ちょっと榴雷が羨ましく思えるよ」

「榴雷だけじゃないよ。ブルーイーグルもだし、それにみんなの事も大事だから…………」

 

だからこそ私は、みんなの事を侮辱したあの代表候補生を許す気などない。なんで私が所属している部隊がグランドスラム中隊って呼ばれているか、身をもって教えてあげなきゃね。

 

「…………一夏、ものすごく黒い笑みを浮かべてるよ?」

「はうっ…………!? か、顔に出てた!?」

「ばっちりとね」

 

…………思わず表情に、私の黒い面が出ていたと言われて恥ずかしい思いをしてしまった。これ、基地に戻ったら絶対に変な噂が立つよ…………。

 

「…………誰にも言わないでよ?」

「わかってるよ。ばらしたりはしないから安心して」

 

それを聞いてほっと一安心する私。まぁ、雪華の事だから誰にも言わないと思うけど、念のため言っておかないとね。

 

「あ、そういえばセシリアからの伝言忘れてた?」

「伝言? セシリアから?」

「『全弾薬を撃ち切っても構いませんわ。弾薬費はあのバカの家に領収書として付けておきます』だってさ」

 

…………もっと黒い人がいたよ。弾薬費、この榴雷じゃとんでもない金額になるはず。だって、ミサイルだけで軽く二百発積載してるし、その他にも誘導榴弾やら遅延信管砲弾とかも積んでるから、金額が恐ろしいことになるよ。多分、下手したらアーキテクトの一体は買えると思う。

 

「あ、うん…………ていうか、多分本当に全弾薬を撃ち切る可能性があるから、補給の手筈を整えておいて」

「了解したよ。それと、予備弾薬も貰っておくね」

 

そうなると、何処かに弾薬庫を用意しなきゃいけないね。流石に榴雷が大きいペイロードを誇る機体だと言っても、輝鎚ほど積めるわけじゃないし、撃ち切ってしまえば、残る攻撃手段は苦手な近接格闘戦だけになってしまう。それだけは避けなきゃいけない。

 

「相変わらず重装備な機体だな、此奴は。前よりも更にゴツくなってないか?」

 

ふとピットの入り口から榴雷を見た感想を率直に述べる声が聞こえた。私は入り口の方へ目を向けた。そこには何故かお姉ちゃんの姿があったんだけど…………あれ? 今、アリーナの管制室の方にいるんじゃないの?

 

「織斑先生、そろそろ秋十の試合ですよ? ここにいてもいいんですか?」

「それについてなんだがな…………どうやら、諸事情につき織斑の機体搬入が完了していない。向こうは後三十分で到着と言ってはいるが、日程を繰り下げる事などできん。そこでだ、紅城とファルガスの試合を先に行いたいのだが…………構わないか?」

 

機体の搬入が遅れているとかって…………まぁ、私も似たようなことがあったわけだし、多分渋滞にでも引っかかったんでしょ。それにしても、模擬戦の順番が早くなるのかぁ…………でも、いずれはやらなきゃいけない事だから、それが早まっただけ。それなら、特に問題はない。

 

「はい、大丈夫です。それじゃ、到着までの時間を稼げばいいんですよね?」

「その心配はいらん。やるからには徹底的に叩いてくれて構わない。しかしな…………」

 

お姉ちゃんはそこまで言って言葉を濁らせた。一体どうしたんだろ…………? 少しもうしわけなさそうな顔をしている。

 

「えっと、どうかしたんですか?」

「いや…………お前たちの機体には、シールドバリアも絶対防御も搭載されていないのだろう? 模擬戦とはいえ実弾が飛び交う。もしお前の身に何かあったとしたら…………」

 

なるほどね。確かに、フレームアームズにはシールドバリアも絶対防御も存在していない。頼れるのはこの装甲一つだけだ。もしかしたら大怪我を負う可能性もあるかもしれない。

 

「心配しないでください。榴雷の装甲はそんなにヤワじゃありませんから。あの程度のレーザー、受け止めて見せますよ」

 

装甲だっていつかは壊れるものだけど、私は榴雷の装甲に絶対的にも近い信頼を置いている。それに…………死ぬ事が怖いから、生きる為に必死になってでも抗い続ける…………それが私達FAパイロットの誰もが思っている事。だからこそ、相手が何十体と襲撃してこようと戦い続ける事ができるんだ。それを聞いたお姉ちゃんは安心したのかわからないけど、軽く溜息を吐いた。

 

「…………そうだな、確かにあの装甲は一筋縄ではいかない代物だ。野暮な話をして悪かった。では、私からは以上だ。それと、教師がどちらかに肩入れするのはアレだが…………紅城、頑張れよ」

 

お姉ちゃんはそう言ってピットを後にしていった。時々私には見せてくる優しさを含んだ微笑みを浮かべているお姉ちゃんの顔を見た雪華は何やら面食らったような顔をしていた。一方の私はその微笑みを見せられて、少し元気が出てきた。本当、お姉ちゃんは凄いよ…………。

 

「さて、と。それじゃ、行ってくるね」

「うん。気を付けてね」

 

その辺に置いておいたヘッドギアを被った私は、榴雷の背部ハッチから体を滑り込ませた。本来ならアーキテクトに装甲を纏っていく関係上、私よりも明らかに大きくなる筈なのに、今私が纏っているアーキテクトは私にぴったりなのだ。うーむ、改めて考えてみると結構凄い事だよね、これ。それでいて、同機種なら身長差がある二人がそれぞれ乗っても同じ大きさにしかならないから不思議だ。まぁ、私はただの一パイロットだから、そんな事は考えなくてもいいか。アーキテクトのプラグがパイロットスーツのコネクタに繋がれていく。

 

「網膜投影…………開始」

 

後頭部のコネクタとも接続し、ハッチの閉鎖を確認した私はそうボイスコマンドを入力した。何もなかった暗い空間から、一瞬にしてピットの景色が私の目に飛び込んできた。同時に、現在装備している武装の残弾数と機体の損傷度が表示される。初めて使用した時は構えて出撃していたリボルビングバスターキャノンも、改装終了後はいつの間にか量子変換されていた。お陰で携行性はかなり高くなっている。あと、メタルサンド弾は左腕のグレネードランチャー(八五式擲弾筒)より撃ち出されるとの事。

機体のコンディションは良好。対レーザーコーティングも全然干渉していない。流石雪華だ。グラインドクローラーはまだ展開しなくていいかな…………下手したら床をズタズタに引きちぎりそうだし。それじゃ、いつものように出撃するとしますか!

 

「グランドスラム04、作戦行動を開始します」

 

榴雷で出撃するときに使っているセリフを言った私は、カタパルトなんて使わずに、そのまま歩いていって、アリーナへとピットから飛び降りたのだった。

 

 

「あら、随分と遅かったようですわね」

 

アリーナに着地した私を待っていたのは、何やら私を見下したかのような声音で話しかけてきたファルガスさんだった。まぁ実際、私は地上にずっと固定されっぱなしでいるから、空を飛んでいるファルガスさんは本当に見下しているようにしか見えない。てか、絶対見下している筈。この一週間も、何かとあれば秋十か私に食ってかかってきたし…………更生プログラムを受けたそうだけど、効果はあったのかな? 見た感じ全くないと思うんだけど。

 

「誰もそっちの都合に合わせて生きてなんていないよ。そっちが早く出すぎていただけでしょ?」

「この、減らず口を…………! ですが、これで私の勝利は確実のものとなりましたわ」

「どういう事…………?」

 

何やら気味の悪い笑みを浮かべているファルガスさん。なんだろ…………前に見た女尊男卑主義者と同じように、嫌な予感しかしない。見ていて物凄く気持ち悪いよ…………欲に染まった人間の末路を見ているようだ。しばらくの間、小さくその笑い声が聞こえていたが、まるで水面に一石を投じるかのように、盛大な高笑いを彼女はした。しかも、蔑みを含んだやつをね。

 

「だって、貴方の纏っているそれ、ISではないんですもの! そんな日本の作った紛い物と呼ぶにも烏滸がましいISからは程遠く離れたもので、このイギリス第三世代機[ブルー・ティアーズ]に勝てるとでも? それを専用機と呼ぶなんて、日本国防軍はジョークのセンスがあるのですね」

 

…………怒りが抑えきれない。この機体を馬鹿にして…………私の命を何度も助けてくれた榴雷を馬鹿にして…………!! 私がアリーナへと出て数瞬経ってから試合開始を告げるアナウンスは流れている。おまけに向こう既に私をロックオンしているためか、こっちの照準警報(ロックオンアラート)が鳴り響きっぱなしだ。でも、私にはそれが榴雷の怒りの声のようにも聞こえてくる。なら、私がやる事はただ一つ。脚部前面のアウトリガーと脚部裏のグラインドクローラーを展開、がっちりと地面に固定した。ロングレンジキャノンを展開するだけの余裕はちゃんとあるね…………。

 

「それで私を倒そうなど、笑止です! では、潔く負けて私の奴隷となり、恥を晒しなさい!!」

 

向こうは銃口を私に向けてくるけど、その動作がやけにゆっくりに見えてくる。人って極限状態になると周りが遅くなって見える事があるって言うけど、まさに今がその状態なんだと思う。それじゃ榴雷——

 

「誰が負けるもんか!!」

 

——一気に行くよ!!

 

私は迷いなくロングレンジキャノンを展開、五式鉢金型光学照準器(S5-オプティカルバイザー)のお陰でコンマ一秒足らずで照準を合わせ、自慢の主砲を二門同時に放った。聞きなれた電磁音を聞いたと思った瞬間、向こうの構えていたスナイパーライフルらしき武装は木っ端微塵に砕かれていた。…………は? どういう事!?

 

「な、な、な…………」

 

だけど私よりも驚いているのは所有者であるファルガスさんだ。構えていたスナイパーライフル——主兵装のスターライトMk.Ⅲ——のグリップから銃床までの部分だけを持って固まっていた。これって一体どういう事なんだろう…………武器にはシールドバリアが張られていなかったという事なのだろうか。まぁ、そういう事を考えるのは私の仕事じゃないし、後で雪華かお姉ちゃんに聞いてみるとしよう。で、今やるのは、目の前にいる敵を倒す事。ならばやる事はただ一つ。私は両手にセレクターライフルをハウザー形態で装備。脇の下を通すような長い形状にしてあるから片手でも普通に撃てる形態だ。左腕のグレネードランチャーには念の為、メタルサンド弾を装填。あとは、両肩のシールドを跳ね上げて、その裏に仕込んであるミサイルランチャーと脚部のミサイルコンテナを展開する。既にロックオンは掛け終わっており、後はボイスコマンド一つで一斉射撃可能だ。

 

「よ、よくも…………よくも私のブルー・ティアーズに傷を!許しません! 行きなさい、ティアー——」

 

向こうは私に向かってあの誘導砲台型兵器のビットを飛ばしてきた。しかも、向こうは怒りに我を忘れているのか、映像で見たときよりも動きが杜撰な気がする。でも、同時にこれは私にとって好機だ。まだ向こうは発砲していない。なら、先手は打たせてもらうよ!!

 

「——全武装一斉射撃!! 掃討(Grand Slam)開始!!」

 

◇◇◇

 

「な、なんなんだ…………あの馬鹿げた火力は…………」

 

アリーナの管制室にて試合の様子を見ていた千冬は思わずそう言葉を漏らしていた。榴雷から放たれた全部で七十六発のミサイルに加え、榴弾、そして超電磁加速された砲弾——それらがリーガンのブルー・ティアーズのシールドを削り、武装を破壊していくのと同時に、千冬の中での概念も壊されていた。いや、千冬だけではない、この試合を見ているすべての人間が自分たちの持っていた常識を破壊されていた。シールドバリアがあるから安全、絶対防御があるから死なない、だからISは最強であり絶対的な力である——そう教えられてきたが故に、今目の前て引き起こされている、絶対的な力の象徴が無残にも屠られる様をどこか非現実的なものとして見ていた。千冬も、何度かフレームアームズに搭乗してきたが、国家代表としてISに搭乗してきた事もあり、絶対的なものではないとは思いながら心のどこかではISをフレームアームズの上位互換と考えていた。しかし、今この光景を見せられては、上位互換などと考えていた自分が浅はかであったと思わされたのだった。

 

「全く、あのイギリスの子もバカだよねー。軍人——それも、世界でも指折りの練度を誇る日本国防軍本土防衛軍第十一支援砲撃中隊の中尉様に喧嘩を売るなんてさ」

 

自分の持っていた概念が破壊されつつある千冬の頭を、そのどこかで聞き覚えのある声が現実へと引き戻した。千冬はその声を聞いて後ろを振り返らず、その声の主の名を呼んだ。

 

「…………何故ここに来た、束」

「世界初のIS対FAの実弾演習だからね。それくらい開発主任として観戦させてよ、ちーちゃん」

 

そう無邪気な声で千冬に話しかける束。だがその目はどこか冷え切ったようなもの。そして、それを向けているのは、今もなお過剰な弾幕で蹂躙されているリーガン。束はふとため息を吐くと、千冬に向かって話しかけた。

 

「政府上層部はバカだよね…………私の作ったフレームアームズを、ISと似て非なるものって言ってるけどさ、基本設計からして違うんだし、全くの別物だから違うのも当たり前じゃん」

「しかしだ、束…………どちらも元は作業用だったはずだ。なのに、何故こうも差が出た?」

「だって、ISは武器を持たせただけでほとんど変わってないし。でも、フレームアームズは違う。あれは、外装から何から全てを完全に兵器へと変えたもの。その差は歴然。言葉で言わなくても、映像が全てを語ってくれるよ」

 

映像では一夏からの砲撃を受けたブルー・ティアーズの右非固定浮遊部位(アンロックユニット)が完膚なきまでに破壊されているのが映し出されていた。貫通したと思われる砲弾——装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)はその威力を殺されることなく、そのままアリーナの防護シールドに当たって砕ける。実際には無いのだが、千冬は映像越しにその衝撃が伝わってくるように感じた。そんな彼女を余所に束は言葉を紡いだ。

 

「『FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS』——ISに似たフレームアームズ。略称を使ったもう一つの名前——『far IS』、ISとは程遠い物なんてよく言ったものだよ。フレームアームズの圧倒的な戦力を見たら、ISの武力なんてミジンコがヒノキの棒を振り回しているようなもの。それに、フレームアームズはアントを撃滅するために開発した反撃の刃。そして、それを纏うのは最高適性を持つ国防軍の精鋭。あの代表候補もここに来るまでそれなりにやってきただろうけどさ、地べたを這いつくばって、過酷な訓練を越え、地獄のような戦場でそれこそ命を懸けて戦い続けている彼らと比べたらまだまだ甘い。…………この試合、やる前から結果なんてわかりきっていたものだよ」

 

束はそう言ってから一つため息を吐いた。それがISが本来の目的ではなく各国の思惑によってそうでは無い使い方をされている光景をこの目で見て落胆したからなのか、自分が開発したフレームアームズに自分の夢を応援してくれている人を乗せてしまう結果にしてしまったことへの罪の意識からくるものなのか、それともまた別の感情が湧き出してきたからなのか——その答えは彼女にもわかっていなかった。束はそのまま踵を返し、その場を後にしようとる。

 

「最後まで見ていかなくていいのか?」

「言ったでしょ。結果はわかりきっているって。だって…………いっちゃんは、フレームアームズに関係したらとんでもない天才だからね」

 

それに、と束は言葉を続ける。

 

「いっちゃんは私達の知らないような、素敵な大人達に囲まれて過ごしてきたんだから…………だから、あんなクソみたいな風潮に流された愚者に負けるなんてことはありえないよ。この束さんが全力を持って保証する」

 

そう言いながら、束は千冬に顔を少しだけ向け、その後管制室から出て行った。その時千冬が見た束の顔はどこか羨ましそうで、だけど少し哀しそうで、それでいて嬉しそうな顔であった。それを見た千冬は心の中でこう思った。——ああ、こいつもまだ人間としての感情は残っていたんだな、と。自分の記憶にある束の姿とは重ならなかった事に、千冬は親友の変わりようを心の底で喜んでいたのだった。

だが、そんな感傷的な管制室とは裏腹に、アリーナはさらに激化した戦場へと化していた事に千冬はまだ気づいていない——。

 

◇◇◇

 

ミサイル百五十二発を撃ち切った私は三度目のミサイルの装填を完了させていた。二回分しかまだ撃ってないが、それでもアリーナは揺れたようで、何人かはバランスを崩しかけていたよ。そして今、目の前には物凄く無残な姿になったブルー・ティアーズを纏っているファルガスさんの姿がある。ミサイルの一斉射撃、その一回目の時にビットはその全部が飲み込まれてしまった。最初はミサイルも撃墜されてしまったが、同時に撒いていたメタルサンド弾のメタルサンドを吸ってしまって動きが鈍くなったところを、ミサイル群で全て撃破しちゃったんだよ。ビット兵器——BT兵器と呼ばれるその装備は、どうやら自分の意思でレーザーを曲げるなんて非現実的な事ができるそうだけど、彼女にはそんなことはできなかったようだ。もし出来ていたら戦況は変わっていたかもしれない。

 

「この…………!!」

 

たとえ機体の装甲の四分の一を損失してもなお、私に攻撃をしてきたファルガスさん。腰部アーマーの一部が外れ、ミサイルが一発だけ飛んできた。でもね…………その程度で私を——この榴雷を倒せるなんて思ってないよね? 私は迷いなくリボルバーカノンを起動、空中炸裂(エアバースト)弾を装填し、そのまま連射する。時限信管によって起爆するこの砲弾の群れへと突っ込んだミサイルはそのまま撃墜された。

 

「う、嘘…………こんなのは嘘ですわ!! 私が、私とブルー・ティアーズがこんな紛い物に——」

「——うるさい」

 

未だに減らず口を叩くファルガスさん目掛けてリボルビングバスターキャノンを放った。拠点を叩く事も可能とする重厚長大な巨砲は、残っていた腰部アーマーを容易に破壊する。それと同時にスラスターの一部をも巻き込んだ爆発により、ファルガスさんは地上へと叩きつけられた。

 

「何故…………この私が…………!! 私は代表候補生ですのよ!! 負けるはずなど…………!!」

「でも、既に勝負はついてるようなものだよね?」

「私に…………口答えしないでくださいまし!!」

 

そう言って近接短刀を構えて一直線に私へと突っ込んできた。やはり、表向きにはありとあらゆる現行兵器を凌駕する性能というだけあって、かなりの加速力だ。あの速度で突っ込まれたら、流石に榴雷でもまずい。何時ぞやのフレズヴェルク戦を思い出す。あの時は接近された時、逃げられなかったから両足に傷を負わされたんだっけ。でも…………今回はそれを避けるためにつけられた装備がこっちにはあるんだよ。一度アウトリガーとグラインドクローラーを格納した私は腰部ショックブースターを点火、輝鎚を一時的に空へと飛ばすことのできる莫大な推力によって、私は榴雷で空へと飛び上がった。

 

「なぁっ…………!? あの機体でどうやって飛べますの!? でも、空中戦なら——」

 

直後、私の下をファルガスは通過し、私へと向けられていた短刀は空を切った。しかし、そのままターンをして再び私へと向かってくる。どうしようかな…………滞空なんてブルーイーグルじゃないからできないし。やっぱり、もう一度地上へと戻るしかないね。ショックブースターの向きを調節し、私は地上へと戻るためにブースターを停止した。そのまま重力によって地上へ引き寄せられる。その落下方向には上昇中のファルガスさん。

 

「がはっ…………!?」

 

私は格納した右のアウトリガーを展開、飛んできたファルガスさんに向けて蹴りをかました。轟雷を超える装甲を纏った脚部の運動エネルギーは計り知れないものであり、彼女は地面へととんぼ返りしたのだった。叩きつけられるとともに、激しい土煙が舞い上がる。その土煙の中心へと私は落下していった。

 

「ぐうっ…………!!」

 

落下した先には地面へと叩きつけられたファルガスさんがいた。そのガラ空きとなった背中に向けて、私はグラインドクローラーを足裏に展開、そのまま踏みつけた。踏みつけられた彼女は何やらうめき声にも似た悲鳴を上げている。輝鎚程じゃないけど、重量のある榴雷がのしかかってきたんだ。悲鳴を上げない方がおかしい。

 

「…………なんと野蛮な…………!!」

「そうだね。野蛮かもしれないけど…………結局、戦いに綺麗さも何もないと思うよ」

「野蛮人が…………!! 野蛮人如きに私が負けるなど…………言語道断です!!」

 

そう言って私に目を向けて睨みつけてきたけど、全然怖くもなんともない。むしろ、こんな状況になってまでそんな風に自分の優位さを語れることが凄いと思うよ。まぁ、悪い意味でだけど。一方の私は、この一週間で溜まりに溜まっている怒りを晴らしたいと思っている。理由なんてあげたらキリがない。でも、とりあえずは…………素直に倒すなんてことはしないよ。葦原大尉と瀬河中尉にはこう教えられたんだ——泥臭くとも、卑劣であろうとも、やられたら何倍にしてもやり返せ、って。

 

「そういえば、前に私の足を踏んだ時、全然謝りもしなかったよね?」

「そんな瑣末事、いちいち覚えてなど——」

「いいよ、覚えてなくても。代わりに…………やられっぱなしってのも嫌だから、やり返すけどね」

 

私はグラインドクローラーを起動、そのまま踏みつけ続けた。履帯ユニットに幾多もの細かい刃が取り付けられた凶悪な姿をしたそれは、容赦なく青い装甲を残されているシールドエネルギーとともに抉り、削り取っていく。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!? い、いやぁぁぁぁっ!! 」

 

心から恐怖しているような声が聞こえる。でも、私はその足を退ける気はない。それに…………普通なら、この声を聞いたら助けに行かなきゃいけないと思うはずなのに、それを全く思わなくなってる…………これじゃ、護るための国防軍人としてはいられないね…………。大地を切り裂くように溝を掘る機械であるトレンチャーのように、装甲を完膚なきまでに破壊していく。彼女の目に私は一体どのように見えているんだろう…………少なくとも人間としては映ってないかもね。私の事を野蛮とかそんな風に言ってくる人だから。

 

「や、やめてください!! ゆ、許して…………許して…………!!——」

 

かすかに聞こえたその言葉を最後に私にはファルガスさんの声は聞こえなくなっていた。機体のセンサーが向こうのバイタルを読み取り、それを表示してくれる。どうやら向こうはもう気を失っているみたいだ。流石に死体蹴りするのは気がひけるから、グラインドクローラーを停止し、その足を退かした。周囲には、削られ細かな破片と化したブルー・ティアーズの装甲や武装、私の放った榴弾の破片が散らばっており、着弾によるクレーターも幾つかできている。見たようでは完全に戦場…………そして、これを生み出したのは他でもない私だ。

 

『——試合終了。勝者——紅城一夏』

 

どうやら私が勝ったようだ。そのアナウンスが流れた直後、歓声とかが骨振動通信を介して伝わってくるけど…………今の私にはそんなものも聞こえてこない。いつもの戦いなら護ったとかそういう思いがあるはずなのに、今は何も沸き立つ感情がない。ここまで無意味な戦いをしたのは初めてかもしれない…………ただ、その場で茫然と立ち尽くし、空を見上げていた。

 

『——…………ラム04、応答を。グランドスラム04、応答を! 一夏! 聞こえてる!?』

 

唐突に聞こえてきた雪華の声で私は現実へと引き戻された。び、びっくりしたぁ…………。

 

「ふぇっ!? な、何、雪華!?」

『全く…………急に動かなかくなったからどうかしたのかと思って心配したんだから。でも、返事できるから大丈夫みたいだね』

「うん、私はなんともないよ。それに榴雷も細かい傷を除けばほぼ無傷に近いよ」

『わかった。それじゃ、グランドスラム04、帰投してください』

「了解、これより帰投します」

 

そう雪華に返事した私は再びショックブースターを点火、ピットの入り口に向けて飛び上がったのだった。




機体解説

・三八式一型 榴雷・改 第十一支援砲撃中隊仕様
支援砲撃が主任務である第十一支援砲撃中隊用に改造された榴雷・改。脹脛のアウトリガーは廃され、履帯ユニットに換装。六七式電磁誘導型実体弾射出器の他、一六式対地誘導弾射出器を両肩の六五式防弾重装甲裏面に、大型ミサイルコンテナを両脚に、右腕に連装リボルバーカノン、左腕に八五式擲弾筒を装備している。基本格納兵装はグレネードランチャー付きアサルトライフル、日本刀型近接戦闘ブレード、タクティカルナイフ。


・三八式一型 榴雷・改 紅城一夏仕様
フレズヴェルク及びフレズヴェルク=アーテルと交戦し、中破した機体を改修。改修に伴って腰部リアアーマーを輝鎚の物に変更。履帯ユニットをグラインドクローラーに換装している。また、シールド表面にはリアクティブアーマーを装備。その他にも幾つか格納兵装が追加されている。

[リボルビングバスターキャノン]
FAが携行可能な最大クラスの重砲。重量はあるが、その分頑丈に作られており、鈍器としても使用可能。

[セレクターライフル]
メインコンポーネントを共通化し、換装することで火炎放射器、ミサイルランチャー、イオンレーザーライフルにもなる。ライフルと名を打っているが、基本形態はハウザー(榴弾砲)。





本日はこの二機を紹介しました。
感想や誤字報告待ってます。
では、また次回も生暖かい目でよろしくお願いします。

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