真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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田舎の洗礼。

 バトル後、リーリエとの同伴をきっちりかっちり(誓約書付きで)認めてくれたククイ博士とは、ここで暫しの別れとなった。

 

 

 おそらくバーネット博士とイチャコラするつもりなのだろうが、一丁前に研究があるだの調査があるだの言っている。本音と建前がこんなにも分かりやすい例はない。たとえ相手が子どもだろうと、もう少しマシな嘘をつくものだが。

 

 

「では、どうしてバーネット博士がククイ博士の腕に絡んでいるのですか?」

 

 

 研究の邪魔ではありませんか、とリーリエの容赦ない質問が飛んだ。たった今、どうでもいいし放っておいてあげようと思った矢先であったのだが……案外、子どもの眼は不正に敏感なのだろう。

 リーリエの眼差しは、お年玉を貯金すると言って取り上げる親を、疑いの目で見る子供のそれであった。

 

 

「あら、夫婦が一緒にいるのは当たり前だと思うけど? 違うの?」

 

 

 より一層くっ付いて、大人の余裕を見せつけてくるバーネット博士。ぎゅむっという効果音が入りそうないい形の胸部がさらに崩れ……おいこれ以上はやめろ不健全だ。子どもたちの目の前で何をするのだこの夫婦は、リーリエの目に毒ではないか。

 

 

「そう、仕方の無いことなんだ! それじゃあ僕はフィールドワークに行ってくるね!」

 

 

「ま、待ってよあなたー!」

 

 

 隙ができたのをいい事に強引に話を纏めたククイ博士は、どこかへと走り去っていった。それをバーネット博士が秒で追いつく。二人とも博士のくせに身体能力高すぎだろスーパーアローラ人かよ。

 

 

 

 結局どこでナニについて調べるのか、質問に答えることなく反論される前にトンズラした二人を追いかけようとするのは、リーリエ含め誰もいなかった。リーリエの表情としては、もう好きにやってくれという諦めだけ。ククイ博士が保護の役目を全て放り投げたのだから、この結末は仕方ないといえば仕方ない。リア充め末永く爆発しろ。

 

 

「ククイ博士はいなくなってしまったし、どうしたもんか……お前らこれからどうする? リーリエも行きたいところとか無いのか?」

 

 

 これからの方針を定めるために、三人に意見を聞いておく。おそらく別行動になるのだから、動向だけでも把握しておいて損は無い。

 

 

「あたしとハウは島巡りの続きよね。せせらぎの丘に行くために、とりあえずオハナタウンを目指そうかな」

 

 

「いいねー。俺も牧場行きたいー」

 

 

 こいつらはオハナタウンへと向かうみたいだ。大味筋書き通りという、一番安心するルートである。

 

 

 逆に、一番安心出来ないのはメレメレ島に逆走パターン。誰も彼等を止めることは出来ない。

 

 

「わ、わたしは……もう少し、この町を見てまわりたいです」

 

 

 たった今、天使からの特命を受けた。どこが天使ってこんな普通の事を控えめにアピールするところが天使。熾天使リーリエルからの神託を受け、観光プランを早急に仕上げることを決意したのだった。

 

 

「オッケー、そしたらミヅキとハウはここで一旦お別れだな。お互い切磋琢磨して頑張るんだぞ?」

 

 

「うん、ありがと……でもなんでそんな上から目線なのよ」

 

 

 それは年齢もポケモンのレベルも上だからだ。無意識的に上から目線となってしまったのも無理はない。だからそんな嫌そうな顔をしないで。

 

 

「そんなことは、俺のギャラドスに勝てるようになってから言ってくれ……あれ、もしかしてハウと一緒に行くのか?」

 

 

「えっ、一人だと危なくない?」

 

 

 確かに子ども一人旅は危ないのだが、年頃の男女二人旅は別の意味で危ないのでは……とも考えたが、やむなしか。この世界がリアルに近付きすぎて、島巡り上の安全管理の問題も浮上してきたようだ。確かに子ども一人に島巡りさせるのはどう考えても危険だろうし、歳の寄った子どもでグループを組ませるのは得策ではある。

 

 

「確かに一理あるな。まあ無駄話はこれくらいにして、早く次の目的地に行くといい」

 

 

「だからなんで上から……わかったわよ。ハウ、はやく行きましょ! リーリエもまたねー!」

 

 

「わかったー。リーリエもケンも、また会おうねー」

 

 

 サイコパスコンビは手を振りながら、早足で去っていった……もしかしてあいつら、できてる? 退場の仕方がククイ博士とバーネット博士のそれと大差ないんだけど。

 

 

「よし、まずは観光地を探るための情報収集しよう。とりあえずアローラ観光案内所に行くか」

 

 

「そうですね、行ってみましょう」

 

 

 きっちり三歩後ろを付いて来るリーリエ。冷静に考えてみると、リーリエと二人きりである。リーリエと二人きりだ。リーリエと、二人きりになった!

 

 

 大事な事なので三回言いました。しかも、観光するなんてデートみたいなシチュエーションだ。これは神が与えた、異世界に飛ばされた俺に対する特典だと言っても過言ではない。ポケモンなどはゲットしてしまえばどうとでもなるが、天使はただ一人の天使なのだ。ありがとう神様、俺、頑張って生きるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮かれすぎて数時間前の事など忘れ去っていた結果、街行く人々から変な目で見られることになってしまった。

 

 

 その影響は、まず観光案内所に向かう前からすでに出始めていた。道ですれ違う人々からヒソヒソと噂話をされるのだ。どれだけヒソヒソしてても、カプ・テテフにストーカーされてるだの、呪われた子だの普通に聞こえてくるので少しくらい静かにしてほしい。

 

 

「どうやらこの町に、カプ・テテフを捕まえた方がいるみたいですね」

 

 

「…………だ、誰のことについて話してるんだろうな」

 

 

 流石に嫌でも耳に入るようで、リーリエが雑談をふってくる。嫌な流れだ。

 

 

「さあ……でも、カプ・テテフはカプ神の中でも凶悪で、無邪気さ故に人々とポケモンを呪い殺して遊ぶそうですよ……その結果、幾つものの集落が滅んだとも歴史に記されています」

 

 

「は、ははははは……リーリエは物知りだなぁ」

 

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 

 笑えない。表情筋を無理矢理酷使して筋肉痛になる一歩手前である。テテフってこんな設定があったの初めて聞いたのだが、どうしてそんな重要なことをストーリーで言わないのだろうか。ゲーフリの悪意を感じる。

 

 

 だが、一回は顔を合わせなければならないだろう。衛生管理はともかく、食事の問題は避けられない……ジュモクやカグヤなど、食事もするかどうか分からない面々もいるのだが、とりあえずポケマメあげとけばいいか……本当にそれで大丈夫なのだろうか?

 

 

 この先にある新たな不安を抱えながら、ようやく観光案内所へとたどり着いた。ここまでの道のりを鑑みてみるに、噂話はカンタイシティ全体に広がっているのだろう。ぶっちゃけ嫌な予感しかしないが、かといってここで逃げるわけにもいかず、ドアを開いた。

 

 

「すみません、ここら辺の観光スポットでオススメの場所を知りたいのですが……」

 

 

「あ、あの子よ! カプ・テテフに見初められた子!」

 

 

 開幕これかよいい加減にしてくれ。おかげでざわざわとした喧騒が、観光案内所の中で感染していく。思った通りではあるのが、思った以上に不味いことになった。

 

 

 まず、隣にホウエン出身だと信じているリーリエがいる点だ。手持ちにテテフなんて連れていれば、疑われるのも当たり前のこと。どう言い逃れしても穏便に済ませることはできないだろう。

 

 

 次に、これは予想していたのだが、観光案内所の職員が怖がってまともに話を聞いてくれなさそうな点だ。邪神の気紛れが飛び火したらたまったものではないだろうし、関わりあいになりたくもないだろう。しかしこれでは観光プランが組めない。

 

 

 そういうの一切存じ上げておりませんのスタイルで行くべきかとも考えたが、カンタイシティも観光案内所も狭い。既に全員に話が行き渡っていると考えれば、下手に嘘をつくよりも流れに身を任せるべきか。

 

 

「あの、どうぞおかけになってください」

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

 カウンターの向こうでは慌ただしい声が聞こえる。座らされた席は豪華で、おそらく来賓用の調度品なのだろう。座り心地も最高である……機嫌を良くさせて帰らせるつもりなのだろうか?

 

 

「……ケンさん、少し聞きたいことが」

 

 

「悪いリーリエ、それは後で話す」

 

 

 すかさず、出てくるであろう言葉を牽制した。おそらく良いようには思っていないのだろう、ジト目でこちらを見ている。かわいい。やはり天使は何をしても天使なのだろうか。などと思いを馳せていると、職員がこちらに向かってきた。

 

 

 観光案内をしてくれるのは二人だ。しかも物腰の低すぎる接客態度に、周りの客が訝しげにこちらを見てくる。仕方ない、完全にVIPの対応だもの。ここまで大物になった記憶などないのだが。

 

 

 リーリエはその対応に不慣れな様子ではなく、やはり令嬢なのだろうか変な気遣いをさせないようにしている辺り流石である。天使だ。もうこれ以上褒めさせるのを止めてくれ、ボキャブラリーが足りない。

 

 

 観光案内所の二人は、まず周辺を散策した後、ホテルしおさいに行って噴水を見たりホテル内を見学して、ホテルにあるレストランで食事というプランを提示してきた。

 

 

「あれ? ホテルしおさいのレストランといえば、十年先まで予約が取れないと聞いたことがありますよ?」

 

 

 流石リーリエ、博識である。お嬢様とはいえ、きちんと勉強しているのは感心せざるを得ない。

 

 

「はい、その通りです。ですが、ホテルのオーナー様が特別席を設けて下さるそうですのでご安心ください」

 

 

 全く安心など出来ない。というか、いつの間にそんな約束を取り付けたのだろうか。すごく気になる。

 

 

「お忙しいでしょうに、予約はどのようにして取ったんですか?」

 

 

「ホテルしおさいのオーナー様が是非とも招待したいとのことでして……このバッジを見せるだけで部屋に通してくれるよう話を通しております。料金に関しましても、すべて無料でさせていただくとのことです」

 

 

 どうしてそうなったと問い詰めたいが、押し付けられるようにバッジを受け渡された。色々と扱いが神すぎるのだが、これを本当に受け取ってもいいのだろうか。罠ではなくとも、何かの意図があるに違いないと腹を探っても仕方が無いだろう。

 

 

「色々とお手数をおかけしていただき、ありがとうございます。それでは、私たちはこれで」

 

 

 いくら考えても無駄だと思考を打ち切った。それに、ここにいては他の客へのプレッシャーになるだろうと、リーリエを連れそそくさと案内所を出ることにした。

 

 

 ちらとリーリエを見る、明らかに不機嫌だ。ここからが正念場である。

 

 

 さて、どうやってリーリエに言い訳しようか。

 

 


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