ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「英雄王……? あれ、ちょっと待って」「ん? どうしたマスター」「あんた、自分では『英霊王』って言ってたわよね!?」「ああ、そうだな。『英雄王』はもう素晴らしい先人……先王? がいるからな。俺は英霊と共に戦う王だから、英霊王なんだ」「……でも、あんた英雄王って呼ばれると嬉しそうよね。……なんで?」「いやほら、マスターも尊敬する人いるだろ?」「え? ええ、そりゃいるけど……」「その人と同じように呼ばれたらうれしくない?」「……まぁ、嬉しいけど……」「俺の場合は『英雄王』ってのが根底にあるからさぁ……そう呼ばれるってだけでうれしいんだよねぇ」「ふぅん。……結局、どっちで呼ばれたいの?」「どっちでもいいけど……恐れ多いから自分では『英雄王』とは言わないよ」「……そ? ま、私はどっちも呼ばないけどね! あんたは使い魔だし!」


それでは、どうぞ。


第三十五話 お見事! AUO!

 街を歩いてもう常連となった『魅惑の妖精亭』へと向かっていると、背後から声を掛けられた。

 

「あら、ダーリン!?」

 

「ん? ……珍しい組み合わせだな」

 

 俺を『ダーリン』なんて呼ぶのは一人しかいないから誰が呼んだかは予想付いていたが……タバサはキュルケの親友だから当然として、まさかギーシュとモンモンのカップルまで一緒とは。帰省しなかったのか、君ら。

 

「いつものあの黒い服でも黄金の鎧でもないのね。……まるで貴族みたいだわ。とっても素敵!」

 

「はは、ありがと。金だけはあるからな。ちょっと奮発してみたんだ。……この四人はどういう集まり?」

 

「よく聞いてくれたね君ぃ! この辺に興味深い店があると聞いてね!」

 

「へえ。なんて店だ?」

 

 ギーシュのことだからなんかやらしい店なんだろうけど……。……興味があるわけじゃないよ! やっぱりどんな情報も得ておかないとね! 

 

「どうせ変な店なんでしょ」

 

 呆れたような顔をして、モンモンが言い放つ。

 だが、ギーシュはその言葉に対して「全然変な店じゃないって!」と強く反論する。……これは変な店のパターンだな。

 

「ただ、女の子が可愛い格好をしてお酌をしてくれるってだけで……」

 

「やっぱり変な店じゃない!」

 

 っていうかなんか聞き覚えのある店だな……。

 

「店の名前とか分かるのか?」

 

「おお、興味が出てきたのかい!? 店名は……確か、なんとかの……妖精? みたいな……」

 

「『魅惑の妖精』?」

 

「そう! それだよ! なんだ、君も興味があったんだな!? 下調べまでして……このこのぉ」

 

 そう言って、ギーシュは俺の脇腹あたりを肘でつんつん突いてくる。……いや、下調べっていうか常連っていうか……。

 

「そうと決まればさっそく出発だ!」

 

「ちょっ、ほ、ほんとに行くわけ!? ちょっと、あんたたちもなんか言ってよ! 下々の女に酌なんかされてもうれしくないでしょ!?」

 

「あら、私はおもしろそうだと思うけれど。……ダーリンと一緒だしね!」

 

「……仕方ない」

 

「そんなぁ……」

 

 すぐに乗り気になったキュルケを見て肩を落とすモンモンと、そのモンモンの肩を叩いて励ましらしきものをかけるタバサを最後尾に、俺たちはマスターたちの働く酒場……『魅惑の妖精亭』へと向かうのだった。

 

「……念話しておくか」

 

・・・

 

 『魅惑の妖精亭』に入ると、スカロンが出迎えてくれた。

 俺を見て顔をほころばせた後、後ろに続く四人を見てあらあら、と声を上げる。

 

「ようこそいらっしゃいました! 本日はお連れ様がいらっしゃるのですね!」

 

「……ああ、いつもの席は空いてるか?」

 

「ええ、もちろんですわ! アリスちゃん! ご案内して差し上げて!」

 

「はーい!」

 

 元気に返事をして出てきたアリスが、常連となった俺の腕を抱きしめるように取って、案内してくれる。

 それをぽかんとしたまま見ていたギーシュたちに、首だけで振り返って言う。

 

「ほら、早くいくぞー」

 

「ちょ、ちょっと待ちたまえ! 状況が飲み込めてないんだが!?」

 

「もしかしてダーリンってば常連?」

 

「……たらし」

 

「ひ、一人にしないでよっ!」

 

 案内されたのは、ほぼ俺の専用席になっている奥の席。衝立なんかで他とは少しだけ離されており、ここだけソファなんかが置いてある。

 まぁ、落とす金は人一倍の自信あるしな。VIP席という奴だろう。

 

「いつもので大丈夫ですかー?」

 

 アリスが席に座る前に確認してくる。それに頷きを返して、ソファに座る。テーブルを中心に、コの字型に配置されているソファの上座に俺がいて、俺から見て右側にギーシュとモンモン、その対面にキュルケとタバサが座った。

 さっそく、とばかりにギーシュがテーブルを軽くたたく。

 

「で! どういうことかね!? この対応! なんかここ席高そうだし!」

 

「常連なんだよ、俺。しかも出資者。金の力って素晴らしいよね」

 

「急に成金みたいなこと言い始めたね君ぃ!?」

 

 まったく、何を急に。だがまぁ、俺が金を持っている方が良いだろうに。

 

「そもそも、モンモンは俺に借金があるはずだが? ……金は素晴らしいよな、モンモン?」

 

「ぴっ!? ひゃ、ひゃい! 素晴らしいです!」

 

 返済を結構待ってやっているので、モンモンは現在俺に頭が上がらない状態である。……今いくらくらいだっけな。七百エキューくらい貸してた気がするけど。

 

「そろそろ返して貰うとするかなー」

 

「え゛」

 

「ん? 別に期限は決めなかったけど……決めなかったってことは、俺が返してほしいって時に返してもらうってことも可能だからな」

 

「あっと……その……えーっと……」

 

 俺の言葉に、しどろもどろになるモンモン。特に利子とかは決めてなかったから金額自体は変わってないけど……。

 

「払えないのか? ……モンモンもここで働くか?」

 

 そう言って笑うと、モンモンはさらにしどろもどろになる。

 

「へっへっへ、お嬢ちゃん、払えないなら身体ではらってもらおうかぁ。ぐっへっへ」

 

「ちょっと、変なこと言わないでよダーリン。笑っちゃうわ」

 

 俺の中の借金取りのイメージでわざとらしく言ってみるも、キュルケが笑ってしまったのでしまらなくなってしまった。

 だが、モンモンはそれどころじゃないらしく、真に受けてしまったようだ。顔を赤くしている。

 

「そっ、そんなっ、や、いやよっ!」

 

「ギルッ! 流石に君でもそれは許せないぞっ!」

 

「そうか? ならギーシュが代わりに払ってくれるのか? ……七百エキュー」

 

「……モンモランシー! 少しの辛抱だと思う!」

 

「ギーシュ!?」

 

「金って怖いなー」

 

 金額を聞いた瞬間にすぐさまモンモンを売ったギーシュに、モンモンがビンタをかますのを見ながら、俺はワインを一口。……なるほど、これが愉悦。

 

「男って馬鹿ねー。……あ、ダーリンは別だけどね!」

 

「……男と言うよりは、ギーシュが馬鹿」

 

「あら、そうかしら? 大体の男は馬鹿みたいなものよ。……記憶にあるでしょう?」

 

「……ん」

 

 まぁ、金は別に後でもいいだろう。きっとまたモンモンは借りに来るだろうしな。……その分、貸しができるというものだ。彼女の薬作成スキルは有用だしな。今度なんか禁薬作ってほしいときとかに利用するとしよう。ギーシュは……まぁ、特にあれだな。弄ると楽しいくらいだな。

 

「まぁいいや。まだ待ってあげよう。俺は慈悲深いから」

 

「神……!」

 

「いや、神とは呼ぶな。王と呼べ」

 

「AUO!」

 

「……イントネーション違うけど、まぁいいか」

 

 胸の前で手を組んで俺を称えるモンモンに、諦めのようなため息をつく。何故か俺を『英雄王』と呼ぶときは『えーゆーおー』と伸ばす人が多い気がする。っていうか、なんで俺に祈ってるんだモンモン。あれ、「金運上がりますように」って言ってる? なにそれ。俺そんなの司ってないけど!?

 っていうか普通に香水作りとかで稼げそうな気がするけど……。まぁ、これからモンモンにそういう依頼して仕事を作ってあげるとするか。

 

「というわけでモンモン、今度仕事頼むかもしれんから」

 

「かっ、身体は売らないわよ!?」

 

「いつまでそれ引っ張るんだよ。違う違う。香水作りだよ」

 

 顔を赤くして自分を抱きしめるようにして後ずさるモンモンを軽く小突いて、どのくらいの物を作れるかを聞く。香水はその人間にあったものを作れるらしく、薬はレシピさえあれば大体の物を作れるとのこと。さらに、材料によっては効果を高めることもできるとのことで、もう俺の専属の薬剤師にしたいくらいだ。仕事の感じによっては打診するとしよう。

 

「あ、そっちね……まぁ、材料費とかのお金出してくれるなら……」

 

「なるほどね。じゃ、俺が要望出したりして作ってもらって、それを俺が買い取るって形でいこうか」

 

「んー……先に材料とかそろえないとだし、先払いしてもらうことあるかもしれないわね……」

 

「そういうものか。……まぁ、無い材料は言ってくれれば俺が用意できることもあると思うし、その辺は応相談ってことにしようか」

 

「ええ、それでいいわ。……っしゃ、パトロンゲット」

 

 ……? 何かぼそっとつぶやいたようだが……ま、いっか。

 それから、いくつかお酒を開けていくと、みんなも酔いが回ってきたようだ。顔も赤くなってきて、テンションも上がってきた(タバサ含まず)。……あ、でもタバサもちょっと頬赤くしてるっぽいな。珍しい。場の空気っていうのもあるんだろうけど……。

 

「そういえばみんなは帰省しなかったのか?」

 

「あー、ええ。タバサも帰らないっていうし、じゃあ私もいいかなーって。遠いしねー」

 

「そういう理由ってアリなのか……」

 

 それで帰らないって凄いな……。うぅむ、でも俺も実家たる座にあんまり帰らないからなぁ……。え? それとこれとは別? そうか……。神様寂しがってないかなぁ。

 

「それにしても君はあれだな……本当にモテるんだな……」

 

「ん? 羨ましいか? ……分けてはやらんけどな」

 

 俺を囲む女の子たちの一人、アリサの肩を抱き寄せながらそう笑う。もうこのくらいのことはできるくらい、この店の子とは仲良くなってるので、アリサもこちらに抱き着くような格好で飛び込んできてくれる。はっはっは、羨ましいだろー。

 

「君ぃ……いつか刺されるぞ……」

 

「何を言う。もう何度も刺されてるぞ。一番やばいのは小碓でな……」

 

 そう言って、反対側のアサシンの頭を撫でる。

 

「えへへー。一刺しで霊基も殺す小刀ですからー」

 

 そう言って、しゃらりと宝具の小刀を見せびらかすアサシン。その顔は、恍惚と言う文字が似合うような、蕩ける笑顔になっていた。

 ……もちろん、それを見た全員……特にギーシュが短い悲鳴を上げるくらいには恐怖を覚えたらしい。小碓はこういうところも可愛いんだぞぉ? 自分から女の子を紹介したりするくせに、その子と結ばれたり子供が出来たりとかすると凄い嫉妬して月の無い夜とかに襲ってきて搾り取ってくるところとか。

 

「座でやられたときは、近くに神様いなかったら霊基消えてたからな……」

 

 座からも消滅させる恐れがあるとか、流石幼いとはいえ神霊である。

 

「ま、そういうわけで俺は大丈夫なのさ」

 

「……君あれだな。王だったと聞いているが……夜の生活爛れまくってそうだな」

 

「夜だけじゃないさ。朝も昼も爛れていたとも。睡眠が必要ない体とはいえ、一時期やつれてた時もあったなぁ……」

 

 宝物庫がなければ危なかっただろう。流石宝物庫。英雄王の宝具は素晴らしいな。

 

「……おっと、女の子もいるのにこんな話ばっかりしていては怒られてしまうな」

 

 モンモンが顔を赤くして俯いてしまっているのを見つけ、いかんいかんと話を変える。

 

「そういえば、学院はなんか変わったことあったか?」

 

「変わったこと……あー、まぁ、今日もコルベール先生の小屋から爆発音が聞こえてきたくらいねー」

 

「……最近、ヴァリエールよりも爆発してるわよね、コルベール先生」

 

「やっぱりエンジン開発か?」

 

 キュルケとモンモンの言葉から、俺たちが出発する前からやっている実験についてのことかと聞いてみる。

 コルベールはゼロ戦を見て、さらにそれを乗りこなすライダー……菅野直がいるからか、夏季休暇の前からエンジン開発に夢中なのだ。ライダーもノリノリで協力をしているのだが、わざとなのか天然なのか、基本的に物をぶっ壊すのだ。エピソード的には『限界まで酷使する』と言うのが無意識に出ているのかなーとは思うのだが……さすがは『デストロイヤー』だなと感動せざるを得ない。っていうか爆発しても無事なの凄いな。

 

「あー、らしいね。ボクもたまに『がそりん』を作成するときに手伝ってるけど……彼……ナオシは凄いよな……なんというか、止まらないドラゴンみたいな……」

 

 ちょっとした災害扱いされているライダーだが、まぁ確かにと思わなくもない。俺でもたまに巻き込まれることがあるからな。……あの時は凄かった。俺の方が生きている年数が高かったから言いくるめられたものの、彼は優秀な軍人だ。研究主任である(ライダーのみがそう言っている)コルベールや、ガソリン変換技師(これもライダーが言っているだけ)のギーシュなんかが、よく悲鳴を上げながら追いかけられているのを見る。あの『飛行機再現プロジェクト』チームは、見ているだけならば面白いんだけどなぁ。スポンサーとして狙われている俺としては、なかなか緊張感にあふれる英霊なのである。敵ならもちろん恐ろしいが、味方でも恐ろしいやつなのだ。

 ……まぁ、人情にあふれ、部下を大切にする素晴らしい人間なのは確かなのだが。

 

「そういえば」

 

 人情、で思い出したことがある。

 ようやく俺の貴族としての仕事が軌道に乗り始めたので、次のステップに進もうと思っていたのだ。

 

「この城下町にも我が侍女隊を継ぐ者を育てたいと思ってな。……孤児院を建てたんだ」

 

 最初は職業訓練校みたいなものを建てようとしたんだけど、流石にそれは反発が強いと枢機卿から忠告を受けてしまったのだ。それならば、と国の施策として、アンリエッタの発案と言う体で、孤児院を建て、そこに身寄りのない子供たちを集めることにしたのだ。

 教育をするなら、早い方が良い。もちろん、大きくなって常識を得てからのほうが教育をしやすいこともある。……が、ことこの件に関しては何よりも秘匿性を優先することにしたのだ。それなら、無垢である方が秘密を守ってもらいやすくなる。……まぁ、一番は這い上がれずに死んでいく子供たちをなくそうと思ったのが最初だがな。アンリエッタもそれを憂いていたらしいし、渡りに船だったんだろう。ふっふっふ、我が国の侍女隊は素晴らしかったからな! こちらでもその素晴らしい侍女隊を作り上げて見せる。……まぁ、最初は自動人形に頼ることになるとは思うけど。

 

「なんとまぁ……君はいちいちやることが意味わからないなぁ。孤児院なんて開いてどうするつもりなんだね?」

 

「わざわざ平民を拾って育てるなんて……あんたは本当酔狂なことをするわねぇ」

 

「人とは違うことができるっていうのは素敵なところよ! ね、ダーリン!」

 

「……変な人」

 

 生粋の貴族たちからはおおむね不評だが、まぁそこは魔法を使える貴族が至上の価値観であるこの世界では仕方のないことだ。俺の周りの子たちは少しずつ変わってきたとはいえ、ギーシュは最初シエスタに躊躇なく魔法を放とうとしていたし、マスターだって俺のことを平民だと思ってイヌのような扱いをしそうになったこともある。

 キュルケやタバサも、他の子たちよりはマシだろうが、それでもその格差については普通だと思っているだろう。

 

「ま、何をするのかは追々わかってくと思うよ」

 

 笑いながら、酒を一口。んー、明日は孤児院に使う施設を見に行くとしよう。

 ……ちなみに、この後悪酔いしたギーシュが店の女の子に迫り、モンモンに全力でビンタされて気絶したので、そこでお開きとなった。スカロンに黒服を二名ほどよこしてもらって、ギーシュは貴族御用達のホテルにぶち込み、キュルケたちはそこでタバサとモンモンと共に『女子会』をするとやらで別の店に行くことになったので、俺は一人で店に戻り、屋根裏部屋へ。キュルケたちがいなくなってからまたマスターはホールに出たので、この屋根裏部屋には俺一人だ。

 

「アサシン」

 

「はい、ここに」

 

 椅子に腰かけて虚空に呼びかけると、目の前にアサシンが現れる。たぶん気配遮断を切ったのだろう。立ったままこちらをまっすぐ見つめ、こちらに手紙を差し出してきている。押印がされているから、王宮からの手紙だろう。枢機卿か、王女からか……前送った手紙の情報を見て、追加の任務か何かを送ってきたのだろうか。便箋を開いて、手紙を取り出す。この字は……アンリエッタからか。何々? ……密命?

 

「俺に密命だと?」

 

「ああ、それについては追加の説明受けてます。……マリーさんからですけど」

 

 そう言って、アサシンは話し始める。

 簡単にまとめると、アンリエッタの護衛を務めてほしい、とのことだった。襲撃事件があってからアンリエッタの周囲を守る近衛がほぼ壊滅、さらに魔法使いを信用できなくなっているアンリエッタは、平民を集めた近衛組織を新編成したのだそうだ。『銃士隊』と名付けられたその組織からとある情報を得たアンリエッタが、女王という立場を餌に『釣り』をするらしい。そのことは

王宮には内緒で執り行うので、その間の護衛を頼みたいのだそうだ。

 彼女にとって信頼できるのは、自ら拾い上げた銃士隊、そしてマスターたるルイズと、サーヴァントである俺たちしかいない。故に、銃士隊がアンリエッタを逃がし、その間の護衛を俺に頼みたい、とのことだった。……さらに言えば、この件にマスターを組み込まない、とも。

 

「なるほど、アンリエッタも友達が大事なんだな」

 

 まぁ、ある程度は承知した。俺も貴族として家を持っているわけだし、匿うこと自体は問題なさそうだ。手紙に書くには危険だからアンリエッタと合流したら細部は聞くってことらしいから、それを待つとしよう。

 

「よし、じゃあアサシンも店に戻っていいぞ」

 

「……あの、ちょっと長めに休憩貰ったんです。……えと、具体的には、一回戦分くらい」

 

「え、マジ? アサシンってそんな感じで迫ってくる系だったっけ」

 

「……どういう意味です?」

 

 そう言ったアサシンの瞳から、すぅ、と光が消える。……あ、やべ、言い方ミスった。

 

「いやいや、違う違う。アサシンってさ、なんかそういうの言わないで静かに来るイメージだったから」

 

「あ、そういうことですか。……いえ、なんていうか個性的な人たちが増えたじゃないですか。大主まで参加し始めたし……ボクも、ここで埋もれるわけにはいかないので……」

 

 そして、「あと、ストレス解消も兼ねてます。ボクを『ねぎ』ってください」と抱き着いてきたので、まぁ今日これから急ぎの用事があるわけでもないし……とアサシンをベッドに寝かせる。……ごめんマスター、あとで(自動人形が)シーツ変えておくから許してくれ。

 

・・・

 

「さて……ここが打ち合わせの場所だったはずだけど……」

 

 がに股でアヘ顔してダブルピースして白い液体だらけになったアサシンをシーツにくるんで自動人形に任せ、俺は一人路地裏に来ていた。格好も、いつもの貴族然としたものではなく、フード付きの白いマントをすっぽりかぶった怪しさ全開の恰好をして立っている。彼女の依頼的に目立つのは厳禁だからな。

 

「――探せー! あちらはまだ見ていないな!?」

 

 兵士たちが騒がしくなってきた。これは、アンリエッタが予定通り身をかくせたってことかな。

 

「っと!」

 

「あ、ご、ごめんなさ……ああ、王さま!」

 

 兵士たちの方へ視線を向けていると、軽い衝撃。俺と同じようにフードを目深に被ったその小柄な姿は、アンリエッタその人だった。

 

「ごめんなさい、思った以上に逃げるのに手間取って……!」

 

「問題ないさ」

 

 そう言って、用意していた水晶に魔力を通す。静かに光った水晶を確認して、俺はアンリエッタの手を引く。

 

「とりあえず、俺の屋敷に向かうぞ」

 

「はい。あ、あの、そちらには兵士が……」

 

 控えめに声を掛けてきたアンリエッタに、俺は先ほどから魔力を通している水晶を見せる。

 

「これは『誤魔化しの水晶』って言ってな。これを起動している間は、使用者と触れている人間を別の姿に見せるって代物なんだ」

 

 まぁ、効果は薄く、違和感を感じない程度に別人に見せる、くらいのものだけれど、と続ける。他の『姿隠しのマント』やら『人避けの護符』なんかはちょっと効果が強すぎる。これくらい自然で効果も薄めの物のほうが、こういう時は良いものだ。

 

「なんでもトップクラスを使うだけが財の使い方じゃないさ。時と場合、状況に合わせて使ってこそってな」

 

 なるほど、と兵士の真横を通っても気付かれていないのを見ながら、アンリエッタは頷く。待ち合わせの場所は屋敷にそれなりに近い場所だったので、数分も歩けばたどり着く。屋敷にたどり着くと、自動人形が門を開けてくれたので、そのまま通る。自動人形は門を閉める前に尾行やらがいないかを確認してくれているようだ。

 

「王宮に比べたらちょっと狭いかもしれないが……ま、寛いでいってくれ」

 

「いえ、私としてはこれくらいの広さのほうが落ち着きますわ。……それに、内装も品が良いと思います」

 

「はっはっは、だろ? 俺もいくつか選んでるけど、自動人形や卑弥呼達がセンスあるからな。俺も満足してるよ」

 

 この世界の貴族たちはギンギラギンに光っていればいいと思ってるからな……。確かに俺も鎧は黄金一色だしマントはマントで真っ赤だしであんま人のこと言えない感じするけど、それでもこういう落ち着いた内装が悪いってわけじゃないのはわかるからな。

 

「卑弥呼ー、壱与ー、帰ったぞー」

 

「あ、おかえんなさい。……久しぶりね、失恋女王」

 

「あぐぅっ!?」

 

「おかえりなさいませギルさまぁっん! あ、お久しぶりです友達より死んだ恋人取った女王」

 

「へぐぅっ!」

 

 オイ!

 

「こら、二人とも!」

 

「……あ、王さま、そんな、お二人を責めないで――」

 

「本当のことでも言ったらメっ! なこともあるだろ!?」

 

「あ、やだ、死にたいわ……」

 

 先ほどまで胸を押さえていたアンリエッタが、膝から崩れ落ちた。足を痛めたら大変なので途中で抱き留めたが、目から光を無くしたアンリエッタは何やらぶつぶつ言うだけだ。

 

「そうよ、笑ってルイズ……私は命がけでアルビオンまで行ってくれたあなたより、偽りの命で動くウェールズさまを取ったのよ……ふふ、ああ、そうね、私はこれから『色ボケ』を名乗るわ……ふへへ……」

 

「……やっべーわね。ちょっとしたジャブのつもりだったんだけど……」

 

「いや、卑弥呼のはジャブだったと思うぞ。壱与のが無駄にロケットランチャーだっただけで」

 

「拳ですらないのね……」

 

 と言うかアンリエッタのあれは普通に状況を考えたら『色ボケ』ってほどではないと思う……が、まぁそれを今言っても無駄というものだろう。

 

「とりあえず、アンリエッタを部屋に案内してくるよ」

 

「……一時間くらいかかります?」

 

「え、なんでだ? 十分もかからんだろ。すぐだし」

 

「……え、ギル様そーろーでしたっけ?」

 

「は? いや、普通くらいだったと思うけど……」

 

「で、ですよね? 大体平均して一時間くらいですものね?」

 

 壱与と俺がお互いに首を傾げ合っていると、卑弥呼がため息をつく。

 

「……壱与、別にギルはこの女王を連れ込んで子種ぶち込むわけじゃないわよ」

 

「えっ! 違うんですか!? てっきり良い所にいた女王手籠めにして国盗りするのかと……」

 

「どこの漂流者だよ俺は。……しないよ?」

 

「え、誘われたら?」

 

「……アンリエッタたぶんまだ前の恋引きずってるからないと思うなぁ」

 

「もしもの話ですよ、もしも。……どうします?」

 

「……時と場合によると思うけど……」

 

 にやにやしながら俺に迫ってくる壱与が、じゃあ、と前置きして聞いてくる。

 

「……誘われたら何割くらいの確率でいただいちゃいます?」

 

「……九割かなぁ……」

 

「やぁん予想以上の野獣っぷりに壱与十割イッちゃう!」

 

 びくんびくんがくんがくんずしゃあ、と流れるようにイッて流れるように白目向いてアヘ顔晒して流れるように膝から崩れ落ちた壱与を隅に蹴って避け、アンリエッタのために用意した部屋へ向かう。

 

「……ま、傷心の女慰めるのなんか得意中の得意でしょあんた。……潰れちゃうよりは、なんかでごまかしてやった方が良い時ってのはあるんだからね」

 

 そう言って卑弥呼は俺の背中を叩く。……同じ女の立場からじゃないと分からないことがあるのかもしれない。

 

「……ギル様が初恋で失恋したことないくせにぃ……」

 

「うっさいわよ壱与」

 

「あひんっ」

 

 壱与はいつも通りだなぁ。

 

・・・




「よし、これでガワはできたな」「……これが孤児院」「まだ一人も入ってないけどな。……ん?」「お、おぎゃー、おぎゃー」「……なんか大きめの木箱に『拾ってください』って張り紙貼って下っ手クソな赤ちゃんの演技してる壱与の幻覚が見える」「幻覚じゃないわよ」「……その隣に同じようにしてる小碓の幻覚も見える」「だから、幻覚じゃないって」「……マジかよ……」「ばぶばぶ! オムツ変えてもらうときに壱与の排泄物見られたりご飯ボロボロこぼして口回り汚くなったりして壱与の尊厳完全に破壊してもらうの考えると……赤ちゃんなのにイッちゃううぅぅぅぅ!」「あぶあぶ! ボクは普通に立って歩けるしお世話なんてされなくても大丈夫なのに赤ちゃんみたいに扱われて、仕方ないなぁみたいな視線で主に見られるの想像するだけで……赤ちゃんなのにやらしいみるく出ちゃうよぉぉぉぉぉっ!」「……うっわぁ」「そういえば『嫌な顔しながら下着見せる』ってのはやってるらしいわよ」「見せないよ。完全にご褒美じゃんこいつらにとって」


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