FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうもー、紅椿の芽です。
今回より学園編に突入します。
あと、あとがきにてキャラ紹介と機体解説を不定期で行っていきますよ〜。

では、生暖かい目でよろしくお願いします。


Chapter.13

四月に入り、私達はIS学園へと向かう事になった。しかしだ…………横須賀基地から移動すると聞いてはいたけど、こんな事になっているとは全く想像ができなかったよ。え? 今、どんな状況にいるかって?

 

現在、こんごう型イージス護衛戦艦三番艦[はるな]の最上甲板にいます。

 

いや、だって普通は戦艦で移動なんかしないでしょ!? おかしいから! どう考えてもおかしいから! 今でこそ落ち着いてはいるけど…………最初にこの艦から案内の人が来た時は正気かと思ってしまったよ。まぁ、どのみちこの艦は呉で定期点検を受けるらしく、その途中にIS学園があるから立ち寄ってくれるそうだ。学園までは三十分くらいと言われているから、その間外に出ている事にしてみた。尚、箒も一緒に出ている。

 

「それにしても、やっぱりこの艦は大きいな。一夏は前に乗ったことがあるんだったか?」

「乗ったというよりは案内してもらったって感じかな? 横須賀基地でドイツに行く前の最終点検をしてもらっている間に、偶然誘われてさ。色々教えてもらったんだよ」

 

ふと視線を向けると、そこには二つの巨大な砲塔がある。確かこれが重レーザー砲だった気がする。他にもミサイル発射管やら色々あるけど、一番の驚きはこの艦にもUEユニットが搭載されている事。だからこその大出力光学兵器である重レーザー砲が搭載できるわけだ。あ、格納庫には水面下から来るアントへの対抗手段としてグライフェン(EXF-10/32)が何機か搭載されていた。ていうか、あの機体関節が逆向きになっているんだけど、どうなって入っているんだろう? というか、今思ったけど、私たちだって身長がみんな違うのに普通に同じサイズのフレームアームズを纏っているよね? あれって一体どういう仕組みなんだろうか? 今更になってそんな事が疑問に思い浮かんだ。

 

「へぇ…………私達が整備をしている間に中尉さんは遊んでいたんですかぁ?」

 

胸にぐっさり突き刺さるようにいつの間にか来ていた雪華にそうジト目で聞かれた。うっ…………そ、そんな目で見ないでよ。そ、そりゃ、整備の時に顔を出さなかったのは悪かったと思ってるけど…………変に断って海軍との仲を悪くしちゃうのもいけないじゃん。と、心のなかで思ってはいるけど、

 

「いや、その、えっと…………」

 

口には全くもって出てこない。おかげで日本語をしゃべっているのかどうかすら怪しい。私は一瞬、箒に救難信号を目線で送ったけど、

 

「これは一夏が悪いな」

 

と、バッサリ切り捨てられてしまった。味方は一切いない。相変わらず送り続けられているジト目には何かの威圧感みたいなものを感じる。

 

「は、はうぅぅぅ…………」

 

つい、その圧力に負けてしまい、縮こまってしまった。軍曹に目線で負かされる中尉って…………うぅ…………完全に上官としての立場が無いよ…………。現在のパワーバランスで言ったら、私が最低ランクである事は間違いないはず。

 

「ぷっ…………冗談だから! そんな小動物みたいに縮こまらないでよ!」

「こんな縮こまっているのが日本の英雄だなんて誰も思わないな、これじゃ」

 

そんな風に縮こまっているの私を見て二人はクスクスと笑っていた。その顔に悪気とかは無いみたいだからいいけど…………なんだかすっごくむかつく。思わず頬を膨らませてしまった。

 

「むぅ…………二人とも、からかうのはいい加減にしてよ!」

「ほう。ならば適度なからかいならいいのだな?」

「そういう問題じゃないからね!」

 

完全に箒に弄ばれている私。昔もよく箒に弄ばれていた事を思い出す。そして、秋十が調子に乗って私をからかおうとすると、決まって箒が天罰を下していたっけ。なお、からかわれるようになったのは、箒の弱点が私にばれた次の日からだった気がする。

 

「ま、でも一夏をいじるネタはたくさんあるからね。ほら、例の彼氏の件とかさ」

「その話広まるの早すぎでしょ!? 葦原大尉ってそんなに私と弾の関係を容赦なくばらしているの!?」

「というか、館山基地の人はみんな知ってるよ? 葦原大尉が『今夜は赤飯だー!!』とか言ってたし」

「あんの、セクハラ大尉ぃぃぃぃぃっ!!」

 

今頃大尉はやけに腹が立つ笑顔をしている事だろう。ならば、今度模擬戦にでも付き合ってもらうしかない。シュミレーターならいくらやっても弾薬費とか掛からないし。掛かったとして電気代くらいだ。だから私達のように大量の弾薬を一度に消費してしまうような機体での訓練にはシュミレーターが向いているんだよ。まぁ、私の場合、そのまま衝撃とかもフィードバックされるから、それを狙って大尉を懲らしめたいだけだけど。

 

「あ、そうだ…………お姉ちゃんに頼んで、大尉の部屋を掃除してもらおうかな? そうすれば、多分大っきなムカデみたいなやつ(アースロプレウラ)の一匹二匹は出てくるはずだし…………」

「そ、それはダメだ! バイオハザードになって館山基地が死の土地に変わるぞ!!」

「冗談だって。さすがにお姉ちゃんにやらせたら、それで済まない事になるもん」

「…………見た事がある分、容易に想像がつくな」

「何の話なの?」

「雪華は知らなくてもいい話だよ」

 

箒は私がふと漏らした、お姉ちゃんの掃除に反応した。まぁ、あの惨状を初めて見たときはお互いに固まって動けなかったよ。部屋を開けたら、なぜか太古の地球みたいな状態になってたし、大っきなトンボ(メガネウラ)は飛んでるし、これまた大きいサソリ(ブロントスコルピオ)がうごめいているし、極め付けはウミサソリ(プテリゴトゥス)がいた事かな。飛んでくる大型昆虫に、這いずり回る黒い彗星、そしてゴミの山に首から突き刺さっているお姉ちゃんと束お姉ちゃんの姿を見たら誰だって言葉を失うよ。まぁ、その後正気に戻ったお姉ちゃん達と帰ってきて同じく唖然としていた秋十と片付けたけどね。多分、雪華が知ったらあまりにも次元を超えた事に開いた口が閉じなくなると思う。

 

「おーい、嬢ちゃん達ー。もう直ぐ学園島に到着するぞー。荷物の準備とかしてきなー」

 

そんな間延びしたような声で、この艦に案内してくれた士官の人がそう言ってきた。ちなみに階級は大尉。砲術科の人みたい。ふと、海を見ると、そこには島があった。正確には日本本土と繋がった人工の島。その中央には白い建物——IS学園がその存在をこれでもかと伝えてくる。

 

「了解しました! それじゃ、私達は降りる準備しないとね」

「そうだな。しかし、これならば礼に菓子折りの一つでも持って来ればよかった」

「グライフェンの整備とかしてみたかったけど…………ま、それは今度でいっか」

 

私達は一度艦内に入り、置いておいた荷物を持って下艦する準備をした。学園島に接岸したのはそれから五分後の事だった。

 

 

入学式が無事に終わり、私達は割り当てられたクラスへと向かい、そこで待機していた。まぁ、私達はあくまで秋十の護衛できたわけだから一箇所にまとめられるわけであり、全員一組に集まっていた。それにしても名簿を見て驚いたよ…………まさかあの三人もここにいるとはね…………もしかするとアメリカとイギリスからの人員なのかもしれない。

それはともかく、巷では大騒ぎの発端となっている私の弟・秋十というと、最前列でガッチガチに固まっていた。まぁ、それも仕方ないよね…………だって、秋十を除いた全員が女の子だから。私や箒のように昔から馴染みのある人だったら別にどうって事はないけど、それ以外の人は興味津々だ。雪華もそれなりに興味があるみたい。…………これで無意識のうちに女の子を堕としかねないから細心の注意を払わなきゃいけないけどね。

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は副担任の山田真耶です」

 

副担任の山田先生が入ってきて挨拶をしたけど、誰一人として返そうとしない。緊張とかそういうものじゃない。ただ単純に秋十にその視線が集中しまくったせいで、誰も先生が来た事をどうでもいいことくらいにしか捉えてないんだと思う。あ、先生、私はちゃんと見てますから! だから、そんな泣きそうな顔にならないでください! こんなことを言うのもなんですけど、先生は童顔なので凄くイケナイ感じしかしません!

 

「あうぅぅ…………こ、この学園は全寮制となっています。今後、力を合わせて頑張っていきましょうね」

 

…………。本当に秋十にしか興味がいってないよ。誰か本当に返事してあげて! このままだと山田先生が教室の隅っこでうずくまって負のオーラを放ちかねないから! え? 私が返事したらいいんじゃないのかって? …………ごめんなさい、こんなコミュニケーション能力が低い中尉でごめんなさい…………私にはこの状況を打開することができそうにないです。

 

「はうぅぅ…………で、では、自己紹介を…………廊下側の人からお願いします」

 

山田先生は微妙に負のオーラを放ちながら自己紹介をするように促してきた。そこでやっと意識がこっちに戻ってくるみんな。それを見て無視されてなかったことが相当嬉しかったのか、今にも飛び跳ねそうな勢いで顔が明るくなる山田先生。あのー、本当に教師ですか? いや、私みたいに頼りない軍人もいるからなんとなく気持ちはわかるけど…………その、胸を張って胸部の装甲だけ強調するのやめてくれませんか? ただ喜んでいるだけなんだろうけど、その豊満な塊が目に入ってくるんですよ。どうやったらあんなに大きくなるんだろ…………雪華よりは大きいけど、箒には負けるし…………まぁ、あまり大きくなっても邪魔になるだけだし、気にしなくてもいっか。べ、別に大きいのが羨ましいとか、そういうことはないんだからね!

 

「エイミー・ローチェです。アメリカ軍の出身ですが、その辺はあまり気にしないで接してくれると嬉しいです」

「同じくアメリカ軍出身のレーア・シグルスだ。趣味は映画鑑賞、同じ趣味の人がいたら是非話がしたいと思っている」

「セシリア・オルコットですわ。イギリス軍の人間ですが、私としては皆さんと楽しい一年にしたいので、どうかよろしくお願いします」

 

エイミーにレーア、そしてセシリアまでもがここに集まっていた。というと、すでにこの教室にはフレームアームズが六機存在していることになるのかな? 機体だけで言えば三つの分隊(エレメント)ができるけど、運用人数は五人だから一個小隊くらいの戦力だ。…………もしかして、これだけでアントを防げとでも言うのだろうか? せめてあと一人は戦力として欲しいところだよ。

 

「市ノ瀬雪華です。日本国防軍から整備とかについて学びたいと思ってきました。よろしくお願いします」

「篠ノ之箒だ。雪華と同じく国防軍の出身だ。それと、勘の良い者は気づいたようだが、私の姉はあの篠ノ之束だ。だが、これだけは言っておく。私はISのコアを作ることはできないが、姉は料理に洗濯、掃除と家事が一切できないぞ。姉の恥ずかしい過去を聞きたいなら休み時間に来てくれ。では、よろしく頼む」

 

雪華は普通に自己紹介したみたいだけど…………箒、そんなあっさりばらしていいものなの? まぁ、別に姉妹の仲が悪い訳じゃないからよさそうだけどさ。てか、篠ノ之なんて名字はそうそうないから気づく人もいるか。それを見越して先にばらしたみたいだから、先手を打ったってことなのだろう。でも、それを実行に移せる箒の度胸は本当に凄い。やはり、胸が大きいから…………って、それは関係ないか。

 

「次、紅城さん、お願いします」

 

考え事をしていたら、いつの間にか私の順番になっていたみたい。それじゃ、自己紹介をするとしますか。あ、別に気乗りしてない訳じゃないから大丈夫だよ。立ち上がる前に一応確認。ニーソはうまく傷を隠しているね。これなら大丈夫だと思う。

 

「紅城一夏です。雪華や箒と同じく、日本国防軍の出身です。でも、そういうのは関係なく仲良くできたらいいなと思ってます。一年間よろしくお願いします」

 

当たり障りのないごく普通のことを言って乗り切った。まぁ、名字が違うから私と秋十が姉弟だなんて絶対気付かないだろう。でも、絶対なんてないから…………卒業まで気づく人がいない事を祈っておこ。

と、此処まで順調に進んでいた自己紹介みたいだけど、突然その流れが止まってしまった。何か問題でも起きたのかと思って様子を見たら…………秋十が固まっていて反応すら見せていなかった。しかし私は比較的近距離にいるが、状況的に支援不可能である。てか、助け舟を出したら私まであの視線の集中砲火にやられそうだ。

 

「織斑君、織斑君、織斑君! おーりーむーらーくーん!!」

「ひょわっ!? な、なんでせうか!?」

 

秋十も意識がこっちになかったようで、そこそこ大きな声でこっちの世界に戻され、その事に驚いて直立していた。その光景に思わず苦笑いが出そうになった。実際、何人かは苦笑いしている人がいる。

 

「大きな声出してごめんね。今、自己紹介で織斑君の番なんだけど、してくれるかな? だめかな?」

「い、いや、謝らないでください。や、やりますから」

 

秋十は山田先生に言われて、後ろを振り返った。表情を見た感じ、完全になんて言ったらいいのかわかってない顔だ。てか秋十、さっき山田先生に迫られて顔を赤くしてたよね? しかも露骨に視線を逸らしていたから、おそらく胸にでも目がいったのかもしれない。そういう事を考えると、やはり秋十も男の子として最低限のものはあったみたいだ。…………まぁ、自分で言っていて泣けてくる話なんだけど。

 

「えーと…………お、織斑秋十、です」

 

…………終わり!? たったその一言だけなの!? 流石に他の事も言うでしょ? というか、他に何か言ってという視線が秋十に集中し始めている。その視線を一挙に受けたせいか、一瞬身じろぎをしたようだが、その後一度深呼吸をしてから口を開いた。大丈夫、ちゃんとした事を言ってくれる——

 

「——以上です!」

 

——事はなかった。全くもって予想できなかった結果に教室中でこける音が聞こえた。少なくとも雪華は椅子の上でずっこけている。かくいう私は、あまりにも弟のコミュニケーション能力が残念すぎる事に頭を痛くして、眉間の辺りを押さえていた。いや、確かにさ…………女子が溢れる場所に男子一人ってのも苦痛だとは思うよ。それにしたって、挨拶くらいはできるんじゃないかなぁ? そう考えていた時だった。

 

「——お前はまともに自己紹介もできないのか?」

「げえっ!? 家事壊滅残姉さん!?」

「個人情報をバラすな、馬鹿者!!」

 

ハリセンでツッコミを入れられ、挙句の果てに余計な事を言った結果、秋十の頭からはなってはいけない音が鳴り響いている。うわぁ…………拳で挟み込まれてから、グリグリとされるのは本当に痛いと思う。見てるこっちがドン引きだよ…………。なお、それで秋十は力尽きたのか、そのまま机に突っ伏していた。

 

「山田先生、遅れてすまない。予想以上に会議が長引いてしまってな。担任としてクラスに直ぐ顔を出せなくて申し訳ない」

「い、いえ! 私は副担任ですから! この程度は大丈夫です!」

「それでもだ。私達担任が教鞭を振るうことができるのは、君のように支援をしてくれる副担任がいるからに他ない。とにかく、行程を進めておいてくれて助かった」

 

山田先生はそう言われて顔を赤くしていた。ってか、ちょっと待って!? 少し状況を整理するのに時間がかかったけど、もしかして今の声って…………!

 

「諸君、私がこのクラスを担当する織斑千冬だ。私の任務は貴様らの教導だ。まずは半月でISの基礎を叩き込んでやる。そして同じく半月以内にISを手足のように扱ってもらうぞ。——なに、この地獄の倍率をくぐり抜けてきたエリート揃いだ、直ぐにできるさ。そして代表候補生、貴様らもここにいる全員と同じく雛鳥レベルだ。一からやり直す気でやれ。だが、ここは学校だ。少しの間違いならやり直すチャンスを与えてやろう。だが、これだけは言わせてもらおうか——失敗は命に関わる、とな。私からは以上だ。いいな、わかったか?」

 

まさかのお姉ちゃんだったよ…………前に学校で先生をしているって聞いていたけど、まさかのココなの!? 全然言ってなかったよね!? どこがちょっとした学校なの!? ある意味士官学校にも近いものを感じるよ!? しかも有名どころで超エリート校だから、ちょっとどころの話じゃないじゃん!! どうやら、秋十も私と同じく知らなかったみたいで、起き上がり目の前にお姉ちゃんがいると気づいた瞬間、何故か血の気が引いていた。

てか、その発言ってどうなのお姉ちゃん…………確かにここは士官学校みたいな感じだし、ISの防御力が高いとはいえ死亡事故が起きないと限らないから、そうやって意識付けをするのは大切だと思うよ。私達がフレームアームズの訓練を受けている時も、実戦だと思ってやれと言われているしね。けど…………

 

「ほ、本物の千冬様よ!」

「きゃーっ! お姉様! 愛しのお姉様〜!」

「躾けてくださ〜い! 熱い蝋としなやかなムチでお願いしま〜す!」

「でも、たまには甘えさせてください!」

「そして、再調教オナシャス!」

「北九州よりきた甲斐がありました!」

「お姉様の命令とあらば死ねます!」

 

…………この中に何人その意味を理解しているかわからないよ。少なくとも各国軍の出身者達は理解しているはず。というか、お姉ちゃんの人気がおかしい方向に向かっているような気がするんだけど…………あ、言っておくけどお姉ちゃんはあんな事やこんな事をするような人じゃないよ? それだけは確実に言える。

 

「全く…………なんでこうも私のクラスには問題児しか来ないんだ? むしろこれだけ馬鹿者どもがいる事に感心するべきなのか?」

 

お姉ちゃんは流石に呆れたのか、眉間の間を押さえるようにしている。それを見て思わず山田先生が苦笑いしていた。どうやら前もこんな感じのことがあったみたいだ。ってか、みんなキャーキャー騒ぎすぎじゃないかな…………私、耳が痛くなってきたよ。え? いつもはロングレンジキャノンが頭の横に展開されるから、それで慣れてるんじゃないのかって? いや、あれは聴覚保護機能があるからね。そうじゃなかったら今頃鼓膜が破れているよ。

 

「いい加減黙らんか! 全く…………まぁいい。自己紹介が途中までしか進んでないようだが、後は各自でやれ。それと、私の言う事に逆らってもいいが、返事はしろ。これにてSHRを終了する。各自、次の授業の準備に入れ」

 

お姉ちゃんはそう言うとそのまま教室を後にしていった。山田先生はその後ろを子犬のようについていく。…………なんだろ、一瞬尻尾が見えて気がする。

それにしても…………これから大変な事になりそうだなぁ。ま、でも、今は次の授業の準備に取り掛かるとしよう。そう思った私は一時間目の授業である、IS基礎理論の教材を鞄から取り出したのだった。

 

 

一時間目終了後、秋十は完全に轟沈していた。頭を限界まで使っていたのかわからないけど、何故か煙が立ち上って見える。で、そうなっている秋十を一目見ようとあちこちのクラスから人が廊下に詰めかけているといった状況。その視線を受け止めているわけだし、いくら唐変木の秋十でもこれには耐えきれなかったようだ。

 

「秋十の奴、大分参っているな」

「まぁ、こんな状況じゃ仕方ないとは思っちゃうけどね」

「でも不憫すぎでしょ、この環境」

 

箒は秋十に向けてやれやれといった視線を向けている。仕方ないとはいえ、この状況はなかなか堪えると思うよ。雪華の言っている事には同感だ。ちなみに秋十は未だに再起動する気配がない。完全に沈黙を保ったままだ。まぁ、この状況で秋十に接触なんてしてこないだろうし、そこそこ警戒しておくことにしよう。

 

「お久しぶりです、一夏さん」

 

すると、いつの間にかエイミーが私の側に来ていた。いや、エイミーだけじゃなく、レーアとセシリアまで集まっていた。みんな全然変わってなくて、なんだか安心したよ。

 

「久しぶりだね。どう? 元気にしてた?」

「はい! 出撃は何度かありましたけど、全部軽傷ですみましたから」

「私もだ。というか、びっくりしたぞ。お前が二機同時保有者(ライセンサー)になっていたからな」

「あはは…………成り行きでそうなっちゃっただけなんだけどね」

「それでも、ライセンサーなんて凄いですわ。ところで、一夏さん、そちらの御二方は…………?」

 

あー、そう言えば自己紹介とかしたけど、殆ど面識なんてないもんね。それじゃ、改めて自己紹介とかしてもらったほうがいいのかな? そんな風な事を考えていた時だった。

 

「一応、さっき自己紹介したが名乗らせてもらおう。日本国防軍第零特務隊、篠ノ之箒少尉だ」

「えっと、日本国防軍本土防衛軍フレームアームズ整備班、市ノ瀬雪華軍曹です」

 

いつの間にか二人が自己紹介をしていた。まぁ、私が直接指示を出すようなことでなかったし、自分からしてもらった方が良かったからね。

 

「では、私も改めて。イギリス海軍第八艦隊狙撃部隊、セシリア・オルコット少尉ですわ」

「アメリカ陸軍第四十二機動打撃群、エイミー・ローチェ少尉です」

「同じく、レーア・シグルス少尉だ」

 

三人もまた初見の箒達に自己紹介を済ましていた。うーん、やっぱりなんだかんだでアメリカとイギリスと日本って仲良くなるの早いよね。

 

「あぁ、それと一夏。一つ言い忘れてた」

 

そうレーアが言うと、エイミーとセシリアの雰囲気も変わった。この雰囲気は、出撃前とかそう言う時の軍人としての雰囲気だ。その雰囲気を感じ取った私も同じように気を少し引き締めた。

 

「これよりレーア・シグルス以下三名、紅城中尉の指揮下に入ります。何卒、よろしくお願いします」

「うん。こっちこそよろしく。あ、それと、今まで通り私の事は階級付け無しで呼んでいいからね」

「それじゃ、市ノ瀬軍曹にも私たちの事を階級付け無しで呼んでもらうことにしよう。よろしくな、雪華」

「はい。よろしくお願いします!」

 

というわけで、ここの部隊の中では全員がお互いを名前呼びする事になったのだった。というか、こんなところで階級付けして呼んだら色々とまずい気がする。それに、私自身がそうしたいという思いがあるからね。

 

「それにしても、あの織斑秋十という男子にこの状況は辛かったみたいですわね」

「流石にこれでは以前いた部隊(米海軍第七艦隊第八十一航空戦闘団)の男共でも耐えさられそうにないな」

「寧ろ、レーアは彼と真逆の事を経験してますからね。まぁ、そこら辺の男よりも男前ですけど」

「そういう人って結構いるんだな…………実を言うと、私もよく男勝りと言われてしまうことがあったぞ」

「昔からそうだもんね。男子よりも女子の方から人気あったみたいだし。普通なかなかないよ、そういうの」

「箒って雰囲気的にサムライとか武士とかそんな感じがするからだと思うよ。ほら、女武士ってかなり格好いいし」

 

褒められているのかわからないな、という箒の呟きを最後に、休憩時間は終わりを告げたのだった。

 

 

「…………それで、何か弁明はあるの、秋十?」

「全くもってございません!」

 

二時間目終了後、私は秋十に呼ばれて屋上に来たわけだけど、実際のところ話の主導権を握っているのは私で、秋十は現在土下座をしている。秋十が土下座をしている理由だけど…………あまりにもアホすぎて説明するのもなんだか面倒だ。だってさ、普通必読って書いてある参考書を使い古した電話帳として捨てるかな? 確かにあの厚さは電話帳と見間違えるかもしれないけど、確認くらいはするよね? ちなみにあれ一冊だけで、鞄の容量の半分を占めている。用語が多いのはわかるけど、これは少し詰め込みすぎでしょ? タブレット端末が普及しているんだから、それに一括して纏めてもいいんじゃないかと思う。

とはいえ、そうやって全然勉強せずに来たものだから、先ほどの授業は一切ついていけず、散々な目に遭ったのだった。しかも、私を呼び出す前になんか絡まれてたし。なんか、代表候補がどーたらこーたらとか。

 

「はぁ…………で、これからどうするの? 私の参考書は貸さないよ? 私だってまだ覚えきれてないことあるし」

「わかってるって…………千冬姉は昼休みに職員室に来いって言ってたから、その時に再発行してもらえないか頼んでみるよ。てか、一夏姉でも覚えきれないのか…………」

「当たり前でしょ。だって、私ただでさえ一般教科でも手一杯だったんだから」

 

IS関連の事を学ぶのは必要最低限で十分とは言われているけどね。だって、私たちが使うのはフレームアームズ。ISと似て非なるものだから、そこまで慣れなくていい。それに、どうせ勉強してもこのIS適正の低さだけはどうにもならないからね…………ほとんどの人は最低でもCクラスなのに、私はそれ以下のDクラス。まともに扱うどころか起動すら怪しいよ。

 

「でも、一夏姉が来るって聞いた時は安心したよ。それに箒もいたしさ…………知り合いが誰一人としていないところに放り込まれるのが怖くて、知り合いがどんなに大切なのかわかった気がするぜ」

「私としては秋十が不安要素の一つであるけどね。一時間目で自らお姉ちゃんの弟って言ってるようなものだし」

「うぐっ…………」

 

いずれは気づかれることだった事だから、早めにばれても良かったのかもしれない。とはいえそのおかげで視線の集中してくる量が増えたのは言うまでもない。これが射線だったら…………考えただけでもぞっとする。

 

「とりあえず、これから頑張るしかないね。こっちもできる範囲でなら手伝うから」

「おう、ありがとな一夏姉。でも、俺もあまり世話にならないように努力するさ」

 

そう言ってはにかんで見せる秋十の顔には、一度やると決めたら絶対にテコでも動かないといった決意が表れていた。それを見て安心する一方、変に空回りしないかという不安も同時に出てくる。…………これ、また胃が痛くなる事案になったりしないよね? 護衛任務が主目的だから、私としてはできれば何も起きないといいんだけど。護衛そのものが必要なかったという結果で終わるのが一番だ。

そう考えていた時、次の授業五分前を告げる予鈴がなった。距離はそこまで大きく離れているわけじゃないから走らなくてはいいけど、授業に遅刻するのはどうかと思うからね。

 

「それじゃ、教室に戻ろっか、織斑君(・・・)

「了解したぜ、紅城さん(・・・・)

 

私たちは互いに名字で名前を呼び合う事にした。まぁ、一番は私がFAパイロットとしていつかはばれるので、その時に秋十と姉弟関係、すなわちお姉ちゃんと姉妹関係にあるとバレてしまうと、お姉ちゃんの名前を汚す事になるから、それを防ぐため。安直かもしれないけど、他人のふりをしておけば少しはカムフラージュになると思うんだけどね。尚、設定では中学の同級生という事にしてある。

 

「そういえばさ、最近弾とはどうなんだ?」

「…………普通、それをここで聞いてくる? まぁ、メールとか一日に十通とかやりあってるけど」

「あ、そ。でも偶にはテレビ電話とかやったら? あれなら毎日顔を合わせられるぞ?」

「…………検討しておくよ」

「あ、顔すげえ赤くなってんぞ」

「うるさい!」

 

教室に戻る途中、秋十が調子に乗って茶化してきたので頭にチョップを叩き込んでやった。秋十は偶に調子に乗る時があるから、こうしてお仕置きをしてやる事が必要だ。具体的には、チョップ、デコピン、ツボ押しマット正座、ご飯抜き、魔境(お姉ちゃんの部屋)送りなどなど。

 

「い、痛え…………何もチョップしなくても…………」

「あまり茶化していると、魔境に送り込むよ?」

「そ、それは勘弁…………あ、そういえば弾からこんな伝言預かってんだった」

「何?」

「『その髪留め、壊れないように気にしてるみたいだけど、それジュラニウム合金製だからそう簡単には壊れないぞ』ってさ」

 

それを聞かされて驚くしかなかったよ。まずはジュラニウム合金で作られたアクセサリーなんてものがあった事。まぁ、軽量で柔軟性に富んでなおかつとんでもない頑丈さを誇る汎用特殊合金だからね。民間にも一部出回るらしいからありえなくはない。でも…………二つ目に驚いたのが、偶然にも、ジュラニウム合金は私の命を繋いでいる榴雷とゼルフィカールの装甲材でもあるんだから…………。そう考えてしまうと、弾からの一種のお守りみたいなものかなと考えてしまう自分がいたのだった。

 

 

「この時間ではISの各種武装の特性について学んでもらう」

 

三時間目の授業はお姉ちゃんが取り仕切っていた。この授業はどうやら特別重要なものらしく、山田先生までもがノートを広げてメモを取る用意をしていた。うーん、やっぱりああいうのを見てると、いつもタブレット端末とかでそういう作業を済ましているから、合理的じゃないなぁと思ってしまう。とはいえ、私がそんな事を言ったって変わるわけなんてないから授業に集中する事にした。でも、武装の特性なんて言われてもね…………ほら、私たちは常に最前線で愛機と共に命張ってきたから、身体に武器の基本的な特性とか染み付いているんだよね。特に自分の機体の武器なんかはそうだと思う。でも、一応聞いておかないといけないのは変わらない。

 

「だが、その前にクラス代表を選出しなければならない。まぁ、学級委員に似たものだな。クラス対抗戦への参加、クラスの取りまとめ役など仕事はそれなりにある。なお、一度決まれば一年間は特別な事情を除いて変更はない。自薦でも他薦でも構わん。誰かやりたいものはいないか?」

 

重い授業が始まると思いきや、クラスの役員決めという方に落ち着いた。いや、確かにこれも重要な話だと思うけどさ、わざわざ授業の時にやる必要があるんだろうか? 山田先生なんて明らかに忘れていたという表情をしたお姉ちゃんを見て、シャーペンを床に落としていたよ。

それにしてもクラス代表かぁ…………絶対にやりたくない。というか、なったらなったでそっちの仕事もしなきゃいけなくなるし、こっちだって護衛任務と哨戒任務、実稼働データ収集と複数の仕事を請け負っているからね。できれば軍務優先でいきたいよ。

 

「はい! 織斑君を推薦します!」

「私も同じく織斑君に一票!」

「私も私も!」

「って、俺!?」

 

いつの間にか秋十が推薦されてる。突然の事に秋十も驚いているようだ。まぁ、せっかくの男子生徒だから持ち上げておきたいっていうのもあるんだろうね。このクラスが他のクラスと違うのは男子がいるかどうかってところだし。でもね…………どう見ても、物珍しさに心惹かれてやっているようにしか見えないんだよね。まるで弟を見世物小屋の絡繰人形みたいにしか見てない…………本人達には悪気はないのかもしれないけど、少しむっとしてしまう。

 

「なるほど、織斑が推薦されたか」

「あ、あのー、織斑先生? 俺に辞退という道はないんでしょうか…………?」

「確かに特別な事情に限り変更を認めると言った。だが、貴様は余命宣告もされてないだろう。それにだ、社会に出てからこのように周囲に決められて理不尽な目に遭うことは幾度となくあるはずだ。これをその練習だと思ってやればいい。よって、辞退は却下する」

「ま、マジですかい…………わ、わかりました…………」

 

完全にお姉ちゃんに論破されてしまい項垂れる秋十であった。まぁ、確かに理不尽な目に遭うことは幾度となくあるよ。私だってそうだし。でも、その理不尽さは一歩間違えれば全てを失ってしまうようなものしかないよ。だから、学校でそういう目に遭って訓練できるって実はいい事なんじゃないのかなと思ってしまった。あ、言っておくけど私は賛成でも反対でもないからね。ずっと中立の立場にいる事にするよ。

 

「話を戻そう。では、他に立候補者はいないのか? でなければ代表は織斑で決定——」

「——納得がいきませんわ!」

 

お姉ちゃんが代表を秋十で決めようとした時、その声を遮るような声が教室の後ろの方から聞こえてきた。

 

「男が代表になるなど恥晒しもいいところです! そんな屈辱を一年間、この私リーガン・ファルガスに味わえと、そう仰るのですか!?」

 

いかにも貴族とかお嬢様感をバリバリ出している子がなにやら言っている。そしてそのセリフから、がっつり染まった女尊男卑主義者だってわかったよ。男が代表になるから恥晒し、なんて横暴な発言は彼らにしかできないからね。普通の人はそんな事を思ったりしないはず。てか、あの人ってさっきの休憩時間の頭に秋十に絡んでいた人じゃないかな?

 

「いいですか!? 代表になるからには実力はトップでなければありません! つまりこの私、イギリスの代表候補生であるリーガン・ファルガスこそがなるべきなのです! それを剰え、極東の猿にに任せるなど…………私はサーカスを見るつもりなど毛頭もありませんわ!」

 

完全に女尊男卑思考だね、これ。知ってると思うけど、私はそういうのが大嫌いだ。しかも言われているのが私の身内。段々とイライラが募ってきているわけだけど、ここで下手に発言しようものなら大変な事になる。私は国防軍人としてその品位を自分のせいで下げさせてしまうわけにはいかない。だから、今は耐える時だ。ふと秋十の方を見たらなにやら文句が溜まって、いつ爆発するかわからない状況だ。万が一の時は私が止めるしかない。秋十もまたあの代表候補生同様、その発言に強い意味を持つ立場にいるのだから。

 

「大体、私としてはこんな極東の島国で暮らす事自体、耐え難い苦痛で——」

「そっちだってお国自慢——」

「——それ以上はダメだよ、織斑君!!」

 

いや、本気で危なかった…………これ完全に最前線と同じレベルで危険なんだけど。ここで下手に発言させてしまったら最後、最悪人類同士の戦争となってしまうかもしれない。どうしてそうなるかというと、代表候補生は候補生であっても扱いは国家代表と同じで、その発言は国の言葉として捉えられる。あの代表候補生——ファルガスさんの発言は日本への宣戦布告ともとれるもの。それに、日本の男性操縦者が反論したとなれば、それは学生の口喧嘩程度では済まないはず。ちなみにこれは武岡中将から私達に言われた事を今の状況に当てはめてみたものだ。この話、聞いておいて良かったと心の底から思った。

 

「言い返しちゃダメ…………本当にダメだからね」

「な、なんでだよ紅城さん!? あんなに言われたのにムカつかないのか!?」

「それは、日本人だからちょっとはムカつくけど、その反論を織斑君がしちゃうと取り返しのつかない事になるかもしれないんだよ。だから…………ここは抑えて」

「ぐぅ…………わかったよ」

とりあえず秋十を落ち着かせる事には成功した。あの後どんな事を言おうとしたのかわからないけど、どう転んでもその先にあるのは良くない事のような気がするよ。

 

「全くもって品がないですわ、リーガン・ファルガス代表候補生。あなたの発言がイギリスの品位を下げている事にお気付きでして?」

 

さっきまで色々捲し立てていたファルガスさんにセシリアが反論した。彼女の言う事は最もだ。あの発言の中には名誉毀損、人種差別といった公に出すとやばい話しかなかった。代表候補生も代表と同じ扱いを受けているという事は、国の顔という事にもなるわけで、あの発言はイギリスの国家そのものがそういう考えを持っているという事を示してしまう事につながるのだ。

 

「もし気づいていないようであれば、英国七大貴族(セブンス・ブライト)の一席として貴方を始末しますわよ?」

「ふん! ウォルケティア家に援助を受けている没落貴族になにができるんです?」

 

不敵な笑みを浮かべているファルガスさんと真剣な顔で話しているセシリアの間にはなにやら見えない戦場のようなものがあるように感じた。というか、そういう発言をしているのを聞いていると本当に気分が悪くなってくるよ…………。

 

「それに、私の気分を害しているのは男がいるだけじゃないんですの」

 

ファルガスさんはそう言うと私の方に向けて指差してきた。って、わ、私!?

 

「そこに男の肩を持つ女性がいるからですわ! それに、女性で、軍人でもあるにも関わらず堂々としてない! 見ているだけで虫唾が走ります!」

 

え、えぇ…………なんでそうなるの…………? というか、それって完全にやっかみみたいなものだよね? 理不尽すぎる…………。

 

「なっ…………貴方! 一夏さんは関係ないでしょう!? 貴方はそこまでイギリスと日本を戦争に巻き込みたいのですか!?」

「例え戦争になろうと、我がイギリスが勝つに決まっています。だって、方や実戦経験のあるイギリス軍——」

 

 

 

 

 

「——方や実戦経験のない、『戦争ごっこ』しかしてない日本国防軍ですもの」

 

 

 

 

 

「——!!」

 

誰が実戦経験が無いだって…………? ふざけないでよ…………!!そっちこそ、戦場に立った事も無いくせにそんな事をぬけぬけと…………!!

 

「…………貴様ら、そこまでにしておけ」

 

怒りが沸点を超えた直後、お姉ちゃんの底冷えするようなドスの効いた声が教室に再び静寂をもたらした。あの顔は完全に怒っている顔だよ…………。でも、その声すら私の怒りが収まりそうにはなかった。辛うじて理性が無理やり押さえつけているような状態だ。

 

「ファルガス、そこまで貴様が言うとなれば、織斑秋十との一騎打ちを望むということでいいのだな?」

「ええ。ですがそれだけではなく、そこの女にも決闘を申し入れますわ」

「紅城にか…………それに関しては私と紅城とで協議する。では後日、織斑秋十とリーガン・ファルガスの試合を行うとしよう。機体の準備は各自でしておけ」

「感謝しますわ!」

 

だが、と言ってお姉ちゃんは言葉を続けた。

 

「ファルガス、貴様の発言は一介の代表候補生としては看過できないものだ。代表候補生はいわば外交官のようなもの。オルコットの言う通り、貴様の発言一つで自国が滅びることも可能性が無いわけでは無い。よって、今回は貴様を代表候補生更生プログラムに処す」

「な、なぜ私が——」

「反論は認めん。オルコット、録音したデータは更生プログラムの結果を待ってから送ってやれ。私ができるせめてもの慈悲だ」

「了解しましたわ」

 

なんだか話が進んでいるみたいだけど…………もう、あの一言のせいで私の心は折れかけている。もう、ここにいるのが辛いよ…………。

 

「では、授業に戻る。織斑、何か言いたいことがあるようだが今は抑えておけ」

「…………わかりました、織斑先生」

 

秋十も何か言いたいことがあったみたいだけど、今の時だけは抑えつけているようだった。そんな秋十は凄いよ…………私はもう、耐えられそうに無いから…………。

 

「…………織斑先生、気分が悪いので休んできてもいいですか?」

 

私はそう言って、お姉ちゃんの返事を聞かずに教室を出て行った。休むとは言ったけど…………休む気なんて一切無い。行き着いた先は階段の踊り場。だいぶ教室からも距離は離れたし、ここなら大丈夫だよね…………。

怒りを押さえつけるものを失った私は、拳を壁に叩きつけていた。

 

「何も知らないくせに…………目の前で誰かを失ったことも無いくせに…………戦争ごっこなんて、言われる筋合いは無いんだよ!!」

 

壁なんてどんなに殴りつけても壊れることは無い。多分、私の手が先に壊れるかもしれない。でも…………今まで命を張って、それこそ命と引き換えに日本を守ってきた人達を侮辱された気がして…………それが許せなくて…………あの場で言い返す度胸もなかった私が腹立たしくて…………どこにぶつけたらいいのかわからない憤りを、ただ壁に叩きつけていた。

 

「ふざけないで…………!!」

 

わけもわからずに、ただ涙が溢れてきて、床に座り込んだ私の頬を濡らしていくのだった。

 

◇◇◇

 

「…………山田先生、後は任せる」

「え、ちょ、織斑先生!?」

 

千冬は教室を出て行った一夏を追いかけようとしていた。一夏はそう簡単に怒りを爆発させるような性格をしてないが、代わりに溜め込んでしまう癖がある。それに、あれだけの侮辱を言われて正気でいられるわけが無い。一刻も早いケアが必要だと、彼女は判断した。また、この事態を引き起こしたのは自分が早期に話を決められなかったことにも起因している——責任感が強い千冬はそれを負い目に感じていた。自分の失態は自分でカタをつける、それが彼女の信条というものだった。

 

「織斑先生」

「なんだ、篠ノ之——」

「…………一夏の事を、中尉の事をお願いします」

 

箒に呼び止められた千冬の目に映ったのは、自分に向かって敬礼をしている箒の姿だった。いや、箒だけでは無い。雪華、エイミー、レーア、そしてセシリア。一夏と接点のある者が皆、千冬に対して敬礼をしていたのだった。相当慕われているんだな——彼女は内心そう思いながら自分の妹の人望の厚さに感心していた。千冬は箒達の願いを背に、一夏の元へと急いだのだった。

 

(くそっ…………! 俺はまた一夏姉に負担ばっかかけるのかよ! というか、どう考えたって一夏姉はとばっちりじゃねえか! なあ弾…………こんな時、お前ならどうしたんだろうな…………)

 

自分の姉が貶されて、秋十も憤りを隠せないでいた。自分のせいで姉が責められたとなれば誰であっても憤る。しかし、それ以上に、姉の想い人であったならどうしたのだろうかと、今この場にいない人間に訪ねていたのだった。

 

◇◇◇

 

涙が溢れて止まらない。ここまで悔しい思いをしたのは初めてだよ…………。葦原大尉も瀬河中尉も、悠希も昭弘も…………誰もが命を張って、国を守ろうとしているのに、それをあの代表候補生は『戦争ごっこ』の一言で片付けていった。周りに情報が出てないからそう思われるのは仕方ない…………でも、私達はずっと戦い続けてきた! あの言葉はそうやって戦いに身を投じた人達への冒涜だよ!!

 

「ぐうっ…………ひっぐ…………」

 

涙とともに嗚咽も出てくる。やり場の無い怒りが私の中で暴走を続けている。いくら中尉の階級があっても、私は若年兵。やっぱり葦原大尉や瀬河中尉みたいな大人には程遠いのだと実感した。

 

「…………紅城、大丈夫か?」

 

一頻りに泣いていると、私の後ろから声をかけられた。この声は…………

 

「織斑先生…………? どうしてここに…………」

「生徒を気遣うのも教師の役目だ。場所を移動する、ついてこい」

「あ、ちょ——」

 

お姉ちゃんに腕を掴まれ、無理やり立たされる。そのまま腕を引かれ、その場を後にしたのだった。

 

 

「——で、気は済んだか?」

「すみません…………」

 

応接室へと連れてこられた私はお姉ちゃんと向かい合うように座っていた。一頻りに泣いたから、もう涙が出そうには無い。でも、このやり場の無い怒りをどこに向けたらいいのかわからずにいる。前は誰も見てなかったし、まだ一人の兵士としてだったから心の内を簡単にさらけ出せたけど…………今の私は臨時とはいえ指揮官だ。その私が口論に参加したとなれば国防軍がバッシングの嵐にのまれるかもしれない。大尉達はいつもなんでも無いように振舞っているけど、裏ではこんな葛藤と戦っているんだなって思ったよ。それと同時に、感情を制御できない自分の心の幼さも、ね…………。

 

「その、一夏…………済まなかったな。私がもう少し早く話にケリをつけておけば…………」

「気にしなくていいよ…………私達のやっている戦争は公にできないから…………あんなことを言われても仕方ないんだよ…………」

 

言葉ではそう言ってるけど、頭の中では納得いってない。多分、あそこにいる人たちの殆どは私達国防軍の事を良くは思ってないのかもしれない…………世論がそう言ってるからそうなっているだけなんだけど…………命を張っている私たちからしたら、『戦争ごっこ』なんて言われるのは屈辱でしかないよ…………。思わず唇を噛み締めていた。

 

「言うのが遅れたな…………一夏、結果としてこのような形になったが、お前があの時介入してくれたおかげで秋十が今後の火種を大きくせずに済んだ。それに、あの状況で介入できるなど相当肝が座ってなければできん。お前の言いたいことはわかる…………だが、私としてもあの言葉だけは許せん」

 

お姉ちゃんは一息つくと言葉を続けた。

 

「『戦争ごっこ』などと抜かすのは、実戦を生き抜いた私に対しても十分頭にくるもの。ましてや軍人のお前たちからしたら…………侮辱にも等しいはずだ」

「…………うん、今も戦ってる仲間を貶されたしね。もし、できるならあの巨砲(リボルビングバスターキャノン)を叩き込んでるよ」

「なら、やってみるか?」

「え…………?」

 

お姉ちゃんの一言に私は思わず驚いた。ま、待って…………!? そ、それって一体…………!?

 

「IS学園は、最終的に力がすべてを決める。勝者が全てを得、敗者は従うのみ。国防軍を含めた各国軍からは万が一模擬戦になった場合、可能な限り参加させよと言われている。そして、奴もまたお前に決闘試合を申し入れてきた。ならばお前はどうする、第十一支援砲撃中隊の防人。別に拒否しても構わないが…………」

「…………勝てばなんとでもできるんだよね…………?」

 

お姉ちゃんにそう言われた私は既に怒りが一周回って冷静になっていた。力が全てだなんて…………本当、戦場みたいなことを言ってるよ。でも、そう言われてしまっては私は引くわけにいかない。私はこのIS学園派遣部隊の臨時指揮官である以前に、日本国防軍本土防衛軍第十一支援砲撃中隊の一員なんだから…………!

 

「それなら私は、その決闘…………受け入れます…………!!」

 

だったら、敵は全て一掃(Grand Slam)するだけだ。人間相手に戦うのは少し気が引けるけど…………あいつは中隊の誇りを貶した馬鹿野郎だ。だったらもう容赦などしない。秋十の護衛もそうだけど…………今の私はあいつを倒す!!

 

「…………全く、軍人のその目はいつ見ても恐いな。わかった、お前とファルガスの決闘も行うことにしよう。こんなところに連れ込んでしまってすまなかったな。——っと、授業終了までほとんど時間が残ってないか…………まぁ、お前にとって武器特性なんてものは、基礎中の基礎だから今更心配しなくてもよかったな。とりあえず、戻るとするか」

 

お姉ちゃんはそう言うと席を立ち上がる。それに連れられて私も立ち上がり応接室を後にした。そんな時、不意にお姉ちゃんが私に向かってこう言ってきた。

 

「それにしても一夏…………また強くなったな」

 

そう言って微笑むお姉ちゃんの顔を見た私は、少しだけ自分に自信が持てたのだった。…………絶対勝つよ。頑張ろうね、榴雷…………今回は君に任せるからね。




キャラ紹介

紅城一夏(cv.東山奈央)


【挿絵表示】


身長:161㎝
体重:[データ破損]
年齢:15
容姿イメージ:榛名(艦これ)
所属:日本国防軍本土防衛軍第十一支援砲撃中隊
階級:中尉
搭乗機:三八式一型 [榴雷・改]、YSX-24RD/BE [ゼルフィカール・ブルーイーグル]






今回はキャラ紹介のみです。次回も生暖かい目でよろしくお願いします。

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