ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「……次回作かなー、パラレルかなー、ファンディスクかなー」「……あれは何やってるんですか?」「今作で攻略できなかったキャラに対して、いつ攻略できるようになってもいいようにコナかけてる絶倫王の姿よ」「……あ、もしかして私がまだ小さかったころずっと言ってたのってまさか……」「よし、通報しましょ」「どこによ。この黄金領域の警察はあの絶倫王よ」「はっはっは、警察機構じゃないですよ。この黄金領域にはいるんですよ」「何がよ?」「……後宮管理機構がです」「なにそのぽぽぽぽーんしてそうな組織」


それでは、どうぞ。


第五十七話 この子にコナかけとこう

 日も暮れてきたので、死屍累々になった寝室を出て体を清め、マスターの部屋に戻ることにした。準備するものはほとんどないにしても、一応明日の流れなんかを説明したりする必要はあるだろうし、何より俺のマスターだ。一緒に居たいというのは普通だろう。

 

「あら、おかえり」

 

「ただいまマスター。……こんな時にまで勉強か?」

 

「……うっさいわね。私は学生よ? こうして学院を離れることが多いんだから、ちょっとでも勉強しないとね」

 

 そう言って、マスターは再びノートにペンを走らせる。……まぁ、そういうところも良い所ではあるか。マスターの基本的な性格はまじめだしな。まぁ、急ぐことじゃないし、マスターの勉強が終わるまでゆっくり待つか。

 

「……?」

 

 さて、待っている間何するかなっと。

 

「……ちょっと」

 

 そういえばそろそろまたマフラーを作り始めないと自動人形の数がまずいことに……え、1000行ったの!? 四桁の大台じゃん! 俺の手腱鞘炎にならないけどなった気分にはなるんだよな……。

 

「ねえ、ちょっとってば!」

 

 というか先ほどからなにやら騒がしいような……。

 

「どうしたマスター。何を騒いでいるんだ?」

 

「どっっっうしたじゃないわよっっ! なんであんたは考え事してる顔して私の髪の毛弄ってるワケっ!? れ、レディの! しかも貴族の髪をッ!」

 

 むっきー、と怒り狂いながら俺の手を払いのけるマスター。俺が考え事しながら目の前に座るマスターの髪の毛を手入れついでにいじくりまわして、ちょっと昇天マックスさせかけたのがお気に召さないらしい。未来で一世を風靡しかけた由緒ある髪型なんだぞ。……一部国家の一部地域の一部界隈で、と言う注釈はつくけど。

 

「まぁまぁ。やっぱり手触り良いよな。今までしっかり手入れしてきたってのが感じられて、すんごい興奮する」

 

「……ヘンタイっ! ヘンタイへんたい変態っ!」

 

 やっべ、ついつい口が滑って言わなくていいことまで言ってしまった。まぁでもマスターは俺の変態度なんて知ってるだろうし、そんなにドン引いてベッドの布団体に巻き付けて防御反応見せなくてもいいのになぁとちょっと思うけどな。……いや、待てよ? もしかしてこれはベッドの上に乗っているということで誘っている可能性も微粒子レベルで存在するか……?

 

「……よし、決めた」

 

「……は? ……凄い嫌な予感がするけど聞いてあげるわ。何を?」

 

「マスター、最初は痛いだろうけど、優しくするからな」

 

「襲うことを決めたわねッ!?」

 

 ついに杖を構え始めたので、ここまでにしておくか、とからかい過ぎたことを反省する。……いやまぁ、からかい1割の本気9割だったけど。ここまでビビられなければ行くところまで行くつもりではいたけど……。っとと、いつまでもこんなこと考えてたらマスターがビビりすぎてこの部屋が爆発するな。それは避けたいから、ここらで安心させなければ。

 

「まぁ待てマスター。からかい過ぎたよ。謝るって」

 

「ふー、ふぅーっ。……ほんとにからかっただけ?」

 

「いやまぁ、恋人だし、そこまでビビんなかったら普通に手を出そうとは思ってたけど」

 

「肉食獣ねあんたっ!」

 

「まぁそれだけで一個宝具ができるくらいだ。否定はしないよ」

 

 まぁ今目の前でがるがる唸ってるマスターもだいぶ小型肉食獣みたいな感じだけどね。

 

「……ま、今日は襲わないよ。ほんとうに。マスターの記念すべき初めては……花嫁姿が良いかなぁ……」

 

「……卑弥呼とかの言葉を借りるわけじゃないけど……なかなか癖が強いわよね、あんた……」

 

 まったく、とようやく落ち着いたマスターはベッドから降りて、自動人形に着替えを頼む。ちょいちょい弄ったこの部屋では、マスターの着替えスペースなんてものはいたるところに存在する。なので、マスターは自動人形を連れて仕切りの向こうに行ってしまった。……ふむ、暇だな。

 でもまぁ、今日やれる限度までいじり倒したので、あとは明日のために寝るとしようか。着替え終わったマスターが戻ってきたら、添い寝できないか聞いてみよう。

 

・・・

 

「……とても良い寝覚めだな」

 

 隣に眠るマスターを一度撫でてから、ベッドから降りる。結局押しに負けてマスターは俺と添い寝をすることになったのだが、今回は手を出せないということでこちらとしてもなかなか苦しい戦いだったと思う。

 少なくとも英霊になる前であれば確実に手を出していたであろう状況だったな……。俺も成長したということか。

 自分の成長に感心するのはここまでにして、マスターを起こして飛行船に乗り込むべきだろうな。出発までに色々準備も手伝わないといけないだろうし、予定より少し早めに向かった方が良いだろう。

 

「マスター、朝だぞ。少し早いが起きよう」

 

「んぅ……朝ぁ……?」

 

 寝ぼけ眼をこすりながらも、寝間着姿のマスターが可愛らしい声を上げながら体を起こす。そのまま顔を振るうマスターに、自動人形が濡れたタオルを差し出した。まだ眠たそうなマスターだが、そのタオルで顔を拭き、自動人形に返すころには、ぱっちりとした大きな瞳はだいぶ開いたようであった。

 

「んぅ~……まだ太陽も昇りきってないじゃない……」

 

「これからすぐに上ってくるさ。薄暗いけど、真っ暗じゃないだろ?」

 

 カーテンを開けているため、少しだけ白んだ空が見える。今日は良い天気になりそうだ。

 

「ほら、飛行船のある広場まで向かうぞ。マスターが着替え次第、みんなで向かおう」

 

 今回も留守番は自動人形の内の一体に任せることとした。総力戦……とはならないだろうが、こちらも出せる戦力は出していこうと思う。どんな相手がいるかわからないが……。

 

「……着替えてくる」

 

 そう言って、着替えを持つ自動人形と共に衝立の向こうへ消えていくマスター。昨日の夜の焼き直しみたいだな。……ここで覗くと本当に抑えられなくなりそうなので、我慢して他のことでもしていよう。……うん、身体の中の魔力は問題ないな。身体を巡る神様印の魔力、宝具の起動、すべてがいつも通り問題なさそうなことを確認しながら自分を抑えようと頑張っていると……。

 

「おふぁようごじゃいまふー……ふぁ……。なんで朝ってこんなに眠いんですかね……?」

 

 サーヴァントは基本的に魔力を編んで鎧を身につけたりするので普段着でいることが多いのだが、ジャンヌも例にもれず簡素なズボンとブーツ、ブラウスを着ただけの格好で部屋に入ってきた。まぁジャンヌはここから胸や腕なんかにしか鎧を付けないから、この格好も戦装束と言っても過言ではないのかもしれない。

 

「……ふぁ? ギルさん、どうしたんですか、そんなところで突っ立って……お部屋に入れないのですが……」

 

「……ジャンヌ」

 

「はい?」

 

「……恨むならタイミングの悪い自分を恨めよ」

 

「はい? え? なんで私の手を引っ張って……あっ、もしかしてこれから……」

 

 ジャンヌの手を引きながら、俺は部屋を出る。マスターの着替えや朝の準備をしている間に鯖小屋へ行くくらいの時間はあるだろう。

 

「あっ……。スゥーッ」

 

 何かを察したかのようなジャンヌと一緒に、俺は鯖小屋の寝室を目指すのだった。

 

・・・

 

 

 

 あの後、ちょうど一区切りついたところでマスターがやってきたため、俺たちはそろってコルベール達の待つ飛行船の下へと向かった。すでにキュルケやタバサたちは到着しており、キュルケはハァイ、といつも通り気楽そうに手を上げてくれ、タバサもいつも通り本を読みながら、視線だけをこちらにちらりと向けた。

 

「全員集合ってところか」

 

「ああ! さ、早く乗ろう! ナオシが先ほどから「さっさと行くぞ!」と言って憚らないんだ。このままでは、一人でも飛行船を飛ばしていきそうな勢いなんだよ」

 

「それは……想像がつくな」

 

 騒いでいる直の姿を思い浮かべながら、みんなで飛行船に乗り込む。……ここからは何が起こってもおかしくない。気を張っていかねばな。

 

「それでは、出発しよう!」

 

 コルベールのその言葉と共に、飛行船は空に浮かび上がる。ふわりとした、少し頼りない浮遊感と共に、飛行船は目的地に向け前進していく。

 

「よし、目的地のタバサの実家まではそんなにかからない。……やることは単純だ。全員で行って、短時間で帰ってくる。急襲ってやつだな」

 

 俺の言葉に、完全武装のサーヴァントたち、そして共に行くマスター、タバサ、キュルケも頷いた。

 

「先行するのは小碓、謙信、タバサだ。機動力のある二人と、内部構造を知っているタバサが先導してほしい」

 

「……わかった」

 

「殿にはカルキ、そして信玄で頼む。後方への警戒と、退路の確保だ」

 

「→ギル。うん、わかった」

 

「それ以外は全員主力として中段で固まって動くぞ」

 

「はいっ!」

 

 全員がそれぞれ頷いて、役割を確認したところでコルベールから「そろそろ目標地点だ!」という声が響いた。

 この後はタバサの家の少し手前で飛び降りて、飛行船はそのまま上空で待機することになっている。上空の飛行船に何かあった時には、直掩機として直が出ることになっている。

 

「じゃあ、行きます!」

 

 そう言って、小碓が飛び降りる。謙信はタバサを抱え、二人一緒だ。たん、と軽い足取りで、三人は降りて行った。すぐに小さくなって見えなくなったのを見送っておから、俺は一緒に行くみんなに声を掛ける。

 

「俺たちも行くぞ。マスターは俺。キュルケはジャンヌが頼む」

 

「う、うん! は、離さないでよね!」

 

「あいあい! キュルケさん、喋ると舌噛みますよ!」

 

「ま、任せるわ!」

 

 この高度から飛び降りるのはあまりないのか、フライを使い慣れているキュルケでさえ、人に着地を任せるというのは緊張するらしい。珍しく強張った顔をして、ジャンヌに身を預けている。

 

「よし、行くぞ! カルキ、後を頼む!」

 

「→ギル。いってらっしゃい」

 

 カルキと信玄に見送られながら、俺たちも甲板から飛び降りる。

 

「きゃっ、ああああああああああ!」

 

「はっはっは! 楽しめマスター!」

 

「馬鹿っ、言わないで、よぉおお!」

 

 凄まじい風の音とマスターの叫び声を聞き流しながら、目標とする屋敷まで降りていく。すでに小碓達は門を突破し、玄関まで行っていると念話が来ていた。俺たちが着地次第、三人は屋敷に突撃することになっている。

 

「着地するぞ! 口と目閉じておけ!」

 

「んっ!」

 

 宝物庫から上方向に吹かせた風を射出して、落下の衝撃を和らげる。そのあとジャンヌ達も同じように着地し、カルキたちが飛び降りたと念話が来た。

 

「よし、行くぞ!」

 

 まとまって走り出し、タバサの先導で動く三人を追う形で屋敷に突入する。貴族の屋敷らしいが、家紋らしきものが入っている旗に大きくバツ印が付いていたり、使用人の姿が見当たらなかったり、普通の貴族の家らしからぬ様子だ。

 これは、何か出てくるかもしれないな。気を付けるようにと小碓達に伝え、俺たちも警戒しながら屋敷を走る。

 

・・・

 

 タバサ殿の先導で屋敷を走っていると、とある部屋の前でタバサ殿が立ち止まった。ハンドサインで「ここだ」と静かに示してきたので、主に念話を飛ばしてから、突入することにした。なにがいるにしても、これなら僕たちが情報を集めてから主たちに引き継ぐことができる。合図とともに、ボク、タバサ殿、謙信殿の順で飛び込んだ。

 ……そして、そこにいたのは一人だった。……普通の人間とは違う気配。……かといってサーヴァントでもない、不思議な……。

 

「『物語』と言うのは素晴らしいな」

 

 唐突に、そいつは話し始めた。帽子をかぶっていて髪の毛が長く、顔もきれいでわかりにくいけど、おそらく男。特徴は、その長い耳。……これは、話には聞いていた……。

 

「エルフ……」

 

「なるほど、あれが話に聞いた」

 

「母をどこへやったの」

 

 タバサ殿の端的な質問に、男はようやくこちらを振り返った。……敵意や悪意を感じない、純粋な視線だった。

 

「母? ……ああ、今朝ガリアの軍が連行していった女性のことか? ……行き場所は知らないな」

 

「……そう。エルフは我々とは違う魔法、先住魔法を使う。気を付けて」

 

「先住魔法……どうしてお前たち蛮人はそのように無粋な呼び方をするのだ?」

 

 ああ、と今の言葉で気づいた。我々人間のことを『蛮人』と呼び、おそらくだが系統の違う魔法を操る彼らは、かなり強大な自尊心を持っているのだろう。敵意や悪意を感じないのは当然だ。それが彼らにとって必然だから。僕たちに悪意や敵意を持つような意識をしていないのだ。

 

「……話し通じなさそうですねぇ。こういう手合いは、何言っても無駄ですよ、タバサ殿」

 

「確かに。自分が一番頭いいと思ってる馬鹿だね、こういうのは。こういうところにいるってことは下っ端だろうし、大した情報も持ってないみたいだからすぱっと首切った方が早いよ」

 

 ボクは草薙之剣を。謙信殿は腰に佩いた刀を抜き、臨戦態勢だ。

 

「……まったく。蛮人のくせにできもしないことを言う。お前たちが我々に相対するといつもそうだ」

 

 そして、そこで一度言葉を切ったエルフの男は、ため息をついて帽子を取った。

 

「そういえば、こうして室内では帽子を取るのがお前たちの間での礼儀だったか。改めて。私は『ネフテス』のビダーシャルだ。出会いに感謝を」

 

「あっはは。出会いに感謝? ……私はしないよ、そういうの。だってすぐに君は感謝も出来ない体になる」

 

「口だけは達者だな。……まぁいい。私がお前に要求するのは一つ。『抵抗せず、大人しく同行してほしい』だ。ジョゼフとそう約束してしまったからな。できれば従ってほしい」

 

 ジョゼフ。その名前が出た瞬間、タバサ殿の体が強張ったのがわかった。……怖いのか。たぶんだけど、恐ろしい身内の名前なのだろう。それを聞いてしまって、タバサ殿は恐怖で心がしぼんだのだ。

 

「なら、私からも要求しようかな。『大人しくその場に跪いて首を落とさせろ』だ」

 

 刀を突きつけて、謙信殿が不敵に笑う。それを聞いて、タバサ殿の心が再び立ち上がったのを感じた。……そうだ。あなたたちメイジは、気力こそが魔力。心で負けてはいけない。

 

「ラグーズ・ウォータル……」

 

 タバサ殿が呪文を唱え、氷の槍が出来上がる。それをすぐに射出するが……エルフの目の前で止まり、消えてしまう。……これが先住魔法……? 魔力を乱しているのか、続いて放たれた氷の嵐も相手に届かず止まり、こちらに返ってくる。

 

「はっ、単純ですね」

 

 ボクは炎の竜を作り出し、相殺させる。そのままエルフに向かわせると、何かに引っかかるのを感じた。……けれど、こちらは竜の概念を持つ炎。そんなちょっとしたとっかかりに負けるような生半なものではない。

 

「なんと」

 

 そこで、ようやくエルフの顔に感情が現れた。驚き、かな? 少しして体を翻すと、何かを突き破った感覚がして、竜が突き抜けていった。

 

「……驚いた。我が『反射』を破るとは。ただの蛮族ではないな」

 

「あっはっは、待ってください、ボクも笑っちゃった。自分たちの下には何もいないって高慢さが抜けてませんよ。自分の技を破るやつがいるってのを常に考えておかないと!」

 

「そう。だからこうやって後ろを取られる」

 

「っ!」

 

 炎の勢いに隠れて後ろを取った謙信殿が振るった刃を、間一髪で『反射』とやらで防ぐエルフ。あれは面倒だな。僕たちは動いているからいいけど、足元もなんかされそうになってるし……これは即効性がある魔法と言うよりは、この『場所』を好きにできているって感じかな。卑弥呼さんたちの『鬼道』に近いものを感じる。

 

「タバサ嬢! ためらうな! どうせガリアまで行って探そうと思ってるんだ。こいつからとれる情報なんてないよ!」

 

「……! わかってる……!」

 

 そういうと、再び氷の槍が飛ぶ。『反射』によって防がれそうになるが……僕の炎の竜と謙信殿の斬撃も含めてすべてを防げるわけではないらしく、エルフは少し防いだ後、横に跳ぶように避けた。

 

「流石に……厳しいか」

 

「今更かっ。後悔するには遅すぎるねっ」

 

「蛮族にもこのようなものがいたとは……今回は退こう」

 

 そう言って、窓から逃げようとするエルフ。……逃がすか!

 

「その通り。逃がさんよ」

 

「なっ!?」

 

 今度こそ、驚きの声と共にエルフは窓とは逆に吹っ飛んだ。反射で直撃は防いだようだけど、二撃、三撃ぶつかるころにはそれも突き破られて、部屋の中をゴロゴロと転がった。

 

「……逃がすわけにはいかないからな。……テファのような子ばかりだと思っていたが、エルフってこんなのもいるのか……」

 

 そして、窓から入ってきたのは我らが主。立ち上がったエルフを見て、なんだか微妙そうな顔をしている。……気持ちはわかりますけど……。

 しかし、エルフはあきらめず、我々に対して手をかざした。……今までの比じゃない魔力……! これは、眠りの魔法……?

 

「かなり強力ですね……対魔力がなければ眠ってたかも……」

 

「ふふ。対魔力がなくても寝ないよ。だって、敵を切るまで安心できないからね」

 

「……う、く……」

 

「謙信、タバサを守ってやれ。キツそうだ」

 

「効いていない……?」

 

 エルフの声に、主が応える。

 

「ここにいるのは大体が対魔力を持っている。それは鬼道に近くて行使する力も強いだろうが……少し眠い程度だな。俺は少しずるをしてるから、落ち込まなくてもいいぞ」

 

 そう言って、主は何か杭のようなものを地面に突き刺した。

 

「気になるか? ……これは『契約解除』の原典の宝具だ。土地とか建物とか、生物ではないものとの契約を一方的に破棄できる優れものでな」

 

 スゴ。それってエルフにとっては天敵なのでは……?

 

「君たちエルフは精霊との契約をして戦う、防御にとても向いている性質らしいんでな。それを封じさせてもらった。今から契約するにも、隙はできるだろう?」

 

「ありがとう、殿。これでようやく斬れそうだ」

 

「あー、謙信、待ってくれ。これでもエルフは長命種。ジョゼフについて何か知ってるかもしれないから、捕獲の方向性で」

 

「むー、絶対斬った方が早いのにー。……わかったよ、わかりましたー」

 

 頬を膨らませながら、目に見えない速度で『反射』を切り、返す刀の柄で思いっきり顎を殴って、エルフを気絶させる謙信殿。……ほんとに『契約』してないと出力落ちるんだー……。

 

「よっと、こんなもんかな?」

 

「……気絶させたら話聞けないだろ」

 

「んあ、しまった。……まぁ、ここにタバサ殿の母上はいないんだから、どうせガリアまで行くんでしょ? ……船で尋問すればいいんだよ、うん」

 

「まぁいいけどな。……さて、今俺以外の者には屋敷を探索してもらってる。反応的にこのエルフしかいなさそうだけど……おっと、今誰もいないのが確定したぞ。じゃあ、戻ろうか」

 

 そう言って、主は窓の外に浮遊宝具をいくつか浮かべた。来るときは飛び込めばよかったけど、帰るときは何か手段を講じないとね。

 

「よっし、それじゃあ」

 

「→ギル。避けて」

 

「も――どっふぉ」

 

 唐突に部屋に飛び込んできたカルキ殿が、主を吹き飛ばす。ええ、なにやってんのと思うのと同時に、壊れた窓から何かが突っ込んできた。……敵襲!?

 

「何事だ、カルキ!」

 

「→ギル。……サーヴァントじゃない。星!」

 

「なんだと!」

 

 その言葉に、全員が突っ込んできたものが向かった方向を見ると……なんとそこには、光り輝くエルフの姿が。え、もしかして乗っ取る系?

 

「ふむ、なかなか良いものだな。現地のことを事前に学習するより、現地の知的生命体を借りて中身を覗いた方が早い」

 

「あー……どうします主。なんか『他種族下に見る系高慢イケメン』が陥る因果応報の中でも結構あくどいところ行ってますけど……」

 

「助けた方が良いんだろうけど……優先度は低めだね。最初は別にいらんと思ってたし」

 

 光り輝き始めたエルフは、拘束されていた縄をちぎり、手の感覚を確かめるように何度か握ったり開いたりを繰り返している。……うわー、『他人の意識を乗っ取った時』か『新たな力に目覚めた人』しかやらない動きだ……。久しぶりに見た……。

 

「あー、遅くなったな。私は……うむ、俺は、か? ……いや、この顔の感じからすると僕とか……?」

 

「え、一人称で混乱することあります? そこはアイデンティティ持ちましょうよ……」

 

「……まぁいいか。私は……そうさな、君たちに合わせるなら、『白羊』と呼んでほしい」

 

 そういうと、エルフの髪が白く染まり、羊のような角がぐりぐりと生えてきた。……あれ大丈夫?

 

「おお、これがこの星のテクスチャの力か。概念と言うか、言葉の力がそれなりにありそうだ」

 

「……それで? 俺たちと仲良くしに来たってんならそれで構わないんだけど……」

 

「ああ、いや、すまんな。忘れてたわけじゃないんだ。少し感動しててね。……さて」

 

 こほん、とわざとらしく咳払いをした『白羊』は、両手を広げて演説するように話し始めた。

 

「仲良くする気はないんだ。知っての通り、狙いは君でね。もちろん抵抗してもらっても構わない。それを乗り越えたときこそ、達成感があるだろうしね」

 

「あー……それを聞いて安心した」

 

「うん?」

 

「……はっ!」

 

「えっ」

 

 ざん、と惚けた顔のまま、エルフの首が落ちた。どさ、と地面に落ちてから現状に気づいたのか、慌てた表情に変わっていく。

 

「……この星の生物になるのは初めてでしょ。君たちの生態系がどうかはわからないけど、目で見て、耳で聞いて、肌で感じるのは初めてかな? 警戒心がなさ過ぎてびっくりしたよ」

 

 血ぶりをしながら首の落ちたエルフに語り掛ける謙信殿。流石日本の侍だ。ほぼアサシンでしょあんなの。

 

「は、え、なんだって? し、視界はこんなに狭かったのか。背後が見えてないだと? 音も全然聞こえていなかったぞ!?」

 

 なにやら人体の不思議に初めてぶち当たったのか、あたふたとしている。だが、すぐに落ち着いたのか、身体が動いて首を拾って……って、不味い!

 

「謙信殿! 首を落としただけではだめだ! そいつはエルフの『体全体を乗っ取ってる』!」

 

「あ、そっか。全身切り刻んでやらねばダメか」

 

「くっ、ここは退こう……!」

 

「させないっ!」

 

 逃走しようとするエルフを止めようと飛び出す。だけど、そいつはなんと自分の首を投げつけてきた。

 

「うわっ」

 

 受けるか避けるか迷った隙をつかれ、身体の方の突進を受けてしまった。そのまま窓からともに飛び出してしまい、地面にたたきつけられる……!

 

「よっと」

 

 その前に、飛んできた信玄殿に手を掴んでもらい、エルフだけが落ちていった。

 

「なんじゃありゃ。妖怪の類でも出たのか?」

 

 首を拾って逃げ出すエルフを見た信玄さんは、怪訝そうな顔をしてボクを降ろしてくれた。慌てて追いかけようとするけど、なんとエルフは凄まじい勢いで光ったかと思うと、一瞬で消えてしまったのだ。……むぅ、逃がしてしまったか。

 

「っとと。ただの光ではなかったな。儂の鎧の防御を抜けてきたわい」

 

「ボクもです。それなりの目は持っていましたが……あれは、ただの光ではなさそうですね」

 

「小碓、無事か!」

 

 遅れて窓から飛び降りてきてくれた主が、僕の体を案じてくれる。……うへへ、あとで異常ないかの診察って言って、お医者さんごっこしてもらおっと。

 

「今のところは。あいつは逃げてしまいましたけど……」

 

「大丈夫だ。あれはあれでまた新たな手掛かりになりそうだし、小碓が無事ならそれでいい」

 

 それから、屋敷に散らばっていたみんなが戻ってきて、情報を少し共有した後、ガリアへ向かうこととなったのでした。

 ……また、新たな敵。少し気が重くなりますね……。

 

・・・




「ねっ、眠りの魔法!? それ覚えたらギルしゃまのこと睡姦し放題って……コトぉ!?」「ほら壱与、だんだん眠くなーる、眠くなーる」「ちょ、ギルしゃま、これって魔法じゃなくて裸締め……むきゅう」「よし、睡姦しようか」「……あんた、壱与だからいいけど、それ普通に犯罪よ?」「……? 俺が法だけど……?」「あ、ヤバ。王さまの部分刺激しちゃったわ」「よし、卑弥呼もこよっか。今決めた」「あー……はは、お手柔らかに……ね?」


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