ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「一度生を終えたものが、再び集う……聖杯戦争以外でそんなことが起こるなら、きっとそれは人類の……人類史の危機だけでしょうね」「そういうこと言うのやめてくれ。お前が言うとシャレにならなさそうだ」「あ、こういうの思いついたんですけどどうでしょう。隊長の召喚権を使用する権利を売るんです。えーと、値段的には……この虹色でとげとげした綺麗な石四つ……いや三つで!」「なにその石。え、欠片もあるの? ……粒もあるの!?」「なんか聖なる感じがしますねえ、この石。……やってみます? 召喚ガチャ」「言わないようにしてたのに言っちゃったよこの子」「あ、サーヴァントしか出てこないので、ある程度良心的ですよ! ……出てきたのが隊長以外に従うかはわからないですけど。令呪なしで頑張れ!」「あ、そこはサービスされないんだ」「はい! 『召喚する権利』を売るだけなので!」「……壱与とかヤバそう」


それでは、どうぞ。


第二十四話 去りにし者たち、再び集う

「菅野直? それがもう一人の異邦人というわけですか」

 

 謙信がそうつぶやくと、マスターが「ナオシ? 変な名前」といつも通り不機嫌そうにつぶやいた。

 

「で、手紙と一緒に残されてたこれだけど……」

 

 箱よりも二回りほど小さい長方形の物体を取り出して、いろんな角度から見てみる。……だけど、材質が石であることと、うっすらと魔力を纏っていることくらいしかわからなかった。文字が彫ってあるようなこともないし、手紙にもこれのことは書いてなかった。

 

「……なんなんだ、これ」

 

「ちょっと見せてみなさいよ」

 

 そういって、マスターが俺の手からその物体を奪い取る。

 同じように手元で見ていたマスターは、険しい顔をして首をかしげる。

 

「んー? ……これ、なんか見たことあるような」

 

「本当か!? 流石マスター!」

 

 しばらくそのまま目をつぶり考え込んだ様子だったが、はっとした顔をして、墓石へと向かった。

 

「この窪みよ! なんか大きさ的にピッタリよねと思ってたの!」

 

「えー? ちょっと小娘。そんな暗殺者の信条みたいなからくりが……」

 

 そういって小馬鹿にするように笑う壱与をよそに、マスターが墓石の裏側、謙信が発見した大きな窪みにその手の物体をはめ込んだ。

 

「……ピッタリじゃない」

 

 奥まではめ込むと、薄くその物体が光り、がこん、と墓石から音がした。

 

「完全に何かの仕掛けが解除された音よね、これ」

 

「壱与ちゃん、そろそろ謝る準備しといた方がいいんじゃない?」

 

「えっ、これ壱与謝らないといけない案件ですか? え、マジ?」

 

 それから、マスターは取っ手のような窪みに手を掛けて、上にあげようとする。

 

「ん、んぅー!」

 

「重いだろマスター。俺が変わるよ」

 

 マスターと変わった俺が取っ手を持ち上げると、簡単に持ち上がった。

 

「……これは……地図だな」

 

「ここまでやってようやく地図ぅ? 遠回りが好きな人だったのねぇ、あんたのひいおじいちゃん」

 

 いや、しかし魔力を感知できて、なぞ解きをしないと分からないような仕掛けを作るなんて、相当凝っている仕掛けだなぁ。いやまぁ、隠してるものの価値的に仕方のないことなんだけれども。

 

「……よし、これを見るに……あっちだな」

 

「お宝の確認にいきましょうか、ダーリンっ」

 

「ちょっ、本当に油断も隙も無いわねあんたはっ!」

 

 そういって俺の腕をとるキュルケとそれを阻止しようとピョンピョン跳ねるマスターといういつもの光景に笑みを浮かべながら、俺たちは地図に示された場所へと向かった。

 

・・・

 

「これが……」

 

 俺たちの目の前にあるのは、森の中にある大きな洞窟。その中に鎮座する、擬装の施された紫電改の姿であった。こちらにも固定化が掛けて有るらしく、草や蔦に覆われながらも、機体自体には劣化は見られなかった。……ただ、何か着弾したのか、側部に穴が開いていた。……これでは、飛行は難しいだろう。……だが、一緒に持っていくべきだ。

 宝物庫に『紫電改』を収納し、再び『竜の羽衣』の所へ戻る。『竜の羽衣』も宝物庫へと収納し、再びシエスタの実家へと戻る。

 道中、マスターから話しかけられる。

 

「そういえば、これ持って帰ってどうするの? ……あんたが知ってるってことは飛ぶこと自体は疑わないけど……あの黄金の飛行船のほうがよくない?」

 

「ん? いや、そりゃそうだけど……俺が持っておいて、いつか、どこかで……返すよ、『陛下』に」

 

「ああ、そういえば手紙に書いてあったわね。……誰なの、その『陛下』って。知り合い?」

 

「知り合いじゃないよ。……遠い親戚とは知り合いだけど」

 

 そういって、俺たちの前を歩く小碓を見る。隣の謙信となにやら話しているようだが、二人とも前衛として警戒をしてくれているらしい。背後では、壱与と卑弥呼がさりげなくしんがりを務め、後方から何かないかを警戒してくれている。そして、俺の隣にはジャンヌ。……これはたぶん警戒とか関係なく隣にいるだけだ。現に、本を読みながら歩いているタバサに「何読んでるんですかー?」と絡んで鬱陶しがられているし。警戒の欠片もない様子だし、小碓や謙信、壱与に卑弥呼から感じる周囲を警戒する気配を感じない。感じるのはぽやーとした雰囲気だけだ。……たぶん何にも考えてないと思う。

 

「? アサシンがどうしたのよ。……え、親戚ってあいつ?」

 

「そうそう。小碓命から数えて……あれ、何代目だ……?」

 

 流石に家系図までは頭に入ってないからわからないけど……。気が遠くなるくらいには遠かったはずだ。

 

「まぁとにかく、当てはあるから安心してくれって。……何年かかるかはわからないけど」

 

 たとえ本人がいない時代に行ったとしても、『国』に返すことにしよう。

 

「そ? それならいいんだけど。……あっ、返せるからって、私の使い魔の仕事ほっぽりだしていくんじゃないわよ!?」

 

「大丈夫だって。マスターを置いてどこかに行ったりはしないさ。……安心してくれよ」

 

 そういって撫でると、マスターは少しだけ嬉しそうに目を細めた後、はっとしたように手を払った。

 こういう恥じらいのある所は大変かわいらしいので、これからも積極的にこういうことをしていこうと思う。

 

「しっ、心配なんてしてないわよっ。あんたが私の使い魔やるのは当たり前っ。当たり前のことなんだからねっ!」

 

「あら、そんな風に束縛してばかりじゃ、男は逃げてくわよー?」

 

「はぁー!? つ、使い魔に束縛とか、そんなっ、ばっかじゃな……っていうかなんであんたはギルの腕に抱き着いてんのよー!」

 

「はっはっは、許せマスター。マスターにはない感触を楽しんでいるだけだ」

 

「……は?」

 

「あらっ。ダーリンもやっぱり大きいほうがお好き? ……ほらほらー」

 

 俺の言葉に、キュルケも胸を押し当てるように腕を抱きしめた。この子も、俺と同じくマスターをからかうのが好きなようだ。

 

「……あ゛?」

 

 キュルケの言葉に、ちょっと女の子が出してはいけない低さの声を出したマスターは、す、と何かを取り出し……って、あ、やべ、マスターって爆発魔法がとく――。

 

「――死ね」

 

 周りのサーヴァントたちが、俺以外を連れて離れてくれたので、爆発の被害にあったのは俺だけに抑えられた……いやー、これからはマスターが魔法を使うほどキレないように気を付けてからかうとしよう。

 

・・・

 

「お手紙と言えば」

 

 帰路の途中、シエスタが黒こげの俺のすすを拭いながら話しかけてくる。

 

「先ほどいったん戻ったとき、学院から伝書フクロウが来てました。内容は、そろそろ学院に戻って来いっていうのと、私はそのまま休暇に入っていいっていうものでした」

 

「あれ、マスターたちも帰らないといけないのか」

 

「みたいですね。休暇前には毎回式典があるので」

 

「あー……貴族学校だもんなぁ」

 

 ならば、そろそろ帰る準備をしなければなるまい。

 

「……そういえば、あの二つの『竜の羽衣』は……本当に飛ぶんですか?」

 

 シエスタからの質問に、もちろん、とうなずく。

 

「君のひいおじいちゃんはうそつきなんかじゃなかったんだよ。……そうだな、今度それを証明するために、あのゼロ戦を飛ばしてみるとしよう」

 

 たぶん、宝物庫探せば石油くらいあるだろう。……なければ、ギーシュに錬金のレベルを上げてもらうだけだ。

 

「わぁ……」

 

「その時は、シエスタを乗せて一緒にタルブ村の上を飛ぼうか」

 

「本当ですかっ!? 約束ですよ、ギルさんっ!」

 

 キラキラとした目で俺を見上げるシエスタに、もちろんだ、と約束を交わす。

 さて、シエスタをタルブ村まで送った後は、ヴィマーナで帰るとするか。今回の冒険は、なかなか得るものの多い旅路だったな。流石は幸運高い俺だな、なんて自画自賛してみる。

 

・・・

 

 シエスタ以外の人員を乗せ、学院まで帰ってきた。

 帰り道でギーシュに話は通してあるので、とりあえず中庭に二機とも出して、詳しく見せてみた。

 

「で、どうだ? この燃料タンクにあったのと同じ燃料を錬金してほしいんだけど」

 

 宝物庫を一応探してはいるが、最古を好む英雄王の蔵だからか、古いエネルギーしかない。いや、古いっていっても核融合炉とか貯蔵真エーテルとか太陽水晶とかエンジンに合わない古代エネルギーなだけなので、たぶんエンジニアの英霊とか呼んでエンジン改造してもらえればなんとかなると思うけど……それならば、たぶん錬金してもらった方が早いと思う。

 

「んーむ……なんというか、独特の匂いだねぇ。一応試してはみるけど……もしかしたら、僕よりもミス・シュヴルーズとかに聞いた方が良いかもしれないね」

 

「あー、あの土の先生か。トライアングルって言ってたもんな。……あれ、もしかして錬金難易度高い?」

 

「少なくともドットの僕では難しいかもしれないね」

 

「そうか……いや、でも挑戦はしてもらいたい。こっちはこっちで心当たりを巡ってみるよ。……あ、この素材って作れそう?」

 

 そういって、俺はもう一機……『紫電改』の損傷部分を指さす。

 

「これをふさぎたいんだけど……どうだ?」

 

「うん? あー、こっちならまだ可能性はあるかもしれないね。……ま、どっちみち時間を貰うけど」

 

 サンプルがほしいというギーシュに、紫電改の欠片、そして小瓶に詰めた少量のガソリンを渡す。

 

「さて、それじゃあシュヴルーズ先生に……」

 

 会いに行こうかな、と言おうとした瞬間。凄まじい足音と共に、人影が。

 

「む。誰だ? すごいスピード……うぉっ!?」

 

「きみぃっ! こっ、こここっ。これは何だね!?」

 

 凄まじい勢いで俺の肩を掴んだのは、火属性の魔法の教師……コルベール先生であった。

 

・・・

 

「ほう! ほほう! これが! 空を! なんと!」

 

 俺たちがこうして見ていた中庭の近くに、コルベール先生は住んでいるらしい。……なんでも、研究が趣味だというコルベール先生は、教職員が住むための居室から追い出され、こうしてここに一人居を構えているとのこと。……うん、異臭と騒音だとそりゃそうなるよな。その二つはご近所トラブルの最たるものだし。

 そんなコルベール先生は、いつも通り趣味の研究をしていたところ、俺とギーシュがこの二機の戦闘機を前になにやらやっているのを発見し、こうして駆けつけてきたらしい。

 

「この左右の翼で飛ぶのかね!? 羽ばたくようにはできていないようだが……どうやって飛ぶのだね!?」

 

「あー、いや、燃料がないとダメなんだ。ガソリンってやつなんだけど……」

 

 そういって、ギーシュに渡した小瓶の中身を確認してもらう。

 

「ふむ……油の一種かね? うぅむ、普通の油ではないようだが……これを預かっても?」

 

「僕よりはコルベール先生の方が錬金できる可能性は高いと思うよ。たまに授業でも油を使った玩具を作ってくるくらいだからね」

 

「ああ! 愉快なヘビ君のことだね!」

 

 愉快なヘビ君? と俺が首をかしげると、コルベール先生は研究室へと案内してくれた。ギーシュはさっそく作業に取り掛かる、と言って慌てて去っていってしまった。

 

「いやぁ、研究が趣味でこうしてずっと研究室に引きこもっていてね。臭いも凄いだろう? ま、そっちはじきになれる」

 

 「ご婦人は慣れることが無いようで、その所為でいまだに独身だ」と笑うコルベール先生は、そのまま一つの装置を取り出した。

 

「これが『愉快なヘビ君』だよ。ここに油を入れて、着火の魔法で火をつければ……」

 

 そういって杖で着火すれば、連続的に爆発する油が、ピストンの要領で装置を動かし――。

 

「ほら! この通りヘビ君がこんにちわ! というものなのだよ! 私はね、これを利用すれば、もっと大きな力を発揮して、魔法に頼らずとも重いものを運んだりできると思っておるのだよ!」

 

 それは、間違いなくエンジンの原型。……凄いなこの先生。魔法至上主義とでもいうべきこの世界で、科学者として……発明家として、彼はたどり着いたのだ。

 

「……コルベール先生。あなたは素晴らしい。……この飛行機を飛ばす計画に、ぜひ参加してもらいたい!」

 

 がっしと彼の手を掴んで、俺はそういった。

 彼ほど熱意のある人ならば、きっとやり遂げてくれるだろう。

 ギーシュと同じように紫電改の破片と、ガソリンの小瓶を渡して、錬金をお願いした。あ、俺も魔術書使ったらできるかなー。……でも霊基をキャスターに寄せないといけないから、今は難しいかもなー。

 ま、お願いできることはお願いしていこう。俺にできないことも、誰かはできるわけだしな。

 

「おお! ならば私はこれの錬金にいそしむとしよう!」

 

「量が結構必要なんだ。錬金できたなら……樽が六つほど。……だから、もし錬金できたならギーシュも手伝わせてくれ」

 

 あとで、ギーシュにも言っておくとしよう。

 さて、次は――。

 

・・・

 

 こちらに来てから、それなりの日数が経っていた。トリステインやゲルマニア、俺が今世話になっているアルビオン……いや、新生アルビオンと言うんだったか。聖杯からはなぜかあまり知識も来ず、マスターであるワルドからこちらの情勢を聞いて、なんとかこちらの常識を学んだ。

 ワルドは結果として悪人であるし、あの教会で戦ったサーヴァントのマスターにも、悪いことをした。……しかし、これでも俺のマスター。俺の霊基が消滅するまで、マスターの力になってやらねばなるまい。……根っからの悪人ではないと思えるような、話も聞いてしまったしな。

 

「おい。俺はこのまま竜で出る。お前はどうするんだ?」

 

「む、その後ろに乗って守れというなら乗るが」

 

「……いや、お前はあの男……ルイズの使い魔が来た時のために待機していろ。……この船の人間には話を通してある。ある程度自由に過ごしても構わん」

 

「お前がそういうならそうすることにしよう」

 

 またあの黄金のサーヴァントと戦うことになるなら……その時は、全力で戦うとしよう。

 

「まぁ、この不意打ちならほぼ危険はないだろうが……気をつけろよ、マスター。卑怯者でも、死なれると困る」

 

「お前……一言多いんだからあまりしゃべるなと言っただろう」

 

 む、そうだったな。自分では言葉が少なくて誤解される方だと思っていたのだが……。俺はどちらかと言うと一言余計であるらしい。

 

「しかし……トリステインを責めるなら、必ずあの黄金の使い魔はやってくるだろう。俺の片腕を奪った、あの憎き使い魔が……!」

 

 そういって、ワルドは手にした杖を強く握りしめた。ぎりぎりと音がなっているが、折れたりはしないのだろうか。そこは心配するところではないか。

 

「……憎しみは、人を動かす原動力になる。だが、それを否定はしないが、憎しみにのみ寄りかかることはやめた方が良い」

 

「知った口を。……使い魔なら、言われたことのみをやっていろ」

 

 その言葉を最後に、ワルドは竜の格納庫へと歩いていった。竜騎士か……。ライダークラスなら乗りこなせるのだろうか。幻想種の龍とはまた別のようだから、俺ももしかしたら行けるのだろうか?

 

「さて、言われた通り警戒に当たるとしようか。……あの黄金のサーヴァント。奴とは、おそらくこの戦場で……決着がつくかもな」

 

 俺はそうつぶやいて、甲板へ向かうべく歩き出した。

 

・・・

 

 二つの機体は、コルベール先生が研究も兼ねて見てみたいというので、中庭に残置することになった。あの後シュヴルーズ先生にも相談してみたところ、快く協力をオッケーしてくれた。……いやまぁ、ちょっと煽てたところあるけど。「土属性の魔法ってやっぱりすごいですよね!」とジャンヌに褒め殺してもらい、マスターにも言ってシュヴルーズ先生を……というより土魔法を持ち上げまくったら、ニコニコしながら了承してくれたのだ。

 『固定化』を一旦解いて、さらにかけなおす必要もあるから、土魔法の使い手はたくさんいて困ることはない。コルベール先生……は火が得意だからちょっと違うけど、シュヴルーズ先生にギーシュ、この三人がいれば、ガソリンの精製、損傷の修復も問題ないだろう。ちょっと連絡を取れば、フーケにも協力要請できるだろうか。まぁ、その辺はぼちぼちだな。『レコン・キスタ』問題が解決しないと、フーケを呼び戻すのは難しそうだし。

 

「……ん?」

 

 フーケの話をしたからか、伝書フクロウが定時連絡の手紙を持ってやってきたようだ。こっちの伝書鳩や伝書フクロウは、ほとんど使い魔みたいなものなので、どこで放そうがちゃんと目的地に向かってくれるらしい。便利なものだ。

 えーと、何々? ……む!

 

「これは……一波乱あるかもな」

 

 手紙には『聖杯を発見。レコン・キスタが所持』と書いてあり、さらに直近のトリステインとゲルマニアの結婚式を祝うためにやってくるアルビオン艦隊が、トリステインを騙し討ちするつもりらしいことまで書いてあった。……どこで戦端が開かれるかはわからないが、警戒するに越したことはないだろう。

 

「これの乗り手がいればなぁ……」

 

「流石に軍人で女性ってほぼいないからねぇ。もっと後の時代ならともかく」

 

 ゼロ戦と紫電改の横でため息をつくと、謙信が頷きながらつぶやく。

 

「だよなぁ。……んー……って、謙信騎乗スキル持ってるじゃん」

 

「うん? あー! 確かに。ちょっと乗ってみるかな」

 

 そういって、謙信は軽やかに座席に座り、目を閉じて集中し始める。

 少しして目を開くと、何度か頷き。

 

「いけるっぽいね。あ、そういえばジャンヌも騎乗スキル持ちだよ?」

 

「いや、あの子は絶対墜落させる。っていうかさせた」

 

「え、何乗せたの」

 

「ジェット機」

 

「それは君が悪いよ」

 

 謙信がため息をつきながら、ゼロ戦から降りてくる。

 これで、燃料さえなんとかなればこれに乗れることが発覚した。……いや、もっといい戦闘機だすか……? このゼロ戦は借り物だし……あ、戦闘機も燃料ねえな。ヴィマーナとかはエンジンと燃料精製機一緒だから飛ぶけど。

 

「まぁ、これがこの世界で飛ぶものだってことを証明もしないといけないしね。佐々木さんのためにも」

 

 俺の考えを読んだのか、謙信が俺の腰をぽんぽんと叩きながら笑う。……そうだな。これを残したシエスタのひいおじいちゃんのためにも、ゼロ戦だけでも飛ばさなければならないだろう。

 

「よし、それじゃあ研究してくれてるみんなに差し入れでもしようか」 

 

 そういって、俺はいくつかの栄養ドリンクを見繕った。……うん、これなら元気になってくれるだろう。

 

・・・

 

 トリステインの王宮。そこでは、輿入れのために準備をしていたアンリエッタ姫の下に届いたトリステイン艦隊全滅の知らせに、将軍や貴族が集まって大わらわとなっているところだった。

 

「トリステインの艦隊が全滅!? 何が起こったというのだ!」

 

 本縫いが終わったばかりのウェディングドレスに身を包んだアンリエッタ姫を玉座に、貴族たちが紛糾する。特使を派遣するべきだとするもの。反撃するべきだとするもの。誤解を解くべきだというもの。全員が全員、思いついたことを叫ぶばかりであった。

 ……だが、状況は進んでいく。伝書フクロウからの文を受け取った急使が、息せき切って会議の現場へと飛び込んできた。

 

「急報です! アルビオン艦隊は降下して占領行動に移りました!」

 

「なに!? 場所はどこだ!」

 

「ラ・ロシェール近郊! タルブ草原とのことです!」

 

・・・

 

「……戦火か」

 

 眼下の美しい草原が燃えていくのを見て、少し物悲しい気分になる。

 近くの村に住んでいたらしい村人たちは、森の中へと逃げていったのが見えた。それが幸いか。

 

「む……?」

 

 妙な魔力反応に、思わず振り返った。……この膨大な魔力は……聖杯か……?

 

「あるはずはないと思ったが……俺やあのサーヴァントがいるのだ。きっと何かしらの原因はあるのだろうな」

 

 ということは、こちらの陣営に誰か増えるのだろうか。……幸い自由行動の許可は貰っている。ちょっと見に行くとしよう。

 魔力反応を頼りに進んでいくと、誰かの声が聞こえた。

 

「こっ、これは何だっ!? きゅ、急に風石が……!」

 

 風石? 確かあれは船を飛ばすために必要な魔法石だったはずだ。だが、この魔力反応はまた別の……そういうことか。聖杯がこの風石の下に隠されている。誰が仕掛けたかは知らないが……ここに来た『素質のある誰か』が英霊を呼び寄せてしまったのだろう。……この男……名前は何と言ったか。この船の艦長だか艦隊司令官だかだったはずだが……。

 まぁ、その男が『素質のある誰か』だったのだろう。そして、仕掛けた者の狙い通り、ここでサーヴァントが召喚された……。

 俺は男を落ち着かせ、令呪が宿っていることを確認すると、軽く説明をしてやった。驚いたことに、この男はあの不思議な力を使う男、クロムウェルから密命を帯び、ここでとある儀式をしていたらしい。……あのうさん臭い男が、『仕掛け人』だったわけだ。どこで知ったのやら。しかしこの話を聞くに……クロムウェルという男。おそらく背後に黒幕がいる。何かの目的を達しようとしている頭脳とでもいうべき黒幕が。

 

「……とにかく、そのその現れるサーヴァント? というのは使い魔のようなものなのだな?」

 

「ああ、簡単に言えばな」

 

「そうか。……ならば、その使い魔をうまく利用し、来るであろう脅威に対抗せよということなのだろうな」

 

 そういって、男は目の前で渦巻く魔力に相対した。そして、まばゆい光が部屋を満たし――。

 

「サーヴァント、ライダー。召喚に応じ……って、そっちのあんたもサーヴァントじゃねえか! ……あーん? こいつぁ……新天地かぁ!?」

 

 召喚されたサーヴァントは、こちらを一瞥すると、おそらく聖杯から来た知識からだろうが、ここが元の世界ではないことを知り、駆けて行ってしまった。マスターになった男もそれを追いかけて行ってしまったので、部屋には一人になってしまった。

 

「……あれは、召喚して良いサーヴァントではなさそうだ。……悪とか善とかではなくて……なんというか……『行き過ぎた初志貫徹』というのを感じる」

 

 監視役もかねて、俺も行動を共にした方がよさそうだ。

 二人のあとを追って、甲板へと向かった。

 外は戦火。内には英霊。この国も、色々と転換期に来ているようだ。

 

・・・




「ジャンヌ、これがジャンボジェットっていう乗り物だよ」「おー! おっきいですねぇ! こんなのが飛ぶんですか!?」「飛ぶんですよ。ま、今回はジャンヌの騎乗スキルの確認だし、俺も隣で補助するから、とりあえずやってみようか」「はい!」


「……落ちたなー」「落ちましたねー。墜落の見本みたいな落ち方しました」「見ろよ。俺もジャンヌも、霊体のはずなのに黒焦げだ」「あはは! 漫画でよくある実験失敗した博士みたいになってますね!」「……まぁ、爆発の魔術みたいなの喰らわない限り、もうこんなことにはならないだろうし、貴重な体験と言えば面白いかもな」

 ――彼は、爆発を得意とするマスターに召喚されるとは、まだ知らなかった。


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