真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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勝手に薬漬け一歩手前にされている件について。

 宣言通り、半日もせずにトレーナーの群生地を抜け、せせらぎの丘手前のポケモンセンターに辿り着いた。辺りは既に薄暗く、太陽はもう沈みかけている。しかし、これでも想定よりだいぶ早い。

 

 

 ちなみに、毎度のことながらポケモンバトルは一戦もしていない……シーザーさん威圧感強すぎぃ。いてつくはどうでも放ってるのだろうか?

 

 

 今回は強行軍が目的なので、狙い通り上手くいったのだが……これをやり続けるのは不味い。低レベルのポケモンから手に入る経験値は微々たるものだが、"経験"は喉から手が出るほど欲しい。ライチさんの言っていた通り、未だリアルでのバトル自体に不慣れなためか自分のプレイングが下手であるとひしひしと感じるのだ。

 

 

 今の状態はというと、サトシ達……いわゆるアニメキャラをベースにして適当に振舞っているだけだ。形だけならあまり問題ないだろうが、中身が伴っていないのはポケモンたちに非常に申し訳ない。

 

 

 ポケモンたちの実力は、はっきり言って想像以上だ。50レベルのシーザーでさえ、周りに擬似プレッシャーのような圧力を与えている。セレスやエルモ……ハルジオンは言わずもがなではあるが、レベル100のポケモンたちは存在だけで大きな威圧感を出すだろう。親しくしてくれている姿だけを知っているためか、あまり感じていなかったせいでもあるのだろう。今回で痛いほど理解できた。

 

 

 人混みの中でハルジオン(Lv100)の与えた影響は馬鹿にならなかったのだ。周囲の人間は、ただハルジオンが邪神というだけで注目していたわけではなかっただろうし、ライチさんも、ただ巨大というだけでセレスに驚いているわけでもなかったのだ。

 

 

 ポケモンたちが強すぎるせいで、バトルできないのも考えものかもしれない。今度はシルキーでも餌にして雑魚を釣るか。

 

 

 悩み事といえば、もう一つ。

 

 

「えー! もうここに着いたの!?」

 

 

「はやすぎだよー」

 

 

 うっかりミヅキとハウに追いついてしまった。

 

 

 二人はポケモンセンター前で待ち構えていた……というより、偶然鉢合わせた。聞いてみると、せせらぎの丘の入口一歩手前で引き返したとのこと。確かに暗闇での活動は危険だ。

 

 

「ここに来るまで丸二日くらいか。普通なら上々じゃない?」

 

 

 二人で旅をしているとはいえ、飛び出してくる野生のポケモンとトレーナーに構っていれば、嫌でも時間を割くことになるだろう。そうすれば自然とポケモンは疲れ、傷を負う。ポケモンが傷つけばポケセンに行くなり、傷薬で回復を図るのが普通だ。

 

 

 強力な薬を使おうが、傷の治りは一定時間を要する。この前シーザーで試したので間違いないだろう。冷静に考えてみれば当然である。

 

 

 ポケモンセンターで回復するにしても、同じように時間がかかるだろう。ついでに言えば、ミヅキたちのポケモンはこの辺のレベルに圧勝することは出来ない。その条件下でさえ、二日目でここに居るということはつまりそういうことなのだ。

 

 

 確実に、チャンピオンとして頭角を現してきている。

 

 

「でも、ケンたちは一日でここまで辿り着いたんでしょ?」

 

 

「ポケモンのおかげだな、無駄な戦闘をせずに済んだ」

 

 

「うわー、ずるいー」

 

 

「うるせえこれも実力だろうが」

 

 

 現段階での実力はともかくとして、才能で言えば俺よりミヅキたちの方が遥かに上だ。彼等は主人公であり、物語の終盤にはどちらが勝っても可笑しくないような素晴らしいバトルを繰り広げる……はず。

 

 

 実際、ハウにはストーリーでもネッコアラとアシレーヌに苦戦した。ついでに言えば、ミヅキが選んだポケモンがモクローというのを鑑みれば、俺と同じような壁にぶち当たるだろう。

 

 

 モクローの最終進化系はジュナイパー。見た目にそぐわない鈍足っぷりとアローラ中殆どのポケモンが弱点を付ける技を自力で習得出来ることが相合わさって、人気とは真反対にストーリーでは不遇であった。レート環境でも、同期で同タイプのダダリンの存在も不遇に拍車を掛けている。

 

 

 しかし、アタッカー適正の強いダダリンと違って型が読めないという明確な差別化があり、汎用性がないだけで他のマイナーなゴーストタイプと同じようにピーキーなだけだ。ジュナイパー入りパーティでレート2000を踏み抜いた猛者もいる。

 

 

 もし、ミヅキが今のままモクローと共に冒険を続けたのならば……相棒の弱点の多さというウィークポイントを抱えて尚、頂点へ手を掛けるトレーナーになったとしたら。

 

 

「今のうちしか経験出来ない事だってあるんだからな」

 

 

「もしかして嫌味?」

 

 

 嫌味になるのかもしれない。自分には無い才能を持ちながら、自分には決して経験出来ない事を体験している者への羨望。全てを投げ出せば、流砂の中のダイヤモンドを見つけるくらいの確率で叶えられるだろう。しかしそれは、今の俺にとって相棒たちを天秤にかける行為だ。勿論無理である。

 

 

「人生の先輩からの激励の言葉さ。大事に受け取ってくれ」

 

 

「えー、別にいらないよー」

 

 

「そういうの傷つくからな、な?」

 

 

 ハウはいつでも正直にものを言うように見えるため、たとえ冗談でもかなり傷つく……冗談だよな?

 

 

「ていうかさ、ケンって人生の先輩でもないよね?」

 

 

「その点には、私も激しく同意します」

 

 

「ほんのちょっと先輩だから!」

 

 

 誰も真面目に聞いてくれないまま、流れるように宿泊施設へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に夕食を終え、各々の部屋に入り就寝一歩手前というところで、ボールの開く音が聞こえた。

 

 

……いや、予想はしていた。だが、こちらは既にベッド・インしているため誤魔化しは容易。すぐさま仮初の寝息を立て始める。

 

「ねえ、ケン…………寝た振りしても無駄だよ?」

 

 

 邪神、再臨。

 

 

 仕方が無いので開き直ることにした。

 

 

「今日は歩きっぱなしで疲れたからな、もう動けない」

 

 

「そうなの? それなら言ってくれたらよかったのに」

 

 

 起き上がって早々、ハルジオンが胸に飛び込んだかと思ったら、身体が一気に軽くなった。関節の痛みは勿論のこと、疲労感や筋肉痛まで綺麗さっぱり無くなったのだ。

 

 

「ハルジオン、一体何をしたんだ?」

 

 

「え、今まで気付いてなかった? 元気になる粉を使ったんだけど……」

 

 

「粉……? 今まで……?」

 

 

「うん。これを生き物にふりかけるとね、すっごく元気になるの……時々、元気になりすぎて死んじゃうんだけど」

 

 

「物騒だなおい」

 

 

 この前言ってた粉か。植物に振りかけるならまだしも、人間にかけるのは流石に不味くない? と考えたところで、リーリエの言葉を思い出す。そういやコイツ前科あったわ。

 

 

「……村一つ潰せる能力を個人に使って大丈夫なのか?」

 

 

「(かなり中毒性あるけど)調節すれば大丈夫だから任せて!」

 

 

「本当に? おい本当に大丈夫か? 目を見て言ってみろおい」

 

 

「うるさーい! 元気になったならとっとと外に出るの!」

 

 

 体力を回復してしまい眠気が消えてしまったのは事実だったので、言われるがままに外に出た。日本の熱帯夜とは違いジメジメしてなくて涼しい。

 

 

「せせらぎの丘に行っちゃおう!」

 

 

「おう」

 

 

「……最初に言っとくけど、ボールからポケモン出すの禁止だからね」

 

 

「勝手に出てきた時は?」

 

 

「捻り潰す!!」

 

 

 元気のよろしいことで。

 

 

「そんなに元気があるなら、どうして昼間に出てこなかったんだ?」

 

 

 リーリエがいないこの機会に一番聞いておきたいことだった。ハルジオンの事だし、必ず何処かで邪魔してくると考えていたのだが、一向にボールから出てきやしない。おかげでリーリエと静かな二人旅が出来たとはいえ、どこか釈然としないところもあった。

 

 

「別に、ただ出るのが面倒だっただけ。このボールから出るのって結構体力使うんだよ? ポンポン出れるわけないじゃない」

 

 

「あー、マスターボールだしなぁ」

 

 

 そこまで拘束力があるのは初めて知った。マスターボールとなれば、並大抵はおろか全てのポケモンを封じ込め、捕獲してしまう。その拘束力は群を抜いて強いのだろうと考えられるが、それと同時に、自由に抜け出すことのできるハルジオンに少し冷やりとさせられる。

 

 

「それに、有象無象に見られながらは趣味じゃないから」

 

 

「……相変わらず独占欲強いよな」

 

 

 言葉の裏にあるドス黒い何かを嫌でも感じさせられた身としては、ニコニコしている邪神から半歩分ほど遠のいても仕方が無いと思った。だが無常にも察知され、タックルを受ける。バイクに轢かれた昔を思い出すほどの衝撃だった。

 

 

「アタシを捕まえたのはアナタよ? ちゃーんと責任持って面倒見てもらうからね!」

 

 

 アナタの示す意味が違う気がするのは気の所為ではないだろう。ウフフ、と笑う彼女はどうにも肉食獣のそれとしか思えない。エスパーとフェアリーはどこへ行ってしまったのだろうか。

 

 

 そうこうしている内に、せせらぎの丘へと辿り着いた。野生のポケモンは相変わらず姿を表すことはなく、聞こえる音は、虫ポケモンのさざめきと川の流れる音のみ。

 

 

「人がいっぱいいるアーカラ島の中でも、殆ど昔から変わらない場所があって、その中でも特に好きなのがせせらぎの丘だよ」

 

 

「お前でも、自然に気を遣うんだな」

 

 

「少しはね。だいたいケンの一割くらいかな」

 

 

「それは……流石に少なすぎるんじゃないか?」

 

 

「アーカラ島の自然は逞しいからね、人間と自然どっちも応援しちゃう」

 

 

 島の守り神といっても、島の自然だけを見ている訳では無いのか。考えてみれば当たり前のことだが感心した。

 

 

「だけど、島によって方針が違うんじゃないか?」

 

 

「……あんまり、他のカプに興味持って欲しくないんだけど」

 

 

「俺の一番は、いつだってハルジオンだから大丈夫」

 

 

 甘い言葉に、ハルジオンはすぐに陥落した。ちょろい。にへらとした表情のまま、説明を続ける。

 

 

「カプ・コケコは人間を応援してて、アタシとカプ・ブルルは中立。カプ・レヒレは自然寄りかな」

 

 

「ブルルは中立なのか。てっきり自然寄りかと思ってた」

 

 

「中立っていうか、面倒くさがりかな。やり過ぎると怒っちゃうけどね。あいつ短気だし」

 

 

 確かにウラウラ島は他と比べると開発が進んでいるようにも感じるな、人類はやり過ぎたのか。こうやってメガ安とポータウンは滅ぼされましたとさ。

 

 

 雑談に花を咲かせながら少し進むと、広大な湖が広がっていた。硝子のように澄み切った水面には、大きな月が反射しているため他よりさらに明るく感じる。

 

 

「おや、もしかして試練に挑戦するつもりですか?」

 

 

 背後から声がした。誰もいないと思っていたため、少し不自然に振り向いてしまうと苦笑いをされる。少し恥ずかしい。青髪の小柄な少女は、壁に立て掛けている釣竿を手に取った。

 

 

「あはは、驚かせてすみません……こっちもびっくりしたのでお互い様です」

 

 

 視線の先にはハルジオン。なるほど、確かに驚いただろう。彼女の顔が引きつっているのは七割くらいハルジオンが原因のようだ。

 

 

「スイレンだよな、最近どこか……そうだ、雑誌で見た気がする」

 

 

「も、もしかして、月刊釣りクラブを見てくださったのですか!?」

 

 

 今度は自分の顔が引きつるのを感じた。どうやら、テキトーに変な嘘をついたせいで、スイレン……アーカラ島のキャプテンに何か盛大な勘違いをされたようだ。

 

 

 

 

 

 


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