ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「やっぱりさ、こう、新しいところに行ったら先に進むよりまずマップ全部うめたくなるよねー」「……あなた、ほんとにその神器タブレット使いこなしてますよね……なんですか、そのゲーム……私それ作った覚えないんですけど」「はっはっは、あんまり細かいこと考えるなよ神さま。禿げるぞ?」「はっ、ハゲねーし! このさらっさらの神様毛髪みえねーんですか!? まだまだタブレット作れるし!」「はいはい。あ、新しい神器作りたいから一本もらうなー」「あうっ。……これがヒモを養う女の気分なんですね……えへへ、もう二、三本いりませんかー?」「んや、今んとこだいじょーぶ。ありがとなー」「えへへーなでなでうれしーなー」「……悪い男にだまされそうだなー、この神様。……ああ、俺か、その悪い男」

それでは、どうぞ。


第一話 イチからの探索

 ……これは、少女が杖を振り下ろす少し前の話。

 

「こんにちわー。私ですよ」

 

「ん、ああ、神様か。どうした?」

 

 もう慣れた神様の襲撃を受け、意識をそちらに向ける。

 英霊……いや、神霊として座についてしばらく。特に呼び出されることも無くこうして座についていた。

 たまに昔なじみが顔を出してくれたり、俺が呼び出せる英霊なんかが遊びに来てくれたりと暇はしていないが。

 今日も今日とて特にやることも無いので座に記録されている情報を見て暇を潰していると、神様がやってきて俺の隣にぼすんと遠慮なく座る。

 

「今日も特に意味の無い訪問です。……あ、お土産ありますよ。プリンですけど」

 

「へえ、こっちにもプリンなんてあるんだ」

 

 ごそごそ、と袋から何処かで見たことのあるような容器に入ったプリンを取り出す神様。底のほうには『ぷっちん』するための突起が見える。

 

「もちろんです。……ちなみにこれ新商品で、カラメルソースとプリンの比率が逆転してるんだそうです」

 

「それ、プリンじゃなくて『カラメルソース』って言わないか?」

 

 少なくとも俺の知っているプリンではない。しかも、そうなると底面にある『ぷっちん』部分は何の為についているのかと言う疑問が生まれる。……まぁ、スルーするけど。

 人数分のプリンを持ってきたらしい神様は、そのうちの一つを俺の目の前に置く。テーブルの上に乗ったプリンは、確かにカラメルソースが容器の九割を占めていた。

 真っ白なテーブルと黒いカラメルソースがコントラストになって……いや、無理に良い所を探すのはよそう。

 

「あ、そういえば用あったんでした」

 

「なんだよ。それなら先に話してくれるか?」

 

「ええ。ついに貴方を召喚する方が現れます!」

 

「そうなんだ」

 

「……『そうなんだ』って、その反応の薄さはどうなの……?」

 

 いや、それ以外に反応の仕方ないだろ。どう反応しろと。

 

「それ、何処の聖杯戦争? っていうかむしろ俺を召喚できるの?」

 

 英霊のちょっと上。神霊という域まで上がってしまった俺は、そんじょそこらの魔術師に召喚、使役できる存在ではなくなってしまっただろう。

 なんせ維持するだけでも大魔術を常に使うような魔力消費を強制するのが俺だ。分身を飛ばす、なんてことをしない俺の存在は、使役する魔術師にとって『負担』としか言いようが無い。

 だが、それを無視できるのならば俺は無敵と言っても過言ではないだろう。英霊王と呼ばれる所以の宝具、『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』があれば、一人でも聖杯戦争が起こせるほどの戦力を生み出せる。

 

「聖杯戦争じゃないですよ。一人の女の子が、進級する為に召喚するんです」

 

「なにその無茶振り。廃人になりたいの?」

 

 召喚だけで聖杯戦争一回分。維持するだけで大魔術。そんな存在を『少女』が『一人』で召喚するなんて、正気の沙汰ではない。

 しかも理由が『進級するため』? サーヴァントを召喚しないと進級できないとか時計塔とはベクトルの違う馬鹿しかいないのか、そこは。

 

「まぁ、召喚から維持まではこちらからも支援するので、特にその少女がきついことは無いです」

 

「何でそんなに高待遇なんだ? ……まさか、またミスったのか?」

 

「うえっ!? そ、そんなにミスするわけないじゃないですか! ちゃんと決済する前に貴方のところに書類持ってってるもん!」

 

「……ああ、そうだったな。神様よりも下級のはずの俺が何で神様の書類に目を通さなきゃいけないのか分からんけど」

 

「……貴方優秀なんだもん」

 

 不貞腐れ始めた神様を何とか宥め、話を続けさせる。一日一回はこうして不貞腐れるので、今では対応も慣れたものだ。

 ……そして、彼女の仕事を手伝っているのは事実である。俺のような被害者を出すわけにはいかない、と言うことで、神様のフォローやらなにやらを仕事にしている。神様見習い、と言うところだろう。半神半人だしね。俺にも神様になる素質はあるのである。

 

「まぁ、兎に角あなたはこの少女の元へと趣き、『契約終了』するその時まで、その力となってあげてください」

 

「それは構わんが……制限とかは?」

 

「無いです。ステータス、スキル、宝具。全てお好きなもので行って下さい」

 

「……世界を破壊してこいとか、そういう?」

 

「ちーがーいーまーすーぅ!」

 

 それから、神様からいくつかの説明を受ける。

 どうも、また異世界らしい。だが、今度は剣と魔法のファンタジーだそうだ。その世界の知識だとか情報だとかは召喚式で送り出す直前に関連付けて送っておいてもらえるらしいので、とりあえず神様の言う通りの式を構築して召喚待機に入る。

 これからの手順としては、神様が俺と少女とを簡易なパスで繋ぎ、そのあと俺と神様がパスを繋ぐ。この少女との簡易なパスというのは、召喚するときの座標にするためだけのものなので、また召喚されたらその少女としっかりパスを結ばなければならない。……今は召喚後の俺に送るため、神様が召喚者の少女を端末に世界の情報を吸出し、それを俺に送る準備中、のはず、なのだが。

 

「おお? おい神様? なんかもう召喚始まってるんだけど?」

 

「え? は? あ、ちょ、そうだ、予定早まったんだったっ」

 

「え、どうすんの? 知識とかなんも貰ってな――」

 

 そんな俺の言葉は最後まで形にならず、ちゃんとした準備もできていないまま、件の『少女』の元へと召喚されるのだった。

 

・・・

 

「……ひ、人?」

 

 サーヴァントとして召喚され、目を開いた瞬間、聞こえたのはそんな呟きだった。

 俺を召喚しておいて、『人か?』とは失礼な奴だな。確かに人かと聞かれて即答は出来ない存在になってるけど……。体が完全に現界したのを確認して、辺りに目を配る。

 目の前に居るのはピンクブロンドの少女。隣に居る男は……親だろうか。髪の色が違うので、師匠とかかもしれない。周りを取り巻くようにざわついているのは、少年少女たち。

 ……服が一緒だな。制服? もしかしたら、軍隊か学校……あ、進級する為のなんとかって言ってたから、ここ学校か。

 ならば、このピンクは生徒、男は教師なのだろう。俺が召喚されるのは『少女』のはずだし、このピンク髪がマスターなんじゃなかろうか。そういう確認の意味を込めて、目の前の少女に話しかける。

 

「サーヴァント、ギルだ。召喚に応じ参上した。……問おう。君が、俺のマスターか」

 

 まぁ、うすうす答えはわかってる。目の前の少女と薄い繋がりを感じるし、状況的に彼女が召喚したのだろう。

 だが、これは双方の意思の確認だ。それで繋がりは更に明確になり、魔力のパスが結ばれる。

 ……まぁ、何故か神様が魔力の大半を賄ってくれているので、彼女が負担する魔力消費量は普通のフクロウとかを使役するのと同じになるだろうが。……本当に怪しい仕事を請けてしまったものだ。

 って、あー……予想外の召喚のせいで鎧着てくるの忘れた……いつもの黒いあの服である。……いや、だってほら、座とか言ってもさ、鎧で過ごすとやっぱり引っかかる部分も出てくるし……召喚するよってなったら鎧に着替える予定だったんだよ。……ほんとだぞ? 忘れてたとかじゃないからな?

 

「ま、すたー? ……さー、ばんと」

 

 確認するように、一言一言を呟く少女。すぐに頭の中で答えが出たのか、ハッとした表情で、こちらを見上げる。

 

「そっ、そうよ! 私が貴方を召喚したの!」

 

「了承した。ならば、今から君が俺のマスターだ。よろしくな」

 

 そう言って、手を差し出す。握手のつもりだ。少女もおずおずと立ち上がり、こちらに手を伸ばす。

 

「ルイズ。……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

 

「よろしく、マスター」

 

 小さな手を、握り潰さないように握る。白魚のような小さな手からは、ほのかな温かさと、令呪の輝きを感じた。

 そんな俺をちらりと見て、教師らしき男性がマスターに声を掛ける。

 

「ええと……ミス・ヴァリエール。取り敢えずは召喚おめでとう。それでは次は、コントラクト・サーヴァントを……」

 

「それについては必要ない」

 

 契約の儀に入れ、と言っている男性の言葉を、途中で切る。俺をサーヴァントとすることと、この『世界』での使い魔というのはちょっと扱いが違うのだ。

 こちらの世界では、召喚した使い魔に契約のルーンが刻まれるらしいが……俺はサーヴァントなので、契約のルーン――この場合は令呪になるが――はマスターに刻まれる。

 

「は……?」

 

「すでに契約は成っている。マスターの左手に刻まれた令呪が、その証拠だ」

 

 きょとんとした顔のマスターと教師が、同じところに目を向ける。マスターの左手に輝く令呪。その形は何かルーン文字に見えなくも無いが……。ちょっと模様寄りに崩れすぎているな。

 令呪の形に無理矢理歪めたルーン文字、という表現が一番近いか。ちなみに、マスターとの契約はきちんと結ばれたのだが、神様が召喚準備を中途半端にしてしまったので、この世界の知識も中途半端にしかきていない。追加で送られてこないということは、また向こうで何やら問題が起きているらしい。全く、問題を起こすことに関しては類まれなる才能を発揮する神様である。

 

「なんと! 主人のほうにルーンが刻まれるとは……! それにこのルーン、みたことのない……失礼、ミス・ヴァリエール。スケッチしても?」

 

「……え、ええ。構いませんが……」

 

 俺が内心で舌打ちをしていると、驚いた様子の男性が少女の手を取ってまじまじと令呪を見つめる。……ちょっと怪しいぞ? その光景。

 男性は懐からメモ用紙のようなものを取り出して、手早く男性が令呪をスケッチする。

 そして、未だにざわつく少年達に声を掛けた。やはり、教師のようだな。

 

「えー、おほん! これにて『使い魔召喚の儀』は終了します! 皆さん、ここで解散としますので、各々召喚した使い魔と交流を深めてください!」

 

 その言葉に、一人、また一人と空に浮かんでは大きな城のような建物に消えていく。……アレが、『魔法』かな。これで『剣と魔法のファンタジー』の『魔法』部分は見ることができたな。うんうん。

 飛んで建物に帰っていく者たちの中には、まだこちらになにやら言葉を向けていくのが居るようだ。……全て、好意的なものではないが。

 『ゼロのルイズ』や、『「フライ」も使えないんだから』、という言葉が聞こえる。マスターであるルイズが、手を握り締めて俯いているので、やはり悪口なのだろう。……何処でだって、こういうことがあるらしい。

 

「それでは、ミス・ヴァリエール。貴女も早速彼と交流を深めてくださいね」

 

 そんな彼女に気付いていないのか、教師の男も飛び去っていく。

 落ち着き無くそそくさと立ち去っていくのをみるに、どうもルイズの手の甲に刻まれた令呪の形が気になるらしい。

 こういうところに付き物の図書室か資料室で調べるのだろう。残されたのは、俺とルイズという小さいマスターだけである。

 少し気まずいが、動かなければ始まるまい。恐る恐る、小柄な少女に話しかけてみる。

 

「……ええと、マスター?」

 

「……戻るわよ。色々聞きたいことがあるけど、部屋に戻ってからね」

 

 俺が言葉を発するのと同時、マスターからも声を掛けられる。……うぅむ、へこんでいるようである。

 不機嫌そうなマスターにつれられ、大きな建物へと一歩踏み出した。……「他の少年達のように、飛んでいかないのか?」とは聞かないでおく。多分、出来ないか、やらない理由があるのだろう。少年達の野次的には、前者っぽいけど。

 ふむ……これでも座に上がる前は王にもなった身だ。少女に何か問題があるのなら、解決する手伝いくらいはしようじゃないか。

 とぼとぼと歩く小さな背中を見て、小さく息を吐いた。……これからは、俺が彼女を守るのだ。頑張ろう。

 

・・・

 

 部屋へと連れられると、マスターはベッドに腰掛けてふぅ、とため息をついて一言。

 

「……で、あんた何者なの?」

 

「説明は軽くしたはずだけど?」

 

 はは、と軽く笑いながらそう返してみると、ピクリ、とマスターのこめかみが脈動したような気がした。

 ……む、やべ、結構短気だぞ、このマスター。見た目的に十代前半だろうと思ってたけど、やっぱり思春期直撃の年齢か。

 難しい年頃だよなぁ、思春期って。俺も娘が思春期のときは苦労した。『お父さんの下着と一緒に洗ってって言ったじゃない!』とか、『何で私の入った後のお風呂に入らないのよ!』とか、気難しいことを言うようになったのだ。

 おそらく世間のお父さん方も、そういうことに苦労したんだろうなぁ、と友人に語ってみたところ、唖然とした顔をして『何を言っているんだ』と返されたほどだ。……何がおかしかったのだろうか。未だに謎なのである。

 俺がそんな懐かしい回想をしているとは露も知らないだろうマスターが、ヒクヒクと口を戦慄かせているのを見て、少しだけ慌てて話を元に戻した。

 

「いやいや、悪いな、緊張を解そうと思って」

 

「余計な気を回してないで、私が聞いたことだけ答えなさいっ」

 

「ん、オッケー。で、まず俺が何者か、だっけ」

 

 早くなさい、と視線でこちらを急かしてくるマスターに、どう説明したものか、と首を捻る。

 英霊もサーヴァントの概念も分からないだろうし……うぅむ、どうしたもんか。

 

「それにはまず、俺がそもそもどんな存在かって話になるんだけど……」

 

 言外に「長くなるよ?」と前置きしておく。マスターはそれが分かっているのかいないのか、イラついた様子で「さっさと話す!」と腕を組んで先を促してくる。

 それなら、と遠慮なく身の上を語って聞かせてやる。今日は寝かせないぞー、と内心だから許されるギリギリの下ネタもぶち込んでみる。

 

・・・

 

 何度も召喚に失敗したときは悔しくて泣きそうになったし、ようやく成功した、と思ったら黒い服を着た普通の人間が召喚されてがっかりしたりと今日ほど感情が動いた日はあんまり無いと思ってたけど……。目の前で話されている話に、とても現実感のある物語を聞いている気分になってくる。

 とても信じられる話じゃない。何を馬鹿な事言ってるの、って一言で否定できるような、適当に思える話。

 一通り話し終えた使い魔が、小さくため息をついて頷きながら満足そうに私に聞いてくる。

 

「ま、こんな感じかな。どう? 俺のこと大体分かった?」

 

「……私の表情見て、大体分かってると思う?」

 

「いやはや、中々複雑そうな表情してるな。はっはっは、質問あるなら受け付けよう」

 

 目の前で高らかに笑う使い魔に一瞬怒りが湧いてくるけど、何とか抑えて口を開く。こいつは、話の中で『一度死んでいる』と言った。その後『座』と言うところに行った、とも。そのあたりのことを聞くに、その、こいつは幽霊なのだろうか。そんなことを尋ねてみる。

 すると、この男は朗らかに笑って口を開いた。

 

「ん? ……幽霊とはまた違った存在かなー」

 

「……その『一回死んだ』あんたが、何で私に召喚されたわけ?」

 

「君が呼んだからだよ」

 

 何を当たり前のことを、なんて言いそうな顔で、目の前の使い魔……ギルは言い切った。

 私が呼んだからそれに応えたのだと、恥ずかしげも無く。あまりにも自然な笑顔で言い切るものだから、なんだか私のほうが気恥ずかしくなって顔をふいと背けてしまったほどだ。

 こいつの話を信じるなら、一度死んで、英霊という存在となった後、私の『使い魔よ来い』と言う『サモン・サーヴァント』の魔法に応えてくれた、ということになる。

 ……むぅ、なんというか、悪い気はしないものである。私の進級とか、その他諸々のプライドもかかっていたからなおさら。

 

「そ、そう。ま、まぁ当然よね! この私に呼ばれたんだし!」

 

「ああ、そうだとも。自信を持てよ、マスター」

 

 なんだ、話の分かりそうな使い魔じゃない。最初は人間だからってちょっとがっかりもしたけど……意思疎通のしやすさとか、維持のしやすさを考えればいいところもあるのかもね。竜とかだったら困ったりしたかもしれないし。……べ、別にお金が無いわけじゃないけどっ。

 まぁ、そこまで分かれば後はこっちからも確認をするだけだ。こほん、と一つ咳払いをして、ギルに一つ一つ教えるように確認していく。

 

「それで、あんたは今日から使い魔として働いてもらうわけなんだけど……使い魔には三つの仕事があるわ!」

 

「ほう」

 

 感心するように頷くギル。聞く耳を持っていることは良い事だ、と満足しながら、まず一つ目、と人差し指をピンと立てる。

 

「一つ目は、主人の目となり耳となる能力が与えられる! ……らしいんだけど」

 

「……ふぅん? ……接続切っとこ」

 

「? なんか言った?」

 

「いや、なんにも?」

 

 何度か頷いた後にぼそりと何か言われたような気がしたけど……まぁ、空耳かしらね。集中して、目の前のギルの視界を見てみようと試みる。……うぅ、見えない。

 耳は……おんなじ部屋にいるんだからおんなじ音が聞こえるわけだし、確認は出来ないけど……多分こっちも望み薄だろう。

 

「ま、まぁコレはおまけみたいなもんだし、次よ、次! 二つ目は、主人のために秘薬の材料を採取してきたりするんだけど……」

 

「んー、採取『は』得意じゃないかなー。……宝物庫漁ればあるし」

 

「むぅ、そうよねぇ」

 

 またなんか言っていたような気もするけど、特に大事なことじゃないだろう、と追求することなく私は話を進める。

 

「じゃあ三つ目! 主人のことを護る! ……って、あんたみたいに細身じゃあねぇ」

 

 たとえ鎧を買い与えて着させようと魔法を使う相手には敵わないだろうが、それでも護衛くらいにはなるだろう。まぁ、顔はいいし、侍らせるだけでも良さそうだけど……。

 

「あんた、戦ったりしたことあるの?」

 

 主人のことを守るためには、体を鍛えたり、戦いの経験を持っているのが一番なのだろう。そう思って聞いてみたのだが、こいつは軽く笑って頷く。

 

「もちろんあるよ。これでも体は鍛えてるんだ」

 

 触ってみる? と腕を差し出されたので、少しドキドキしながらも触ってみた。私やちぃねえさまと違って、硬い筋肉を感じる。

 ……ふむ、これならばある程度重いものも持てるだろう。雑用としても使えるかもしれない。

 

「ま、あんたの実力はいつかみるとして、今できることといえば……」

 

 ぐるりと部屋を見回す。うん、これしかないっ。

 

「掃除、洗濯、その他雑用っ」

 

「お、おう。……了解した」

 

 少しだけ狼狽えているらしい使い魔をよそに、私はそろそろ寝るか、と制服を脱いで、そのままぼうっとほうけている使い魔に洗濯物を籠ごとぺいっと渡す。

 受け取ったギルは、そのカゴをキョトンとした顔で一瞥してから小首を傾げる。

 

「ん? 流石に洋服だけ渡されて興奮する趣味は無いけど?」

 

「洗濯して来いってことよ! さっきも言ったけど、身の回りの世話はあんたの仕事なんだからねっ」

 

「ふむ、なるほど」

 

 そう呟いて、ギルはその籠を扉のそばに置く。

 

「俺は寝食は必要ないから、ここで寝ずの番でもしてるよ。……それじゃ、ゆっくり寝るといい。お休み、お嬢様(マスター)

 

 ……そういえば、『英霊』って存在だから、睡眠は必要ないって言ってたわね。じゃあ、あの藁もわざわざ集めた意味無かったなぁ。そんなことを考えつつも、今日一日の出来事で疲れきっていた私は、すぐに眠りに付いたのだった。

 

・・・

 

「さて」

 

 すぅすぅと安らかな寝息をたてて寝ているマスターから、窓の外へと視線を移す。……空に浮かぶのは二つの月。うん、世界が違うね。魔術基盤も英霊って概念も無いだろうに、この子良く俺を召喚できたな。ああ、いや、そうか。神様に『召喚させられた』みたいなもんだもんなぁ。一つ息をついて、そのまま窓を開け放つ。

 

「……同じような塔が五つ。真ん中に大きい塔が一つ……。ふんふん、ここは女子寮みたいなところなんかな?」

 

 渡り廊下があってそれぞれの塔が行き来できるようになっているようだ。……あのデカイ塔には、色々とありそうだな。

 

「ここからなら、跳んでいけるか」

 

 一人自動人形を出して、マスターの見張りを頼む。……まぁ、例え途中で起きたとして、目の前に見知らぬメイドいたらびっくりするかもしれないけど……そこはそこ。ある程度諦めながら、俺は窓際から跳びだした。

 

「……っとと」

 

 ちょっと跳びすぎたようだ。窓に突っ込んで一瞬だけ霊体化して侵入しようと思ってたけど、跳びすぎて塔の頂上まで行ってしまった。

 いやほら、筋力判定振ったらクリティカル出ちゃって、いつもより跳んじゃった、見たいな。え、わかりにくい? んなばかな。

 

「まぁ良いや、ここから霊体化すれば……ん?」

 

 足元の塔に視線を向けていたのだが、ふと気配を感じて顔を上げる。……かなり薄い気配だな。遠いか、それとも弱っているのか……。

 

「……なんだか、懐かしいような……。ふぅむ、俺のスキルじゃそこまでの気配察知は無理か……」

 

 化け物じみたランクの気配察知スキルがあれば何の気配かは分かるんだろうけど……気配察知スキル自体持ってないからなぁ、俺。千里眼であたりを見回してみるも、特に怪しいものは見当たらなかった。しばらくすると、辛うじて感じていた気配自体も段々と消えてしまった。

 

「気のせい……かな?」

 

 あまりの気配の薄さに、俺の気のせいだろうと結論付ける。……まぁ、ちょっと気になるっちゃ気になるけど。

 

「さてと、気を取り直して、侵入侵入っと」

 

 最初は霊体化しようと思っていたのだが、窓が一つ開いていたので、そのまま入らせてもらった。いちいち霊体化して視界が切り替わるのも面倒だし。

 辺りを見回して、まず目に入ったのは重厚な扉。見上げるほどの大きさだ。

 

「ここは……図書館、かな」

 

 扉に手を掛けてみるが、もちろん鍵がかかっているようだ。うん、明日日が出ている間に来るとしよう。ええと、後は……お、デカイ扉。なんだろ。大広間とか? ……ここも当然、鍵が掛かっていた。うーむ、閉まっている扉が多くて探索が捗らんな。

 

「む、俺の宝物レーダーがびんびん反応している」

 

 父さん、妖気です! というやつだ。いや、アホ毛とか無いけど。っていうか妖気じゃないけど。

 

「ということは、宝物庫みたいなところもあるんだな、学園なのに。……いや、学園だからこそ、なのかな」

 

 どんどん下に向かって歩いていくと、厨房も発見できた。

 もちろん人はいなかったが、設備はとても整っているようだ。……ということは、こっちの扉は食堂に繋がってるのかな?

 

「ふむ……今度ここの人の料理を味わってみたいものだ」

 

 食事は基本必要ないとはいえ、味を楽しんだり食べたものを魔力に変換できたり出来るので、不要というわけではないのだ。まぁ、何かあったときに単独行動できるくらいの魔力は貯蔵しておきたいしね!

 

「……学園内はこんなものか。初日だし、あんまりおおっぴらに動くのはやめておこう」

 

 そう切り替えて、侵入してきた窓に再び戻る。ここからジャンプすればまたマスターの部屋に戻れるだろう。踏み込んで跳べば、丁度マスターの部屋の空いている窓からそのまま戻ることが出来た。 

 窓の傍に自動人形が立っていたので、おそらく気を利かせて開けてくれたのだろう。さすが完璧な人間。

 

「っと。ありがとな」

 

 無事着地して、今まで見張りに立っていてくれた自動人形を労う。くしゃくしゃと頭を撫でてやると、うっとうしそうにしながらもされるがままになっている。

 さて、取り合えず頭の中で今までの情報で地図を構成していく。うん、コレで学園内の構造は大体オッケー。

 あとは実際に中に入って細かいところを確認するだけだ。……というか、学園ってことだからあんまり脅威とかなさそうなんだけど。軽く確認した限りでも、危なさそうなところは無かったし。

 ……ふぅむ、神様は何を危惧して俺を送り込んだんだろうか。しかもこんなに良い待遇で。

 

「ま、それは追々、かな。なぁ、マスター」

 

 何か嫌な夢を見ているのか、魘されているマスター。その額に張り付いている前髪をそっと直してやって、布団を掛けなおす。全く、もう一度子供を持つようになるとは。懐かしい感覚だ。さて、やることもなくなったし、暇つぶしでもするか。

 

「よし、じゃあ自動人形。二人で神経衰弱しようか。三セットくらい使ってさ」

 

「……」

 

 ぶんぶんぶん、と激しく首を横に振る自動人形に、そうか、楽しいんだけどな、としょんぼりしながら取り出したトランプ三セットをもう一度しまう。むぅ、じゃあ何するかな。

 

「じゃあ人生ゲームとか? あ、モノポリーもあるけど」

 

 ぶんぶんぶん、と再び激しい拒否。えー、楽しいのにー。

 

「あ、それなら君が何か提案してくれるか? 二人でやって楽しいこと」

 

「……」

 

 ごそごそ、ぺい、と俺に投げられたのは、毛糸と編み針。え、縫えと? 何を?

 

「……」

 

「あ、マフラー?」

 

「……」

 

 こくこく、と首肯される。ああ、そう。え、151人分? 嘘でしょ。何その数。え、自動人形の分? そんなにいるの? って言うかそんな初代のポケットにはいるモンスター見たいな数いるのかよ。絶対後半になるにつれて増えるだろ、それ。

 ……まぁ、いつもお世話になってるし、編めといわれれば編むけども。

 

「……」

 

「え、何で撫でられてるの、俺。凄いほっこりとした感情伝わってくるんだけど」

 

 何故撫でられているかは疑問ではあるものの、まぁ気分悪いものじゃないし、とされるがままになっておく。あのね、長生きすると撫でることは多くなっても撫でられることは皆無になるからね、うん。

 

・・・




「……ん?」「どうしたの?」「……いや、一瞬懐かしい気配が……気のせいかな」「それよりもほら、ごはんだよー!」「ああ、うん、今行くよ」


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