ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
――欠けた夢を見ているようだ。
それは、臣下のいない玉座に座る、一人の王。
――景色が跳ぶ。
それは、世界を巡る、一人の王。
――時間が跳ぶ。
それは、白い空間に佇む、一人の――。
「はっ!?」
目を覚ます。なにやら、妙な夢を見ていたようだ……。がば、と体を起こすと、横から声を掛けられる。
「おや、おはよう。今日は早いじゃないか」
蔵から取り出したのだろう、シンプルながらも質の良い椅子に座って読書しているギルが、本を閉じて空中の波紋の中へしまう。そのまま立ち上がると、座っていた椅子も波紋を通って消えていく。おそらく宝物庫の中にしまったのだろう。本当に便利な蔵である。
昨日宝物庫……『
考え事をしている私をよそに、立ち上がったギルは窓へと歩み寄り、カーテンを開く。眩しい太陽の光が入ってきて、私は少し眼を細める。……召喚以来黄金の鎧なんて着ていないはずなのに、何故か私には朱色のマントを付けた黄金の鎧姿が脳内に焼きついている。今も、太陽光を浴びて微笑むあいつがキラキラと輝いて見える……なんて、恥ずかしい言葉が頭を過ぎったりする。
慌てて視線を逸らすと、そういえば昨日は制服を着たままで寝たんだと思い出す。ギルに着替えを求めようとして、す、と隣に誰かが立つ気配を感じる。
「あ、あんたっ……!」
私の制服一式を持って立っていたのは、昨日の決闘騒ぎのときにあいつの蔵から出てきたメイドだった。昨日と全く変わりなく、無表情のまま、こちらを見下ろしている。……ずっと眼を閉じているので、見下ろしてるのかどうかすら分からないけど。
取り合えず着替えないと、とベッドから降りると、ベッドの上に着替えを置いたメイドが私の服を脱がせていく。おそらくギルからの指示なのだろう。テキパキと手際よく脱がされ、そのまま新しい服へと着替えていく。
「……ま、まぁまぁやるじゃない」
そんな私の言葉にメイドは一礼すると、一歩下がる。すると、窓から外を見ていたギルが「終わったかー」なんて気楽そうに振り返って声を掛けてくる。そのまま部屋を出て、朝食を取りに食堂へ向かう。あのメイドは部屋で留守番だ。片付けとか掃除とか、そういうのを頼んでいる、とギルは言っていた。
「……ねえ。あのメイドって……その、同じ幽霊なの?」
幾ら蔵の中に入っているからと言って、全くおんなじ顔が六人もいるなんて、普通の人間じゃありえない。ならば、ありえる可能性は……昔ギルが王様だったということを加味して……その当時、ギルに仕えていたメイドが、死後も仕えていると言うのが一番ありえると思う。そう思って聞いてみると、ギルは顎に手を当てて少し考えた素振りを見せたあと、教師が生徒に教えるように指を一本立てて説明をしてくれた。
「まぁ、生前から世話になってるって言うのはあってるけど、彼女達は英霊じゃないよ。黄金で出来た、人間の完成形って言うか、こっちで言うならゴーレムとかその辺になるのかなぁ」
「人間の完成形なのに、ゴーレムに近いの?」
なんか変じゃない? とギルに聞き返してみると、「まぁそうなんだけどねぇ」と困ったように笑う。
「ま、その辺は難しいから、取り合えず凄い人間だって思っててくれれば良いよ」
「……今のところはそれで納得しといてあげるわ」
昨日の決闘騒ぎから、なんとなくギルの性格みたいなのが見えてきて、少し話しやすくなった感じはする。……多分、私が心のそこでは信じていなかった『英霊』と言う存在をあの決闘騒ぎで信じるようになったから……だと思う。なんというか、少しは信用してもいいのかな、なんて思っていることを自覚する。
「そういえば、今度こそシエスタちゃんにお礼言ってくるよ。昨日はそれどころじゃなかったしね」
「はいはい。今日は昼まで座学だから、厨房で手伝いでもしてなさいな」
昨日の決闘騒ぎを知っているクラスメイト達のいる教室に連れて行けば、確実に面倒なことになるだろう。特にあのツェルプストーとかは確実に詰問してくるだろう。それは面倒くさいし、何より……その、嫌だ。
それなら、メイドの手伝いでもさせておいたほうが平和だろう。昨日すっかり忘れていたのだが、こいつ食事必要ないみたいだし。そんなことを思いながらの指示だったのだが、ギルはいつものように優しく微笑んで「ありがとう」と言った。
素直に感情を伝えてくるこいつに、気恥ずかしさとかいろんな感情が混ざり合って、ついつっけんどんな態度と言葉が出てしまう。
「いいから、行くならさっさと行きなさいっ」
「了解。あ、なんかあったら頭の中で強く俺に話しかけてみるといい。多分、念話くらいなら伝わるから」
「……便利ね、英霊」
……授業中、早速ギルと念話で話しながら授業を受けてしまったのは、悪いことじゃないだろう。だってもう予習してたところだったし、暇だったんだもん。
・・・
マスターと分かれて、厨房へと来ていた。ここにいる料理長のマルトーという男にシエスタちゃんを助けたことを感謝され、平民なのに貴族に立ち向かったということで、『我らの英雄』なんて恥ずかしい二つ名がついたりしたものの、食器洗いを手伝わせてくれるくらいには仲良くなれた。
「その『我らの英雄』って名前つけてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと距離感じるしさ、普通に『ギル』って呼んでくれた方が嬉しいかな」
食器洗いが終わった後にそう切り出してみると、その言葉が何やら琴線に触れたのか嬉しそうに俺の肩に腕を回し、笑い始める。
「わっはっは、聞いたかお前ら! 『我らの英雄』は貴族を倒したっていうのに驕らないようだ!」
その言葉に、厨房のスタッフたちは口々に俺を褒め始める。……うぅむ、なんというかくすぐったいなぁ。
それから、シエスタが直接謝りたいみたいだ、とマルトーから言われ、気を利かせてくれたのか、スタッフ用の食堂でシエスタと二人きりにしてくれた。マルトーたちは昼食の下ごしらえに向かっていった。
「……あの、ギルさん。あの時は逃げてしまって申し訳ありませんでしたっ!」
気まずそうにしていたシエスタちゃんだが、意を決したのかがば、と頭を下げつつ謝ってきた。
まぁ、いろいろ聞いていくうちに、平民と貴族の力の差だとかこの世界のことを聞けたので、殺されてしまう、と恐れてしまった彼女を責めるつもりは一切ない。というより、あれは彼女を助けるために割り込んだのだし、逃げてくれたのはそれはそれで良い判断だと俺は思っている。
だから、彼女に責は一切ない。むしろ、色々と場所を教えてくれたりした彼女に、まだ恩を返しきれていないのではないかとこちらが恐縮するくらいである。
「俺は全く怒ってないし、シエスタちゃんを責めるつもりなんてないよ。ほら、顔上げて」
深く腰を折って謝っているからか、俺の目の前にあるシエスタちゃんの頭を撫でつつ、そっとあげる。
「洗濯の場所を教えてもらったり、話し相手になってくれたり、シエスタちゃんはなんてことないっていうけど、俺は感謝してるんだよ。だから、シエスタちゃんを助けるのは当たり前ってこと」
「そ、そんな、感謝なんて……!」
「まぁまぁ、あ、そうだ。感謝の気持ちとして用意してたのがあるんだよ」
そう言って、以前渡そうと選んでおいたハンドクリームを宝物庫から取り出す。シエスタちゃんは突然できた空間の波紋やら、そこから出てきたハンドクリームやらに驚き、「魔法を使えるんですか!?」なんて言われたりしたが、シエスタちゃんなら大丈夫か、と掻い摘んで宝具のことを説明した。
「英霊……ですか」
「あはは、まぁ、信じられないよねぇ」
「いえ! 信じます! ギルさんの事で、私が疑うことなどありません!」
「それは言い過ぎじゃないかなー?」
キラキラとした瞳でこちらを見るシエスタちゃんにちょっとだけ苦笑いをしながら、本来の目的であるハンドクリームを渡す。
予想通り「受け取れません!」なんて焦るシエスタちゃんに、じゃあまた何かあったら話し相手になってほしい、そのための報酬の前払いだと思ってほしい、と半ば無理やりわたした。
「……ギルさんは、強引な方なんですね」
俺が渡したハンドクリームを大切そうに握りながら、シエスタちゃんは微笑む。……ふむ、この子の笑顔は素朴で素晴らしい。マスターとともに、この子の笑顔も守っていこう、と。そう思った。
・・・
ある日。いつも通りにマスターを起こすと、今日は学校が休みなんだと寝起きのマスターに不機嫌そうに言われた。なるほど、確かに学生には休みの日があって然るべきか。あの決闘騒ぎ以来、俺やマスターに変なちょっかいをかけてくるような生徒はいなくなったので、ゆっくりとした休日を過ごせるだろう。常に自動人形が一人侍ってるからなぁ。この子の膂力を見て、それでも突っかかってくる生徒はいないだろう。
「マスター、今日の予定は? 出かけたりとかはするのか?」
備え付けの机で軽く予習をするというマスターに声をかける。んー、とペンを持つ手を口元に持ってきて、少しの時間思考を巡らせたマスターは、そのまま振り向かずに首を横に振った。
「特にそんな予定は無いわね。買い出すものもないし」
「ふむ……なら、街へ行ってきていいか?」
俺の言葉に、マスターはくるりと振り返る。少しだけ眉間にしわが寄っているのを見るに、何言ってんだこいつ、と思っているんだろう。この一週間ほどで何度か見た顔である。
「自動人形を一人置いていくから、何かあれば雑用くらいやってくれるだろうし」
「なに買いに行くわけ?」
「んー? 特に目的はないよ。……あ、城下町っていうのを見たいのが目的っちゃ目的かな?」
「ふぅん……」
マスターはそう言うと、一つ頷いてペンを置いた。
「なら、私も行くわ。あんた一人で行かせた日には、なにやらかすかわからないし」
「了解。じゃ、行こうか」
「あ、あんた、何私の手を……」
窓を開け放つ。すでに『
「は? え、ちょ、ここ結構たか……ひゃああああぁぁぁぁ……!?」
・・・
虚無の曜日。それは学園にいる生徒にとっては羽を伸ばせる休日を意味する。
そして、それは二年生になったばかりの生徒たちに取っても例外ではない。外に出かけるもの、使い魔と親交を深めるもの、自分の趣味の世界に没頭する者……。
「……」
青髪の少女、タバサも例外ではなく、趣味の読書に勤しんでいた。自身の周りには消音の魔法をかけており、窓のそばで五月蝿くしている使い魔の竜やら、騒音からは遠い状態であった。
「……?」
そんな彼女が珍しく顔を上げたのは、急に自分の使い魔が喧しく自分に念話を送ってきたからだ。
かなりの緊急事態か、と視覚を共有してみると、片目が自分の使い魔の視界へと切り替わる。
「っ!?」
瞬間。その視界の目の前を、黄金の何かが横切っていく。慌てて自身の使い魔……シルフィードに後を追うように伝える。……が、返ってくるのは「速すぎて不可能」という悲鳴じみた答えだった。
……竜が追いつけない速度で去っていく黄金の何かが気にならないわけがない。考えてみると、あちらの方角は城下町がある。そのまま真っ直ぐ行くのであれば、だが。兎に角一度追いかけるべきだろう。
そう思い、シルフィードを呼び寄せ、窓から飛び乗ろうとする。
「おじゃまー。遊びに来たわよタバサ……って、どうしたの? 珍しいじゃない、貴方が虚無の曜日に出かけるなんて」
シルフィードが戻り次第飛び移ろうと待機していると、勝手に鍵を開けて友人のキュルケが部屋に入ってくる。このまま無視しても良かったが、帰ってきた後に面倒なことが起こりそうだ。今までここで説明するか……いや、それより。
「……竜より早い『何か』を追いかける。来るなら早く」
「あら、面白そうじゃない!」
タバサの端的……というよりはただ要件を伝えるだけの言葉に疑問を抱くでも詳細を確認するでもなく、「面白そう」と笑ってキュルケはタバサの元へ駆けてくる。
ちょうどシルフィードが戻ってきたので、タバサはそのまま飛び降りる。後ろから、迷わずキュルケが飛び降りてきたのが分かった。
「城下町の方向。怖がらず追いかけて」
タバサとキュルケを背に乗せたシルフィードは、その言葉に少しだけ不安そうに鳴き声をあげるが、指示通り正体不明の何かを追いかけるため、高度を上げるのであった。
・・・
「うー、うー、うー!」
「どうしたマスター。そんな涙目で俺の足にしがみついたりして」
「う、うるさいうるさいうるさーいっ! こ、こんな早い船を持ってるなんて聞いてないわよっ!」
窓から飛び降り、マスターを抱えてヴィマーナに乗ったは良いが、出発した瞬間にマスターが悲鳴をあげて俺の足にしがみつき始めたのだ。
それに驚いた俺は、一瞬とはいえヴィマーナの操作を手放してしまい、青い衝撃もびっくりのアクロバット飛行をしてしまった。
そのせいで青いドラゴンにぶつかりそうになるし……慌ててスピードを上げて逃げたから、追いかけられてはいないだろうけど……。
城下町の方までまっすぐきてしまったので、遅ればせながらゆっくりと旋回して、もし追いかけてきていたら撒こうと無駄な努力をしているのだが……。
いやまぁ、それは理由の半分で、ヴィマーナの速度と機動にグロッキーになってしまったマスターが落ち着くのを待っているというのもある。というかどちらかというとこちらの方が主目的である。
「だいぶ落ち着いた?」
「……なんとかね」
こちらを恨めしげに見上げて手を振り上げるが、折檻もほとんど効かない俺にそんなことしても無駄だと思い出したのか、ゆっくりとその手を下ろした。
今のマスターは操縦席に座る俺の膝あたりにしなだれるように頭を乗せている。ちょうど良いところに頭があるので、マスターがグロッキーで元気がないのを良いことに、セクハラついでに頭を撫でてやる。
「軽々しく、ご主人様の髪に触ってるんじゃ……ないわよぉ……」
「ははは、ご主人様とはいえ年下の可愛らしい女の子だ。お爺ちゃん的心境になるのは勘弁してもらいたいところだな」
マスターはまた手を振り上げ、今度は下ろすことなく俺の太ももあたりを叩いた。……まぁ、擬音で表すなら「ぺちん」というなんとも力のない一撃ではあったが。
「ま、そろそろ空の旅も終えて、街に降りるか」
「賛成……」
すこしだけ元気になったマスターを最後にもうひと撫でしてから、城下町の近くにヴィマーナを下ろそうと意識を向ける。
隠蔽魔術が効いているから、近くに下ろしても全く問題はないだろう。
「よし、あっちが城門に近そう……む?」
ヴィマーナを下ろすために下に向けていた視線を、再び空に戻す。高速で近づいてくる何か。……魔力の反応がするが、宝具ほどの神秘ではない。
「マスター、この辺って野良のドラゴンとかグリフォンとか大怪鳥とか出たりするのか?」
「はぁ? 大怪鳥は知らないけど、ドラゴンもグリフォンも、こんなところに住処なんてないわ」
「そうか……ちなみに、今回の召喚の儀でドラゴンを召喚した子はいるか?」
「それだと……同じクラスのタバサかしら。青い風龍を召喚してたと思うわ」
「なるほどな。……それがあれか」
千里眼で見えたのは、学園の方向からかなりの速度で飛んでくる青い物体……ドラゴンの姿。風の龍ということで、きっと早さに定評があるのだろう。……そういえばすれ違ったのってこのドラゴンなんじゃなかろうか。やっべ、怒ってるのかな、タバサって子。俺とマスターは俺から接続切ってるから出来ないだろうけど、普通の使い魔は主人と視覚聴覚を共有できるらしいし……。
ならば、すこし待って謝ったほうが良いだろう。……まぁ、一度逃げておいて何言ってんだ、と思われるかもしれないが、そこは誠意を見せるしかあるまい。
ヴィマーナの機動を停止させ、向こうから発見しやすいように向きを変える。
「あの龍……タバサの風龍ね。たしか名前はシルフィードだったかしら」
俺の視線を追いかけたマスターは、何を見ているのかを理解してそう呟いた。なるほど、シルフィードというのか。それはまた、風に纏わる子らしい名前だ。
そんなことを思いながら追いつかれるのを待っていると、警戒しているのかゆっくりと風龍シルフィードが近づいてくる。
「黄金の船……帆もないけど、どうやって動いてるのかしら……って、ヴァリエールじゃない?」
「横には使い魔もいる」
声をかけてきた人物には覚えがある。マスターの天敵、ツェルプストー家のメロン娘ことをキュルケと、いつぞや図書室で出会った無口クールロリ娘だ。
キュルケは火の使い魔、フレイムを召喚していたはずだし、そうなればあの青い髪の無口クールロリメガネ青髪っ娘がタバサなのだろう。属性多すぎィ! でもそこがいい。
見知った顔を見つけて安心したのか、ばっさばっさとこちらに近づいてくる風龍。その龍に乗ったキュルケはこちらに向かって手を振っているし、その前にいる無口クールロリメガネ青髪貧乳魔女っ娘たるタバサは興味深そうに俺とヴィマーナを眺めている。……やっぱり属性多すぎィ! でもそこがいいよね!
「ちょっとちょっとヴァリエール! いつの間にこんなにすごい船を手に入れてたのよ!」
興奮冷めやらぬ様子で、キュルケがヴィマーナのことを聞いてくる。空飛ぶ船というものを見て驚かないのは、こちらの世界の船というのは基本的に空を行く乗り物だからなんだそうだ。さきほどグロッキーになったマスターの気を紛らわせるついでにしていた会話の中で、そんな話を聞いた。その空飛ぶ船がないと、空中を浮遊している国、アルビオンへは行けないんだそうだ。さすがマスター、座学は完璧である。
「ふんっ。あんたにそれを話す義理はないわね。……ギル、さっさと下ろして買い物に行くわよ」
「ん、む。それでいいならいいが。……ああ、タバサと言ったかな。その龍の主人は」
「そう」
「いやはや、図書室での恩を仇で返すような真似をしてすまんな。ちょっとそこの子を驚かせてしまったみたいだ」
「いい。私もシルフィードも、気にしていない」
そうは言うが、何かしら気になったから追いかけてきたんじゃなかろうか。まぁ、藪蛇しても困るし、ここはスルーするけど。
ヴィマーナを操作して地面に下ろすと、その横にタバサ達も龍を下ろした。俺もマスターもヴィマーナから降り、そのまま宝物庫へヴィマーナを収納すると、案の定キュルケが食いついてきた。
「何今のっ!? 空中に飛行船が消えていったわ!」
「ふふん。ギルはね、とんでもない蔵をもっているのよっ。それこそ、メイドも剣も、飛行船だって入ってるんだから!」
もっと言えば潜水艦だって戦闘機だって入ってるし、最大で世界とか入ってるけど、まぁそれは言わなくともいいだろう。
わざわざ余計なことを言って得意そうな顔をしているマスターの機嫌を損ねることもないしな。
ルイズの発言で、タバサもキュルケも視線をこちらに向けた。……何その説明を求める視線。しないよ? 長いし面倒だし……それより早く街を見て回りたいなーって。
・・・
……ですよね。ダメですよね。
現在、俺は街の一角にあるカフェテリアで質問攻めにあっていた。
色々自慢してから気づいたのか、しまった、という顔をするマスターに胡乱気な視線を向けたのはたしか一時間くらい前の話。そこからは、なんでそんな蔵をもっているのか、から始まり、結局あのメイドはなんだったのか、何故帆もない飛行船で飛んでいたのか、などなど初めてステータスを見せた時のマスターよりも激しく質問攻めにされた。
「……マスター、パス」
「ふぇっ!? あ、え、えと、ギルは昔すごく長く生きた王様で、その功績が認められて英霊で、そこを私が呼び出したから使い魔で……」
面倒になってマスターに説明を任せると、自分の失態を自覚しているのか、文句も言わず説明を始めたのだが……大丈夫か? とんでもなく言語が不自由になってるぞ?
「あ、あうあうあう……」
「あー、わかったわかった。ほらマスター、バトンターッチ」
「あうぅ……」
流石に今の自分では不可能だと悟ったのか、俺の出した手のひらに、マスターは弱々しくタッチする。最終的に「あうあう」しか言わなくなったからな。
「ええとまず、召喚されるまでの経緯なんだけど……」
幸いにも今日は休日だ。まだ昼前だし、休憩ついでに昔話をしてやるのもいいだろう。ちょうどやってきた紅茶を片手に、マスターにしたよりもちょっとだけ詳しく、彼女達に俺の身の上話を聞かせてやった。
・・・
「念話って便利ねー」『だろう? まぁ、初心者はその会話内容たまに口から洩れてることとかあるから、それだけ気を付けたほうがいいかもね』「私に限ってそんな凡ミス……ごめん、いったん黙るわ。今気づいたけど、すごい生暖かい目で回りからみられてた」『ああ、虚空に話しかける頭の痛い子状態だったんだな。はは、頑張るといい』「わかってるわよ。……ちょっと、あんたたち、これは念話をしてるだけで独り言じゃ……」「い、いえ、いいのよ、ヴァリエール。疲れてるときは誰にでもあるものだわ」「……精神、病」「ちょ、タバサ、しっ」「だから痛い子扱いするなっての!」「こらそこ! さっきからうるさいですよ!」「すっ、すみませんっ」「……怒られちゃったわね。くすくす」「む、むきーっ!」
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