真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

18 / 44
主人公補正。

 コイキングを全てキャッチアンドリリースした後、ポケモンたちにポケマメを与える。ポケモンたちは巨体の割に、一日虹マメ数個分で十分のようだ。中々エネルギー効率がいいのかもしれない。

 

 

 離れない邪神を引き摺りながらポケモンセンターに戻る。そのおかげで、中に入れば早朝にも関わらず騒がしい事になってしまった……もういっそ、開き直ってしまうのも悪くないかもしれない。

 

 

 何よりへそを曲げたハルジオンのご機嫌取りがめんどくさい。

 

 

 気を取り直して、置いたままの荷物を回収するため一度部屋に戻ると、なんと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーリエがベッドで眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋間違えたか、と部屋番号を確認しても間違い無く自分の部屋だ。そもそも、リーリエの部屋は右隣のお向かいさんである。リーリエマスターを目指している俺に部屋をチェックし忘れるなんて隙は無かった。

 

 

 一瞬の内に、脳内会議でリーリエとぐっすりーりえするのはどうかという提案がされ、満場一致するも、ハルジオンが察知してサイキネで絞め殺されかけるという事故というか事件があったがほぼ滞りなく私物を回収できた。

 

 

 何故リーリエが寝ているかは気になるが、天使のやりたいようにやらせる事こそがリーリエ教徒としての務めである。放っておこう……すごく気になる。

 

 

 気を取り直して、ポケセン内にあるカフェでおじさんとファンドマ()ジネントの話をしながら、グランブルマウンテンを飲んで時間を潰す。主張の強い苦味と、芳ばしい香りが癖になりそうなコーヒーだ。塩気のあるポケマメがよくマッチする。

 

 

「あれ、もう起きてたんだ」

 

 

 後ろからの声に振り向く。どうやら、一番最初に起きたのは今日の主役……というかこの世界の主役であるミヅキだったようだ。姿見は眠そうな表情とは対照的でキチンとしており、身支度が万全であることが伺える。

 

 

「緊張して眠れなかったのか?」

 

 

「そんな事ないよ!……と言いたいとこだけど、やっぱり試練前は少し特別よね。まだ慣れそうにないわ」

 

 

「そうだよなぁ……よかったら、バトルの練習でもする?」

 

 

「えー、無理無理! ケンのギャラドスになんて勝てっこないもん! ククイ博士のイワンコ、わたしたち結構苦戦したのよ?」

 

 

 そういえば、島を渡る前にノーマルZを持ったイワンコとバトルする機会があったな。モクローのおかげで苦戦した覚えはないが。

 

 

「それでも、ポケモンと技の確認くらいは出来るだろ。ちゃんと受け止めてやるさ」

 

 

「んー……それじゃあお願いしちゃおうかな」

 

 

「決まりだな。早速外で始めよう」

 

 

 コーヒー代の支払いを済ませ、ミヅキを連れて外に出る。早朝から少し時間が経ったが、それでも人は少ない。こちらとしては好都合だ。

 

 

「ニシキ、出番だ」

 

 

「フクスロー、出てきて!」

 

 

 モクローが進化したのだろう、出てきたのは一回りほど大きくなったフクスロー。相変わらずマイペースそうな雰囲気は消えない。

 

 

 ストーリー的には進化するのは遅めだが、その分、他のポケモンが育っているという証拠だろう。学習装置の効率は前作と比べて下がっている筈だ……そもそも、学習装置なんてチートアイテムを持ってるのだろうか?

 

 

「ニシキ、今回は避けるだけだからな。相手の動きをしっかり見るんだぞ」

 

 

「ガゥ」

 

 

「それじゃあ始めるわよ……フクスロー、はっぱカッター!」

 

 

「クロッ!!」

 

 

 いくつもの鋭い切れ味を持つ木の葉が、フクスローの羽根裏から手裏剣のように飛び出し、不規則に、だが狙いは確実にニシキの方へ向かっていく。

 

 

 観察してみるに、この技はホーミングしない……が、動きが不規則なためか回避のタイミングも見た目以上に分かりづらい。

 

 

「あれは確実にお前を狙ってくる。引き付けて回避だ」

 

 

 軌道はやがて、標的に収束する。身体に当たる数秒前、ニシキは天高く跳躍した。跳躍……というより、単にはねただけなのかもしれないが。

 

 

「あーもう! もうちょっとだったのに!」

 

 

「クロー」

 

 

 本気で悔しがるミヅキとは違い、まあ当然だよなといった感じのフクスロー。案外、フクスローにこちらが試されているのかもしれない。

 

 

「もう一回やってみよう。もしかしたらマグレかもしれないしな」

 

 

「ガゥ」

 

 

 次も必ず避けてみせると言わんばかりに、ニシキは遠吠えを上げる。もしかして、マグレ発言が癪に障ったのだろうか。

 

 

 次に放たれたはっぱカッターは、先程の比ではなかった。数は前回の三倍くらいか。更に言えば一枚一枚の速度も微妙に違うため、回避のタイミングを掴み辛い。

 

 

「龍の舞で加速しろ!」

 

 

 こういう時は、遅い攻撃を引き離すべきだろう。付いて来れる攻撃だけを回避すればいい……あれ、この練習はもしかして、こちらも中々勉強になるのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、はっぱカッターは一枚も当たることなく、フクスローのスタミナ切れにて練習は幕を閉じた。当てられないからといって、同じようなはっぱカッターを何回もぶっぱなすのが悪い。

 

 

「ちょっとは当たってくれてもいいじゃない!」

 

 

「すまん。俺も悪気があった訳じゃないんだ……それより、フクスローをジョーイさんに預けなくてもいいのか?」

 

 

「言われなくても行きますよーだ!」

 

 

 ミヅキはこちらを向き、あっかんべーをした後、猛ダッシュでポケセンに直行した。

 

 

 少し……いや、かなり怒らせてしまったようだ。確かに大事な試練前で、こんなに煽るようなことをしてしまえば怒るのも無理はないだろう。

 

 

 だからといって試練前に邪魔してしまったかというとそうでもなさそうで、ミヅキは怒りこそしたものの気が沈んでるようには見えず、フクスローも最後まで闘志が見え隠れしていた。

 

 

 おそらく、パートナー同士がお互いに、試練が「終わった後」の事を考えているのだろう。なんとまあ前向きな。その前衛姿勢っぷりは、いずれ転ぶぞと忠告したい程だ。

 

 

「あれ、もう終わりですか?」

 

 

「……スイレン、もしかして見てたのか?」

 

 

 どこから湧いて出たのか、背後からスイレンの声がした。相変わらず気配が薄いので内心とても驚いたが、それを誤魔化すようにスイレンの方を向かずにニシキをボールに戻す。そもそもどうしてここにスイレンがいるんだ。

 

 

「勿論! 側でじーっと赤いギャラドスを目に焼き付けていました! それにしても、あんなに軽やかに舞うギャラドスはなかなか見ませんよ! ……赤いギャラドスはもっと見ないですけど」

 

 

 朝なのにギャラリーいっぱいでしたもんねぇ、とスイレンは周りを見渡す。言うほど人集りは出来ていないように感じたが、早朝であることと場所が場所であることを加味すればこれで十分多いのだろう。

 

 

「ギャラリーの皆さん、赤いギャラドスのパフォーマンスか何かだと思ってましたよ……それで、ホントのところは?」

 

 

「……フクスローの練習相手になってた」

 

 

「やっぱり……あ、じゃああの子が試練を受けにくるトレーナーさんなんですね。あの精度のはっぱカッターを撃てるんでしたら突破間違いなしですよ……撃てたら、ですけどね」

 

 

 意地の悪そうに言うスイレンを、鼻で笑った。

 

 

「俺が何かしたところで、アイツは止まらんよ」

 

 

 なんといっても、未来のチャンピオンだからな。

 

 

「ふーん……どうして、そこまで肩入れするかは分かりませんが……実力を見せるなら程々にしたほうが良いですよ?」

 

 

「……それは『いずれ俺という壁に当たって、挫折するから』か?」

 

 

「あなた……!!」

 

 

「まあ、俺にも多少なりとも経験はあるからな」

 

 

 俺にとっての壁だったものはレート2000。猛者の指標。遥か高み。1859という、そこまでの足掛かりは作れたが、第五世代(BWBW2)第六世代(XYORAS)第七世代(SM)とプレイしてきて、2000に届くことは終ぞ無かった。

 

 

 パーティはテンプレを、選択肢は安牌を。途中で燃え尽きもしたが、それを馬鹿正直にダラダラと六年間続けて、結局、ここ一番で敗北を繰り返す。負け癖が骨の髄まで染み渡っているようだ。

 

 

 このままこの世界で骨を埋めてしまうのならば、挑戦する機会は一生訪れることはないだろう。そう思えば感慨深い。

 

 

 だけど、今の俺には。

 

 

「その時は俺が一番大きな壁になってやるさ。むしろ超えて見せろってな」

 

 

「……随分と、あの子を買っているみたいですね」

 

 

「お前さんも垣間見ることになるだろうよ、ミヅキの凄さってもんをな」

 

 

「ミヅキ……覚えました。今日の試練、楽しみに待ってます」

 

 

 そう言ってスイレンは人混みに紛れ、せせらぎの丘へ歩いていった。その後ろ姿は、心做しか少し楽しそうにも見える。

 

 

 この世界の主人公だから、とはいえ何が起こるか分からないのもまた事実。一度や二度の敗北くらいは覚悟した方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ、やっぱりミヅキさんたち強いですね!」

 

 

「ああ…………そうだな」

 

 

 そう思っていた時期が、私にもありました。

 

 

「わたし、ヨワシの魚群の姿なんて初めて見ました! 遠目で見てもすごく迫力ありますね……」

 

 

 リーリエは、サンドイッチを頬張りながら試練を観戦しており、時折黄色い声援を送りながらこのピクニックを楽しんでいるようだ。

 

 

 ここは、湖を一望出来る高台……いわゆる、穴場スポットである。場所は昨日のうちに予めハルジオンに聞いてはいたが、まさかここまで綺麗に試練が見れるなんて思ってもみなかった。おそらくハルジオン自身も、ここでトレーナーの試練を盗み見たりしてたのだろう。

 

 

 ビニールシートを敷いて、ポケセンで購入した軽食を食べつつ自然とポケモン、そして試練を楽しむ。これが今日の俺のデートプランだった。

 

 

 リーリエの評価は上々だったが、スイレンからは「人の試練を覗くなんてちょっと……」と苦言を呈され、以後は気を付けるように釘を刺された。

 

 

 肝心の試練だったが……どうやら、心配なんてしなくてもよかったみたいだ。

 

 

 なんせこの試練、二人がかりである。ずるい。そんなの誰だって勝てるに決まってる。

 

 

 ミヅキが今使っているポケモンはバタフリー、この近くで捕獲した即戦力だろう。様々な状態異常を付与する技を使いこなしているのを見ると、やはり才能ありと思わざるを得ない。

 

 

 ハウのポケモンは、原作通りピカチュウ。バタフリーの背に乗り、接近してからの電撃系統の攻撃は水タイプのヨワシにはかなり効果的だった。

 

 

 どちらも、使用ポケモンは一匹目。ピカチュウの10万ボルトがヒットすると、ヨワシは魚群の姿から単独の姿へと変化した。HPを残り四分の一まで削るとヨワシは群れを解除してしまう。つまり、もうあと一歩のところまで追い込んでいる証拠だ。

 

 

 結局、ミヅキとハウのコンビネーションは、お互いの切り札を見せることもなく試練を楽々と突破してしまった……あれ、フクスローの特訓の成果は?

 

 

「終わっちゃいましたね。流石はミヅキさんとハウさん、素晴らしいバトルでした!」

 

 

「……バトル苦手だったのに、あんまり気が回らなくてごめんな」

 

 

「えーと、昨日ケンさんに言われたことをずっと考えてたんです。ポケモンバトルは悪いものじゃない……だから、バトルを少し違う目線で見てみようかなって」

 

 

 天使である。デートプランをこなしていく内に、リーリエがバトルを苦手にしていた事を思い出し、途中から懺悔室に半日程引きこもりたいくらいの気持ちでいっぱいだったのだ。

 

 

 それを見てかは知らないが、リーリエはこうやって気遣ってくれている……様子を見るに、純粋に楽しんでいたのかもしれないが、それにしたってやっぱり天使だ。

 

 

 試練の終わった二人が、スイレンからミズZを貰っているのが見えた。そろそろ帰る時間か……と言っても、まだ昼下がり。

 

 

「二人の試練突破を祝って、小さな祝賀会でも開くか」

 

 

「あっ、それいいですね! わたしも準備お手伝いします」

 

 

 リーリエがはにかみながら賛成してくれた。天使だ。ピクニックセットを秒速で片付けると、行きと同じようにシーザーを繰り出し、ポケモンセンターに直行した。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。