ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

52 / 64
「んあー、こっちの魔力はこっちに回して、こっちにはこれを……あー、でも足りないから隣の世界から……んぅー! 面倒!」「……だから言っただろ、リソース回すならこれ一回読んでおけって。……あれだろ、説明書とか読まないで家電使うタイプだろ」「うぐ」「……そういうところから女子力のなさってにじみ出てるんだよなぁ……」「うぐぅ」「ま、いいよ良いよ。そういうところ俺がカバーするからさ」「はぅぅ……」

「……あざといわよねぇ。ああいうところが意外と舐めちゃいけないヒロイン属性の一つなのよ」「……しみじみ語りますね。何か心当たりでも?」「……うるさいわよ。黙ってなさい」


それでは、どうぞ。


第五十一話 ご入用ならご一読ください。

 アンリの部屋で全員での情報の共有が終わり、俺たちは翌日の会議に臨んでいた。と言っても今回は自国の要望を提出して、それぞれの国同士で折衝していくのはまた次の日からになるだろうというところで考えは一致している。

 その考え通り、今日はトリステインとゲルマニアがアルビオンの土地をどれだけ保有するかで要望を上げ、ロマリアとアルビオンの大使たちは沈黙を守っていた。

 そして、ガリアはと言うと……。

 

「……欠席、ね」

 

 『アルビオンの取り分けに関係ないこちらとしては、会議への参加は本日は見送らせてもらう』との言葉だけを使者が伝えに来た時は、本気で何しに来たんだと思ったものだが……。

 

「しかしまぁ、それならそれで目的は絞れるな」

 

 むこうとしてはアルビオンの土地に興味はないのだろう。取れればいいが、そうじゃなくてもいい、と言う余裕と言うか……。おそらくだけど、このアルビオンに来ること自体が目的だったということか……?

 ならば、このアルビオンに何かあるか……『アルビオンにいる誰かに用がある』かのどちらかなのか……?

 

「……ここで考えていてもらちが明かないな。今ある情報でわからないなら、さらに情報を集めるだけだ」

 

 まだまだ会議はかかるだろう。情報を集める時間はまだあるし、腰を据えていくつもりでやっていこう。

 

・・・

 

「……」

 

 主からの指示でこうして紛れ込んではいるけど……。このガリアの王……なにしてるんだろう……?

 

「ふぅむ……」

 

 もうこうしてしばらく音の出ていないオルゴールを撫でている姿しか見せていないのだ。隣に座る愛人らしき女も困惑してるし……。こんなところに張り付いてても進展ないかなー。

 それよりも、さっき来てたロマリアの神官とやらが気になるなぁ。……そっちいくか。

 するりと部屋から抜け出して、先ほど来ていた神官の気配を追いかける。ロマリアの大使の近くに部屋を取っているらしいので、外に一旦回って、窓からコンタクトを試みる。

 

「よっと」

 

 外の茂みから壁に近づいて、よいしょ、と壁を上る。僕の体は軽いし、細い指はわずかなとっかかりも掴んでくれる。

 

「んー……」

 

 窓の淵からゆっくりと部屋をのぞき込む。カーテンがしまっているけど、隙間からなんとかのぞき込むことができた。……あの金髪の男性がロマリアの神官という人か。……気配的にもう一人いると思うんだけどなー……。

 そう思いながら気配を殺しつつ気配を探るという器用なことをやっていると、魔力が固まっていくのを感じ取った。……現界した? 隙間からは相変わらず金髪の男性しか……いや、隣に一人……あれは……大主と同じ桃色の髪……? うーん、髪色だけじゃどんなサーヴァントかまったくわからな……。

 

「っぶな!」

 

 もう少し詳細を、と欲を出したのがいけなかったのか、こちらに対しての攻撃に一瞬反応が遅れてしまった。

 ……気配察知してるアサシンを見抜いて攻撃するなんて……! 何かが爆発する音がしてたから、おそらくは銃器……中世以降のサーヴァント……かな……? とりあえずこの情報は持ち帰らないとね!

 

「……撤退撤退」

 

 霊体化して、ボクは主の下へと戻るのだった。

 

・・・

 

 それからというもの、この『諸国会議』は特にもめることもなく話が進んでいった。

 アルビオンの土地はトリステインとゲルマニアの共同統治と言うことになり、そこの初代代理公王として、オルレアン伯爵……今回の件で辺境伯となった俺が指揮を執ることとなった。そして、今回のようなことが起きたときに協力するために、トリステインとゲルマニア、ガリアとロマリアを加えた『王権同盟』なるものが締結された。

 これはアンリが危惧していた『国内で共和主義者や新教徒が反旗を翻したときに他の三国が軍事介入する』と言う同盟だ。それに加えて、ガリアはアルビオンにある港の一つの優先使用権を要求したくらいで、大人しいものだった。……やはり、別に目的があると思った方が良いだろう。アンリはこの『諸国会議』が終わるまで、トリステインの国益を考えて隙を見せないように発言することで手一杯だったので、俺たちでその裏にある思惑やらを考えて対処することになったので、表側はアンリとマザリーニに任せ、俺たちはその背後にありそうなものを裏から調べて対処しようとなったのだ。

 

「……ロマリアにもサーヴァントの影か」

 

「これで四つの国にいることになるのかな」

 

 トリステイン、ガリア、ロマリア、そしてアルビオン……でいいのだろうか。その四つに、それぞれサーヴァントが現れ、さらに『虚無』のようなものまで……。

 

「『虚無』か」

 

 それが、この世界でのカギになるような気がする。

 

・・・

 

 『諸国会議』が終わり、俺たちが帰路に就くその時。

 

「……主」

 

「ああ、わかってる。……マスター、アンリ」

 

「! 敵ね」

 

 首都ロンディヌウムから港まで行く際に通る街道で、小碓が敵に気づく。それに遅れて俺たちもその気配を感じ取り、戦闘準備を始める。……この人数の所に攻撃を仕掛けるのだ。おそらく前に見た『軍勢のサーヴァント』である可能性が高いだろう。

 

「……殿、この感覚は変だよ」

 

 謙信が刀を抜きながら、顰め面をして言う。

 確かに、人間特有の生気とでもいうようなものを感じない。サーヴァントからですら少しは感じ取れるその『人特有の気配』とでもいうものを、この先にいる存在からは感じ取れないのだ。

 

「ふむ……これはあれだな、おそらく敵はカラクリを使っているのじゃろうよ」

 

 アニエスの姿でふむぅと唸る信玄が、つぶやく。それから胸の本体に触れると、魔力で編まれた赤い鎧が体を包んでいく。……そろそろ怒られねえかなコレ。

 

「儂と同じじゃ。何かにとりつくようにして操る、呪術のようなものじゃろう」

 

 その言葉と同時に、街道を塞ぐように様々な格好をした兵士が飛び出してきた。信玄はそれを見て即座に手のひらから魔力の弾丸を発射し、吹き飛ばす。その迷いのなさに少々おどろいていると、吹っ飛んで木にぶつかり、あらぬ方向に身体が折れ曲がった兵士は、その場で小さな人形のようなものに変わった。

 

「……やはりな」

 

「向こうも考えたな。限りのある人間じゃなくて、量産のできる人形を兵士にすることで、戦力の嵩増しをしたのか」

 

 ありとあらゆるところから、この『人形の兵士』の気配がする。こちらのサーヴァントの人数に対して、向こうはさらなる物量で圧倒しようということか。

 

「■■■■■■!!」

 

「っと! こちらはお任せってね!」

 

「うむ、この儂の伝説に、新たに虎狩りが追加されるということじゃな!」

 

 謙信と信玄が茂みからの爪の一撃を止め、森の中へ消えていく。李徴がいるということは……。

 

「こちらは私に!」

 

「任せてください!」

 

 ジャンヌと小碓が見えない矢を弾き落とした。あの見えない矢には、単純に弾いたりする判定よりも、『矢除けの加護』や幸運値が物を言う。それならばジャンヌは適任だろう。

 

「これだけ来ているということは……」

 

「→ギル。太陽接近中。注意」

 

 カルキがいつの間にか戦闘準備を終わらせて俺の隣に立っていて、妙な注意を口にした。……だが、その名称に合致する人物なんて一人しかいない。……施しの英雄、インド神話の中でも最強と言っても過言ではない太陽の英雄……!

 

「カルナか!」

 

「その通りだ。そちらの戦力はかなりの物だろうが……こちらも譲れぬものがあるらしい」

 

 そう言って槍を構えるカルナは相当なバックアップを受けているらしい。漏れ出た魔力が陽炎を作っているほどだ。……この一戦のために相当な礼装や魔術で強化されてきたのだろう。

 

「カルキ、共に戦ってくれるか」

 

「→戦友。もちろん。私はそのためにあなたのもとにいる」

 

 何かいつの間にやら俺の扱いが昇格している様な気がするが、まぁやる気ならば良いだろう。

 

「壱与、卑弥呼はマスターを守ってくれ。マリーはアンリを頼む」

 

「任せなさい。雑魚は間引いとくわ」

 

「お、終わったら、ぐへへ、ご褒美とか……い、いいですかねぇ……?」

 

「なんでキモイおっさんみたいな喋り方してんのよ。ほんとに気持ち悪いわねぇ」

 

 光弾と光線で兵士たちを薙ぎ払い、飛んでくる砲弾も防ぎながら、歴戦の魔術師二人はいつも通りの会話をする。

 ……なんだか最終決戦のようになっているが、敵がほぼ全力で来ている以上、こちらも全力で当たるしかない。

 

「……マリーとぺトルスもここでマスターを守っていてくれ」

 

「ふむ、聖女の護衛か! とても良いな。自分にぴったりだと思う! だが聖王と共に戦うというのもとても良い気がするなぁ……どうするか……」

 

「……不安なんだけど」

 

 なにやらぐるぐる迷っているらしいぺトルスに、マスターが不安そうにつぶやく。

 ……俺も不安になるなぁ、オイ。

 そんな感じでなにやらグダグダし始めた戦いが、始まる――!

 

・・・

 

「かっかっか! こいつは面白い! 人の知識を持った虎か!」

 

「理性は消えかけているようだけどね!」

 

「■■■■■!」

 

 ばきばきと枝を薙ぎ払いながら迫る大柄な虎と化した李徴を、謙信は刀で、信玄はその鎧で受け流しながら森を走り、飛びながら縦横無尽に動き回る。何度か刀で切りつけたり鎧からの魔力弾をあてているものの、その体毛はかなりの強度と神秘を備えているようでまともなダメージが入っているようには見えない。

 

「ちぃ、硬いねぇ」

 

 斬りつけても毛を短く切り取るだけなのを見て、謙信が舌打ちを一つ。そのあとすぐに爪の一撃を屈んでよけ、直後に空いた脇腹に蹴りをいれてその反動で木の上に上る。

 

「おっとあぶない」

 

 追撃で突っ込んできた虎を避け、次の木に飛び移る。それを何度か繰り返すと、横から赤鎧の信玄が隙のできた虎に対して跳び蹴りを食らわせる。流石に速度のついたこの攻撃にはダメージを受けたのか、ごろごろと転がり、木にぶつかって止まる李徴。

 すぐに立ち上がったが、ダメージを隠し切れないのか、少しだけよろけた李徴。

 

「ようやくまともなダメージが入ったか。……このまま消耗戦をしてもいいけれど……っち!」

 

 謙信は言葉の途中で振り返り、刀を振るう。

 剣を振りかぶっていた人形兵士が横一閃に切り裂かれ、元の小さな人形に変わった。

 

「こういうのも来るから面倒なんだよなぁ」

 

「くく、戦場では一対一のほうが珍しかろうて!」

 

 そういう信玄も何度も手のひらから魔力弾を打ち出して、人形兵士を何体も物言わぬ塊に変えていく。だが、その間にも李徴からの攻撃もしのいでいるので、何発かダメージを受けてしまっている。

 

「まったく、いくら魔力が潤沢とてこんなに鎧の修復に魔力を使っていては持たんな」

 

「受けるからさ。避けるか流すかしないとね」

 

「儂はそんな技知らんからな。できんわい!」

 

 呵々大笑する信玄に、謙信はため息をついてから首を横に振る。処置無しと思ったのだろう。

 

「まぁ良いわい。……謙信。儂が隙を作る。なんとしてでも宝具を叩き込め」

 

「……ふん、言われずともそのつもりさ。……けれど、任せたよ……信玄!」

 

 裂帛の気合を上げながら、謙信が森を駆ける。それを妨害するように人形兵士が割り込んでくるが、それをすべて信玄の魔力弾が破壊する。

 

「■■■■■!!」

 

「出てくると思って居ったぞ白虎ぉ!」

 

 破壊された人形兵士の影から飛び出してきた李徴だが、すでにそれを読んでいた信玄が先行してその両前足を両手でつかんで抑えた。ぎちぎちと音を立てて鎧が軋むが、背中の噴射口のようなところから魔力を噴出させることで出力を増し、なんとか抑えこんでいる状態だ。

 

「……行けぇ! 謙信!」

 

「……オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ」

 

 信玄が李徴の攻撃を押さえているためにむき出しになっている腹に向かって低い姿勢で迫る謙信が、その身に宿す神秘を開放する真言を口にする。

 ――それは、謙信が信じ宿す毘沙門天。その中でも異業種たる刀八毘沙門天のその御業を人の身で再現するという絶技。本来ならば一振りに八度の斬撃を与えるというそれを、人の身で行うがために格が落ちているものの、それでも人の身としては破格の『三振りで七度の斬撃』と言う結果を引き寄せる――!

 

「『刀八毘沙門天(みたちでななたちのあと)』!」

 

 一閃、二閃、三閃……! 李徴は『白虎』と言う獣の特性を活かし戦い、その敏捷性と人間とは違う怪力をもって二人を苦戦させていたが、獣であるがゆえの弱点も持っていた。その一つ、皮膚と体毛の薄い『腹部』への宝具の攻撃は、致命的なダメージを李徴へと与えた。

 

「■■……■■■■――!!」

 

「残心は忘れていないよ」

 

 切り付けた瞬間に信玄は離れていたために宝具を放った後の謙信へと最後の一撃とばかりに爪が迫るが、切り返しの刀で弾かれ、そのまま謙信は後方へと跳ぶ。

 

「それじゃあね、哀れな獣よ」

 

 そう言ってさらに李徴の視界からも消えた謙信。その後ろには、赤鎧の信玄の姿が。

 

「……集え我が軍勢よ。走れ我が軍勢よ。雷雲より落ちる稲妻の如く! ――『動如雷霆(かけよくろくも、いかづちのごとく)』!」

 

 いつの間にか跨っていた黒い馬……『黒雲』と共に、信玄が駆ける。その背後を、同じように馬にまたがった騎兵が続いた。それは、武田軍の主力……武田騎馬軍団、その騎兵突撃――!

 森林内だとしても、その技術、練度によって宝具化した武田騎馬軍団はすべての地形を踏破し、進撃する……!

 

「■……■■■……■■■■……!」

 

 宝具による騎兵突撃、その蹂躙のあとには……すでに人の姿へと戻った李徴が、空を見つめながら立っていた。

 

「……私は……ここは……なぜ、こんな……」

 

「……じゃあね」

 

 きん、と澄んだ音が森に響く。その音は騒々しい戦闘の中で、一瞬の静寂を呼んだ後……李徴は、静かに魔力となって消えていった。

 

「あやつは虎を背負うには心が弱すぎたな。背負いきれずに狂うとは難儀な男よ」

 

「……ふん。私は自分が狂ってないなんて思ってないよ」

 

 そう言って、謙信は刀を血振りし、鞘に納めた。

 

「おかしくない英霊なんていないさ。方向性が違うだけでね」

 

「なるほどのぉ。言い得て妙じゃな」

 

 二人は、その場で少しだけ物思いにふけるような顔をした後、森の中へ駆けだしていった。

 

・・・

 

「凄いねこのおじいちゃん! 見えないのに、攻撃が来る!」

 

「感心してる場合じゃないですよ! あのおじいちゃんまったく戦えそうに見えないのに全然近づけませんよ!?」

 

 ジャンヌは『とある条件』で『矢除けの加護』を得れるものの、現在はそれがない。だが、今はなんとか小碓と共に矢を防いだりしながら、森の中を走り回っている。

 

「妙な格好のおなごじゃのう」

 

 相手をしている老人……紀昌は、何も持っていない両手をまるで『弓を引く』ように動かすと、そのまま放した。

 

「『不射之射(ししゃはいることなし)』……何故かはわからぬが、こうすれば何かが届くのだ」

 

「くぅっ、全然近づけない!」

 

「一度しか放してないのに、何発飛んできてるのさ!」

 

 ジャンヌと小碓の二人は見えない射撃を必死に避け、弾き、森の中を走り回って木を盾にしてなんとかダメージを受けないように立ちまわっていた。

 

「……一か八か、吶喊してみます!」

 

「考えが脳筋芋娘じゃないですか! ……といっても、それくらいしかないですね……! 私は回り込みます!」

 

 『気配遮断』で森に溶け込むように消えた小碓を横目に、ジャンヌは剣と旗をそれぞれの手に持って紀昌に向けて駆け出していく。しかし紀昌は落ち着いた様子で再び見えない弓を引くと、ジャンヌに向けて矢を放つ。

 勘と経験で両手の武器を振るい、見えない矢を弾いていくジャンヌ。それでも何本かが身を掠め、切り傷を作っていく。致命的ではないものは弾くより避けることを優先し、どうしようもないものだけに集中している。

 

「もう少し……! 届く!」

 

 片手の旗で矢を弾き、もう片方の剣を振り下ろそうとして……

 

「『忘却之弓(ゆみをわすれはてられたとや)』」

 

「えっ……」

 

 ――急に鈍くなった身体に戸惑ったジャンヌの一撃は、紀昌の一歩手前の地面に突き刺さった。

 

「危ないッ……!」

 

 そんなジャンヌに向けて、紀昌はいつも通りの動きで弓を構え、頭に向けて矢を放つ……が、ぎりぎり割り込んだ小碓の大剣によってなんとか防がれた。

 

「ごめんなさいっ」

 

 その瞬間、ジャンヌは重い体をなんとか動かして、小碓を連れ森に飛び込んだ。

 

「ど、どどどどういうこと!? け、剣から……『三聖人の声聞き立ち上がる少女(ラ・ピュセル)』から力を感じません!」

 

「ええ!? た、確かに……! その剣からいつもの神秘が感じられない……!」

 

 ジャンヌの身体能力を底上げしていた『三聖人の声聞き立ち上がる少女(ラ・ピュセル)』が現在はただの武器としての性能しか発揮していないのをジャンヌと小碓は感じ取った。

 

「相手の宝具……!?」

 

「弓の達人ってだけじゃなかったんですか!?」

 

「……これが剣だけなのか、旗もかかるのかがわからない以上、あんまり正面から行かない方が良いかもね」

 

「……いえ、逆に突っ込みます!」

 

「はぁ?」

 

 ジャンヌの決意の籠った顔に、呆れたように返す小碓。

 

「この剣がなければ私は町娘とまったく変わりません。……この旗でなんとか小碓さんを支援するくらいしかできないと思います。だからこそ、囮と支援であのおじいちゃんを引き付けます!」

 

「……うん、わかったよ。死なないでくださいね」

 

「ふふ、そちらこそ!」

 

 そう言った後、二人はお互いにうなずき合い、散開する。

 

「もう一度吶喊します!」

 

「素直な娘だ。故に中てられる」

 

 先ほどの速度は出せず、動きも鈍いままであるが、先ほどよりも怪我をしながら一歩ずつ進んでいく。

 

「くぅっ、凄い命中精度……! でも、ここまで来れば……!」

 

 旗を振るうと、紀昌はそれに矢をあて弾く。それから一歩下がり、再び連射を始める。

 

「く、ま、だぁっ!」

 

 至近距離での見えない矢の乱射になんとか対応するものの、じりじりと体勢を崩されていくジャンヌ。

 

「……マスター、ごめんなさい、五分だけ、第三宝具、解放します!」

 

 らちが明かないと感じたのか、ジャンヌは一度大きく旗で矢を払うと、後方へ下がり、木の陰に隠れた。

 

「主よ……全てをゆだねます。最終宝具発動――『紅蓮に燃える奇跡の聖女(ジャンヌ・ダルク)』」

 

 ジャンヌがその真名を開放するとともに、剣から炎が渦巻き、ジャンヌの体を炎が包む。だが本人は何事もなかったかのように紀昌の方を向き、剣を振った。

 

「……あなたの宝具……私の剣だけを封じていたようですね。何か理由があるのでしょうが……今の私にはあなたの矢は通らない!」

 

 ジャンヌの第三宝具『紅蓮に燃える奇跡の聖女(ジャンヌ・ダルク)』の効果により『炎避けの加護』と『矢除けの加護』が付与されたジャンヌは、自身の炎で焼けることはなく、相手の矢を躱しやすくなる。

 

「行きます! はぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 指向性を持った炎が紀昌を襲う。矢を放ちながらそれを避ける紀昌だが、老いた体ではそれもままならなくなっていく。

 

「むぅ、面妖な……!」

 

「本当に、そうだね」

 

「……む」

 

「私は、貴様を打ち取るよう命じられ遣わされたのだ。……この一刺しは、お前の命を狩るだろう。手向けだ。これが最期の一撃。逝け――『西方征伐(くまそうちたおし)倭姫刀衣(だますころもとつるぎ)』」

 

 炎で動く方向を誘導されていた紀昌の背後から、隙をついて小碓が忍び寄る。

 口上により真名を解放された短剣が紀昌の背中を貫き……。

 

「ぐ、ぬぅ……!」

 

「じゃあね。達人のおじいちゃん」

 

 宝具の効果によって、紀昌の霊核が問答無用で破壊され、紀昌は動きを止めた。

 それを見届けて、ジャンヌも宝具の発動を止める。

 

「……わしの……極めた技とは……一体……」

 

 両手を見つめたままゆっくりと粒子へ変わり……紀昌は魔力になって消えていった。

 

「……よし、次に行きましょうか」

 

「そうですね」

 

 二人は何かを振り切るように、駆け出していった。

 

・・・

 

 




――ステータスが更新されました。

クラス:キャスター

真名:李徴 性別:男 属性:混沌・狂

クラススキル

陣地作成:E-
魔術師としてではなく、獣としての陣地を作成できる。魔術的な効能は全くなく、ただ宝具使用後に『戦いやすくなる』程度のものでしかない。
……が、時間をかけて作成した陣地は彼の獣としての戦闘力を如何なく発揮することができる。

道具作成:E
魔術師ではないので、普通の人間が作れる程度の道具しか作れない。だが、それでも人の状態で戦うには大きな役割を果たしている。


保有スキル

狂化:D(EX)
筋力と敏捷のパラメーターをアップさせるが、言語能力が不自由になり、複雑な思考が難しくなる。
宝具の発動によりさらに狂化のランクが上がりパラメーターも上昇するが、彼は思考も出来なくなり、獣へと近づいていく。

野生:A+
獣そのものとして、非常に発達した五感を持ち、自然の中に溶け込める性質。
自らの命の危機に対して、未来予知のような反応を見せる。
怪力や異形、直感、勇猛、気配遮断、気配察知などの複合スキル。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。むしろ、彼の性質的にはマスターもおらず単独で行動しているときが一番の性能を発揮出来る。

精神汚染:―
精神干渉系の魔術を遮断する。初めはランクもなくほとんど異常は見られない代わりに精神干渉魔術もほぼ遮断できないが、宝具の使用、時間経過によってランクが上昇していく。
最終的には同ランクの精神汚染を持つ人物ですら意思疎通も意気投合も不可能になっていく。


能力値

 筋力:C 魔力:E 耐久:B 幸運:D 敏捷:B 宝具:A

宝具

此夕渓山対明月(さんげつき)

ランク:A 種別:変身宝具 レンジ:― 最大補足:一人

彼が自覚するほどの己の獣性を表に出すことで、『虎』に変化する。『虎』になれば、筋力や敏捷、耐久などのステータスが上がるが、精神は汚染され、『獣』へと近づいていく。
最終的には完全に虎になり、人へは戻れなくなる。彼の言うところの『臆病な自尊心』と『尊大な羞恥心』が己を虎へと変えるのだと言う。そして、最終的に彼のクラスは『バーサーカー』へと変化し、人としての理性を完全に失う。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。