ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「……最近勉強教える系ラブコメ流行ってるわよね」「……急にどうしたんですか、卑弥呼さま」「やー、わらわって女教師も女生徒も似合うから困るわー。……今日はどっちで迫ろうかしら」「……白装束とかでいいんじゃないです?」「なんで死んでるのよわらわ。おかしいでしょ」「まぁほら、英霊なんてみんな死んでるからみんな白装束で大丈夫ですよ」「んなわけないでしょ。聖杯戦争がただの和風ホラーになるわ」


それでは、どうぞ。


第三十話 恋と愛の差を求めよ。

 怪我の酷いマリーを見て、慌ててエリクサーを飲ませる。すぐに傷はふさがったものの、ダメージ自体は深いようで、いまだにぐったりしている。少し寝かせようとしたが、マリーがそんな俺の腕を掴んで首を振る。

 

「待って……先に情報を伝えたいの。早くしなきゃ、アンリが……」

 

「……ん、わかった。先に話を聞こう」

 

 マリーの話だと、一人にしていたアンリエッタのパスから、妙な混乱が伝わってきたので霊体化して駆けつけたところ、眠らされたアンリエッタとそれを抱える金髪の男性、そして東洋系の顔をした老人がいたのだという。ただ事ではない様子から、話しかけて隙を見つけ取り返そうとしたところ、自身に『何か』が突き刺さったのだという。

 それを感じ取った瞬間、身をよじった時にはすでに脇腹からは血が出ていたのだとか。なんとか反撃しようとしたものの、杖を振るって魔法を使う金髪の男とおそらく不可視の攻撃をしてくる老人の二人では敵わないと悟った瞬間、怪我をしたまま霊体化して、ここまで来たのだという。

 

「……あのおじいさんは……たぶん、私たちと同じサーヴァントだと思うわ」

 

「老人のサーヴァントか……最盛期で呼ばれるサーヴァントで、老人とは珍しい」

 

 例がないこともないが、基本的には若い姿で呼ばれることが多いのがサーヴァントだ。サーヴァント同士はスキルや宝具でごまかされていない限りはお互いにサーヴァントだと分かるようだし、マリーの言葉は間違っていないのだろう。……ということは、向こうにはまた一体、サーヴァントの戦力が増えたことになる。

 

「金髪の男……ウェールズに違いない」

 

 ウェールズならアンリエッタが抵抗できなかったのもうなずける。死んでいていると伝えられていても、実際に出会ってしまえば、偽りの命で動いているなんてとても思えないからな。混乱して、その隙を突かれてもおかしくはない。

 

「出るぞ、謎の老人に対抗するためにも、戦力はほしい。……マリー、お前ならマスターのパスを辿れるはずだ。傷も癒え切ってないだろうけど、来てくれるか?」

 

「ええ、当然よ! アンリは大事なマスターだし、あなたのお願いを断る理由なんてないのだもの!」

 

 移動用のヴィマーナを出して、マスターの部屋の窓から飛び移る。一応こちらの守りとしてジャンヌが留守番で、シエスタも戦闘力は皆無だから残ってもらうことに。マスターはアンリエッタの友達だから当然同行を言い出したし、ただならない空気を感じてかキュルケとタバサもついてきてくれるらしい。

 よし、これならアンリエッタを助けに行くのに十分な戦力だろう。謙信に卑弥呼、壱与も来てくれるし、おそらくいるであろう相手側のサーヴァントにも対応できるはずだ。

 

「よし、全員乗ったな? それじゃ、出発するぞ!」

 

 マリーの示す方へ、ヴィマーナが音を立てずに動き始めた。

 

・・・

 

 飛び始めてしばらく。そろそろ近くなったとマリーが言った瞬間、ヴィマーナに衝撃が走る。何者かの攻撃を受けたらしい。

 

「な、に……!?」

 

 これは……! 動力部を『撃ち抜かれた』!? これでも高速で移動する飛行物体だ。上空を飛ぶヴィマーナの動力部を、乗っているサーヴァントである俺たちに感づかれずに正確に撃ち抜くなんて、並みの腕ではない。確実にアーチャーの仕業だろう。マリーの言う、『不可視の攻撃』だと思う。

 

「ちっ、飛行できなくなった! 宝物庫にヴィマーナを戻す! 俺の合図で飛び降りろ!」

 

 なんとかヴィマーナを操って、地上へと近づける。目標はマリーが感じ取っているアンリエッタの方角だ。……ここまで来れば、俺でもサーヴァントの存在を感じ取れる。撃ち抜かれないよう、ヴィマーナを盾に地上へと降りていく。

 

「今だ!」

 

 俺の声で、全員が森の中へと飛んでいく。『フライ』や『レビテーション』を使えるだろうが、キュルケやタバサはセイバーやアサシンに任せた。その方が早く降りれるからだ。

 

「散らばったか……」

 

 あまり離れてはいないようだが、分散してしまった。魔力は感じるから、無事に降りれはしたらしい。

 

「まぁいい。とりあえずは、目の前の脅威を撃破して合流しようかな」

 

「だ、大丈夫なの……?」

 

 マスターが俺の腕の中で不安そうにつぶやく。安心させるように笑いかけると、マスターは持っている杖をぎゅっと握った。

 

「セイバーはキュルケ、アサシンはタバサと一緒みたいだな」

 

 敵の『アーチャー(仮)』と出会う前には合流したいものだ。目の前に大量に湧き出る偽りの生者に宝具の照準を合わせながら思う。

 ――そして、森の中で爆撃と見紛うほどの轟音が鳴り響いた。

 

・・・

 

「うん、無事に分断されたね」

 

「そんな冷静な……大丈夫なの?」

 

「ふふん、相手がアーチャーなら私は強いよ。なんてったって『矢除けの加護』があるからね」

 

 まぁ相手の力量が上の場合は当たることもあるんだけど、基本的には『矢のほうが避けていく』からね。

 

「ま、とりあえずは目の前の屍もどきを屍に戻すところから始めようか」

 

 キュルケ嬢は杖を。私は刀を抜いて、目の前の屍もどきに相対する。近くから、轟音。……これは、ギルの宝具だな? まったく、自然破壊も甚だしい。もうちょっとスマートにできないものかなー。

 

「死体切りは初めてだけど……首を落とせば死ぬでしょ、死者でもさ」

 

「あーもう、こんな変なの相手にするのは初めてよ!」

 

 私が飛び出すと、相手は魔法を撃ってくる。だが、その程度なら私の対魔力が無力化する。

 

「そこぉっ!」

 

 短い音を立てて、刀が奔る。一人の首を落とし、次の相手を探して目を動かす。

 

「次っ!」

 

「ちょっと待って! そいつ、まだ動いてる!」

 

「は、嘘、でしょ……!」

 

 首を落とした男の体は、まだ動いていた。その杖に魔法を纏わせたまま、次に向かおうとしていた私の背中に振り下ろしてくる。

 

「ま、だぁっ!」

 

 刀とは逆の手に持っていた鞘で、その杖を打つ。杖の方向は少しだけずれて、私の肩をかすめていく。

 ……危ない。スキルで補正があったから躱せたようなものだ。完全に油断していた。

 

「首を落としても死なないとは……四肢を落とすか……」

 

 あとは、とキュルケ嬢を見やる。

 

「……あとは、燃やすか、かな?」

 

 これは、面倒な戦いになりそうだ。

 

・・・

 

「……ふう、なんでこんなにいるんだか」

 

「……面倒」

 

 この敵は死体みたいだから、燃やせばいいんじゃないかっていうボクの考えは当たり、こうして第二宝具の『東方征伐(さがみうちたおし)草薙太刀(くさなぎのたち)』の真名開放によって、炎の大蛇が偽りの命ごと相手を燃やし尽くす。タバサ殿は風を操れるので、森に延焼しないように援護してもらっている。

 

「いやー、魔力が潤沢って素晴らしいね。結構いい感じじゃないかな?」

 

「油断大敵」

 

「……わかってますってば。さ、主の反応はあっちだね。焦らず確実に進んでいこう」

 

 こくり、と頷いたタバサ殿を後ろに歩き始めると、少し離れたところから轟音。

 

「うはー、主の宝具射撃かな? すごい音」

 

「……風の流れが変わった……?」

 

「んぅ?」

 

「何か変。……ッ、何か、飛んでくる……! 回避を……!」

 

 風を読むらしい彼女の言うことなら何か危機が迫っているのだろう。タバサ殿を抱え、横に跳ぶ。瞬間、轟音。……この音、さっきのと同じ? まさか、主の宝具爆撃とは別の敵の攻撃!?

 

「……! 降ってくる……! 上っ、迎撃……!」

 

「あぁ、そういう……!」

 

 上から降り注ぐ、暫定『宝具の飽和射撃』に対して、宝具を起動する。さっきまでの『燃えればいい』みたいな適当なものではなく、今の自分で出せる全力稼働だ。

 

「魔力充填、属性変換、水を火へ。火よ、大蛇となりて我が眼前の敵を薙ぎ払え! 『東方征伐(さがみうちたおし)草薙太刀(くさなぎのたち)』!」

 

 八岐大蛇より生まれたこの剣は、本来ならば水の大蛇を八匹生み出し、広範囲を洪水によって薙ぎ払うことができる剣なんですが……今の僕では扱い切れないために大蛇の数は一匹に。さらに、叔母さんから貰った火打石が組み込まれているため、属性が水から火に変化している。

 そのため、この宝具の力は『込めた魔力を火に変換し、火の大蛇の力を発揮する』ことができるのだ。同じ火の属性を持った攻撃なら『迎え火』の概念によって反射もできるという優れものだ。

 飛んできていたのは丸い物体。……石じゃないみたいですね。普通の武器というわけでもない。神秘を感じるということは、これはボク達サーヴァントにも通る『攻撃』だ。

 

「いやな予感がする。急ぎましょう、タバサ嬢」

 

「……ん」

 

 杖を持ち直したタバサ嬢が頷く。……よし、待っててくださいね主! 今、ボクが行きます!

 

・・・

 

「ちょっと、嘘でしょこれ」

 

「……ちっ、壱与と卑弥呼さまだとちょっと相性悪いですね」

 

 生前の頃と比べて、『宝具』として登録されてしまった壱与と卑弥呼さまの『第二魔法』は、出力が格段に落ちている。特に卑弥呼さまの『合わせ鏡』は相当だ。込めれば込めるだけ太くなった『はかいこうせん』……じゃねーや。『合わせ鏡』は、鏡の大きさ以上には大きくならなくなった。

 

「薙ぎ払っても薙ぎ払っても次のが来る……壱与の光弾は鏡の数より多くは出せないからいくら魔力があっても数自体は増えないし……」

 

 今のところ出てくる奴らを薙ぎ払ったり変な丸い物体を飛ばしてきたりするからそれを打ち落としたりしているから、互角だけど……っていうか、状況が膠着しちゃってるのはあんまりよろしくないのでは……。

 

「まーわらわはキャスターだから戦闘力期待されてないし、あんたなんかバーサーカーだしねぇ。全クラス弱点は伊達じゃないわねー」

 

「え、それ別の並行世界の話じゃないんですか?」

 

「うぇ? わらわなんか言ってた?」

 

「……その年で電波キャラはヤバいんじゃ……」

 

「キャラとかじゃないわよ!? え、マジでわらわなんか言ってたの!?」

 

「ええ、壱与はバーサーカーだから全クラスが弱点だー、とか卑弥呼さまはライダーが苦手ー、とか」

 

「えー、なによそれ。弱点とかクラスで決まるわけないじゃない。んなもの相性あるでしょーよ」

 

 二人して話しながらも、固定砲台として迫りくる謎の球体と首を吹っ飛ばしても歩いてくる謎の敵を吹っ飛ばし続ける。早めにギル様が合流してくれればいいんですけど……うーん、戦闘力低めなのが災いしてるなー、壱与達はー。

 

「――うわ」

 

 そんなことを考えていた壱与達の目の前に、さらに増援が。……壱与達二人が一番組みしやすいと思って潰しに来てますね。弱いところに戦力を集中させるのは敵ながら賢いと言わざるを得ないですねぇ。

 

「チッ。わらわたちを『弱い』扱いとは良い根性してるわね、敵は」

 

「いや、そうでもない。お前たちは真っ先につぶさねばと考えただけだ。脅威度の違いだな」

 

「……あー、こりゃやべーんじゃねーです?」

 

「やべーわね。まさか、最大戦力がこっちに来るとは……」

 

 目の前に現れたのは、太陽に連なる英雄。ギル様から要注意サーヴァントとして聞かされていた、『施しの英雄』カルナである。

 

・・・

 

「……っく、まさか、宝物庫で対処できない事態になるとはな」

 

 目の前に現れたのは、探していたアンリエッタと……金髪の男こと、ウェールズだった。隣には東洋人の老人もいる。背後には、なぜか大砲を構える兵士たちの姿が。……全員がサーヴァントとまではいかないが、それなりの神秘を持った存在になっている。……なんだ、あの兵士たちは。この老人の宝具か何かで疑似サーヴァント化しているのか……?

 さっき宝具を発射しようとしたときにアンリエッタ達が攻撃を仕掛けてきたのだが、あの大砲から打ち出された砲弾はサーヴァントにダメージを与える神秘を内包していた。……この世界の魔法で成されたわけではなく、確実に宝具レベルの神秘強度だった。

 それを防ぐために宝具を発射したのは良いが、アンリエッタがいる所為で宝物庫を防御にしか使えなかった。

 

「……アンリ」

 

「……マリー」

 

 宝具を向け、照準するために微調整していると、隣に立っていたマリーがアンリエッタに話しかける。

 

「アンリ、あなた……『それ』は、あんまり良い事じゃないわ」

 

「……放っておいて。私は、ウェールズさまと一緒に居たいだけなのよ」

 

「救われないわ。……ウェールズ皇太子……だったかしら? ……アンリを開放してくれないかしら?」

 

 言っても無駄だと感じたのか、マリーはウェールズに矛先を変える。マリーにしては珍しく、表情が硬い。

 

「ふふ、それは無理な相談だよ、レディ。アンリは僕が無理やり連れてきたんじゃない。アンリがついてきてくれているんだ」

 

「……そう。そうなのね。――人の心を利用するなんて、『あなたの主』は、相当な人格者のようですね?」

 

 マリーの言葉に棘が混じっている。珍しい。『みんな大好き!』なマリーが、こんなに怒りを露わにするのは、本当に珍しいことだ。

 

「……あなたがたがどれほどの力を持っていようと、これほどの人数差ならば、こちらにも勝ちの目はあるでしょう」

 

 アンリエッタは俺たちがアンリエッタを巻き込めないことをわかっていて、そう言っているのだろう。……すべてわかって、アンリエッタは俺たちにそう言っているのだ。

 

「王さま、私にやらせてくれる? ……おともだちの目を覚まさせるのも、友達としての役目よね?」

 

「……意外とわがまま姫なんだな、マリーは。……いいよ。ほら、マスターも」

 

「うえっ!?」

 

「マリーにとってもそうだけど、マスターにとっても友達だし……幼馴染だろ?」

 

「……そう、だけど……」

 

 マスターは杖を握って不安そうに俯く。だが、少しして顔を上げると、一度うなずいた。

 

「――うん。私、女王さまの……いいえ、姫さまのお友達だもの。一緒に戦ってくれる? マリー」

 

「ええ、もちろん! 盲目は恋をした女の子の通過儀礼よ。だけどね……いつかはきちんと相手を見ないといけなくなるの。そしたら、恋は愛になるのよ」

 

 俺の宝物庫から宝具が発射される。それを皮切りに、全員が動き出した。

 ウェールズとアンリエッタを取り囲むように存在している貴族たちは宝具を避けて呪文を唱え始め、マリーとルイズはすでに呪文を唱え終えていたアンリエッタの魔法をぎりぎりで打ち消している。

 そして、謎の東洋人は……驚くことに、宝具を『打ち落として』いた。

 やはりアーチャーなのだろう。弓を引き、矢を放っているのだと思う。動作によどみはなく、その的中率は凄まじい。自身とウェールズに当たりそうなものは打ち落とし、アンリエッタに向かう弾けた土すら打ち落としてなお、彼には余裕があるように見える。

 ――名人。それも、弓に生き、弓に死ぬ覚悟をもって道を究めた、古今無双と言われるような、名人だ。

 

「……凄まじいな。世界広しと言えども、そのような面妖なもの、見たことがない」

 

 かすれるような声だったが、確かにその老人がこちらを見て言った。……素直にすごいと思う。この宝具の雨あられ、マリーやマスター、アンリエッタを巻き込むまいと密度は薄いものの精度は確かだ。その宝具を打ち落としながら、こちらを『見て』喋る余裕がある。一つの宝具を弾くと、それが別の宝具へ。さらにそれが別の宝具へ……そうして空間を作り出し、老人は仲間を守っているのだ。

 

「だが、真っ直ぐだ。使うものの心根を表しているようだ。……よい。良い青年だ」

 

 流石にこちらを撃ち抜きはしないものの、宝具を少しでも緩めてしまえば隙をついてくるだろう。……あれは、防げまい。たぶんだけど、あれを盾や何かで防げはしないだろう。避けるにしたって、相当な幸運か直感のランクが必要だろう。

 

「アンリ! 目を覚ませとは言わないわ! 直視なさい! あなたはその王子様を見ていないわ!」

 

「わかったようなことを言わないで! 私はきちんと見ています! 見て、ウェールズさまだと……そう信じてついてきたのです!」

 

「姫さま! お願いです、いつものあなたに戻ってください!」

 

「私はいつも通りよ。いいえ、思い出したのよ! ウェールズさまに恋していたあの頃を! 私はアンリエッタ王女! ウェールズさまを愛し、ともに寄り添うと決めた姫なのです!」

 

 戦況は硬直している。……いいや、むしろ悪くなった。今、雨が降り始めた。魔法は使う属性に値するものがあれば威力、効率が別段に高くなる。火属性なら火や硫黄、水属性なら水。……そう、アンリエッタは雨降る今の状態なら、全員に水の鎧をまとわせ、炎を無効にできるだろう。アンリエッタの魔法をウェールズが先ほどから強化していることもあって、アンリエッタは一人この戦場で主導権を握っていた。

 

「いいえ、いいえ! あなたは責任感のある人です! 周りに流されたからと言っても! 一度国を背負うと決めたなら苦しみながらも責任を負おうとするお方! 今は乱心されているだけなのです、姫様!」

 

「うるさい! 今の状況がわかる? 雨! 雨が降っているのよ!? 水魔法を使うわたくしが、風魔法を使うウェールズさまに援護されて、雨の中で魔法を使うということがどういうことか、わかるでしょう!?」

 

 そう言って、アンリエッタは指揮者のように杖を振るう。俺の渡した杖ではないところがまだ不幸中の幸いということか。あれを持っているのなら、更に苦戦していたはずだ。

 

「それでも! 私はあなたを失いたくないのです!」

 

 マスターが魔法で水の鎧を弾き、マリーが光弾を放つが、ウェールズには痛痒も与えていないようだ。……だろうな。あれは偽りの命で動く死体。指輪の力が残っている限りは、頭を飛ばそうと何しようと動くだろう。止めるならば、燃やすか、四肢を吹き飛ばすか、粉みじんにするか……。

 

「どれも、期待薄だな」

 

 俺の後ろを取った敵が、風を纏わせた杖を突きだしてきたのを身を屈めて避け、宝物庫から宝剣を抜いて一閃。炎の概念を持つ剣は、水の鎧を切り裂き、水で消える前に敵を燃やし尽くす。

 

「……これを延々繰り返すのは、流石に現実味がないかな」

 

 まだまだ敵は大量に居るのだ。これを繰り返せば、おそらくあのアーチャーに隙を見せることになる。

 ……一番有効打を持っているであろうジャンヌを置いてきたのは痛かったな。……令呪で呼び寄せるか? ――いや、あっちの守りで必要だからと置いてきたのだ。呼び寄せてしまえば、それこそ向こうを守るのがライダーだけになってしまう。そして俺にはわかる。あのライダー、絶対防戦には向いてない。

 どうせ『バカヤロウこの野郎』と叫んで出撃し、暴れまわるに違いない。何なんだあのライダー。ほんとにサーヴァントかあいつ。

 

「アサシンかキャスターが来てくれればな……」

 

 アサシンの第二宝具か、キャスターの光線なら、この状況を打破できる。……きっと着地点に待ち伏せていたか何かした敵に足止めを喰らっているのだろう。……もしかしたら、そちらにもサーヴァントがいるのかもしれない。

 

「……覚悟を決めるときが、来るかもな」

 

・・・

 

「んっとに、馬鹿火力めっ!」

 

「ああもうっ! 運動は苦手なのにぃっ!」

 

 何度目かの炎の余波を転がってよける。少し髪がちりりと焼けたっぽい。あーもうクッソ、髪留めも焼けちゃったじゃない。頭の横で留めていた髪が解かれてウザったい。

 

「加減しているとはいえ、よく避ける」

 

「そりゃ避けるでしょうよ」

 

「やっぱ考えずれてますよねこのRX」

 

「……あーるえっくす?」

 

「ええ、太陽の子なので」

 

「?」

 

「あ、わかんないならいいです」

 

 す、と真顔になった壱与と目を合わせて一瞬。お互いにその場から飛びのく。目の前を槍が通り過ぎて、髪が数本持っていかれる。余波の炎が熱い。

 

「はっ!」

 

 鏡を出して、光線を発射。槍を振り抜いた直後だってのに、しっかり反応して身を捩って躱すランサー。

 

「いけ、光よ!」

 

 壱与が追撃とばかりに光球をばらまくが、身体を捩った反動で槍を振るい、当たるものだけを弾く。ほんとこういう戦いの才能があるやつっていうのは……!

 

「なるほど、良い連携だ。信頼関係があるのだな」

 

「は? 変なこと言わないで下さいよ。キモッ」

 

「いや、そこは素直に受け取っときなさいよ。壱与こそキモイわ」

 

「……信頼関係が……あるのだな……?」

 

「敵の言葉で揺らぐんじゃないわよヴィジュアル系!」

 

「くたばれッ」

 

 光球と光線で身動きを取れないように檻を作っていく。隙間がないからある程度は当たるし動きを止められるものの、対魔力でダメージを減らされているのか、気にせず槍を振るうランサー。だが、そこで動きが遅れた。

 

「そこぉっ!」

 

 ……そこに、壱与が飛び出した。鬼道によって無理やり上げた身体能力で、ランサーに向かっていく。急に上がった速度に驚いたのか、ランサーは一瞬硬直し、その体に、壱与の腕が届く。

 

「つっかまえたー!」

 

「捨て身か……!」

 

 壱与を引きはがそうとランサーが掴む。……その一瞬を待っていた!

 光線を放つ銅鏡をもって、わらわも駆ける。壱与がブン投げられるのが見えたけど、それも構わずに駆け抜ける。

 

「おぶぅぅぅぅぅ!」

 

 ドップラー効果を残しながらぶっ飛んでいく壱与を身を低くして避け、目隠しに使う。あと少し、もう少しで……。

 

「無駄だ。いくら近距離だとしても、その光線は効かぬ」

 

「はん、そうでしょうねっ!」

 

 銅鏡を突き出し、ランサーにぶつける。わらわがいつも使う光線というのは、魔力を銅鏡に通し、光に変換して熱量で攻撃する手段なのだ。それには当然、変換する量に応じてロスというものが存在する。

 生前は魔法を使用して魔力を無限に鏡にぶち込めたので、ロスなんて気にしなかったけれど、今は制限のあるサーヴァントの身。一度に出せる鏡も光線も限りがある。そのため、距離に応じて減衰するし、だからこそ対魔力持ちには決定打にはならないことも多い。それは、このランサーにも適用される。……近距離で撃ったところで、多分対魔力と耐久のランクで致命傷にはならないだろう。

 ……けど、狙いはそうじゃない。魔力を光線に変えるときにロスが生じる? 距離に応じて減衰する? ――だから何だというのだ。ならば、通じるようにすればいい。

 ギルもたまに使う、誰にでも使える、けれどデメリットが大きすぎて普通は使われない、それこそギルやわらわや壱与みたいに、『大量に宝具を使い捨てられる』サーヴァントでなくてはおいそれとは使えない奥の手……!

 

「『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』!」

 

 宝具に込めた魔力をそのまま爆弾として使用する、捨て身の一手。キャスターたるわらわが魔力を込めた銅鏡を、そのまま爆弾にすることで、対魔力で減衰してもダメージは入るだろう。

 

「――なんと」

 

 強大な魔力の爆発が、雨すら吹き飛ばして森に光の奔流を生み出した。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

クラス:アーチャー

真名:■■ 性別:男 属性:混沌・中庸

クラススキル

対魔力:■

単独行動:■■

保有スキル

心眼(■):■■■

千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の補足、動体視力の向上。

■■■■■(■):■■

透化:C
精神面への干渉を無効化する精神防御。


能力値

 筋力:D 魔力:E 耐久:E 幸運:A 敏捷:E 宝具:A+

宝具

■■■■(■■■■■■■■■■)

ランク:■■ 種別:対■宝具 レンジ:1~999 最大補足:1



■■■■(■■■■■■■■■■■■■)

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大補足:1


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