FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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Chapter.14

あの後、教室に戻った私は雪華や箒、エイミー、レーア、そしてセシリアにめちゃくちゃ心配された。うぅ…………部下に面倒を掛ける上司で面目ない。しかも、なんだか私の周りの席の人達も私の事を心配していたみたいだった。中には、『あんなこと気にする必要ない』とか、『国防軍舐めんなー!』とか言って励ましてくれる人もいたよ…………民間人に励まされる軍人ってどうなんだろう…………本気でそう思った。その後、授業は無事に進み、ようやく昼休みの時間となった。

 

「それにしても、よくこんなに大きな席取れたね」

「まぁ、先にエイミーを潜り込ませて確保しておいたからな」

「これまで大所帯だとすると、ここが適任ですもの」

 

現在、食堂でお昼ご飯としているわけだけど…………まぁ、人が混んでいてすごい事になってるよ。ここまで混んでるのってあんまり見たことないかな…………基地のPXは全員が収容できるから、混んでるってことは滅多になかったし、大体入れ替わりで入ってたから満席になるなんてことはレア中のレアだったよ。てか、制空担当と狙撃担当が組み合わさるととんでもない制圧能力示すんだね…………ま、おかげで全員余裕で座れているんだけど。

 

「そういえば一夏、あの馬鹿天狗はどうするんだ? お前が戻ってくるまで大分何か言ってたぞ」

「何度、予備のセレクターライフルを叩き込んでやろうかと考えたことか…………」

「全く…………人間無知だとあそこまで愚かになれるものなんですね」

 

…………あの後も私、バカにされてたんだ…………でも、もう怒りは天元突破しちゃってるからね。今更沸点になんて達したりしないよ。まぁ、その光景がどれだけアホじみていたのかここにいる全員の表情を見たらなんとなくわかった。

 

「私ってそこまで言われることしたかな…………?」

「いや、してないだろ。で、どうする事にしたんだ?」

「あ、うん。模擬戦をする事にしたよ。フレームアームズがどこまで通用するかはわからないけどね」

「できればボコボコにして差し上げてくださいな。勿論、国には私の方から話をつけておきますわ」

 

さらっとそんなことを言うセシリアだけど…………なんだか顔が黒かった気がするよ。てか、模擬戦すると言った瞬間、みんななんか納得したみたいな顔をしていたよ。なんか、あんまり驚いているような感じはなかった。

 

「それ、同じ国の人としてどうなんだ…………?」

 

レーアはセシリアの事に少々引きながら、エビとアスパラのソテーを食べていた。あ、それ美味しそう。今度見よう見まねで作ってみようかな? 弾、エビ結構好きだからね。

 

「どうなんでしょう? 少なくともまだ政府に録音データを提出してないだけ慈悲はあると思いますが?」

 

ちょっと小首を傾げて聞いてくるセシリアだけど、それを実行に移せるあたり、相当とんでもない権限を持ってたりする? 因みに本人は特に気にするようなこともなく、クリームパスタを優雅に食べてた。…………さっきの口論の時に、貴族って言ってたから、それもあって一人ものすごく輝いて見えるのかもしれない。

 

「それでも十分、えぐいと思いますよ。でも、私の命の恩人を貶したんですから、もっとやってもいいと思います」

 

可愛い顔してさらりとえげつない事を言いながら、チキンの香草焼きを一口頬張るエイミー。いや、確かに蹴飛ばしたり、リボルビングバスターキャノンで吹っ飛ばしたりして、強引に回避させたりしたけどさ…………そこまでのことなの? 友軍の危機なら誰だって助けるでしょ? というか、エイミーの食べてる奴、かなりワイルドなんだけど。見た目からは全く想像がつかないよ。

 

「それには同感だな。私だったら有無を言わせず、斬り伏せていたところだ」

 

この愛刀でな、と付け加える箒も箒で大分物騒な事を口走っていた。いや、武器は私も携行してるよ? 汎用拳銃一丁だけだけど。というか、箒みたいに日本刀を装備している人なんてそうそういない。第零特務隊にのみ帯刀が許可されているんだとか。まぁ、それのせいあってか、鉄火丼をかっこもうとしている箒がより漢っぽく見えてきた。恥じらいがないあたり、本当すごいと思う。

 

「ちょ、二人とも落ち着こ? そういえば一夏、そのカレーって…………もしや甘口?」

 

とんでもない事を口走っている二人を落ち着かせるようにかき揚げうどんを食べていた雪華がそう言っていた。まぁ、このメンバーの中じゃ雪華がストッパー役になりそうだとか思ったけど…………この子も、さっきセレクターライフルを叩き込んでやりたいとか言ってたよ。どっちにせよ過激すぎる…………。

 

「うん、まぁね。(つら)い時があったら、いつもこれだし…………」

 

私は雪華の質問にそう答えた。いや、流石に激辛とかは無理だけど、中辛とかまでなら普通に食べられるよ? でもね…………(つら)いことがあった日はいつも決まってこの甘口のカレーを食べてた。なんでなのか知らないけど、これ食べると落ち着くんだよね。嫌な事を忘れるきっかけにでもしたいのかな。まぁ、これをよく食べるせいでより一層子供扱いされる羽目になったんだけどね…………というか、悠希と昭弘が余裕で激辛カレー完食したから、さらにランクアップして子供扱いされるようになったんだっけ。

 

「お、紅城さん。ちょっと、ここの席に座ってもいいかな?」

 

若干お通夜ムードになりかけた私たちのところに丁度いい意味で空気の読めない秋十がやってきた。手にはトレーを持っていることから、どうやら席探しに来たようで、偶然ここを通ったみたいだ。

 

「あ、織斑君。私は別にいいけど、みんなは?」

「私は構わないぞ。あと、久し振りだな、秋十」

「私も構わないよ」

「一夏さんがいいって言うならそれに従います」

「私もエイミー同様だ」

「私も構いませんわ」

「おおう、サンキュー! では、失礼しまーす」

 

秋十はそう言うと私の横に座ってきた。もしこれが弾、秋十や数馬以外だったらよっぽどのことの場合に限って悲鳴をあげるか、手が先に出るかのどちらかになる。実際休暇の時、電車に乗ってて怪しいおじさんが私の横に座った時は軽く絶望した。まぁ、お触りとかの実害がなかったからよかったけどね。

 

「あれ一夏さんに箒さん、織斑さんとは一体どのような関係ですか?」

 

エイミーがおもむろにそんな事を聞いてきた。まぁ、普通は気になるよね。唯一の男性操縦者と仲がいいなんて思わんだろうし。

 

「私はただ小学校の時からの同級生だったからだよ。近所に住んでるから、入隊してからは休暇で帰った時とかよく会ってたし、その前はたまに遊びに行ってたくらいだよ」

「私も小学校の時からこいつらの幼馴染といったところでな、私の家の道場で共に剣道をしていたのだ。まぁ、その後姉がやらかしてくれたおかげで離れ離れになってしまったんだがな」

「そうなんだよ。特に紅城さんの飯は美味かったし、俺からしたらもう一人の姉みたいな感じだったぜ」

 

箒の言ってることは間違いないよ。だって本当に幼馴染だし。よかったのは秋十がうまく話を合わせてくれたこと。私と秋十の間にあるのはただの同級生という繋がりしかないと、周囲には教えなきゃいけないからね。箒には前にそのことを話してあるから特別突っ込んだりしてくることはなかった。

 

「へぇ〜、一夏って前からお節介だったんだ。基地でも偶に食事担当の手伝いをしてるほどだからね。あ、私は市ノ瀬雪華、よろしくね」

「私はセシリア・オルコットですわ。あのおバカな方とは一緒にされたくないのですが、イギリス出身ですの」

「レーア・シグルスだ。口調が少し男っぽいが気にしないでくれ」

「エイミー・ローチェです。よろしくね、織斑君。私たちのことは名前呼びでいいからね」

「それじゃ、俺も秋十って呼んでもらおうかな。織斑は二人いるしさ、紛らわしくなんないようにしたいんだ」

 

いつの間にかお互いに自己紹介がとんとん拍子に進んでる。でもまぁ、みんなからしたら護衛対象といい関係を築いておくのも大事なことだからね。

 

「そういえば一夏姉」

(何でこのタイミングで叩き込んだ呼び方抜けるかな!?)

 

突然秋十が私の事を普通に、ごく普通に呼んできたから内心焦りまくった。や、やばい…………事情を知っている箒はともかく、その他の四人の私達を見る目がなんだか怪しいものに変わっていってる…………ばれた!? もしかして本当に私と秋十が姉弟だってことがばれた!?

 

「全く…………いくら一夏が姉のように思えていても、この場でそう呼ぶのか? 千冬さんが嘆くぞ? 頼られないとか言ってな」

「し、仕方ねえじゃねえか! つ、ついいつもの癖で出ちまったんだからよ…………」

「…………ま、まぁ、私は別に悪い気はしないからいいんだけどね。そっちの方が織斑君が落ち着くってならいいけど」

「そ、そうだな! 俺としてはそっちの方が落ち着くから、いつものように呼んでいいか?」

「う、うん。私も名前呼びにするから」

 

貸し一つだな、という箒の目線を受けて、この場を切り抜けられたことに安堵した。これで秋十が私の事を一夏姉と呼んでも、弁明してくれる人がいるからあまり問題はないと思う。秋十も大分やばいって顔してたから、こっちとしてもばれずに済んでよかったよ。

 

「なんだ、秋十がそう言ってただけなんだ。私はてっきり、本当は姉弟なんじゃないのかと思っちゃったよ」

「そ、そんな事ないよ。それだったら、織斑先生に悪いもん」

「ああ、そういえば一時間目に千冬姉とかって言ってたからな」

 

せ、雪華? それはやけに鋭いね…………てか、ばれかけてた? …………今回は箒の支援があった助かったけど、私って軍からの任務以外にもこのばれてはいけないという私達だけの極秘任務も同時にこなさなきゃいけないのか…………大変だよ、これ。

 

「ところで、秋十さん。今度試合をする事になったようですが、どうするんですの? 相手は腐っても代表候補生で専用機持ちですのよ」

「…………質問、いいか? 代表候補生はなんとなくわかったけどさ、専用機ってあれか? その人用に特別に作られた機体って認識で間違いないか? あの、赤い彗星とか白い悪魔とかそういう感じの」

 

…………秋十の例えにがっちり固まってしまった私達。いや、その例えわかるの私くらいだよ? 秋十のお陰で私もロボット系のアニメを見ていたし。ちょっとくらいならわかる。見た感じフレームアームズとも結構似てたしね。まぁ、フレームアームズの方が実戦的だけど。しかしだ、箒達は全くもってわかってない。あまりにも男子寄りな思考についていけなかったようだ。

 

「その、赤い彗星というのはよくわからないけど、概ねその通りだよ。あとは試作機をそのまま預けられてテスト運用してるとかもあるね」

 

復帰した雪華が秋十の質問に答えていた。まぁ、最も分かりやすい例が、私の榴雷とブルーイーグルだろう。方や私専用にカスタマイズされた機体、方や試作兵装を載せられた機体。雪華の説明したどちらのカテゴリにも属しているよ。

 

「それに、代表候補生なら稼働時間は軽く三百時間を突破してます。搭乗時間に比例してISも強くなるらしいので、彼女は意外にも強いのかもしれません」

「確か俺はこのあいだの試験も含めて二時間ちょっと…………って、百五十倍も差がある!?」

 

それを聞いた秋十は絶望のどん底に落ちたみたいな顔をしていた。代表候補生だから、それなりには強いだろうしね。それにしても、搭乗時間に比例して強くなるとか…………フレームアームズにはない特性だよ。私達の場合、機体の強化は改装のみ。上がるのは私達の適性だけだからね。私の場合は何やら例外らしいけど、上がる人はそこまで多くないし、私ほど高くはならないそうだ。

 

「それに、訓練機の貸与は一週間先まで満杯だそうだ。実機訓練はできないと思った方がいい」

「それって、がっつり詰みゲーじゃないですかヤダー!」

「でも、まだ何もやれないってわけじゃないけどね。そうでしょ、箒?」

 

さすがにこのまま秋十に何も対策を練る時間がないのはいただけないと判断した私は、箒に目配せした。また貸しを作る事になってしまうけど、この際気にしたら負けだ。後で纏めて返済すればいいんだから。…………と言ってるけど、葦原大尉がお金借りてて返すのに四苦八苦してたのを遠巻きに見てたのは口が裂けても言えない。

 

「一夏の言う通りだ。相手の情報を集めつつ、自身の肉体強化に努めれば良い。何もできないからといって何もしないのは愚の骨頂だ。放課後は私が剣術を教えてやる。情報は自分で集めろ。幸い、今の世の中はスマホやらがあり、インターネット上に情報はいくらでもあるからな」

 

箒の言ってる事は正論だよ。何もしないってのは、一番時間を無駄にしている事。それに、事前に敵の情報を手に入れるのは最も重要な事だと思う。情報があれば、それを元に対抗策が練られるからね。私達は情報を頼りに支援砲撃を行ったりしてるから、その大切は身に染みてわかってるよ。でもさ箒…………今の世の中はスマホがあって便利とか、いつの時代から生きてる人のセリフなの? 私たちと同じ年なんだから、そんなセリフは普通出てこないよ? まぁ、私がタブレット端末のような電子媒体をよく扱っているというのも大きいんだろうけどね。

 

「け、剣術? 剣道じゃなくてか?」

「当たり前だ。型にはまった剣道よりも、実戦向けの剣術をした方がいい。それに、ISはいわば身体の延長…………己ができぬ事はISでもできんのだ」

 

…………箒のセリフが明らかにその道のプロみたいな事を言ってるんだけど。しかし、箒の言ってる事に間違いはない。それがISであってもフレームアームズであっても、どちらにせよ人の体の延長上として使う以上、その性能を大きく左右するのは本人の動きだ。実際、模擬戦では例え同じ轟雷であっても、ベテランが乗った方が強い事なんてよくある事だしね。

 

「なるほど…………わかった。それじゃ箒、ビシバシ頼むよ。どんな結果になろうとも、手も足も出ない状態にはなりたくないしさ」

「任せろ。しっかり扱き抜いて殺るからな」

 

…………ごめん、箒。気のせいか知らないけど、今物凄い字面が危険な気がしたんだけど。大丈夫だよね? 秋十の命が消えたりなんてしないよね?

 

「まぁ、秋十の件は箒に任せるとして…………一夏、お前はどうするんだ?」

「え? 一夏姉もあいつとやるのか…………?」

「うん。言われっ放しでいるのは嫌だからね。少しは抗ってみなきゃ」

 

秋十は何やら心配そうな声で私にそう聞いてきたけど、この心優しい弟をこれ以上心配させたくはないから、少し笑ってそう答えた。すると、秋十は安堵したようなため息をついていた。まぁ、家族に心配はかけたくないからね。軍人として前線に立ってる私が言えた立場じゃないけど。

 

「となると、一夏姉も俺らと一緒にか?」

「いや、私は雪華と打ち合わせしながら対策を練るよ。だから、よろしくね雪華」

「はいはい。サポートなら私にお任せあれ」

 

だって、私と秋十は大分正反対の方向だからね。私は射撃寄りのオールラウンダーだけど、秋十は今まで銃なんかダストハザードでエアガンのショットガンくらいしか使った事ないし、剣道してたから近接寄りだろう。それに、榴雷と一緒に出るならそっちに合わせた調整もしなきいけないから、改造を担当してくれた雪華が必要なんだ。

 

「さて、一旦お喋りはここまでですわ。次の授業もあるので教室に戻りましょう」

「そうですね。そうと決まったら行きますか」

 

セシリアに言われて、次の授業開始まで残り十分という時間になっていた事にようやく気がついた。まぁ、ここからなら教室にはなんとか時間内に着くだろう。でも、遅刻したくないのはみんなも同じようだ。私たちは席を立ち、食器を返却して、食堂を後にしていった。

その道中、私は秋十にある事を教えた。前にお姉ちゃんから教えてもらった事の一つだ。

 

「秋十、これだけは教えておくよ」

「え? 何をだ一夏姉?」

「ISでの試合は大まかなルール以外が無いのがルールだって事だよ」

「? どういう事?」

「まぁ、そのうちわかると思うよ、きっと」

 

 

本日の授業が完了した後、私と雪華は寮の自室へと先に戻っていた。因みに同室の組み合わせは、私と雪華、エイミーとレーア、箒とセシリア。秋十は確か暫定措置として寮長室に放り込まれる事になったみたいだけど。まぁ、それなら護衛としては安心かな。…………一番はあそこが魔境に変わってたりしなければいいんだけど。

 

「なるほどね…………あいつの機体はこういう特性か」

 

さっきから報告書作成用に持ち込んだタブレット端末を使いながら、雪華はそう唸った。今調べているのは私達を馬鹿にした代表候補生、ファルガスさんの情報だ。最初は少しは時間かかるかなと思っていたけど、そんな事は一切なかった。だって、イギリス政府のページに堂々とその機体が載っていたんだから。あ、ファルガスさん本人についての解説はほとんど無し。

 

「イギリス第三世代型IS…………[ブルー・ティアーズ]ねぇ…………」

「主兵装、六十七口径レーザーライフル[スターライトMk.Ⅲ]…………スナイパーライフルの類じゃないかな?」

「副武装は第三世代兵装の一つで、ビットと言うらしいよ。名前は機体と同じ[ブルー・ティアーズ]」

 

そう名付けられたブルーイーグルと同じ蒼い機体は、主武装にも副武装にもレーザー兵器が搭載されている事がわかった。しかもね、そのうちの一つは容易に相手の背後を取る事ができる、イメージインターフェース制御の特殊兵装であるビット兵器。砲台型が四基あるから、下手したら本体含めて同時に五体を相手する可能性が高い。これ、周囲をがっちり固められたらそれこそ終わりじゃない?

 

「うーん、どうしたらいいかな…………当日は榴雷で行こうとは思ってるんだけど」

「ブルーイーグルは基地の方でデモで動かしたからね。としたら、やっぱりあれを使うしかないか」

 

そう言うと雪華はタブレット端末に新たなページを開いた。どうやら、防御系に関する装備品のデータらしい。

 

「対レーザーコーティング。その他にもメタルサンド弾とかがレーザー防御には向いてるよ」

 

対レーザーコーティングはそのままの通り、レーザーによる攻撃を受けた際にその塗膜が蒸発する事で効果を出す一発限りの防御兵装だ。しかも、塗装するだけでその効果を得られるし、重量増加もほとんど無い。しかし、一発限りというのが結構痛い点である。一方、メタルサンド弾というのは、滞空時間の長いちょっと小型の金属片を砂煙りのようにぶちまける事で、それ自身がレーザーを減衰させるという仕組みだ。ただし、弾のある限り何度も使えるが、こちらは減衰が目的であり、弱体化したレーザーは当たる可能性が高い。因みに、さっきから当たる事を恐れている理由は、シールドに当たればいいけど、頭部なんかに当たったら最後、死ぬ可能性だってありえるからね…………。

 

「でも、そんなもの急だから用意してないでしょ?」

「いや、一夏には報告まだだったけど、何があるかわからないから、いろんなものを重装コンテナ二個に突っ込んで先にこっちに持ってきてもらったんだよ。そのリストの中にどっちも入ってるはずだから、両方仕上げてみせるよ」

「また改造まがいのことになるけど…………よろしくね。あと、報告はちゃんと早くしてよ」

「了解。じゃ、作業は明日から開始するよ」

 

一瞬今日からじゃないのと思ったけど、外に目をやればすでに暗くなり始めていて、時計を見たら整備室のあるアリーナはすべて閉鎖されている時間だった。私はまだそんなに時間が経ってないと思ってたのに、すでにこんな時間になっているんなんて…………それだけ、話に集中していたという事なんだろう。でも、これじゃ今日の作業はできそうにないね。

 

「了解だよ。それじゃ、申請とかはそっちでしておいてね」

「まぁ、一夏には報告書の作成があるから、こっちは私の方でしておくよ」

「うん、頼むね。それじゃ報告書を書くとする——その前に夜ご飯食べにいかない?」

「勿論、箒達も誘って、でしょ?」

「正解♪」

 

タブレット端末を報告書作成ページを開いた状態のまま、私達は一旦食堂の方へと向かう事にしたのだった。その途中で、箒達を回収しながらって感じだけどね。

 

◇◇◇

 

その頃、寮長室では

 

「…………なぁ、千冬姉。これはなんだ?」

「い、いや、これはだな…………」

 

秋十がこの部屋のあまりにも酷すぎる惨状に言葉を失っていた。本来部屋というものは常に清潔感を保つものである。だが、目の前に広がるのは散らかったゴミと埃で出来た廃棄物の海。そして、その中央には黒い彗星が集るゴミ袋の島。挙げ句の果てには、部屋の片隅に本来いてはいけないクモらしき何か(ウデムシ)が何体か、黒い彗星を喰らいながらそこに蠢いていた。こんなカオスな状況を見て誰が正気でいられるのだろうか。少なくとも、秋十にとってこれは今までより極めて軽いレベルのものであったが、黙って見逃すわけにはいかなかった。

 

「俺の寝るところ無えじゃんかよ!! というか、なんでここまで魔境と化してんの!? 古代生物がいないのはまだ許せるけどさ…………なんであの三大奇蟲の一匹がいるんだよ!?」

「いや、あいつら黒い彗星を容赦なく襲って喰うぞ? おかげで対して湧かずに済んでいるんだが…………」

「そういう問題じゃねぇだろ!? こんな事知ったら、また一夏姉が壊れるぞ!?」

 

最早、混沌と化したこの部屋を一般公開なぞできるわけがない。ましてや一夏に見せたら、どんな反応をするのか…………もしかすると本気で精神がやられるかもしれない。一刻も早くなんとかしなければならないと判断した。だが、秋十は内心、未知との遭遇やら太古との邂逅を果たさなかっただけマシかと思っていたのであった。

 

「さ、流石にそれはまずい…………これ以上禁酒令を出されては敵わん…………」

「なら、片付けるしかないぜ…………俺が掃除してるから、千冬姉は新しいゴミ袋でも用意しておいて」

 

秋十は千冬にそういうと、自分は淡々と掃除を始めたのだった。埃は掃除機で一気に吸い上げ、黒い彗星達は持ってきておいた氷結殺虫剤で殺処分し、クモらしき何か(ウデムシ)は近くにあった虫籠の中に入れた。黒い彗星を喰らうと千冬が言っていたため、まだ益虫になるんじゃないかと判断した彼は、仕方なくだがその奇蟲を飼うことに決めたのだった。

 

(それにしたって、この形は無いだろ…………いくら三葉虫とかと対峙してきた一夏姉でも、これは気絶ものだな)

 

そんな事を思いながら、ウデムシを虫籠に入れていく秋十。入学早々、姉の魔境に悩まされた事に、皮肉にもここに日常が存在していたと感じ、どこか安心している彼なのであった。

 

◇◇◇

 

「クラス代表決定戦の日時が決定した」

 

翌日。朝のSHRで私達はお姉ちゃんからそう告げられた。結構早く日程が決まったんだね。というか、さっきから何やら嫌な視線を受けているんだけど…………このなんだか攻撃性を持った視線。女尊男卑主義者から受けた時のものと似てるから、ファルガスさんのものだと思う。…………なんで朝からこんな嫌な思いしなきゃいけないの。

 

「一週間後の放課後、第三アリーナにて試合は行う。織斑、ファルガス、それと紅城、それでいいな?」

「は、はい!」

「構いませんわ!」

「了解しました」

 

一週間後か…………雪華が言うに、対レーザーコーティングを施すには三日あれば十分らしいから、大丈夫だと思う。機体を慣らすのはその後になるか…………なんとかやるしか無い。

 

「それと、織斑。お前には政府から専用機が支給される事になった」

 

秋十に専用機が支給される事になったと聞いて、皆が沸き立つ。そりゃそうでしょ、ただでさえ絶対数の少ないISの一機を自分専用機として預けられるんだから。

 

「それって、あの倉持技研からのやつですか?」

「ほう。参考書は捨てても、その話だけは覚えていたようだな。その通り、事前に説明のあった次期量産機のプロトタイプ、その第一プランの方だ」

 

ああ、私も一応話を聞いたあの機体かぁ…………大分ピーキーな性能だよね、あの機体。それを元から量産しようとか考える開発者の気が知れないよ。まぁ、私のブルーイーグルも似通った性能だけど。昨日の夜に寮長室で私とそのことを説明された秋十は今ひとつわかってない顔をしてたから、横から少し解説を交えていって話を進めると、ことの重大さに顔が青くなっていた。まさか、自分も赤い彗星みたいに専用機を渡されるなんて思ってなかっただろうしね。まぁ、懸念していたのは別のこともあったみたいだけど…………。あと、私がその場にいた理由は、護衛だからその機体の詳細を知っておいたほうがいいって事らしい。お姉ちゃんに呼び出されてそう言われただけだから、なんとも言えない。

 

「となると、あの日本の代表候補生の機体は…………」

「開発凍結にならずに済んだぞ。よかったな」

 

それを聞いてほっとしている秋十。日本の代表候補生の専用機が開発凍結って…………それって対外的にどうなの? ならなくて済んだのはよかった話だけど、もしそうなっていたら受け取る予定のその子は悲しむだろうし、秋十もそれを聞いたら罪悪感に苛まれるだろうし、企業としても信頼を失うからデメリットしかないと思うんだけど。ていうか、秋十、その代表候補生の子と面識でもあるのかな? 私は会ったことないから知らないけど。

 

「織斑、その専用機について後ほど話がある。昼休み、私のところまで来るように」

「おう」

「返事は、『はい』だろうが」

 

そう言ってお姉ちゃんは出席簿で秋十の頭を軽く叩いた。手加減はちゃんとしてるんだね。もししてなかったら、昨日の朝みたいに、頭から煙が立ち上っているよ。まぁ、それを余裕で出せるお姉ちゃんはどこにそんな筋肉が付いているのかわからないけどね。むしろあれは鞭みたいな仕組みなのだろうか?

 

「では、重要事項の伝達を終了する。各自授業の準備に入れ」

 

お姉ちゃんはそのまま山田先生を引き連れるように教室を後にしていった。さて、それじゃ今日も一日、頑張るとしますか!

 

 

「専用機が渡されると聞いて安心しました!」

 

…………一日頑張ろうかと思ったけど、一時間目終了後、またあのファルガスさんが秋十に絡んでいるのを見てげんなりとしたよ。しかも、こっちにまで聞こえてくるような声で話しているから、私の気分まで害してくる。たまには静かに本を読もうかなと思っていた時であっただけに、不快感は一段と強い。因みに、箒と雪華は機体のセッティングについて話し合ってるよ。別に私が関わる必要もないしね。

 

「そういやお前も専用機持ってるそうだな」

「当たり前です! 私は代表候補生、つまり選ばれしエリートなのですわ!」

 

ずびしいっ、とでも効果音がつきそうなくらい人差し指で秋十を指すファルガスさん。いや、代表候補生ってあくまで候補生なだけだし、いつかは落とされることもあるんじゃないのかな?

 

「ふーん、エリートなんだ」

「そうですわ! それも、人口七十億の中から選ばれたエリート中のエリートですの!」

「え、人口って七十億超えてたの?」

「問題はそこじゃないでしょう!?」

 

いや、実際人口は結構減ってるんだよね。朝鮮半島に元から住んでた人達のおよそ六十パーセントは亡くなったそうだし、現在進行形で戦場では人が命を落としているから、少なくとも七十億超えはないと思う。その事も知らされてないということは…………やはり、私達の戦争は公にできないみたいだ。

 

「…………まぁ、いいですわ。それよりも、残念でしたわね。貴方だけ専用機が支給されないなんて」

 

そうやって嘲笑うように私に向かって言ってくるファルガスさん。割といいところまで本が進んでいたから、それを邪魔されたのもあって一層むかつく。

 

「別にいーよ、気にしてないし。数が足りないならそういう事もあるでしょ。それに、一応、私も持ってるし」

 

フレームアームズなら二機持ってるからね。だが、主語を欠いたせいで、向こうはISの方の専用機を想像してしまい、身じろぎしていた。別に私にはどうってことはないのでそのまま本の方に目を落とした。折角いいところまで来たのに、また少し前から読み直しだよ。だけど、それもつかの間の事だった。

 

「ですが! 私は代表候補生! 貴方には負けませんわよ!」

 

そう言いながら、机を強く叩いてきた。でも、ここで下手に反応した場合、余計に面倒になると、報告書の提出をかねた現状報告の時、葦原大尉と偶然来てた瀬河中尉から教えて貰った為、とりあえず適当に返事してスルーしておこう。というわけで、「はいはい」と答えた。

 

「話を聞きなさい!!」

 

——けど、今回の場合は逆効果だったみたいだ。私が話を適当に返事してスルーしたせいなのか知らないけど、ファルガスさんは私の読んでいた本を手で払いのけた。一瞬何が起きたのかわからなかったけど、本が床に落ちた音が聞こえて、今起きた事を理解した。流石にこれだけは許せそうにない。

 

「ちょっと! いきなり何するの!」

 

一言文句でも言ってやろうかと、私は椅子から立ち上がった。流石に今のだけは、普段は温厚とかと言われてる私でも怒るよ。

 

「貴方が私の話を聞かないのが悪いのですわ!」

「聞いてたし返事したじゃん! それに、本を飛ばすなんて事しなくてもいいでしょ!」

「私に口答えしないでくださいな!」

「っ——!?」

 

ファルガスさんはそう言うと、私の足を踏みつけてきた。そこそこ勢いをつけてきたのか、結構に痛い。拘束されて尋問という名の拷問を受けた時と比べたら痛くないけど、それでもこれは痛い。いきなり足を踏まれたことで少し怯んでしまった私は、そのまま椅子にまた座り込んでしまった。

 

「いずれにせよ、私が勝つのは自明の理。私に楯突いた事、その時に後悔させてあげますわ」

 

そのままファルガスさんは自分の席へと戻っていった。…………鈍い痛みが足の方からする。でも、とりあえず本を拾わないと。

 

「あ、あの、これ…………」

 

どうやら本は結構飛ばされていたみたいで、私の斜め後ろの人のところまで飛んでたみたいだ。その人がおずおずといった感じで私に本を差し出してきた。見たところカバーをしていたおかげで汚れてないし、ダメージとかもあまりなさそうだ。

 

「拾ってくれてありがとう」

「は、はい。どういたしまして…………」

 

本を受け取ってまた読み始めたわけだけど、さっきの口論があったせいか、教室の空気がかなりピリピリしたものになっている。一応、私のせいでもあるからね…………どうしよ、この空気。自分で自分の苦手な空気にしちゃったよ。でも、さっきの一件で私の堪忍袋の緒が切れる直前だよ。絶対許さないし、絶対勝ってやるんだから!! だから、やるよ、榴雷!!

 

◇◇◇

 

「…………なぁ、織斑。あいつら(ウデムシ)をあのバカの顔に貼り付けてやってもいいか?」

「…………それなら、夜中に仕掛けた方がいいかもしれないですね。節足動物は夜の方が迫力出るそうですよ、織斑先生」

「お、織斑先生!? お、織斑君!? 一体何をやらかすつもりなんですか!?」

 

その日の夜、IS学園の学生寮からは謎の女子生徒の悲鳴が聞こえたそうだ。その後、これは学園の七不思議として語られるのだが、それはまた別の話。




今回、キャラ紹介と機体解説は無しです。

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