ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
アンリエッタは、ウェディングドレスのまま玉座に座り、目の前でドタバタと走り回ったり、喧々囂々と呼ぶにふさわしい貴族たちの様子を見ていた。
それから、自身の指にはめた風のルビーへ視線を向ける。想うのは、元々の持ち主であった皇太子が残した言葉。『勇敢に戦い、死んでいった』というならば――。
「失礼します! 現在の状況! タルブの村、炎上中! いまだ敵の勢い衰えず!」
――その言葉に、はっとする。
そうだ。あの方が勇敢に戦い、死んでいったというのなら、わたくしは勇敢に戦い、そして……。
「――生きなければ」
ぎゅ、と風のルビーを付けた手を握る。覚悟は決まった。立ち上がり、貴族たちを見回す。急に立ち上がったわたくしを見て、シンと静まり返る。
「あなたたちは、恥ずかしくないのですか」
貴族たちが、首をかしげる。「急に何を」という顔だ。
「国土が、民が、攻められているのです。侵されているのですよ。ここで何かを言うより先に、やることがあるでしょう」
「ですが、条約を結んでいたのですよ。……きっと何かの事故だったのでは」
「事故などではありません! 明確な企図があり、すべてを行っていたのでしょう」
そうでなければ、こんなに早くことは進んでいない。
「し、しかし……」
「このようなことを言い合っている間にもっ!」
だん、とテーブルを強くたたく。思わず感情が高ぶってしまったが、そのまま続ける。
「民の血は流されているのです。彼らを守るのが、我ら貴族、王族の義務なのではありませんか? 危急の際に民を守るからこそ、我々はその上に君臨することができるのではないのですか?」
だが、その言葉を聞いても顔を逸らす者たちがほとんどだ。
「……ええ、そうでしょう。怖いのでしょう? 反撃したとして、かの大国には勝ち目は薄い。敗戦後に責任を取らされるようなことは言いたくないと。……ええ、わかりました」
すう、と息を吸って、一息で言い切る。
「私が率います。あなた方はここで満足するまで話し合うとよいですわ」
そういって、部屋を飛び出す。駆けていると、不思議と体の魔力が昂るような、不思議な感覚。覚悟を決めたわたくしに、身体の魔力も答えてくれているのかもしれない。後ろから何か言いながら追いかけてくるマザリーニと、ドレスの裾がうっとおしくて、ひざ上までドレスの裾を引きちぎり、後ろを追いかけてくるマザリーニ目がけ投げる。
「結婚結婚うるさいですわ! あなたが結婚なさればよろしいのよ!」
そう叫ぶと、魔力の高ぶりが一層高くなり……。
――そう! あなたはとても面白いお姫様なのね!
「――えっ?」
思わず立ち止まる。幻聴……?
周りを見回しても、誰もいない。
「……?」
再び駆け出して、宮廷の中庭へ。近衛に自身の馬車を持ってくるように伝える。
聖獣ユニコーンがつながれた馬車から、馬だけを外し、跨る。
「これより全軍の指揮を執ります! 各連隊を集めなさい!」
そういって、ユニコーンの腹を蹴る。陽光に角をきらめかせながら、嘶いて走り出すユニコーン。
「ひっ、姫殿下に続けー!」
「殿下を一人で行かせたとなっては、末代までの恥だぞ!」
後ろが再び騒がしくなったのをあえて無視して、聖獣を走らせる。
――あなたもきらめく馬に乗るのね! 私と同じ! だから呼ばれたのかしら?
「……まただ」
頭の中に響く、綺麗な声。頭を振るっても、魔力の高ぶりと同調するように、声はどんどんはっきりと聞こえてくる。
「……なんなのでしょう、これは」
――気になるのね? そうよね! 私はあの王様のつながりから勝手に降りようとしてるだけの英霊よ!
「えい、れい?」
――ええ! だってあなたと私ったら、『姫』で『騎乗』してるんですもの! それに、あの王様の知り合い! なら、つながりは十分よ!
「つながりって何ですか? あなたは、誰なのですっ!」
頭の中に流れる声に、ユニコーンを駆りながら怒鳴るように問う。その声は、楽しそうにわたくしの言葉に答えた。
――『ライダー』。あなたを助けようと思って王様の処から来た、ただのサーヴァント。
「『ライダー』。それが、あなたの名……?」
――本当の名前ではないのだけれどね! あなたが『姫殿下』と呼ばれるようなものよ!
「なるほど、役職名のようなものなのね……」
――ええ、その通り! 私、あなたのお手伝いがしたいの! よければ、私を呼んで!
「呼ぶ……っ!」
手の甲に、痛みが走る。慌ててグローブを脱ぐと、手の甲に妙な文様が。
「これは……?」
その文様が現れてから、なにやらどこかへ繋がったかのような、不思議な感覚がする。
「ルイズの手にあった、あの『使い魔のルーン』のような……」
――その通り! さあ、呼んで! 私はあなたの隣を走るもの。あなたと共に駆ける者!
「……来てくださいっ。ライダー!」
「――ええ! その言葉を待っていたわ!」
黄金の粒子がユニコーンに乗って駆けるわたくしの横に集まり、ガラスの馬と、その馬になぜか横を向いて乗っている大きな帽子をかぶった少女が現れた。……この人が。
「ライダー……?」
「ええ、そうよ! ライダー、マリー・アントワネット! あなたの力になりたくて、押しかけちゃった!」
……それが、後にわたくしどころかトリステイン、更には世界の命運までかけた戦いを共にする、戦友との出会いだった。
・・・
そろそろマスターも起きてくるかな、なんて思いながら窓の外から上ってきた朝日を眺めていると、どったんばったん馬で駆け込んできた急使が見えた。……学院長の処に行ってみるか、と霊体化して高速移動する。
「おはよう、学院長」
「んん!? な、なんじゃおぬしか。驚かせるでない」
学院長室に行くと、すでに学院長のオスマンはいつも通りの様子で水タバコをふかしていた。……なぜこの早朝にここにいるんだろうか。急使が来て慌ててこちらに来るだろうと思って先回りしたつもりだったんだが……。
「こんな朝早くに何やってるんだ?」
「それはこちらのセリフじゃよ。こんな朝早くに……しかもワシの部屋だし」
「いや、さっき早馬っぽいのを見かけてな。何か緊急の事件かと思って聞きに来たんだ」
「なんじゃ、見られておったのか……。まぁ、お主なら言ってもよいか。……おそらく、戦争開始の報告じゃよ」
「戦争? なんでまた」
「ほっほっほ、空飛ぶ国土だけでは足りんかったということじゃな」
ひげを撫でつけながら、オスマンは笑う。……いや、笑い事じゃない気がするんだが。
俺がこいつやばいんじゃないかと思っていると、扉が叩かれる。
「失礼します! 至急の伝令を持ってまいりました!」
「うむ、すまないの」
そういって、オスマンは伝令から手紙を受け取っていた。
「……やはりの」
「見ても大丈夫か?」
「む? うむ、読むと良い」
そういって、手紙を渡してくれた。中身を呼読んでみると、先ほど言っていた通り、新生アルビオン王国が攻めてきたという内容であった。
「……タルブ村に侵攻? ……シエスタが!」
「む、お主の専属になったというメイドか。……そうか、故郷がタルブ村だったか」
「……いや、まだだ。まだ村人たちがどうなったかはわからないだろう。……助けに行く」
「アルビオンの艦隊は強大じゃぞ。お主が伝説の使い魔であっても……」
「大丈夫。……それに、俺が行かないといけない相手もいるしな」
アルビオンが来るのなら、あの二人も来るだろう。ワルドと、カルナだ。あの宝具を放ったと言え、そもそもカルナはインド神話でも最強格。そもそもの戦闘力が高すぎるのだ。そんなのがもし戦場にでも立つならば、トリステインだけではない。世界の危機である。マスターに危険が及ぶ可能性があるのなら……。
「というわけで、ちょっと行ってくる。……マスターは置いていくとするよ。結婚式に参加する準備はさせておくけど、無期限延期って書いてあるしなぁ」
「……考えは変えぬようじゃの。仕方がない。話は通しておいてやるわい」
そういって、オスマンは自分のひげを撫でながら苦笑する。
「いや、すまないな。あんまりわがままは言いたくなかったんだが」
「なに、お主は色々とこの学院のために動いてくれたし、王女からの密命もこなしてくれた。それを思えば、この程度我儘にもならんて」
そういって、オスマンはなにやら机をごそごそと漁りはじめ、水タバコを取り出した。そのまますぱー、と何事もなかったかのように吸い始めたので、俺はそのまま退室することに。
「良し、まずはヴィマーナで……」
「主さま」
「うぉ、ビックリした……アサシンか。どうした?」
背後に現れたのは顔を俯かせたアサシン。手には小刀を持っているので、その姿はどう見ても思い詰めて誰かを刺そうとしている女の子である。やめてほしい。状況的に前世や前前世、何だったらないはずの前前前世までの記憶を思い出してしまいそうになる。うぅ、昔刺された腹と背中と肩と足と腕が痛む気がする……。っていうかアサシンのこの小刀は宝具的に流石の俺も生き残れない。俺の対女性スキルでも抑えられない神秘強度なのだ。……いや、男の娘も俺の対女性スキルに反応するんだよ。何故か。それでも尚対処できないのだ。
「……ボクも、いくよ」
「あー、そうだな、因縁の相手だもんな」
「うん。……僕と、主とで、一緒に倒そう?」
刃物を手に可愛らしく小首をかしげる姿を見ると、どうも死ぬほど愛して眠らせてくれない妹を髣髴としてしまう。
「これで二対二になるな……けど、ちょっとだけ嫌な予感もしてるんだよなぁ」
「……主の召喚したサーヴァント全員で行きますか?」
「それだとマスターも連れてかないといけなくなるじゃないか。……取り合えず部屋に行ってセイバーたちと相談するか」
頷いたアサシンと共に霊体化して、俺はマスターの部屋へと戻った。
・・・
「おや、おかえり。朝も早くから大変だね。……はい、お茶。いやー、この黄金侍女たちは優秀だねー。なんてったって君の宝物庫から物を持ってこれるんだから」
床に座布団を敷き、その上で正座しながら湯のみで緑茶を飲むセイバー……謙信が、俺とアサシンの分のお茶を淹れてくれる。何故かイスとテーブルが部屋の隅へ追いやられて、座布団とちゃぶ台が用意されていたので、俺たちも座布団の上へ座ることへ。胡坐をかいて湯呑を持つと、熱めの緑茶を一口。
「……で、その顔は何かある顔だね? あとの三人は呼ぶかい?」
「呼ばれずともおりますともっ。ギル様っ、座布団の代わりに壱与を下敷きにどうでしょう!」
「いつも通りキモイわねあんた。……ほら、芋っ子も連れてきたわよ」
「壱与さん、大マスターが寝てらっしゃるんですから、お静かに、ですよっ」
謙信の言葉に、異なる三つの声が応える。壱与は俺の足元にヘッドスライディングをかまし、卑弥呼はそんな壱与をごみでも見るかのような目で見下しながらジャンヌの背中を押して連れてきて、そのジャンヌは小声で壱与に注意をするという数秒の出来事なのに妙にカオスな状況を作り出していた。
とりあえず全員揃ったことだし、と話をする。帰省しているシエスタの故郷、タルブ村が戦火に包まれていること、おそらくワルドやカルナもそこにいるだろうということ。俺とアサシン……小碓命は、今度こそ決着をつけるため、タルブ村へ向かうこと。すべて伝えた。
「ん、なら私も君と共に行く。この身は君の刃だからね」
「もちろん壱与もご一緒します! ギル様がおわしますところ、壱与もあり! ですからっ」
「わらわは後方支援だし待機……なんて、言うわけないじゃない。わらわも連れていきなさいよ。役に立つわよ」
「友達が困ってるんです! 放っておけませんっ」
迷うことなく、四人は自身の武器を持った。……予想していなかったわけじゃない。だが、それでも全員がこうも即決してくれるのは……なんというか、うれしいものである。個人的なリベンジに巻き込むことを謝ろうかとも思ったが、それは逆に失礼だろう。
「マスターの下には侍女たちを付けて、って言っても気付いたらついてきそうだよな、マスターは」
「あー、確かに殿はついてきそう」
「大主、のけ者にされたら不機嫌になるでしょうしねぇ」
「あれ? 大マスター、連れてかないんですか?」
「桃っ子にどれだけの侍女が爆破されるかしらね。帰ってきたら腕の何本かもげてたりして」
「悪いことは言いません、ギル様。あのマル爆、連れてった方が良いかと。お手元に置いておいた方が、守りやすいでしょう?」
マスターを置いていく話をしたら、全員から反論を喰らった。……いや、確かにそうだけどさぁ……。
「……それに、もう起きてそこでこっそり聞いてるよ、あの子」
「わ、わわっ、わわわっ!?」
謙信がマスターのベッドのある方向を向くと、拡張した部屋に新たに作った仕切りの向こう側から、慌てた様子のマスターが転がり出てきた。背後に手を伸ばしたままの自動人形がいるから、たぶん背中を押されたのだろう。空気を読む侍女である。
俺に気づくと、伸ばしたままマスターの背中を押すために広げていた手をサムズアップに変えて、こちらに向けてきた。……いやいや、「どうよ」じゃないよ。後で撫でてあげるけども。
「あいたた……」
前につんのめって転んでしまったマスターが、鼻頭を赤くしながら立ち上がる。サーヴァントたち全員の視線が向いていることに気づくと、うっ、と後ずさる。
「な、なによぅ……」
「いや、なんでもないとも。殿もついて来るでしょ?」
セイバーの言葉に、マスターもようやく我を取り戻したのか、いつものように腕を組んで仁王立ちして、ふん、と鼻を鳴らす。
「当たり前でしょ! ワルドは皇太子の仇! つまりは姫様の仇でもあり、私の仇でもあるのよ!」
「りょーかい。じゃ、さっそく行こうか」
自動人形の一人にオスマン宛の手紙を持って行ってもらう。内容としては、マスター以下サーヴァント全員でタルブ村まで向かうという内容だ。要するにその辺の調整よろしくぅ! という丸投げの手紙である。……まぁ、王とかに限らず長の仕事ってそういう調整が主だからね。その辺は理解してもらうしかないね。仕方ないね。
「今回は人数も人数だし、こっちのちょっと大きいので行こうか。『
この女子の寮上空に、光学迷彩の状態の『ヴィマーナ』が宝物庫から出てくる。速度はいつも使っている奴ほどでないし武装もないが、結構頑丈だ。宝具化したフレア・ディスペンサーが直撃しても大丈夫である。……そもそも速度でないから宝具化した戦闘機と戦ったらまず負けるけど。
大きさ的に窓のすぐ外に出すことはできなかったので、『ヴィマーナ』から飛んできた円盤があけ放った窓の近くに寄ってくる。これに乗れば、寮の真上で滞空している『ヴィマーナ』まで運んでくれるのだ。すっごいSF。インド神話こんなの何機もあったとか怖すぎ。
全員がおっかなびっくり乗り込んだのを確認して、発進させる。流石に思考と同じ速さ、機動はできないものの、それでもこの世界の飛行船や俺の世界にあった飛行機よりは早い。
「じゃあ、行く間にそれぞれの役割をすり合わせておこうか」
そういうと、全員の視線がこちらを向く。周囲の警戒しているのを除いた自動人形も、真剣な面持ちで(いつも通りの無表情だけどたぶん真剣に)こちらを見ている。
まずは、展開しているであろうトリステインの軍を援護しなければならないだろう。それができるのは……。
「卑弥呼、壱与を連れてトリステインの軍へ向かってもらっていいか? できればそこにマスターも行ってもらえれば助かるんだが……」
「……待ってくださいギル様。たぶん壱与と卑弥呼さまだけで大丈夫ですね」
鏡を見ていた壱与が、そういってこちらを見る。卑弥呼や壱与だけでは向こうに信用されないかなと思ってこっちの世界の貴族であるマスターに行ってもらおうとしたんだけど……。ま、未来が見える壱与のことだ。何かしら見えたのだろう。
「それに、あんたの近くにいた方が良いと思うのよね。あんたのマスターなんだし」
「……どうだ、マスター。どっちがいい?」
「あんたの行く方に……たぶん、ワルドが来るのよね」
「多分な」
「なら、あんたについてくわ。……ちゃんと守りなさいよ!」
腕を組んでこちらを見上げるマスターに、微笑ましいものを感じつつ頷く。さて、これでトリステイン軍への砲撃はある程度対処できるだろう。守ることが得意な英霊じゃないから、完璧にはできないだろうが……。
「俺とアサシンとマスターでカルナとワルドを探しに出るよ。セイバー、ジャンヌと一緒にこの船を任せて良いか? 二手に分かれるから、どちらか危なくなったりしたら遊撃隊として対処してくれ」
「ん、了解」
「お任せください!」
よし、これでいけるな。そろそろ戦場だ。ランクは落ちてしまったが千里眼持ちなので、戦場はここからでも見える。すでにトリステイン軍とアルビオン軍は展開を終えており……って、アレ先頭にいるのアンリエッタ姫か……? む? 隣にいるの……。
「あ、ギル様も見えました?」
「壱与……お前、これ見えてたのか?」
「ええ、まあ。とっても癪ですが、あのおフランス一号ならこちらに合わせてくれるでしょうし。……癪ですけど!」
「あ、うん。なんか因縁ありそうな言い方だけど……」
まぁ、壱与は基本俺に近づく子に対して露骨に嫌悪感抱くしな。しゃーないしゃーない。その辺の調整は俺の役目だ。……マリーも仲良くしてくれるといいんだが……。
それから、卑弥呼と壱与はトリステイン軍上空に来た時点で飛び降りていった。風を操って落下位置の調整はできるから、心配はいらないだろう。最悪スーパーヒーロー着地できるしな、英霊は。
「よし、俺たちはあの一番でかい船の上空に突っ込んで、そっから飛び降りるぞ」
「了解です!」
「え、私も飛ぶの!?」
「大丈夫! マスターは俺が抱えるから!」
「ぜ、絶対放すんじゃないわよ!?」
顔を赤くしたり青くしたりするマスターを抱え、俺はアサシンと一緒に巨大な飛行船……『レキシントン』へと降り立つのだった。
・・・
「てっ……」
三人で甲板へと降り立った時、辺りは一瞬静まった。それから、一人の男が戦慄いて叫ぶ。
「敵襲ーッ!」
その声でハッと我に返ったアルビオン軍の兵士たちが一斉に武器を向けてくる。魔法を使えるのもいるらしい。たまに杖も見える。
「やられるものか!」
そういって、古代兵器のガトリングをぶっ放す。黄金のガトリングから放たれた魔力の弾丸は船の壁ごと兵士たちを薙ぎ払っていく。
「ひゃあああっ!?」
「頭下げてろ舌噛むぞ!」
「主っ、下っ!」
アサシンの注意と同時にお互いその場から離れる。俺の左腕はマスターをずっと抱えているので、少しの隙が命取りになるのだ。一応自動防御宝具をマスターに使ってるのだが、サーヴァントがいるかもしれないこの状況では、俺が責任をもって守らねばならないのだ。
甲板を突き抜けて出てきたのは、太陽のごとき男。
「……来たか、黄金のサーヴァントよ」
「ああ。……リベンジマッチだ」
ただ、この状況なら……。
「アサシン、俺がフォローするから、カルナは任せた」
「了解です。……絶対、殺す!」
宝物庫を展開。周りの兵士へと宝具を射撃。その瞬間に、アサシンが駆け出していく。
カルナと戦うなら、短期決戦しかない。長く戦えばその分戦闘能力の差で負ける。宝物庫の力で負ける気はないが、地力はカルナの方が上だ。
「ほう」
振るわれたアサシンの小刀を何でもないように紙一重で躱すカルナ。そこへ、俺の支援射撃。それも同じように躱されてしまうが、そこからはアサシンがその敏捷を活かして息もつかせぬ連続攻撃で攻め立てていく。
「なるほど、この小さいものに秘策があるのだな?」
数合のやり取りでこちらの狙いに気づいたらしいカルナが、俺を見て笑う。
「……だが、こちらにも秘策はあるのだと知れ。我が槍は使えぬが、それに代わるこの世界への楔だ」
「っ! ギルっ、横っ!」
マスターの言葉と共に高まる魔力反応。いや、まて、これは……!
「『
真横から飛んでくる碇。そして横付けされる船。あちらの世界では海を行くことしかできない船が、碇を楔とすることで強制的に空を征く。
「うっそだろオイ」
ここにきて、新手かよ!
船から跳びかかってきた男が、カトラスを振り回して切りかかってくる。
「新しい大陸どころか新しい世界とは、夢が広がるじゃあねぇか!」
「ここまでわかりやすい英霊もなかなかいないな……片手で悪いが相手しよう」
「はっ、油断してくれる分にゃあ大歓迎だぜぇ?」
カトラスにフリントロック式のライフルを構える偉丈夫。船自体の装備はあまりないが、それでも宝具化した船だ。普通の船とは神秘の濃さが違う。
「魔法が使える奴、そいつに従うだけの魔法が使えないやつ! さらにここにゃあ人間じゃねえのもいるらしいじゃねえか!
そういって、歯茎をむき出しにして笑う男。……おそらく、クラスはライダー。発言からすると、真名は……。
「コロンブス……!」
「俺を知ってんのか! 俺はお前のこと知らねえけどな!」
あいさつ代わりに一発の銃弾。危なげなく防ぐが、アサシンが抑えきれないカルナからの攻撃も飛んでくるため、気が抜けない状況だ。更に、上空も竜騎兵で押さえられており、その中には……。
「ワルド……! あいつもいるのか!」
甲板上の俺を狙い、急降下して攻撃し、再び離脱していくワルド。こちらの宝物庫の斉射もワルドの駆る竜の動きで躱され、他の竜騎兵は落ちていくものの、ワルドだけはしぶとく残っていた。
「これは、セイバーを呼ぶ案件か……?」
上空で待機しているであろう盾役二人。こちらの手札を知らせるようでなかなか切れない手札だったが、事ここに至ってはそんなことも言えないだろう。念話をつなぎ、セイバーを呼ぶ。
……なに? ジャンヌはもう卑弥呼達の方に行った? 向こうで何かあったのか……? だが、それを確認している暇も余裕もない。カトラスの連撃を防いでからのカルナの謎のビームを避けて念話をつなぐので精いっぱいだ。ちっくしょ、宝具が有り余ってても、こうなったらスキルもないとダメだな。せめて魔力放出がC以上あれば……。まぁ、ないものねだりをしていても仕方がない。
念話をつないでから少しの間、防御に専念する。アサシンも攻めあぐねているようだ。
「こんのぉ……!」
「ふむ、攻め手を変えたか? 流れが変わったな」
カルナが、アサシンの小刀を受け流しながら独り言のように言う。そして、そこへついに。
「――さぁ、この流れに乗るとしよう」
「む……っ!」
上空から、セイバーが降り立った。
・・・
「俺が載るヴィマーナには種類があってな」「へー」「近未来的なフォルムがカッコいい『
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