ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「……ぐ、うぅ、うぅあぁぁぁぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁあぁぁぁんまりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」「……あそこで号泣してるわらわのバカ弟子はどうしたわけ? 腕でも切り落とされたの?」「や、なんか知らないけど、賭け事に負けたとか……私にもよくはわからないんだけどね」「ほへー。賭けとかするのね、あの子。そういうのしない堅実な女だと思ってたけど……ちょっと、バカ弟子?」「……うぅ、うぐぅ、ひっぐ、えぐ……」「……ガチ泣きじゃない。ほら、よしよし、わらわの薄い胸で泣きなさい」「うぇぇん……固いよおぅ……」「そこに文句言うんじゃないわよ。っていうか、固いのは服と装飾品の所為よ。わらわの胸が薄いからじゃねーわよ」「……で、なんで泣いてたのさ? 私に言ってみなよ」「う、うぅ、た、大切にしてた、『ギル様の使用済みシーツ』を賭けたらぁ……まけたんでずぅぅぅぅぅぅ!」「はい解散」「うん、解散」「あいたっ。ちょ、急に冷たくないですか!? う、うぅ、この悔しさ、忘れないんだからぁぁぁぁ!」


それでは、どうぞ。


第四十一話 悔しい思いは忘れない

「……間に合わなかった、か」

 

 目の前でこと切れている二人の女性を見て、つぶやく。……下手人は、三手に分かれたらしい。そこまでわかればやることは一つ。

 

「……ジャンヌは寮の方へ行ったか……ならば、私は本塔に向かうかな」

 

 あそこには確か学院長やら身分の高いのがいたはず。私が敵の立場なら、学院長、生徒は捕まえ、ここに駐屯している兵士は殺したいはず。兵士たちは魔法を使わない、実践的な子たちと言う印象を抱いたのを覚えている。数人の魔法使いならば撃退できるだろう。優先順位的に、奇襲に弱そうな教師たちを守った方が良いだろう。

 

「よし、行くところは決まった」

 

 最後に黙とうを捧げる。……あとで絶対、迎えに来るからね。

 

「さて……それじゃあ、いくか」

 

 刀を抜き、姿勢を低く。足に力を入れ、短く息を吐く。――もう、殺させない。

 駆け出す。景色が流れ、視界が狭まる。だけど、目的地はもうわかってる。目前の塔。その内部だ。確かさっきの二人の仲間が起居してるところ。寝ているところを襲撃するつもりなのだろう。とても理にかなっている。

 

「でも、だからこそ私にはバレバレだよ。……自分でいうのもなんだけど、私、天才だから」

 

 見えた。数人の男たちの後ろ姿。うっすらと血の匂いがする。それと、殺しを生業としている人間特有の、歪んだ気配。その気配には凄く敏感なんだよ、私。

 

「――だって、私も同じだもの」

 

 最後尾の男に向かって一閃。キン、と澄んだ音がしたかと思えば、ぐらりと傾く男の身体。……流石に不意打ちじゃ一人が限界か。一気に振り返る男たちに、笑みを持って答える。

 

「やぁ、乙女の寝所に忍び込むには不潔な男たちだね。……夜這い朝駆けするならしっかり準備してこないとさ」

 

「……一人か。罠……伏兵の可能性もあるな」

 

「援護しろ。静かに殺るなら俺が一番得意だ。サイレントでもかけておけば、メイジでもねぇ奴らにはわからんだろ」

 

 一人、ガタイの良い男が前に出て、小刀……ナイフを構えた。サイレントは確か……消音の魔術だったか。こちらとしても好都合だ。しん、と不自然なほどに音が消えると、男が駆け出してくる。……っ、後ろ!?

 直感に従って屈むと、ひゅお、と風切り音。……たぶん、後ろの人の内の誰かがやったんだろう。前に意識を集中させておいて、後ろからの不意の一撃。……最初の会話から意識を誘導していたのか。……面白い。

 

「――けど、それで終わりなら、終わりだよ」

 

 自分の口は動いているけど、音が出ないことに不思議な感覚を抱く。……音を響かなくする魔術なのか。相手も口を開いてなんか言ってるっぽいけどわかんないや。

 低い姿勢のまま前に一歩。切っ先で必要なだけ首を切り、その巨体に思いっきり蹴りを入れる。こんななりでも筋力はC。人一人くらいなら苦も無く蹴っ飛ばせるのだ。

 

「ぐおっ!?」

 

「な、なにぐぇっ」

 

 一瞬で吹っ飛んできた男を受け止めて混乱しているのとは別の一人の鳩尾に柄頭を一撃。潰れたカエルみたいな声を上げる男からその隣の男に視線を移し、足を払う。そうすれば平衡を失った男は、巨体を受け止めきれずに下敷きになり、地面に倒れこむ。

 

「ぐあっ、くそ、重――かっ」

 

 そんな男の顔面に鞘を叩き込み陥没させて殺し、最後に残った苦しそうにせき込む一人の襟を掴んで、壁にたたきつけ、首に刃をあてる。

 

「死にたくなければ答えるんだ。何人で来た? 目的は? 頭目の名前は? 答え以外を口にすれば切るからね」

 

「か、な、なんだよ、情報が欲しけっ――」

 

「はい切れた」

 

 どさり、と倒れた男の懐を探りながら、つぶやく。

 

「言ったじゃん。答えなきゃ切るって。……あれ、答え以外を言ったら、だったかな? ……ま、どっちでもいっか」

 

 がさごそ懐を探るも、なんかの小道具やらしか見つからない。……んーむ、徹底してるなー。こういうの慣れてんだろーな。

 

「それならそれで、やり方はあるんだけどさ。……っていうわけで、共闘しない?」

 

 視線を向けずにそういうと、男たちが襲う予定だったであろう部屋が開き、一人の女性が現れた。

 

「気づいていたのか」

 

「そっちこそ。男たちが来るの待ち構えてたでしょ。ごめんね、獲物とっちゃって」

 

「……いや、こちらとしては敵が死ぬのならば過程にはこだわらん。……それで、共闘とは?」

 

「うん、柔軟な頭を持ってるようで何より。あのね――」

 

 こうして、私は銃士隊のみんなを仲間に引き入れることに成功したのだ。

 

・・・

 

 今部屋から出てきたのは銃士隊という部隊を仕切っているアニエスという子だった。戦闘準備と部下の集結を手早く済ませて、今はジャンヌたちのもとへ向かっている最中だ。

 たぶん相手は少数精鋭。今私たちが撃破したのと、たぶんジャンヌ達がぶつかってるっぽいの、後は卑弥呼と壱与がこちらに合流する前に排除した三つに分かれていたのだが、すでにそれは撃破した後。ただ、向こうも失敗したときの備えくらいしているだろうと思ったんだけど……。

 

「っ! これは、やっぱりって感じかな」

 

 暴力的な魔力の奔流。叩きつけられるこの力は、間違いない……!

 銃士隊の子たちには悪いけど、早くたどり着くために足の回転を上げる。……間に合え……っ。

 

「見えた――!」

 

 後ろからの怒鳴り声も気にせず、曲がり角を曲がる。そこには……。

 

「く、うぁっ!」

 

「……ふむ、増援か」

 

 膝を折り肩で息をするジャンヌと、その目の前に立つ、太陽の英雄だった。

 

・・・

 

 あの人が来たのは、嫌なにおいの男の人を倒して卑弥呼さんたちに話しかけようとしたときだった。

 その攻撃に気づけたのは、本当に偶然だった。

 

「っ!?」

 

 熱線。先ほどの炎の魔術よりも高温で細長いビームのようなそれを、身体を捻って避ける。背後の塔にぶつかり、小さな爆発が起きる。

 

「ちょっと、芋娘。……なんであいつがいるわけ? わらわ、あっちにいるもんだと思ってたわよ」

 

「私もです。……マスターに対抗するために、マスターのいるほうに配置していると思ってました」

 

「ふむ……流石に今ので仕留められるとは思えなかったが……よくぞ避けたというべきか」

 

 そう言って現れたのは、槍を携えた施しの英雄、カルナ。それに……。

 

「……後ろに謎の集団、ですか。先ほどの魔術師たちとは……違うみたいですね」

 

 壱与さんのつぶやきに、私もカルナの後ろを見る。フードを被った人を中心に、兵士らしき男たちが、綺麗に並んでいる。嘘でしょう……? あれがすべて……『サーヴァント』……?

 

「惑うんじゃないわよ、芋っ子。確かにサーヴァントみたいな霊基になってるけどね、あれは『別物』よ」

 

 私の肩を叩きながら、卑弥呼さんがそう忠告してくる。……あれが、『別物』? ……確かに、あの人数のサーヴァントの召喚・維持なんてマスターでもない限り不可能だ。それに、よくよく見たら、英霊としての『格』のようなものが足りてないようにも見える。真ん中のフード人は別だけれども……。

 

「……芋っ子。あんたはあの太陽系男子を止めなさい。一人で。わらわと壱与であっちの怪しい軍団は請け負ったわ」

 

「卑弥呼……さん……?」

 

 ふわり、と浮かんだ卑弥呼さんが、壱与さんと共に銅鏡を構え、後方の集団に突っ込んでいく。それを横目で見ながら、私は旗と剣を構えて走る。あの槍を構えて立つカルナを見ると、マスターが戦うときと同じ構えだと感心する。ある程度の実力者だと構えはああいう自然な立ち方になるのだろうか? ……いや、ただ我流なだけかな。『型』のある構えなんかは、その流派が積み重ねてきた年月の発露だ。それに対して、我流の構えと言うのは一部の才覚あるものが生み出す『自分の体の動きを最適化』したものだ。あの自然体に見える姿でも、おそらくはどんな動きにも対応できるようになっているはずだ。

 ――強い、と素直に思う。今の状況で、私一人で勝てるビジョンが見えない。でも、卑弥呼さんや壱与さんも頑張ってるんだ……! 私も、頑張らないと!

 

「行きます!」

 

「……来い、救国の聖女よ」

 

 待ち構えるカルナに、地面を蹴って一足で跳びかかる。右手の剣を振るう。牽制程度だけど、とにかく相手を動かさないと、戦うも何もない。カルナは私の攻撃を少し後ろに体を倒すことで避ける。……紙一重で躱されると、技量の差が際立ってへこむ。

 

「でも、その余裕が命取りですっ!」

 

「……余裕はある。だが、油断はない」

 

 剣を振るった勢いで一回転。そのまま左手の旗を振るう。流石に長物は大きく後退した。それを見て、もう一歩踏み込む。私の武器は、手数の多さだ。このまま、相手に何もさせず、押し切る! それが出来なくても、相手を私でくぎ付けにする!

 

「良いところはある。考えも問題はない。……だが、俺はそれを上回る」

 

 右手の剣で袈裟切り、左手の旗で突き。そのまま旗を横に薙ぎながら、一歩踏み込んで右手の剣をもう一度袈裟切り! ここから……

 

「あ、ぐっ!?」

 

 ――気づけば、背中を打ち付けていた。……なんで……? 相手が手を出しずらいように、手を止めていなかったはず……!

 

「お前の考えは良かった。両手に持つ獲物で、俺に攻撃をさせないようにと、息をつかせぬ連撃は確かに良い判断だ。……だが」

 

 そう言って、カルナは槍を振るう。炎がその槍の軌跡に遅れるように発生して、円を描く。

 

「お前の考えはよくわかる。鎧を脱ぎ捨て得たこの槍は、確かに警戒に値するだろう。雷光の具現、神すら滅ぼす槍だ」

 

 私が立ち上がり、震える足を叱咤している間も、しっかりと私のことを警戒しながら、カルナは続ける。

 

「だが、武器など前座にすぎん。……真の英雄は、眼で殺す」

 

 そう言ったカルナの赤い瞳が、光ったような気がした。……ま、まさか……!

 

「あなたッ! そ、それは……! それは、『弓の逸話』でしょう! なんで、なんでランサークラスでそれが使え……くっ!」

 

「これはクラスによって形を変える。もちろん、アーチャークラスであれば一番うまく扱えるがな。……これはそういうものだ。悪く思え」

 

 二撃目は避けきれず、旗と剣をクロスさせて受け止める。……が、それで受け止めきれるわけもなく、私は後方へゴロゴロと転がっていく。……第一と第二宝具だけじゃ、彼を止められない……! でも、第三宝具をこんなところでは使えない……! 

 

「見たところ、お前に遠距離の攻撃手段はない。……すまなく思うが、戦いで自分の使えるものをすべて使わないのはお前への侮辱と思った。……耐え切れぬなら、そのまま消えて行け」

 

 そう言って、カルナは私を慈悲の籠った瞳で見てくる。……やめて、ください……!

 

「私を、そんな、かわいそうな女を見るような……憐れむように、見ないで……!」

 

「……そうか。お前に対しての違和感はそれか。……おそらく、あの黄金に関係しているのだろう。まぁ、その悩みや苦悩はお前のものだ。……俺から何か言うことはない」

 

 振るわれる槍を、震える剣で防ぐ。……ダメだ。受け止めきれない。私は動揺している。自分ではっきりとわかるくらいに、だ。

 でも、私はそれを振り払えるはずだ。……だって、マスターは……ギルさまは、私を助けてくれた人だから……!

 

「うー……ぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」

 

 消え入りそうな声を無理やり上げて、カルナに向かっていく。もちろん、策なんてない。カルナは私の振るう剣も旗も避けていなして、反撃に槍を振るわれるのをぎりぎりで躱す。……これじゃない。私が狙っているのは……!

 

「真の英雄は目で殺す――!」

 

 これだ!

 

「も、ら、ったー!」

 

 放たれた熱線……弓の宝具を、自分の耐久値を信じて……!

 

「う、け、るぅぅぅぅ!」

 

 『HP(ライフ)』で受けるッ!

 

「な、に……?」

 

「がっふっ!」

 

 顔面、しかも右の頬を殴りつけられたような、焼き付くような衝撃が、思いっきり頭を揺らす。

 ……でも、でも――! これで、これでいい! 私は、このくらいじゃないと、目が覚めない!

 

「あぁぁぁぁぁっつぅぅぅぅぅぅ!」

 

「それはそうだと思う」

 

「うるさいっ!」

 

 対魔力、そして耐久の値が高いおかげで、焼けただれることなく、衝撃と熱さだけで済んだ。そして、もっと大事なことがある。

 

「……目ェ、覚めましたよォ……」

 

「……妖怪か?」

 

 カルナの失礼なツッコミはスルーして、頭を振るう。……うん、流石は最強格の英霊の一撃だ。まだ頭ぐわんぐわんする。……でも、これで余計な雑念は消えた。まったく、もう死んで何年もたってるのに、少しのきっかけで心の淀みみたいなものが表に出てきてしまうなんて、まだまだですね。

 

「っしゃ、これでいけます!」

 

「……振り払ったか。……だが、彼我の戦力差は変わらんぞ?」

 

 それは当たり前だ。と言うかむしろ今の一発をわざと貰った分だけ不利になるだろう。

 だけど、それを後悔なんてしない。……ぎゅう、と両手の武器を握りしめる。……よし。

 

「行きます!」

 

 一歩を踏み込む。ここから止まったりなんてしない! 何が来ようと、顔面で受け止めてやる! ……あ、いや、顔面限定じゃないんですけどね!?

 斬ることなんて考えずに剣を振るう。当たらなくてもいい。この英雄に、何もさせないくらいの意気込みで振るう!

 

「はっ、せっ、どりゃっ、あぐぅっ!」

 

 三回に一回くらいの確率で、躱しきれない攻撃を受けてしまう。……でも、それでいい。攻撃食らいながら前進してくるのは流石に予想外なのか、なんとかカルナにも食らい付けている。

 

「ま、っだ、まだぁぁぁ!」

 

 何度も地面を転がり、起き上がって、切りかかる。勝てるとか勝てないとか、敵わないとか食いつけないとか、そういうことは考えない! 根性論は今どきはやらないってみんな言うけど、私はその根性論がまかり通ってた昔の人間なんだから!

 合理を無理で押し通して、必然を奇跡で塗り替えていくのは、神話の専売特許じゃない!

 

「……よく食いついたというべきか」

 

 槍の一振りで、吹き飛ばされる。……構わず立ち上がろうとして、がくんと膝が折れる。あれ……?

 

「……もう立てんだろう。お前の心は折れてはいないが、お前の体はすでに限界に近い。……もう休むといい」

 

 そんな。まだ、全然、時間を稼げてない――! 私、まだ、役割を果たせてない!

 

「まだ、いけ――」

 

「――無理だ」

 

 そう言って振るわれた槍をなんとか反応して避けようとしたけど、躱しきれずに槍を受けてしまった。体勢が変に崩れた所為か、急所には当たらなかったものの、大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「く、うぁっ!」

 

「……ふむ、増援か」

 

 なんとか立ち上がってカルナを見ると、カルナはこちらを見てはいなかった。……あれは……セイバー、さん……?

 

「大丈夫……じゃなさそうだね、ジャンヌ」

 

 そう言って、セイバー……謙信さんは私とカルナの間に立つ。

 

「こんばんわ、太陽の英雄。選手交代だ。この子みたいに馬鹿力があったりビックリな武器を持ってはいないけど、良いよね?」

 

「……一向にかまわん」

 

 そう言って、二人は睨み合う。……私は、スキル『聖人:A』で選択された、『HP自動回復』で体力を回復させつつ、二人の動きをじっくりと見る。なんとか時間を稼いでもらって、回復した私も加われば二対一になる。その間、最低でも邪魔にならないようにしないと……。

 

「――しッ!」

 

 短く息を吐いた刹那、謙信さんはカルナの目の前に現れて、刀を振り抜いていた。カルナはそれを避けつつも、驚いた顔をしている。

 

「……見た目通りの動きではないな。何かの加護……誓約か……?」

 

「そんな面倒なものでもないよ。ただ、祈って、構えて、刀を振るだけさ」

 

 謙信さんは、カルナの攻撃を避け、避けきれないものは受け流していた。私みたいに、力で受けたりする戦い方じゃない。技術と経験で最適を導き出して戦ってるんだ。

 風切り音を立てながら、刀を振るう謙信さん。何度かお互いに剣と槍の応酬が続いてから、後ろに跳んで二人とも距離を取った。

 

「……なるほど、日本の英霊だな。……あの地の英霊たちは、自分の身と技術だけで神秘に食らいつこうとする」

 

「物がない島国だからね。あるものだけでなんとかしないといけなかっただけさ」

 

 そう言って、血振りのような動作を取る謙信さん。今の応酬を経て、一区切りと言うことだろう。……少しだけ、謙信さんがこちらに意識を向けたのがわかる。……そろそろ、回復もしたころだ。参戦しても、邪魔にはならないだろう。立ち上がって、剣と旗を構える。

 

「……私も参戦します!」

 

「ふふ、待ってたよ。やっぱ、盾役は必要だね」

 

「えっ、た、盾? ……その、二人でこう、協力して戦う感じでは……」

 

「そのために役割分担が必要だろう? 君が盾で、私が剣だ。君はどんくさい耐久型バスターゴリラだから、身軽で素早い私が攻撃役を担うのは必然だろう?」

 

「う、うぅ、あんま言い返せない……!」

 

「ならさっさと動いてくれるかな。あの男相手に、こんな悠長に話し合いしていたくないんだよ」

 

 ため息をつく謙信さんに少しだけイラッとしながら、まぁ確かにその通りだ、と謙信さんの隣に立つ。

 

「さて、と言うわけでこっからは二対一だ。卑怯とは言うまいね?」

 

 ニヒルに笑う謙信さんに、カルナは薄く笑って「問題ない」と返した。……うぅ、緊張する……。両手の武器を握り直して、キッとカルナをにらみつける。

 ……すると、隣の謙信さんが私を見ているのに気づいた。……なんだろ? カルナから目を離さずに何事か聞こうかと思った瞬間、謙信さんが首をかしげながら口を開いた。

 

「……それもしかして睨んでる? なんかムッとしてる顔にしか見えなくて可愛さしかないんだけど」

 

「えっ?」

 

「なるほど、睨んでいたのか。目を細めているから、視力が悪いのかと思っていた」

 

「ちっ、ちーがーいーまーすーぅ! なんなんだよあなたたちぃ! 私なんで味方からも敵からも貶められないといけないのぉ!?」

 

 もうっ! と声を上げて、謙信さんに不服を申し立てる。謙信さんはごめんごめんとまったく悪びれていない様子で笑うだけだ。……まったくもう。これから戦うっていうのに、緊張感のない武将さんだ……。

 

「ふふっ。じゃあ、行こうか。セイバー、上杉謙信」

 

「う、うぅ……調子狂うなぁ。……セイヴァー、ジャンヌ・ダルク」

 

「――いざ、参る!」

 

「――突貫します!」

 

 私たちが駆け出すのを見て、カルナもその槍を構えた。最速で、片づける!

 

「前に出ます!」

 

 声を掛けて、足に力を籠める。

 足元の土をえぐるような踏み込みをして、カルナへと突撃する。インファイトに持ち込んで、あの槍を好きに振るわせないようにする! 右手の剣を振るうと、カルナは打ち合うのを嫌がったのか、数歩分後ろに下がる。

 

「させない!」

 

 でも、それはある程度予想していたことだ。慌てずに私も一歩踏み込んで、外側に振り抜いた剣を戻さずにそのまま内側に振り戻す。まだ着地前! 体勢を崩さずにこれを避けることはできないはず! なら、これは防がざるを得ない! そうなれば、私には左手の旗がある。少しでも追撃を仕掛けて、連撃につなげる! 謙信さんが攻撃できるような隙を作るのが、今の私の仕事だ!

 私が振るった剣を、カルナが防――えっ!?

 びゅん、と剣が空を切る。たぶん、今私は凄い変な顔をして驚いてると思う。でも、頭の中では冷静に何が起こったかを把握していた。……まぁ、よく考えれば当然というか、相手は太陽の英雄だ。そりゃ、炎を使って推進力にするくらいやるだろう。多分魔力放出かなんかの応用かな。魔力放出はマスターも使ってるけど、あれは凄い応用がきく。私もあれで筋力底上げしなかったら、こんな風に英霊と打ち合ったりはできない。私はあんな風に推進力に使うような器用なことは苦手だから、すっかり頭から抜けていた。

 

「し、ま……!」

 

「――まったく」

 

 びゅ、と再び風切り音。カルナからの反撃を覚悟していたけど、目の前を銀閃が遮った。視界が戻った時には、カルナは少し離れたところに着地していて、目の前には謙信さんの背中。……うぅ、確実にフォローされたっぽい……。

 

「ほーんと、君は猪突猛進乙女だなぁ。ま、そこを補うのが私なんだけどね」

 

 そう言ってこちらに顔だけ振り向かせてぱちりとウィンク。……クール! クールだ! うー、こういう『デキる女』って感じを出せるのが謙信さん凄いんだよなぁ。……マスターを前にするとこの人も猪突猛進乙女になるんだけどね。まぁ、それも壱与さんに比べたら可愛いものだ。

 

「さ、落ち着いたかい? ……次は頼んだよ。ちゃんと盾役やってね」

 

「……そういうの、マスターにシールダー頼んだ方が良いんじゃないんですか?」

 

「あー、盾兵のクラスかー……そういうのを殿が召喚できるっていうのは……聞いたことないなー」

 

 小首をかしげながら、謙信さんが苦笑する。

 

「ま、今の盾役は君だよ。頼むからね」

 

 そう言って、謙信さんが前に跳ぶ。何合か打ち合った後、大きく後ろに跳んで、私の後ろに回る。その途中、私に目配せをしてきたので、謙信さんの下を通るように駆け出す。先ほどとは違い、相手は空中機動もできると考えて、アウトレンジから旗で突きを繰り出す。

 カルナは半身になって突きを躱すが、こっちは全然フェイントだ。力も乗せていないから、すぐに引き戻し、その慣性を利用して、体を回転させるように剣を振るう。踏み込みから体全体を使って振るった剣は、流石のカルナと言えども受けるには厳しいものがあるだろう。

 予想通り、半身になっていたカルナはそのまま魔力放出を使ったのか、体勢を崩さぬままに振るわれた剣を紙一重で躱した。……それはそれで構わない。受けられたならそのまま押し切るつもりだったし、躱されたなら追撃するだけの事。そう思って足に力を入れた瞬間、目の前から魔力が収束する気配がした。宝具? ……いや、これはまた別の――!

 

「――『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』……!」

 

 灼熱のビームとして可視化された視線の力が、私の体目がけて飛んでくることを直感する。……先ほどより威力が上だ。避けれない。私がそう思った次の瞬間には、あの光線が体を貫くだろう。速さ的に、謙信さんも間に合わない。……ああ、ならば、私のすることは一つ。

 

「――耐えます!」

 

 魔力放出全開。光線の発射前に目の前で剣と旗を交差させ、踏み込みの次の一歩で地面を踏みしめる。もう放てないとはいえ、あの神殺しの槍の宝具が飛んできたとしても、私は耐える。……四肢が弾け飛ぼうが、霊基が砕け散ろうとも、私はこれを耐えて……謙信さんに繋げる!

 鋭い音と共に、構えた武器が砕け散りそうなほどの衝撃が私を襲う。……でも、意識はある。踏みしめた地面の感触も、構えた武器の感触も、しっかりとある……! 隙ができるから、長くは射出できないはず! 長くて一秒! それを耐えて……今!

 光線が途絶えた瞬間に、地面を踏み出していた足に力を入れて、前に跳ぶ。絶対に、一撃を入れる!

 一歩目。突き出した旗は、首を傾けるだけで避けられた。二歩目。旗の陰に剣閃を隠しての一撃。槍で受け流される。三歩目。もうほぼほぼ距離がない。私もさすがに武器を振れないので……こうするしかない!

 

「……なんと」

 

 踏み込みの勢いを利用した頭突き! 弱点たる頭を突き出すなんて馬鹿みたいって思うかもしれないけど、そんなのどうでもいい! 首を落とされても一秒は動いて見せる!

 私のそんな変な覚悟は実を結んだみたい。驚いたような声を出したカルナが、片手で私の頭を押さえながら、頭上に槍を上げた。ぎぃん、と固い物同士がぶつかる音。……私はなんとか役目を果たせたらしい。……ここから、もう一発!

 抑えられた頭を、さらに下げる。ぐるりと前宙をするように、踵落としを繰り出す。

 

「むっ……!」

 

 抑えた頭にかかった力が抜けたからか、カルナはその手を上げて、私の踵を受けた。……よし、足が止まった!

 

「オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ」

 

 小柄な謙信さんが、ぶつかった槍を蹴って少し飛び上がりながら、くるりと体を一回転。重力に従って落ちながら、謙信さんは刀を振るう――!

 

「我が身体に宿りその御業を現したまえ……!」

 

 私の足を受けたカルナの腕に足を引っかけて、筋力の力で自分の体を引き付けて、腕にしがみつく。こっちの腕は使わせない!

 

「『刀八毘沙門天(みたちでななたちのあと)』……!」

 

 ざしゅ、という音と共に、鮮血が舞い散った――。

 

・・・




「え? 私の行動が基本的にアサシンクラスだって? ……日本の剣士ってだいたいそんな感じじゃない? 西洋の人たちみたいに剣から光線出るわけでもないし、戦場を単騎で駆けて武将首狙うような人間なんだしね、私たち。……んー、私のほかだったら……あ、ほら、新選組の沖田総司とか、ちょっと感じ違うけど島津豊久とか? ……あれはバーサーカーか。ま、だいたいそんなもんだよ。日本の武将はだいたいバーサーカーかアサシンかランサーじゃないかな。え? 日本で剣から光線出して切り裂くセイバーがいるって? ……ほ、ほえー……日本にそんな剣あったっけな……? あ、あれとか? い、いや、でもあれって逸話的に違いそうだし……えー? どんな剣だろ。興味あるなぁ……フヒヒッ」


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