ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「ぐぎぎぎぎ……」「……どうしたマスター、キュルケをそんな、親の仇みたいな目で見て」「実際ツェルプストーの家は親の仇みたいなものよ!」「……それもそうか。おや、あれはシエスタ」「ぐぎぎぎぎ……」「……どうした、シエスタまでそんな、親の仇を見るような……」「ねぇ」「うん?」「きょ、興味がわいたから聞くだけだけど……その、身体の一部を大きくしたり小さくしたりするような宝具、宝物庫に入ってないの?」「……ああ、そういうことか、マスター。おっぱ」「『フライ』」「ぐおぉっ!?」「……余計な詮索はしない方が良いわよ。爆発したくなければね」「……その忠告、ちょっと遅かったかなぁ……」


それでは、どうぞ。


第二十九話 憎しみ抱けるだけ元気

 やってきたのはラグドリアンという湖。道すがら、ルイズからの説明で『誓い』の湖なんだと説明を受けた。そこで愛を誓ってほしい、とも言われたが……まぁ、それはおいおいな。

 

「……あれ?」

 

「どうした、モンモン」

 

「なんか、湖の大きさが変わってる……ような?」

 

 モンモンが言うには、もうちょっと湖は小さかったという。近くに村があるとのことで、まずはそこへ向かってみることにした。

 村から見えないところに着陸し、そこからは少し歩く。すぐに村が見えてきて、俺たちの姿を見た村人がこちらへ駆けよってきた。

 

「おお、お貴族様! 湖の件で来て下さったんですか!?」

 

「え、えっと……」

 

「ああ、そうだとも。話を聞かせてくれるか」

 

 あたふたし始めたモンモンの代わりに俺が話を聞く。村人の話によると、何か月か前からラグドリアン湖の水位が上がり始めたらしい。船着き場が沈み、畑が沈み、すでに家が沈み始めているとのこと。解決してほしいと訴えてはいるものの、領主に動きはなくこのままでは村を捨てなければ、と悲嘆に暮れていたとのこと。

 

「なるほど、住処すらなくなるのはまずいよな……」

 

「ええ、ええ。その通りですとも。湖からこちら、陸地は人間さまのものだというのに、精霊様は何を考えているのやら……」

 

「安心するといい。精霊と話をするとしよう。話して理由がわかれば、解決もできるはずだ」

 

「おぉ! ありがとうございます……!」

 

 感激した様子で俺たちを拝む村人。なんとか顔を上げてもらい、俺たちは村を後にした。

 

「ちょ、ちょっと……。あんなこと言って大丈夫なの……?」

 

「うん、大丈夫。最悪のための宝具はあるしね」

 

 精霊と敵対してしまうことになるかもしれないが、まぁ解決すればいいだけだ。気楽にいこう。最悪、恨まれるのは俺だけになるようになればいいしね。

 

「じゃ、行ってみようか。……そういえば精霊って普通に姿見せるのか?」

 

「それは私の使い魔がいれば呼び出すことはできると思うわ。……話を聞いてくれるかどうかはわからないけれど……」

 

「いやいや、それが出来るだけで大したものだ」

 

 俺がそういう正規の手順を踏むことはまれだからな……。

 歩いてラグドリアン湖の広がった水辺へ到着すると、モンモンが自分の使い魔を呼び出す。使い魔がカエルだったので、ルイズがちょっとびっくりするような事態もあった。モンモンがそのカエルに自身の血を垂らし、湖に放す。すいすいと泳いでいって、戻ってくる。

 

「これで呼び出しに応じてくれればいいんだけど……」

 

 カエルが戻ってきてから少しして、湖の水が渦巻き始める。すぐに重力に逆らって持ち上がり、モンモンと同じ形をとり始める。なるほど、水の精霊と言うだけあって決まった形とかないのか。たぶんだけど、あの血から人物を読み取ってその血と同じ人物の形をとるのだろう。……人間側に寄って話してくれるというのは、精霊にしては珍しいのではないだろうか。

 形が安定し始めた湖の水は、巨大なモンモンの姿をとって、こちらを見下ろしてくる。

 

「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、古き盟約の一員の家系よ。カエルに付けた血に覚えはおありかしら」

 

 水の精霊は表情を確かめるようにいくつか変えた後、最初と同じように無表情になって、喋り始めた。

 

「覚えている。単なるものよ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後にあってから、月が五十二回交差した」

 

「よかった。聞きたいことがあるの。……なぜ湖の水を増やしているのかを教えてほしいの。……何か理由があるなら、協力できるかもしれないわ」

 

「お前たちには関係のない話だ、単なるものよ。我は信用出来ぬものとは語らぬ」

 

「そーよねー……。ど、どうするのよ」

 

 そういってこちらを振り向くモンモン。その視線につられたのか、水の精霊もこちらを向く。

 

「……む? お前は……」

 

 俺を見た水の精霊が、表情を変える。いくつか表情を変えた後、また無表情に戻って、俺に話しかける。

 

「単なるもの……にしては奇妙な感覚だ。混ざっているのか?」

 

「ん、まぁ、半神半人は混ざってると言っていいだろうな」

 

「ふむ、聖なる気配すらお前からは感じるぞ、混じりし者よ。お前は我らに近いようだな。……お前になら、話してもよいかもしれぬ」

 

 そういって、精霊は話し始めた。自身を襲撃に来る者たちがいること。自分は湖を広げるので忙しく、そちらに対処できないこと。なので、その襲撃者をなんとかしてほしい、ということを簡潔に説明された。

 

「なるほど。……そういえば、なんで湖を広げているんだ?」

 

 住人達からの依頼を思い出して、その点を聞いてみた。何か、精霊の身に起こっているのだろうか?

 

「なんということはない。ただ、盗られたものを取り返そうとしているだけの事」

 

「? ……それがどうして、湖を広げることにつながるんだ?」

 

「この地を水が覆えば、いつかは盗っていった者に届くだろう?」

 

 何を当たり前なことを、という感情が、精霊から伝わってくる。……マジか。何年……いや、何百年単位の捜索になるぞ、それ……。気が長いというか。まぁ、精霊は基本的に人間とは考え方も違うしな。多分寿命なんて概念もないだろうし、だからこそできる芸当ということだな。

 

「なるほど……。盗られたものって何なんだ?」

 

 俺たちが探し出すか……水の精霊の存在に今すぐ必要なものだというなら、似たような宝具を用立てても良い。

 

「『アンドバリ』の指輪。我と共に時を過ごした指輪だ」

 

「……聞いたことがあるわ。『水』系統の伝説のマジックアイテムの名前だったはずよ。確か、偽りの生命を死者に与えるとかいう……」

 

「その通りだ、単なるものよ。誰が作ったか物かはわからぬが、お前たちの仲間なのかもしれぬ。ただ、お前たちがこの地に来た時には、すでに存在していた。……死は我にはない概念故理解出来ぬが、その『死』を免れたいと思うお前たちには、なるほど魅力に思えるのかもしれぬ。――しかし、所詮は偽りの命。旧き水の力にすぎぬのだ。益にはなるまい」

 

「それを盗られたから、こうして水かさを増やしているってことか。……どんなやつが盗っていったとかはわかるか?」

 

「風の力を使いやってきたお前たちと同じ単なるもの数個体だ。我は眠っていたのだが、その我には触れずに秘宝のみを持ち去っていった」

 

「数個体……まぁ、数え方は考え方の違いだな。……名前とかは喋ってなかったか?」

 

「個体の名称か……確か、個体のうち一つが、『クロムウェル』と呼ばれていた」

 

「アルビオンの新皇帝と同じ名前ね。……何か関係あるのかしら」

 

 確かに、直近で聞いたもので同じ名前というなら、怪しそうだな。……また新生アルビオンか。

 

「よし、わかった。その秘宝を取り戻そう。だから、水位を元に戻してほしいんだ」

 

「……ふむ、混ざりし者よ。お前の言うことなら信じることができるだろう。単なるものとは違い、探す力も時間もありそうだ。わかった。我の下に戻るのなら、水かさを増す必要もない。しばらくすれば、水位も戻るだろう」

 

「ありがとう、水の精霊。……そういえば、その秘宝は早く戻さないとまずかったりするのか? それなら急いで探すけど……」

 

「いや、混ざりし者よ。お前がこの世から去るときまでで良い」

 

 気の長い事で……。まぁ、精霊なんてこの世の理からほとんど外れてしまったような存在だ。そのくらい当たり前か。

 

「よし、あとは襲撃者をなんとかしてやれば、この件は解決かな」

 

 今日の夜から張り込むとしよう。……あ、そうだ。

 

「ついでに『精霊の涙』を貰っていくとしよう。水の精霊よ、それくらい良いだろう?」

 

 俺がそういうと、精霊はため息をつくような動きをした後に、右手を差し出し、滴をこちらに向けて放ってきた。それを宝物庫謹製の小瓶に詰め、効果を確認してみる。ほうほう、ふむふむ。これはレアものだな。SSRくらいだ。俺の蒐集癖的にも大満足の品物だ。

 

「凄い……」

 

「む、そんなに凄い素材なのか。……もうちょっともらっておいたほうがいいのか……?」

 

「違うわよ。精霊があんなに呆れたような感情をあらわにするのが凄いっていってんの。遠慮なしなんだからあんたは……」

 

 よく機嫌を損ねなかったわね、とモンモン。……精霊というくらいだから気まぐれなんだろうな。そういうことで納得してもらうとしよう。

 

「よし、こうして報酬ももらったことだし、さっそく今日の夜から張り込むとしようか!」

 

 こうして、俺たちはこの湖畔に一泊することが決定するのだった。

 

・・・

 

 ――水の精霊に色々聞いてみたり、宝具を見せてみたら興味を持ったので調子に乗って色々見せたりしていると日も暮れてきたので、夜に向けて準備することに。と言っても、俺は夜目が効くし、後は茂みの蔭にでも隠れておけば、襲撃者とやらを発見できるだろう。

 危ないのでルイズはモンモン達と一緒に離れていてほしかったけど、まぁ、予想していた通り離れてくれなかったので、一緒に連れてきた。モンモンもギーシュと一緒についてきたので、全員で茂みの奥にて待機中だ。

 

「しっかし、精霊に聞いてこちら側で待機しているけれど……ガリア側の湖畔っていうことは、ガリアの人間なのかね?」

 

「ガリアの領地にも浸水してるみたいだからな。そっちの問題解決のために来てるのかもしれん」

 

 なので、襲撃者を止め、話し合いで解決できそうなら解決しようと思っているのだ。向こうも精霊が湖を広げるのをやめたと知れば襲撃を思い直してくれるかもしれないしね。

 

「ま、とにかく無力化は俺がやるから、ギーシュはモンモンと……いや、モンモンだけ守っててくれればいいよ。ルイズは俺が守るからさ」

 

 ギーシュに女子二人を任せようとしたら、ルイズから妙な視線を喰らったので、慌てて発言を修正する。……まったく、最初からこうならかわい……いや、ツンツンしてても可愛かったな。どっちみち可愛いじゃないか。流石は俺のマスター。

 俺の『守る』発言を聞いた瞬間に顔を赤くして、頬に手を当てていやいやと振り始める。彼女の綺麗な桃色のブロンドがふわりと広がる。

 

「はー、お熱いことで」

 

 やだやだ、と手を振るモンモンに苦笑いを返していると、人の気配を感じた。

 

「……来たみたいだ」

 

 手でみんなを制しながら、茂みの蔭から相手を確認する。千里眼のおかげで夜でもよく見え……あれ?

 

「……ちょっと待っててくれ。あれは……」

 

 三人をその場で待機させて、俺だけで動く。霊体化すれば、すぐに相手の方へ向かえる。相手の後ろで実体化をすると、襲撃者であろう二人組のうちの一人が、素早く後ろを振り向く。

 

「っ!」

 

「待て待て! タバサ! 俺だ!」

 

「……? ……ギル?」

 

「ひゃっ!? い、いつの間に!?」

 

 俺に向けて杖を向けていたタバサが杖を下すのと、キュルケが俺に気づいて変な声を上げるのは同時だった。

 

「……やっぱり二人だったか」

 

「どうしてここに?」

 

「あーっ、もうっ、びっくりしたぁ……! ダーリン、どうしたのよ、こんなところで!」

 

「そっちこそ。何しに来たんだ?」

 

「……ひみt」

 

「タバサの家からお願いされたのよ。水の精霊を倒して、湖の水かさがこれ以上増えないようにしてくれって」

 

 タバサがなにやら言おうとしていたが、キュルケが笑顔でつらつらと説明してくれた。

 

「なるほど……でも、それなら倒す必要はないぞ。すでに俺たちもそれを相談されててな。精霊とは話を付けた。もう湖が広がることもないから、そのうち水位も戻るよ」

 

「そうなの? 流石はダーリン! 精霊とも話し合いでなんとかするなんて、英霊ってすごいのね!」

 

「……精霊と英霊はどういう関係? 仲がいい?」

 

「いやー、存在的に近しくて仲が良くなったわけじゃないんだよ。少し話し合ってみたら、利害が一致してな。それで取引したまでだよ」

 

 とりあえず、二人をギーシュたちの下へと連れていく。三人はタバサとキュルケが襲撃者なのだと知ったときは驚いていたが、それも少しのことで、すぐにワイワイと野営の準備となった。とりあえずここで夜を過ごして、明日精霊の下へ向かい、タバサたちも精霊と話をすることに決めた。

 

・・・

 

「……それにしても、惚れ薬でねぇ……」

 

 キュルケが俺の膝の上でデレデレ状態になったルイズを見て変な顔をする。モンモンだけではなく、キュルケやタバサと話していても不機嫌になるし、自動人形も出したら「やっぱりそっちの方が良いの……?」と悲しげな顔をするので、食事は出来合いの物だし、泊まる場所も宝物庫にあった小さなログハウスになってしまった。……野営と言えばテントだと思うんだけどなぁ。ま、それはいつかキャンプでもやるときにしよう。

 

「……これはこれで面白い」

 

 タバサは読んでいる本を少しだけ下げて、ルイズの様子を見ながらそうつぶやいた。珍しく本よりもこちらを気にしているようだ。

 

「私はそれよりも野営するって聞いてたのに普通に家が出てきてびっくりしてるんだけど!?」

 

「まぁまぁ、モンモランシー。ギルといるとその辺は気にしないようにしないといけないよ」

 

「いやすまないな。貴族のみんなにはちょっと雑魚寝とかいろいろ気になるところあると思うけど……まぁ、一日だけだし我慢してくれよな」

 

 その日の夜は、どうしても俺とは離れて寝ないというルイズに苦労したものの、他のみんなからは苦情は来なかった。

 

・・・

 

 翌日。俺たちは報告のため、精霊を再び呼び出していた。

 

「混ざりし者か。どうした」

 

「報告に来たんだよ。もう襲撃はなくなったから、次の約束を果たしに行くよ」

 

「そうか。律儀なものだな、混ざりし者は。先ほどは呆れもしたが……だからこそ、お前は単なる者とは違うのかもしれぬな」

 

 そう言って、精霊はこちらとの話が終わったと判断したのか、元の水へと戻ろうとする。モンモンの姿を象っていた水が、崩れ始める。

 

「まって」

 

 その水の精霊に、タバサが待ったをかける。水は再びモンモンの形になり、タバサへと向き直す。

 

「どうした、単なる者よ」

 

「あなたはよく『誓約の精霊』と呼ばれる。なぜ?」

 

「ふむ……お前たちと我らでは、存在の根底が違う。故に完全には理解できぬが……察するに、我が存在そのものが答えなのだと思う。我に決まった形はない。だが、我という存在は不変として存在している。……変わらない我らに、お前たちは変わらぬ何かを誓いたくなるのだろう」

 

 なるほど。確かに水の精霊はその在り方としては俺たちと比べて無限にも思えるほどの不変のものだ。『永遠』は人類が求めるテーマの一つだからな。最大の変化である『死』から逃れるために、人類は科学力を高めてきたと言っても過言ではない。

 俺がそんなことを考えていると、タバサが跪いて水の精霊に祈りをささげ始めた。……彼女にも、何か誓いたいことがあるのだな。いつも物静かで顔にもあまり出さないが、彼女も抱えてそうだものなぁ。

 そんなタバサの後ろでは、モンモンがギーシュに愛の誓いを強制させていたり、ルイズも俺に愛の誓いをしてほしいなんて言ってきたが……。

 

「んー、それはまた二人っきりの時にしようか。その方が雰囲気あるだろ?」

 

「……それ、いいかも。そうね、今度二人きりでここに来ましょう!」

 

 そういって目をキラキラとさせるルイズに、キュルケが苦笑しているのが見える。誤魔化しているのがわかったのだろう。黙っててくれるのはありがたい。

 

・・・

 

 水の精霊の一件が解決して、学院へと帰ってきたあと。アウストリの広場のベンチにてルイズに『ラグドリアン湖に二人っきりで行くために必要』とだまして、エリクサーを飲んでもらった。効果はてきめんで、一度しゃっくりのような声を上げた後、プルプル震え出した。惚れ薬でおかしくなっていた間の記憶は残っているらしいので、たぶんそれで恥ずかしさを感じているのだろう。

 

「ぎ、ぎぎぎぎギルぅ……?」

 

「壊れたブリキ人形のようだ、とはこのことだな。まずは落ち着けマスター。薬を飲んだことはお互いの不注意だし、そのあとの行動については薬の所為だ。つまり、誰も悪くない。……その振り上げたこぶしを下すんだ、マスター。話せばわかる」

 

「う、う、うるさーい! あんたを殺して私も死ぬぅ!」

 

「それはやめた方が良いぞマスター!」

 

 ぶんぶんと振り下ろされる拳を受け止めながら、ばたつくマスターをなんとか抑えようとする。ほぼ抱き寄せたような格好になるが、暴れるマスターに引っ張られるようにして、倒れこんでしまった。

 

「あ、う……」

 

「っと、悪い」

 

 手を押さえながら倒れてしまったので、マスターを押し倒したような格好になってしまった。すぐに謝ってよけようとしたが、それよりも先に耳まで真っ赤にしたマスターがきゅう、と気絶してしまった。まぁこれでしばらくは静かだな、とため息をついてマスターの上から避けて、地面の上に横たわっているマスターをベンチに座らせる。

 そこで視線がベンチの裏に言ったのだが、そこからは赤い髪の毛がひょこりと見えた。

 

「……キュルケ?」

 

「あ、あははー。ばれちゃった?」

 

「あまりいい趣味とは言えないな、タバサまで」

 

「……私は被害者」

 

「なによぅ。ダーリンだったらこのじゃじゃ馬もなんとかできるかなー、おとぎ話みたいな痴話げんか見れるかなーって期待してたのにぃ」

 

「これでもマスターとはそれなりの付き合いだからな。そうならないように努力するさ」

 

「ふーん、詰まんないの。ね、ダーリン? ルイズが寝ちゃったんなら、次は私と……イイコト、する?」

 

 そういって、キュルケは自分の制服の胸元を広げる。……褐色っ子も俺はイケるのだ。色白も褐色も何だったら青色もいける。角とか尻尾とか機械とか宇宙人とか、むしろできない属性を探す方が難しいほどだ。

 だが、いまだ気絶しているマスターとそこで興味なさそうに見上げてきているタバサの前でやらかすのは憚られるので、なんとかこらえる。

 

「それはまた二人っきりの時にお願いするよ。今はとりあえず、マスターを部屋に戻さないと」

 

 そういって、マスターを横向きに抱える。お姫様抱っこという奴だ。

 キュルケはそんな俺を見て、ため息をつきながら口を開く。

 

「あーあ、ダーリンも女の子の扱い上手そうだし、しばらくお預けになるかしら。でもダーリンみたいな色男めったに居ないし、諦めないから……って、ああ!」

 

「うん?」

 

「今、色男っていって思い出したんだけど……ウェールズ皇太子いたじゃない」

 

「ああ、アルビオンの皇太子な」

 

 彼の最後は、俺の責任だ。俺がきちんとワルドとカルナを止められていれば、彼の命は助けられた。

 

「そうそう。プリンス・オブ・ウェールズよ。私がタバサと一緒にラグドリアン湖に向かうとき、すれ違ったのよ。敗戦で亡くなったって聞いてたけど、生きてたのねぇ」

 

「……なに?」

 

 それはあり得ない。劣化したとはいえ、俺の眼で見ても、彼の命は失われていた。蘇生はどんな宝具でも不可能なほどに。

 いや、まて。俺は最近、それを可能にする宝具……いや、こちらの世界のマジックアイテムを聞いたじゃないか。偽りの命を吹き込み、死者を操る指輪。『アンドバリ』の指輪。

 

「……そうだとしたら、行先は……トリスタニアに向かっていなかったか?」

 

「そうね、私たちとすれ違ったから……その方向で間違いないわ」

 

 それならば、すぐに向かわなければ! 今からなら、一日程度だ。こちらの世界の馬の速度を考えれば、まだ……!

 宝物庫からヴィマーナを取り出そうとすると、学院の近くに魔力反応。少し弱弱しく感じるそれが、俺の目の前で実体化して……。

 

「あ、ああ、王さま、ごめんなさい。……お姫様、守れなかったわ……」

 

 いつもの帽子も被らず、美しいツインテールが片方ほどけ、血まみれになったマリーが、弱弱しく俺に倒れこんできた。

 

・・・




「惚れ薬! そういう手が……」「……どうしたんだよ、セイバー」「……んにゃ、なんでもないとも。それよりも、お酒飲まないかい?」「うん? 急になんだよ。まぁ、いただくけど」「……はい、どーぞ」「ありがとう。それじゃセイバーも」「おっとっと。ありがとね。……じゃ、乾杯」「かんぱーい」「……」「ちょっと待ったー!」「うおっ!? ジャンヌ? どうしたんだ、って、ああ、こぼれちゃったじゃないか」「飲んじゃダメです! それ、『女王殺し』ですよ!」「なんだと!? あれは俺の宝物庫の奥深くに封印したはずじゃ……自動人形か!」「セイバーさんが自動人形さんと取引して手に入れたらしいです! まったくもう、ギルさんを酔わせてなんとかしようなんて、この私の目の黒いうちは許しませんよ!」「……チッ」「っていうか、普通に自動人形俺のこと裏切るんだけど……怖い……」


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