ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「YO! YO!」「……どうしたんだ急に」「んあ!? ぎ、ギル様!? いつからそこに?」「……なんかフレミングの左手の法則みたいな指して頭揺らし始めたところからかな」「さいしょっからですね!? あぅぅ……お恥ずかしい」「お前恥とかって感情あったのか……」「ありますよぅ! ギル様限定ですけど!」「え、そうなの?」「はい! ギル様以外にならこんな姿見られてもなんとも思いませんから! 他人の評価が気になるんじゃありません。ギル様の評価が気になるのです!」「……お前、心チタン合金かよ」


それでは、どうぞ。


第四十四話 獅子の心と日々のお供と未知の乙女。

「→目標。あなたはギル?」

 

 目の前に現れた少女に挨拶を返すと、小首をかしげながらそう続けられた。今の言葉からして、俺だと確信してきたわけじゃなさそうだが……。とりあえず敵意はなさそうだ。小碓に引き続き警戒はしてもらって、俺は少女との会話を試みる。

 っていうか、不思議な感覚だな。この子が話すたびに、カーソルかなんかで指されてる気がしてくる。

 

「ああ。俺はギル。……ええと、君は?」

 

「→ギル。今は……『ディフェンダー』と呼んでほしい。詳しく話すには……ここは不用心すぎる。ので、どこかで二人になりたい」

 

「……大主、主が口説かれてますよ?」

 

「え、あいつが口説かれる方なの……?」

 

 少女の発言に後ろの小碓達がざわつき始める。ち、違うよ? 流石の俺も急に現れた不審な女の子に手を出したりは……んーむ、否定できない……。

 

「→ギル。どう? 時間はある?」

 

 逆側に首を倒し、さらに聞いてくる少女。……こちらの宝具の防御網を抜け、目の前にランディングした子は怪しい、とはいえ、そこまでの力を持っていて敵意があるのなら今無傷でいるというのはおかしいし……。それに、この子は多分だけど、俺の敵じゃない。

 俺の指に嵌っている十の指輪。そのうちの右手親指の『女神指輪(リガーズリング)』、左手小指の『英霊指輪(クラスリング)』のどちらからも反応がないから、俺と絆を結んでいないことは確かだ。……え? 指輪の話? それは……機会があったらな。

 

「……ま、いっか。作戦も無事終わったし……。ここから戻ったら話を聞くよ。一緒に付いてきてくれるか?」

 

「→ギル。了承。このまま乗らせてもらう」

 

 そういうと、少女は『天翔る王の御座(ヴィマーナ)』の操縦席、玉座の真横に三角座りをする。そのまま動かなくなってしまったのでしばらく見つめると、少女がこちらを見上げてまた首を傾げた。あざといが、少女は何かわからないことがあると首をかしげる癖があるのだろう。

 小碓とマスターにはあとで説明することを約束して、竜騎士のみんなと一緒に旗艦へと進路をとる。とりあえず帰ってから、この子の話を聞かないとな。

 

・・・

 

 旗艦へ戻り、作戦の報告をする。どうやら陽動作戦は上手くいったようで、次の作戦に向けて慌ただしく動いているのがわかる。そんな状況なので、俺たちも『次の作戦が決まり次第追って連絡する』と言われ、半ば追い出されるように自室へと帰ってきていた。まぁ、そちらの方が都合は良い。こちらも謎の少女と言う問題を抱えたわけだし、そちらの解決に時間を使えるのは望むところだ。

 

「で、話をきこうか」

 

「→ギル。……この部屋にはギル以外の者がいる。退室を希望する」

 

 部屋を見渡して少女が言う。だが、ここにいるのはマスターと小碓と言う完全なる身内だ。そこは認めてもらうしかないな。

 

「ここにいるのは俺のマスターと信頼できる仲間しかいない。話してもらっても大丈夫だよ」

 

「→ギル。わかった。ギルが信頼するなら……このまま話す」

 

 そう言って、少女は話し始める。

 

「→全員。私は、クラス『ディフェンダー』。と言っても無理やりあてはめたものだからたぶん私しかいないクラス」

 

「さっきも言ってたな。確かに聞いたことないクラスだけど……」

 

 自分を指さして説明してくれる少女……『ディフェンダー』は、俺の言葉に一つ頷いて話を続ける。

 

「→全員。私は、英霊としてはたぶん、特異な存在だと思う。……信じて、聞いてくれる?」

 

 またも首をかしげて俺の言葉を待つ『ディフェンダー』。まぁ、『英霊として特異』とか言っちゃうと俺が突き刺さりまくりなので、それを気にすることはないんだけど……。先を促すと、彼女は己自身を指さして再び口を開く。

 

「→全員。名前から言った方がわかる……かもしれない。私の英霊の座に登録されている名は『カルキ』。インド神話において、新たな黄金時代を到来させると言われた、『未来の英雄』」

 

「『カルキ』……。っていうか、それって数十億年後とかの『世の終わり』に誕生するっていう英霊では……?」

 

 流石に未来過ぎて名前を聞いただけでは詳細がわからないが、たぶんカルナとかアルジュナ関連の英霊なのは間違いないだろう。インド神話ってやばいレベルの英霊しかいないし。

 

「→ギル。そう。私は、『世の終わり』に生まれた。正確に言ってもわからないくらい遠い未来。人類は地球外存在の攻勢にさらされていて、宇宙進出や新兵器の開発によってなんとか耐えしのいでいた」

 

 ……急にスケールの大きい話になってきたな……。地球外存在の攻勢……? つまり、宇宙人に襲われてるとか、そういう……?

 

「→全員。そこで、地球人類が開発した人工知能……つまり、私の前身となったプログラムは考えた。『この状況を打破するためには、何をすればいいか?』を」

 

 まぁ、人工知能がいて、それを考えるのは当然だろう。……でも、そういう『人工知能』とか『AI』とかって敵勢力に利用されたり最終的に『人類は不要』みたいな結論に至ることが多い気がするけど……彼女はならなかったんだろうか。

 

「→ギル。その心配も最も。私も、最初は『人類は滅んでしまったほうが、最終的には幸福』とか考えたりもした」

 

 やっぱりじゃないか! ……っていうか普通に俺の心を読まないでほしい。……や、読心と言うよりは予測か……?

 

「→全員。でも、それは別に私じゃなくても考え付くこと。人類が開発し、成長した人工知能たる私は、一番難しい道を行くことにした。つまり、『人類を地球上で繁栄させ続ける』道を探し続けて……ある日、『英霊の座』の存在を知った」

 

 そんな未来でもきちんとあるんだな、『座』が。っていうか、そんな危機的状況なら、英霊たちも動くはずだけど……。

 

「→全員。そこで、私は答えを得た。『英霊として座に登録され、過去に戻り、地球外存在からのファーストコンタクトを挫く』と言う答えを」

 

「……え?」

 

 それは、俺の声だったか、隣で前のめりになって聞いていたマスターだったか、その横にいた小碓だったか……とにかく、全員が困惑していることだけは確かだった。だが、目の前の彼女……『カルキ』は、説明に集中しているのかあえて無視しているのか、そのまま俺たちの反応をよそに話を続ける。

 

「→独白。……あの時は、我ながら天才だと思った。人類の叡智たる人工知能として、最高の答えを演算したと思った。だから、次にやることは『違和感なく、破綻無く、座に登録される方法』を見つけ出すことだった。そして、私はあなたを見つけた」

 

「……俺?」

 

「→ギル。そう。あなた。『女神』経由であなたは封印されていて、私が月の演算装置で見つけたときにはすでに復活は難しそうだった。……だけど、あなたの宝具は登録されていた。『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』。英霊召喚の宝具。私は、その宝具に私を召喚させた」

 

 え、俺未来で封印されてんの!? しかも土下座神様も!? ……って、もしかして……。

 

「→ギル。あなたの宝具によって召喚された私は『女性の英霊』と言う殻を被り、それによって逆説的に『英霊の座』に存在していることが確定した」

 

 ……なるほど。俺の宝具は『死後、座に上っても俺に協力してもいいと思ってくれる英霊』を召喚する宝具だ。そこから召喚されたということは、『英霊の座』にいることが前提になる。……なんだその存在の叙述トリック。

 つまり、未来から過去に干渉するためには、『時間の流れ』から切り離された『英霊の座』に登録する必要があって、そのために俺の宝具を利用した、と言うことか。

 

「→ギル。そして、私は『未来の英霊』と言うカテゴリにヒットした、『カルキ』の皮をかぶって、私に登録された様々な機能を『スキル』や『宝具』として流用し、登録した」

 

 なるほど、だから彼女は『英霊としては特異』と言ったのか。確かに、そんなの特異すぎるな。

 

「→ギル。それから、私はあなたを探して『女神』経由でこの世界に来た。……現地の情報が地球と違い過ぎるからその状況整理とかに時間かかったけど……」

 

 ……つまるところ、土下座神様があんなになった理由も、おそらくは『地球外存在』の所為なのだろう。そして、俺を逃がした神様と、『カルキ』はそれに対するレジスタンスのようなものなのだ。

 

「……なるほど、だいたいはわかった。俺の協力も必要と言うなら、もちろん協力するよ」

 

「→ギル。ありがとう。ただ、あっちの戦力がこちらに流れてきてるのも気になるから、まずはこちらで状況の確認と、相手戦力を減らすことも考えた方が良いと思う」

 

 その言葉にうなずき、カルキに右手を差し出す。首をかしげる彼女に苦笑しながら、「握手だよ」と言うと、それを理解したカルキが同じように右手を差し出し、握ってくれる。よし、これで彼女と協力関係を築けただろう。

 

「マスター、そういうわけだから、これからは相手の勢力との戦いも増えてくるかと思う。……絶対に守るから、一緒に戦ってくれるか?」

 

 カルキとの握手のあと。マスターに向き合ってそう確認する。

 

「また勝手に決めて……。ま、まぁ? あんたは私の使い魔だし私を守るのは当然だけど……。なんか大変なことが起きてるみたいだし、それはこの世界にも関係あるんでしょ?」

 

「→桃色。そう。あの存在はきっとこの世界も見つける。あれは知性を求め食らう怪物。というか、こっちにギルが来てる時点で捕捉されかけてると思う。だいたい女神の所為」

 

「……俺を逃すためにこっちにやったんだから、俺の所為でもあるだろ」

 

 まぁあの土下座神さまのことだし、善意なのは間違いないんだけどな。とにかく、彼女がなぜ来たのかは分かったわけだし……。神様の不調の遠因もわかってよかったよかった。いやよくはないな。解決してないし。そもそもあのガングロギャル状態は何なんだ……? オルタ化したから……? え? 神様オルタ化するとガングロギャグになるの……?

 

「→ギル。とりあえず、私の情報は伝えておく。……公開は任せる」

 

 その言葉の後に、カルキのステータスが俺の脳裏に浮かんだ。……まぁ、たぶんスキルとかを目の前で使われない限りは更新されないだろうけど……。

 

「→ギル。あと、ギルをアップデートする。はい」

 

 カルキの言葉の後に、俺に少しだけ力が流れ込んでくるのを感じる。……これは……?

 

「→ギル。別の未来で封印されていたあなたから、力の一端を引き出して、英霊としての存在を構築した。これは、そのうちの一部をあなたに返している」

 

 ……それでカルキは大丈夫なのか……? 一応それを確認してみると、俺の力は参考にはできるものの、自分のものにはできないんだそうだ。持っていても得もないし損もないので、こちらに返すのだとか。それなら問題はないか……。

 

「……ん?」

 

 そして、戻ってきたいくつかの力が、俺に一つの存在を感知させる。……これは……初めて召喚されたときに感じた……? 勘違いかと思っていたが、遠かったから気づきにくかっただけで、実際にはずっとこの近くにいたのか……? ええと、この辺の地理は……。

 

「マスター、この辺って何があるかわかるか?」

 

「えぇ? 急にそんなこと言われても……。私だって別に他の国に詳しいわけじゃ……。ここがロサイスで、んーと、あんたが変な感じがするのってどっちなの?」

 

「こっちだな」

 

「そっちには……サウスゴーダってところがあるわ」

 

「サウスゴーダ」

 

 聞いたことのない地名だ……。けど、地図上の間隔から見ても、その近くから気配を感じているのは確かだ。ちょっとあとで時間があったら行ってみようかな、なんて思っていると、目の前にいたカルキが妙な動きをし始めた。……屈伸? え、なんで準備体操を?

 

「→ギル。回答する。人間は、激しい動きの前には準備運動がいるというのを学んでいる。それくらいはばっちり。任せてほしい」

 

「いや、その辺の常識を聞いたんじゃなくて、何で今それをし始めたのかを聞いたんだけど……」

 

「→ギル。なんで今これをしたか、と言うこと? ……だって、ほら」

 

 そう言って、カルキは俺の後方……サウスゴーダの方角を指さす。

 

「→全員。来るよ?」

 

 瞬間、俺たちのいた天幕が吹っ飛んだ。

 

・・・

 

「けほっ。……マスター、無事か?」

 

 マントの下に隠したマスターを確認する。マスターもせき込んではいるものの、無事そうだ。俺たちの天幕は他の所から離れた位置にあったため、被害はほぼないだろうが……。

 

「何者だ……?」

 

「→ギル。一応あっちに誘導する。落ち着いたら来て」

 

 大きな音と共に、何かが遠くに行く感覚。……よし、俺も行くとしよう。

 

「小碓、マスターを頼む」

 

「……はい。ご武運を」

 

 魔力を体に巡らせて、カルキの反応を追う。場所は少し離れた森の中。近づくと、激しい破壊音。カルキがさっき飛来した正体不明と戦っているようだ。

 

「カルキ!」

 

「→ギル。ようやく来た」

 

 戦闘態勢なのだろう。純白の鎧に身を包み、カルキの少女と言っていい小さな身体に対しては不釣り合いな、白く大きな剣を構え、こちらに視線を向けるカルキ。俺もエアを抜き、隣に立つ。土埃で少し周りが見えないが、カルキの体が向いている方に先ほどの飛来物体がいるのだと思う。

 

「相手はサーヴァントか?」

 

「→ギル。その通り。ちょっと私と一緒に対処してほしい」

 

「もちろん。感覚的にしばらく前に感じたのと似てたんだけど……」

 

 少しして、土埃が収まる。向こう側に感じていたのは、なんだか懐かしく思えるような、強大な魔力。こちらに召喚された日に感じた、妙に引っかかる……。

 

「……ふぅん。やっぱり、少し違うね。……君、誰だい?」

 

「まさか……その姿……」

 

「→ギル。知り合い?」

 

 知り合いかと言われれば違うんだけど……でも、完全に関係ないかと言われると……否定せざるを得ない。この、英霊は……まさか、と言うべきか……。

 俺と絆を結んでいない……と言うか、たぶん俺のことそんなに好きじゃないんじゃないかって英霊ナンバーワンをほしいままにしている、稀代の英霊……!

 

「短時間でカルキに引き続いてこんなビッグネームと出会うことになるとはな……」

 

「僕の事を知っているのかい? ……でも、その姿はともかく中身はわからないな」

 

「……そりゃそうだろうよ……エルキドゥ」

 

 目の前に立つ、白衣の新造兵器。俺の力の元になった英雄(ギルガメッシュ)……その唯一の親友が、土埃の向こうに立っていた。

 

「不思議な感覚だね。中身以外は知っているのに、中身は全然別物だ。……どういうことなのか興味深いよ」

 

 その端正な顔を好戦的な笑顔に歪めて、エルキドゥは構える。……そういえば自分を『兵器』と定義している上に、『性能を比べる』ことに対しては前向きな好戦的な性格してるんでしたっけ……?

 ってことは、不味いぞ。そもそもの話……俺の『知っている』エルキドゥは、『()()()()()()()()()』!

 斧……エルキドゥで斧の逸話なんてあったか……!?

 

「まぁいいや。そんな君のことも、性能を競い合えばきっとわかるとも」

 

 魔力が巡る。……誰に召喚されたかはわからないけど、このエルキドゥは、潤沢な魔力を持っている。相当なステータスを持っていると思っていいだろう。宝具で負ける気はしないが、ステータスでの勝敗はあちらにあると言ってもいい。

 

「……カルキ、ここは俺に任せてくれないか」

 

「→ギル。わかってると思うけど……ギル一人で戦った場合の勝率は――」

 

「わかってるよ。戦闘に関してはあっちの方が上だってことはさ。……でも、俺がこの姿でこの力を使うには、まず……あの子と語らないといけないから」

 

 そう言って、俺はエアを抜く。初手から様子見なんてなしだ。宝物庫とエア。この力で、俺なりの答えをあの子に示すのだ。

 

「カルキは、危なそうになったりしたら止めてくれ。この世界を破壊する気なんてないし、無いとは思うけど、エルキドゥを殺しそうになった時は……俺を本気でぶっ飛ばしてくれ」

 

「→ギル。……理解不能。……でも、それがあなたらしいと、我が頭脳(システム)が言っている……ような気がする。だから、一言だけ。――頑張って」

 

「ああ! ……エルキドゥ。戦おう。戦って、俺のことを知ってくれ。……それで、最後に話を聞いてほしい」

 

「ふふ。……ああ、もちろんいいとも。君は素直な性格なんだね」

 

 ぎゅ、とエアを握る手に力を籠める。……頼むぞ、エア。俺と一緒に、戦ってくれ。魔力を込めると、応えるように刀身が回転し始める。こうして本人でもないのに力を貸してくれるのはありがたい。エアにもいつか報いねばな、と思いながら、目の前の美しい神造兵器に相対する。

 

「それじゃあ、いくよ」

 

「っ!」

 

 「いくよ」の「よ」が俺の耳に届くと同時に、目の前にエルキドゥが迫って、その巨大な戦斧を振り下ろしていた。

 それに合わせてエアを振り上げられたのはほぼ反射だった。これでも、数千の時を生きているんだ。それなりに戦闘の経験もある。その経験が、エアを振り上げるという反射を可能にしたのだ。

 

「おも……!」

 

 エアを持つ手とは逆の手で、宝物庫から短剣を抜き、死角になる下方から突き刺す。だが、エルキドゥも空いた片手を手刀の形にして、それを弾く。だろうね。わかってたよ。身体を自由に変化させられる、神の泥とでもいうべき身体。大地を味方にし、動物と語らい、自然から力を貰う存在。それがエルキドゥだ。

 

「ふふ、力は同じでも、使い方は異なるようだね」

 

「はは、同じ力を貰ったとはいえ、そこからは違う道を歩いたからな」

 

 エアで斧を振り払い、短剣を捨て、後方へ飛び下がる。杖を抜き、魔術を起動する。地面が隆起し、壁となるが……次の瞬間、いくつかの武具がその壁を貫き、俺に迫る。宝物庫から盾の宝具をいくつか取り出して防ぐ。これは……大地を変換したな……!?

 こうなれば、俺も宝物庫を開くしかあるまい。次に飛んでくる武具を見て、同じ数の宝具で迎撃する。

 

「やはり、『それ』も使うんだね」

 

 ニコリ、と獰猛な笑みを浮かべるエルキドゥ。……楽しそうだなぁ。

 次はこちらから攻める番だ。後方に宝物庫を開き、そこから宝具を飛ばす。だが、地中から伸びた鎖に邪魔されて、すべてが地面に落ちる。

 

「かかったな」

 

「うん?」

 

 落ちた宝具に、一つ命令を下す。『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』。内包した魔力を元に爆発を起こす宝具に、流石のエルキドゥも防御の姿勢を取りながらその場から飛びのく。着地予想地点に宝物庫を開き、発射。エルキドゥは大地や自身を変化させてそれを防ごうとするが、その前に同じく爆発を起こし、避けた先に宝物庫を開き……それを5度繰り返すと流石にこれ以上の消耗を嫌ったのか、エルキドゥが踏み込んでこちらに迫る。何発か牽制で撃ってみたものの、弾丸のように突っ込んできながらその手の斧で弾かれ、接近を許してしまう。

 ……向こうは俺が接近戦を嫌ってこうしたのだろうと思っているようだが……それが、俺の狙いだ。

 

「む?」

 

 斧を振りかぶったエルキドゥだが、俺に迫る瞬間、疑問を顔に浮かべ、身体を一瞬強張らせる。……天の鎖を使えなくなってしまったが、それに代わる拘束方法がないわけではないのだ。一応獣としての属性も持っているエルキドゥに、俺は宝具に紛れさせて『貪り食うもの(グレイプニール)』を伸ばしていたのだ。それが足に絡まった瞬間、エルキドゥの力を一瞬封じ、動きを止め

 

たのだ。

 それだけの隙があれば、俺でも近接戦闘での勝利を手繰り寄せられる。

 

「ふんっ!」

 

「く……!」

 

 回転させたエアで、動きの止まったエルキドゥに逆袈裟切りを仕掛ける。『貪り食うもの(グレイプニール)』を切断したエルキドゥだが、避けるまでの余裕はなかったようで、俺の一撃を斧で受け止める。……よし!

 宝物庫からバックアップを受け、筋力値を上げエルキドゥを空へと打ち上げる。そのまま腕を引いて、エアの回転を上げる。

 

「行くぞ。『天地乖離す(エヌマ)……」

 

「しまっ」

 

開闢の星(エリシュ)』!」

 

 乖離剣エアの真名開放。短いタメと魔力をそんなに回していないために威力は控えめだが、その分隙は少なく、すぐに出せるので、牽制やジャブとして使うことが多い。今回も、空中で身動きの取れないエルキドゥに対して使用する。

 エアの生み出した風に巻き込まれ、エルキドゥの白い外套のような貫頭衣が裂けていく。頬も少し斬れ、赤い線が頬に走っているのが見える。

 

「くぅ……!」

 

 両手をクロスし、エアの真名開放を耐え、服の裾から鎖状の武具を生成して射出してくる。だが俺は焦らず宝物庫から引っ張り出した巨大な剣にそれを絡めさせ、手放して鎖を無効化する。その剣の陰から飛び出して、エルキドゥの下方から迫る。

 予想通り反撃してくる素振りを見せてきたので、俺の目の前。エルキドゥとの間に宝物庫を開く。出したものは……。

 

「っ!?」

 

「驚いたか?」

 

 宝剣や魔槍なんかじゃない、いつもだったら出さないようなものだ。……それは。

 

「『黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)』!」

 

 動力源を撃ち抜かれて修復中だったヴィマーナの内の一つ。その巨大な船体が、驚いた顔をしたエルキドゥに向けて飛んでいく。身体を回転させて避けたが、先ほどまでの場所に俺はいない。すぐにエルキドゥの視線が移動した俺を貫くが、その時には俺はもう次の行動に移っている。

 先ほどの『貪り食うもの(グレイプニール)』を投げて絡め、こちらに引っ張る。一瞬焦った顔をしたエルキドゥだったが、すぐに顔を笑顔に変えて加速して突っ込んできた。……だと思った。エルキドゥほどの英霊なら、この状況を利用して俺の方へ来ると信じていた。エルキドゥは片手に持つ斧を振りかぶり、高速で突っ込んでくる。

 

「さぁ、いくよ!」

 

「……こい!」

 

 俺はその手をエアで……弾かずに、エアを手放して徒手になる。ここからだ。極限まで集中しろ。両目に出来うる限りの魔力を流す。だんだんと世界がゆっくりに、モノクロになっていく。元は未来を見通すという『千里眼』だ。魔力を流して強化すれば、一時的に機能を増強することも可能なのだ。

 それによってスロー再生しているように見える世界で、焦らずに体を動かしていく。狙うはあの戦斧。振り下ろされて、刃が俺の脳天に迫る。体の動きもゆっくりに感じるが、半身になって紙一重で避け、エルキドゥの体の内側に入る。一瞬、視線が交差して……俺の左手は、戦斧を持つ腕の手首をつかんだ。

 

「とった」

 

 手首を捻る。……だが、人とは体の造りが違うからか、それで戦斧を取り落とすことはない。……その事に驚いていると、風切り音と共にエルキドゥの手刀が迫る。思わず右手でそれを受け止めるが、右手の籠手が刃と擦れてぎゃりぎゃりと甲高い悲鳴を上げる。……良かった、右手で受け止めて。右手の籠手はエアの排熱や勢いよく排出されるガスのようなものに耐え、俺の手を保護してくれるほどの頑強さを持つ。現に今俺の右手は特にダメージもなくエルキドゥの一撃を受け止めている。

 

「く……」

 

「形勢逆転だね。あの速さに対応したのは驚いたけど……こうして本体の力比べとなれば僕の方が有利じゃないかな?」

 

 俺が両方の手を掴んでいるから一見有利だが、たぶん素の筋力値では負けているからか、すでに振り下ろしている戦斧はなんとかなるが、今現在進行形で俺の首に振り下ろされそうになっている手刀は籠手でつかんでいてもじりじりと俺の下へと迫ってきている。

 ……素の筋力値で負けてる? ……ならば、逆らわずに受ければいいのだ。右手の力を抜いて、こちらに引き寄せる。勢い余って俺に体ごと飛び込んできたエルキドゥと体を回して位置を交換し、勢いを利用して地面に押し倒す。

 

「これで……!」

 

「いや、まだ……!」

 

 そのままマウントを取ろうとするが、エルキドゥは地面を変化させ、下から自分を持ち上げてごろりと横に半回転。これで上下が入れ替わってしまった。

 

「くっそ……!」

 

 流石に大地に転がしたら大地を変化させられるエルキドゥが有利か……そのまま上から両手を組んで、ハンマーのように振り下ろされる。

 

「『貪り食うもの(グレイプニール)』!」

 

 しゅる、と俺の足に巻き付いた『貪り食うもの(グレイプニール)』が、俺をエルキドゥの下から引っ張りだしてくれた。

 

「……助かった」

 

「……ふふ、本当に面白い使い方をするね」

 

 俺が抜けだした一瞬あとに、どごん、と鈍い音がして、エルキドゥが振り下ろした拳の先がへこんでいるのが見えた。あっぶな。あれが俺の頭になるところだったな……。汚い花火になるところだった……。

 

「……さて」

 

 次にどうするか、と考えを張り巡らせていると、エルキドゥが両手をだらりと下げた。……? 戦意が消えた……?

 

「もう十分じゃないかな?」

 

「……そう、だな」

 

 これ以上やっても、たぶんこの土地を消し炭にする事になってしまうし……エルキドゥが納得してくれたなら良かったというか……。

 

「うん、君のこともある程度はわかったよ。……やりすぎなほどに優しい事とかね」

 

「うん?」

 

「だって君、僕を組み伏せたとき……もうちょっとやり用があったろう?」

 

 ……まぁ、宝物庫はどこにでも開ける上に、中の物はなんでも出すことができる。……自動人形たちを遣えばもうちょっとやり用もあったが……余波で傷つくのも嫌だったしな。

 

「……なるほど。君は能力だけではなく中身も少し似ているようだね。……彼は兵器の僕と友になった。君は、宝物庫の中に存在する人ではない人形を慮って使わなかった」

 

 いやそれは、戦って友情を感じた二人と違って、今までずっと雑用とか便利扱いしてこき使ってきたから、その分ねぎらっているだけと言うか……。

 

「不思議そうな顔をしているね。特別なことは何もしてないって顔だ。……そうやって、『ヒトではない』者に対しても、ヒトと同じように接せられる。……それはとても、稀有なことだと思う。僕からすれば、なおさらね」

 

 ふっと優しい笑顔を浮かべたエルキドゥがこちらに歩み寄ってきて、その嫋やかな右手をこちらに差し出してきた。

 

「……僕は、君とも仲良くなってみたいと思った。これからも、僕と仲良くしてくれるかい?」

 

「もちろん。……俺は、君の親友と同じ力、同じ容姿を借りて、こうして存在している。……だから怒ってるか……少なくとも良い感情は持ってないと思ってたけど……」

 

 俺が気まずそうにそういうと、エルキドゥは苦笑する。

 

「たしかに、不思議な感覚はするよ。でも、そもそも外見が一緒でも中身が違うってわかってるからね」

 

 そう言って朗らかに笑うエルキドゥ。

 

「→ギル。お疲れ。おわった?」

 

「あ、カルキ……すまんな、一人にして。終わったよ」

 

 そっか、と小さくつぶやくカルキ。

 

「……そういえば、エルキドゥって誰に召喚されたんだ?」

 

「ああ、そういえば紹介してなかったかな。……でも、もう少ししたら……」

 

 俺の言葉に少し考え込んでから、背後の森に視線を向ける。俺たちもそちらに顔を向けると……。

 

「エルー? いるー?」

 

「こっちだよ、テファ」

 

 少女の声が聞こえてきた。駆け寄ってきたのがマスターなのだろう。俺もそのマスターを確認しようとして……。

 

「……これは」

 

「→独白。あれはダメ。あれは自然の摂理に反する。……許せない」

 

 ぎりぃ、と歯を食いしばる音が横から聞こえてくる。カルキを見ると、無表情のまま口だけギリギリと歯ぎしりをしているという恐怖の状況が広がっていた。……これあれだな。俺のマスターにも合わせられないかもしれないな……あと壱与。たぶん無言で殺しにかかると思う。

 ……まぁ、走るとばるんばるん揺れる一部に視線が言ってしまったが、落ち着いてから見ると……もう一つの特徴が目に入った。綺麗な金髪に隠されて見えづらかったが、あの特徴的な耳は……。

 

「エルフ……」

 

 前にマスターから聞いたことのある、人間とは違う種族……その一人が、目の前にいたのだった。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

クラス:ディフェンダー

真名:カルキ 性別:? 属性:秩序・善

クラススキル

守護者:A
何かから守ろうとする行動をとった時、筋力、耐久にボーナス値を与える。

保有スキル

Program Kali-Yuga:EX
プログラム『カリ・ユガ』。AIが生み出したカルキを構成する頭脳。

System Avatara:A
システム『アヴァターラ』。ヴィシュヌのアヴァターラたる、カルキを構成する人格。

skin Light:A
スキン『ライト』。カルキの持つ粛清兵装の光で出来た、カルキを構成する身体。

hack Karma:A
ハック『カルマ』。カリ・ユガにおけるカルマを切り裂く、カルキを構成する能力。

form Invincible:A
フォーム『インヴィンシブル』。末世における悪を排除する、カルキを構成する技術。

能力値

 筋力:A 魔力:B 耐久:B 幸運:C 敏捷:C 宝具:EX

宝具

■■■■■■■■ ■■■■-■■■■(■■■■■■■■■■■■)

ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:― 最大補足:―

■■■■■■■■ ■.■.■.■.■(■■■■■■■■■)

ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1人


「っと、教えてもらったのはこんな感じか。まだ秘匿事項はあるみたいだけど……ま、そのうち分かるだろ」


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