君の嘘と優しさと暖かさに包まれて   作:あべかわもち

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世界中の何よりもおたがいが大切だって知るのは、ほんとに感動的だね

ーチャーリー・ブラウン



第4小節 私は君との入学式に臨む~後編~

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入学式自体はつつがなく終わったよ。

 

校長先生のお話とか、在校生の言葉とか、新入生代表の挨拶とか。

 

正直、眠くて起きてるのが大変だったんだから。でも私の2列先で公生が間抜けな表情を浮かべながらコックリしているのを眺めていたら、なんとか起きていられた。ふふふ。後で指摘してやんないと。椿ちゃんに報告しなきゃ。

 

新入生代表のニノミヤさん?だっけ。すごく可愛らしい人だったな。クラスは違うみたいだけど、きっとすぐに男共が群がるに違いない。でも、あの声、どこかで聞いたような?

 

あと、在校生代表のスノハラさん?もすごく可愛い人だった。

 

そういえば、同じクラスの女子やこの体育館を見渡しても美少女ばっかり。男子は・・・うん。

 

もしかしてこの学校は入学試験に写真審査があったということだろうか。

 

あれ?ということは、私も選ばれたということ?

 

うふふ。そう考えたらなかなか嬉しくなってきますな。

 

たった今気づいた驚愕の事実を、私はヒソヒソと偶然にもすぐ目の前の席に座っている椿ちゃんに話してみた。

 

 

「私たち、すごくない?」

 

「あなた試験受けたの?私受けた記憶ないんだけど」

 

「・・・」

 

 

おずおずと自分の席に戻って何食わぬ顔で式の進行を見守る新入生に戻る。

 

さっきから、周りの人に可哀そうな目で見られている気がするけど、きっと気のせい。

 

そうよ気のせい。

 

気のせいなんだから!

 

 

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「かをちゃん!かわいい!」

 

「小春ちゃんはもっと可愛い!!」

 

「もうかをちゃん~いつもそればっかり~」

 

 

むぎゅー!と小春ちゃんに抱き着いて、1日1小春のノルマを達成する。こうして入学式に来てくれたのだから、おもてなしの心が重要なんだよ、公生くん。

 

 

「なんなのさそれ」

 

「ちょっとコーセー!人の心読まないで!」

 

「はぁ・・・それより、早くいかないと買い直しになっちゃうよ?」

 

「あ!忘れてた!早くいかないと!」

 

 

そう。式が終わった後はとてもバタバタなのだ。

 

だって色々と細々したものを購入しないといけないから。

 

本当なら人数分用意されているはずなんだけど、汚れた時用とか、洗濯交代要員とかで、多く買っていく人がいるから、二度手間を避けるためには早めに購買に並ばないといけない。

 

やっぱり買い物はどこでも戦場になるみたい。お母さんと紘子さんが共同戦線を張っているし。

 

張り切るお母さんたちのおかげで、上履きとか鞄とか体操着とか、私では抱えきれないくらいに荷物が増える。

 

これらの多くは式後に合流したお父さんにパス。

 

お父さんはしぶしぶといった具合で荷物を持ってくれた。でも、重かったようですぐに車に乗せに行ってしまった。お父さん、もう少し運動した方がいいよ?

 

渡くんと椿ちゃんも私たちと同じように荷物を持って帰らないといけなかったから、今日はこれでお別れとなり、それぞれ家族の人たちと一緒に帰っていった。

 

 

後で椿ちゃんに電話して、明日からのことを話さなければ。

 

きっとしつこいのであろう部活勧誘の切り抜け方とかね。

 

 

さて私たちも帰ろうと駐車場に向かって歩き出したんだけど、公生が紘子さんに荷物を渡そうとして「レディに荷物を持たせるとはどういう了見だ?」「だって、紘子さんの方が力あるし・・・ぐぎぎぎ!?痛い痛いです紘子さん!!」「あらぁ手が滑ってしまったわ。ごめんなさいねぇ公生くん」とかやってた。

 

そういえば、小学校の卒業式の日、帰り道で公生たちと会ったけど、その時もロッカー箱を紘子さんに渡そうとして、同じようにヘッドロックかけられていたんだっけ。学習しないなぁ。

 

そんなどうしようもない公生に近づいて、優しくいい子いい子してあげる。

 

 

「ちょ、ちょっとかをり!いいってば!恥ずかしいって!」

 

「えー?だって可哀そうなんだもん」

 

「そうだぞ宮園。あまり公生を甘やかすな。こいつはもっとレディに対する態度をだな」

 

「レディ・・・痛!なんで殴るんですか!?」

 

「すまん。何か失礼なことを考えていそうだったもんでな」

 

 

こわー。こういうことで紘子さんを怒らせない方がよさそう。でも、そういうところが公生の態度に現れているんだと思います。紘子さん。

 

 

「ははは。公生くんもまだまだ青いな。よーし。そんな君に、紳士力を磨くチャンスを与えようじゃないか」

 

「「チャンス?」・・・というかお父さん、いきなりなんなの?」

 

「おほん!さて、私の車には、レディである涼子と瀬戸さんと小春ちゃん、そして君たちの荷物で定員オーバーだ。そこで、公生くんにはかをりを家まで送ってもらいたい」

 

「おお!!」

 

「えー」

 

「ちょっとなによ。私と一緒に帰るの、嫌なの?」

 

「い、嫌じゃないけど、車に乗せてもらえると思っていたから、あてが外れたというか」

 

「まだ若いんだから、車をあてにされては困るな。それに、かをりは君に送ってもらいたそうだぞ」

 

「お、お父さん!!」

 

 

もう!まったくお父さんは!もちろん一緒に帰りたいけど、わざわざ言葉にしなくても!

 

 

「あはは。そう、みたいですね。わかりました。かをりと一緒に帰ります」

 

「うむ。それでいい」

 

「あぁ、そうそう。二人とも、私たちは先に帰るけど、ゆっくり帰ってくるんだぞ」

 

「どうして?」

 

「かをり、ちょっと」

 

 

ちょいちょいと手招きするお父さん。

 

 

「とくに今の時期なら、公園の桜は満開で綺麗だと思うんだ」

 

「コーセー!!公園まで歩いていこうよ!!」

 

 

公園の桜。たしかにあそこは、今がちょうど見ごろだと思う。去年、みんなで花見に行ったときはちょっと早かったんだっけ。

 

もう少し公生とお話ししたいし、どうせなら静かに過ごせる場所に行きたいから、この提案はとても嬉しいものだった。お父さんにしては気が利く提案じゃない。あとで、パパって呼んであげようかな。いや調子に乗っちゃうからやっぱり言ってあげない。

 

 

「はいはい。わかったよ」

 

 

やれやれと手をあげて同意を示した公生と私は、お父さんたちと別れて公園に向かうことにした。

 

 

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「「うわぁ」」

 

 

これだけ多くの桜の木が満開状態で、風に煽られて花びらがヒラヒラと舞っているような美しい光景は、生まれて初めて。

 

しかも、時間帯が平日の昼間だからか、私たちの他には誰もいなくて、私たちの借り切り状態。

 

なんて贅沢なんだろうか。

 

 

「ほらほらコーセー!桜の花びら!とっても綺麗!」

 

「うん。綺麗だ」

 

「ほほぅ?さすがのコーセーもこの景色に少なからず感動しているみたいね?」

 

 

私は教室での一件を持ち出して、少し嫌味を言ってみる。

 

 

「僕だって人並みに感情はあるんだよ?」

 

「へえ。私はてっきり、誰かと一緒のクラスでも嬉しく思わない薄情くんだと思ってたんだけどなぁ」

 

「あぁもう!さっきは悪かったって!何度言ったらわかってくれるんだよ」

 

 

公生は自分の反応が悪かったから、私が怒って理不尽な攻撃をしたと思い込んでいるみたいだった。これは交渉のチャンスではないだろうか。せっかくだから、ちょっと利用させてもらおう。

 

本当はただの照れ隠しだったから、ちょっと意地悪かもしれないけど。

 

 

「そうねぇ・・・一つ約束してくれたら、さっきのことは忘れてあげる」

 

「約束?」

 

「うん」

 

「・・・はぁ。わかったよ」

 

「よろしい」

 

 

よし。乗ってきた。これで義理堅い彼が私の約束を破ることはない。はず。たぶん。きっと。

 

 

「来年も、その先もずっと、私と二人でここに来て、一緒に桜を見ること。わかった?」

 

「・・・どうせ断っても連れてくるんだろ?」

 

「よくわかってるじゃない」

 

「でもそれじゃあ、約束なのかわかんないね。あはは」

 

「・・・」

 

 

私は黙って公生に近づいていく。

 

 

「うん?ど、どうしたのさ、かをり。そんなに近づかなくても・・・え?」

 

 

公生に近づいてギュッと抱きつく。

 

 

「約束しなくても、きっと一緒に見ることになるとは思う・・・でも」

 

 

そして、耳元で囁く。

 

 

「約束、だからね?」

 

 

顔を少し遠ざけて、彼の表情を伺う。

 

公生の顔が赤いのは、気のせいではないと思う。

 

ふふん。もっとドキドキするがいい。

 

私だけドキドキするのは不公平だからね。

 

 

「・・・わかってるさ。君となら、これから、何度だって見に来るよ」

 

 

私の目を見据えて、まっすぐに告げられた言葉が何度も頭の中で鳴り響く。

 

 

「・・・反則」

 

「え?なにが?」

 

「知ーらない」

 

 

なんで公生はそうやって、いつも私をドキドキさせたがるのか。

 

嬉しくて仕方ないけど、心臓に悪いんですけど。

 

 

ドクン。ドクン。

 

 

脈打つ私の心臓はなかなか落ちついてくれない。

 

これが不快かというとそうでもないけど、なんというか、照れくさくて、早く収まってほしい。

 

 

「ねぇ、そろそろ離れてくれない?」

 

「だーめ」

 

 

心臓のドキドキは収まってほしいけど、まだ離れたくもない。

 

乙女心は複雑だけど、私の願いはただ一つ。

 

これからも、こうやって公生と一緒にいられますように。

 

 

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家に帰った私たちを出迎えてくれたのは、いくつものクラッカーが鳴り響く音。

 

ビックリした私は声をあげて驚いてしまった。

 

ニヤニヤ顔をしたお父さんとお母さん、そして紘子さん。あと天使な小春ちゃん。

 

どうやらうちの両親と紘子さんとで、私たちの入学祝いのサプライズパーティーを企画していたらしい。

 

すっかり驚かされてしまった私は、ちょっと悔しかったけど、隣で私以上に驚いて尻餅をつく公生が見れたからよしとしましょう。

 

うちの両親、紘子さんと小春ちゃん、そして公生とのパーティーはとても楽しくて、その日、日付が変わるまで続いたんだよ。

 

だから、次の日寝不足で行った音楽教室で、ミスを連発して怒られたのは仕方ないよね。うん。

 

 

 


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