ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「いじる?(意味深)」「はいはい、エロ担当は黙ってようね」「待ってください! この程度でエロ担当ならあの辺どうするんですか!?」「大丈夫だよ。あの辺は処女ギャルと耳年増とミレニアム処女と見栄張りと性欲絶倫処女とヤンツンクーデレしかいないんで」「……あの人と結ばれてるのに処女なんです?」「あ、その辺は全部『元』がつくね」「罪深いなぁ、ウチの王様……」


それでは、どうぞ。


第二十話 話に応じていじる

 タバサと気まずい空気を味わった後、俺は鯖小屋へと来ていた。

 目的は次に誰を召喚するか、を考えるためだ。扉を開けると、自動人形と一緒にシエスタが掃除をしていた。

 

「あ、ギルさんっ。おかえりなさいませ!」

 

「ああ、うん、ただいま。色々ものが増えてるな」

 

 見渡してみると、お茶のセットやら茶葉やらが増えているのが見える。……たぶん、厨房から分けてもらったものなのだろう。それなりにお金がかかってそうだけど、大丈夫なんだろうか。いや、マルトーが豪快に「もってけもってけ!」と言っているのが想像できるけども。

 

「このお部屋のお話をした際に、マルトーさんが『余っているものがあるから、色々と持っていけ!』といって下さったんです!」

 

「ほう、ならばまた礼をしなければならないな」

 

 そういいながらマルトーセレクションの茶器やらなんやらを見ていると、自動人形がテーブルに紅茶を置いてくれた。

 湯気が立っているので、俺がシエスタと話をしたりしている間に淹れてくれたようだ。

 

「あっ、お茶……じゃあ、クッキーを出しますね!」

 

 そういって、シエスタは調理場の棚からごそごそとクッキーを出してくれた。

 おお、おいしそうだな。どこのだろうか。

 

「あ、その、厨房で作った余りなので申し訳ないんですけど……」

 

「いやいや、全然問題ないよ」

 出された紅茶とクッキーを楽しみながら、宝具を通じて次の英霊を検索していく。

 ……次は、だいたい決まっている。クラスはキャスター。俺が知る中で、とても信頼できるキャスターだ。ただ、その、ちゃんと召喚できるかなぁ、っていうのと、『俺の狙った方の』キャスターが来てくれるかなぁ、という不安があるのだ。

 ……え? 触媒? いやぁ、触媒もねえ。あるにはあるんだけど、どっちの触媒も同じなんだよなぁ……。

 

「……仕方ない。覚悟決めるかぁ」

 

 まぁ、正直に言ってしまえば、どちらが来ても問題はないのだ。……ただ、どういう役割になるかわからないだけで。

 

「よし、決めた。キャスターの召喚は……そうだな、今度の虚無の曜日にしよう」

 

 それまでは準備の期間だな。ここで召喚する予定だから、ここに地下室を作って、召喚用の補助サークルも作って、と……うん、時間的にも虚無の曜日がよさそうだ。というわけで、これから地下を作って、内装は次の日に回してもいいだろう。明日までに内装に使う礼装やらを選定するとしよう。

 

「何かお悩みですか?」

 

「ちょっとね。でも、とりあえず考えても仕方ないってことで、ぶっつけ本番頑張ってみることにしたよ」

 

「そうでしたか。……えと、私にできることは少ないですけど、できることだったら何でもします! いつでもおっしゃってください!」

 

「えっ、今なんでもするって」

 

「……」

 

「あいたっ」

 

 しまった、と思った時には遅かった。勢いでウチの筆頭問題児と同じことを言ってしまった。幸いシエスタにはわからなかったようだし、自動人形が即ツッコミを入れてくれたので全部言い切る前に止まったのでぎりぎりセーフと言ったところだろう。

 

「……?」

 

「いや、何でもないよ、シエスタ。ただその、シエスタはもうちょっと自分が可愛くて天然だってことを自覚したほうがいいかもしれないな」

 

「ふぇっ!? そ、そんな、私が可愛いなんて、そんな! 私なんて、ジャンヌさん達に比べたら、お芋みたいなものですわ!」

 

 あたふたと頬を染めながら反論するシエスタはどう見てもジャンヌやアサシン、セイバーに負けず劣らずの可愛さなのだが、まぁこういう世界だし、シエスタみたいな奥ゆかしい感じの女性が「そうですよねっ。私可愛いですよねっ!」とかどこぞのドヤ顔アイドルや筆頭問題児みたいなことは言わないだろう。

 ……こんなにあいつのこと考えてると、呼び出そうとするキャスターの代わりに出てきそうで怖い。あれ、そう考えると俺の召喚するキャスターは三択になってしまうのでは……。いや、余計なことは考えないようにしよう。

 

「謙遜することないよ。少なくとも、俺はシエスタのこと可愛いと思ってるしね」

 

「そ、そんな、えへへ、でも、その、うれしい、です……」

 

 てれりこするシエスタに癒されていると、自動人形がテーブルに二杯目の紅茶を置いてくれた。……あの、なんかぐつぐつ言ってるんですけど。いや、なにこれ。マグマ? え? 飲めって? いや、もうちょっと冷めてから……え、すぐに? な、なんでそんな怒って……怒ってない? んなばかな。怒ってないならなんでそんな熱々の……ちょ、近づけんな! 近づけ……あっつ! びっくりするほど熱いな!?

 

「ちょっ、じ、侍女さんっ!? それ相当熱そう……っきゃ、あっつい! 跳ねた飛沫でも熱いですよ!?」

 

「……っ」

 

「ちょ、やきもち! やきもちだな!? わかったわかった! 要求を聞こう!」

 

「……あの、なんていうか……ご、ご愁傷さまです……?」

 

 なんとか宝物庫にあった『まるごしシンジ君』という謎の料理処理用礼装でやりすごし、そのあと自動人形をなだめすかし、顔を赤くしたシエスタも落ち着かせて、地下室を作るために宝物庫の中を検索してみる。

 地下を作るということは土系統の魔術書かなー。あ、そういえばドリルの宝具とかあったなぁ。え? エア? いや、それはちょっと……生前温泉掘ったら拗ねられて、こういうことに使おうとすると極端に出力落ちるようになっちゃったからなぁ……。いやほんと、ごめんて。俺の使う宝具での酷使率第二位なだけある。え? 一位? そりゃもちろん、天の鎖だよ。俺の下にいるときは言わずもがな、現在神様の下にいるらしい天の鎖も、フル稼働中のようだし……。

 おっと、話が逸れてしまったな。

 初日の今日は、『地下室を作ろう!』と言ったところだろうか。……なんだろうか、この言い知れぬチュートリアル感。たぶん明日は『地下室の内装を作ろう!』とかが来るに違いない。すべて終わらせれば、きっと報酬として……む、いや、電波を拾ってしまった。

 

「よし、この魔術書にしよう」

 

「? その本は……?」

 

「土を操る魔術書だよ。小屋を広げられないし、上に増築もあんまりできない。となれば、地下を広げるしかないだろう。鯖部屋ビフォーアフターだ」

 

「びふぉー……あふたー……?」

 

 こてん、とかわいらしく首をかしげるシエスタに微笑みかけつつ、魔術書についてある程度の説明をする。俺が魔術を使うときの補助的な本であること、ある程度の属性しか使えないし、使い道も限定されているけど、その限定された使い道であれば相当便利なこと、などなど。

 

「へぇ……! ギルさんのその蔵にはたくさんのものが入っているのですね!」

 

「ああ、俺でも把握できないほどにな」

 

 ……その最たるものがシエスタの隣ですまし顔してる自動人形だけどな。いつの間にか増えてるし、バリエーション豊かだし、勝手に宝物庫開けるときあるし。一種類しか型はないはずなのに、なぜかカラフルな髪色してたりとか、体系……については全員なぜか貧乳だから変わりないか。あ、髪型も色々変わるな。何なんだろう、あの子たち。純然たる宝具ってわけでもないし、純粋な人間ってわけでも、ホムンクルスってわけでもないし、本当不思議な子たちだ。……ちなみにこの子たちは酷使率第三位である。なぜエアよりも使用頻度が高いのに順位が低いのかというと、勝手に出てきて仕事することもあったりして、『酷使』というほどではないからだ。

 

「……?」

 

「いや、何でもないよ。いつもありがとうな」

 

 ちらりと自動人形を見ると、わずかに首を傾げたので、なんでもないと伝える。それで納得したのか、作業を再開したようだ。

 魔力を回して、魔術書を起動する。登録されている術式が鯖小屋の地下の土に干渉して、事象を書き換えていく。思い描いた通りに空間ができたら、魔力を止め、次はその空間が崩れないように土を固めていく。うん、これくらい固めれば崩れたりはしないだろう。あ、ギーシュのモグラ君がここに来たりすることないように、一応注意しておくとしよう。

 魔術書の下に宝物庫の入り口を作れば、机に沈んでいくように魔術書は消えていく。

 

「いつ見ても不思議ですねぇ……」

 

 その一部始終を見ていたシエスタが、机をぺたぺたと触りながらつぶやく。

 

「あ、そういえば」

 

「はい?」

 

「シエスタの就任祝いを渡してなかったね」

 

「お、お祝い、ですか?」

 

「ああ。今俺たちサーヴァントは好意で厨房から賄い貰っている立場だしさ、厨房へのお礼は別に渡すけど、さらにシエスタ個人へのお礼兼鯖部屋専用メイド就任祝いとして渡そうかな、と」

 

 そういって、机の上に宝物庫の入り口を開き、選定しておいた茶器のセットを出す。きちんと箱詰めされており、ポットにカップ四つ、それに対応するソーサー付きという、『ティーカップ 贈り物』でググったらトップに出てきそうな無難に過ぎる贈り物ではあるが、あまり凝りすぎるとシエスタは遠慮して受け取らない、というのは学んでいるので、こういうものにした。

 

「それを送るから、俺とかにお茶を出したり、自分で飲んだりするときはそれを使うといい。どこに出しても恥ずかしくないレベルのものだから、貴族の対応にも使えるだろうしね」

 

「そ、そんなすごいもの、い、いただけませんわ! ただでさえ、お給金が普通より高いのに……!」

 

 「これ以上貰っては、私程度のお仕事では返せませんっ」と返そうとするシエスタ。予想通りなので、これは贈り物でもあるけど、『仕事道具』でもあるということを説明し、そうおっしゃるなら、となんとか納得してくれたシエスタは、はにかみながら受け取ってくれた。これからジャンヌとお茶をすることもあるだろうし、その時に使ってくれればいいと思う。目指せ友達百人!

 

「さて、それじゃあマスターのところにでも行こうかな。……む、いや、先に図書室だな。借りた本を返して、新しいのを借りに行くとしよう」

 

 まだ授業が終わる時間ではないので、図書室で時間をつぶすことにする。借りた本も返さねばならないしな。『お菓子の魔法』というなかなか攻めたタイトルだったのでつい借りてしまったのだが、別にこの世界の貴族たちが使う魔法でお菓子を作るわけではなく、ひたすらに著者が『これは魔法のようだ』と思ったお菓子の製法やら解説が載っている本だった。

 先ほどすべて読み終わったのだが、あとがきにて二巻が存在していることがわかったので、探してまた借りようと思っている。

 

「それじゃあ、シエスタ。またあとでな」

 

「はいっ。いってらっしゃいませ!」

 

 メイドに見送られるという、現代だとあんまりない経験をしつつ中庭から図書室へと向かう。

 ……よくよく考えてみれば、自動人形はメイドとはいえ声を出したり顔を変えたりするわけではないので、『メイドに見送られる』というのはもしかしたら初めての経験になるのかもしれない。

 あ、そういえばシエスタの年齢聞くの忘れてた。……後でも大丈夫だな。いつか話のタネに聞いてみるとしよう。……え? 女性に年齢の話はタブー? だいじょぶだいじょぶ、俺結構女性のタブーについては破っていくタイプの英霊だからさ。ほら、体重とかスリーサイズとかすっぴんとか……女性タブー多すぎない? 宝具になるほど女の子関係多い俺だけどさ、それでもたまに女の子怖くなるときあるもんなぁ……。

 なんか、女性の扱い上手くなるような指南書でもないもんかなぁ。図書室でそれも探してみるか。

 ちょうど図書室についたので、入室しながら探すものを決めた。いつも通り司書さんに会釈をして、まずは本の返却。それから、『お菓子の魔法』第二巻と、女性関係の指南書を探す。

 ……が、『お菓子の魔法』の二巻については見つかったものの、もう一つの目的のものは中々見つからない。そりゃそうか。一応ここは神聖な学び舎なのである。そんな本がある方がおかしいのだ。仕方がない。今回はあきらめるとしよう。あ、そういえばマスターが結婚式での詔を考えるとか言ってたな。詩的な表現を学べそうな本でも借りておこうか。

 本のカテゴリーで一応分けられているので、探すのに苦労はしなかった。棚から取って、ぺらぺらと捲り、内容的によさそうなものを探す。ジャンルがジャンルだからか、かなり種類があるので、わかりやすそうなものを一冊だけ借りていこう。

 

「よし、今回は二冊だな」

 

 司書さんのところへ持っていき、貸し出しの処理。

 と言っても、司書さんの管理しているリストに本の題名を書いて、借りた人間……ここではマスターの名前を書き、それを確認した、という司書さんのサインを書いてもらい、控えを貰うだけだ。それを本に挟んでおけば、勝手に持ち出したものではない、という証明にもなる。仮に無くしてしまっても何かあるわけではないが、面倒なことは増えそうということで、きちんと保管しておくとしよう。

 ちなみに、貸し出し期限は決められていない。宿題や研究に使ったりもするから、長期間借りる生徒や先生もいるしな。俺は一応一週間ほどを目安に返せるようにはしている。あとは読み終わったりしたらだな。

 

「む」

 

 アサシンからの念話だ。授業が終わったらしい。よし、迎えに行くか。

 

・・・

 

「あーもうっ! 全然浮かばないわっ」

 

 授業もすべて終わり、夕食も済ませた後のマスターの私室にて、思いっきりベッドに飛び込んだマスターは、足をばたつかせる。そのたびにスカートから白い領域が見えてしまっているのだが、眼福なので教えないことにする。

 なんでマスターがご乱心かというと、皆様の想像通り、詔作りに煮詰まってしまっているのだ。マスターはほぼ完ぺきな秀才タイプの人間なのだが、どうにもセンスが無いようで、編み物とか絵画とかそういうものにはとんと向いていないようなのである。以前なんかヒトデみたいなものを編んでいるのをキュルケにからかわれているのを見たのだが、なんとそれはマフラーになるものだったらしく、驚いたと同時に憐れんでしまったことは記憶に新しい。

 かといってマスターに俺の暇つぶし兼自動人形たちへのお礼でもあるマフラー編みがばれてしまうとうるさいことになるので、教える気はないのだが。すまんマスター。でも大丈夫。行き遅れたら俺が責任とるよ、安心してくれ。

 

「ルイズ嬢、そろそろ夜も遅い。健康と美貌のためにも、そろそろ眠りについたらどうだろうか」

 

「……むー。そうね、あんまり根を詰めてもいいものはできないわね……」

 

 セイバーに諭されたマスターが、いそいそとベッドのカーテンを閉める。このカーテンは、恥じらいを覚えたマスターのためにベッドを改造したもので、このカーテンを閉めてマスターは着替えるようになった。

 部屋改造の際に一応ベッドを一つ追加して置いてある(プライバシー保護のために、仕切りは置いてあるけど)ので、この部屋でも寝泊りはできるようになっている。鯖小屋はまだ完全に内装ができたわけではないので、休みたいときにはこっちのマスターの私室……通称マイルームで休むことになっている。今日は詔を考えるために結構遅くまで掛かってしまったので、今日はこのままこっちで休むことにしよう。

 

「……えと、それじゃあお休み」

 

「ああ、お休みマスター。明日はいつも通りだな?」

 

「ん」

 

 くぁ、と小さくあくびをしながらうなずいたマスターがベッドに横になったので、上から毛布を掛ける。目を閉じたマスターにほっこりと癒されつつ、さて次はサーヴァントの時間だな、ともう一つのベッドの方へ。

 

「さてと。もしかしたら伝えてたかもしれないけど、次に召喚するサーヴァントが決まったぞ」

 

 目の前に立つのは、セイバーとジャンヌ、アサシンの三人。

 こちらを真剣な目で見つめ、無言で先を促す彼女たちを見回してから、口を開く。

 

「クラスはキャスター。アサシンの時みたいなこともあったから、一応召喚の時の触媒も用意して臨もうと思う」

 

「キャスター……魔術師さんですか。この世界にいる以上、キャスタークラスは早めに呼んでおいた方がいいと思いますし、私は賛成です」

 

「そうだね。向こうでは隠されていたものが、こちらでは常識なんだ。早めに専門家を呼んでおくのは悪いことじゃないと思うよ。……魔術基盤違うから役に立つかは別として」

 

「私はどのクラスでもいいです。唯一不安と言えば……」

 

「どうした、アサシン?」

 

 何か考え込むように黙ってしまったアサシンに尋ねてみると、少しだけ言いづらそうに

 

「いえ、盾としては役に立たないけど大丈夫かなぁって」

 

「別に毎回俺の盾役求めてるわけじゃないからな?」

 

 なんて子だ。別に俺の前に立ってくれるような子を求めて召喚をしているわけではないのに。……いや、目的の一つにそれがあるのは否定しないけど。

 それに、キャスタークラスにだって盾になれるような子だっているのだ。お師さんとか。まぁ、あの人に関してはキャスタークラスなのに武闘家っていう意味わからない属性ついてるからなんだけど。

 

「で、これが触媒に使おうと思ってる、鏡だ」

 

「だいぶん古い鏡ですね……少しだけ曇ってるし……」

 

 俺の出した鏡を三人は不思議そうに観察する。まぁ、古いことは否定しないし、あんまり出来が良くないのも仕方ないことなのだ。

 その理由についてはまぁ、召喚した英霊を見てもらえればわかることだろう。

 

「ま、虚無の曜日だっけ? その日に召喚するらしいから、素直に待つとしよう。それで、今日はそれで終わりかな?」

 

「ああ、今のところ報告することはそれくらいかな。……アサシンとかはなんかあるか?」

 

「ん? あー、そうですね……。いえ、とくには。ここしばらく大主さまについてましたけど、特に狙われてるとかそういうこともなく」

 

 それはそれで、相手は水面下で動いているってことだからあんまり安心もできないが……ま、今はお互い準備期間と言ったところかな。

 

「それじゃあ、今日は解散にするか」

 

「了解。じゃあ私は、この学院の見回り行ってきます」

 

「シエスタちゃんのところでお泊りしてきますね!」

 

「んー、私は一応君と行動を共にしようかな。君と違って、私は寝る必要ないしね」

 

 三人はそれぞれバラバラの行動予定をしているようだ。

 さっそくアサシンは霊体化して消えていったし、ジャンヌも普通に扉を開けて出て行った。

 セイバーだけは俺と一緒にいてくれるらしいので、マスターのお守りも一緒に手伝ってもらうとしよう。自動人形だけだと、もし相手がサーヴァントだった場合に対応しきれないからな。

 

「それとも……一緒に寝る? ふふ、声は我慢できる方だよ、私は」

 

「い、いや、今日はやめておこうかな」

 

 妖しい表情と声色で俺を誘うセイバーをなんとか押しとどめて、ベッドへ潜り込む。

 セイバーもベッドに乗り、枕をどけて、そこに座った。……どうしたんだろうか、と首をかしげると、セイバーは正座した自身の脚をぽんぽんと叩く。

 

「ほら、膝枕。……それくらいなら、良いだろう?」

 

「ああ、そういうことか。……それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

 

 ぽす、とセイバーの脚の上に頭を乗せる。……柔らかい。最優の名に恥じない、素晴らしい足である。上半身は頭部すら露出していないくせに、下はミニスカートに足袋だけとか、この子本当にかわいらしい格好してやがんな、くそ。

 

「子守歌でも歌おうか?」

 

「いや、大丈夫だ。……このままが、一番落ち着く」

 

 小さく息を吐くと、目を閉じる。……セイバーがゆっくりと頭を撫でてくれているのもあって、意識を手放したのはすぐだった。

 

・・・

 

 ――夢を見た。

 妙な建築様式の城が見える城壁の上で、私はギルが立っているのを後ろから見ていた。

 

「ここまで来れば、もうあいつらでも大丈夫かな」

 

 なんだか横顔がいつもより優しいギルは、そうつぶやいて笑みを浮かべる。

 ……生前、ギルが治めてた国なのかしら、と私は城壁から街を見下ろした。そこに広がる町並みは整然としていて美しく、街には人々が溢れていた。王都と比べても人の密度は負けていないと思うほどだ。

 これがギルの治政ならば、王としての手腕は相当なものだろう。少しだけ感動と尊敬を抱いていると、ふ、と世界が暗くなっていく。日が沈んで行っているのだ。空には、一つだけの月。

 

「……よし、決めた」

 

 一人頷くギルは、言葉の通り何かを決意したのだろう。満足げに頷くと、踵を返し、どこかへ向けて歩き出してしまう。

 夢だからか、思うだけでふわりと移動できるのは便利だ。このままギルについていってやろう、と歩くギルの後ろをついていく。前とは違い、声なんかはでないようだ。ギルもこちらに気づいていないようだし……。

 すたすたと歩くギルについていくと、階段を下りようとしたギルがぴたりと足を止めた。

 ……どうしたんだろ。私もつられて足を止める。

 振り返ったギルと目が合う。……私のこと見えてる?

 

「やっぱり、マスターか。いや、今気づいたよ」

 

 そう言って笑うギルは、迷いなくこちらに近づいてきて、私の目の前に立つ。

 私はやっぱり少しだけ浮いていて、言葉も発せないから、口をぱくぱくとすることしかできない。

 

「……今回の夢は生前のものだからね。『存在しなかった』マスターは色々と制約を受けてるんだと思う」

 

 ギルは、そのまま私を撫でる。……触れるんだ。

 

「触れるよ。俺の夢だしね。さっきまでは過去を見てる感じだったけど……今、夢を掌握したから」

 

 ギルは視線を町の方へと移して、少しだけ笑う。

 ……撫でる手が優しく、とても落ち着く……。

 

「俺はもう少しこっち側でやることがあるんだ。……マスター、ここは過去だ。今を生きる君に、ここは合わないよ。……ははは、これ、前にも言ったな」

 

 その言葉と共に、頭から手が離される。

 同時に、あの夢から醒める感覚……。

 ふわりと体が浮く感覚に少しだけ抗いながらもう一度ギルを見ると、いつの間にか隣に人が立っていた。

 

「……」

 

 声は聞こえなかったけれど、手を振っているのは見えた。

 ……とても優しそうな人。ちぃ姉さまみたいな……。

 ――そこで、私の意識は浮上していった。

 

・・・

 

「また、あいつの夢か……」

 

 あいつの過去を知れるから、悪くはないんだけど……。

 

「変な時間に起きちゃったわね」

 

 水でも貰おうかしら。そう思ってベッドから降りる。

 あいつが改造したからか、とても品質は良く、いつも一度寝たらぐっすり……なのだが、今日はなんだか途中で目が覚めた上に眠気も少し飛んでしまったようだ。心が落ち着くまで少し起きていることにした。

 

「……? 何か聞こえる……?」

 

 自動人形が静かにくれた水に口をつけながら、静かな部屋でわずかに聞こえる……話し声のようなものに耳を澄ませる。

 目の前のメイドじゃないだろう。喋ったところどころか、目を開いたところすら見たことがないからだ。それに、仕切りの向こう……ギルがいるであろうところから聞こえる気がする。

 ……コップを置き、仕切りの方へとゆっくり近づく。

 

「……なん……ら、……して……私が……」

 

 声は小さいけど、ギルのではないことがわかる。……たぶん、あいつ自身はまだ夢の中だろうし。

 なら、一緒にいるセイバーかしら。……独り言? まぁ、変なやつっぽかったものね、と仕切りの蔭からちらりと覗くと、ギルに膝枕をしながら頭を撫でるセイバーの姿。……頭を俯かせているからか、頭巾が垂れて影が顔を隠してしまっているが、寝ているわけではなさそうだ。こうして覗いてわかったのだが、確実にセイバーが何かを呟いて――。

 

「もぅ、ギルは本当に、私がいないとダメなんだから。こうして膝枕してあげて寝かしつけてあげるし、今度はご飯も作ってあげるよ。ああ、そうそう、今度お風呂で背中流してあげるね。ふふ、本当に君ってば世話が焼ける王様だよねぇ。仕方がないんだからぁ……ふひ、ふひひ……」

 

 ……ひ、と声を出しそうになった。

 ちょうど月明かりが差し込み、影に隠された顔が見えたのだが……瞳が、光っていた。

 物理的に、ではない。なんというか、ギラギラしているというか、私につかみかかった時のワルドというか、そんな瞳だった。絶対逃がさない、という捕食者の目だ。

 

「綺麗な髪だなぁ……ずっとこうしてられるよ……。向こうだと他の子いっぱいいるからねぇ……こうして君が召喚されて、さらにそんな君に召喚されて……こんな時じゃないと、独り占めできないもんねぇ。……ぺろぺろ、しちゃおうかな。……は、恥ずかしいな……」

 

 恥じらうとこそこじゃないでしょ、と思わずツッコミかけた。ギラギラと瞳が輝いたままはぁはぁと息を荒げる姿は、なんか変な秘薬を飲んだ人か、翌日がお見合いだといわれた日の夜の姉さまのようだ。……ひっ。な、なんか、寒気が二倍に……!? まさか、姉さま……?

 っていうか、ギルが召喚した中ではまともな常識人だと思ってたのに……! 裏切られた気分だわ……!

 勝手に信頼して裏切られたような気分になっていると、ふ、とセイバーが顔を上げ、きょろきょろとして……不味い、と思った時にはもう遅かった。覗かせていた頭を引っ込めることも間に合わず、セイバーの瞳がこちらを捕らえた。

 

「ルイズ嬢? ……いつから?」

 

 ごまかそうかな、とも思ったけど、それが許されるような眼力ではなかった。隠れていた仕切りから完全に出て、視線をそっとそらしながら伝える。

 

「えと、『私がいないとダメなんだから』あたり、かな」

 

「ほぼ最初……っ! そんなの、ほぼ最初じゃない……っ! ずっと、ずっとこの人の前で我慢して隠してたのにぃっ……」

 

「お、落ち着きなさいよ。……ほら、なんていうか……意外性があっていいと思う……わよ?」

 

 うわぁん、と泣き崩れたセイバーは膝の上のギルの頭を包むように上体を倒して……あ、ちょっと、泣く振りして何かしてるわね!? ほんとに隠してたの、あんた!

 

「っていうか、そんなに騒いだらギルが起きちゃうわよっ」

 

「……起きないよ? ……今、たぶん『会って』るから。まったく、最初のマスターといい、あの女神といい……付き合いが長いというのは中々厄介なものだよ」

 

 ぶつぶつと言いながらギルの頭を膝から降ろすセイバー。枕に頭をゆっくりおいてから、惜しむように何度か撫でて、立ち上がる。

 

「ま、ルイズ嬢も知っておいていい情報だ。……眠れないんだろう? あっちへ行こう」

 

 そういって、セイバーは私を置いて仕切りの向こうに消えていき……月明かりの中振り返って、言った。

 

「さ、こっちきて。――ギル()の話を、しよう」

 

・・・




「別に、私は一部の女性たちとは違って、病んでるわけじゃないよ? もちろんギルのことは好きだし愛してるしお世話してあげたいし何だったら養ってあげたいしお料理作ってあげたいし調子を崩したりしたら看病してあげたいし怪我をしてたら痛いの痛いのとんでけーってしてあげたいし魔力供給もいっぱいしたいし膝枕で日向ぼっこもしたいし炊事洗濯も任せてもらいたいしいっぱいなでなでもしてあげたいししてほしいしずっとギルのことを物理的にも精神的にも薬理的にも守っててあげたいけど、それだけだよ?」「……アッハイ」

「……上杉さんのあれって自覚ありなんですか?」「ん? ああ、病んではないと思うよ。ただ『異常に世話焼き』なだけで。俺を閉じ込めてきたり『ケチャップだよ☆』とか言いながら血の入った料理出してきたり匿って俺のこと心配するふりして睡眠薬盛ったり――こうして拘束したりとか、しないしね」「ふふふっ。だってぇ、ギルくんったらすぐに逃げちゃんだもんっ」「うわキツ」「……今のギルくんの言葉とは何にも関係ないけどなぜかイラッと来たからずっとぱふぱふしたげるねぇ~」


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