ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「あー、俺の黄金のやつみたいな?」「……そういえばその鎧って名前とかないんですか?」「ないよ。無銘だな。っていうか鎧ってほとんど名前とかなくないか?」「……確かに。分類としての名前はありますけど、個としての名前ってなかなかないですよね」「剣とか盾とかは名前あるやつばっかりなんだけどなぁ……」「なんか名前つけます?」「んー、じゃあ特徴をとらえてるから……『ゴールドアーマー』とか?」「あ、そういやこの人ネーミングセンス無いんだった……」「ん?」「あ、いえいえ。なんでもないですとも。んー、それもいいんですけど、もうちょっと捻った感じで……ゴールド……ゴル、ルド、ゴルド? あ、幻想種の名前とか入れるといいかもですね! ドラゴンと合わせてゴルドラn」「駄目だ」「え? んー、じゃあ、聖なるって意味でゴールドセインt」「それもダメだ」「……食い気味に否定してくるなぁ、この人。……自分はセンス皆無のくせに……」


それでは、どうぞ。


第四十二話 戦士には、鎧が必要だ。

「あー、ったくもう! なんなのよこいつらぁ!」

 

 何度目かになる光線で兵士たちを吹き飛ばしながら、わらわは悪態をつく。芋娘と委員長にあの太陽の英雄をおしつk……任せて、こちらの兵士たちの対処をしているのだが……こいつら、前よりも規模を大きくして、『職種』が増えてやがるわね。負傷した兵を手当して、継戦能力が増えてるみたい。これだけ囲まれちゃ光線でのダメージも拡散してしまう。

 

「壱与! 生きてるわよね!」

 

「あっはっは! ボケたんですか卑弥呼さまっ。もう壱与も卑弥呼さまも死んで座に上がってるじゃないですか!」

 

「――無事みたいね。あとで殺すけど」

 

 少し離れたところで同じく奮戦している壱与が、空中で一回転しながら笑う。……ったくもう、あいつったら……。でも、こんなに組織だった軍隊には司令官がいるはずだけど……さっきのフード野郎かしら……? みんな同じような没個性な格好しやがってからに……ぶっ飛ばすわよ……!?

 

「てーっ!」

 

「あーっ、もう!」

 

 そしてこの砲撃よ砲撃! 少しでも自由にさせるとすぐにこうして撃ってきやがる!

 

「ちっ」

 

 何度目かの砲撃を避けた瞬間、木の陰から兵士が飛び出してきた。……やっべ、避けれない……! なんとか身を捩ってみるも、たぶん攻撃は当たるだろう。くっそ、こんなところで――! そう覚悟して、攻撃を受けた後の反撃を考えていると……その兵士が、何かの破裂音と共に横からの衝撃で吹き飛んだ。

 

「……あぁん?」

 

 なんとか受け身を取って、体勢を取り直すと、音のした方向をちらりと見る。

 

「……今のを見てしまっては、窮地かと思い助太刀しました。……不要でしたか?」

 

 そこにいたのは、髪を短く切りそろえた女。手には、銃を持っている。……あー、なんかギルから聞いたことあるかもしれない。銃士隊? だっけか。この兵士たちは英霊に近いとはいえ、流石に神秘の籠った攻撃しかきかない、と言うわけではなさそうだ。

 

「や、助かったわ。……あの委員長と一緒に来た奴よね?」

 

「イインチョウ? ……ええと、あの黒髪長髪の剣士の方ですが……」

 

「ああ、そいつよそいつ。……ふぅん、兵隊連れてきたのね。ナイスよ。……いやでしょうけど、生き残りたければわらわの言うことを聞きなさい」

 

「……我らも目を付けられているようです。生き残るには、協力するしかないでしょう。それに、今の状況ならば、戦い方のわかるあなたに従うのが一番だと理解しています」

 

 そう言って、兵隊たちはわらわの近くで隊形を取り直す。……いいわね。それを見たからか、壱与もこちらに飛んでくる。……あ、違うわコレ。ただ砲弾に当たって吹き飛んだのがこっちなだけだわ。

 

「っぐあ! ――あーっ! クソッ! ってぇなぁ! ギル様以外に痛みを与えられてもうれしくないってーの!」

 

「相変わらず口悪いわねあんた」

 

 立ち上がって顔に付いた土をグイッと手で拭う壱与は、狂化の影響か、いつものような敬語も抜けた言葉遣いになっているみたいだ。……いや、思えばたまにああいう風になってるわね、あいつ。それほどイラついているってことか。

 

「……卑弥呼さま、そこの兵士たちは?」

 

「援軍よ。あんたの鬼道で補助してあげなさいな」

 

「はーい。……取りあえず、相手に合わせてダメージ与えられるくらいにはしておきますね」

 

 そういうと、壱与から発生した光が銃士隊の子たちに降り注ぐ。これで、相手の攻撃にもある程度耐えられるだろうし、こちらも攻撃を加えることができるようになるだろう。銃士隊の子たちも自身の変化に気づいたのか、それぞれの武器を構えてこちらに顔を向ける。

 

「……壱与、あんたはフード野郎を探しなさい。その間の防御に、四人ほど銃士隊を回して。残りはわらわと一緒に戦場をかき回すわよ。浮いてる鏡は上手く壁として使いなさい」

 

 わらわの言葉に、全員が一度頷く。そして、壱与は鬼道であたりの魔力の反応を探し出し、それをひとつづつ調べていく。それを見てから、わらわは宙へと浮かぶ。まずは、あっちの兵士の多いほうへ行く!

 

「おらおらおらおらぁ! わらわは優しくないわよ! 死にたくなければ退きなさい! もしくは吹っ飛べぇ!」

 

「卑弥呼殿に続けぇ! ここを抜けなければ、我らに未来はないと思え!」

 

 光線と砲弾の飛び交う後ろから、勇ましい掛け声とともに銃士隊が突撃する。先ほどとは違い、死角が無くなり、お互いにフォローしあっているからか、相手の損害も増えてきたようだ。

 

「……! 卑弥呼さま! そっから北西! 騎乗してる集団! その真ん中のフードが……サーヴァントです!」

 

「よくやったわ壱与! あんたもそっちに向かいなさい! わらわたちもここを突破して……そいつを打ち取るわよ!」

 

 壱与が言った方向を見ると、確かに騎乗している集団が見えた。……不利を悟ったのか、撤退しようとしているみたいだ。……させるか……!

 

「ここで一人でも減らすわよ! 走りなさい!」

 

 飛んで追いかけつつも、銃士隊の子たちが走り抜けられるように道を作っていく。薙ぎ払って少し進めば、確かに他の兵隊なんかよりも雰囲気の違う人影が見えてきた。もうすでに後ろを向いて走り出していて、それをかばうように殿の兵士たちが立ちふさがる。

 逃さない……! こうやって戦ってわかったけど、こいつは時間をかけさせればかけさせるほど戦力を増強してくる! ここでとどめを刺さないと、次はもっと水面下で強力になって、対処が難しいほどになってから出てくるだろう。できれば、ここで退場させてやりたい……!

 

「ちっ、こっから撃つか……?」

 

 目の前に銅鏡を持ってきて、魔力を引っ張ってくる。並行世界をつないで詰め込んだ魔力が、銅鏡に仕込んだ術式を起動させ、光に変換されていく。少し隙はできるけど、今は周りを固めてくれる人員もいるし、やってみるだけやってみるのもいいだろう。

 

「光線を撃つわ! わらわの周りを固めなさい!」

 

「っ! 卑弥呼殿に攻撃を届かせるな!」

 

 隊長の一言で、わらわの周りに寄ってくる銃士隊。よっし、これなら……!

 

「――だめぇっ! 卑弥呼さまぁっ! ()()()()()()()!」

 

「――は?」

 

 必死な壱与の叫び声が聞こえて、素っ頓狂な声がわらわの口から出てきた。なによ、と聞き返そうとして、凄まじい衝撃でわらわの意識は暗闇に沈んでいった。

 

・・・

 

「卑弥呼さまッ!? っんのクソ野郎が!」

 

 一瞬で魔力を通して、光弾を飛ばす。精霊が勝手に銅鏡を光弾に変換して、魔力を推進力に、卑弥呼さまに馬乗りになっている無礼千万な畜生に襲い掛かる。

 

「む」

 

 そいつはすぐに卑弥呼さまの上から飛びのいたけど、卑弥呼さまは動かない。……いや、大丈夫だ。卑弥呼さまの周りを精霊が飛んでる。霊核は無事なのだろう。

 

「てめえ……虎になるっていう変なサーヴァントだな……? 卑弥呼さま押し倒しやがって!」

 

「ほう。私のことは知られているわけか。……まぁいい。こちらの女は後でも処理できるだろう。次はお前だ」

 

 卑弥呼さまはダメージを受けてるのもあってしばらくは起きてこないだろう。さっき飛ばした光弾を変換して、精霊に卑弥呼さまを引っ張らせる。風の力でこちらに吹っ飛んできた卑弥呼さまを銃士隊に任せて、壱与は謎の男と対峙する。……兵士たちは下がっていってしまったけど、追いかけられはしないだろう。こっちのサーヴァントの戦力から卑弥呼さまが抜けた以上、壱与だけでフードの男を追いかけることは不可能だ。残った銃士隊たちがサーヴァントと対抗できるかと言われれば首をかしげざるをえないし……。

 

「……お前にやるほど、卑弥呼さまは安くないんですよ。卑弥呼さまを好きにしていいのはギル様だけ。……来いよ、畜生が。ギル様のためにお前の皮で絨毯作ってやる……!」

 

「ふむ。お前の主と言うのが話に聞く黄金の王か。こちらでも最大級の脅威ととらえている」

 

「当たり前じゃないですか。一番敵に回したらいけない人がいるというなら、それはギル様。あんた程度、一瞬で消すことだって可能なんですから」

 

 そう言って、壱与は銅鏡を展開する。魔力を内包している銅鏡たちは、精霊に一声かけるだけで光弾になってあの男に殺到するだろう。だけど、アサシンからの報告によれば、あいつが虎になったらある程度の魔術攻撃は耐えるらしい。……どんな虎なんだ……? そんな虎、神話とかじゃないと存在できなさそうだけども……。

 

「……銃士隊の人たちは他の怪我人を連れて下がっててください」

 

「壱与殿はどうするので?」

 

「わかってて聞かないでくださいよ。……あいつを倒します。それが出来なかったとしてもあなたたちが退く時間ぐらいは稼ぐので、怪我人と……卑弥呼さまを頼みます。たぶん、学院の方で謙信さんとかジャンヌさんが戦ってると思うので、それを避けて」

 

 それだけ言って、手でしっしっと銃士隊の子たちに合図を送る。……相手の男は虎にもならずにこちらをずっと見ているだけだ。いや、何かを思案している風に、顎に手を当てているけど……。

 

「ずいぶん余裕ですね。壱与程度の女子供なら、虎にもならずに勝てると?」

 

「む。いや。今日は天気も良く景色も良い。何か良いものが浮かびそうだと考えていただけだ」

 

「てめ……しっかり舐めてるじゃないですか……!」

 

 ぶっつん来ました……! 跡形も残さず消し飛ばしてやる……!

 

「熱いやつ! 頼みます!」

 

 魔力を通して、鬼道で精霊に働きかける。動物には光弾よりも炎弾のほうがいいと思って、魔力を光ではなく炎に変換してもらって飛ばす。……卑弥呼さまに習ってこれも技名つけようかな。炎弾って言ってたけど……うーん、ばーんと行って兎のように舞うから……ばーん、舞、兎? ……『ばーんまいと』とか? ……んー、なんか違うかも。

 

「とりあえずは炎弾でいいや」

 

 こんなことを考えている間にも、精霊たちが炎弾を操って目の前の男へ殺到させる。男は焦る様子もなくちらりとその炎弾を見ると、懐から何かを取り出して広げた。……? 特に神秘も感じられない、ただの大きな布に見えるけど……?

 炎弾がその布を撃ち抜き、燃やし尽くすが、そこに男の姿はなかった。……?

 

「ッ!」

 

 ――それに気付けたのは、偶然だった。周囲に鏡を浮かばせていて、鬼道を使っていたから、鏡に偶然『予知』が映ったのだ。それは、私を襲う男の姿。

 

「っぶな!」

 

 慌てて手元の鏡を変換し、その推力で自分を押し出す。ぶん、と風を切る音は、男が持つ大剣が通り過ぎる音だろう。何こいつ! セイバー……? いや、そんなはずはない! セイバーにしては身体の動きが洗練されていない。ただ『扱える』くらいのものだ。

 

「避けたか」

 

「そりゃ避けるでしょうよ!」

 

 地面に突き刺さった大剣に固執することなく手を放し、こちらを見やる男。

 

「だが。今のでなんとはなくお前の戦い方はわかった。次はこうしよう」

 

 そう言って、男はその場で回転するように蹴りを繰り出した。目的は壱与じゃない。そばに突き刺さった大剣――!

 

「くっ!」

 

 こいつがやりたいことに気づいて慌てて鏡を目の前に構えて、後ろに跳ぶ。それと同時に、蹴り砕かれて壱与の方へと飛んでくる大剣の破片。2、3は食らうの覚悟ですかね……!

 だけど、次の瞬間壱与は血の気の引く感覚を覚えた。

 

「――後ろッ!?」

 

「正解だ」

 

「がっ!」

 

 大剣の破片は目隠し!? こいつの狙いは、最初から……!

 

「が、うっ!」

 

 二度ほど地面をはねて、木にぶつかって止まる。ちっくしょ、やられた! ここは学院横の林の中……自然の中は……。

 

「その通り。俺の。独壇場だ」

 

 木の陰からこちらを見るのは、先ほどの男。痛む体に鞭打ってゆっくり立ち上がる。……浮いて動けるから、足が折れてるのはどうでもいい。神経の接続を断っておけばいいし。まずいのは場所だ。

 

「ここならば。邪魔も入るまい」

 

 これは、魔力の高まり……『宝具』の前兆だ……!

 

「ちっ……精霊よ! キレのいいやつ、頼みますっ!」

 

 精霊を風に変換して、かまいたちのように飛ばして、さらに別の鏡も風に変換して自分を遠くに動かす。

 けれど、男は木を盾にして避け、そのまま林の中に消えていった。

 

「誰かが我が名を呼んでいる……」

 

 その声は、不思議と反響して聞こえた。

 

「此の夕べ渓山明月に対し長嘯(ちょうしょう)を成さずして但(こう)を成すのみ」

 

 そして、男は自身の野性を開放する。

 

「――『此夕渓山対明月(さんげつき)』」

 

 彼はもう、人ではなく。ただ目の前の兎を狩るために、この叢を駆けるのだ。

 

「さんげつき……? むっ、なるほど、人が虎になる物語……」

 

 ギル様の知識とリンクしている壱与は、宝具の真名開放から類推される物語にたどり着いた。……間違いないでしょうね。この男の立ち居振る舞いからは、確かに知識人たる冷静さと、諦観を感じ取った。

 

「■■■■■■――!」

 

「っ」

 

 予知をフル稼働させて、初撃を避ける。頭のイカレた速さだ。それもそうか。人間は、虎と素手で戦えるような性能は持っていない。道具や、知恵を使って戦わねばならない生物相手に、サーヴァントの中でも一番非力な壱与が、どうやって戦うかっていえば……。

 

「これしかないですよねっ。光の力、お借りしますッ!」

 

 魔力によって銅鏡が変換され、光弾となって虎へと殺到する。だが、相手はそれを俊敏な動きで躱し、周りの木を足場に三次元機動で壱与に迫る。

 

「そんなのお見通しですよって!」

 

 風に変換した銅鏡を自分に向けて、壱与自身を飛ばす。それなりに優しくしたとはいえ、それでも痛いものは痛い。勘違いされがちだけど、壱与は痛かったらなんでもいいのではなく、ギル様が与えてくれるものならば苦痛でも気持ちよくなっちゃうだけで、被虐嗜好ではないのである。

 

「■■■■■!」

 

「吠えんなっ」

 

 壱与への爪の一撃を空ぶった虎は、即座に地面を蹴って壱与に迫る。

 

「ばーか。何もしないで下がったと思ってるんですか?」

 

「■!?」

 

 地面において待機させていた銅鏡が、光弾と化して下から虎を突き上げる。海老反りになって少し浮いた虎は、着地もろくにできずゴロゴロと転がって壱与の追撃を避ける。っし、今のは良いのが入った!

 

「■■■■!」

 

 起き上がり、木の陰に跳んで隠れる虎。……ダメージを負ってますね。ここで手を緩めず、攻め続ける!

 

「■■■■■――!」

 

「うるっさい!」

 

 光弾を乱れ撃って、木を倒しながら虎も狙う。倒れる木を避けながら後退すると、倒れた木の陰から虎が飛び出してくる。

 

「っくそっ!」

 

 置き土産と光弾を置いてもう一度後ろに跳ぶが、虎は罠の手前で着地すると、その場で一回転。周りの土と共に、壱与の置いた銅鏡を吹き飛ばした。ちっ、二度目は効かないってことですかね。仕方がない、こういうことはやりたくないけど、時間稼ぎでなんとか……!

 空中に浮きながら、相手に背中を見せないよう、向き合いながら後退する。あっちがどうなったかはわからないけど、いいんちょたちの方へ行かないと……!

 

「ああもうっ、しつっこい!」

 

 右に左に、ギザギザと蛇行しながら光弾を撃っていく。相手もたまに先ほどのように回転して、壱与の光弾も跳ね返すようになってきた。ダメージを負ってるくせに器用なことを……! 

 壱与の想定しない倒木があると、それを避けるのに体勢を崩して危ない時が何度かあった。

 

「確かこっちのはず……!」

 

 何度目かの相手の反撃を避けて、そろそろ林を抜けそうだと少し気が抜けていたのかもしれない。

 ……だから、『これ』に気づかなかったのだ。

 

「イヨ殿!」

 

「……あ?」

 

 だん、と銃声。飛びながらそちらに視線をやると、虎に向かって発砲している男女さん。

 

「てめ、馬鹿っ――!」

 

「■■■■!」

 

「くっ!」

 

 壱与に向かっていた虎は、その弾丸を受けた瞬間、男女さんの方へと方向転換をして跳びかかった。そりゃそうだ。なんてったってあっちはサーヴァントでもこちらの世界の魔法使いでもない、ただの戦える兵士。

 男女さんは剣を抜いて応戦するけど、一撃目を受けた時点で剣はへし折れ、体勢を崩したまま……。

 

「■■■!」

 

「あ」

 

 短い言葉を残して、男女さんは鋭い爪で切り裂かれ、その巨体で吹き飛ばされた。しかも戦っていた時に大量に発生した倒木に突き刺さり、胸の中心から木の枝が生えたように見える。

 

「おま……! てめぇ!」

 

 まだ命はある! 光弾をいくつかばらまいて、虎を牽制。今まで出ようとしていた動きから、少し風の精霊の勢いを強くして自分を吹き飛ばし、男女さんの下へ。虎が体勢を整える前に男女さんを抱えて、高所へ飛ぶ。

 

「……ぁ」

 

「っ。壱与、回復できないんですけど……!」

 

 やらないよりはましか、と精霊に頼み、男女さんの体を一時的に保護して、構成してもらう。あとでしっかりと傷ついた内臓とか塞ぎ切らない皮膚とか治す必要はあるけど、今の壱与にはこれで精いっぱい。それでも、わかってしまう。

 

「あ、ああ……ダメだ。ダメだっ! 命が……命がこぼれて行っちゃう……!」

 

 風の精霊に男女さんの体を浮かせ、ギル様に念話をつなぐ。お願い、繋がって……!

 

「っあ、ギル様っ! い、壱与、壱与、どうしたらいいかわからなくて……!」

 

 向こうでギル様が落ち着け、と言ってくれている。簡単に今の状況を説明して、どうしましょう、と尋ねる。そして、ギル様は凄まじいことを言った。

 

「……え? 『英霊を召喚』する?」

 

・・・

 

 そんな衝撃的な言葉を聞いた後。壱与の目の前には、赤い兜が存在していた。……え? これが英霊? あの、壱与治せる英霊さん来るんだと思ってたんですけど……。え? キャスターもバーサーカーも埋まっちゃってるから、当てがない? ……ギル様の召喚枠に制限があるとか初耳なんですけど……?

 ま、まぁとにかく。これを被せればいいとか言ってたけど……どういうことだろ?

 

「とりあえず……かぽっと」

 

 浮かせている男女さんに兜を被せてみる。すると、鎧から魔力が伸び、あっという間に男女さんの前身を包み、鎧を構成してしまった。うわ、顔も隠れてる。

 

「……むぅ。これは」

 

「え? 喋ってる……?」

 

「む? ふはは、おかしなことを言う。まぁよい。だいたいのことは小僧から聞いておる。ワシに任せよ」

 

「ワシ? ……え、もしかして今英霊の方が喋ってる!?」

 

 声は男女さんだけど、こんな喋り方じゃなかったし……。

 

「娘よ。この風を解けぃ! 『甲斐の虎』と呼ばれたワシが、虎に身の程を分からせてやろう!」

 

「えっ。あっはい」

 

 妙に自信満々なので、精霊へのお願いをやめる。……実をいうと鎧を付けたくらいから『重い』って文句きてたんですよね……。支えを失った体は、そのまま重力に引かれて落ちていく。え、大丈夫なんですかアレ?

 そのまま落ちていった赤い鎧は、地面に膝をつけ、そのあと拳を地面につけるような……なんだっけあれ。前にギル様やってた……あっ、ヒーロー着地!

 

「え、でもあれ膝ぶっ壊れそうになるらしいんだけど……だいじょうぶなん?」

 

 すぐに動いてるところを見るに大丈夫なんだろうけど……と、とりあえず壱与も援護しないと! 壱与も重力に従って落ち、地面すれすれで再び風の精霊にお願いして空中を飛び、落下を回避する。

 

「いたっ!」

 

 うっわ、すっげえなあれ。どうやって戦ってんだろって思ったけど……なんだありゃ。手のひらから衝撃波出したり足の裏から魔力噴出して飛び回ってる……。なにあの鎧。もしかして未来の英霊だったりするの? でも外見的にはウチの系譜っぽいんだよねぇ……。どういうことだろ?

 でも、あの機動性と防御性能は素晴らしい。虎の一撃を受け、さらに虎の分厚い毛皮を通してダメージを与えられる衝撃波。相性は中々良いと言えるだろう。

 

「援護しますよ!」

 

「む、呪い師か! 助かる!」

 

 口調も全然変わっちゃってますね……どういうことなんだろ、ほんと……。

 

「■■■!」

 

「ふはは! 甘いのぅ!」

 

 跳びかかる虎を、まるで子供と戯れるかのようにいなし、そのどてっぱらに衝撃波一発。たまらず吹き飛んだ虎は、木に一度着地してから、茂みの中に身をひるがえした。

 

「……む。逃げるか」

 

「え? わかるんですか?」

 

「うむ。あれほどの殺気、遠ざかれば分かるものよ。流石は獣よな。不利を悟った瞬間に逃げていきおった」

 

 そういうと、纏っていた鎧を魔力に戻し始める。あ、ちょ、今それを戻したらその人死んじゃ……あれ?

 

「そんなに心配そうな顔をせんでもわかっておるわ。ワシが呼ばれた意味もな。わしの待機状態は形態を選べる。この部分を塞げるように変化しておくわい」

 

 赤い鎧は胸の中心が丸く光っていたのだが、鎧が魔力に戻った後もその部分が残っているらしい。喋るたびにぴかぴか光ってるけど……。

 

「ふむ、どうやら全員退いたようじゃの。合流する前に、わしのことでも話しておこうかの。わしはライダー。真名は……」

 

 そこまで言ったところで、ライダーは口を閉じ、ちらりと視線を横に向けた。壱与もそちらを見ると、いいんちょさんとバスゴリさんが出てきたところでした。

 

「壱与さんっ。無事だったんで……え、横の人って……」

 

「あ、そ、そうですね。ご紹介します。ギル様が新たに召喚されたライダーさんで、名前はまだ聞いてないんですけど……」

 

「……んじゃないか」

 

「え?」

 

 いいんちょさんがぷるぷる震えながら何かを呟く。もしかして何かの因縁持ち……? 不安に思って少しだけ構えていると、いいんちょさんが顔を上げ、叫びました。

 

「そいつの名前は、信玄! 甲斐の虎と呼ばれ、私と幾度も戦った……武田信玄だよ! どうしてここに……!?」

 

「ふっははは! これは貴様にも予想外だったようじゃの!」

 

 そう言って呵々大笑するライダー……武田信玄は、しばらく愉快そうに笑うのだった。……こんなの、困惑必須なんですけど……。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

クラス:ライダー

真名:武田信玄 性別:男(?) 属性:混沌・悪

クラススキル

対魔力:C
一工程による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B+
騎乗の才能。たいていの乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
馬の名産地にて育ち、自身も様々な馬に乗っていたことから、馬ならばランクに多少有利な判定がある。


保有スキル

風林■山:A

カリスマ:■+

■は城、■は石垣、■は堀:B

能力値

 筋力:B 魔力:D 耐久:B 幸運:D 敏捷:A 宝具:A+

宝具

■■■■(■■■■■■■■■■■■■■■■)

ランク:■ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:2000人


■■■■(■■■■■■■■■■■■■■■■)

ランク:■ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1人


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