ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
「……なんだったんですかねぇ、これ……」
何人目かの兵士を燃やし、何度目かの砲撃をタバサ嬢が逸らし、ようやく一息を付けた。
「……大砲」
「そうみたいですね。……兵士は普通の兵士っぽいですね。こっちでいうメイジじゃないっぽい?」
「……でも、たぶん死体」
「ええ、そうですねぇ。でも、倒した中には普通の人間もいましたけど」
屍と生者の混合軍なんて、地獄でも見ないような編成ですね。それでも、全員英霊なんかじゃない、神秘なんて欠片も感じられない。……この大砲も、今は何も感じなくなってしまった。先ほどまではボクにも通じるような神秘を有していたのに、今ではただの鉄の塊……。
「んー、たぶん話に聞いてた『老人』とは別かなぁ」
かの『老人』は単独であのお姫様の所に来たらしい。こんな風に兵士を使うようなサーヴァントなら、直接姿は現さないように思う。頭がやられてしまえば、こういうタイプの宝具は力を失うからだ。……前に感じたあの忌々しい太陽の感覚もするし、もしかするとこの場所には結構なサーヴァントが集結しているのかもしれない。
……少し意識を集中させる。……ボク達の気配とは別のサーヴァントの気配がする。数は……はっきりしてるのが三つ。あとの一つは……うーん、なんだろ。中途半端っぽい? っていうか、近づいてきてる……?
「……タバサ嬢、ちょっと気を張った方が良いかもしれない。人じゃない……不思議な感覚がする」
「『人じゃない』とは中々厳しいことを言う」
「っ!」
目の前の木の陰。そこから、一人の男が現れた。服装は古い時代の物のように見えるが、そもそも服それ自体がボロボロなので、どこの国の物か、どの時代の物かすらわからない。目元は長い前髪で隠されており、顔の造形もわからない。顔もうつむき加減だし、なんというか、暗い印象を持ってしまう。
「小柄で東洋人。手に短剣。暗殺者か。話には聞いている。男に特別な効力を発揮する宝具を持つとか。気を付けよう」
「変な話し方ですね。……あなた、理性はありますか? それか……感情、ありますか?」
「は。どちらもちゃんとあるとも。これは……。体質のようなものでな。気にするな」
ふらり、と男の体が揺れる。……え?
「見失っ……」
「横っ!」
『目の前から急にいなくなった』男に驚いていると、タバサ嬢がボクを押し倒した。凄まじい音と共に僕たちの上を何かが通っていった。危ない……! タバサ嬢が気づいてくれなかったら、少なくとも頭は無くなってた……!
「ボクと同じ、アサシンって感じかな?」
「……いや。これはまた別の技能だ。……いや。性能というべきか。悩む」
「……なんだこの人。急に悩み始めましたよ……?」
「でも……隙はない」
タバサ嬢の言う通り、ボク達への攻撃を失敗した彼は追撃をするでもなく、急に顎に手を当てて何かを考え込み始めた。……だけど、確かに隙は無い。目がこちらを向いていなくとも、意識がこちらを向いているのを感じる。ボク達が何かしようとしたなら、彼は問題なく反応できるだろう。
しばらくして、彼は再びこちらを見る。
「さて。待たせたな。戦うのか? ……余り戦いは得意ではない。今のを躱されたなら。打つ手はない」
「じゃあ、素直にそこ、通してくれます?」
「いや。それは無理だな」
「……やっぱバーサーカー?」
話が通じない! と言うより、絶望的に人を理解してない!
「……戦う。と言うよりも。『狩る』ならば。私ほど向いている者はない。故に。命が惜しければここで止まれ。殺したくはない。通したくもない」
「そういうわけにはいかないんですよ。……タバサ嬢。力を貸してくれますか?」
「……わかった。……行く!」
「そうか。……そうか。ならば。お前たちは兎だ。か弱き兎。……あ。あア。ああああああああああああああああああああ!」
ぼそぼそ何かを呟いたかと思えば、すぐに目を見開いて絶叫する。
……そして、その姿は。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
――人ではなく、虎と変わっていた。
・・・
「っくしょ、すばしっこい!」
「……ただの虎ではない……! 魔法を弾く!」
対魔力じゃなさそうだ。自身の耐久値と獣としての毛皮で『耐えきっている』のだ。それが魔法を無効化しているように見えるだけ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
「はぁああああああぁぁぁぁ!」
振るわれる虎の爪に、宝具を合わせる。第一宝具の短剣ではない。第二宝具の剣である。ほんとならこんな獣に力で対抗するとか馬鹿のすることなんですけど、短剣では受け流しきれないし、この状態でもタバサ嬢の援護さえあれば何とか爪を受け流すことはできていた。
「これは、時間っ、かかりそうだねえ!」
「……アサシン。この虎を少しだけ離して。できる?」
「っ! ……りょーかい! 何か思いついたんですねっ、っと!」
魔力充填、属性変換! 第二宝具の真名を開放する!
火の大蛇の力を一瞬だけ発動して、虎の爪に当てる!
「■■■■■■■■■■■■!?」
何かを恐れるように後ろに飛びのいて、林の中へ消えていった。……獣だからか、火には恐れを抱いたようだ。
「……ほんの少しですが、時間は稼ぎました。……なにをしますか?」
「……アサシンは、このまま火で虎を誘導して。場所は……ここ」
「なるほど、そういうことなら!」
少しして落ち着いたのか、虎の遠吠えが林の中に木霊する。
「……援護はできなくなる。耐えて」
「大丈夫です! これでもボクは、英霊なんですから!」
そう言って、僕は草薙を構えなおすのだった。
・・・
「……はーっ、はーっ……げほげほっ。ったく、やっと、届いたわね……」
『
「……なるほどな。今の一撃、俺に届くだけの『神秘』があった。……同類か、お前も」
「はっ。だったら何だっての? ……退きなさい。このまま続けるなら絶対にあんたを道連れにする。……わらわのあとには壱与が続くわ。……あんたを消して、あんたのマスターも倒すまであいつは止まらないわよ。それでもいいなら続けるわよ」
「――いや、今は退こう。予想外のダメージも受けたことだしな」
そう言って、カルナは霊体化していく。……やっぱり、ギルの言ったことは正しかったみたいね。『黄金の鎧』の喪失。宝具をぶっ放した瞬間に、奴の黄金の鎧は砕け散る。……その代わりに最強の矛が使えるようになるわけだから、どっちがマシかっていうのはあんまり判断できないけど。
それに、わらわの伝承も役に立ったのだろう。『神性』スキルがわらわには備わっているが、その内訳は『太陽神天照大神の血筋、もしくは本人であると言われている』と言うもの。同じ太陽神にゆかりのあるものだから、あんな捨て身の攻撃が通ったのだ。
「ふーっ」
どさり、と体を倒す。少しして、壱与が文字通り飛んできた。
「卑弥呼さまっ!」
倒れているわらわを見て、壱与が追撃を仕掛けてこないとも限らない。一応気張っておくかと体を起こそうとすると、がくんと力が抜けてしまった。……あー、右腕やばいんだっけ。まぁ諦めるかぁとそのまま重力に任せて倒れようとすると、そこに壱与の手が滑り込んでくる。
「ちょ、だ、だいじょ……ふぐぐ……重いぃ……! ギル様に対する壱与の想いくらい重いぃ……!」
「流石にそこまで重くないわよ! ……でもありがと。ちょっと疲れたから、あとは任せていい?」
「え? ギル様のことをですか?」
「そこまで任せる気はないわよ。……あ、わらわの右腕くっついてる? 感覚なさ過ぎてちょっと不安になってきた」
壱与がわらわの頭の下に膝を滑り込ませて膝枕をしてくれているのを感じて、目を閉じながら聞いてみる。壱与はしばらく沈黙した後、口を開いた。
「あー、まぁ、繋がってますけどー……」
「『けど』?」
「……つながってなかった方がいっそよかったかも、ってくらいには凄いことになってますね。どんだけ魔力込めてブロークンしたんです?」
「もうこれっきりになってもいい、ってくらいには詰めたわね」
くっついてるならいいや。あとは保護して、ギルの宝具で治してもらおっと。
「ちょっと寝るわ。……右腕の処置、任せていい?」
「はい。麻酔代わりにちょっと強めに意識断っときますね」
壱与に体を任せて、わらわは意識を沈めた。……だから、あの言葉は聞こえなかったのだ。
「――あのクソ野郎。ギル様に盾突くだけじゃなくて卑弥呼さまにこんな怪我を……殺すわ」
・・・
「よし、こっちだ!」
流石に元が人だからか、この虎は早い段階で火を恐れなくなってきた。雨が降っているというのも大きいだろう。体に泥を塗りたくって、燃えにくくしているというのもある。……無駄に知識の回る虎である。
タバサ嬢からの合図はまだだ。その合図が来るまでは、あの虎に感づかれないように同じところをぐるぐると回さなければならない。
「くっ!」
爪が掠る。もう何度目かはわからない。致命傷でなければいいと回避していたら、生傷が増えてきた。
……だが、それももう終わる。甲高い笛の音。合図だ。
「て、やぁ!」
振り抜いた草薙を、虎が回避した。その隙をついて、走り出す。これでもアサシン。敏捷値には自信がある。背後からの虎の一撃を木や障害物を利用してよけながら、タバサ嬢と事前に決めていた場所まで駆け抜ける。
……急転回して、虎と向き合う。すでに加速したこいつは、そのままの勢いで跳躍。位置エネルギーも利用して、ボクを切り裂こうとしているらしい。……でも、ここに来た時点で、ボク達の勝ちだ。
「タバサ嬢、合わせるよ! さん、にぃ、いちっ!」
「――ジャベリン!」
その魔法の発動と共に、ボクはゴロゴロと横に転がる。さっきまでボクがいたところからは、巨大な氷柱が天を貫くように現れた。
「■■■■■■――!?」
「身をひねったか! でも、殺すのが目的じゃない。動きを止められれば!」
氷柱は虎の右前足の付け根に突き刺さり、貫通した。魔力を込めて大きくなるようにした氷柱にぶら下がるように、虎が縫い付けられる。
そんな虎に向かって、ボクは剣を構える。第二宝具をきちんと発動するには、貯める時間が必要だからだ。
「魔力充填、属性変換、水を火へ。火よ、大蛇となりて我が眼前の敵を薙ぎ払え! 『
火の大蛇が生まれ、貫いている氷ごと虎を消し炭に――。
「■■■■■■――それをまっていた」
――できなかった。
「……はっ?」
虎から人に戻った奴は、火が近づいて融けた氷柱を砕き、姿勢を低くして火の大蛇の下から這い寄ってきた。
「嘘でしょ、そんなの……!」
罠だってばれてなきゃ、できっこない。そう言おうとして、こいつがはなっからこの罠のことに気づいていたんだ、と思い至った。
「実際。どんな罠かはわからなかったとも。だが。『罠がある』ということさえ分かっていれば。覚悟ができる」
そう言って駆け抜けてくるやつの右腕は、根元から貫かれたせいかボロボロだ。千切れかけていると言ってもいい。
……だけど、奴にはまだ三本も残っているのだ。しかも、虎じゃないから『四足で駆けなくても良い』んだ……! これが、人と虎になれる男の戦い方……!
ボクは宝具を放った後で動けないし、タバサ嬢も距離がある。……ああ、終わったな。
「やられた。……本当に、悔しい」
懐に潜り込んできた男が、左腕を虎に変えて、その鋭い爪で薙いで来る。最後まであきらめずに防ごうとはしてみるけど、多分無駄だろう。防げても三手で詰む。
「さらばだ」
その爪が、ボクの横っ腹に……。
「諦めるのは早いんじゃない?」
「……ほう」
――突き刺さることはなく、弾かれていた。
「……せい、ばー」
「ええ。セイバー、上杉謙信。助太刀に来たよ。……不満?」
こちらを見て小馬鹿にするように笑うセイバーに、ボクはできるだけ負けないような笑顔で答える。
「不満だけど……一応、お礼は言っておくよ。……ありがとね。……さて、反撃開始だ!」
・・・
「みなさい、これが王家にのみ許されたヘキサゴンスペル!」
雨が降ってから、完全に向こうのペースになってしまった。さらになにやらさらに上の魔法を放ってくるらしい。……あのアーチャーがいる限り俺はエアを抜けないんだよなぁ。どうするか。
風が水を巻き上げ、水が風に乗って逆巻く。攻防一体のその魔法が、前進を始める。
「まずいな。……デルフ、なんかできないか?」
「いやぁ、お前さんも俺の力はある程度わかってるんだろうけど……無理だろうなぁ」
そうだよなぁ。宝具で盾を出してみるものの、竜巻なんてものを防ぐにはそれなりの宝具を出さなければならない。……その隙を逃すとは思えない。
「……あ、いや、そうだ。娘っ子!」
「なによデルフ!」
急にカタカタとデルフがマスターに話しかけ始めた。
「お前さん、虚無の魔法が使えるんだろうが! ばかすか爆発だけ使ってねえで、他のも使わねえか!」
「なに言ってんのよ! だって始祖の祈祷書には……!」
「必要があれば現れる! そういうもんだ。ブリミルはきちんと対策を練ってるんだ」
「……マスター、俺とマリーであれを止める。その間に、その『対策』とやらを見つけてくれ」
できるよな、とマリーに目線を向ける。笑顔で頷いてくれたマリーと共に、巨大な竜巻に向かい合う。魔法を作り出した始祖の血を引いているという王族が二人、お互いを相乗しあう属性を掛け合わせて作り出したこの竜巻は、宝具でいうならば『対城宝具』に等しい。だから、こちらもそれなりの力がいるだろう。
「マリー、宝具は使えるか?」
「……ええ、アンリからの魔力のパスは一時出来に遮断されてはいるけど……一度ならいけるわ」
様々な射角から発射される宝具を打ち落としているアーチャー。流石の名人と言えど、多量の宝具は対処するだけで精いっぱいのようだ。……なるべく対処を難しくするために意識を割かなければいけないのだが、マリーの宝具発動のためにこれからはアーチャーの対処で精いっぱいになるだろう。
「よし、マリー、任せた。バックアップの宝具をいくつか渡しておく。……全力を出してくれ」
「わかったわ。……咲き誇るのよ、踊り続けるの! ……行くわよアンリ! わたくしの本気! 『
ガラスの馬に乗ったマリーが、光の粒子を周りに纏い、巨大な竜巻に激突していく。相手のアーチャーはもちろんそれを狙うが、それは俺が許さない。マスターを守り、マリーを狙わせないように宝具を放つ。いくつかウェールズにも放ってみたが、それも打ち落とされてしまった。……さすがの凄腕だな。
「く、うぅ……っ!」
マリーが苦し気に声を上げる。
マスターは祈祷書を捲り、新たな呪文を見つけたようで、それを唱え始めた。そのリズムは心地よく聞こえ、マスターとのパスからも、落ち着いた魔力が流れてくるのを感じる。
「あと少しだ、マリー」
「ええ、もう少し頑張ってね、私も頑張るわ……!」
ガラスの馬を撫でながら、マリーは気丈に笑う。
バックアップもあるからか、なんとか竜巻は足を止めているが、光の粒子と竜巻がぶつかっているところからは激しい音と火花が出ている。
「――『
後ろから、マスターの発した魔力が光となってぶつかり、竜巻が消えていくのが見え……それと同時に、周りにいた兵士たちや……ウェールズが、倒れ伏した。
・・・
「……退いた、か?」
警戒はしているが、アーチャーのあの気配は感じられなくなった。……ウェールズの魔法まで解けたから、不利を悟って引いたのか……?
「あ……」
ガラスの馬が消え、地面に降り立ったマリーがふらりと体を揺らす。慌ててそれを受け止めると、ゆっくりと地面に降ろす。
「少し座ってろ。……あとは俺が請け負う」
「ええ。……ごめんなさいね、王さま」
弱弱しく笑うマリーの頭を帽子ごとぐりぐりと撫でて、立ち上がる。
偽りの命が無くなり、元の亡骸に戻ったウェールズの横に、アンリエッタが気絶して倒れている。
「……魔力の使い過ぎ、かな? 少ししたら目を覚ますだろう。……周りの兵士も、ウェールズと同じか」
アンリエッタを木の根元に寄りかからせる。
近づいてくる気配に顔を上げると、セイバーたちが駆け寄ってくるのが見えた。
「殿! ご無事ですか!」
「……セイバーたちか。そっちも終わったのか?」
「いえ……倒しきることはできず。何故か撤退していったのですが……これが理由だったのですね」
そう言って、セイバーは倒れている兵士やウェールズに視線を向ける。
「そっちでもこの兵士たちが?」
「それもありましたが……謎の虎に変身するサーヴァントも出てきて大変でしたよ……」
セイバーと一緒にやってきたアサシンから詳しく聞くと、なにやら普通の人間が虎へと変身し、場所が森というのもあり相当苦戦したのだとか。
だが、妙な魔力の奔流(たぶんマスターの『解除』の魔法だと思う)を感じてから、急に気配が遠くなり……いなくなったのだという。それから俺のパスを辿ってこちらにやってきたとのこと。……虎?
「ギル様ーっ!」
「壱与? ……卑弥呼!」
壱与の声がしてそちらを見ると、その腕にはぐったりとしている卑弥呼が。少し血の跡が見えるから、怪我をしてしまったのだろう。
「壱与、説明しろ!」
「あ、あの、またあのビジュアル系がいたんです……それで、卑弥呼さまが攻撃を通すためにゼロ距離で宝具を爆発させて……」
「爆発……『
宝具に込められた魔力を爆発させる『
卑弥呼や壱与は並行世界から銅鏡を呼び寄せられるので、それを爆発させたのだろう。あの銅鏡は卑弥呼の宝具『合わせ鏡:金印』で生み出されたものなので、一応『宝具』扱いのものだ。故に大量の魔力が充填されている。
「ある程度の治療はしております。あとは魔力を満たしてあげれば、自然治癒ですぐ治るとは思いますが……」
「いや、でもカルナ相手によくやってくれた。……壱与も、頑張ったな」
卑弥呼を受け取って、もう片方の手で壱与を撫でると、壱与は少し困った顔をした。
「……壱与、今回は卑弥呼さまを危険に晒した上に、あんまりお役に立てませんでした。……ごめんなさい」
「珍しいな、壱与がそんなにへこむなんて。……気にするなとは言わないけど、そんな泣きそうな顔するなよ。いつもみたいに俺に飛び込んでくるくらいの元気出してくれよ」
「ギル様……ぎぃるぅさぁまぁぁぁぁぁぁ!」
「おーおー泣くな泣くな。化粧が落ちるぞー」
というか落ちてる。目の周りとかに塗っている紅が落ちてなんか失敗したヘビメタバンドみたいになってる。
「好きぃぃぃぃぃ! ギル様大好きぃぃぃぃぃぃぃ!」
片腕で意識のない卑弥呼を抱え、もう片方で大泣きしている壱与を受け止める。壱与は俺のマントに顔をうずめているので、マントが濡れてしまっている。……まぁ、赤いマントだから壱与の紅がうつっても問題はないけど……。
「……壱与殿はほんとなんていうか……極端だよねぇ」
「んっ……うぅん……?」
む。壱与の叫び声でなのかわからないが、アンリエッタが目を覚ましたようだ。
壱与の様子に戸惑っていたマスターがアンリエッタに駆け寄る。
「姫様っ!」
「う、ん……ルイズ……? っ! ルイズ!」
意識を取り戻したアンリエッタは、マスターが目の前にいることに気づき、驚いた声を上げる。
「ああ……私……なんて、ことを……!」
周りの様子を見て、今までのことを思い出したのか、両手で顔を覆ってしまった。
「……アンリ、顔を上げて」
「マリー……?」
近くにしゃがんだマリーが、アンリと目を合わせた。
「……あなたは、悪い夢を見ていたのね。……今は少し、休みなさい。……ルイズ、アンリをお願いしても良い?」
「あ、え、ええ。……姫様、どこかお怪我などは……」
「いえ……いえ、ありません。……なんと言ったらいいのか……」
宝物庫から自動人形を取り出し、兵士たちの遺体を回収する。一時宝物庫に保管して、戻った時に改めて埋葬することにしよう。タバサたちも手伝ってくれたので、かなりの数を回収できた。
最後にウェールズも埋葬布に包もうとしたときに、アンリエッタが近づいてきた。
「……わたくしに……させてください」
「ん。じゃあ、自動人形に手伝いを……」
そう言ってアンリエッタに埋葬布を渡そうとしたとき、ウェールズの閉じられた目がピクリと動き、開いた。
「アンリ……?」
「ッ!?」
――反射的に宝物庫を開きそうになるが、これは偽りの命ではない。どういう奇跡なのか……『本物の』ウェールズだ。
……無理やり理論づけるなら……すでに失われていた魂。そのパーツでもあった精神が、この騒ぎで寄り集まって、今こうして奇跡を起こしているのだと思う。……まぁ、こういう『奇跡』に理論だなんだというのは野暮と言うもの。愛が生み出した、短い間の奇跡の時間。それでいい。
「そんな、うそ、ウェールズさま……!」
アンリエッタは急ぎウェールズの体を支え、その体に水の魔法をかける。……ワルドに付けられた傷が開いているのだが、たぶんその魔法では治らないだろう。
治癒の魔法だろうと、俺の宝物庫にあるどんな宝具だろうと……生命が終わったのならば、もう戻らない。
「アンリ、無駄だよ。……わかるんだ。僕に与えられた時間は短い。……最後の願いを聞いてくれるかい?」
「最後なんて……いや、いやですウェールズさま……!」
「……あの思い出の場所へ……ラグドリアン湖のほとりへ……」
それならば、とヴィマーナを出す。ここに来るときに使ったタイプは打ち落とされてしまったので、別のタイプのものだ。それでもこの世界では早いほうだろう。
アンリエッタがウェールズを支えながら乗り込み、他の人員も乗り込んだ。音もなく浮かぶヴィマーナは、ラグドリアン湖のほとりへと、静かに向かい始めた。
・・・
湖のほとり。夜ということもあり、静かなものだ。虫の声すら聞こえない。
「ふふ、懐かしいな……」
ほとりにヴィマーナを下してからは、俺たちはそのままヴィマーナに残った。降りたのは、アンリエッタとウェールズだけだ。二人きりにするべきだろう。
一応俺は甲板に出て二人の様子を確認はしている。……俺の劣化した『眼』でも、ウェールズからだんだんと生気が失われているのが見える。……もう、何分も持たないだろう。
「……ギル」
「ん。どうした、マスター」
「……なんでもない。手、貸して」
そう言って、マスターは俺の手を取る。彼女にしては強い力で握られているのを感じる。……まぁ、目の前で起きていることをまだ処理しきれていないのだろうな。もう片方の手で抱き寄せると、俺の腹に顔をうずめてすんすんと鼻を鳴らし始めた。……この短い間で、彼女の心には相当な負荷がかかってるな。これが終われば、少し街に出かけたりして発散してやらないとつぶれてしまうかもしれない。
少しして、ウェールズの体から力が抜けた。アンリエッタが静かに涙を流す。
「……マスター」
「……うん」
俺とマスターはマリーを連れて二人の下へ。
「アンリ」
「マリー……。ねえ、ウェールズさまったらずるいのよ。……私にだけ、誓わせて。逝ってしまったわ」
そう言って、アンリエッタはウェールズの体を抱きかかえる。
「……このラグドリアン湖に、ウェールズさまを眠らせるわ」
そのまま魔法でウェールズの遺体を浮かばせると、そのまま湖の方へ。ゆっくりと、見えなくなっていくウェールズ。マリーがアンリエッタの背中をさする。
……今度こそ眠れ、安らかに。もうお前の眠りを妨げることはないだろう。
ウェールズの姿が見えなくなってもなお、アンリエッタは湖をじっと見つめていた。
・・・
アンリエッタはしばらく動こうとしなかったが、それでも太陽が沈む前にはマリーと共にこちらへ戻ってきた。マスターもその頃には少しだけ落ち着いて、目元に涙を溜める程度になっていた。
「……よし、帰るか。別のヴィマーナを出して、送るよ」
「ええ。……ごめんなさいね、王さま。さ、アンリ」
「……迷惑をかけるわね、マリー。それにギル様まで……」
しょんぼりとしたアンリエッタに、俺は笑いかけてやる。
「気にするな……と言っても気にするんだろうけど、ま、とりあえずは家に帰って落ち着くことが最優先だな。今はいろんなことが起こりすぎてて心も疲れてる」
全員を乗せたヴィマーナが飛び立つ。
アンリエッタはマリーとマスターの二人とお茶を飲んで少しだけ笑顔も見えるようになってきた。……こういうのは、同性じゃないとダメな時があるからな。
「……アンドバリの指輪。それに、クロムウェル。……解決することは山積みだなぁ」
その後、無事王宮にアンリエッタを届けることができ、事情聴取らしきものも終えて、俺たちは解散と相成った。
・・・
――ステータスが更新されました。
クラス:キャスター
真名:■■ 性別:男 属性:混沌・■
クラススキル
陣地作成:■-
道具作成:E
魔術師ではないので、普通の人間が作れる程度の道具しか作れない。だが、それでも人の状態で戦うには大きな役割を果たしている。
保有スキル
■■:D(EX)
■■:A+
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。むしろ、彼の性質的にはマスターもおらず単独で行動しているときが一番の性能を発揮出来る。
精神■■:―
能力値
筋力:C 魔力:E 耐久:B 幸運:D 敏捷:B 宝具:A
宝具
『
ランク:A 種別:■■宝具 レンジ:― 最大補足:一人