真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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ポケモンと人と。

 暗闇でのフライトを見事成し遂げ、ポケモンセンターで無事に一泊することが出来た。空を飛んだことで若干乾いていたが、海水まみれで帰ってきたため磯臭く、ジョーイさんからは氷のように冷たい目で見られることとなった。

 

 

 背中に走る悪寒はそのせいかな……と思っていたが、濡れた身体で空を飛んだことで、めでたく風邪をひいてしまったみたいだ。結局、一晩で治ったので大したことはなかったみたいだが。

 

 

 次の日、ポケモンセンターに内装されているフレンドリィショップでかいふくのくすりを爆買いしていると、リーリエが宿泊所から出てくるのが見えた。人混みからリーリエを見つけ出すことは、紅白縞々のタイムトラベラーを探すより簡単である。一般人とは放つオーラが違うのだ。

 

 

「アローラ。リーリエ、よく眠れたか?」

 

 

「あろ……おはようございます」

 

 

 少しずつ島の文化に蝕まれている堕天使リーリエ。かわいい。

 

 

「昨日は悪かったな。今日こそは大丈夫だから安心してくれ」

 

 

「気にしてませんから大丈夫ですよ。自分のポケモンを大事にするのは、トレーナーとして当然ですから」

 

 

 リーリエの慈愛溢れる微笑みは、天使を通り越してもはや聖母マリアのようだ。いっそリーリエ教でも作ってしまうかと考えてしまう……少なくともカプ神よりは栄えそうだ。

 

 

 リーリエに風当たりの強いお邪魔虫(ハルジオン)はというと、今のところボール内で大人しくしているが、いつ目覚めるかは誰にも分からない。気が変わる前にさっさと出発してしまおう。

 

 

「リーリエはどこに行ってみたいんだ?」

 

 

「えっと、ほしぐもちゃんの事を調べるために命の遺跡に向かう予定だったんですが……ケンさん、ほしぐもちゃんについて全部知ってますよね?」

 

 

 リーリエの言うとおりほとんど全て把握している。UBなのも、3V固定なのも、覚える技が跳ねるとテレポートだけなのも、Lv43で進化するのも、それから伝説のポケモンになるのも、身長体重共にアローラの中で一番少ないということも。

 

 

「まあな。だけど別に行ってもいいぞ?」

 

 

 リーリエと行くだけで、その場所は思い出の場所となるのだ。

 

 

「いいんです。それに、ケンさんのカプ・テテフ……ハルジオンさんと、この世界のカプ・テテフが出会ってしまうと考えると、少し申し訳ない気持ちになります」

 

 

 リーリエの優しさが痛い。善意が、これほどまでに人を傷つけるなどなんて世界は残酷なのだろうか。幸薄そうに笑うリーリエの顔を直視できない。

 

 

「気を遣わせて悪いな。他に行きたい所とか無いか?」

 

 

「わたし、一度せせらぎの丘に行ってみたかったんです! ……ダメ……ですか?」

 

 

「全然いいぞ、むしろ得意分野で安心した」

 

 

「よかった……一度、そういったところに行ってみたかったんです」

 

 

 即答だが当然の結果だろう。上目遣いでこんな事言われたら即落ち二コマ漫画のようになるのは自明の理なのだ。というより、最初から断るつもりなど微塵もなかったのだが。

 

 

 それにしても、せせらぎの丘か……ミヅキたちの後追いになるが、完全に追いつくと痛々しいお兄さんに出会いかねない。バトルドームにも出没している筈なので、少しペースを落とすか、駆け抜けるべきか。今鉢合わせてしまうとストーリーが歪んでしまいかねない。

 

 

「途中、ミヅキやハウに出会うかもな」

 

 

「そうですね、皆さんが旅している途中を見るのは少ないので、すごく楽しみです!」

 

 

 太陽のように眩しい笑顔を浮かべるリーリエ。やはり天使だったかと再認識して、ポケモンセンターを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーザー、逆鱗」

 

 

 無慈悲な猛撃が、小柄なヤングースに襲いかかる。勿論、即ダウンだ。

 

 

「ああっ、ヤングース!!」

 

 

「次はお前だっ、ベトベター!」

 

 

 街を出て早々、スカル団の二人組に絡まれた。おかしい……ここらでスカル団に遭遇するイベントなど無かったはずなのだが……記憶が薄れているわけではないし、発生するのはカロス二人組のイベントだけで間違いないだろう。無いとは考えたいが、既にストーリーが捻じ曲がりつつあると見た方がいいかもしれない。

 

 

「シーザー、げき……ああ、もう止まんないか」

 

 

 意識を、目の前で繰り広げられている惨劇に向ける。主役のシーザーはというと、敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す殺戮マシーンと化していた。ドラゴンタイプの攻撃技である「逆鱗」の効果は、数ターンに及ぶ強攻撃の連打と、その後の混乱。混乱はデメリットだが、手持ちへ戻せば元に戻る類の状態異常だ。

 

 

 ゲームの世界では、手持ちへ戻すのに一ターン必要だったせいでテンポロスとなってしまっていた。だが、『ここ』では違う。最悪、ゲーム中に出来なかった「逆鱗中に戻す」ことだって可能だろう。トレーナーの腕次第では、一切のデメリットを省いた最強のドラゴン技と化す。

 

 

 手持ちを全て失ったか、あるいはシーザーに恐れをなしたのかは分からないが、ポケモンを出してこないスカル団に、これ以上戦う意志は見えない。まだ半分くらい逆鱗中のシーザーに、ボールに戻す動作を行うと正常にモンスターボール内へと戻っていった。技の発動途中でも、どうやら問題は無いみたいだ。

 

 

「お前らスカル団だな、目的は?」

 

 

「そっ、それは……やめるっす! その口を大きく開いたギャラドスで何するつもりっすか!?」

 

 

「お前の協力次第だ」

 

 

 繰り返し開閉をする口と完全に開いた瞳孔を見るに、ニシキはおそらく誰から見てもガチだった。

 

 

すごーい、きみはえんぎがとくいなふれんずなんだねー。

 

 

 この荒々しいフレンズに数秒睨まれたスカル団のしたっぱは、全てを洗いざらい吐いた。狙いはリーリエだけのようで、カンタイシティに一日長居した結果見つかってしまったようである。完全にこちらのミスだ。

 

 

 それにしても、スカル団側でリーリエの人相書きが回っているのには驚かされた……といっても、バックにエーテル財団があるのだから当たり前か。ただ人相書きといっても、写真なのだが良く撮れている。根刮ぎ奪い取った。額縁に入れて飾るか、財布に入れて御守りにしよう。

 

 

「んで、リーリエがどういう子なのか知らされてないわけ?」

 

 

「知らないっす! ただグズマさんに捕まえろと言われただけっす!」

 

 

「ていうかなんすかアンタ! こんなに強いトレーナーがいるなんて聞いてないっす!」

 

 

 数日前には存在すらしていなかったのだから、皮肉にも的を得ているといえるだろう。ただ、こちらの存在が知られてしまったのは大きなディスアドバンテージだ。既にそうなっているが、更に原作通りに事が進まなくなる可能性が出てきた。

 

 

 これからは、シナリオに沿って進めていくというより、今起きてしまった事から逆算してイベントをこなしていくべきだろう。最優先事項はウツロイドの捕獲だ。プランBは失敗してから考える。

 

 

「今回は見逃してやるよ、次は無いから気をつけてくれよな……なあニシキ」

 

 

「ガウ!」

 

 

「こ、こいつはヤバいっす。目がガチっす。一回帰ってボスと相談するっす!」

 

 

「もう二度と会わないよう気をつけるっす!」

 

 

 すたこらさっさと、スカル団二人組は逃げ出した。賞金貰ってないし追い剥ぎするかとも考えたが、特にお金に困ってるわけでもないし、天使の前で悪事を働けば天国へ行けなくなりそうなのでやめた。具体的には、リーリエの好感度下がりそう。

 

 

「やっぱり、バトルお強いんですね」

 

 

 役目を果たしたニシキをボールに戻し、リーリエに向き合う。どうやら、さっきの脅迫はなかったことにするみたいだ。

 

 

「そういや、リーリエはポケモンバトルが苦手だったな」

 

 

「そうなんです……やっぱり、ケンさんはわたしのこと色々知ってるんですね」

 

 

 一般的なアローラのポケモントレーナー(サン&ムーンをプレイ済みの人間)としては、リーリエがポケモンバトルを苦手としており、全て主人公が代行しているというのは常識の範疇である。ただ、こんな疑問を抱いたことは無いだろうか。

 

 

 リーリエの近くでポケモンバトルをして、果たして主人公はリーリエに嫌われなかったのか?

 

 

 主人公は結局チャンピオンになるのだが、リーリエはそれについてどう思っていたのか。リーリエがいなくなったアローラで、タマゴを抱いて踊るケンタロスとロデオしながらずっと考えていたことだ。

 

 

「リーリエは、誰かが……例えば俺やミヅキ、ハウがバトルするのって嫌?」

 

 

「いえ……違うんです。ただ、ポケモンが傷つくのが嫌いというか……」

 

 

「だけど、それがポケモンバトルだ」

 

 

 そう、突き詰めれば敵を倒す事こそがポケモンバトルだ。敵を倒すためであれば、どんな手段も問わない……準伝、厨ポケ、搦手、強アイテム……非情だが、使えるものはいくらでも使うべきであり、使わない、使えない人間は勝負に勝てない三下だ。

 

 

 だが……この世界では、理想のポケモンバトルの在り方というのもある。

 

 

「けど、これだけは忘れないで欲しい。ポケモンバトルは決してポケモンを傷付けるためだけに行っているものではないということを」

 

 

 これは理想だ。実際には、相手を痛めつけることを目的としているトレーナーも一定数存在するだろうし、ブリーダーという選択肢を取る人間もいることから、バトルに対する忌避感が強い人間もいるだろう。

 

 

 だが、昔のアニメで見たサトシとピカチュウのように、バトルを通じて友情を深め合うような……そんな関係に憧れたことなどないと言えば、嘘になる。ミヅキとモクローがじゃれあう姿を見て、羨ましい、と感じたのも事実だ。

 

 

 ただもう、そんなものは望めないほど沼に嵌ってしまった自分がいるのもまた事実だ。今更、そんな生易しい感情を持ってポケモンとバトルすることはできない。ポケモンがバトルに勝つためのツールであり、データだと達観してしまっている。

 

 

 しかし、この世界にいる人間は違う。ポケモンを生物として見ているからだ。だからこそ、せめてリーリエだけでもポケモンバトルのジレンマから解放してあげるべきだ。たとえ、心にもない言葉を吐いたとしても。

 

 

 

「それに、今日みたいにリーリエが襲われるか分からないしな。自衛するためにも、ポケモンを捕まえて鍛えてた方がいい」

 

 

「……ケンさんが守ってくれるから大丈夫です」

 

 

「長期的な話をしているんだ。いつまでも傍にいられるとは限らないし、目を離した隙に……なんてこともある。まあ、今は頭の片隅に置いていればそれでいいけどな」

 

 

 この世界はゲームとは違う。シナリオ通りに物事が進められるわけではないし、CERO-Aなんてものも存在しない。現実の事象に合わせてみれば、反社会的組織のスカル団がただ悪戯するだけの連中だとは思わない方がいいだろう。

 

 

 ナイフを振るうよりも、銃の引き金を引くよりも、ポケモンに指示を出すことのほうが簡単に人を傷つけることが出来る。直接傷つけるより、間接的に傷つけるほうが罪の意識は圧倒的に軽くなるからだ。

 

 

 例えば、見ず知らずの人に劇物をぶちまけるような、向こうの世界でおいそれと出来ないことも平然とやってのけるだろう。携帯の容易さもポケモンならではだ。

 

 

 そんな連中に、自衛手段を持たないのは自殺行為だ。現状の戦力でも、相手の物量差に押されたら勝てるかどうかも分からない。

 

 

「今は心配しなくてもいい。俺は必ず、リーリエを守りきってみせる……喋りすぎて喉が乾いたな。もうすぐ牧場だし、休憩がてら少し寄ってもいいか?」

 

 

「は、はい。いいですけど……」

 

 

 反応を見るにどれだけ言っても埒が明かないので、話を一区切りしてまた歩き始めた。こういった点で融通が効かないのも、リーリエがゲーム内での特性を引きずっているせいなのかもしれない。どう考えても、ポケモンに護衛させないのは非効率すぎる。島巡りという慣習も、ポケモンという自衛力があるからこそのものだ。

 

 

 ゲームの世界とリアルの世界。互いに影響を与えているのは明白だが、いったい何がどこまで干渉しあっているのか分からない……が、今から考えても、どこがどのように変化しているのか知らなければ意味がない。

 

 

 深く考えるだけ無駄だろうと、思考を止めた。

 

 

 

 


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