ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
「う~~む、ひどい目に合った」
今、首を抱えて全力疾走している私は他天体から来たごく一般的な異星体。強いて違うところを上げるとすれば原生知性体に乗り移ってるってことかナ。
「いやはや、ふざけている場合ではないな」
切り取られた切断面をくっつけ、細胞を増殖させて繋げる。まったく、これだから有機生命体は。それにしても切れ味が良いな。接着するのにとても助かる。さて、それにしても一度落ち着く必要があるな。この体に入ったからか、この星の影響を受けたか、少しだけ出力が落ちている。それでもこの知的生命体がそれなりに強靭だからか、ある程度は力を振るえるようだが……。
意識を集中させると、脳に記憶されている電気信号を操って、記憶を覗かせてもらう。なぜあそこにいたのか、どうしてあのサーヴァントと敵対していたのか……。
「ふむ、なるほど。誘拐しようとしてたのか。……人類ってのは変なこと考えるよなぁ」
まぁ我々も一つの意思の下集まってるってわけじゃないしな。利害が一致したからここにきてるわけで。しっかし、どうするかなー。ガリアとかいう国のジョゼフだかいう王の指示でここに来てたらしいが……失敗したって言いに行かないとダメかなー。ダメだよなー……私だったら来なかったらキレるもんな。でも私はこういう時逃げたい。
「けどまぁ、行くしかないよなぁ……気分下がるわぁ……」
ふはー、と長い溜息をついて、私は歩き始める。……色々と、立ち位置を考えないとな。じゃないと、色々とどやされる。
「よっと。……あ、光にもなれないのか」
いつも通り動こうとするが、そういえば今は人類の体だったと思いなおす。……面倒だが、捨てるわけにもいかない。この星に私イコールこの肉体と認識されている今、この体から抜け出したりこの体が消滅したりするとそれに巻き込まれて私の核もそれなりのダメージを受けてしまう。こちらの言葉でいう『一心同体』と言う奴だ。もうこの肉体の人格は消えてしまっているしね。本当の意味で『一心』なわけだ。
「面倒だなー。あ、飛べる」
これでガリアまで行くかー。ジョゼフって人、怖くないといいけどな。
・・・
「さて、予想外なことも起きたけど……やること自体は変わらない。タバサの母親を助けに行く」
飛行船に戻った俺たちは、その中の一室にある会議室でこれからのことについて細かいことを打ち合わせていた。と言っても、ほとんどが気心の知れた身内ばかりだ。ある程度の流れを伝えて、あとはそれぞれに任せた方がうまくいくので、そこまで細かいことを指示することはないが。
「でも、どこに連れていかれたかとか分からないでしょ? どうやって助け出すのよ?」
「簡単だ。聞けばいい」
「は? ……嫌な予感がするけど聞いてあげる。誰に?」
「一番知ってそうな人間にだよ。つまり、『ガリア王』ジョゼフにだよ」
すんごい伸びあがる困惑の声が、マスターの口から出てきた。文字にすると『はあぁぁぁぁぁ?↑』と言う感じだ。矢印が大事。
まぁ敵の大将に直接聞きに行くとかアホの極みだと思う。
「ま、直接聞き出せたらそれはそれでいいだろうけど……それは一番上手くいったらだな。ほら、これがあるだろ」
そう言って取り出したのは、何かに使えるかもしれないといって渡された、王女アンリエッタからの書類だった。アルビオンでの港湾使用許可に関する書類で、これを『オルレアン辺境伯』である俺が持っていくのは不自然ではないだろう。
「で、そんな敵地に直接乗り込む役目なんだが……もちろん俺は行くとして、マスター、一緒に行ってくれるか?」
「え、わ、私?」
「そうだ。ヴァリエール公爵の娘で、表向きには『ゼロ機関』とやらのメンバー、そして……ガリアが狙う重要人物だ。ジョゼフも何かしらの反応を返してくるかもしれない」
「……そう言われると、確かに。タバサもそうだけど、私も狙われてたのよね……」
「正直とても危険だし、絶対に守り抜くと誓うけど……どうする?」
俺がそう効くと、マスターは一瞬うつむいた後、勢いよく顔を上げた。その目には、力強い光が灯っているように見える。そして、俺の予想通り、しっかりとした口調で答えた。
「もちろん行くわ。人のことを攫おうとした無礼者に、一目会ってやろうじゃないの」
「よし、ならまずは先ぶれを出さないとな。トリステインを背負って動くんだ。突かれるところは少なくするに限る」
それから、向こうに行く際の人選をしていく。公爵家の娘に、辺境伯だ。それなりの人数を連れていないと、不自然だろう。
かといって、あまり多すぎても向こうで身動きが取れなくなる。身の回りの世話をする人間として、四人ほど連れていけばいいだろう。一人は自動人形にするとして……あとの三人か。
「とりあえず、小碓は確定だな。アサシンは必要だ」
「はいっ。メイド服は着慣れたものですよぉ。ふふっ」
メイド服を着ることに何の抵抗もないのは凄いな……。
「あとは……向こうでカルナが出てくるか否かで変わるんだよな……どう思う、カルキ」
「→ギル。たぶん出てこない。向こうもトリステインとの争いの原因となるワルドとのつながりをこんなところでは出してこないと思う」
「そう言われるとそうだな。……さて、ならカルキは留守番だな。空を守るなら、空を往けるサーヴァントが必要だ」
「→ギル。りょーかい」
「なら、身辺を守れるってことで謙信と、ジャンヌで行くか」
この二人なら乱戦だろうとなんだろうとマスターを守り切れるだろう。よし、決まりだ。
「なら、決行は明日。それまで少し休もう」
そう言って会議を締めると、各々それぞれの行動に移っていく。俺もマスターと少し息抜きでもするかなー。
なんにしても、明日の今頃には何かしらの答えは出るだろう。気張っていくぞ!
・・・
「なに?」
今日も今日とていつも通り。黒幕然とした我が王は、狂人ごっこと箱庭いじりで忙しそうだ。まったく、こちらに仕事ばかりさせて、本人は放蕩の限りを尽くすなど、王なんてもんはいつでも自分勝手なものだな。一度どこかで王だけで集まって飲み会でもしてもらいたいもんだ。そこでどれだけの王が最後に立っていられるか、見ものだと思うがな。
だが、先ほど入った報告で楽しそうだった表情が少し歪んだ。ふむ、こういう表情もいいものだ。人間大体はギャップにやられる。不良が雨の日に子犬に傘をさすように、清楚な美少女があらわにする痴態に、いつも冷静な男の激情に、ふざけてばかりいるピエロの真面目さに。人はいつでも、その落差があればあるほど、万人受けはせずともその心を撃ち抜かれてきた。書き手としても、いつも同じ表情、同じ言葉を吐くような人間よりは書きやすい。話に緩急がつくからな。まったく、そんな気分ではないというのに、今日は筆が進んでしまいそうだ。
「それは真か? ……もう一度言ってはくれぬか」
そして、青髪の美丈夫は伝令に来た兵士に再び報告するように言う。兵士はこちらから見ても可哀想なくらいに緊張して強張りながら、先ほどの報告を繰り返した。
「は、はっ! トリステインより、オルレアン辺境伯、およびヴァリエール公爵家よりルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール様がいらっしゃると、先ぶれが来ました!」
「なるほど。……なるほど。うむ、わかった。下がってよい」
「はっ!」
逃げるように去っていった兵士に一瞥もくれずに、ジョゼフは箱庭にある駒を動かした。
「ふ、ふふ、ふはっ。聞いたか、キャスターよ」
「ああ、聞いたとも。それで? 俺に何か意見でも求めたいのか?」
「いいや。いいや、違うとも! これは予想外だったと言いたいのだ! この私の予想を上回る一手を指してきた! それが楽しいと言いたいのだ!」
そう言って、高笑いを始めるジョゼフ。こんなのが我がマスターとはな、と何度目になるかわからないため息を一つ。こうなると長いのだ。狂人ごっこ狂人ごっこと馬鹿にしているが、本当に狂人なのかもしれないな、と馬鹿笑いする自分のマスターを見る。
「まさか、あのエルフを打ち倒し、ここに来るとは! 目的はアレの母親か? くっくっく、居場所がわからぬから敵に直接聞くなど、普通の胆力では思いつかぬし実行せん! これほどの指し手……まさかヴァリエールの娘が……? いや、そのサーヴァントか! キャスター! お前はサーヴァントの正体を知っているのだったか!?」
「やかましい。そんなに大声を出さなくても聞こえているぞ愚か者め。そして答えはノーだ。宝具の一つも見ずに正体なんかわかるものか。俺は人間観察が得意なだけで、未来予知ができるわけではないのでな」
「くく、さぞ高名な英雄だったのだろう! そんな傑物とやり合えるとは、幸運だったな! エルフと引き換えに得られたとは思えん成果だ!」
さっきから興奮しっぱなしで、その内頭の血管でも切れて死ぬんじゃないかと少しだけ心配になってくる。物語を書ききるまでは死なないでほしいものだ。途中で死なれては、俺の仕事が無駄になってしまうからな! 俺はただ働きにあまり文句は言わないが、無駄になる仕事は絶対に嫌なのだ。
「さてさて、どう来るかな。俺が会った方が面白いか? いや、他の奴に対応させて……うぅむ、どの手も間違いかもしれないと思ってしまうな! こんな奇策、普通は食らわんからな!」
あっはっは、と楽しそうに笑う自分のマスターを見飽きたので、部屋に戻ることにする。どうせ奴とその『指し手』とやらの会見に同席はできんだろうしな。周りに侍るやつらも俺が出ていくことを察したのか、扉を開き、一礼してくる。こんなガキに媚びへつらわないといかんとは、同情するよ。
・・・
「よし、登城の許可が出たぞ」
貴族としての正装に着替えた俺と学院の制服に身を包んだマスターは、背後にメイドを侍らせて馬車の中で待機していた。今日の朝早くに用意を済ませた俺たちは、一応の偽装と言うことでこうして城下町の手前で馬車を用意していたのだ。
ちょっと待ち過ぎてこっくりこっくりと舟をこいでいるマスターを起こして、先ぶれとして行ってくれていた謙信に礼を言う。
「さて、どうなるかな」
ここからは、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応していくしかないな。つまり、命を懸けた行き当たりばったりと言うことだ。
馬車は城門をくぐり、しばらく走ると城の入り口で止まる。俺の対応を任されたのであろう執事の案内を受けて、待機室へと向かう。ここで待機している間に、ガリア側の対応する人間が準備したりして、それから俺が呼ばれるはずだ。
しばらくして、執事が入ってくる。準備ができたらしい。礼儀作法を意識しながら、執事のあとをついていく。
「こちらでございます」
そう言って連れてこられた扉の前は、おそらくだが玉座の間への扉ではないだろう。まぁ急に来た他国の辺境伯なんて、そんな扱いである。大概はこうして別室で外交官なんかと用件の確認をされたりなんだりして、数日滞在して帰る、みたいなのが基本だろう。だから、ここで色々と策を弄し、なんとかガリア王ジョゼフまでのつなぎを作らなければならない。
外交官がどんな人物かは調べられなかったが、話していれば糸口くらいはつかめるだろう。そう願うしかない。
「トリステイン王国アルビオン辺境伯、ギルバート殿が参られました」
「通せ」
なかなかに威厳のある声が、扉の向こうから聞こえてきた。……外交官にしておくには惜しい威厳である。いや、外交官だからこそ威厳がなければならないのか。舐められたら終わりだからな、国どうしは。
「よくぞ来た。私はガリア王国国王ジョゼフである。遠路はるばる、ご苦労」
部屋に入った瞬間に立ち上がって迎えてくれたのは、まさかの目標であるジョゼフであった。隣でマスターが硬直しているのを気配で感じたが、ここで気圧されないでほしい。これからいろいろ聞き出さなければいけないのだ。とりあえず隣にいてもらって、基本は無言を貫いてくれとは伝えてあるが、どこまで守ってくれるかなぁ。マスター、挑発に死ぬほど弱いからな……。
「これはこれは。国王自らの歓迎とは思わず、驚いてしまいました。失礼を」
「いやはや、これは私が悪い! ギルバート辺境伯は何も悪くはないとも」
そう言って笑い飛ばすように答えたジョゼフに、なんとか硬直した言い訳はできたか、と心の中だけで安堵のため息をつく。……なんでマスターの驚いている気配が大きくなったんだ? なんか俺の方を見ているような気もする……。
「それで、さっそく話を聞こうか! アルビオン辺境伯が来たということは、大体想像はつくがね! 港湾の権利関係の話だろうか」
「その通りです。湾港の使用権利に関しての細かいことを詰めようと思いまして、こちらに草案を持ってきました」
俺はそう言ってアンリから渡された港湾使用権利詳細草案と書いてある書類をテーブルの上に置いた。この会見室は真ん中にテーブル、それを挟むように高級そうなソファーが置いてあるというもので、壁には暖炉なんかもおいてあり、その上に飾られた剣やら杖やらは中々価値の高そうなものに見える。
「うむ、確かに受け取った。精査してまた返答しよう。そんなに時間はかけぬつもりだが……辺境伯殿はお時間はあるだろうか?」
「ええ、もちろん。アンリエッタ女王からも、答えを貰ってくるまで帰ってくるなと言われていまして」
そんなことはあの優しいアンリは言わないが、ここはちょっと女王らしく冷酷な面を作らせてもらおう。ごめんアンリ。帰ったら謝る。
「なんと! あの可憐な華のようなアンリエッタ女王がそんなことを! はっはっは、立場は人を変えるということかな!」
ひとしきり笑ったジョゼフは、ならば、と言葉を続ける。
「部屋を用意しよう。急ではあるが、歓待の宴も催したい」
「ありがたく思います。……ああそうだ。我らの方でも使用人を用意しているので、城内を歩く許可をいただきたい」
「うむ、あとで顔合わせをさせるとしよう。よいな、じい」
「は、もちろんでございます」
扉の位置に控えていた老執事が、年齢を感じさせない礼を見せ、ジョゼフの言葉に答えた。同時にメイドの一人が礼をして退室したので、たぶん準備に向かったのだろう。あちらは黄金人形と謙信たちに任せるしかないか。
「それでは、また夜に会おう! トリステインから白の国アルビオンへと行った男だ! 楽しい話を期待しておるぞ!」
「そこまで期待されては、何かお話を用意しておかねばなりませんね」
最後まで高らかに笑ったジョゼフが退室していくのを見送り、俺たちも退室する。色々と聞きたいこともあるだろうマスターがうずうずしているが、まだ待ってほしい。俺たちを滞在用の部屋へと案内する執事やメイドがまだ周りにいるのだ。
これまたしばらく歩き、一つの部屋の前で止まった。扉からかなり精緻な彫り物がしてあって、ここだけでもかなりの金がかかっているであろうことが察せられる。他国の使者やらそれなりに歓待する必要のある人物を泊める為の部屋なのだろう。
「辺境伯様はこちらのお部屋になります。ヴァリエール嬢については、その対面のこちらになっております」
執事が俺の部屋を示し、その対面であるマスターの部屋の前にはメイドが受け入れの準備を完了させていた。
「ありがとう。それじゃあ、ミス・ヴァリエール、何かあれば私の部屋まで」
「え、あ、は、はい。わかりました」
急に他人行儀になった俺に戸惑ったマスターが向かい側の部屋に入っていく。俺も執事が開けてくれた扉から部屋に入り、一通り部屋を見て回る。
「我々使用人はいつでも外に控えております。何かあれば、お声かけください」
「なにからなにまで助かるよ。あとでこちらから連れてきた使用人の顔を見せておきたいから、その時に呼ぶよ」
「かしこまりました」
「ああ、あと」
「はい、なんでしょう」
「少しうるさくするかもしれないが、気にしないようにと言っておいてくれ。理由は……まぁ、男ならわかるだろう?」
俺が少しふざけたような笑みを浮かべながらそういうと、まだ若いだろう執事は少し考えた後、はたと思い至ったらしい。再びかしこまりました、と頭を下げた。
「それじゃあ、少し休むよ」
俺がそう言うと、執事は一礼して部屋を出ていく。……なにも俺が絶倫王だからこの注意をしたわけじゃない。こうしておけば、何かあった時のごまかしがきくというだけだ。それに、俺の連れてきたメイドたちは見目麗しい美女美少女ぞろい。……一人美男子だけど。
貴族なら気が多いのも不自然ではないだろ。彼らも彼女たちを見ればそれはわかるはずだ。
そんなことを考えていると、コンコンと扉を叩かれた。許可を出すと、部屋の中へ執事が入ってきた。
「ギルバート辺境伯様。ヴァリエールさまがお見えです」
「ああ、通してくれ」
うちのマスターが来たのを取り次いでくれたらしい執事に答えると、そのまま扉を開けてくれる。扉の向こうにはマスターがいて、メイドに案内されて部屋の中へとやってきた。
「ありがとう。あとは二人にしてくれるか?」
「はい」
そう言って出ていく瞬間、執事の顔になんか苦々しいというか、ちょっとだけ負の感情みたいなものが浮かんだのを、俺は見逃さなかった。……これは、何かとっかかりになるか……?
考えを巡らせながら、マスター以外の人間が出ていくのを見届ける。
「いや、色々と突発的なことがあってすまないな、マスター」
「いいわよ、そのくらい。……あれは誰でも驚くわ」
俺が直接乗り込むのも向こうからしたら驚きだろうが、いきなり王が対応するのもこちらは驚いた。
「あとはジョゼフからの許可もあったし、小碓や謙信が歩き回れる下地は作ったけど……」
「あ!」
「ん? どうした、マスター」
「驚いたことで思い出したのよ! あんたあの王と話してるとき……」
うん? 何か変なことでもしただろうか、と考えを巡らせる。まだこちらの礼儀作法は完ぺきとは言えないからな。そういうところを指摘してもらえれば助かるのだが……。
「あんた、畏まった言葉とかつかえたのね……」
「はぁ?」
「いや、ほら、あんたオールドオスマン……学院長にもいつも通り喋るじゃない? 姫さまにも最初からあんな感じだったし……」
「そりゃ……場面場面で切り替えるさ……」
いやほんと驚いたのよー、と変なことに感心しているマスターに苦笑いを返しながら、これからのことについて説明する。
「この後はメイド役のみんなが来たら、ジャンヌと自動人形はマスターにつけるよ。身辺警護と、身の回りの世話としてね」
今は制服を着ているから、夜のために身を清めたりドレスに着替えたりする必要があるからな。学生とはいえ、マスターは貴族としての教育も受けているので、こういう場にも出られるだろう。ドレスやらメイク道具は宝物庫に入っているから、色んな選択肢があるぞ、マスター!
「……あ」
「なに、どうしたのよ」
そこまで考えて、先ほどの負の感情の乗った視線の理由に思い至った。……俺、『女の子と色々するからうるさくするかも。ごめんね』とか言った直後にマスター連れ込んだように思われてるかね、もしかして!
しかも制服姿! そりゃあの視線になるわ! 速攻で制服姿の学生連れ込む辺境伯……うむ、今日中に噂になるだろうな……。
「まぁ、そこはあきらめて弁明するしかないか……」
「ちょ、なに? ほんとにどうしたのよ?」
一応当事者だし、と説明すると、顔を真っ赤にしたマスターに軽めの爆発を貰った。……それでも外の使用人たちが声を掛けてこなかったのは、たぶん『うるさくする』の範囲内だからだと思ったのだろう。どんなプレイしてると思われてるんだろ……。
・・・
しばらく部屋の片づけなんかに時間を使っていると、メイド役のみんなが帰ってきた。
「なるほどね。その分担で間違ってないと思うよ。私たちが身軽に動けた方が良いだろうしね」
「で、でも不安です……こんなところで、メイドとしての礼儀作法が出来るでしょうか……シエスタちゃんにもうちょっと聞いておけばよかったなぁ……」
うつむきながら、不安そうにつぶやくジャンヌの肩を、自動人形がぽんと叩く。慰めているのだろうか。
「大丈夫じゃないでしょうか? メイドとしてのジャンヌさんに期待してる人誰もいないと思います。あなたに求められてるのは盾役なので!」
「うぐ。本当のことでも、言っちゃダメなことってありますよね?」
「でもちゃんと言わないで自信満々にメイドできるって思われてもいやですし……」
「……小碓さん、もしかして私のこと嫌いだったりします?」
「いいえ? 主の子を産んでくれるうちは、大好きですよ!」
「こっわ。価値観の相違ってこういうところで出るのね……」
表面上はニコニコとしている小碓と涙目のジャンヌの会話を聞いたマスターが、戦慄したようにそうつぶやいた。
「とりあえず動き出すのは今日の夜かな。タバサの母親を移動させたってことは、それに参加した人間がいるってことだ。それをなんとか見つけられれば……」
「りょーかい! じゃあ兵士とかがいればその辺から噂でも聞ければいいって感じかな」
それで大体の流れは決まってしまったので、あとはみんなでお茶でもすることに。適当に時間をつぶして、呼ばれるまで待つことに。日が暮れたあたりから着替え始めて、俺とマスターは礼服に、そして、小碓も着飾ってもらうことにした。向こうに行くのは表面上俺とマスターだけの二人だが、その陰に隠れてこっそりと小碓に潜入してもらおうというのだ。小碓は『宴の場』と言うものに潜り込むのに凄まじく有利な判定を得られる。アサシンと言うクラス特性を含めて、おそらく誰にも指摘されずに宴会に紛れ込めるだろう。
「よしっ、これでいいな」
俺とマスターはこちらの世界での一般的な礼装……タキシードっぽいものとドレスに身を包み、小碓も洋風のドレスを基本に少し和風なエッセンスの盛り込まれた、違和感のないドレスに身を包んでいた。
「んふー、どうです、あ・る・じぃ? やらしいでしょう?」
結構しっかりと右の太もも辺りに深めのスリットが入っていて、小碓はこちらに流し目をしながらスカートをぴらぴらと翻して挑発してくる。このメスガキ系オスガキは全く……。
「おいおい、その程度で俺が誘惑されるとでも? とりあえずあっちに寝室があるんだが一緒に行かないか?」
「しっかり誘惑されてますね!?」
「……」
ばこん、と謙信に鞘に入ったままの刀で側頭部を撃ち抜かれ、なんとか正気に戻れた。危ない危ない。普通に宴会の時間寝室で過ごす気分になってたな……。
「流石は小碓……恐ろしい子……!」
「んふふー、こういう時に積極的に主を誘惑しないとですからねぇ。ん……案内の人たちがきたみたいですね。ボクは先回りして待ってますね!」
そういうと、ドレスを着ているとは思えない軽い身のこなしで窓から飛び降りていく小碓。……すげーな。
小碓が飛び出して行って数秒後、コンコンと扉をノックされた。言われた通り、案内が来たのだろう。
「よし、向かうとしようか」
・・・
「ったく、ほんとに君はすぐ誘惑に乗って……わ、私もあんな感じで肌露出したらいっぱい襲ってくれるかな……? ん、んー……帰ったらちょっと色々試してみようかなー……」「謙信さん、私も一緒に誘惑やります! 頑張ってギルさんをえろちっくに誘惑しちゃいましょう!」「……んあー、ジャンヌとやるくらいなら一人でやるかなあ……」「何でですか! 切り捨てないでくださいよぅ……!」
誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。