真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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そっとしておいて。

 この場において釈明するには、大きな問題があった。

 

 

 カプと名のつく各ポケモンは、おそらくこの世界でただ一匹であるという点。これがどうしようもなく大きい。

 

 

 カプと名のつくポケモン達は、遠い昔に伝説のポケモンから特別な力を授かって、殻を持つ今の形状になったとされる……はずだ。

 

 

 ゲームの世界では、セーブデータの数だけアローラ地方があり、カプ・テテフもそれと同じくらいには存在した。対戦環境ではミラーマッチが日常茶飯事に行われていたし、GTSには二度と交換されないような条件を付けられて眠っているカプ・テテフは五万といるだろう。

 

 

 だが、こちらの世界ではどうしてもカプ・テテフに限らず、カプと名のつくポケモン達は、各種一匹ずつであると考えられる。これはどうしても覆すことは難しく、言い訳するにはこの世界のどこかにいるもう一匹のカプ・テテフをこの場に召喚するしかない。気紛れという設定の奴らを呼び出すのは、今の状況では不可能だ。

 

 

 さらに問題なのは、それを実現させたとして島の人間を納得させることができるのだろうか、という点である。

 

 

 カプと呼ばれるポケモンはどれも守り神と比喩される程、とても強力で比類なき力を持つとされる。実際バトルでも強い。

 

 

 コケコは種族値と技が噛み合っておらず悲惨だが使い勝手の良いポケモンだし、テテフとブルルは火力が頭おかしい。レヒレだけ微妙みたいな風潮があるが、そんなことはない。いつの間にか、レヒレで詰んでるような状況は誰しもが経験したことがあるはず。めがねこわい。

 

 

 そんなポケモンを、しかも一匹しか存在しないというプレミア付きで持っているとなれば理屈では納得しないゴミクズが出るのは当然の摂理だろう。

 

 

 昔、加速バシャーモという最強のポケモンがいた。ポケモン全国図鑑(1000円)を買えば、軽業キモリ、加速アチャモ、湿り気ミズゴロウのうち、いずれかが"ランダム"で入手できるのだが……いわゆる夢特性であり、配布は雄のみ。当時は、雄からの夢特性遺伝が不可能であったため、入手方法がそれだけしかなかった。

 

 

 当時高校生だったため、お小遣いはある程度潤沢ではあった……しかし中身は完全なランダムであったのだ。不幸にも一万円と引き換えたのは、外れポケモンとゴミの山であったのだった。

 なお友人は一発で引き当てた模様。その友人に対して、一週間口をきかなかったような記憶がある。後に謝罪こそしたものの、人生の汚点であり、今でも恥ずかしい思い出の一つとして胸の奥につっかえていた。

 

 

 金を出して買えるものでさえ、この有様だ。カプと名のつくポケモン達はその比ではない。今の状況は、言わば宝石を持った子供そのものである。

 

 

 目の前でテテフを解放しろ! ならばまだ良い。元から無かったものだ、未練など無い。しかし、どこの誰かが、力尽くで奪おうとする可能性は大いにある。

 

 

 身体は子供だ。中学生くらいとはいえ、目の前にいる黒人のガチムチや長身白人に蹂躙されたらひとたまりもない。怪我で済めばいいが、最悪の場合死ぬ。

 

 

 そうなると、突破口はただ一つ。

 

 

「俺は、カプ・テテフに選ばれたんだ。文句があれば言ってみろよ」

 

 

 そう、開き直りだ。ここまでくると、もはや清々しい気分にすらなれる。実際は、カプ・テテフと打ち合わせはおろか顔合わせすらしていないというのに、とんだ大見得を切ったものだと自分自身そう思っていた。

 

 

 ただ、全くもって無謀というわけでもなく、勝算は十分以上にあった。

 

 

 カプ系のポケモンは前述の通り気紛れで、気に食わない人間に罰を与えるらしい。つまり、カプ・テテフの機嫌を損ねれば身の危険があるため、カプ・テテフの気に入った人間には迂闊に手を出せないようになるという考えだ。

 

 

 思った通り、そう宣言してから周囲に動揺が走った。狙い通りである。これから更にゴリ押しするかと次の言葉を考えていたが……

 

 

 周囲の様子がおかしい。畏れというよりこれは、どちらかという……哀れみ?

 

 

「わ、わかりました。くれぐれもお気を付けて」

 

 

 予想に反し、すんなりとボールをくれるジョーイさん。振り返れば、あれだけいた人だかりが波のように引いていった。

 

 

 おかしい。何か、根本的に間違っているんじゃないだろうか? レアポケだぞ? 普通寄って集って取りに来るだろ? スカル団とか普通に奪い取りに来そうなもんだけど?

 

 

 少し考えて、ある一つの答えに辿り着いた。

 

 

 カプ・テテフって、もしかして……

 

 

「あの、ジョーイさん。カプ・テテフって、そんなに印象悪いんですかね?」

 

 

「あなた、もしかして知らないの?! カプ・テテフは気紛れで人を狂わせて楽しむ邪神よ! 何度かトレーナーと一緒にいる所を目撃されてたけど、彼らの殆どが不審な死を迎えてるわ……あなたも気を付けることね」

 

 

 

 

 

 

 

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 邪神に取り憑かれていたと気付いて数分後、カフェで荷物点検を始めた。この行為は最早現実逃避といっても過言ではない。周りからは一定の距離を保たれ、マスターのおじいさんからは苦笑いされている状況なんて目を逸らしたくなっても何らおかしくないだろう。

 

 

 リュックの中には、四次元ポケットよろしく沢山の荷物が入っている……訳ではなく、見た目の容量に見合った、数種類の未使用ボールと、Zリング、キーストーン、回復薬数個が入っていた。

 

 

 まず島巡りしてないのにZリング持ってたり、カロスの二人組に出会ってないのにキーストーン持ってたりなど、突っ込みどころが多すぎるが、ギャラドスは問題なくメガシンカ出来るし、ガブリアスは問題なくZ技が撃てるわけだ。

 

 口にエネココアを入れ、少し落ち着いた。なるほど、不良少年のグズマでも好きになるわけだ。チョコレートの風味の中に、少しだけ花のような甘い香りが鼻腔をくすぐる感覚は、他のココアでは味わえない。

 

 

 少し状況を整理してみよう。今現在所持しているポケモンはUB二匹カプ一匹普通ポケ三匹だ。外を出歩いた時にどれだけ目立つかを考えてみて、UBとテテフは論外、ミミッキュはミヅキ達に不審がられる。消去法でガブリアスとギャラドスの二匹で冒険すべきだと結論付いた。

 

 

 ただ、ガブリアスのドラゴンZは使わない方針で行かなければ。そもそもZリング持っててもいいのか? 島巡りしてないぞ。これから島巡りするという選択肢もあるけど、リーリエとその一味の邪魔はしたくない。

 

 

 リーリエの旅を終えて成長する様を見届けなければ……あれ、そしたらカントーに行っちゃうよな? そしたら二度と会えなくてしょんぼリーリエしちゃうよな?

 

……リーリエの成長を見届ければ会えなくなる。だが邪魔をせずとも、リーリエが成長しなければカントー行きもなくなる。

 

 

 いきなり究極の二択が迫ってきた。リーリエを取るか、島の平和を取るか……エネココアをしたり顔で飲みながら、なんて罰当たりなことを考えているのだろうか俺は。

 

 

 色々考えた末に辿り着いた答えは、保留だ。冷静に考えれば原作通り行かないと、最悪アローラが滅ぶ。困りはしないだろうが、良い気はしない。リーリエが避難してしまい会えなくなる可能性だってある。ここは流れに身を任せよう。

 

 

 思考を巡らせているうちに、エネココアが空になってしまった。マグカップを下げてもらえるよう、手前に押し出す。

 

 

「ごちそうさま、エネココア美味しかったです」

 

 

「また来るといいよ。これは、カプ・テテフへのお供え物だ、しっかり受け取ってね」

 

 

 そうして渡されたのは邪神への供物……もとい虹マメを数十個、それもケースごと押し付けられた。騒ぎを起こすなということだろうか? と考えたが、虹マメは仲良し度がたくさん上がるのを思い出した。やだおじさまいけめん。

 

 

 そろそろ約束の時間だろうと思い、席を立った。いつになっても、皆から注目されるのは慣れないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 空間研究所は、ポケモンセンターの目と鼻の先にあった。三階建てのバーネットビルという場所に間借りしているようで、近くには不自然なほど大きなパラボラアンテナのようなものが立っており、ランドマークにもなっているそうだ。

 

 

 中に入ると、リーリエとミヅキ、ハウが既に到着していた。予想よりだいぶ早めである。

 

 

「お前ら、どこか観光しに行ったりしなかったのか?」

 

 

「あたしとリーリエは服を見に行ったよ」

 

 

「おれはマラサダ食べたー」

 

 

 あれ、もしかしてカロスの二人組とはまだ遭遇してない感じか? このまますれ違ったままでも問題はなさそうだが……まあ、一応フォローは入れといてやるか。

 

 

「観光なら、この町にあるホテルしおさいって場所がおすすめだぞ。噴水とか造詣が良いみたいだし、一回くらい行ってみるといいってカフェのおじさんが言ってた」

 

 

 あの二人組に会わないからといって、これといって弊害はないが……できるだけゆっくり旅をしてほしい。こういうのは大人になってからだと体験出来ないだろうし、こんな機会があるなら色んな事を見て、聞いて、触っていくべきだ。なにより……そうすることで、ダラダラと旅をする百合百合しい彼女等をいつまでも見続けることができるのだ。眼福である。

 

 

 え、リーリエと結ばれなくてもいいのかって? ばっかお前、烏滸がましいにも程があるだろいい加減にしろ。

 

 

「たぶんククイ博士は上で待ってるだろうし、さっさと行くか」

 

 

 エレベーターのボタンを押し、目的地を三階に定める。二階に何があるかすごく気になったが、今回は見送りである。

 

 

 エレベーターが開くと、そこは最先端の技術が詰まっていた。研究者が数人コンピュータに向かい合っており、その中にククイ博士もいる。完全に場違いな気がしてならないのは気のせいではないだろう、せめてシャツを着なさい。

 

 

「あら、よく来たわね」

 

 

 声のする方に目を向ければ、褐色の美女がいた。そういえば、名前出てこないけどククイ博士の嫁さんだったな。リア充爆発しろ。

 

 

「はじめまして、ククイ博士に呼ばれてここまで来ました。私はケン、そしてこの子がリーリエ、隣がミヅキとハウです」

 

 

「あら、あなたがフォールの……」

 

 

 いったい、ククイ博士はどんな説明をしたのだろうか……ここまで可哀想な目で見られるの産まれて初めてなんだけど。

 

 

 

 


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