ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「最後の一撃は、いつも、気持ちイイ……!」「おいおい、こいつ一回怒られた方が良いんじゃないのか?」「……壱与に何言っても無駄でしょ。それよりこいつが事切れたんだから次はわらわ……よね?」「まっ、まだ壱与はっ! 壱与は満足してなっぐぉ!?」「……大人しく死んでなさい。次起きたら、首いくわよ」「……きゅう」「……無残な、と言うか容赦ない、と言うべきか……」
 

それでは、どうぞ。


第六十三話 無残な一撃

「ごきげんよう」

 

 女子援護団――元々はケティが所属していた料理同好会が、戦争が起きたことをきっかけに少しずつ変化して、現在では学院に所属しながら軍属でもある水精霊騎士隊(ギーシュが隊長を務めている)を支えるために活動している同好会――が活動中、その活動を支援しているオルレアン辺境伯……と言う体でこの援護団を私物化している悪徳貴族たるこの俺は、こちらに挨拶をしてくるリゼット達を笑顔で迎えた。

 彼女たちはクルデンホルフ大公家の令嬢たるベアトリスと親しい……つまり、取り巻きをやっている貴族の娘さんたちである。確か下は子爵から上は伯爵までいた気もするが、今回その辺の家は関係ないので無視することにする。大切なのは、少しずつ彼女たちを篭絡していき、ベアトリスを軽く孤立化させることと、彼女たちの意識改革をしていくことである。流石に大公家ともなると正面からでは家柄的に太刀打ちできず、アンリやら枢機卿の力を借りることになってしまう。流石にそれをやるにはまだ早いので、こうして俺の得意技である『女性と仲良くなること』を前面に押し出し、周囲から責め立てているのである。

 ――どこかのはわわと慌てる軍師は言いました。戦う前に、戦いの結果は決まっているのだと。事前にどれだけの準備をして、策略を巡らせるかで戦自体が始まる前に勝敗は決まるのだと。そんな軍師が生前身内にいたもので、俺もこういう搦め手はそれなりに使えるのだ。しかも相手は女の子だし。女性・学生タイプに対して性王タイプは弱点を突けるので、四倍のダメージを与えることができるのだ。ふっふっふ、恨むのなら俺に目をつけられたことを恨むんだな!

 

「やぁ、リゼット達じゃないか。今日も来てくれたんだな」

 

 戦闘時のように髪を立ててバリバリの俺様系もできるが、今の俺は髪を降ろして王子様系の柔らかモードだ。このモードだとさらに乙女タイプに弱点を突けるので、六倍ダメージなのである。何のダメージなのかって? そんなもの俺も知らん。

 リゼット、エーコ、ビーコ、シーコの四人は一人ずつこの援護団に取り込んでいき、つい先日ついに全員の陥落を達成した。今ではケティの指揮のもと、騎士隊におにぎり作ったりクッキー差し入れたり訓練を応援したりと八面六臂の活躍をする期待の新入部員となったのだ。……団員か。彼女たちは裁縫、料理等の家事スキルに適性があったらしく、メキメキと実力を上げてみんな笑顔で活動するようになってくれた。たまに『ご褒美』をねだられるが、その程度可愛いもの。彼女たちがこうして手元にいてくれるなら安いものである。

 

「もちろんです! ケティ先輩、本日は何を?」

 

「今日はみんなでクッキーを作ろうかと! なんとギルさ……オルレアン辺境伯よりとてもよいオーブンをいただいたのです!」

 

 そう言ってケティは『ばっ』と部屋の一角に掛けて有った布を取り去った。そこには俺の宝物庫の中身をアルキメデスがちょちょいのちょいしたとても便利なオーブンの姿が。予熱したり焼き上げたり、その辺の効率を上げているらしく、いつもより短い時間で調理できるらしい。その辺は俺にはわからないのだが、アルキメデスの言うことだ。本当に効率化されているのだろう。

 新しいものを見るとはしゃぐのは人類共通なのか、みんな嬉しそうにあれを作りたいこれもやってみたいと盛り上がっているようだ。うんうん、そう言ってもらえると用意した甲斐があったというもの。ケティなんて嬉しさのあまり俺の胸に飛び込んできたくらいだ。もちろん抱き返した後に頭を撫でてあげた。その所為かわからないが、ケティは未だこっちを直視しないし耳が真っ赤だ。愛い奴め。

 

「そういえばオルレアン辺境伯様! ベアトリス殿下がオルレアン辺境伯様にお会いしたいとおっしゃってましたわ!」

 

「ほほう、それは良いことだ。おいでリゼット。『ご褒美』をあげよう」

 

 そう言って俺が手招きすると、リゼットは顔を赤くしてこちらに近づいてくる。えっと、リゼットは何だったかな。あ、そうそう。『顎をくいっと上げて「姫」って言う』だったな。……少し恥ずかしいが、まぁ姫は俺の身内にたくさんいる。あとはその時のことを思い出しながらやるだけだ。ちなみにエーコは『壁ドン』ビーコは『おでこをくっつける』シーコは『お姫様抱っこ』である。生前の欲の薄い俺の侍女(黄金ではない)を思い出す……。こんなことで頑張ってくれるなら、いくらでもやる所存である。俺も得するし彼女たちも嬉しい。一石二鳥なのだ。

 

「お゛っ゛」

 

 ちょっと汚い声を上げて、リゼットが倒れる……前に、エーコ達三人が受け止めた。まるで倒れるのがわかっていたようだった。

 

「リゼットさま! お気を確かに!」

 

「ちょっと淑女にあるまじき声でしたわ!」

 

「でもお気持ちはわかります……!」

 

 それぞれにそれぞれの励ましを受けたリゼットは、ふらふらとしながらもなんとか立ち直った。

 

「……ありがとうございます、エーコ、ビーコ、シーコ……私たちは幸せ者ですね……」

 

 そう言って四人はがっしと強く手を握り合った。……わぁ、まるでスポーツ漫画の熱い展開みたいだ……。

 そんな彼女たちを温かい目で見つつ、俺はベアトリスのことを考える。……大公家とはいうものの、マスターの情報やリゼット達の話によると元はゲルマニア生まれとのことだった。マスターはそのあとに『キュルケと同じ成金よ』と吐き捨てるように言っていたが、それでギーシュの家やらは懐を握られているので馬鹿にも出来ない。俺も黄金律があるから成金究極形態みたいなもんだしな。あんまり人のことは言えん。

 しかし、会ってどういう関係を築くかだな。あまり変なことをしてはテファに被害がむいてしまう可能性もある。

 

「ふぅむ……どうす……なに?」

 

 悩んでいると、念話が飛んできた。なんでも、テファが授業中にエルフの耳をさらけ出したとのことだった。……なんで? 彼女には耳隠しの宝具を預けているので、彼女の耳があらわになるということは、彼女自身が見せようと思ったということである。……なにがあったのだろうか。メイドとして動いているエルキドゥは流石に過剰戦力だし、テファの成長を見守りたいからと不干渉に徹するらしく、今はベアトリスの親衛隊である騎士団と謙信、信玄、ジャンヌが睨み合っている状態らしい。……ほんと、何があったんだ?

 

・・・

 

 ――さかのぼること一時間前。テファは鏡の前である決意をしていた。今日は貰った首飾りを付けずに、母親の残した伝統的なエルフの衣装で授業に出て、みんなに自分がハーフエルフだということを明かし、隠すことなく仲良くなってくれるようにお願いしようと思っていたのだ。ギルやルイズ、今まで出会ったこの国の人たちはエルフと言うことに恐れずに仲良くなってくれたので、最近の人たちはしっかりと内面を見て仲良くなってくれるのだと思ったのだ。今までの持ち上げてくれるようなみんなの言葉には少し戸惑ってしまうが、こうして仲良くなろうと話しかけてくれたりするのなら、人と耳が違うくらいで何かあることはないだろう、と。

 

「うん、よしっと。……上手くいくよね、お母さん」

 

 久しぶりに引っ張り出した思い出の衣装をぎゅっとにぎり、テファは鏡の中の自分を力強い瞳で見つめた。この準備をしていたせいで少し遅れてしまったが、今から行けば授業には間に合うだろう。

 

「少し急がないと……」

 

 そうしてテファは教室にたどり着き……。そこで、『エルフ』に対する恐怖と敵対心を知るのだった。

 

・・・

 

「父を……父を侮辱しないで!」

 

 エルフの耳を見せた後。混乱した教室中を治めようとしたが、とある一人の女生徒の一言に、激昂してしまった。その瞬間、教室の窓ガラスが割れ、その女生徒……ベアトリスの私兵である空中装甲兵団が飛び込んでくる。

 

「おっと、そこまで行くなら私たちも出ようじゃないか」

 

「えっ?」

 

 突然聞こえた声に振り向くと、教室の扉を蹴破って私の前に誰かが飛び込んでくる。

 

「あなたたちは……」

 

「ギル……おっと、オルレアン辺境伯配下騎士団、セイバー」

 

「同じくライダー」

 

「えー……その名乗りやらなきゃダメ……? ……うぅー、同じくキャスター……」

 

 ギルさんの召喚したサーヴァントさんたち……そのうちの三人が、私をかばうように立ってくれている。それだけで、こうして囲まれている状況でも安心することができた。

 

「なによあんたたち。そこのエルフをかばうの?」

 

「もちろんだとも。はっはっは、斬り合うならお相手するが?」

 

 そう言って、セイバーさんは腰の刀を抜き放つ。ライダーさんは突入時にはすでにあの赤い鎧を纏っていて、キャスターさんはいつも使っている鏡を構えている。……教室、消し飛んだりしないよね……?

 

「私に盾突くってことはクルデンホルフ大公家に盾突くってことよ! それにエルフを庇うっていうのなら、あなたたちのことを異端審問にかけてもいいのよ!」

 

「はっはっは、異端審問だとさ。それ、ウチのジャンヌの前では言わない方が良いよ。地獄みるからさ」

 

「『くるでんほるふ』だか『食う寝る遊ぶ』だか知らないが、やりたいならかかって来い。我らはそれで恐れたりはしないさ。それとも何か? 竜に乗るまで待ってほしいというのか?」

 

 赤い鎧に身を包んだライダーさんは、周りを取り囲む兵士たちをあざ笑うように挑発する。それで兵士さんたちは少し苛立った様子で力を籠めるのが見えた。

 

「まぁよい。ここでやってもいいが、教室を破壊しては流石に申し訳がたたん。貴様たちの天幕に行ってやる。そこで待っているぞ」

 

 ライダーさんはそう言うと、私を抱えて割られた窓から飛んで行ってしまう。わ、わ、わ、結構早くて怖い……。

 

「あー、もう。バカは考える前に行動するから……まぁいいや。待ってるよ、食う寝る遊ぶ大公家のなんとかさん」

 

「……はーっ。なんでこんな茶番に付き合わなきゃ……くっそ、壱与め……じゃんけんだけは強いんだから……」

 

・・・

 

「あらよっと。お邪魔するよー」

 

「な、なんだ貴様……ぐあぁっ!?」

 

「お、おい、あれってエル……ぐえっ」

 

 たくさんの天幕が張ってある、空中装甲兵団の駐屯地。そこに降り立ったライダーさんが、何事かと出てきた兵士さんたちを手のひらからでる光線で吹き飛ばしたりして、そこにセイバーさんたちも追いついてくる。それからまた、教室での再現のように、再び取り囲まれる私たち。……これ、異端審問とかの前にそもそもベアトリクスさんのお家との問題とかになったりしないのかしら……?

 それから少しすると、教室にいた兵士さんたちや、ベアトリクスさん。そして、騒ぎを聞きつけたのか多くの学生さんたちもやってきました。

 

「まったくもう、騒ぎを大きくしかしないんだからなぁ……」

 

「……わらわ、もう帰りたいんだけど……帰っていい?」

 

「だぁめ、この件は解決しないとでしょ」

 

 私たちを取り囲んでいる兵士さんの間から、ベアトリクスさんがやってくる。

 

「はぁ、はぁ……まったく、急に飛び出して……まぁいいわ……アンタを異端審問にかけようと思っていたけど……ここで故郷の田舎に帰るというのなら、見逃してあげてもいいわ」

 

 尊大な態度でそう言ってくるベアトリクスさんの目を見て、私は気づいてしまった。……彼女は『エルフ』が憎かったり、何か怒りを抱いていたりするわけじゃない……彼女の目には、私を陥れられるという『歓喜』のようなものが浮かんでいるのが見えた。……彼女はきっと、私がエルフだとかはどうでもいいのだ。それはきっかけに過ぎない。私が気に入らなくて、どうにかして排除したくて、そこに私がエルフだというのが発覚したから、それをきっかけに追い出したいだけ。だから、『田舎に帰れ』と私を脅しているのだ。

 

「あなた……かわいそうな人なのね」

 

 つい、そう言ってしまった。自分の思い通りにならないのが嫌で、今までこうして力で自分の望みをかなえてきて、今も癇癪のように私を責め立てている。

 

「自分の思い通りにならないと気が済まないなんて……子供なのね、あなた」

 

 私もたぶん、怒っていて冷静じゃない。いつもならこんなことは言わないのに、どうしても口を突いて出てしまったのだ。

 

「――っ!」

 

 ベアトリスさんの顔が、真っ赤になる。

 

「それに私、ずっと外の世界が見たいって思ってたの。それでこうして協力してくれる人たちがいる。それなのにあなたみたいな卑怯者に帰れと言われて帰ったらみんなに合わせる顔がないわ」

 

「……空中装甲兵団! お望み通り、審問して差し上げて! 空中装甲兵団(ルフトパンツァーリッター)前へ(フォー)!」

 

 怒りのままに告げられた命令に、兵士さんたちが鎧の重厚な音を立てながら前に出てくる。一番立派な格好をしたお髭の人が、笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「たかが三人で何ができる。……けがで済むと思うなよ」

 

「はっはっは、怪我なんかしないからその心配は無用だよ。かかっといで」

 

・・・

 

「ほい。一つ。ほい。二つ。ほい。三つ」

 

 どう、と音を立てて、兵士たちが倒れていく。兵士の間を駆けるセイバーが刀を振るうたび、糸が切れた人形のように兵士たちは意識を失っていく。流石にそこまでする気はないのか、全員峰打ちで気絶しているだけのようだ。魔法も飛んでくるが、そもそも密集している兵士の間をかく乱させるつもりで駆け抜けているため、同士討ちを恐れてあんまり放たれていないので、意識はしていないが。

 

「しっかしまぁ、よっと。どこからこんなに、えいっ。連れてきたんだか、よいしょっ」

 

 足を払い、腕を捻り、鞘で打ち、柄で殴って戦闘不能にしていくセイバー。首を飛ばした方が早いんだけどな、と心の中でひとりごちるも、そこまで騒ぎを大きくすることもないと自分を納得させ、運よく飛んできた魔法を刀で打ち払う。前衛に向かないキャスターを防衛に置いていると言っても、防衛対象であるテファに攻撃でも当たっては意味がない。

 それはそれとして、主が女の子の動きを予想できずに先手を打たれるなんて珍しいなぁ、とも思った。こんな学生程度、手のひらでコロコロしてテファの成長の糧にでもしそうだけど……なんて考えているうちに、信玄の方も制圧が終わったようだ。兵士も向かってこなくなったし、魔法も飛んでこなくなった。周りで見ている学生たちの盛り上がりも相当なものになっているので、この辺で刀を収めるか、と一息ついた。

 

「まだやるかい? ……残りは君くらいのものだけれど」

 

 一人も切っていないけど、癖で刀を血振りして、そのまま今回の首魁……ベアトリスに向けて切っ先を向ける。うぐ、とあたりを見回すが、唯一の味方である兵士たちは数人しか立っていないし、その立っている人間も無傷ではない。

 

「く、馬鹿にして……!」

 

 そう言って呪文を唱え、杖を振り下ろそうとするが……。

 

「その辺でやめときなさい。貴人ならば引き際も重要よ」

 

 かなり出力を絞った魔力の光線が、その杖を飲み込んだ。セイバーは目線だけをキャスターに向けると、それに気づいたのか肩をすくめた。『この辺がギリギリでしょ』と言っているように感じたので、それもそうか、とセイバーは刀を鞘に納めた。

 そのタイミングを見計らっていたかのように、新たな人物の声が聞こえてくる。

 

「どうやら決着はついたようだな」

 

「オルレアン辺境伯様!」

 

 テファもその名前を聞いて、はっと振り返った。全員の視線が、オルレアン辺境伯……ギルに集まった。

 

「さて、何か申し開きはあるか?」

 

 自然と人込みが割れて出来た道を歩き、一直線にベアトリスの下へと向かったギルがそう言うと、いまだに納得いっていないのか、キッと睨み返される。

 

「オルレアン辺境伯……だったかしら? 今は異端審問中よ。あなたも処分されたいのかしら?」

 

「はっはっは! それは困るな。しかし俺は異端審問とやらに詳しくはない。そこで、一番詳しそうな人物に来てもらった。さ、こっちだ」

 

「……ふん。せっかく気持ちよく寝てたのに……で? あんた誰?」

 

 新たに表れた桃色ブロンドの少女……ルイズからぶっきらぼうに聞かれて、ベアトリスは『ぷっつん』した。

 

「私はベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ! 我がクルデンホルフ大公家はトリステイン王家とも縁深き、れっきとした独立国よ! この無礼はアンリエッタ女王陛下に報告しますからね!」

 

「はぁ? クルデンホルフって……ゲルマニア生まれの成金の一つじゃない。……こんなのの仲裁に私連れてきたわけ?」

 

 後半は恨めしそうにギルを見上げながら、ルイズはため息混じりに杖で自分の肩を叩く。

 

「な、成金と……言ったわねえぇ……!?」

 

「家の名前を持ち出して威圧しようなんて成金しかやらないわよ。威厳と誇りを感じられないわね」

 

「……あなたの名前を伺ってなかったわね! オルレアン辺境伯の配下の方かしら!?」

 

「……ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」

 

 まくし立てていたベアトリスが、はたりと止まった。対外的には『オルレアン辺境伯』として行動しているギルが連れてきたものだから配下の伯爵家か子爵家かと思い込んでいたが、その家名を聞いた瞬間思考が止まってしまったのだ。

 

「公爵家の……?」

 

「それ以外にヴァリエールはないわよ」

 

 ベアトリスはその言葉に、トリステイン王家とヴァリエール公爵家には敵対するなと言っていた父の言葉を思い出したものの……ここまで頭に血が上っていては止めることなどできなかった。……だから、ここで切り札を切ることにした。

 

「そう……。ですが、ラ・ヴァリエール先輩。今私は異端審問中なんです。それに水をお差しになるなんて……オルレアン辺境伯ともども、異端の一味という解釈でよろしいのかしら?」

 

 胸を張ってそのまま言葉を続ける。

 

「私はクルデンホルフ大公国の司教の資格を持っているんです! そこのエルフが我々と同じ信条なのか確かめるためにこれから湯に入ってもらうつもりだったの!」

 

「……異端審問? 司教? ……アンタ、免状は?」

 

 ルイズは、魔法が出来ない(学院基準)だけで、その他知識、礼節作法、貴族として必要なものはすべて叩き込まれている公爵家令嬢だ。異端審問に必要なものも一通り頭に入っているが故の質問が、当たり前に出てきた。

 それに対して、ベアトリスは勢いのままで言っただけだった。エルフならば異端審問だろうと適当にでっち上げたもので、トリステインの貴族なら細かいところはわからないだろうと思っていたのだが……。

 

「その……ええっと、実家にあるのよ!」

 

 ルイズの目が、細くなる。関係ないのに隣に立つギルは少し背筋が寒くなった。冷静なルイズは、今の言葉からほころびを見つけたようだった。

 

「あんた、司教ってウソね」

 

「えっ? ウソじゃなくってよ! な、なにをおっしゃるかと思えば……はんっ!」

 

 ルイズと目を合わせたくないのか、ベアトリスは鼻を鳴らすように顔を背けた。腕組みをして、「私不機嫌です」と言うのを前面に出した態度を取った。だが、ルイズはそこで手を緩めたりはしない。

 

「異端審問には司教の免状とロマリア宗教長の審問認可状が必要よ。それも知らないの? ……どういうこと?」

 

 そこで、周りの生徒たちもそういえばと冷静になった。先ほどまでは怒涛の展開で流されていたが、何人かはきいたことのある話だったからだ。

 そうとなればプライドの高いトリステイン貴族たちは、われ先とベアトリスに詰め寄っていく。

 ベアトリスを守る兵士も杖もすでになく、絶体絶命の立場になり、ベアトリスは震えながら膝をついた。トリステインでは司教を騙ることは火刑だと声が上がり、もうこの場で吊るされてもおかしくない状況になったが……。

 ととと、と軽い足取りでテファがベアトリスに駆け寄った。進路上にいたギルとルイズは、道を開けるようにすっと横にずれる。

 

「テファ、君の想いを伝えるが良い」

 

「……はいっ」

 

 ギルにそう言われたテファは、ベアトリスの前にそのまま進み出る。ひぅ、と小さなうめき声をあげ、尻餅をついて少しずつ後ずさるベアトリス。腰を抜かしているため、そうやってしか逃げられないが、その背も生徒の壁に遮られた。周りの生徒も、ベアトリスも、テファが何を言うのか注目する。ベアトリスはこのまま殺されてもいいほどの侮辱をしたのだ。何をされても文句は言えないだろう。

 ――だが、テファは膝をつき、ベアトリスの手を取った。

 

「……お友達に、なりましょう」

 

「は、はぁ……?」

 

 その言葉に、覚悟を決めて目をつむっていたベアトリスも、キョトンとした表情を浮かべた。周りの生徒も同様に目を丸くして、ずっこけそうになっていた。先ほどまでベアトリスを逆に処刑してもおかしくなかった空気だったのが、急に弛緩したからだ。

 周りを囲んでいた生徒の一人が、呆れたように口を開いた。

 

「み、ミス・ウエストウッド? あなたには彼女を裁く権利があるんですよ?」

 

 そんな言葉に、テファは首を横に振った。

 

「ここは学院でしょう? 学び舎で裁くの裁かないのなんて、おかしいわ」

 

「で、ですが……!」

 

「それに私は、ここに『お友達』を作りに来たのよ。敵を作りに来たんじゃないわ」

 

 そこまで言われると、もう誰にも何も言えなかった。あたりがしんとした沈黙に包まれる中……それを破ったのは、ベアトリスの泣き声だった。

 

「ひ、ひぃ、ひぅ……ひっぐ、ひぐ……」

 

 先ほどまでの絶望から一転し、緊張の糸が切れて安心した瞬間、涙がこぼれてきたのだろう。

 

「う、うぅ、うえぇ~~~ん……!」

 

「よしよし、泣かないの」

 

 優し気な微笑みを浮かべて、テファがそんなベアトリスを抱き寄せる。孤児院で子供たちの面倒を見てきた彼女には、慣れたことであった。そんな場面に当てられて、生徒たちは全員気まずそうな表情を浮かべる。子供の我儘と言えばそれまでで、これ以上糾弾するのもどうかと思ってしまったのだ。

 

「終わったようじゃの」

 

 学院長のオスマンが、白いひげをこすりながら現れた。そのまま騒ぎの中心であるテファの元まで歩み寄ると、彼女の肩に手を置いて、ほぼすべての学院生の前で、口を開いた。

 

「あー、良いかの? 彼女はエルフではあるものの、この学院で学びたいと故郷を出てきたのじゃ。その覚悟に学ぶところは大きい。良いか諸君、学ぶということは命がけじゃ。己の信じるところを貫き通すためには、時に世界をも敵に回さねばならぬこともある。努々、忘れるでないぞ」

 

 今頃出てきて何言ってんだろう、と言う言葉を懸命に飲み込んだ生徒たちは、とりあえず頷いた。

 

「しかし、いつも命がけでは息も詰まるじゃろう。こうしたケンカも息抜きの一つかもしれんが……人死にが出てからでは遅いでな。それに面倒でもあるから、こんな騒ぎはこれきりにしてほしい。……良いか? 彼女の後見人はここにおるオルレアン辺境伯、そしてこのワシじゃ。その上ティファニア嬢は、女王陛下からよしなにと頼まれた客人でもある。今後彼女に……血筋について何かしらの講釈を垂れたいという生徒がいたら……それこそ王政府を敵に回す覚悟でのべよ。よいかね?」

 

 続けて放たれたその言葉に、生徒たちに一気に緊張が走った。女王陛下によしなに頼まれた、と言うのはそれほど大きい事なのだ。女王陛下ゆかりの人物と言われると現金なものだが、彼女に混じったエルフの血も、唯一無二の美点に見えてくる。

 そもそもその美しさにほとんどの生徒が好意的に見ていたのもあって、エルフへの嫌悪感よりも、彼女自身への好意が上回ったのだ。

 そこからは、また先日の焼きまわしのように、テファに話しかけるもの、握手を求めるものなど、再び彼女はワイワイと生徒たちに囲まれてしまった。だが、今回はテファのことを知ったうえで仲良くしたいと言ってもらえているからか、テファも感動した面持ちでみんなの握手に応えていた。

 

「さて、仲直りも済んだようじゃし、怪我人の手当てをして、ここの片づけをせんとな。なんじゃこの穴ぼこは。……ああ、ええと、彼女か」

 

 オスマンの言葉に、キャスターが「文句でもあるのか」と言わんばかりに睨みつけてきたため、オスマンは語調を弱めた。

 そこからは、生徒たちが兵士たちの傷の手当てや医務室への運搬を始め、だんだんと学院に帰っていった。

 

「助けが遅くなってすまなかったの。普通に助け船を出しては中々真の友と言うのは作りづらい。特にお前さんのような、特異な生まれのものにはの」

 

「いえ……」

 

 テファは顔を伏せた。人見知りしてしまったからだ。

 

「俺からも謝罪を。オスマンとマスターに声を掛けて、ギリギリのところまでテファ自身で対応させてたんだ。ごめんな」

 

「あ、う、ううん。セイバーさんたちも助けてくれたし、いつかはこうしてみんなに言いたかったから……大丈夫。ありがとう」

 

「はぁ……まったく、こんなのは今回だけだからねっ。これからトリステインで生きていくんだから、こういうときの対処も学ばないと。わかった?」

 

「わ、わかりましたっ。え、えへへ……助けてくれてありがとうね、ルイズ……」

 

 テファもそれなりにルイズと接しているからか、今の言葉が突き放したようなものではなく、ちょっと遠回りな激励だと理解した。

 

「うむうむ、良き哉、良き哉。……そしてその、ティファニア嬢に一つ確認したいことがあるのだがね?」

 

「は、はい……」

 

「これは学術的に極めて重要な意味を持つ質問じゃ。ワシも命をかけて君に聞くのじゃ」

 

「は、はいっ……!」

 

 オスマンの凄まじい熱気に、テファは思わず背筋が伸びていた。オスマンは、ゆっくりとテファに……もっと言うと、そのあまりにも大きい胸部を指さした。

 

「それは……『ホンモノ』かね?」

 

「えっ?」

 

 真剣な顔でそんなことを聞かれてしまったので、テファも恥ずかしいのを我慢して答える。

 

「は、はい。そうです」

 

「もっとはっきり、この年寄りに聞こえるように言ってはくれんかの」

 

「マスター」

 

「言われずとも。『爆発(エクスプロージョン)』」

 

「おっぶ!?」

 

 やり取りを聞いていたギルに乞われたルイズが、小さめの威力で魔法を放つ。小さいと言っても人の近くで唱えたものだ。オスマンは数メートル吹っ飛んだあとひっくり返って気絶した。それを、他の教師たちがずるずると引きずりながら、運んでいった。

 

「……いいか、テファ。オスマンの言うことは九割聞き流すんだ。良いね?」

 

「えっ? で、でも、学院長だし……そんなことできな」

 

「いいね?」

 

「あっ、うん、はい、わかりましたっ。……きゅ、急に怖いわっ。でも、強引なギルも……イイ、かも……?」

 

 こうして、今回の騒ぎは収束したのだった。影響としてはそれほどなく、テファ自身が耳を隠さなくてよくなったことと、空中装甲兵団の九割が入院したこと、そしてセイバーやライダーの大立ち回りのおかげで、水霊騎士団の中や一部男子生徒の中で武術、体術ブームがやってきたくらいのものであった。

 

・・・




「んあ? 『ホンモノ』か。じゃと? あったりまえじゃろがい! 水素に炭素、窒素に酸素、ナトリウムマグネシウムリン硫黄、塩素カリウムカルシウムに鉄! あとは魔力と神秘とお砂糖スパイス、あとはすてきなものをいっぱい! それでわしのこの美少女ぼでーはできとる! は? ロリ体型にしたのは何故か? ばっかもん! そんなものワシだってなりたくなかったわい! じゃがの、作ってる最中にあやつが……洛陽仮面が余計なものをいれるから……くそぅ、初代マスターだかなんだか知らんが、余計なことをしおってからに……。じゃがまぁ、そのおかげか小僧好みの体にはなったからの。次の目標はワシの体内で小僧との子供を錬成じゃ……くっくっく、英霊王とこの作られた身体の間に子供が出来れば、それは生命の錬成と言っていいじゃろうて! 今から楽しみじゃ! ……の、のぅ? ちなみに初めては相当痛いと聞くのじゃが……ワシ、大丈夫かの?」


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