ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「ねえ、今日はどのくらいに返ってくるの?」「ん? そうだな、少しだけアンリの所に行って……夕方には戻るかな」「そ、そう。ええと、今日は、この部屋はギルだけになったりする?」「そうだなぁ……まぁ、他のサーヴァントたちは色々と用意もあるからな。俺以外は鯖小屋に行くんじゃないか?」「ふぅん……え、ええと、きょ、今日はギルが帰ってきたら私は寝てるかもしれないけど……気にせず帰ってくるのよ?」「うん? ああ、もちろんだとも。できるだけ早く帰ってくるよ」「ね、寝てて気づかないかもしれないけど! い、一緒のベッドに寝るのよ?」「そうだな、起こしたら申し訳ないけど……」「たっ、たぶんっ、深い眠りについてるからなにされても気付かないと思うわっ!」

「……なにアレ」「んあ? ああ……『遠回しの意味を間違ってるツンデレ』と『それを分かっててからかってる性悪王』よ」「ああ、いつものプレイですか」「プレイて」


それでは、どうぞ。


第五十話 いそがば回れとよく言うが

 『諸国会議』がある。と言っても、だいたいはトリステインがメインとなって話しあう四カ国の会議である。トリステインとゲルマニアは連合軍を組んでいたが、ロマリアは義勇軍をわずかに参加させただけであり、更に遅れて艦隊を出発させたガリアも、参加を表明していた。

 

「……このガリア、めちゃくちゃ怪しいよな」

 

「ですね。あのタイミングでアルビオンの近くに艦隊を展開する理由がわかりません。こちらからガリアに参戦を要求していたわけでも無いし……」

 

 鯖小屋での集会にて、思い思いの姿勢で椅子に座るみんなが、俺の言葉にうなずきながら応える。

 

「トリステインの軍が『反乱』で敗走しているのを見越しているみたいに、ロンディヌウムを目指していたようですね」

 

 特に参戦要求をされていなかったガリアが、あんなところに艦隊を展開し、さらにはロンディヌウムにトリステインの旗を見ると踵を返していく様は、なにやら『新生アルビオン』をつぶす予定だったように見える。

 まさかアルビオンの首都が落ちているとは思わなかったというような動き方をしていたのだ。ガリア……そこの王は『無能王』と呼ばれているらしく、今回のこの艦隊展開も自国の貴族やらからは「軍の動かしどころを見誤った無能王」と言う見方をされているようだ。

 確かに今回の件だけを見るなら戦場の展開を見誤ったとも思えるが、どう考えても『反乱』でおかしくなったトリステインが敗走せずに進撃し、ロンディヌウムを数日で取るなんてことは考えられない。それがなければ、ガリアは一国でアルビオンの首都を落とせていたのだろう。

 

「それが狙い……この戦いの裏に、ガリアがいた……?」

 

「そこまで行くと陰謀論者みたいになってしまいますが……なくはないかと。ガリアが相当なアホしかいない国じゃない限り、『無能王』なんて呼ばれているのがトップに立っていて運営できるとは思えません」

 

「つまり、そいつは能ある鷹ってことね。『反乱』の後ろにいたのもそいつだって考えた方が良いわね。姿も見えない黒幕に気を付けるよりは、精神衛生上良いでしょうし」

 

「なるほど、そりゃそっちの方が良い。敵は目に見える奴じゃないとな。殴って倒せるならそれが一番早い」

 

 問題は、その目に見える敵が……俺たちの知らない戦力を持っている可能性があるということだ。

 おそらくではあるが、『レコン・キスタ』と裏でつながっているまであると思う。と言うことは、カルナ以下サーヴァントが向こうの戦力にいると考えてもいいだろう。

 

「敵はカルナ、それに李徴と紀昌、それに軍団を率いるサーヴァント……その四人は確定だな。他にいたとしてもあと一人か二人……直接的な戦闘能力がないか、低いクラスのサーヴァントの可能性が高いと思う」

 

「キャスターとかアサシンとかってことですか?」

 

「ああ。支援に長けているか、情報収集なんかで動いてるんだと思う。じゃなけりゃ、俺たちが動いていた時にもっとぶつけてきていたはずだからな」

 

 あの四人だけで学院を攻めたというのが、おそらくこの説を後付けしてくれるだろう。

 ……まぁ、俺がそう考えているだけで他にもいて温存されていたのかもしれないとか、この期間で新たに召喚されたりしている可能性もあるんだが……だが、『聖杯』ほどの魔力リソースがそんなにポンポンあるとは思えない。

 何故かこちらの世界に流れてきている『聖杯』を、向こうはいくつか掌握しているのだろう。だからこそこちらもランサーを召喚したのだが……うーん、これがどう影響するかだな……。

 

「アンリがトリステイン代表で行く予定だから、それにこっそりついて行って確認するとしよう」

 

「ならボクの出番ですね」

 

 小碓が張り切った顔で身を乗り出す。それもそうだ。小碓の得意技は暗殺と潜入。こういう時には一番役に立つ。

 

「あとは壱与と卑弥呼がサポートしてくれれば完璧だな」

 

「ほお! 聖なる占い師たちと聖なる幼子が試練に立ち向かうというのか! これは、とても、興奮、するッ!」

 

「しない方が良いと思うよ。中身はともかく外見は小さいんだから、君がめちゃくちゃ怪しい人みたいになるよ?」

 

「元々じゃろ。今更こやつがこやつの価値観で興奮してしょっ引かれようとも気にせんじゃろ」

 

「……それもそうか」

 

 変に納得するチームセンゴクの二人に振り返り、ぺトルスが叫ぶ。

 

「安心してくれたまえ! 自分が興奮するのは聖王の聖棒だけだ!」

 

「ドギツイ下ネタ言いますねこの人……卑弥呼さまも負けてられませんよ!」

 

「やめてよわらわを下ネタ製造機みたいに言うの。っていうか読みが一緒だから普通にいやらしいわよねこいつ」

 

「性棒……つまりちnっぼへぇっ!?」

 

「言うな。殴るわよ」

 

「も、もう殴ってますぅ……うぅ、ギル様に叩かれたかったぁ……」

 

「ぜーたくいわないの。ご褒美になっちゃうでしょ」

 

 そこから話を戻して、『諸国会議』の話に。

 

「ま、そのガリアの『無能王』とやらが来る理由があるんでしょう」

 

「しっかし、そこまで無能無能と言われているとは、『虚無』とやらに目覚める前のお館様のようじゃな!」

 

 はっはっは、と笑いながら信玄が(アニエスの体で)呵々大笑する。そこで、空気が静まり返る。

 全員がぐるんと信玄へ顔を向け、その中でも頭脳派の卑弥呼と謙信、小碓がお互いに目を合わせる。

 

「そういうことか……? 確かに、『虚無』を使えるのがルイズ嬢だけだとは限らないよね」

 

「『虚無』を使える奴が『使い魔召喚』をするとギルやエルキドゥのようにサーヴァントを召喚するっていうのはある程度証明されてるわけだし……」

 

「それなら、その『無能王』が『虚無』の使い手ってこと? ……もっと言えば、サーヴァントを召喚してる?」

 

「なら、その狙いは何だ? 諸国会議で何を……」

 

 頭を回転させてみるが、どのみち今の状況でわかることは少ないだろう。

 俺たちの様子を見て、信玄も同じことを思ったのか、「ともかく!」と大声を出して立ち上がり……。

 

「どうせその時にならなければわからぬだろう! 備えるのは大切だが、恐れるのは違うぞ!」

 

「……それもそうだな。今回の件でアンリと一緒に行くことになってるし、信玄が取り付いてるアニエスはアンリの直属の近衛と言ってもいい存在だ。それにマスターがついて言っても、おかしい事じゃないだろう」

 

 そして、今回は学院の守りをコルベール先生とライダー……菅野直に任せて、俺たち全員で向かうことにする。アルビオンで何が起こるかわからない以上、色んな状況に対応できるようにしていかねば、相手の対応をできないと判断したのだ。

 それに、こちらにはカルキもいる。もしカルナが出てきた場合、俺とカルキのコンビで確実に仕留めるつもりだ。それに、カルキのスキル『Program Kali-Yuga』は高速演算や予知などの複合スキル。こういう時に相手の狙いを見抜けるのではと期待している。

 

「これだけいれば、なんとかなるだろう。……よし、頑張ろう」

 

 おー、とそれぞれのサーヴァントたちが、掛け声を上げた。

 

・・・

 

 飛行船の中。サーヴァントたちは飛行船の警備に向かい、カルキは自身の一部であり武器でもある個人用光年距離航行船に乗って周りを警戒してくれている。

 そんな中、俺はマスターを連れてアンリの下へと向かっていた。

 

「それで、今回の『諸国会議』でガリアが何かを仕掛けてくるって?」

 

「確定じゃないけどな。マスターやテファのように、『虚無』に目覚めていて、サーヴァントを召喚している可能性が高い……んだと思う」

 

「煮え切らないわねぇ……」

 

 そうはいっても、『コントラクト・サーヴァント』で俺を召喚したマスターや、ある日魔法陣が現れてエルキドゥのマスターになったテファなど、『虚無の持ち主は英霊召喚に巻き込まれる』と言うのが俺たちの認識だ。そして、ガリア王はおそらく『虚無』の力に目覚め、サーヴァントもともにいることで何かを成そうとしているのだろう。

 そのために、今回の『諸国会議』を利用しようとしている。本来ならば先の戦争でロンディヌウムを落としその成そうとしている何かを進めようとしていたのだろうが、それを防がれ、こうして少し無理にでも仕掛けてこようとしているのだろう。

 

「その辺をアンリに説明するのと、マリーには霊体化してでも常にそばにいるようにと伝えるつもりだ」

 

「そうね……サーヴァントはサーヴァントじゃないと対応できないし……あんたが駆けつけるまでに、姫様一人じゃ絶対にもたないし……」

 

 そんなことを話していると、アンリが寝室兼執務室にしている部屋にたどり着いた。衛兵は俺たちの顔を見ると、一礼して一歩扉からずれた。

 お疲れさま、と一声かけて、扉を開ける。一応『オルレアン伯爵』として来ているので、こうして顔パスなのだろう。

 

「姫さまっ」

 

「ああっ、ルイズ!」

 

 ひっし、と抱きしめ合う二人。……仲いいよなぁこの二人。

 

「また巻き込んでごめんなさいね、ルイズ……」

 

「いえっ。今回のことは私の『虚無』が引き起こしたこと……むしろ姫様を巻き込んでしまったのは私です……」

 

 このまま放っておくと永久に謝り続けそうなので、ある程度で仲裁する。

 それから、先ほどマスターと話していたことをアンリに伝えると、マリーが実体化して出てきた。

 

「それなら、しっかりとアンリを守らないとね!」

 

「……お願いね、マリー」

 

「お任せあれ! 王さまが来るまでの時間稼ぎはできると思うわ!」

 

 そういって笑うマリーに、防御宝具を一つ貸し出す。これは円盤状の宝具で、脅威が近づいてきたときに雷で反撃してくれるという万能防御宝具である。基本的にはステルス状態で不可視化しており、攻撃を受けたときに自動で発動して姿を現すようになっている。

 

「大丈夫だと思うけど、アンリだけでガリア王に接触したりすることがないようにしてくれよ?」

 

「ふふ、流石にそこまでおバカさんではないですわ。マリーもいますし、無茶はしないようにします」

 

 そう言って柔らかく笑うアンリ。この子はかなり思い込んでしまうところがあるから心配していたけど……立場が似ているマリーがいるからか、精神的に崩れることがあまりないように思える。ある程度は安心して任せてもいいだろう。彼女は姫としてのやさしさと、女王としての強かさを身につけてきているように感じる。

 明日の流れをアンリと共に確認したが、おそらくゲルマニアとアルビオンを二分割し、ロンディヌウムにトリステインから一人貴族をあて、その副としてゲルマニアからの使者を置く、と言う流れになるという。

 ロマリアは義勇軍を参加させたとはいえ少数であったのでおそらく発言権はなく、ガリアに関してはほとんど関係なく何を言い出すかわからないとのこと。

 

「ですので、ゲルマニアとトリステイン……あとはロマリアでアルビオンを監視する『三国同盟』とでもいうべき同盟を組もうと思います」

 

 アンリの話によると、トリステインかゲルマニアのどちらかで新生アルビオンのような勢力が生まれたとき、どちらかの国と共同で軍事行動をとれるというものである。そんなことはもうないのがいいのだが、裏で暗躍しているであろう『レコン・キスタ』のような組織がいることを考えると、やはり国同士の連携は必要になってくるのだろう。

 かといっても、今のトリステインは破竹の勢いで進む強国のようになっている。一時期はゲルマニアとの同盟のためにアンリが嫁ぐ、なんて話もあったが、今では立場も対等か逆転したまであるので、ある程度強気に出られるようになったのは大きいだろう。こういう交渉の時に引かずに済むというのは国としてはかなり有利に働くだろう。

 

「……問題はそれにガリアも参加すると言った場合ですね」

 

「確かにな。目的が『新教徒や共和制が勃興することを防ぐ』ことならガリアの参加を拒否する理由はないからな」

 

「自国に他国の軍をいれるというのがどれだけ恐ろしいかは、トリステインが一番分かっています。……そこに、信用のできないガリアをいれるのは……かなり勇気のいる決断ですね」

 

 アンリが憂いた顔をして自嘲するように言う。

 確かに、特殊な同盟とでもいうべきその同盟は、何を考えているのかわからない国をいれるにはリスクが高い。

 

「逆にここで仕掛けてきてくれれば対処出来て楽なんだけどな……」

 

「変なこと言わないでよ。ようやく一つの戦争が終わったんだから、少しは平和をかみしめなさい」

 

 俺の言葉に、マスターが心底嫌そうな顔と声色をしながら肘で俺をつつく。それは確かにそうだな、と隣に立つマスターを撫でながら思う。

 問題を解決したいという効率的な考えが表に出すぎたようだ。マスターの言うように、アルビオンは疲労している。今はこの国に住む民たちを癒す時間が必要だろう。

 

「それも、この諸国会議が終わってからのお話です。……王さまとルイズはこれまで頑張ってくれましたから、次は私が頑張る番です!」

 

 ふんす、と細く美しい腕を曲げ、力こぶを出すようなポーズをとるアンリ。もちろん腕に力こぶは出ず、どうにもかわいらしさしか感じられない。……明日に響くだろうから、トリステインに帰ってから存分にかわいがるとしよう、と心の中だけで頷きながら決める。

 だが、アンリはすぐに頑張りすぎるところもあるし、そこは気を付けてもらいたい。そんな意思を込めながらマリーに視線を向けると、マリーも苦笑しながら小さく頷いた。

 

「さてアンリ? 明日から長丁場になるでしょうし、早めに休んだ方が良いと思うわ」

 

「それもそうですね。私たちはここで失礼しますので、姫様はごゆっくりお休みください」

 

 マリーの言葉に続いたマスターの言葉に、アンリは苦笑しながら立ち上がる。

 

「わかりましたわ。今日は早めに休むとします。……ルイズ、王さま、マリー。明日からも、よろしくお願いね」

 

 アンリの言葉に、俺たちは全員頷きを返す。……勝負は明日から。どうなるかわからない諸国会議が、始まる。

 

・・・

 

 翌日。ハヴィランド宮殿のホワイトホール。その円卓に、アンリが腰かけている。隣にはアンリを好色そうな目で見つめるゲルマニアの皇帝が。……あとで禿げる呪いをかけてやるからな。しかし、アンリエッタはそんな視線もどこ吹く風と言ったようにすました顔で正面を見ている。視線の先には、ロマリアからやってきた大使が所在なさげに腰掛けている。会議での発言権がほとんどないからか、大使のみが参加しているのだ。

 その隣には、アルビオンの全権大使としてホーキンス将軍と言う壮年の男性が座っていた。戦に負け、更には他国の王たちの前と言うこの状況でも、臆することなく堂々と座るその姿には、確かに誇りを感じることができる。隣に座る女をじろじろ見る皇帝よりも王にふさわしく見えるわね、とアンリは心の中でため息をついた。

 ここにいるものが今回の戦争に参加した国の重鎮なのだが……あと一国、来ていない国がある。ちらり、と扉に目を向けたのを見たのか、ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世が口を開く。

 

「それにしても、奴は遅いですなぁ」

 

「……ジョゼフ王ですか?」

 

 戦争中不気味な沈黙を貫き、トリステインの軍が首都にいるとき、何故か少し遅れて首都に近づいていたというガリア。今回の『諸国会議』にも本来ならば関係ない国ではあったのだが、今回の『新生アルビオン』のようなものに対処するためにも、ガリアのような大国をのけ者にはできないということでトリステイン、ゲルマニアの名義で招待されていたのだった。

 

「ええ。無能な色男……あのような大国の格に似合わぬ王をいただいたものですなぁ。なんでも、優秀な弟を殺して、玉座を奪ったのだとか……恥知らずと言えばいいのか……」

 

 噂をすれば、というものか、部屋の外からどかどかどかと大きな足音が響き、ドアが大きな音を立てて勢いよく開かれた。全員がそちらに視線を向けると、青い髪の美男子……と言うよりは、美丈夫と称するべき上背に筋肉がたっぷりと付いており、引き締まった顔には、髪の色と同じ髭がそよいでいた。

 

「ガリア国王陛下!」

 

 呼び出しの係りの衛士が、慌ててその王の登場を告げた。

 

「これはこれは! お揃いではないか! いやはや、途中から混ぜてもらっておいて最後の登場とは申し訳ない! しかしこうしてハルケギニアの王が一堂に会するとは、これまでにもない事! めでたい日であるなぁ!」

 

 入り口で嬉しそうに笑いながら円卓に近づくと、その途中でアルブレヒト3世の下へと向かい、その肩を叩く。

 

「これはこれは親愛なる皇帝陛下! 戴冠式には出席できずに失礼した! 親族たちは元気かね? 君が冠を戴くために城を与えてやった親族たちは!」

 

 先ほどまでアンリに向けていたような顔から一転して、アルブレヒトの顔は蒼白になった。彼が玉座へ付くために排除した政敵たちのことを言っているのだというのは、マザリーニから聞いていたから理解できた。相当な皮肉を言われているのだろう。

 

「なんでも健康のために食事や暖炉の薪にも気を使っているとか! パン1枚に水を1杯、暖炉の薪は週に2本なんて、贅沢は身体に悪いということだろう?」

 

 アルブレヒトはさらに蒼白になって、うむ、だとかああ、だとかなにやらもごもごと返答するだけだ。それを見ているアンリの瞳は冷たく冷え切っており、早くこのやり取りも終わらぬものかと思っていると、次はアンリを見つけて近づく。アルブレヒトを弄るのにも飽きたのだろうか。

 

「アンリエッタ姫! 大きくなられた! 最後にあったのは確か……ラグドリアンで催された園遊会であった! その時から美しかったが……今ではさらに美しく、ハルケギニア中の花が首を垂れるであろう! それに今回の戦でも相当な活躍をしたそうな! ほとんどトリステイン一国でこの首都まで落としたとか! いやはやトリステインは安泰だな! うむ!」

 

 そのままロマリアとアルビオンには目もくれず、ジョゼフは空いた席に着いた。上座にはアンリが座っているため、席順としてはほとんど中間と言ったところか。

 どっかりと席に着いたジョゼフは、そのままぱちんと指を鳴らす。すると召使や給仕が現れ、ホワイトホールの円卓に料理を並べていった。

 唖然とした表情のアンリに、マリー経由の念話で落ち着くように伝え、さらにこっそりと調べた結果毒なんかは入っていないことも伝えておいた。

 

「ガリアから取り寄せた料理とワインだ! いやはや今回の戦争に協力できなかったのにこうして諸国の会議に参加させてもらえるとのことでな、なるたけ良いものを選んだのだが……みすぼらしいもので恐縮だが、これで少しでも私の感じている申し訳なさが伝われば幸いだ! 楽しんでくれたまえ!」

 

 そう言ってジョゼフ掲げた杯に、給仕がワインを注ぐ。アンリ達の杯にもワインが満たされ、それを確認したジョゼフはまた高らかに声を上げた。

 

「ささやかではあるが、祝いの宴と行こうではないか! 戦争は終わったのだ! 平和に、乾杯!」

 

・・・

 

 おうさま、と隣に立つマリーの声に、俺は声を出さずに頷く。

 すでに宴とやらが始まって一時間ほどが経っており、コースも終わってしまった円卓の上には、ジョゼフの持ってきたワインとそのグラスが並べられていた。

 ジョゼフは出てきた料理を勧め、次には乾杯、と声を上げ、また料理を勧め、その次に乾杯……というのをずっと繰り返しているのだ。

 状況的にはジョゼフの詫びの会食と言うことになっているのだろうが、このままアンリではないものがこの部屋で主導権を握っているのも問題がある。今回のこの『諸国会議』ではアンリが主導権を握って話を進めなければならない。こういうところで話をどう動かすか、と言うので王の力量と、器量が測られてしまうのだ。

 このままジョゼフの勢いのままに宴が続き、宴もたけなわと言ったところでジョゼフが解散でもさせようものならこの会議の主導権はジョゼフに移ってしまう。実際にそうだとしなくとも、参加した者たち、そしてこれを見ている者たちがそう判断してしまうということだ。国は……『王』は舐められてはいけないのだ。

 その辺のことをマリーが伝えたのだろう。何度か呼吸を整えたアンリが口を開く。

 

「それで……今回の議題についてなのですが」

 

 アンリが話し始めると、料理を勧められるがままに食べだいぶん腹の苦しくなったアルブレヒトが安堵の表情を浮かべる。ようやくこの宴も終わって話ができると思ったのだろう。

 

「うむ、うむ、確かにその話も重要であるな!」

 

 酒が入っているからか、まだまだ気分の高揚しっぱなしなジョゼフに対して、アンリは話を続ける。

 

「これからその話を詳しく詰めるというのもこの状況では難しいでしょうし……今日はガリア王よりの料理で英気を養うことにして、明日より本格的なお話をしましょう」

 

 おそらく部屋の全員がその流れになるだろうなと確信しているだろうが、それをアンリから言い出したというのが大きい。

 この円卓と言う上下関係のあってないような場所でも上座に座り、今回の戦争での一番の活躍をした国の女王として、『この場を仕切る事が出来る』と言う能力や意気込みを見せることは大事なのである。

 

「うむ! こちらとしてはそれで構わん! 詫びとしての料理でみなの時間を取ってしまったことはまた反省材料だな」

 

 ははは、とさわやかに笑うジョゼフに追従するように、アルブレヒトもアンリの言葉に同意を示す。……酒に大量の料理にとあまり体調がよくはないのだろう。

 ロマリアは大使がずっと恐縮しているだけなのでおそらく反対はしないだろう。アルビオンのホーキンス将軍は無言で目を閉じたまま黙っている。発言する気はないということだろう。

 

「それでは、このワインを飲んだらわたくしは失礼すると致しますわ」

 

 そう言って最後の一口を飲んだアンリは、にっこりと笑ってジョゼフに顔を向ける。

 

「ワインに料理、とてもおいしかったですわ。今度はトリステインの料理とワインをごちそういたします」

 

「いやなに、美しきトリステインの華にそう言ってもらえるならば、用意した甲斐があったというもの。皆への土産としてワインは用意しているから、持って帰っていただきたい!」

 

 そう言ったジョゼフにアンリは再び礼を告げると、一人立ち上がる。

 

「それでは、本日はお開きといたしましょう。何かあれば、お互いの使者に伝言を」

 

 そう言ってヒールの音を立てながらアンリが退室する。それを追いかけるようにホーキンス将軍が部屋を出て、次にロマリア、ゲルマニアの順にそそくさと出て行ったあと、満足げに笑ったジョゼフが退室していった。

 ……完全に誰もいなくなったのを確認してから、俺は宝具の効果を切り、マリーと共にホワイトホールに姿を現した。

 霊体化では視界が切り替わってしまうため、他の手段でこうして部屋の中に忍んでいたのだ。ここにマリーがいるが、アンリの護衛には今小碓がついてくれているので問題はない。今は、マリーと共に疑惑の人物……ジョゼフを調べた所感を話しあう。

 

「……私のスキル的にあんまり得意ではないのだけれど……サーヴァントとしてなら、あの大きな人はとっても怪しいと思うわ。この世界における使い魔とのつながりとは違う……霊的なつながりがどこかに伸びているのを感じたわ。……それも、それなりに近くに」

 

「うん、マリーも同じことを感じていたか。俺もそのつながりは感じたな。俺自身宝具でサーヴァント召喚するから、それでわかりやすかったのかもな」

 

「ええ。では、あの人がおそらくは虚無の使い手……今回の『黒幕』に近いか、『黒幕』そのものなのでしょう」

 

 俺とマリーは同じ結論に至る。……と言うことは、ジョゼフはその野望に対して何か動きを見せるかもしれないということだ。警戒を厳にしなければならないだろう。

 

「……今日の夜、またアンリの部屋で集合だな。今のことを説明して、今後どうするかを決めよう」

 

「ええ、わかったわ! それじゃあ王さま、また夜に!」

 

「ああ。また夜に」

 

 お互いに霊体化して、お互いのマスターの下へと向かうのだった。

 

・・・




「聖王よ! 次の私への説教らせはいつだろうか!」「……それで『わからせ』って読むんだ……」「ギル様のわからせッ!? い、壱与もっ壱与もわからせてほしいですぅ! ギル様のためならメスガキになりますよっ?」「今でも十分メスガキでしょあんた。……それよりも、わらわのほうが生意気度は高いけど?」「そんな風に誘うなんて、かの邪馬台国を修めた女王も落ちたものだね。……ちなみに私は結構後輩君を弄る先輩キャラっぽくない? 屈服させたくならない?」「屈服……させたいですか? わ、私とか、村娘ですし……マスター的には身分を利用した屈服とかやりたいんですよね?」「ぼ、ぼくのこと……わからせ、ますか……?」「くっ、殺せ! ……謙信にこう言えと言われたんじゃが、なんじゃこれ? なんでわしが生殺与奪の権利を他人に握られとるわけ?」「と言うわけで、急に王さまにわからされたいサーヴァントがいーっぱいできたら? と言うプレゼンでした」「……やだなぁこんなエロゲ……」


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