ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
アンリに連れられ、とある劇場の目の前まで来ていた。犯人はここで間者と密談をする予定なんだとか。
「後はこの劇場を包囲なさい。蟻の一匹も通さぬように」
「はっ! ……ところで姫様。そちらのお方は……」
「ああ、まだ説明していませんでしたね。協力者である貴族の『ジルベール・ド・オルレアン』伯です」
目の前で跪いているのが、銃士隊隊長のアニエスだ。イケメンだなぁ……顔だちも整ってるし、スタイルもいい。
「なるほど、今回の護衛兼隠れ家と言うのはその方の場所でしたか」
「ええ。信頼できて、腕も立つ、素晴らしい方です。……それでは、行ってまいりますわ」
「はっ。お気をつけて」
劇場内に入っていくアンリを見送り、指示を出し始めたアニエスを見ていると、それに気づいた彼女がこちらに近づいてきた。
「……何か御用でしょうか?」
「ああ、いや、手際が良いなって思ってさ。流石隊長だなぁと思ってみてただけだよ」
「そう、ですか。……オルレアン伯は、私のことを姫様から?」
「ああ、聞いていたよ。なんだって平民から貴族になったんだってね。凄いと思うよ。……何かあれば相談してくれてもいいからな。同じ貴族だし、協力できると思うよ」
俺がそう言うと、アニエスは驚いた顔をした。……なんだ?
「……オルレアン伯は、変わっておられますね」
「あっはっは、そうかぁ?」
俺が笑うと、今まで表情を硬くしていたアニエスが、微笑んだ。おお、きりっとした顔もいいけど、そういう柔らかい顔見るとやっぱり女性らしくてきれいだねぇ。
「あなたのような反応、初めてされました。……王宮や任務で出会う他の貴族は、平民出の貴族は貴族として見られ無いようで……」
「あー……陰口とか?」
俺の言葉に、アニエスは一つ頷く。……うーん、この国の貴族って結構頭固そうだしなぁ。出る杭は打たずにいられないっていうか変わることを受け入れられないというか新しい事に踏み出せないというか……。まぁ、利権とか色々と暗い事情があるんだろうけど……。それで関係ないこういう子たちまで被害をこうむるなら話は変わってくる。
……マスターも、その『貴族』に苦しめられたウチの一人だしね。『虚無』に目覚めるまでは、常に『ゼロ』と蔑まれ続けたマスターと言い……ああ、そうか。この世界は『魔法』がすべて。使えない平民は貴族になっても認められないし、貴族の生まれであっても魔法が使えなければ貴族として見られないんだな……。
「その辺も、変えていかないとなぁ」
「? ……今、なんと……?」
「ん、なんでもないさ」
聞かせる気のないつぶやきだったので、適当にごまかして、視線を劇場へ向ける。
劇場外は銃士隊が取り囲んでおり、劇場の中のアンリと間者たち以外の観客は銃士隊とウチの自動人形数名が埋めている。シールダーモードとアサシンモード一人ずつがアンリの近くに侍っており、もしもの時のための護衛となっている。
「そういえば……アニエスの腰のソレ……『銃』か?」
「え? ええ、そうです」
左腰にはいかにもな剣を帯びているのだが、右側には古式ゆかしいフリントロック式っぽい銃が下げられていた。……古式ゆかしいと言っても、たぶんここでは最新式なのだろう。
「……申し訳ありません、オルレアン伯。私は作戦の準備がありますので、これで」
唐突に、アニエスがそう言い、マントを翻して走り出す。……?
「なんかあやしいな。一人、出てこい」
宝物庫の門をくぐり、自動人形が一人現れる。弓を扱う、アーチャーモードの姿だ。左腕を籠手で武装しており、腰に矢筒を付けている。アサシンほどではないが、こっそりついて行って何かあればこっそり手助けするためには遠距離攻撃ができるほうがいいだろう。
「……頼んだぞ」
そう声を掛けると、自動人形から念話が飛んでくる。え? 『了解。あのこ、未来のお嫁さんだもんね』……? ……え、未来予知したの……? そんな
「……でもあれだよな。笑顔可愛かったよなぁ……」
「……誰の?」
「え? そりゃ今のアニエスちゃん……の……?」
「――へぇ?」
……
・・・
「いや、ほんと、なんていうかさ、な?」
「……浮気者。変態。女ったらし。節操なし」
片っ端からだらしない男を罵る言葉を呟きながら、マスターが横に立つ俺の足元をげしげし蹴ってくる。目に光がないので、たぶんしばらくはこのまんまだろう。もうちょっとしないとこっちの言葉も届かんな……。
銃士隊の娘たちもこちらを遠巻きに見るだけで触れようとしないし……まぁ、貴族同士だと思われてるわけだし、仕方がないんだけど……。
「貴族も平民も女とみれば片っ端からコナかけてぇ……! 魅惑の妖精亭のアリスとかジャンヌとかにあんたのことで惚気られるこっちの身にもなりなさいよぉ……!」
独占欲強めのマスターからすれば俺とか結構な地雷原っぽいが、その辺の葛藤もあるんだろうか。すでに多数の嫁がいて、さらに一人に絞ることは絶対にないという俺の気質と、それでも好きになってしまったマスターの独占欲が心の中で戦って、今こうして俺の足を蹴るという行為になってしまったんだろう。……可愛いなぁ。
「『私の恋人なんだから』って言っても冗談だと思われてまともに取り合ってくれないしっ! 何だったらアリスとジャンヌも『ギルの恋人』自称し始めたし! っていうかうちの店でその設定流行り始めたし!」
「マジかよそれ初耳だなちょっと今日の夜にでも確認してくる」
「すんな! 確認だけで済むわけないでしょあんたは!」
俺の発言にツッコミを入れるようにミドルキックが放たれるが、神秘を纏っていない蹴りを俺が食らうわけがない。そもそもステータス的に食らっても全く痛みは感じないが、それなりにマスターの本気度がわかったので今日確認しに行くのはやめておく。明日行くとしよう。
さて、そろそろマスターもストレス解消できただろうし、ご機嫌をとるか。
「よっと」
「このっ、あ、ひゃっ……!」
「ほらほら、こうやってじゃれるのも楽しいけど、せっかく会えたんだし、もうちょっと甘い事しようぜ?」
「あ、あまっ、甘い、こと……?」
「そうそう。こうやって抱きしめたり……頭撫でてみたり」
そう言って、正面から抱き上げたマスターの頭を撫でる。少しこちら側に力を掛ければ、マスターは逆らうことなく俺の首筋に顔をうずめるように抱き着いてくる。
「な? こうやってくっつけるのも、こういうときだ――」
「――ひめさまのこうすいのにおい」
「――け、って、え?」
頭を撫でながらマスターをなだめていると、その言葉に割り入るようにマスターが何かを呟く。聞き返す俺に、マスターはバッと勢いよく顔を上げると、再び光の無い瞳で俺を見つめる。抱き
上げているから視点がほぼ一緒なので、わずか数十センチにマスターの顔がある。
「……姫様の香水の匂いがするわ」
「あ、ああ。香水か。そりゃそうだろ。俺の屋敷で匿ってたんだし、匂いくらい付くって」
「首筋も?」
「ん?」
「普通に匿ってて、なんで首筋にも匂いつくの? さっきの私みたいなことでもしないとつかないでしょこんなとこ」
「え? あ、あー、首? 首ね? 首には……ほらー、その……」
「……」
「あーっと、なんていうか……」
「なにしたの?」
表情を一切動かさないマスターが、平坦な声で聴いてくる。どうするかなー、と黙っていると……。
「ナニシタノ?」
外見上一切変化が見受けられないが、『逃さない』と言う強い意志がこもった瞳が、俺をじぃと見つめる。
「……えーと、一夜を共にしました……」
そんな状態でサーヴァント兼恋人ができるのはただ一つ。白旗を上げて降伏するしかないのだ。
「……ふぅん、そう」
――その日、
ちなみに、そのあと銃士隊の娘たちと話せるようになるまでしばらくかかりました。
・・・
「う、ぐ……?」
マスターの爆発魔法を食らって真っ黒になっている俺の下に、念話が飛んでくる。アニエスに付けた自動人形からだ。……何? 逃げたリッシュモンの下へアニエスが? え、劇場の下に隠し通路? んなもん用意してたのかリッシュモン。っていうかやっぱり犯人だったのかリッシュモン。高等法院長とかじゃなかったっけ。……だからなのかねぇ。
「え、ちょ、展開早……!」
俺がそんな考えをしているうちに、リッシュモンの放った火球にアニエスが突っ込んで剣で刺してとどめを刺したという状況が流れてくる。凄い展開の速さだ。そこだけ重加速してないか……!?
「と、とにかく、アニエスは無事なのか?」
念話で聞くと、『出血、火傷が重いが、まぁ無事』と返答が来た。……人はそれを無事とは言わん! すぐに連れて帰って来い!
「自動人形、キャスターモード一人出てこい!」
杖を持った自動人形が一人宝物庫から出てくる。ちょっと今すぐには動けないので、応急処置だけでもしてもらうためだ。
……ちなみにキャスターモードはモノクルを付けている。……え? なんか見たことある格好だって? ……ははっ、ヤだなぁ、これのどこが万能の天才なんだよー。
「……」
俺を見て一つ頷くと、キャスターモードは走り去っていった。あれでアニエスはこっちまで来るだろう。……重症だというのなら、こちらで治療の用意をしなければなるまい。出血に火傷と来れば、痕が残ってしまうかもしれないからな。婦長を呼びたいところだけど……バーサーカー枠は埋まってるからなぁ……。
「んー……できないわけじゃないけどなぁ」
小指に付けたリングを見て、少しだけ悩む。12のリングが組み合わさって出来ていて、その内五つのリングの宝石には仄かな光が。これはセイバー、アサシン、キャスター、バーサーカー、セイヴァーの五つのクラスを表していて、そのクラスで召喚した英霊との繋がりを強化する力がある。俺の指には十指それぞれにこういうリングを付けている。その辺の話はまた今度にしよう。今は……。
「あの子の治療が先、だな」
・・・
重症のアニエスが運び込まれてきて、流石のマスターも顔を青くしていた。そのおかげか、俺も治療できるようになり、先ほどまで荒い呼吸を繰り返していたアニエスも無事落ち着いた。……やっぱエリクサーとかは使わないとね。最後まで使わないでクリアまで行っちゃうとか結構あったけど、もったいないよねぇ。まぁ、俺は宝物庫の中で復活するから軽い気持ちで使うけどな。
「……こ、ここは……?」
「お、目が覚めたか?」
ゆっくりと目を開けたアニエスをのぞき込む。ベッドに横になっていたアニエスは、上半身を起こして周りを見回す。
「なぜ……私は確かにあの地下道で……」
「こいつに後を付けさせたんだ」
そう言って、俺の背後に侍る自動人形の一人、アーチャーモードを紹介すると、アニエスは驚きに目を見開く。すまんな、と謝罪をすると、アニエスは少し間をおいてから首を振った。
「いえ……そのおかげでこうして助かったというのなら、ありがたいことです。……すでに傷が治っているということは……秘薬を……?」
自身の体を見てぺたぺた触り、怪我が完治しているのがわかったのか、俺に聞いてくる。使うには使ったが、そこまで気にされることじゃない。だから、安心させるために笑顔で答える。
「ああ、手持ちの薬を使わせてもらった。……けど、まだまだ在庫もあるし、心配しなくても大丈夫。アニエスがこうしてまた元気になったんなら、よかったよ」
「……オルレアン伯は……やはり、変わったお方だ……」
そう言って微笑みを浮かべるアニエス。そういえば、と俺は最初から思っていたことを告げる。
「その『オルレアン伯』ってのはやめてほしいな。こうして話をして仲良くなったからには、俺のことはギルと、そう呼んでほしい」
「ギル……? あなたの名前は確か……」
俺の言葉に、アニエスは首をかしげる。……そりゃそうだろうな。俺の貴族としての名前は『ジルベール・ド・オルレアン』。『ギル』と言う文字は一文字も入っていない。まぁ、そもそもが偽名なんだし、確かギルと言うのはフランスでは『ジル』となるらしいし。
「色々事情があってね。……ジルベールってのは偽名なんだ。その、君たちや女官と同じでな。俺もアンリエッタ女王から密命を受けたりするんだ」
その関係で、色々と偽っているのだ、と伝えると、アニエスはなるほどと納得したようにうなずいた。
・・・
「あ、ルイズ……」
リッシュモンの遺体を銃士隊が回収しに行って、その報告を受けるために借り受けている建物の中にアンリがやってくる。俺と一緒に居るアニエスとマスターに視線を向けて、気まずそうにマスターの名前を呼んだ。
「姫さま……その……」
「えっと、ごめんなさいね、ルイズ。……その、お先に大人の階段を上ってしまいましたわ」
「あっ、いえ、えっと……コメントに困るわね……」
お互いに何を言っていいのかわからなくなっているアンリとマスター。アニエスもそんな空気を感じ取ったのか、少し距離を取って、俺にどういうことかと問う視線を向けてくる。
「……む、アニエス、銃士隊が帰ってきたみたいだぞ」
ちょうど外では銃士隊がリッシュモンを回収してきたようなので、これを好機とアニエスを退出させる。アニエスも空気を呼んだのか、素直に一礼して建物の外へ出ていった。視線を二人に戻すと、今まで気まずそうだったアンリが、ふ、と小さい笑い声のようなものを上げた。
「でも、ルイズは体形もお子様なのに、経験もお子様のままだったのですね」
「……は? ……お言葉ですが姫様。私は身体の関係なんてなくても心が通じ合ってるのですわ。それこそが大人の関係というものなのです。……ギルとの付き合いが身体しかない姫様にはわからないでしょうが」
「……ふぅん、そう。……ねえルイズ? 覚えてるかしら、あなたと子供の頃、おやつの最後の一個を取り合ったり、お気に入りのぬいぐるみを取り合ったりしたわよね」
「……ええ。いつまでたっても、私たちの関係は変わらないのですね」
二人してあはは、と笑い合う。まぁ、やっぱり長い付き合いだ。すぐにピリピリした空気なんて霧散して、仲直り……。うん?
「やっ!」
「こ、のっ!」
笑い合っていた二人が、急にがっとお互いの髪を掴んだ。
「えっ」
「マスターだからと言って、関係が深いと勘違いしないことねっ」
「姫さまこそっ。お身体を許されたからと言って、関係も深いとは限らないわっ」
ぐぐぐ、とお互い本気ではないにしろ喧嘩を始めてしまった。……え、アンリってこんなキャットファイトしちゃう系なの……? マスターも敬語抜けてるし。
「……って、見てる場合じゃないな。止めないと。……ほら二人とも、髪は女の命だろう? そんな掴み合ってないで……」
「うっさい! あんたは黙ってなさい!」
「そうですわ! これは王さまの女としての争いなのですから!」
「え、俺当事者なのになんなんだこの疎外感」
どうしようか、と悩んでいると、先ほどアニエスが出ていった扉が開く。反射的に視線をそっちに向けると、アニエスと共にキラキラと輝いているように見える一人の女性……マリーがそこにいた。マリーは俺と目を合わせるとニッコリ笑い、さらにきゃいきゃい争っている二人を見ると、さらにニッコリ笑った。
「あら! あらあらあら! 二人とも何を喧嘩しているの?」
「……そういえばあなたもいましたね、マリー」
「? よくわからないけど、私はいつでもあなたと王さまの近くにいるわ! だって私はマリー・アントワネットだもの!」
そう言って、満面の笑みを浮かべるマリー。俺が軽く事情を耳打ちすると、そうなのね、といつもの笑みを浮かべてマスターとアンリの手をそれぞれ握る。
「私たちはみんな、王さまのお妃さまよ! 王さまに愛される仲間として、仲良くしましょう!」
「でも待ってマリー。一人だけ出遅れているマスターがいるのよ」
「え? ……ああ、そういうことね。でも大丈夫よルイズ! 初体験なんて早かろうが遅かろうが関係ないわ! 王さまが絆を結んだ英霊の中には六千年くらい処女だった姫もいたくらいだもの! その人に比べればあなたなんて誤差よ誤差!」
「え? ろくせ……それ人間?」
「ええ、人間よ! ……人間よね?」
マリーがはっきり言い切った後急に不安そうな顔をして俺にそう尋ねてくる。……んー、まぁ、月の姫だけど……ま、宇宙人も人間扱いで良いだろ。
「ああ、その通りだよ。ちょっと変わってるけど、人間だよ」
「……そう。まぁ、あんたみたいな存在がいるんだし、六千年処女拗らせるのもいるわよね……」
そう言って、マスターはため息をつく。
「私は私のペースであんたと付き合ってくわ。……姫さま、御髪を乱してしまいましたね」
「……あなたこそ。……ふふ、なんだか子供の頃に戻ったみたいで、少し楽しかったわ」
そう言って、笑う二人。マリーも笑っているし、アニエスも何が起こっているのかわからないなりに、ハッピーエンドの気配を感じたのか、笑顔を浮かべる。……なんとか収まってよかったなぁ……マリーには感謝だ。
そんなことを考えていると、ニコニコとしているマリーが俺だけに聞こえる声量でつぶやいた。
「……このお礼は、『夜』お返しいただければいいですよ、お・う・さ・ま?」
「……お手柔らかに」
――この夜滅茶苦茶搾り取られた。
・・・
一通りの処置を終えて、アンリも帰っていったあと。俺たちは『魅惑の妖精亭』を後にした。まぁ、協力店だし、また顔を見せることもあるだろうとそこまで悲しい別れではなかったが、最後の最後でみんなまとめてぱーっと宴会はやった。べろんべろんになったスカロンに泣きながら抱き着かれキスされそうになった時は流石に筋力にものを言わせて吹き飛ばしたが、それ以外は特に問題もなくみんな楽しめたと思う。
「……で、その翌日にこれか……」
がたごとがたごとと揺れる馬車の中で、俺は後ろを見ながら隣に座るシエスタの相手をしていた。昨日の宴会から一日もたっていないのになんで馬車で揺られているのかと言うと、マスターの姉が学院に来たからである。いやぁ、電光石火だった。鯖小屋に居たら自動人形から緊急の念話が来て、何かと思って出向けばマスターの姉だというなんかきりっとした女の人いるし、その人に連れられて学院に馬車とシエスタの連れ出しを許可させて俺らを突っ込んで、今こうして馬車二台でマスターの実家に向かってるし……。
「まぁ、向こうにはみんながいるから大丈夫だとは思うけど……」
俺が召喚したサーヴァントたちはほぼすべてが学院に残り、不測事態が起こらないようにと王都や王城、学院の監視をしてくれている。……いやまぁ、電光石火過ぎて連れてこれなかったっていうのもあるけど。だがまぁ、そこは歴戦のつわもの、英霊たちだ。……こうして、一人間に合ったりしてるしな。
「やー、今のがルイズ殿の姉上? すごいねぇ、私じゃなきゃ間に合わなかったと思うよ」
セイバー、上杉謙信。軍神たる彼女が、馬車に一緒に乗っていた。
「いやー、こういうチャンス逃さないところが私だよねー。『手柄は足にあり』ってね」
彼女にはとある複合スキルがあるので、『直感』や『心眼』あたりで察知したのだろう。そこから持ち前の敏捷で馬車に先回りし、こうして出発してからひょっこりと出てきたのだ。それを後ろの小窓から見えないように俺とシエスタはこうして肩をくっつけ合っているのだ。……いやまぁ、シエスタがかなりくっついてきているっていうのもあるんだけど……。
「えへへー、ギルさんとこうして一緒に旅ができるなんて、よかったです!」
「んー、まぁ、よかったと言えばよかったかなー」
「んふふー……今日はヴァリエールさまも後ろですし、こうしていても怒られませんね」
そう言って、俺の肩に頭を乗せるシエスタ。あんまりいちゃつくと後ろから爆発が飛んできそうなものだが……。ちらりとみてみると、杖を振り上げようとして頬をつねられているマスターの姿が見える。……あのマスターが恐れる姉か。……変なこと言ったらマスターにも被害が行きそうだな。気を付けねば。
「……にしても、マスターの実家……どんな家族が待ってるんだろうか」
家族全員あんな感じとかやめてくれよ、と後ろで涙目になっているマスターを見ながら、ため息をつく。
・・・
真白の宮殿。アルビオンを呼ぶ『白の国』に相応しい白亜の宮殿は、名を『ハヴィランド宮殿』と言うらしい。首都の南側にあるこの宮殿のホールには、一枚岩で出来た円卓があり、そこにこの新生アルビオンの重鎮たちが座っていた。
……この場にはワルドもいるから俺も連れてこられたが、目立つからとフードを被されてしまった。
上座には、この国の皇帝、クロムウェルの姿が。横には、彼の参謀だという『シェフィールド』なる人物が影のように寄り添っていた。今回のあの黄金の王に戦いを挑んだ時になにやら動いていたようだが……サーヴァント、なのだろうか。まぁいい。そこまでは、俺が考えても詮無き事。
俺が考え事にふけっている間に、会議は進んでいく。現在この国よりも、相手方のほうが船は多いらしい。トリステイン王国……あの王がいる国だ。そことゲルマニアと言う国が組んで、現在この国へ攻め込む準備を整えているようだ。だが、こちらもその二国の背後にある国……ガリアと何かしらの約定を交わしたらしい。これで、二国の後背を突ける、ということか。このクロムウェルという男、相当なやり手のようだな。
「……なるほど。それが真とすれば、この上もなく明るい知らせでありますな」
話を聞いた将校が、かみしめるように頷いた。クロムウェルはそれを見て満足そうにうなずく。
「諸君は案ずることなく軍務に励みたまえ。……攻めようが守ろうが、我らの勝利は揺るがない」
将校たちはいっせいに起立すると、クロムウェルに敬礼をして、そのまま自分たちの指揮する部隊へと戻っていった。
そのままクロムウェルはワルドとフーケ、そしてシェフィールドを執務室へと連れてきた。そのままクロムウェルは王の座っていた椅子に座り、いくつか言葉を交わした後、ワルドに向けて『任せたい任務がある』と切り出す。
「メンヌヴィル君」
クロムウェルがそう呼ぶと、執務室の扉が開き、一人の男が入ってくる。
……ふむ、相当にねじくれている男だな。……理性よりも、野性が表に出ているような男だな。あまり背中は任せられない男だ。
「ワルド子爵だ」
クロムウェルは、そのような内面など気にしないようにワルドとメンヌヴィルの紹介を終わらせる。……なんでも、相当な実力者らしい。『白炎』と言う二つ名から、炎を扱うのだろう。二人の紹介が終わると、クロムウェルはワルドにメンヌヴィルの小部隊を運んでほしい、と依頼する。……ワルドは相当嫌そうな顔をするが、最終的には折れて承諾したようだ。……立場的なものもあるだろうが、なんだか哀愁が背中に漂っている様な気もする。
それから、クロムウェルは目標を伝えてくる。……『トリステイン魔法学院』。そこにいる貴族の子女たちを人質にすると言う計画がクロムウェルの口から語られる。……トリステイン魔法学院は……攻めにくいところだな。確実にあの王はいるだろう。……そこはどうするのだろうか。
「それから、メンヌヴィル君にも伝えることがあってね」
「?」
そういうと、クロムウェルは執務室の隅へ視線を向ける。……む、あそこに立つのは……。
「部隊と一緒に彼も連れて行ってほしいのだ」
「……ほぅ? ……こんな優男と?」
「実力はピカイチだよ。それに、ワルド君の連れている彼も連れていくのだ」
そう言って、俺へも視線を向けるクロムウェル。……ふむ、まぁ、あの王とその連れているサーヴァントを相手取るなら、必要だろう。一つ頷きを返し、メンヌヴィルの前に立つ。
「……ほう。お前、そこいらのやつとは違うな」
「目が見えない代わりに他の感覚が鋭くなったのか。……お前のようなものはたまにいる。自身の欲望のためなら、一直線に向かうような人間だ」
「わかったようなこと言うじゃねえか。……あんまり俺の機嫌を損ねるなよ? ……焼き殺されたくはないだろうしな」
そう言って口角を上げるメンヌヴィル。……おそらく、すぐにでも懐の杖を抜けるようにしているだろう。確かに少しでも気に入らなければこの男は杖を抜き俺を焼こうとするだろう。……だが、あいにく俺に炎はあまり効かないと思う。俺のスキルの魔力放出は炎属性だ。魔力の炎なら、我が力に出来るのだ。……うむ、一言多いからあまりしゃべるなと言われたから喋りはしないが。
「……まぁいい。ある程度の実力があるなら連れて行ってやる」
そう言って、メンヌヴィルは執務室を後にする。
「さて、それではこれで顔合わせも終わったし、本日は解散とする」
そのクロムウェルの一言で、その場は解散となった。
・・・
――ステータスが更新されました。
クラス:■■■■・■■■■■■
真名:ギル 性別:男性 属性:混沌・善
クラススキル
■■王:EX
終■■■■叙事詩:EX
保有スキル
軍略:A
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの持つ対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍、対城宝具に対処する際、有利な補正が与えられる。
カリスマ:EX
大軍団を指揮、統率する才能。ここまで来ると人望だけではなく魔力、呪いの類である。
判定次第では敵すらも指揮下に置くことが可能。
黄金律:A++
身体の黄金比ではなく、人生においてどれだけ金銭がついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ぴかぶり。一生金には困らないどころか、子孫代々が生活に困ることは生涯においてない。
■■■■:B+
千里眼:B
視力のよさ。遠方の標的の補足、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
更に高いランクでは、未来視さえ可能とする。
「これよりいい『眼』も持ってるんだけどね」とは本人の談。
■■の■■:EX
左手の小指に付けている指輪の力。十二個の指輪が組み合わさり一つの指輪となっている。英霊召喚宝具を使用した際にそのクラスに合わせて召喚され、その英霊とのつながりなどが強化される。
能力値
筋力:A++ 魔力:A+ 耐久:B++ 幸運:EX 敏捷:C+++ 宝具:EX
宝具
『
ランク:E~A+++ 種別:対国宝具 レンジ:―― 最大補足:――
黄金の都へ繋がる鍵剣。元々は剣として存在していたものだが、現在は能力の鍵として体内に取り込まれた。
空間を繋げ、宝物庫の中にある道具を自由に取り出せるようになる。中身はなんでも入っており、生前の修練により種別が変わっている。
『
ランク:■X 種別:■人■具 レンジ:―― 最大補足:――
詳細不明。解析中。――注意。権能に類する可能性あり。
『
ランク:A■■ 種別:■■宝具 レンジ:―― 最大補足:――
詳細不明。
『
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大補足:――
乖離剣・エアによる空間切断。
圧縮され鬩ぎ合う風圧の断層は、擬似的な時空断層となって敵対するすべてを粉砕する。
対粛清ACか、同レベルのダメージによる相殺でなければ防げない攻撃数値。
STR×20ダメージだが、ランダムでMGIの数値もSTRに+される。最大ダメージ4000。
が、宝物庫にある宝具のバックアップによっては更にダメージが跳ね上がる。
かのアーサー王のエクスカリバーと同等か、それ以上の出力を持つ『世界を切り裂いた』剣である。
更に、その上には『■■■■■の再現』や、『三■の巨大な■■■』を生み出したりもする。