FRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOS   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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Chapter.11

「ねえ、一夏。最近様子が変だと思うんだけど…………」

「あんまりそこのあたりは突っ込まないで貰えるかな…………」

 

第二格納庫にて私は雪華とともに待機していた。昨日は昨日で大尉に悩めと言われた結果、悩み悩んで迷走している。その様子はどうやら雪華にも見られていたようで、どうしようもない事態に陥ってしまっているようだ。私自身どうしたらいいのかわからないからね…………はぁ、誰か教えてくれると嬉しいんだけど。そのままため息をついて、座っている椅子に深くもたれかかった。

 

「そう言われてもね…………そこまで悩んでいるところを見たら誰だって気になると思うんだけど」

「本当に気にしなくていいから。うぅ〜…………やっぱりモヤモヤしてなんだか辛い」

「まぁ、あまり悩むのもどうかと思うよ? 少しは息抜きしないとダメじゃない?」

「そうかも…………ところで、榴雷とゼルフィカールの新パーツっていつ来るの?」

 

私が第二格納庫で待機している理由だけど、どうやら遅れ遅れで今日やっと届くそうだ。それを待っているわけだけど…………かれこれ一時間経ったのに未だに来る気配がない。到着予定時刻はすでに過ぎているんだけどなぁ…………。

 

「予定ならもう来てもいいんだけど…………まぁ、新パーツは呉から運んでくるから仕方ないでしょ。榴雷は立川の工廠からだけど、渋滞とかに捕まったんじゃない?」

「マジですかい…………」

 

焦らされているせいか余計気になって仕方ない。ゼルフィカールの新パーツが届くというのと、やっと愛機である榴雷が強化されて戻ってくるからかなり楽しみにしているだけあって、まるでお預けをくらっているような気分だった。それにしても、新パーツってどんな感じなんだろ? なんか特殊武装とかっては聞かされてはいるけど。

そんなことを思いながら待っていると、こちらに向かってくる二台の特殊大型トラックの姿が私の目に入ってきた。

 

「どうやら、ようやく到着みたいだね」

「そうみたいだね…………ふぅ、待つの長かった」

 

特殊大型トラックは方向転換すると、バックで格納庫の方へと向かってくる。荷台には装甲化された大型のコンテナが搭載されており、一般的なフレームアームズ移送車両と比べると物々しい雰囲気が出ていた。

 

「いよっ! 待たせたな!」

 

そう言ってトラックから降りてきたのは無精髭が特徴的なダンディ整備班長こと楯岡主任だ。さらにその後ろには雪華と似た顔立ちの金髪少女もいる。国防軍の制服を着ているところから軍人というのはわかるけど…………誰だろ?

 

「楯岡主任、呉までの任務お疲れ様です。で、到着予定時刻超過の理由は?」

「いやぁ法定速度ギリギリまで出して輸送していたけどさ、渋滞やら信号に引っかかりまくってね。ハハハ」

「はぁ…………それならいいんですけど」

 

どうやら遅れた理由は本当に渋滞とかに引っかかってしまっていたようだ。さすがに渋滞で遅れてしまったことにとやかく言うことはできないのか、雪華は仕方ないような表情で納得していた。

 

「それじゃ、コンテナの積み下ろしは任せるのです。重装コンテナとはいえ、中身の破損は避けたいので、丁寧にお願いするのです」

「了解しました!」

 

楯岡主任と一緒に出てきた少女は輸送部隊の人達に指示を飛ばしている。となると…………結構指揮権限高いのかな?

 

「さて、積み下ろし完了まで時間があるな。今のうちにあいつの事も紹介しておくか。おーい、雷華!」

 

楯岡主任がそう呼ぶとさっきまで指示を飛ばしていた少女はこちらへと向かってきた。見れば見るほど雪華と瓜二つに見えてくる。まぁ、髪の色はまるで雷みたいに明るい金髪だけどね。

 

「紹介する。こいつが呉の新兵器工廠にいるゼルフィカール専用武装開発担当、市ノ瀬雷華軍曹だ」

「ご紹介にあずかりました、市ノ瀬雷華軍曹です。よろしくお願いするのです」

 

そう言って綺麗なお辞儀をしてきた。ふーん、市ノ瀬雷華っていうんだ…………ん? 市ノ瀬?

 

「えーと、市ノ瀬雷華軍曹? もしかして、雪華とは…………」

「あ、雪華とは双子の姉妹なのです」

 

わーお、双子の姉妹と言われたら、似ている理由も納得したよ。それにしても…………本当によく似ている。違いは髪の色と髪留めくらいかな?

 

「まぁ、雷華は私より頭が良かったからね。そのお陰で整備班を通り越して、開発部に行っちゃったけど」

「開発部もなかなか楽しいのです。まぁ、私は体力がないので基地防衛には出撃できませんが」

「そうなんだ。それじゃよろしくね、えーと…………」

「雷華でいいのです。こちらこそよろしくお願いするのです、紅城中尉」

「それじゃ、私の事も一夏でお願い。階級とか気にしなくていいからね」

 

とまぁ、いつも通りの自己紹介と交流をしていた。てか、私と同い年で開発部とか…………どんなチートなんだろ。絶対頭の中身、束お姉ちゃんとかと同類でしょ? 少なくとも私は中学校の勉強で手がいっぱいである。

 

「さて、自己紹介もそこまでにしておけよ。雷華、コンテナの積み下ろしが完了したぜ」

 

楯岡主任はそう言うと背後にある下ろされた二つのコンテナを指差した。この大型コンテナは私たちの間で重装コンテナと呼ばれている。なにせよフレームアームズが扱うアサルトライフルの直撃程度じゃビクともしない強度を持っているからね。それに、このコンテナはただ強度が高いだけじゃない。

 

「了解なのです。では、まずはこちらのコンテナから。雪華、お願いするのです」

「了解っと」

 

雪華は手元にあるリモコンで操作すると、重装コンテナは物々しい音を立てながら開いていく。重装コンテナは簡易式ハンガーとしても機能する便利なものだ。まぁ、弾除けとして扱われる事の方が多いんだけどね。開いた中には灰色の装甲を纏った機体がジャッキアップされていた。間違いないこの機体は…………

 

「榴雷…………帰ってきたんだね」

「そうだよ。型式番号[三八式一型 榴雷・改]、その一夏専用改造機。武装は…………言わなくてもわかってるか」

 

ジャッキアップされ、その場に立った榴雷は以前よりもかなり物々しくなって帰ってきていた。左右に広がったウエポンラックには両方に一丁ずつ大型の銃——セレクターライフルが、手には重厚長大な砲——リボルビングバスターキャノンが装備されている。腰の裏には大型のアーマーにブースターが見えるよ。脚部裏は見えないけど、グラインドクローラーもしっかりと装備されているはずだ。しかし、一つだけ気になるものがあった。

 

「あれ…………? 雪華、なんか左腕にグレネードランチャーとシールドにリアクティブアーマーが付いているような気がするんだけど…………」

 

そう、注文した覚えのないグレネードランチャーが左腕に、リアクティブアーマーがシールドに取り付けられていた。昭弘も使っているからよく聞くんだけど、あれってかなり重量が増す代物とかって言われてるそうだけど…………これ、積載量超過になってないよね…………? というか、あのグレネードランチャーは一体何?

 

「あれはカウンターウエイトみたいなものだよ」

「カウンターウエイト?」

「そう。今回追加したセレクターライフルを同時に二丁撃っても反動で吹き飛ばないようにするため。どうせいつかは最大火力で撃つんでしょ? その時に安定して使えるようにするためだよ。ついでに、中にはジェルが流し込まれているから、光学兵器にも高い防御力を持っているね」

「なるほど…………で、あのグレネードランチャーは?」

 

そう言うと雪華は『何言ってんだこいつ』みたいな顔をしてきた。むぅ…………何も聞かされてないからこっちだってわからないよ。

 

「言ってなかったっけ? あれ、今度からグランドスラム中隊の正式固定装備になったから、搭載したんだけど」

「ま、まじですかい…………」

 

さらに火力が追加される榴雷。中隊の全機体が火力を増すということは…………それだけやばい戦況にでもなりつつあるということでもあるのだろうか? できればそれが単なる気まぐれで装備されることになったのだと思いたい。

 

「では、榴雷は後ほど稼動テストを行うとして、次はこちらなのです」

 

今度は雷華がリモコンを操作して重装コンテナを展開させる。となると、こっちがゼルフィカールの新パーツとなるのか。一体どんなものなのか楽しみでしかたなかったから、コンテナが展開しつつあるとしても見るのが待ち遠しい。そして、ウエポンラックまで展開されて、私の目に飛び込んできたのは…………剣と盾?

 

「こちらがYSX-24RD/BE用専用武装なのです。向かって左が特殊近接武装[ベリルソード]、その反対側にあるのが特殊攻性防盾システム[ベリルバスターシールド]なのです」

 

よく見ればそれはただの剣と盾じゃなくて、クリスタルユニットが組み込まれており、剣であるベリルソードなら刀身が殆ど蒼色のクリスタルユニットだし、盾のベリルバスターシールドにしたって一部が綺麗な蒼色のクリスタルユニットになっている。そのクリスタルユニットを見ると…………やっぱり、あの魔鳥達を思い出してしまう。特に蒼色だから、近い色である青のクリスタルユニットを搭載していたアーテルの方がよりはっきりと、ね…………。思わず震えそうになる体をなんとか押さえつけた。

 

「これらの武装は対フレズヴェルク戦を強く意識した武装で、それぞれTCSを展開することが可能となっているのです。TCSはベリルウエポンを防ぐ事は出来ないようなので、有効打になり得るのはずです」

「具体的にはどんな機能があるの?」

「ベリルソードは近接戦闘にしか使えませんが、破壊力に関しては保証するのです。ベリルバスターシールドは、クロー、シールド、そしてベリルショット・ランチャーの機能を備えているのです。ただし、ベリルショット・ランチャーの使用にはシールドが展開したTCSを解除する必要があるので、気をつけてください」

 

聞いててなかなか恐ろしい兵器が搭載されることになったんだなぁっと思った。いや、話を聞く分にはフレズヴェルクを葬れるみたいな事を言ってるよね? つまり、もしかすると私の技量次第で、あの魔鳥をあまり大きな損害を出さずに倒せるかもしれない。それに…………あのアーテルが再度戦いにやってくるかもしれない。なら、ちゃんとした姿となったゼルフィカールと一緒に戦わなくちゃ。あ、榴雷もちゃんと乗ってあげるからね!

 

「それと、欧州本面から供与されたデータより、現在のブルーイーグルを改修することになったのです」

「ついでに、出力制限レベルを下げる作業もしなきゃなんねぇ。ベリルウエポンのおかげで制御する分のエネルギーもドカ食いされるらしいしな」

「ついでに、突っ込まれたままの武装はそのままにして貰えるように頼んでみるからね」

「うん、それじゃお願いします」

「「了解しました!」」

 

私がそう言うと雪華と雷華は私に敬礼をしてきたのだった。うーん…………なんだろ、こんな風にされる機会があんまりなかったから逆にこうされるとむず痒い気分になる。けどまぁ、それだけ二人がこの仕事に情熱的になっているってわけだし、私の方が上官だからこうされるのが当たり前だとでも思っておこっか。

 

「改修と調整については基地内で行うから、気になったら何時でも見に来て構わねえからな。よし、お前ら、作業に取り掛かるか!」

 

楯岡主任のその言葉に従うように、整備班は榴雷の武装量子変換に、基地のハンガーへの移行やらを始めた。そして、あのゼルフィカールも少しパーツを外されていく。私はその光景を葦原大尉からの呼び出しがかかるまで眺めていたのだった。

 

 

「…………」

 

本日は登校日ということで現在学校に来ているわけなんだけど…………疲れて机に突っ伏していた。原因は榴雷の稼動テスト。別に機体に問題があったわけじゃないんだよ。ただ、グラインドクローラーの展開走行をした際に、演習場の地面をかなりの抉ってしまったため、自力でそれを均すということになり、それで体力を使い果たしてしまったというわけだ。グラインドクローラー、元のパーツが掘削機ってだけあって恐ろしいパワーだった。まぁ、今までの履帯ユニットよりは動きやすいし、重量があるから射撃時も安定しているしね。

 

「…………お、おーい、一夏。い、生きてるかー?」

「…………世界が暗転しているけど、生きてるはずだよー…………」

 

弾君にそう話しかけられて、とりあえず存命報告する私。どうやら端から見れば生きているかどうかすら怪しいみたい。そんなわけで、弾君は心配そうな声で私に話しかけてきたみたいだ。…………って、弾君!? 思わずその声に反応して目を覚ました私の視界には、心配そうにこちらを見ている弾君の顔が映った。けど、その距離はかなり近くて——

 

「わひゃぁっ!?」

 

変な悲鳴をあげてそのまま飛び上がり、椅子から転げ落ちてしまった。周りのみんなはそれに驚いたようだが、すぐに興味を無くしたようにそれぞれの行動を取り始める。それがせめてもの救いだったのかどうかはわからないけど…………疲れとかそういうのが一瞬のうちに吹き飛んで、代わりに心臓が今にも爆発しそうなくらい強く鼓動を打っているのが感じられた。

 

「お、おい!? だ、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫だけど…………あ、あんな近くで見られたら、だ、誰だって驚くでしょ…………」

 

さすがに目線を合わせると本気でまずいと判断した私は目を逸らしてそう答えた。恥ずかしさを隠すために少しだけ頬を膨らませて、むぅっとした表情になる。

 

「そ、それもそうだな。悪い悪い」

「…………反省してる気配ないよ?」

「…………それを言うかね、一夏さんや」

 

おいおいといった表情でこちらを見てくる弾君。とはいえ、秋十同様、全然反省している気配が見られない。本当に唐変木の類じゃないだろうかと思った瞬間であった。

 

「…………とりあえずだ。一夏、立てるか?」

 

そう言って弾君は私に手を伸ばしてくる。確かに立ち上がるのに手を差し伸べてくれるのは嬉しいけど…………絶対心臓がもたない。その手を掴もうと私は手を伸ばそうとしたが、触れる直前で少し戸惑ってしまった。ここで手を取るのが普通の判断なんだと思うんだけど…………その判断を下した瞬間、私はどうなるかわからない。恥ずかしさからなのか、それとも別な感情からなのか…………それがわからず、躊躇ってしまっていたのだった。

 

「ったく…………ほらよ、っと」

「!?」

 

しかし、私のそんな感情を知ってか知らないでかわからないけど、弾君は私の手をとってそのまま立たせたのだった。や、やばい…………手を取られた瞬間、一気に心臓の拍動が急激に上昇したよ…………。もしかすると弾君にまで聞こえているんじゃないかと思うくらい強い拍動だ。そのせいかは知らないけど、少しだけ頭が色々と追いつかなくなっていた。

 

「それと、スカートに埃ついてるぞ」

 

そう言われて私はスカートについていた埃を払い落とした。なお、目線も合わせられずに、私の視線はさっきから彼方此方を彷徨っている。ついでに、心臓が未だに暴走気味で鼓動を打っているよ…………。

 

「あ、ありがと…………」

「どういたしまして。でもまぁ、俺が原因みたいなものだから、すまねえな」

 

手を合わせて謝ってくる弾君を今の私に責めることなんてできなかった。というか、そっちまで気が回らなかったというのが本当なんだけどね…………。

 

「別に謝らなくてもいいよ…………」

「お、おう…………そ、そうだ!」

 

弾君はふと何かを思い出したように声を上げた。ちなみに次の授業まで残り三分。そして、次の授業を受けた後、私は基地に戻ることになる。多分、今までの事を知っているから、何か伝えたいことがあるのだろう。一度色々と整理した私はその話をしっかり聞くことにした。

 

「あ、明日も一夏は来るよな?」

「うん。明日もちゃんと学校に来るよ」

「そ、それでなんだけどさ…………明日の朝はここに来て欲しいんだ」

 

そう言って弾君は私にメモ紙を渡してきた。そこに書かれていたのは今は使われていない空き教室だった。

 

「うん、わかった。ここに来ればいいんだね?」

「おう! 約束だぜ?」

「そっちこそ、すっぽかしたりしないでよ」

 

弾君は私のそんな言葉に軽く笑って答えてくれた。その笑みを見た瞬間、やはり心臓が爆発しそうになった。おまけに顔も熱いし…………どうしたの、これ。さっきまではなんともなく話せていたっていうのに…………。そんな悶々とした考えが頭の中を巡っている間に、授業は始まっていたのだった。

 

◇◇◇

 

(…………あの二人、なんか甘いんだが…………)

(てか、あれって付き合ってないのよね…………?)

(待て待て!? 初々しすぎねえか!?)

(見てるこっちが焦れったいわよ…………!!)

(((さっさと爆発しろ!!)))

 

なお、一夏と弾のやりとりを見ていたこのクラスの人間は全員そのように思っていたのだった。それ以降、二人を見る視線がどこか温かいものに変わっていくのはまた別の話である。

 

◇◇◇

 

翌日。いつも通りのヘリボーンで学校に来た私は荷物を教室に置いてから、あの空き教室へと向かっていた。ヘリボーンで来るときはかなり早い時間に来ることになっているけど…………弾君は果たしているのだろうか? だって、一緒に登校していた時の二十分も早いんだから。とはいえ、考えていたって状況が何かわかるというわけでもないし、実際に見た方が確実だからというわけで向かっているわけだ。…………まぁ、心臓の鼓動が次第に大きくなってきているんだけど。

 

(ああ、やばい…………心臓がバクバクして、頭がふらふらしてきたよ…………)

 

途中本当に意識が飛びそうになったけど、なんとか持ちこたえさせる。程なくしてその空き教室の前にまで到着した。心臓の高鳴りは治まるところを知らない。扉の取っ手に手を掛けようとしても、やはり伸ばしたり引っ込めたりを繰り返してしまう。…………ああもう! 私の意気地無し!! こうなったら、腹を括って一気に行くしか——

 

「し、失礼しま〜す…………」

 

——なんて、できるわけがなかった。恐る恐る扉を開けて中に入る。そこには、窓から差し込む朝日に照らされている弾君の姿があった。

 

「お、きたきた。ほら、こっちに来いよ」

 

私を見つけた弾君はそう言って私に手招きしてくる。私はそれに従って弾君の元へと歩みを進めた。

 

「えっと、その…………も、もしかして結構待たせちゃったかな?」

「いや、俺もついさっき来たみたいなものだから待ってないぜ」

 

きっと嘘だ。大概こういうセリフを言うときって、先に来てかなり待っている時のパターンが多いはず。情報元は、私がお昼ご飯の時に見てた学園ドラマ。いくら戦場に立っているとはいえ、自分で言うのもどうかと思うけど、一応女の子だから、あんなドラマみたいな事に巡り合ってみたいと思ったことだってある。そんなことを思っていたら実際にその状況になっているんだから驚きだ。そのせいもあってか、余計に心臓がバクバクしてきた。

 

「そ、そうなんだ…………そ、それより私をここに呼んだ理由って…………?」

 

このままだと心臓がもたないと判断、私は一気に斬り込むことにした。以前受けた国連軍総司令部付きの命令書みたいに、詳しい内容を全然聞かされてないからね。普段から任務ではよく詳細内容を聞かされているせいか、そういうのがないと少々不安に思うことがある。それに…………面と向かって話すのが少し恥ずかしくなって、弄んでいる手に目を向けてしまっていたのだった。

 

「いやぁ、まあ、その…………なんだ? き、今日はあの日だしさ…………今年こそはって思ったからというか…………」

「…………?」

 

何故か要領を得ない会話をする弾君。こういうのは結構見る光景だから私からしたら見慣れた光景だ。…………いや、ここまできて、心臓の負担に耐えてきたのに、オチがこれだったら割とガチでへこむよ? まぁ、絡む事が多い男子って、弾君や数馬君、あと秋十を除くと、悠希や昭弘、葦原大尉を含む基地で業務に従事している男性陣くらいだから、そういう人たちから比べると弾君は根性なしに見えるかもしれない。一瞬そんなことを考えたが、すぐに振りはらい、弾君が何をしてくるのかを待っていた。多分実際はそんなに時間がかからなかったと思うんだけど、私には待っている時間がすごく長く感じられた。

 

「ああ、もう! まどろっこしいものは抜きだ! い、一夏!」

「は、はいっ!」

 

突然名前を呼ばれて背筋がピンと伸びきる私。全くもって弾君が何をしたいのかわからない。そう思っていた時だった。

 

「こ、こいつを! こいつを受け取ってくれ!」

 

そう言って弾君は私に一つの小包を渡してきた。突然の事に私の頭は一瞬何が起きたのかを理解できなかったが、少しずつ状況を理解すると心臓の鼓動が一段と強くなった。

 

「こ、これって…………」

「ほ、ほら、お前って明日誕生日じゃん。お前が学校に来るのはなんでかは知らないけど週に三日だしさ…………今日が三日目だから、絶対に渡したかったんだ」

 

弾君顔は私にも負けないくらい赤くなっていたと思う。でも…………私の誕生日を覚えていてくれたという事がとても嬉しかった。そんなに会う日があるわけでもないのに、前に一回だけ教えた時からずっと覚えていてくれた…………そう思ったらどこか不思議な気持ちになった。

 

「覚えててくれたんだ…………」

「その…………迷惑だったか?」

「ううん…………そんなことないよ」

 

私は差し出された小包を弾君の手から受け取った。大きさはちょっと小さい感じだけど、その中には凝縮された弾君の想いが詰まっているんだと思ったら、少し重く感じた。でも、中身はなんなんだろう…………?

 

「ねぇ、開けてもいいかな?」

「おうよ。勿論だ」

 

その言葉通り、私は包装を開けていく。すると中には小さな箱が入っていた。そのフタを開けると、中に入っていたのは、

 

「髪留め?」

「なんかさ、いつも髪を後ろにかきあげるようにしてたからさ。一目見てそれにしよって思ったんだ。…………落胆でもしたか?」

「そんなわけないでしょ。早速つけてもいいかな?」

「当たり前だろ。そのために贈ったんだから」

 

私はその金色に輝く髪留めを左の前髪につけてみた。どうやらこの髪留めは実際につけてみると、二本の髪留めがあるように見えるデザインになっているらしく、つけたところを触ると本当にそんな感じだった。それに…………確かに左の前髪が邪魔になって後ろにかきあげる事があったのは事実だよ。

 

「ど、どう? に、似合ってる…………かな?」

 

私が弾君に尋ねると、彼は

 

「ああ、似合ってるよ」

 

そう微笑みながら返事してくれた。それを聞いたら私も自然と表情が柔らかくなって、

 

「ありがと」

 

思わず笑みが溢れてしまった。さっきまでの心臓の高鳴りは嘘のようになりを潜めている。代わりに…………心のどこかがなんだか温かい気持ちになっているよ。この気持ちは一体なんなんだろうか…………私にはわからなかった。

 

「ど、どういたしましてだな」

「でも、なんでこんな人気のないところに呼んだの? 別に教室でも良かったような…………」

「そ、それはだな…………」

 

弾君は何かぶつくさ言っているようだけど、私の耳には入ってこなかった。一体何? というか私から目を逸らしているし…………というか、いつの間にか目をそらさなくてもよくなった自分がいることに驚きだ。とはいえ、小さいながらも心臓の鼓動はまた強くなっているんだけどね。

 

「そ、その、いち——」

 

弾君が何か言おうとした時、まるでそれを言わせないかのように予鈴が鳴った。思わず時計を見ると始業五分前である。やばい…………遅刻するのだけはやばい! ふと弾君を見ると首をうなだれている彼の姿が目に入った。な、何があったの?

 

「だ、弾君…………?」

「いや…………気にすんな。それよりも、早いとこ教室行こうぜ! 学校にいんのに遅刻は勘弁だ!」

「そ、そうだね! 急ごっ!」

 

流石に遅刻はやばいと判断した私達は空き教室を飛び出ると、そのまま自分達の教室めがけて走り出した。…………できればスカートの下が隣を走っている弾君に見えてない事を祈りたい。

 

「そういえば…………さっきなんて言おうとしたの?」

「予鈴が鳴る前のあれか…………んー、ま、気にすんな!」

「え、えぇ〜…………」

 

◇◇◇

 

「あぁ…………失敗した…………」

「そう嘆くなよ。渡す物は渡せたんだろ?」

 

一夏が学校から基地へと帰った後の昼休み、秋十と数馬は何故か負のオーラを放つ弾を交えて昼食を取っていた。そのオーラがあまりにも強すぎるためなのかはわからないが、三人から半径三メートルには誰も近づけず、遠巻きにその様子を眺めているという状況だ。

 

「そいつはそうなんだけどさぁ…………俺にとっては一世一代の賭けに出ようとしたんだぞ!?」

「で、結果は?」

「負けたよ! 予鈴のバカヤロォォォォォッ!!」

「五月蝿え!」

 

吠える弾に対してそうキレる秋十であるが、最早この世の絶望を味わったかのような顔をしている弾にそんな言葉は届くわけもなく、その嘆きの渦の中へと巻き込まれるだけだった。

 

「でもよ、さっさと切り出せなかったお前もお前じゃね?」

「それを言ったらおしまいだろうが…………」

 

数馬に痛いところを突かれた弾は轟沈、そのまま机に顔を突っ伏した。なお、轟沈させた本人は何くわぬ顔でペットボトルの茶を飲んでいる。その光景を秋十は『相変わらず抉ってるなぁ』と思いながら眺めていた。

 

「まぁ、一年の時から一夏に熱っぽい視線を送っていたお前ならそうなるのも仕方ないか」

「…………なんだ、慰めてくれんの?」

「いや、寧ろしばらくいじるネタに」

「…………お前本当にタチ悪いな」

 

再び崩れ落ちる弾。その落ち込みようは殆どの人が見ていられないのか、露骨に見ないよう避けていた。

 

「けどさ、なんで一夏姉なわけ? まぁ、一夏姉は誰にでも優しいし、千冬姉並みに美人だけどさ」

「いいじゃねえか。気がついたら好きになっていたんだからよ。好きになるのに理由がいるのか?」

「すげえ…………アホの弾がなんか文学的な事言ってる…………アホの弾なのに」

「アホは余計だ、アホは!」

 

言い合ってる弾と数馬をよそに秋十は考え込んでいた。自分の姉が誰かに好かれるのは問題ないし、今まで世話になってきたし、今の世話になっているから、幸せになってほしいと願っているのは事実であり、誰かと付き合ってほしいとも願っている。況してや、それが自分の親友であり、信頼に足るのであれば尚更だ。加えて、姉の相談に乗ってみればただの惚気話だったため、さっさと付き合えとも思っている。だが、現在の一夏は軍人であり、秋十も薄っすらとだが、下手をしたら自分の姉は命を失う事になる可能性もあると考えるようになった。だからこそ、一刻も早く付き合ってほしいと願っているのだ。どちらも奥手だからどうにかしたい——そこまで考えて、一旦思考を中断した。——いや、一夏姉はそう簡単に死なない、そう考えたら自分の考えが少し行き過ぎではないかと彼は思った。

 

「ちくしょー! こうなったら次だ! 次こそは絶対に…………!」

 

そう意気込んだ弾はさっきまでの負のオーラを払拭し、いつも通りの自身へと戻っていた。そんな風に立ち上がる彼にこのクラスにいた人間は内心応援していた。そしてこうも思う。——さっさと爆発しろ、と。

 

「…………その次があればだけどな」

 

弾の蘇りにより騒ぎ立てる二人のおかげなのかどうかはわからないが、無意識のうちに出た秋十の独り言は誰の耳にも入らなかったのだった。


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