ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

47 / 64
「……発症したんですか?」「は? 何をだ?」「『夢中で二つ名を付ける病』、略して『中二病』をですよ!」「……『簒奪の王』は別に俺のことじゃないからな……。ていうか『なんとかの王』は自称するもんじゃないだろ」「それはまぁ確かに。でもこういう名前ってセンス問われますよねぇ」「『獅子』とか『血斧』とか、その人のやったこととかを付けるのが主流っぽいですよね」「俺のやったことか……」「そりゃもう『絶りn』……」「それまだ擦るか」


それでは、どうぞ。


第四十六話 簒奪の王で夜露死苦ゥ!。

 シティオブサウスゴーダに来てからしばらく。休戦期間に入ったシティオブサウスゴーダに駐屯しているトリステイン軍人を相手にするため、大量の商人がやってきていて、この広場はかつてない賑わいを見せていた。

 これから年が明けると、降臨祭と言うのもあるらしく、そうなるとハルケギニア全体がお祭り騒ぎになるらしい。その前に行っておこうと思い、今俺は『魅惑の妖精亭』が仮設店舗をやっている天幕に来ていた。

 時間も真昼間だからかほとんど客がいないので、俺が今貸し切り状態みたいなものだ。両隣にアリスとジャンヌ(芋じゃない方)を侍らせながら、ジェシカを向かいに座らせて、酒を楽しんでいた。

 こうしているのは何も俺の欲望を満たすためだけではない。……いや、『だけではない』だけでその気がないと言えばうそになるけど……。しなだれかかってくるアリスとジャンヌ(垢ぬけてる方)にお酒を飲ませてあげてチップをいくらか渡しつつ、ジェシカからトリステイン情報網の話を聞く。

 ……アリスとジャンヌ(駆逐艦と言うよりは重巡洋艦みたいな胸の方)はこういうことを口外しないくらいのことは心得ているので、こうして俺の欲望を満たすついでにジェシカとは別方向の話を聞くためにこうしてついてもらっているのだ。

 

「……ふぅん、なるほどね」

 

「役に立つかい?」

 

「もちろん、役に立つとも。……ほら、これは情報料と……差し入れだよ」

 

 ちゃり、と中身の詰まった革袋をジェシカに渡し、さらに高級なワインをふた樽おいておく。これから入用になるだろうし、いらないことはないだろう。

 

「……お大尽だねぇ、王さまってのは」

 

 驚きながらも笑みを浮かべるジェシカは、革袋を懐にしまい、立ち上がる。

 

「まだ楽しんでくでしょう? とっておき出してあげるわ」

 

 そう言ってぱちりとウィンク。……さすが人気ナンバーワン。そういう男に効く所作はお手の物だな。

 

「さて、この後は降臨祭か……」

 

 それが終われば休戦協定も切れる。……あちらがどう動くか分からないので、できる対策はなるべく多くの状況に対応できるよう情報を集めること。……なんだが、小碓や壱与、卑弥呼なんかの情報収集向けの子たちを向かわせると次は戦闘能力の低さが出てしまう。……それをカバーしようとするとさらにサーヴァントが必要になって、そうすると相手に察知されやすくなるという、どっちつかずのことになってしまいかねないのだ。

 

「……どうするかなー」

 

 枠は結構ある。ランサーやら他のエクストラクラスもあるのだが……と自分の指に嵌っている指輪を見ながら考える。

 ……休戦が切れるまで、もう半月もない。

 

・・・

 

 新年。こちらでは『ヤラの月』と言うらしいのだが、そんな新年の始まりは凄まじいお祭り騒ぎで始まった。降臨祭が始まり、そこかしこで花火が上がり、大量に出店が並んでいる。

 もちろん『魅惑の妖精亭』も大盛況で、連日超満員が続いているとスカロンが笑っていた。

 俺が召喚したすべてのサーヴァントも合流し、これからについての話し合いも少しだけ進んでいた。

 

「……これ以上の戦力ってそんないらないと思うけどね。ライダーだって緊急で召喚してアレになったわけだし」

 

 そう言って謙信が指さすのは、ここに付いたとたんにありったけ食べ飲みをして酔いつぶれたアリエス(イン信玄)がいた。……今現在こうして話しあってるのは『妖精亭』の張っている天幕のうちの一つ、VIP用の天幕を貸し切っているのだが、信玄は謙信と共に少し遅れてきたのだ。まぁアンリの下へ行ってからこちらに来るという話は聞いていたし、それは問題ないんだけど……来た瞬間に信玄は給仕をやっていたシエスタに大量の料理と酒を注文。みんなで卓について近況報告をしていたころにはすでにちょっと出来上がっていて、こうして新しい召喚をするかどうかみたいな話をし始めることにはああして寝息を立てて床に転がっていたのだ。

 

「……ライダーには少しだけ輸送力も期待してたんだけどな」

 

「一人なら何とかって感じだけどね。……私は二度とごめんだけど」

 

 信玄はその身にまとう鎧の足から魔力をジェット状に噴射し空を飛ぶのだが、そんな信玄が運べるのは確かに一人抱えていけるくらいだろう。……これからも、機動力は俺の宝物庫に入っている『天翔る王の御座(ヴィマーナ)』だよりになるかもな。……流石にゼロ戦も人を運ぶのには向いてないだろうし、何だったらパイロットの気質的にも向いてない。僚機を気遣うことはできるだろうが、乗客を気遣うことはできないだろう。

 

「ま、それならしばらくは召喚しなくてもいいかもね。戦力と言うなら、卑弥呼と壱与に私かジャンヌをつければいい」

 

「確かに、謙信とジャンヌは守りの戦いに長けてるからなぁ。これから卑弥呼達が動くときはどっちかが一緒になって動いてくれるか?」

 

「りょうかいですっ! 任せておいてくださいよ!」

 

「……基本は謙信にお願いするかな」

 

「ふぁー!? なんでですかぁー!?」

 

 自信満々に自分の胸を叩くジャンヌを見て少し不安になってしまったか。……まぁ、やる気に満ちてるのにそれをつぶすのも失礼だ。ジャンヌも一端の英霊だし、任せるところは任せてもいいだろう。

 

「……も、もしかして私のこと好きすぎてあんまり離れてほしくない……とかですかぁ?」

 

 てれりこ、とこちらを上目遣いに見上げて、唇に人差し指をあてるジャンヌ。ちょっとムカッとしたので、隣に座ってしなだれかかってきている壱与の太ももを全力でつねる。

 

「ふぁあああああああ!? 急にご褒美ナンデェェェェェェェェェェェェ!?」

 

 ビクンと立ち上がった後、絶叫して気絶した壱与をシエスタが信玄の横に運ぶ。二人とも幸せそうに寝ている。

 

「なんで君みたいな芋娘がそんなに自信満々になれるのかは不思議だけど……単純に相性だろうね。私は自分でいうのもなんだけど冷静に戦運びをできる自信がある。……君が経験不足とまでは言わないけれど、それでも私の方が『向いている』のは確かだろう?」

 

「……そう言われるとそうですけどぉ……」

 

 先ほどまでの自身はどこへやら、両手の人差し指をつんつんと突き合わせるジャンヌ。そんなジャンヌの頭を謙信は優しくなでる。

 

「まぁ、相性がどうであれ、殿が私たち二人を選んだんだ。いざというときは君も頼りにしているということさ」

 

「そ、そうですよね。私だって立派に……は戦えないかもですけど、こうして呼んでもらった以上、頑張りたいですし!」

 

 なんとか気を取り直したジャンヌを見て、謙信は「それでいい」と一人満足げに頷く。

 

「この話はこれで終わりだとして……この後はどう考えてんの?」

 

 卑弥呼が頬杖をつきながら言う。この後は……おそらくだけど、奇襲が来る。それも、たぶん俺たちの想像もつかないような奇襲が。

 

「……んー、つってもねー。向こうもだいぶ参ってるから、アルビオンの軍勢での奇襲はまず不可能ね」

 

「と言うことは同盟になりますか? トリステインとゲルマニアは組んでいますから……」

 

「あとはロンディヌウム……相手の首都を落とすだけだからな。こっちも油断はあるだろう」

 

「それを狙って最後の抵抗が来るって? ……まぁ、あり得ない話じゃないけど……」

 

「……とにかく、俺たちに出来ることは警戒することと、何かあった時にみんなを守ることだ。卑弥呼、小碓、頼んだぞ」

 

「はいはい。今んとこ結界にはなんにも引っかかってないわよ。……壱与もあんだけぐーすか寝てるんだからたぶん引っかかってないんじゃないかしら」

 

「ボクもチラチラとあたりを見回りに行ってますけど、変な人はみてないですねー。おそらく、この休戦が終わるまでは相手も準備期間だと考えてるんじゃないでしょうか?」

 

「……この期間に直接何かをしてくることはない……か……?」

 

 警戒度は少し下げてもいいかもしれないが……気を付けるだけはしておこう。相手は後がないんだ。なにをしてきても不思議じゃない。窮鼠猫を噛むともいうしな。

 

・・・

 

 ……いつもながら、寝起きはだるい。だがまぁ、これも仕事をするために必要なことだ。いつも通りベッドから降りて、部屋を出る。あいつがどこにいるかはわからんが、まぁ適当に歩いて騒がしいところがあいつのいるところだろう。前に聞いた話だと一人で変なボードゲームか何かしてるらしいから、一番奥の部屋にいるだろう。

 

「モリエール夫人!」

 

 ほうら、いつもの声が聞こえてきた。この感じだと、またぞろ何か狂人遊びでもしてるのだろう。何人か職人を呼んで何か作らせてるのは見たが……よくもまぁあんなことができるものだ。扉の前にいる近衛兵に見られるが、ここの王自らが通していいと言っているからか、何も言わずに扉を開ける。うむうむ、教育が行き届いているようで何よりだ。

 扉を開けた先にいたのは、何かを模した箱庭の前ではしゃぐ今回のマスターと、その愛人だった。扉を開けた俺に気づいたマスターは、おお、と声をあげ、こちらに話しかけてくる。

 

「来たか、キャスターよ! 本日も仕事に励むがよい!」

 

「はっ、お前に言われて励むほど、俺が勤勉に見えるのか? だとしたらお前の目は周りと同じく曇っていると見える。良い眼鏡屋を紹介してやろう。あとで酒でも持って来い」

 

 そう言って、俺は部屋の隅に置いてある椅子にどっかりと座る。……ったく、この姿に合わせた高さにしろと再三言っているのだが、どうやら利便性よりデザインを優先しているらしい。座るのにいちいちよじ登ってからではないといけない上に足がぶらぶらと足場に届かないと来た。ったく、この城には子供はいないのか? ……まぁ、いるとしてもあの男が子供を優先した家具なんか置くとは思えん。期待するだけ無駄か。

 

「ふはは、我が宮廷作家殿はまたご機嫌斜めのようだ! こちらはこちらで話を進めるとしよう。おい、サイを振りなさい」

 

 奴のそばにいる小姓が頷くと、六面のサイコロを二つ振った。……なるほど、出目で話を展開させるのか。奴はしばし考え込むと、なにやら声を上げた。

 

「大臣。詔勅である」

 

 陰から小男が出てくる。……確か軍部の大臣だったか、あんな小物そうななりをしていて、しかし堅実な仕事をする男だったはずだ。大臣も箱庭遊びに付き合わせているのか? なんて上司だ。俺だったら誰かに押し付けて逃げるがね。こんな狂人のふりをして腹の底では一物も二物も抱えている様な男の下でなど死んでもお断りだ。

 そんなことを想いながら横にあるテーブルに肘をついて頬杖をついていると、明日の朝食の希望でも伝えるかのような気安さで、大臣に告げる。

 

「艦隊を招集しろ。アルビオンにいる『敵』を吹き飛ばせ。……そうだな、三日でかたを付けろ」

 

「御意」

 

 ……なんと驚いた。箱庭遊びは箱庭遊びでも、想定が違ったか。奴の『箱庭』のサイズを見誤っていたな。……仕方ない。こういうところを覚えておけば、俺の仕事もはかどるだろう。奴の愛人らしき女も驚愕したのだろう。全身を恐怖に震わせて、なにやらぶつぶつ呟いている。

 それを見て奴は……我がマスターにしてガリア王であるジョゼフは、先ほどサイコロを振らせた小姓にまた気軽に告げる。

 

「おい、暖炉に薪をくべてくれ。夫人が震えている」

 

 ……しかし、今回は本当に難産になるかもしれんな。

 

・・・

 

 まだまだ降臨祭は続くのだそうだ。なんと全体で十日ほどなんだとか。だとしたら、今はその半ばほど。まだまだ休戦協定はあるし、奇襲に気を付けているものの……やはり休むべき時は休むべきだとの進言を受け、ある程度ローテーションを組んで休むことにした。

 とはいってもほとんどがサーヴァント。ローテーションと言いつつも全員がしっかりと警戒をしているため、ある程度みんなが思い思いの過ごし方をしたり、情報収集に明け暮れてみたり、新たに得た体を慣らしてみたりと、過度に気を張っている者はいないように見える。

 

「ぷはー」

 

 かくいう俺もこうして『妖精亭』に入りびたってみたり、マスターと一緒に露店を回ってみたりと、それなりに楽しんで日々を過ごしている。これを機にマスターとちょいちょいデートもしているので、今もこうして俺の横でちょびちょびワインを舐めている。……この子お酒よわよわの民なので、ワインをさらに薄めないと一杯の半分くらいでぐでんぐでんになるのだ。俺のマスターってお酒に弱い呪いとかあるのか? そう思うレベルでお酒に弱いのだ。

 

「んぅ……」

 

 頬を赤くしてこうして俺に寄り掛かってくるマスターを見れただけで、ここに来たかいがあったというものだ。この子はツンデレなので、こうして二人っきりにでもならないと甘えてくれないしな。貸し切りの天幕で二人きり……マスターが初めてじゃなければ、たぶんこのまま襲ってたな……。危ない危ない。

 

「おいしーわねー、流石はあんたの宝物庫から出てきたワインだわー」

 

「だろう? ほらほら、グラスおいてからこっち来なさい。こぼすぞー」

 

「ん……。はい、置いたわよ。……ね、だっこぉ」

 

 こちらを向いて両手を伸ばしてくるマスターの脇の下に手を入れて、よいしょと持ち上げる。そのまま膝の上に乗せれば、しなだれマスターの出来上がりである。つまり、体面座位だ。……欲求不満なのかね、俺……。今度壱与あたり押し倒すとしよう。

 

「このまま降臨祭が終わらなきゃいいのに……戦争なんて……バカみたい……」

 

 俺に抱き着きながら、顔をぐりぐりと押し付けてくるマスター。……いくら貴族として教育を受けていても、この子自身は16歳の少女だ。この状況で、縋るものが欲しくなるのだろう。

 

「まぁ、もうそろそろ終わるさ。この降臨祭が終わったらまた始まるが……もう最後に相手の首都を落として終わりだよ。すぐ帰れるさ」

 

「……早く帰りたいわ」

 

 その言葉を最後に、くぅくぅと寝息を立て始めるマスター。……体の疲れより、心の疲れが大きいのだろう。……自分で言っておいてなんだが、この戦争、一筋縄では終わらない気がするのだ。千里眼のランクは落ちてしまっているが……これは、勘と経験による、直感のようなものだ。

 降臨祭最終日の前日くらいにはサーヴァント全員を集めていつでも動けるようにした方が良いだろう。何かあったら手を貸しやすいように伯爵として色々動いておくか……。

 

「……今はゆっくり眠れ、マスター」

 

 寝ながら涙を一筋流しているので、それを拭ってやる。……仕方がない。この小さく勇敢なマスターのために、サーヴァント兼恋人として頑張るとするか。

 

「――あ、壱与か? 何も言わずにこっち来てくれない?」

 

 それはそれとして、とりあえず壱与の足腰は立たなくしておくか。

 

・・・

 

 それは、かなり突然だった。

 

「……主、起きていますか?」

 

「今起きた。何が起きた?」

 

「敵襲……とは少し違うようです。反乱だとか」

 

 小碓が隣に降り立った瞬間に布団から出る。今日は降臨祭の最終日……日付が変わったから違うか。とにかく、今日から何かあるかもと思ってマスターと共にベッドにいたのだが……空気が変わったと感じた。

 小碓から詳しく話を聞くが、あまり要領を得ない。かなり突然だったのだろう。

 

「外から何かされたとは思えません。先ほどまでこの町に近づくものはおりませんでしたから」

 

「じゃあ、本当に急に始まったのか。『反乱』が」

 

「そうなりますね。……ちなみに、指令部は壊滅したそうですよ。今は……何とかって元参謀長が総指揮をとってます」

 

「……下準備が無駄にならなくて済みそうだ」

 

 俺は宝物庫の中から、アンリ経由で枢機卿に働きかけてゲットした『戦時特別任命書』を取り出して、ベッドから降りた。

 

「マスターを頼む。……壱与、全員を散らばらせろ。サーヴァントが出てきたならば、そこへ重点的に割り振るように。守りの戦は謙信が得意だ。迷ったら謙信に聞け」

 

 念話で壱与に伝言を頼み、小碓にマスターを任せる。

 リンクで他のみんなは事が起きた瞬間から動き出しているのがわかった。……さすがは英霊。こういうときに迷わないのは素晴らしい。『反乱』は町のいたるところで起きているようで、町中が混乱しているのがわかる。

 まずは妖精亭だな。あの辺の人たちの様子を確認しに行こう。こういう時一番おいていかれそうだしな。

 

・・・

 

 ……見えた。あそこがこの辺だと一番激しいね。

 

「よっと」

 

 亡者の如く歩く兵士の一団。その真横から突っ込んで、手当たり次第に峰打ちしていく。これで気絶してくれればいいんだけど、失敗したらその時はその時だ。ここまで体と同化してしまったのなら、治すのに時間がかかってしまうからね。今ここで黙らせて、運が良ければ気絶するし、運が悪ければそのまま召されるだろう。

 ……っていうかこれ気絶しても死んでても動くなぁ。たぶん内側から作り直されてるのだろう。……前に殿から教えてもらった『水の精霊の指輪』の力に近い感じがするな……。

 

「よいしょっと。やぁ」

 

「お、お前は……!?」

 

「それはどうでもいいから。ここを守り抜くよ」

 

「い、いや、ここは撤退するのだ。相手は昨日まで共に戦った仲間……それに向こうはこちらに構わず進軍してくるのだ。上からの指示が来ない以上、ここは一旦下がって態勢を……」

 

「ああ、そりゃ来ないよ。総司令とかはだいたい死んだからね。混乱してるんでしょ。……だからここではさがれないんだよ。相手の狙いはこの町から我々を下げること。ここで下がれば、後は敗戦一方だよ。……私に任せなさい。私はオルレアン伯爵の配下。責任はオルレアン伯爵にある」

 

「なに……? それを証明するものは?」

 

 部隊の隊長らしき男は、少しだけ顔に希望の色を露わにする。私は殿から渡されていた家紋入りの短剣を見せる。家紋入りの物は私も生前使っていたりもしたから、こういう時に効力を発揮するのは知っている。現に、男はそれに見覚えがあったのか、手に取って少し見てから、私に返してくる。

 

「確かに、オルレアン伯の家紋……今回の補給の時にもこの家紋を見たから間違いない」

 

「オルレアン伯爵の配下、セイバーだ。とりあえず生きていて命令が届く人間をここから後方にある広場に集めてほしい」

 

「……了解しました! おい、聞いていたな! ここから20メイル後方の教会広場に下がるぞ!」

 

「殿は私が勤める。負傷者も含めてできる限り後方に下げるんだ」

 

「りょ、了解! ……倒れてるやつも連れていくぞ! 水の秘薬を使って応急処置をして、歩ける奴は歩いていけ! 衛生兵!」

 

 指示を出し始めた隊長に背を向けて、またわらわらと集まり始めた意志なき亡者と化した兵士たちを切り捨てていく。下手に温情をかけてもここまで『染まって』しまっては手遅れだろう。切り捨ててやるのがせめてもの温情と言うものだ。

 

「問題は、それを彼らができるか、と言うことだよなぁ……」

 

 出来るだけ説得はするが……無理強いはさせたくないなぁ。……ま、最終的にはやらないといけないんだけど……。

 とりあえず、後退する時間は稼がないとね。

 

「……問題はもう一つあるんだけど……ま、それはここを乗り越えてから考えるか」

 

 他の所も上手くやってるといいんだけど……。

 

・・・

 

「上手くいったな」

 

 手に握る『戦時特別任命書』を見ながら、俺は臨時の総司令部になっている建物を後にした。

 

「これでこの『反乱』に対しての命令権はとれたな」

 

 元々任命されていた司令官にもしものことがあったとき、伯爵の立場を利用して『臨時司令官』として軍属と同じ権限を得られるようにと準備していたのがこの書類だ。最後に残っていたウィンプフェンと言う総司令代理が保身的な男で助かった。こういう時の責任を取りたくないというのは彼の中でかなり重いものだったのだろう。

 こういう時に許可を得ずに下がるというのは抗命罪になるかもしれないらしく、それを恐れて行動できていなかった司令代理にとっては、こうして責任を取ってくれる貴族の存在は渡りに船だったのだろう。あとは俺のサーヴァントたちには俺の家紋の入ったものを渡しているから、ある程度知識のある部隊の隊長に出会えれば、そのまま舞台を掌握してくれることだろう。念話でそのことは伝えてあるので、上手く使うだろう。

 

「さて、今のところ怪しい所はないな。……謙信からの情報だと、ウェールズと同じような状態になっているらしいが……そうなると、アンドバリの指輪か……?」

 

 だとしたら、水の精霊の頼みもあるし、できるだけ下手人を捕まえて指輪を奪還したいところだが……。アンドバリの指輪は使えば使うほど力を失うらしく、反応を追いかけようにも他のマジックアイテムやメイジの魔力の反応に紛れてしまうのだ。持っている人間が実際に使っているところを目撃できれば話は別だろうが……そうも上手くはいかないだろう。

 

「……とにかく、臨時の指揮所に行くか」

 

 小碓や『妖精亭』のみんなが準備してくれているらしい臨時指揮所へと向かう。指揮所とは言っても『臨時』だ。他より少し大きい天幕か何かを張ったくらい……だと思っていたのだが。

 

「これは……」

 

 俺の目に飛び込んできたのは、簡素とはいえ木組みで作られた小屋と、その周りを囲う柵。そして、フライパンやら包丁やら謎の棒などで武装している『妖精亭』のみんなだった。

 

「あ、おかえりなさい主」

 

「小碓。これはどうやった?」

 

「ええと、『妖精亭』の『おーなー』が、なんかとても張り切ってまして……」

 

「せっかくこんなところまで来たのに、見捨てられそうになったのが許せない! って、あんたさまたちのために張り切ったらしいよ」

 

 小碓の言葉を継いで、ジェシカがため息をつきながら歩いてくる。隣にはシエスタとマスターもいるようだ。

 

「やっと帰ってきた! どーなってるのよ一体! なんか街は燃えてるし、軍では『反乱』がどうとか騒いでるし……」

 

 後ろから来たマスターが俺に駆け寄ってきて、服を掴んで揺さぶってくる。相当お怒りらしい。……でも身長足りなくて肩揺らすことができないマスターは可愛いなぁ……。撫でておこう。

 

「撫でんな!」

 

 しまった。周りに人がいるときのマスターは猛犬注意だった。頭を撫でる俺の手を跳ね除けて、俺から距離を取ってしまう。……うぅむ、トチったな。

 

「その辺の細かいことも説明するから小屋に入ろうか。ジェシカ、スカロンを呼んできてくれないか」

 

「りょーかいっ。その辺で薪でも割ってるだろうから、すぐ呼んでくるよ!」

 

 ウィンクを一つして、ジェシカは元気にかけていく。……いいねえ、元気っ子って。

 

「……主? いきましょう?」

 

「わかったわかった。わかったから短刀突き付けるなって」

 

 俺に先を促しつつ密着して陰でツンツンと短刀を突き付けていた小碓をなだめて、小屋へと向かう。

 

・・・

 

「……なるほど、そんなことが」

 

 小屋に集まった後、今の状況や何が起こっているかをだいたい話した。今外は自動人形たちが百人単位で見張っているので、ここはおそらくこの世界で一番安全な司令室だろう。

 

「だから、これからはここでサーヴァントのみんなに指示を出しつつ、戦線を下げないようにする必要がある。幸いにも俺のカリスマ値を使えば、あんまり接点のない兵士さえも俺の言うことを聞いてくれるだろう。……奇襲を受けたときに必要なのは、それに反撃することじゃない。混乱せず、秩序立って部隊を立て直し、状況を理解することだ」

 

 今起きているのは、味方を操られたことによる戦線の混乱。やるべきことは、部隊をまとめ、防御すべき陣地で反撃することだ。

 ……ああ、それと、司令権を得たときに出会った『彼』への頼みごとが上手くいくかだな……。

 

「今他のサーヴァントたちは混乱している部隊の救援をして、いくつかのまとまった部隊として再編してもらってる。……たぶん敵はこの混乱に乗じて主力を前進させてくるだろう。それまでにどれだけ散らばった部隊をまとめ上げられるかが勝負だな」

 

「……」

 

「? どうしたマスター、そんなキョトンとして」

 

「……あんた、ほんとに王さまだったの? ……将軍とかじゃなくて?」

 

「はっはっは、どうした急に。俺はずっと王以外を名乗った覚えはないぞー」

 

 そう言って、俺は戦況を移す水晶玉を操作する。これは親機と子機で構成されていて、子機であるペンダントを持っている人間の周囲を映し出せるというものなのだ。これで謙信たちサーヴァントの状況を逐一確認している。

 

「……謙信の所は問題なさそうだな。周りにいる散らばった兵士や負傷兵を回収して一つにまとまってる。……さすがは謙信。守りの戦なら右に出る者はいないだろうな」

 

 本人の戦闘力もさながら、兵士を率いての防御戦闘がとてもうまい。

 今までためらっていた元味方への攻撃も説得できたのか、兵士たちもしっかりと反撃するようになっている。うん、この戦場は問題なさそうだな。今のところ敵のサーヴァントも出てきていないようだし、謙信の所は任せていいだろう。

 あとは信玄方面と、卑弥呼と壱与のチームヤマタイ方面、ジャンヌ方面の三つを含め、四正面作戦を展開している。ざっくりと東西南北に分けて向かわせていて、信玄の所は部隊と合流して取りまとめ始めているようだ。ヤマタイとジャンヌはそれぞれ部隊の隊長を探している様子。

 今回は展開が展開なので、ヤマタイへの護衛は自動人形を二人ほどつけている。何かあればヤマタイを連れて帰ってきてくれるだろう。

 

「よし、これなら大丈夫そうだな」

 

 あとは……『彼』に頼んだ偵察が上手くいくかどうか……。結果を待つしかないな。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

クラス:キャスター

真名:■■■・■・■■■■■■ 性別:男 属性:秩序・中庸

クラススキル

高速詠唱:■

アイテム作成:■

保有スキル

■■の■■:D

人■■■:A

能力値

 筋力:E 魔力:EX 耐久:E+ 幸運:E 敏捷:E 宝具:C

宝具

■■■■■■■■(■■■■■・■■■■■■■■■)

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1人

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。