ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「あの細工に関しては、あんまり変わらなかったみたいだね」「予想外の抵抗をされたからな。権能を消す予定だったのだが……神格(じんかく)を抑えるのみになってしまったのは想定外だった」「で、これからどうするの?」「予定に変わりはない。英霊王をあちらに足止めし、その間に目的を達成する」「そ。あとは仕上げを御覧じろってことか」「ああ。これは天文台にも……いや、天文台だからこそ気づけない、人理の崩壊だからな」

それでは、どうぞ。


第十九話 細工は流流、あとは仕上げを御覧じろ。

「……ある程度は流れてきた情報で把握したよ。……まったく、本当に君は面倒が好きな人だな」

 

「それを言われると言い返せないな」

 

 はは、とセイバーに笑いかけると、セイバーは溜息を吐いて首を横に振る。

 その頭の動きに沿うように、被った白い頭巾がパタパタと動く。

 

「だが、この私が来たからには安心するといい。面倒大好き残念王であらせられる君のことを、私がふわっと手助けしよう」

 

「……ふわっとなのか」

 

「うん? まぁ、きっちりかっちり拘束するようなのはあんまり好きじゃないだろう? 私にだってそれくらいの思いやりはあるさ」

 

 それは確かにそうだ、とうなずく。

 目の前の彼女はとても世話を焼くのが好きな、言ってしまえば委員長のような性格をしているのだが、頑固な子ではなく、それなりに融通もきかせてくれる。だからこそ、俺のことを考慮して「ふわっと手助けする」なんて言ったのだろう。

 

「それに、縛り付けるのは蛇とか化生とかの仕事だ」

 

 私は違うのでね、と冷静につぶやくセイバー。

 

「さ、それじゃこれからのことを話そうか」

 

 そういって歩き出すセイバーと共に、俺はマスターの部屋へと向かった。

 

「ふふ、もう、君は守ってあげないとすぐに無茶をするんだから。この私が……越後の虎たる輝虎が、君を虎の子としてずっとお世話してあげないとね。……ふふっ」

 

・・・

 

「――というわけで、新しく仲間になったセイバー、上杉謙信。よろしくね」

 

 授業も終わり、晩御飯も済ませた俺たちは、マスターの部屋でセイバーの紹介をしていた。

 わぁ、ぱちぱち、とアサシン、ジャンヌ、シエスタからは拍手が起き、マスターは椅子の上で腕を組み足も組みのいつものポーズである。じろじろと見ているから、興味はあるみたいだが。

 

「アサシン、小碓命です! よろしくお願いします!」

 

「セイヴァー、ジャンヌ・ダルクです! こっちはおともだちのシエスタちゃん!」

 

「ぎ、ギルさまのメイドをしております、シエスタです!」

 

「で、こっちでふんぞり返ってるのが俺のマスター、ルイズだ」

 

「ちょっ、なんて紹介するのよ!」

 

 セイバーに向けていた顔をこちらに向け、マスターは叫ぶ。

 それにしても、だいぶん大所帯になったもんだ。……部屋、広げるか。

 

「なぁなぁマスター、ちょっと許可をもらいたいんだけど……」

 

 俺の言葉に、マスターは小首をかしげて「なによ?」と怪訝そうに聞き返してくる。

 

「そろそろこの部屋も手狭だろ? ……宝具で少し広げたいんだけど、どうだろうか」

 

「どうだろう? って……出来るなら助かるわね。……今私のベッドは椅子として占領されてるわけだし?」

 

 流石に人数分の椅子を出すとごちゃごちゃすると言う理由で、マスターは自分の机にある椅子、俺とセイバーは俺の宝物庫から出した椅子に座り、ジャンヌとアサシンはマスターのベッドに腰掛けている。え? シエスタ? もちろんシエスタにも椅子を勧めたんだが……かなり固辞されたので、俺の背後に立って貰っている。

 

「よし、じゃあ明日の予定はそれで決まりだな。他に報告はあるか? ないなら終わるけど」

 

 周りを見渡して、誰も発言しないのを確認してから、立ち上がる。

 アサシンは何時も通り気配遮断。シエスタは使用人の使う部屋へ戻り、ジャンヌとセイバーは霊体化。さて俺はどうしようかと悩んでいると、くい、と服を引っ張られる感触。振り返ると、ネグリジェに着替えたマスターがベッドの上から俺の服に手を伸ばしていたのだった。……なんだろう。誘われているのか? いやいや、気持ちは嬉しいけど学生のうちは手を出せないよなぁ、とか考えていると、マスターが口を開く。

 

「……あんた、暇でしょ? その、私が眠くなるまで、あんたの話を聞かせなさいよ」

 

「む? ……なんだ、そんなことか」

 

 よかった。顔まで真っ赤にしてるからこうして夜に部屋の中で二人っきりってシチュエーションにドキドキしてるのかと思ったけど、ただ単に話を聞きたいって言うのが恥ずかしかっただけか。

 

「いいぞ。さて、まだ話していないことはあっただろうか……」

 

 ベッドに横たわり、布団を被ったマスターの横に腰掛けながら、俺は頭の中を検索する。

 マスターを程ほどに楽しませられる話は……。

 

・・・

 

 翌日、マスターがオスマンに呼ばれて学院長室に行ってしまったので、今のうちに部屋の拡張をしておこうと相成った。

 アサシンはマスターについているため俺とセイバー、ジャンヌとシエスタが頭をつき合わせて宝具を取り囲んでいる。

 この宝具は一定の空間を箱庭に投影し、その投影された箱庭を弄ることによって、外部に影響を与えず、結界の内部の空間のみを拡張、縮小し、それを現実に反映できるというものだ。ちなみに発動中は常に魔力を消費するので、竜脈のような魔力を吸い上げらるようなところに設置するか、魔力をこめた宝石を乾電池のように使用(ただし、魔力消費が激しいので、かなりの量の宝石を消費することになるため、お勧めしない)するかしないといけない。

 使用中に魔力が切れると、結界が消え、全てのものが中央に集まりぐちゃぐちゃになるという事故が起こるので、魔力は俺に紐付けて置くことにする。神様パワーによって魔力供給に関しては心配すること無いからな。

 ……とはいえ、サーヴァント三体に結界宝具、更に宝物庫の中の封印やら自動人形やらと魔力を送らなければいけないところは大量にある。例えるならたこ足配線しまくった電気タップみたいなものなので、俺に何かあると他の全てに影響が出てしまう。その辺の対策も取らねば。

 

「広さはこのくらいで?」

 

「そうだね。このくらいでいいと思う。……どうかな、主殿」

 

 セイバー主導ジャンヌ助手の劇的なリフォームが終了したので、不備がないか確認をして宝具を発動させる。低い唸り声のような機動音を立て、結界を張った内部の空間を箱庭と同じ状態に拡張する。

 

「おぉー」

 

「こっ、これは……! 凄いです!」

 

「なんということでしょう……」

 

 ジャンヌとシエスタが感嘆の声を上げる。セイバーは冷静に部屋を見回して、以上がないかを確認してくれているようだ。

 ……俺の方でも確認してみたが、魔力の流れにも異常はない。確認作業を終えて、宝具を宝物庫へと戻す。コレで破壊されることも無くなるだろう。

 作業を終えて、家具を動かし一息ついてお茶を飲んでいると、マスターが帰ってきた。

 

「ただいまー……ってうわ、ほんとに広くなってる……!」

 

 部屋の扉を開けたところでこの大改造に気付いたマスターは、後ずさりするレベルで驚いてくれている。

 これは宝具を使った甲斐があったというものだ、と満足して頷きを一つ。

 

「お帰り、マスター。どうだ、色々家具も増やしてみたんだ」

 

「どうだ、って言われても……その、凄いわね」

 

「ははっ、語彙が貧弱だな」

 

「小並感」

 

「うっさいわね! あんたにとって常識でも、私から見たら非常識なんだから! っていうかセイバー今なんか言った!?」

 

「いやいや、何にも言ってないよ、ルイズ嬢」

 

 マスターの矛先が俺からセイバーに移ってしまった。

 まぁ、セイバーも分かってて煽ってるところはあるから、放っておくとしよう。

 

「絶対言ったわ! 意味は分からなかったけど、その顔から察するにバカにしてたでしょ!?」

 

「はっはっは、そんなまさか。顔は生まれつきこんなのだし、言ってた意味も分からないのに食って掛かるのは良くないなぁ」

 

「むっきー! あんた、私の嫌いなタイプかもしれないわ!」

 

「酷いなぁ。ま、これから仲良くなれるように頑張るよ」

 

 そう言ってくすくすと笑うセイバーに、またマスターはむきー、と髪を逆立てる。……って、あれ? なんか変な本持ってる。

 

「そういえばマスター、その本は?」

 

 俺が聞くと、息を荒げていたマスターも少し落ち着いて、持っていた本を机の上に置いて説明をしてくれた。

 

「ほら、姫様がゲルマニアの皇帝と結婚するでしょう? そのときの巫女に選ばれてね。この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持って、詔を考えなきゃいけないらしいのよ」

 

「ほほう。それはそれは……名誉なことじゃないか」

 

「そうね……少し悲しくもあるけど。そこは姫様も覚悟の上だわ。……だから、その覚悟に少しでも見合うように、私も頑張らないと」

 

 そんなマスターの言葉に、うんうんと頷くセイバーたち。

 

「そういうことなら私も協力しようじゃないか。いいだろう?」

 

「はーい! 私も! 協力しますよー!」

 

「その、そういうことを考えることは苦手なので……お、お茶をご用意したりとか、そちらのほうで協力しますね!」

 

 みんな乗り気で協力を申し出たことが以外だったのか、マスターはきょとんとしている。

 だが、すぐに意味を理解したのか、口元を緩ませ、ふん、といつものように腕を組み、そっぽを向く。……顔が赤いので、アレは照れ隠しのほうだ。

 

「と、当然じゃない! 曲がりなりにも私の部屋に住んでるんだし、こういうときに協力するのは当然よね!」

 

「なんてったってマスターのマスター、大マスターですからねー」

 

「……ふふ、ジャンヌ嬢のそういうアホの子っぽいところ、嫌いじゃないよ」

 

「アホの子!? 確かに学はないですけど! ないですけどぉ!」

 

 なんだか納得いかなーい! と駄々を捏ねるジャンヌ。

 収拾が付かなくなってきたので、はいはい、と手を叩いて一旦話を打ち切る。

 

「取り合えずマスターは詔を考えないといけないから、俺達はそのサポートってことで。まずは飯だよ飯。腹が減っては、というからな。俺ら減らんけど」

 

「さんせー! 今日の晩御飯はなーにかなー」

 

「……アホの子だと思うんだけどなぁ」

 

 るんるんと部屋を出て行くジャンヌを見て呟くセイバーに、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

・・・

 

 突然ではあるが、俺は今、シエスタに食事を貰っている。仲の良いジャンヌがシエスタとのんびり話ができる時間でもあるし、俺も食事を魔力に変換し、少しずつとはいえ蓄えておくこともできるので、シエスタ……もっと言えば、マルトーや厨房のみんなに甘えて食事を出してもらっている。

 俺とジャンヌだけではなく、マスターに自動人形がついているときにはアサシンも食べに来ているし、これからはこうしてセイバーも一緒だ。……だんだんお世話になる人数が増えてきているので、今度何かしら手伝ったりお礼をしなければな、とスープを口にしながら思う。

 

「ジャンヌがプレゼント貰うとして、なに貰ったら嬉しい?」

 

「ふえっ!? え、ええと、うーん、マスターから、ですよね?」

 

「ああ。俺から」

 

「……こ、子供?」

 

「……贈り物って言われてその言葉が出てくるってすごいな。何だ、君はその、変態なのか」

 

「へっ、へんた――!? 違いますよっ」

 

 姿勢よく煮物を食べていたセイバーが、呆れたような顔でジャンヌの答えにツッコミを入れた。

 

「流石は聖処女だな。……あ、性処女?」

 

「……か、かっちーん。かっちーんですよ今のは! あなただって似たようなもんじゃないですかぁっ!」

 

「流石の私でも時と場所くらいは選ぶよ。そーゆーときはね、誰にも邪魔されず、自由で……なんというか、救われてなきゃあダメなんだよ。二人で、静かで、豊かで……」

 

 まるで個人で輸入商をやっているかのような顔で、セイバーはジャンヌに反論する。

 言い合っている(セイバーの方は半ば流すようにしているが)二人を見て、シエスタがくすくすと笑う。確かに、微笑ましい光景ではある。

 俺の視線に気づいたのか、シエスタは俺の方を見て、にこりと微笑みを浮かべる。俺も笑顔を返して、そういえばジャンヌに聞いてみたけど参考にならなかったな、とシエスタへの贈り物第二弾、そして厨房への差し入れ第一弾について、また考えを巡らせる。

 ハンドクリームの次は何かなぁ。シエスタの趣味とか分かれば、そのための道具とか……あ、茶器とか? それなりに仲良くなったし、今度渡してみるとしよう。これでシエスタへの贈り物は決まったとして、厨房へはなに差し入れるかなぁ。みんなで分けられるような……やっぱりお菓子とかかな。うん、それなりのものを今度見繕ってみることにしようっと。ゴマ饅頭とか大福とか、お菓子のレパートリーは意外とあるので、色んな種類をちょっとずつ作って持って行こうかな。

 よし、ちょうど食べ終わったし、腹ごなしついでに学院内を散歩しながら作るものとか決めていこうかなー。

 

「ごちそうさま。今日もおいしかったよ。……二人とも、食べ終わったら――」

 

「お話の妄想恋愛ばっかり好きで、そんな耳年増になっちゃったんですねー?」

 

「妄想だけじゃないけれどね? ちゃんと経験者の下にも話を聞きに行って、来るべきときのために知識を――ああ、知識すらないアホの子にはちょっと高尚すぎたかな?」

 

「はぁー!? はあぁー!? べっつにー!? お話聞くくらい私もやってたしー!」

 

「ごめんよ。私も君みたいな脳きn――その、ほら、突撃一筋みたいな頭だったら理解もできたんだけどね。ふふ、ごめんよ?」

 

「脳筋って言おうとしたー! 絶対今脳筋って言おうとしたー!」

 

「――行こうかって言おうとしたけど、まぁいいや。シエスタ、二人には食後の散歩に行ったって伝えておいてくれるか?」

 

 まだわーきゃー議論してたので、シエスタに全投げして一人散歩に行くことにした。

 シエスタは苦笑いしつつも了承してくれたので、礼を言ってから厨房を出る。さて、久しぶりに図書館にでも行くかなー。

 

・・・

 

 図書館へと向かう途中。ぞろぞろと生徒たちが歩いているのを見て、授業がひと段落ついたのか、と知り合いの顔を探す。

 次の授業がある教室へ向かっているのであろう生徒や、休憩時間だからとテラスに出ていくもの。貴族たちの学校らしく、なんとも優雅な休み時間だ。

 探してみたものの、マスターやキュルケ、タバサの姿は見えない。ギーシュもこのあたりにはいないようだ。

 

「まぁ、いないものは仕方がない」

 

 しばらくきょろきょろ挙動不審になってみたものの、このままいても何があるわけでもなし。俺は再び歩みを進め――。

 

「きゃっ!?」

 

「っと」

 

「あ、ありがとうございま……あら、ギルさま?」

 

「おぉ、ケティちゃん」

 

 見覚えのある女の子と、ぶつかったのだった。

 ぶつかったケティちゃんに「ギルさまではありませんか! あの時以来お話も出来ずにいて少し寂しかったのですが、いざお会いすると言葉が溢れて止まりませんねそれでそれで……」とラッシュを喰らったので、落ち着かせてからテラスに向かうことにした。

 昼休みは人でいっぱいのテラスも、流石に授業間の休み時間では利用者も少ないのか、俺とケティちゃんは二人、目立つこともなく席に着くことができた。

 

「それにしても、確かに久しぶりだな。……そういえば、初めて会った時にあった悲しい出来事は乗り越えられたのかな?」

 

 ぎ、とイスに深く腰掛けながら、ケティちゃんに今までのことを聞いてみる。

 俺の言葉に、ケティちゃんは花咲くような笑顔を浮かべた後、俺と別れた後のこと……というよりは、あの決闘騒ぎの真相を教えてくれたのだ。

 ギーシュがシエスタに拾ってもらった小瓶でモンモンちゃんとのお付き合いの事実が発覚し、二股をかけられていたと知ったケティちゃんは、一発ギーシュをひっぱたいた後、どうしようもなく悲しくなってテラスを飛び出し、俺とぶつかったのだと説明された。

 

・・・

 

 ――あの時のことを思い出す。

 綺麗な金色の髪。燃えるような赤い瞳。細いのに、しっかりと受け止めてくれた腕。泣いているのを見られて、恥ずかしくて逃げちゃったけど、お礼を言っていないことに気づいてテラスへ引き返した。

 そこでは、ギルさまが学院のメイドの前に立ち、ギーシュさまと相対しているのが見えた。

 あれよあれよと決闘なんて騒ぎになって、その発端がギーシュさまの二股騒動だと周りのギャラリーから聞いて、恩を仇で返してしまったと思った。けれど、それを跳ね返してしまったあの謎のメイドたち。

 すごい、と素直に思った。あと、ちょっとだけ、ギーシュさまざまーみろ、とも。

 あの人が使い魔だと聞いたのはそのあとの話で、主人らしい桃色の髪の先輩に引っ張られていくのを見たこともある。今度会ったらお礼をしないと、と思っていたのだけれど、次に聞いたのはフーケ討伐のお話。勇敢な使い魔さんね、と思いそのお話もしたかったのだけれど、しばらく彼を見なかった。

 だから、今日会えたのはとっても嬉しい。この不思議な使い魔さんと、またお話ししたい。

 

「っと、そろそろ次の授業じゃないか?」

 

 これまでのことを簡単に説明していたら、周りにはほとんど人がいなくなっていた。

 いけない、思わず話し込んでいたみたい。慌てて立ち上がって、ギルさまにまたお話ししたいことを伝える。

 

「ん? ああ、もちろん。見かけたら声を掛けてくれ。俺も見かけたら声を掛けるよ」

 

「はいっ! それでは、失礼しますっ」

 

 ギルさまに見送られて、私は次の教室へと向かう。

 あんまりいいことがあったからか、お友達に怪しまれてしまったけれど、今日は良い日だわ。

 

・・・

 

 ケティちゃんと別れ、当初の目的地であった図書館へと向かう。

 少しだけタバサがいないかどうか確認してみたけれど、流石に授業をサボるような子じゃないからか、司書さんか教員のような人しかいなかった。さて、今回はマスターが話を通してくれているらしく、いくつか本を借りていこうと思う。以前約束した、語学授業のための教材探しである。

 マスターからはこんな感じのがいいんじゃない? と言われているので、司書さんに聞いてみたりして何冊か見繕う。借りるときはマスターからの署名入りの手紙を見せて、マスターの名前で本を借りる。

 

「よし、これで教材についてはオッケーだな。あとは……あ、厨房へのお礼のお菓子作り。あれどこでやろうかな……」

 

 厨房で作ってしまっては仕事の邪魔になってしまうかもしれない。かといって部屋に厨房作るわけにも……。

 

「あ、そういえばあの決闘の時の広場。あそこの一角に人気のないところあったよな」

 

 そうと決まれば善は急げ。まずは学院長に許可を貰いに行くとしよう。

 

・・・

 

 学院長に話を通しに行くと、「うむ、よいぞ」の一言で許されてしまった。

 フーケの件の報酬がまだだったから、という理由だったので、俺も遠慮なく甘えることにした。

 そして、やってきましたヴェストリの広場。俺の魔力を辿ったらしいジャンヌとセイバーが、シエスタを連れて追いついてきたのもここだった。

 

「いたー!」

 

「おおっと」

 

「捕まえましたよ! シエスタちゃんから聞いてびっくりしたんですから!」

 

「まったく、私たちから離れて単独行動するなんて、マスターの風上にも置けないね、君は」

 

 両脇から捕まってしまった俺は、とりあえず二人の機嫌を取りつつこれから使用する宝具を検索していく。

 

「……で、何するんです?」

 

「うん、拠点を作ろうかと」

 

 調理ができるような場所がないのなら、作ればいいのだ。

 というわけで、簡易的な拠点を作ることに。

 

「作るのは調理場だけですか?」

 

「ああ、今のところはそのつもりだけど」

 

「調理場だけじゃなくお風呂作ろう」

 

「あ、お風呂! お風呂いいですね!」

 

「そんなにスペースあるかなぁ……」

 

 うーん、と悩んでいると、セイバーがきょとんとしたままで口を開く。

 

「? 湯船置ければ良いんでしょ? それだったらほら、ここにぶち込めば?」

 

「いや、脱衣所と湯船二つ置くスペースなんて無いぞ?」

 

 セイバーが指し示した場所は、確かに湯船を置くスペースはあるが、男女で分けてそれぞれ二つずつ置くのは不可能だ。

 マスターの部屋を拡張しているような宝具はアレしかないし……と頭を抱えていると、更にセイバーが首を傾げる。

 

「だから、湯船は一個置ければいいじゃないか。なんだ、男女で分けようとしてたのかい? ……無駄なのに」

 

「無駄……だと……!?」

 

「無駄だよ、無駄無駄無駄ァ。ギルが入るほうに皆行くんだから」

 

 色々といいたいことはあったが……反論の言葉が見つからなかったので、お風呂は一つに。それも、銭湯や温泉のような大きなものではなく、家庭用浴槽を大きくしたような、三人くらい入ればいっぱいな風呂が完成した。

 調理場に使用しているコンロとは火元を別にしているため、宝具ではなく魔力の篭った宝石を使う方針に。生前作ったような宝具使用ボイラーはちょっと風呂場の大きさに合わないということで、没にした。流石に湯温が60℃超えるような風呂は嫌だ。対熱湯の耐性を持つ種族である『江戸っ子』ですら勘弁してくれという温度である。なんだったら物理的に被害が出るレベルだ。

 

「こんなものか。うん、良い感じじゃないかな?」

 

「うん、豆腐建築にならないのは凄いね」

 

「……豆腐?」

 

「いや、失言した。忘れて欲しい」

 

 出来上がった拠点……まぁ、見た目ただの小屋なんだが、それでも達成感は感じられた。

 それを見上げてぼそりと呟くセイバーは、なにやら眼から光がなくなっているような気がする。が、まぁ忘れて欲しいというのなら忘れてあげるとしよう。

 

「よし、これからはここが我らサーヴァントのマイルームみたいなもんだ」

 

「マイルームというのならルイズ嬢の部屋なんじゃないかな?」

 

「確かにそんな感じですね。マイルームってマスターのための部屋、みたいなイメージありますよ、私も」

 

「じゃあ、ここはサーヴァントルーム……か?」

 

「……サバルーム?」

 

「鯖部屋?」

 

「そんな、漁師の待合室みたいな」

 

 最終的に『鯖部屋』で落ち着いてしまったので、これからこの小屋は『鯖部屋』もしくは『鯖小屋』と呼ばれることとなった。なんでや。

 ちなみに、シエスタもメイド……大きな意味で『サーヴァント』なので、ここはシエスタも問題なく使える。それを納得させる為に俺とジャンヌは結構骨を折ったが。そろそろ俺達……いや、俺は雇い主っていう扱いだから仕方ないにしても、ジャンヌにはもう少し遠慮なくてもいい気がするけどなぁ……。

 

「ま、兎に角これからは何かあればここに来れば良い。侍女も一人置いておくから」

 

 少し騒ぎもあったものの、取り敢えずはマイルーム……いや、鯖部屋も出来たことだし、一件落着としよう。

 

・・・

 

 ジャンヌたちは「お風呂の試運転がてら汗を流しますね!」とセイバーとシエスタと共に浴場へ行ってしまったので、俺はマスターの部屋に戻ることにした。帰りがてら、そういや厨房できたからお菓子作れるじゃん、と思いついたので、この世界独特のお菓子の作り方が載ってる本があるかなと再び図書室へ。『お菓子』『作り方』くらいの単語はわかるので、探すのに苦労はしないと思うけれど……。

 そう思いながら図書室の扉をくぐる。司書さんの「また来たの?」という視線に苦笑と会釈を返しつつ、奥へと進む。小屋を建てたり内装を整えたりとしているうちに本日の授業は全て終わったらしい。ちらほらと生徒たちが見える。……あ、タバサ。いるかなーと期待してたけど、やっぱりいたか。取り合えず後回しにして、お菓子作りの本を探す。それっぽい単語の本をいくつか見繕って、タバサの元へ。

 

「よ、タバサ」

 

「……ん」

 

 隣に座った俺に少しだけ迷惑そうな顔をしたものの、返事はしてくれたのでまぁいいかと本を開く。

 俺が何を読んでいるか興味はあるのか、ちらりと視線を向けてくるタバサ。

 

「……お菓子?」

 

「ん? ああ、そうだよ。今度作ろうかなって思って」

 

「……味見役を、しても良い」

 

「えーっと、作ったお菓子の味見をしてくれるってことかな?」

 

 俺の言葉に、タバサは少しだけ首肯する。そ、そっか。前も思ったけど、この子健啖家だよな。今度鯖部屋パーティしようと思ってるから、そのときに出す料理の味見役をやってもらおうかな。沢山食べれるなら、色んな種類の料理味見してもらえるしね。

 

「そっか、それは良い事聞いたな。なら、色んな種類に手を出せそうだ」

 

「……たくさん、作る?」

 

「タバサが味見を手伝ってくれるなら、沢山作ることになるな。いっぱい食べれるだろ?」

 

 こくこく、と次ははっきりと分かるくらいに首肯するタバサ。

 

「よしよし。成長期にはいっぱい食べないとな」

 

「……成長に期待できるような歳はもう過ぎてる」

 

「あれ、そうなの? 十歳くらいだと思ってたんだけど……あれ、タバサいくつ? 十三くらい?」

 

「……十五」

 

「うっそ」

 

「ほんとう。……見えない?」

 

「いや、正直、そうだな、マスターと同じ十歳くらいかと……」

 

「? ……ヴァリエールは十六歳」

 

「うっそだろおまえ」

 

 マスターもタバサもちょっと幼くないです? いや、でももっと小さくて十八歳以上を知ってるからなぁ……。先入観というのは恐ろしいな。

 

「いや、ここで逆にキュルケが十三歳だったりとか……」

 

「確か、十八と言っていた」

 

「……そうか」

 

 後でシエスタの年齢も聞いておくとしよう。あの子俺の予想年齢十九なんだけど、実際はいくつなんだろうな。

 いやほら、長生きしてると一年の違いってあんま分からんのよ。何処かの吸血鬼さんも言ってただろ? 「私の図れる強さのものさしは一メートル単位。mmの違いはわからない」と。俺はそれの年齢バージョンだ。俺の年齢ものさしでは細かい年齢単位は分かり難いのだ。いや、そもそも女性って大体実年齢より下に見えるからそれもあるんだろうけど。

 周りのみんなの年齢に対してショックを受けつつも、本のページを捲っていく。精神状態にダメージを受けていても、頭は本の内容を記憶していく。お、これゼリーっぽくていいな。作ってみようかな。

 

「タバサはその、料理を作ったりはしないのか?」

 

「……しない。この学院の生徒で料理を作るような人はとても稀。いるとすれば……趣味でお菓子を作るくらい」

 

 そうだよなぁ。貴族の学校だものなぁ。自分で作るのは平民か趣味がある生徒かのどちらか、って感じか。

 

「あ、それならお菓子作りを趣味にしてる子とか知り合いにいない?」

 

「……そもそも、知り合いがいない」

 

「……すまん」

 

 表情は変らないものの少しだけ重くなった空気。

 これはなんていうか、申し訳ないことをしたな……。

 結局、それから俺が退出するまで、気まずい無言のままであった。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

クラス:セイバー

真名:上杉謙信 性別:女性 属性:秩序・善

クラススキル

対魔力:■++

騎乗:B

保有スキル

■は天にあり:A

■は■にあり:A

手柄は■にあり:A

矢除けの加護:A■

夜叉■■:B

守護騎士:B


能力値

 筋力:C 魔力:D 耐久:B 幸運:A+ 敏捷:A 宝具:A

宝具

■■■■■■(■■■■■■■■■■■)

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1人


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