真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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見知らぬ砂浜。

 この世界は、元より電子で出来ていた。

 

 

 

 

 

 モノクロームの、単純で、狭いこの世界は『世界中』で、今もなお愛され続けている。

 

 

 

 

 

 0と1以外に存在する数多の要素……例えばキャラクター、ストーリー、世界観。それらが上手く噛み合って、この世界は人々の心を掴んだのだ。この世界の育成、対戦を模倣し踏襲している作品は決して少なくない。

 

 

 

 

 キャラクター1つ1つに、それぞれ個性的な設定があり、能力が決められている。最初の作品が出て20年……シリーズが増えるごとに、キャラクターの数はどんどん増えてゆき、総数はもうすぐ四桁に迫ろうとしている。この世界が魅力的である理由を人々が挙げるとするなら、真っ先にこれを掲げるだろう。

 

 

 

 

 誰もが、自分の好きなキャラクターで勝ちたい。そう思うのは当然だろうが、

 

 

 

 

 現実は非情だ。

 

 

 

 『個性的』である都合上、各キャラ毎に、絶対に勝てない壁がある。

 

 

 種族、才能、努力、運。それらを全て兼ね備えたキャラクターには、どうしても届かない時がある。

 

 

それを分かっていても、好きなキャラクターを使い続ける人間は少なくないが、

 

 

 

そんな『プレイヤー』は、自身の個性を理由に勝率(レート)を落としていく。好きなポケモンで勝てるのは、一握りの選ばれた人間のみ。

 

 

 

 

 

この物語の主人公である俺は、選ばれなかった方の人間だ。

 

 

 

……ほんと、どうしてこの世界に来てしまったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

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「やっと、めざ地デンジュモクの厳選終わったぞ……」

 

 

 お目当の個体が出る確率は、性格一致を含めておよそ1%ちょい上程度。意識する相手は亜ガラとジバコくらいか。めざ地はまだ確率は高めな方で、めざ炎になると確率は半分以下になる。

 

 

 まあ、めざ炎テテフ持ってるんですけどね。あれは熟練の修行僧がやる所業だった。

 

 

 今現在、大学の講義中であり、いつも付き合いのあるグループの連中はスマートフォンを弄りながら器用にノートを写している。教授の声は子守唄と同等の力を持ち、一番後ろから見物してるが命中60くらいか。

 

 

 リアルでも催眠は命中低そうだな。

 

「ケン、お前またポケモンかよ」

 

 後ろに座ってる友人に独り言を聞かれたらしく、手元をチラチラと見てくる。彼は大学に入ってすぐに出来た友人だ。グループの中では一番長く遊んでいて、住んでるアパートも近いのでよく遊びに行くようになった。

 

 

「おう、勝手に見んなや」

 

 

「まあいいじゃん。てか最近のポケモンってこんな感じなのか、随分変わったよな」

 

 

 そんなこと、ずっと近くで見てきた自分が一番知っている。だが新作が出る度に、デザイン変わったな、なんて言う連中が出てくるのは、15年前から変わらない。

 

 

「まあな。ポケモンも日々進化してるってわけよ」

 

 

「ふーん。でも俺、あんまりそのポケモン好きじゃないわ」

 

 

 彼が言っているのは、おそらく画面に映っているデンジュモクの事だろう。正直、ウルトラビーストは俺も好きになれない。

 

 

「でも強いんだよ。だからこうして、ずっとゲームいじってんのさ」

 

 

「相変わらず暇だなぁ、単位大丈夫なの?」

 

 

「……いつも通り、ノートおなしゃす」

 

 

「はいはい。後で飯奢れよ?」

 

 

不真面目な俺は、真面目な彼にいつも頭が上がらない。

 

 

 

 

 

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「のんきテッカグヤは案外早めにツモれたな」

 

 

 ポケモンの輪は、今や世界にまで広がっている。インターネットさえあれば、どこの誰とでも、自由自在に通信交換可能だ。

 

 

 それを利用して、家に帰ってすぐテッカグヤ集めに奮闘していた。

 

 

 こちらが差し出す(ポケモン)は、伝説のポケモン。ソルガレオ、ルナアーラ、ネクロズマ。これらを元手に、適当に繋がった小学生みたいなトレーナーや外国人からテッカグヤを巻き上げる。

 

 

 GTSはポケモンの質が悪い。交換の手間がかからないのは魅力的ではあるが、あそこは廃人どもの廃棄でいっぱいで、図鑑を完成させた今、伝説のポケモン集めと、おしゃボ孵化余りを漁るくらいしか利用していない。

 

 

 元手を5体消費したくらいで、外国人と交換して、性格がのんきのテッカグヤが手に入った。80程度までレベル上げされており、愛用していたのが分かる。まあ、100レベルの伝説のポケモンには勝てなかったんだろうけど。

 

 

 そうやって手に入れたテッカグヤに、きのみを与えて努力値をまっさらに戻す。そしてポケリゾートへ行き、他の厳選済みポケモンと一緒にアスレチックへ放り込んだ。これだけで、時間が経てば努力値を得られるのだから、昔に比べると育成も楽になった。他のことに時間を使いたい人にとって、このポケリゾートは最高のツールだ。

 

 

 

 一通りの作業を終えて、スマートフォンを見る。いつも連んでる連中からの飲み会のお誘いと、彼女からの一日終わりの労いの言葉が浮かんでいた。飲み会には参加を表明し、彼女には適当な返事を送った。

 

 

 さて、他のポケモンでも厳選するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あたまがいたい。すこしのみすぎたか?

 

 

 なんだろ、すこしさむい。まあ、ふゆだしあたりまえか。

 

 

 そんなことより、ここは、どこだ?

 

 

 どこだ、ここは。

 

 

 揺蕩う意識の中で、気付けば、纏まりのないことを考えながら全身水浸しになって倒れていた。肌に触れる風は、冬の木枯らしとは程遠い暖かさを帯びており、風邪を引く心配はなさそうだ。

 

 

 ここは砂浜だろうか。波の寄せては帰る音が周期的に聞こえる。磯の香りと、靴に入った水と砂が気持ち悪い。

 

 

「きみ、大丈夫かい?」

 

 

 不意にかけられた男の声。辛うじて振り向くと、安心感と同時にデジャブ。場所は知らないが、この人とどこかで会ったことがある気がする。というより、シルエットがそっくりなのだが、ありえない。

 

 

「この砂浜で人を拾うのは『二度目』だな。ぼくにはナマコブシ拾いより、むしろこっちの才能があるのかもしれないね」

 

 

 確信が心の中で芽生えた。確かに知らない声だ。だけど、俺は、彼を知っている。

 

 

 ククイ博士。

 

 

 アローラ地方の博士で主人公にアローラ図鑑を渡し、旅をサポートし続け……ポケモンリーグ最後の壁として立ちはだかる異色のトレーナー。

 

 

 頭が混乱してきた。俺はどうしてここにいる? いや違う、どうして彼が存在する?

 

 

「……大丈夫、じゃなさそうだね。ルガルガン、運ぶのを手伝ってくれ」

 

 

「がぅ」

 

 

 自力で立ち上がろうとするが、動けない。まるで糸のない傀儡のように、身体はいうことをきかなかった。

 

 

 ルガルガンは、服の裾を咥えると器用に背中に乗せ、ククイの後をついていく。岩タイプのくせに、身体はモフモフだった。

 

 

 初めて出会ったポケモンは、ルガルガンかぁ。明日締切のレポートあるんだけど、どうしようか。なんて、取り留めのない下らないことを考えながら、静かに目を閉じた。

 

 

 

 


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