ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「一人目、かぁ」「ん? どうしたんだよ。そんな感慨深そうに」「いえ、この座も狭くなったなぁ、と」「ああ。……最初の一人の時は広すぎだよなぁとか思ってたけどな」

「あっ、お父さん(おかあさん)!」「えっ!? お父さんでお母さん!? どういう人体してるんだい君はっ!」「いや、鏡見てみなさいよ。好きな女の体に自分を改造するとか意味わかんない(おんな)が映ってるから」「それ言ったら日本の英霊とか突き刺さるやつ大すぎて収拾つかなくなるからやめなさい」「ハロウィンのたびに霊基ぐっちゃになってキャスターになったりセイバーになったりするランサーの女の子がいるらしいよ?」「え、そんな何度も出てきて恥ずかしくないんですか?」「セイバーを打ち倒すための対セイバー用決戦兵器を倒すための対・対セイバー用決戦兵器(文系)がある時点で、ねぇ?」「考えるな、感じろってやつよ」

「……うん、多いことっていうのは必ずもいいことじゃないんだな」「……そう、なんですねぇ」


それでは、どうぞ。


第八話 そして、やっと一人目に。

 ――今まで、どんな魔法でも見たことがなかった、その一撃。見た目は風の魔法みたい。でも、あんなに空気を揺らす竜巻を、呪文もなく、ただあの不思議な剣のような筒で打ち出せるなんて、信じられない。

 灰色の大男は光の粒子となって消え去り、その場には黄金の杯が浮いていた。あれが『聖なる杯』だろう。ギルが、回転の収まったあの不思議な剣をおろす。あの剣を見た瞬間、ギルのステータスが更新されたことを知らされた。

 

「ギルっ」

 

「ああ、マスター。助かったよ。……いやはや、近接戦闘が弱点というのは、いつか克服せねばなと思ってたんだが……まだまだ道のりは遠そうだ」

 

 そういって、ギルは苦笑する。……あれで近接戦闘が苦手、なんて他の人の前では口が裂けても言わないほうがいいと思う。前に一度見た母上の動きよりも早くて、ほとんど何も見えてなかった。

 ――ただ、あの一瞬だけ。何か助けないとって、私にもギルと同じものが見えればって思った瞬間、ギルの視界が私の目に映ったのだ。それは、まさしく使い魔としての視界共有。そのおかげで、あの超速移動している二人の間に魔法をぶちかませたのだ。いや、うん、早めにあのメイドには降ろしてほしかったというのもあるんだけど。

 

「この子たちにはサーヴァント……俺みたいな存在の相手は不安だったからね。早めに第四宝具を使用したほうがいいかな。……誰呼ぶか、なんだよなぁ」

 

 一人でなにやら悩み始めたギルをいったん放置して、上を旋回している竜に手を振る。見えているか不安だったけど、ゆっくりと高度を下げてきているのを見るに、ばっちりと視認できたらしい。降りてきた二人は、小走りで私たちのもとへやってくる。

 

「ダーリンっ。なんかすごいことになってたけど、大丈夫だったっ!?」

 

「うん? ……ああ、キュルケか。うん、大丈夫。ありがとな」

 

「その武器。凄まじい竜巻だった。風のマジックアイテム?」

 

 ギルの腕に抱き着いて、顔をぺたぺたと触り、怪我がなかったかと心配するツェルプストーと、ギルの手に握られた、『乖離剣』と呼ばれるらしい剣に興味津々のタバサ。あれはマジックアイテムなんてもんじゃない、と頭に情報を叩きつけられた私は言ってやりたかった。……でもその前に。

 

「ちょっとツェルプストー! 人の使い魔にべたべたしないでって言ってるでしょ!」

 

「あら、あんな激しい戦いの後の殿方の心配もできないヴァリエールには何も言われたくないわね」

 

「なっ、わ、私はこいつの……ギルのマスターだもん! つながりで怪我してないってわかるんだから!」

 

「本当かしらぁ?」

 

 ニコニコ……というよりはにやにや、とこちらを見下ろすツェルプストーに、本当だもん! と返すと、苦笑いをしたギルにまぁまぁ、と二人してたしなめられる。

 

「俺を取り合ってくれるのはうれしいが……今の俺はマスターの……ルイズのサーヴァントでね。悪いけど、マスターを優先させてもらうよ」

 

 そういって、そっとツェルプストーから離れて、タバサの前で屈むギル。……なんか、子供に話しかけるときのような雰囲気である。

 

「これは乖離剣。……マジックアイテムっていえばマジックアイテムだけど……説明難しいな。マスター、宝具ってどんな風に説明すればいいと思う?」

 

「ふぇっ!? わ、私に振るの? ……えぇっとぉ……その人に一つだけっていう、ユニークなマジックアイテム……みたいな?」

 

「……あー、まぁ、そんな感じだなぁ。持ってみる?」

 

 まだ理解が出来ていないのか、こてん、と小さく頭を傾げているタバサに、ギルは乖離剣を差し出す。……真名開放ってのは本人にしかできないし大丈夫だろうけど……普通の人間が持って大丈夫なものなんだろうか。

 恐る恐る手を出してその剣を握るタバサは、しばらく矯めつ眇めつした後、ギルにはい、と返す。

 

「……マジックアイテムよりも、なんだか、濃い存在。不思議な力を持ってる……それくらいしか、わからなかった」

 

「おお、でもそれだけわかるのは凄いな。いい眼を持ってるね」

 

 空中の波紋に乖離剣を戻したギルが、もう片方の手でタバサの頭をなでる。……なんていうか、タバサは奇妙な顔をしていた。なんで撫でてるんだろうって顔と、なんで撫でられるがままになってるんだろう、っていう二つの疑問が浮かんでいる顔だ。……まぁ、そういう子供っぽいところと中途半端に大人っぽいところがあるからあんな落ち着いてるんだろうなぁ、なんて勝手に感想を抱いた。

 

「……さて、これは……」

 

 そういって、ギルは『聖なる杯』を手に取ってしげしげと眺め始める。その紅い瞳は、すべてを見通しそうだ、といつか思った時と同じ目をしていた。

 

「……ふむ、純度も高くて、透明な『聖杯』だな。……願いをかなえてサーヴァントを召喚したからか、かなり力を失ってはいるけど……」

 

 独り言をつぶやくギルは、そのまま『聖なる杯』を宝物庫に入れる。確かに、そこは一番安全な保管場所だろう。それから、ギルは気絶しているフーケの元へ。

 

「この子、このまま連れてったらどうなるんだ?」

 

 よいしょ、と軽々とフーケを抱えたギルは、私にそう聞いてきた。……んー、罪状を考えると……。

 

「死罪でしょうね。貴族から盗みを働き続けたんだから、ここぞとばかりに貴族たちが働きかけるでしょうし」

 

「やっぱりか。……うん、決めた。マスター、俺この子もらうよ」

 

「ふぅん。そ? ……って、え? ええええええええっ!?」

 

 何言ってるのこの馬鹿使い魔っ! 犯罪者よ!? そんな、貰うって!

 

「……だめ。フーケは犯罪者。引き渡さないと」

 

「んー、ま、じゃあ、殺したことにしようか。この子がほしいっていうのも理由があってね」

 

 そういってギルは私たちにフーケの右手を見せてきた。手の甲側の手首には、短い入れ墨のようなものを無理やり消したような跡が残っていた。

 

「この子、一時的なマスターになったせいで、マスター適性を持っちゃったみたいなんだよね」

 

 それなら、まだこちらで使いようがある、とギルは説明する。

 

「盗賊やってたってことは情報収集能力とか隠密とか得意みたいだしさ。こういうことが他にないか調べて貰える人員を探してたんだよねー」

 

 要するに、フーケみたいに『聖なる杯』のようなマジックアイテムでギルのような英霊を召喚している人はいないか、という情報収集の人員としてフーケがほしい、とのことらしかった。……でも、フーケは犯罪者だし……。そもそも、こっちのいうことを聞いてくれる保証はあるの?

 

「うん? ……まぁ、任せなって」

 

 そういうと、ギルは目覚めたフーケと話し始めた。最初は語気を荒げていたフーケだったが、だんだんとギルの話に耳を傾けはじめ、最終的にはこくり、と何かに対して首肯したのだ。え、うそ、ほんとに味方につけたの……?

 そんな風に驚いていると、ギルがこちらに来て「大丈夫、手伝ってくれるって」とフーケの縄を解いてしまった。だけど、フーケは逃げるそぶりを見せずに、ギルの隣に来ると、私たちに話しかけてきた。その話し方はロングビルのような落ち着いて理路整然とした話し方ではなかったけど、よくいる盗賊のような理性をかなぐり捨てたような話し方でもなかった。

 なんていうか、少しだけ気を許した相手にするような、そう、砕けた話し方になったのだ。

 

「あー、なんていうか、危害を加えて悪かったよ。これからはギルに雇われた情報屋として、遠回しだけどあんたたちの力になるからさ」

 

「というわけで、こういう風に罪を償ってくらしいから、許してやってよ」

 

 な? とこちらに笑いかけるギルに、少しだけ気恥ずかしさを感じて顔を逸らすと、ツェルプストーがキラキラとした瞳をギルに向けていた。

 

「きゃーっ! ダーリン、敵だった大盗賊のフーケすら味方に付けるなんて……清濁併せ呑む王にふさわしい振る舞いだわ!」

 

「ああ、そういえば王様だったんだっけか。まー、それならあたしを雇うっていう考えに至るのも不思議じゃあないね。あ、ギル王さまとか呼んだほうがいいのかい?」

 

 ギルを挟んできゃっきゃとはしゃぐツェルプストーとフーケ。な、なによなによっ。さっきまで敵対してた盗賊のくせにっ。

 

「いやいや、そこまではいいよ。今は王様も休業中でね。ギルでいい。王様だった期間より、色々と冒険してた期間のほうが長いしね」

 

「……王様、冒険してた?」

 

「おう、そうなんだよ。そういう話、好きか? 色々面白い話があるぞー」

 

「……聞きたい」

 

 あっ、タバサまで! みんなでギルを囲んでワイワイと……! 遊びできたわけじゃないのに! もう!

 そんな気持ちが四割、怒り六割くらいの声量で、私は叫んだ。

 

「こんの……馬鹿キングーっ!!」

 

・・・

 

「マスター、悪かったって。確かにマスターをほったらかしにして盛り上がったのは申し訳なかった」

 

 つーん、と顔をそむけるマスターに謝りながら、俺はご機嫌取りに奔走していた。キュルケやフーケ、タバサたちとワイワイしていた時に仲間外れにされたのが相当さみしかったようだ。そうだよな、なんていったって彼女もまだ十歳かそこら。仲間はずれにされればさみしくなっちゃうこともあるだろう。癇癪をおこすこともあるだろう。そのあたりを考慮できなかった俺の失態である。……あ、ちなみに今の馬車の御者は自動人形である。ロングビル=フーケで、そのフーケを殺害してしまったため、という表向きの理由での採用である。

 フーケに関してはこれからの活動資金やら通信用の霊装なんかを渡して、すでに別行動中である。噂話などを聞きながら、サーヴァントを探したりしてくれるらしい。

 なので、馬車には俺とマスター、タバサとキュルケしかいない。がたごとと呑気な帰り道である。

 

「ふふ、ねぇダーリン? 癇癪持ちのヴァリエールなんて放っておいて、私とお話しましょう?」

 

「……冒険の話、気になる」

 

 隣のマスターに話しかけていると、対面に座る二人から話しかけられる。……むむむ、お話ししたいのはやまやまだけど、まずはマスターである。手で謝意を表しながら、俺はマスターの機嫌取りを続ける。

 

「悪かったって。ほら、あんまりむくれてばっかだとせっかく可愛いのに台無しだぞー」

 

「ふ、ふんっ。可愛いとかお世辞言われても、許したりなんかしないんだからっ」

 

 それでも律儀に頬を赤く染めて照れてくれるあたり、素直な子だなぁと感心してしまう。まぁ、これから仲良くなればきっと素直で良いところがたくさん見えてくるのだろう。俺にはわかるぞ!

 まぁ、それからなんとか機嫌を戻してもらい、マスターがそういえば、と話を切り出した。

 

「あんたのあの『乖離剣』っていうやつ? あれの情報が中途半端にしかこないんだけどなんで?」

 

 ああ、たぶん天の理まで使ってないからだろう。エアは対界宝具である。魔術基盤も違う上に俺の逸話が残っていないこの世界では、乖離剣を理解するのも難しいのだろう。そのため、制限がかかってしまって、すべての説明を見ることが出来なくなっているんだと思う。

 その点を説明し、『世界を切断する』剣であることを伝えると、三人とも驚いたようだ。……そりゃそうだ。

 

「ダーリン、本当にすごい王様だったのねぇ」

 

「……王様のお話、他にある?」

 

「他? 他かぁ。うーん、俺自体は長生きしたってだけでそんなに逸話残ってるわけじゃ……あ、世界は何回か救ったけど」

 

「逸話あるじゃない!」

 

 マスターからの突っ込みを受けて、ははは、と笑いを返す。最初に召喚されたとき、そのあと受肉して世界を巡ったとき。何度か人類を救ったことはあった。ティーちゃんと出会ったのもその放浪してた頃あたりの事だったと思う。

 そんなこんなで帰り道は俺への質問大会となっていたのだが、宝物庫にはいろんなものが入っている、といった時のタバサの何かを考え付いたような顔は気になった。……ふぅむ、ま、なんかあれば俺に直接聞くだろうし、俺にできるのはその時にちゃんと話を聞いてやることくらいだな、と結論付けた。

 今はそれよりも誰を召喚するか、である。守り方面の逸話を持った子って誰だったかな、と三人の相手をしながら考えるのだった。

 

・・・

 

「なるほどのう……ミス・ロングビルが……」

 

 その後、学院についた俺たちは学院長に事のあらましを説明した。ロングビルがフーケであったことや、取り返した『聖なる杯』を渡して、フーケはちょっと木っ端みじんになってしまったと説明した。気まずそうに同意した三人娘の反応を、学院長は『木っ端みじんになったフーケを見てしまったからだ』と都合よく解釈してくれたので、特に深くは聞いてこなかったようだ。それどころか、三人を気遣って本日の『フリッグの舞踏会』とやらがあるから準備してきなさい、と退室を促してきた。

 それに続いて俺も部屋を出ようとすると、学院長のオールド・オスマンに呼び止められた。……実質年下なのだが外見上年上なので、なんとも話しづらい人なのだが、まぁ呼び止められては仕方がない。マスターに先に帰っていてくれ、と自動人形を一人付けて遅らせると、部屋の中へ踵を返した。

 

「残ってもらって悪いのぅ」

 

「気にしないでくれ。そのうち話を聞きたがるだろうと思っていたんでね」

 

 そういうと、オスマンは俺の目の前で『聖なる杯』を掲げながら話を始めた。

 

「この『聖なる杯』には君と同じような存在……英霊だったか。それを召喚する力があるらしいの」

 

「そうなるな。誰でもってわけじゃないだろうけど」

 

 本家本元の『聖杯』とは違い、魔術基盤の違うこの世界では、この『聖なる杯』の『サーヴァント召喚』の力が変質しているようだ。

 けれど、聖杯から『資格有り』と認められて、さらに本来の令呪と違って一画しか与えられないというデメリットもあるが、それでもサーヴァントを召喚できるのは大きいな。まぁ、これからもそういうのがないのか確認するためにフーケを情報屋として雇ったんだけども。

 

「ふむ……ではこれはこれからも厳重に保管する必要があるのぅ」

 

「だけど、まだ学院のあの壁、完璧には治せてないんだろう?」

 

 帰ってきたときに、壁はなんとか直し、『固定化』もかけてはいるが、前回ほどではないと聞いていたのだ。そこまで高レベルの『固定化』をかけられるようなメイジにすぐに渡がつけられるはずもなく、今は応急処置の状態なのだという。

 これでは、もしかしたらまた盗まれてしまうかもしれない。警備も厳重にしているし、もう流石にフーケのような大盗賊はいないとは思うが、絶対はないのだ。

 そこで、オスマンは俺の宝物庫に思い至ったらしい。……俺の宝物庫についてはマスターが最初の時に説明しちゃってたからなぁ。まぁ、その時はマスターも『なんでも入る異空間』みたいな説明しかしていないから、射出のことなんかは知らないみたいだが。

 まぁ、ここにはいろんなものがしまってあるからなぁ。ほら、この身体検査表とか……。うわ、懐かしいなぁ。そうそう、かなり伸びた子とかいるんだよなぁ。びっくりしたよ。

 とにかく、その情報を思い出したオスマンは、マスターであるルイズの人格を鑑みて、その使い魔であれば信頼に値する、と俺の宝物庫への『保管』を依頼してきた、というわけだ。

 俺としては特に問題ないので請け負い、宝物庫へ『聖なる杯』……いや、もう『聖杯』と呼ぶことにしよう。『聖杯』を宝物庫へと収納する。

 

「それで、呼び止めたのはこのことだけではないのだ」

 

「……というと?」

 

「……コルベール君」

 

 オスマンがずっと立ち尽くしていたコルベールを呼ぶと、彼はあの日スケッチしていたマスターの令呪と、ある一冊の本を差し出してきた。

 ……俺の視力は少し離れたところにあるそのスケッチと、コルベールが開いたページを近づかずとも見ることができた。……ほほう。

 

「令呪……ルーンの形が同じ、ということか」

 

「うむ。それで、これは君の見た『サーヴァント』にも関係するのかもしれんのだが……」

 

 そう前置きして話し始めたオスマンの話は、なるほどと思わず納得するものだった。

 マスター、ルイズの手に現れた令呪……ルーンは、この本に描いてある伝説の使い魔のルーン、『ガンダールヴ』に酷似していた。そして、ガンダールヴのマスターが俺という『サーヴァント』を召喚したのであれば、他の伝説の使い魔も『サーヴァント』なのではないか、ということだった。

 偶然にも、『ガンダールヴ』は『あらゆる武器を使いこなす』というもので、俺と妙に共通点のある使い魔だなぁと思った。まぁ、俺の場合は『使いこなす』訳ではなく、『あらゆる武器を使える』程度のものなんだけど。というかその『伝説の使い魔』のルーンとやらも、俺には無く、マスターの手の甲に令呪と一緒に刻まれちゃってるんだけど。

 しかし、類似点というか共通点というか、つながりのようなものがあるのは気になるな。神様もあんまり俺が選ばれたことについては話してくれなかったし……うん、フーケにはその辺も探してもらうかな。

 

「……おっと、話し込んでしまったのぅ。また何か進展があれば、話をしにくると良いじゃろう」

 

「ん、ああ、そうだな。そうさせてもらうよ」

 

 そう話を締めて、オスマンは俺を見送ってくれる。

 漸く俺も部屋を出るかと踵を返したとき、そうじゃ、とオスマンが声を掛けてくる。

 

「今回のフーケ討伐に関する報酬じゃが……おぬしの主人たち三人には爵位申請をしておいたんじゃが、お主は貴族では無いからの。少しばかりの金銭と、今日の『フリッグの舞踏会』へ参加できるように話を通しておいた」

 

「ああ、それで十分だ」

 

 そう言って、今度こそ学院長室を後にした。ま、今日は美味しいものを食べてよしとするかぁ。あ、お金に関しては後日用意されるんだとさ。

 ……そういえば、ギーシュ君とか来るんだろうか。あれ以降ちょっと気まずいし、出来れば仲良くしたいけどなぁ。

 

・・・

 

「ただいまー」

 

「あら、おかえんなさい。学院長と何はなしてたの?」

 

 マスターの部屋に帰ってきたとき、マスターは机の上で羽ペンを握って何かを書いているようだった。……内容からして授業の予習復習だろう。今日の夜には『フリッグの舞踏会』とやらなのに、真面目なことだ。そこがいいところでもあるんだけどさ。マスターの問いかけには適当に今回の件での質問があった、とだけ返して、自動人形の用意してくれる椅子に座る。そういえば最近マスターの部屋で勝手なことしても怒られなくなったな。マスターも大人になったということだろう。なので、部屋にある棚やら机の上やらに色々と飾るものをおかせてもらっている。ふっふっふ、マスターの感性を俺色に染めてやろう……。

 そんなふざけたことを考えていると、マスターがうーん、と背伸びをする。お勉強は終わりのようだ。

 

「そういえば今日は舞踏会があるんだろう? 着替えないのか?」

 

 舞踏会といえばドレス。ドレスといえば貴族のバトルスーツだ。俺にとっての黄金の鎧のようなものだ。準備を入念にしても悪いことはあるまい。

 

「んー、そうねぇ。もう日も暮れてるし……準備し始めるかなぁ」

 

 窓から外を眺めてそう呟いたマスターの傍には、すでに自動人形が三人ほどスタンバっている。

 

「……俺の聖骸布まだ余ってるから、それでドレスでも作る?」

 

「……聖骸布ってドレス作るための生地じゃないでしょう?」

 

 何言ってんの? とばかりに俺の方を振り返るマスター。……うん、まぁ、聖骸布の色的にキュルケと被りそうだしね。イメージカラーとしてはマスターは……うん、白か黒だな。というか下着に黒系が多いから、多分黒好きなんじゃないかなー。次点は白だと思う。

 そういえばそろそろ着替えるのなら、部屋にはいないほうがいいだろう。そう思って、立ち上がり扉へ向かう。

 

「じゃあ、マスター。会場で会おう。着替えには自動人形がいるし、問題ないだろ?」

 

「大丈夫だけど……あ、そうだ。……あの、えっと、フーケの件では、ありがとね」

 

「うん? ……お互い様だよ。俺もマスターには助けられたしね。それに、『主人を守る』のが使い魔の仕事だろ?」

 

 そう言って、笑いかけてやる。素直にお礼が言えるのは、とても偉いことだ。段々と成長してきてるなぁ。こうして、淑女になっていくのだろう。俺はうんうんと頷きながら、今度こそ部屋を後にする。

 

・・・

 

 ……そうしてやってきたのは、学院の洗濯場である。だが、今回は洗濯をしに来たのではない。とある宝具を使うため、広くて人気が無い場所に来たかっただけである。

 

「……さて、試運転は何度かしたが、実際に使うのは初めてに近いな」

 

 神様との繋がりが薄いこの状況では、座との繋がりも確立されているか分からない。そんな状況でこの第四宝具『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』を使用して、望みどおりの結果になるかは分からないが……。兎に角、もう一つ手が欲しいのは確かだ。そして、誰を召喚するかはもう決めている。

 あの優しい子なら、きっと手を貸してくれるだろう。あの子とのやり取りを思い浮かべながら、俺は体を巡る魔力を意識する。

 

「俺の名は英霊王。我が座に縁ある英霊よ、この声、この名、この魂に覚えがあるなら応えてくれ!」

 

 本来なら魔力をまわして真名を口にするだけでもいいのだが、今の不安定な状態を鑑みて口上を挟む。今ので確実に『掴んだ』感触がしたので、間違いなく宝具は正しく発動するだろう。そのまま、魔力を高め、宝具の真名を口にする。

 

「来い! 『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』!」

 

 本来のギルガメッシュが持つ宝具とは違い、俺の逸話に沿うように神様がカスタマイズしたこの宝具は、真名こそ同じだが、その効果は全く違うものになっている。それは、『サーヴァントの身でのサーヴァントの召喚』と言う破格のものだ。もちろん魔力は自前で、『女性、雌、またはそれに準ずるもの』と言う条件も付くが、それをクリアできればこれほど頼りになる宝具は無いだろう。

 ちなみに今回は魔力がほとんど神様持ちということで、遠慮なく使わせてもらっている。魔力以外のつながりは未だに薄いので、まだ何か手間取っているんだろう。いつになったら連絡が取れるやら。

 俺が意識を別のところに向けている間にも、召喚は進んでいく。光が溢れ、その中心には人の影が現れる。

 

「わひゃっ!?」

 

 ――尻餅をついた状態で!

 

「……うん、どうしよ。召喚しておいてなんだけど、大丈夫?」

 

「は、はいっ、大丈夫ですっ。しゃ、さ、サーヴァント、しぇいびゃー! 召喚に応じ、参上! です!」

 

「……あー」

 

 尻餅ついて、涙目で、噛み噛みのこの娘も、れっきとしたサーヴァントなのである。しかも、ランクで言うのならかのアーサー王やカルナやらにも負けないのだ。そう、星5なのである! ……うん、まぁ、それがマスターとかには通じないってのは分かってるけど。

 じっくりと召喚した女の子を見る。髪は黒く、長さはショートボブ。頭以外を銀色の鎧で包み、更にマントのようなものを肩からかけているので、ほとんど肌の露出は無いと言っていいだろう。腰には細身の剣を佩いており、見ただけで相当なものだと分かる。

 

「取り合えず……立てる?」

 

 まずは、今の状況を話し合うところから始めようかな。

 

「あ、はいっ。ありがとうございます、ギルさんっ」

 

 俺の手を取って立ち上がる少女は、ニッコリと笑う。うん、元気があってよろしい。

 

・・・

 

 ドレスに着替え、侍女たちが持ってきてくれた紅茶を飲みながら、時間を待つ。公爵家の娘として、舞踏会のようなものでは最後に登場するものと決まっているのだ。他の生徒達はもう会場に入って、仲の良い友達とともに歓談でも始めているころだろう。そういえばギルは先に行くとか言ってたけど……ま、あいつなら何とかするでしょ。

 

「それにしても、あんたの王様って凄い人なのねぇ」

 

 傍に立つ侍女……自動人形に、呟くように話しかける。無表情で目を瞑っているから分かり難いけど、この子たちにも感情があるのだということがここしばらくの付き合いで分かってきた。上機嫌のときは少し顎が上を向くようだ。不機嫌のときは分かりやすい。口にきゅっと力をいれて、何かしらを投げてくるからだ。……メイドとして、それでいいのかとも思ったけど、ギルが言うには侍女をやっているのは完全なる『趣味』らしいし、コレだけ優秀なのだ。少しくらいの欠点は見逃してあげるのが貴族としての役割だろう。……あ、後はアレね。ギルに頭を撫でられたりしてるときとかは、顔は不機嫌そうなくせに抵抗も何もしないから、多分アレは気に入ってるんだと思う。変なところで子供っぽいのよね。

 ちなみに今は顎を少し上にあげ、少しだけ誇らしげな顔をしている。……ギルはこのときの顔を……なんだったっけな……そう! 『ドヤ顔』って言ってたわね。たしかに、『どう?』って感じの顔してるわ。私より付き合いが長いだけあって、流石に自動人形達のことを分かってるようね。

 

「……ん、そろそろ時間ね。……って何かしら、この感覚」

 

 ギルとの『つながり』のようなものが、左手の『令呪』と呼ばれる使い魔のルーンから感じ取れるのだが、なにやらその『つながり』に妙な感触が。いうなれば、流れてる川に支流が一つ出来たような……。

 

「何かしら、これ。ギルに何かあったのかしら?」

 

 何か分かる? と自動人形に聞いてみると、小首をかしげ、少しの間考える素振りを見せ……ああ、とでも言いたげに手を叩いた。身振り手振りで何かを伝えようとしてくるが、分かるはずも無く、次はこちらが首を傾げてしまった。

 

「……」

 

 それで伝わっていないことに気付いたのか、自動人形はもう一度手を叩き、私に近づいてくる。

 

「へ? なに、え、ちょ、なんで頭掴むの? え、あ、まって、何で頭振りかぶって……頭突き!? 頭突きよねその予備動作は! まってなにす……あだっ!」

 

 ごぃん、と頭突かれ、一瞬目の前が白くなる。……が、それとどうじになにやら妙なものが聞こえるように……。

 

「って、コレあんたの声? ……はー、念話が出来るように繋がりを作った、ねぇ」

 

 頭の中に響く、美しい声。目の前の侍女の声だと違和感なく受け入れられたのは、『こんな声だったら良いなぁ』と想像していたものと同一だったからだ。何でも、自動人形の念話は聞く相手が一番美しいと感じる声量、声質で聞こえるらしい。

 

「で、この妙なつながりって何?」

 

 自動人形は、そろそろ時間だから移動しながら教える、と部屋のドアを開けて私をエスコートする。……素晴らしい声と、隙の無いその振る舞いに少しだけぼうっとしながらも、立ち上がって廊下へと向かう。

 舞踏会の会場に向かう途中、前を向いたままの自動人形から念話が届く。おそらく、ギルの四つ目の宝具の所為だろうとのことだった。

 

「四つ目の宝具? どんなのか知ってるの?」

 

 私のその言葉に、自動人形はまた前を向いたまま頷き、念話を送ってくる。なんと、四つ目の宝具は『英霊を召喚する』というものだった。っていうことは、ギルとかあの灰色の大男みたいなのがまた一人増えたって言うこと? そんなの、過剰戦力じゃないの? と次々と疑問が出てくる。

 自動人形はその疑問に次々と答えてくれて、今まで知らなかったギルのことを詳しく知ることができた。

 一つ目の宝具は『宝物庫』。何でも入るし何でも入ってる。二つ目は『乖離剣』。大男との戦いで見せてくれた、空間すら切り裂ける不思議な剣。三つ目はまだ見せてくれないからわかんないけど、その次の四つ目が『召喚権』。ギルと仲の良い英霊をサーヴァントとして召喚できる宝具らしい。

 で、今回はその四つ目の宝具を使用して、新しくサーヴァントを召喚したんだそうだ。……ほんと、説明を受けた『サーヴァント』ってのとは違う存在ね。反則級だわ。

 

「……そんなのが、私の使い魔なのね……」

 

 左手の甲に刻まれた、三画の令呪を見て、つい呟いてしまった。……あいつ、なんで私の使い魔やってくれてるのかしら。私なんて、召喚を成功させたとはいえ、未だみんなの評価が『ゼロ』のままなのに。

 

「……」

 

「ひゃっ。……何よ。慰めてくれてるわけ?」

 

 急に頭に手を乗せられて驚いてしまったが、歩きながら自動人形が私の頭を撫でていた。それも、セットした髪を崩さないよう、優しく。

 念話も何も無いけれど、その行動が私を気遣ってのものだと分かってしまって、少しだけ笑いが漏れた。何だかんだで、優しいのよね。

 

「……ま、一応お礼は言っておくわ。ありがとね」

 

 自動人形の気持ちを受けて、ネガティブになっていた考えを持ち直す。

 今あいつにつりあわないなら、これからつりあうようなメイジになればいいだけ。今回の件で私の爆発するだけの魔法も使い道があると分かったのだ。……まぁ、ちょっと日常には使いづらいものだったけど。それでも、今まで失敗だ、役立たずだと思っていたあの失敗魔法が役に立つときもあると分かっただけでもよしとしよう。

 

「……」

 

「あ、着いたのね」

 

 色々と考え込んでいる間に、会場の前までたどり着いていたらしい。自動人形が念話で教えてくれなければ、そのまま素通りするところだった。

 簡単に身嗜みを整えて、入場のときを待つ。

 ……ま、取り敢えずはギルと話をしよう。自動人形から色んな話を聞いたけど、やっぱり本人に直接聞くのが一番よね。

 

・・・




 ――ステータスが更新されました。

クラス:■■■■・■■■■■■

真名:ギル 性別:男性 属性:混沌・善

クラススキル

■■王:EX

終■■■■叙事詩:EX


保有スキル

軍略:A
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの持つ対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍、対城宝具に対処する際、有利な補正が与えられる。

カリスマ:EX
大軍団を指揮、統率する才能。ここまで来ると人望だけではなく魔力、呪いの類である。
判定次第では敵すらも指揮下に置くことが可能。

黄金律:A++
身体の黄金比ではなく、人生においてどれだけ金銭がついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ぴかぶり。一生金には困らないどころか、子孫代々が生活に困ることは生涯においてない。

■■■■:B+

千里眼:B
視力のよさ。遠方の標的の補足、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
更に高いランクでは、未来視さえ可能とする。
「これよりいい『眼』も持ってるんだけどね」とは本人の談。

■■の■■:EX

能力値

 筋力:A++ 魔力:A+ 耐久:B++ 幸運:EX 敏捷:C+++ 宝具:EX

宝具

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

ランク:E~A+++ 種別:対国宝具 レンジ:―― 最大補足:――

黄金の都へ繋がる鍵剣。元々は剣として存在していたものだが、現在は能力の鍵として体内に取り込まれた。
空間を繋げ、宝物庫の中にある道具を自由に取り出せるようになる。中身はなんでも入っており、生前の修練により種別が変わっている。

全知■■■全能■■(■■・ナクパ・■■■)

ランク:■X 種別:■人■具 レンジ:―― 最大補足:――

詳細不明。解析中。――注意。権能に類する可能性あり。

■海■・ナ■■■■■■■■波(■■■・■日■)

ランク:A■■ 種別:■■宝具 レンジ:―― 最大補足:――

詳細不明。

天地乖離す開闢(エヌマ・エリシュ)

ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大補足:――

乖離剣・エアによる空間切断。
圧縮され鬩ぎ合う風圧の断層は、擬似的な時空断層となって敵対するすべてを粉砕する。
対粛清ACか、同レベルのダメージによる相殺でなければ防げない攻撃数値。
STR×20ダメージだが、ランダムでMGIの数値もSTRに+される。最大ダメージ4000。
が、宝物庫にある宝具のバックアップによっては更にダメージが跳ね上がる。
かのアーサー王のエクスカリバーと同等か、それ以上の出力を持つ『世界を切り裂いた』剣である。
更に、その上には『■■■■■の再現』や、『三■の巨大な■■■』を生み出したりもする。

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