ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
「――だからって、ネットスラング講座開いてるのはおかしいよな?」「ほかの人も開いてるじゃないですか! 静謐さんの『彼の胃袋を薬理的に掴む料理講座』とかダヴィンチさんの『彼を工学的に虜にする方法講座』とかおーちゃんの『息子、娘と楽しむための折り紙講座』とかがあるからこれもいいかって思ってぇ!」「……いや、その理屈はおかしい。っていうか、そんなに講座あんの?」「何だったらあなたの召喚できるサーヴァント全員講座もってますよぉ!」「全員!?」
それでは、どうぞ。
「あ、せっかく来たんだし、飲んでく?☆ お茶とかないけどー☆ あ、ジュースあるよぉ☆」
このジャラジャラした装飾品も、時代を間違えたとしか思えない服装も、腕に巻くシルバー代わりにされている『天の鎖』も!
『神』を拘束したり変身させたりするものばっかりだ! だから霊基がずれて、こんなケバ……顔色悪くなってんのか!
「……あー、その、なんだ。神様、だよな? あの土下座の」
「へ?☆ なにそれマジウケるー!☆ そだよー!☆ ウチが、あのゲザの神様だよー?☆」
ゲザ? ……あ、土『下座』? え、そう略すの? かなり初耳だけど!?
笑いながら食欲減衰しそうな原色のジュースを出してきた神様は、きゃぴるんと着席する。……今座った瞬間に星が飛んだぞ。どうなってんだこの神。
「えーと、何があったんだ? そんな、霊基っていうか、そもそもの権能すら書き換えてないか?」
彼女から感じるのは、いつもの温かい鼓動ではなく、癒しの波動だ。
「んー?☆ ウチのこと、そんな気になるぅー?☆ マジMK5-☆」
「……MK5?」
「マジで恋する五秒前ー☆ って、もう恋してたしー☆」
「あぁ、はいはい」
ようやくショックから立ち直って冷静に神様の対応ができるようになってきた。この神様はあれだ。流れで適当なことを口にしているだけだと分かった。いつもの神様なら、こんな頬も染めずに恥ずかしいこと言えないし、てへぺろこつんとあざといことはしない。千里眼で詳しく見ようにも、なんだかんだで俺より位階の高い神様を読み取り切ることはできず。
さてどうしようかと頭を抱えそうになったとき、神様に変化が訪れた。
ぴたりと動きを止め、浮かべていた笑顔が消える。なんだろう、腹筋が攣ったのを我慢している様な、苦しそうな顔だ。
「あ、あぅ、あ……オー……の……も、が……」
「っ、神様!? 霊基が戻ってきたのかっ」
俺の言葉に、机に突っ伏しそうになりながらも、神様はうなずいた。
「ちょ、と、だけ……だけど……今は、これしかできない、けど……また、きて。『変わった』私も、あなたの味方、だから」
「これは……」
スキルの一つが解放され、更新されたのを感じる。
「ほかのスキル、変えたいけど……今は、それが、精一杯……」
その言葉を最後に、がくん、と頭が机に落ちる。ごづん、と痛そうな音を立てたものの、神様はなんでもなかったかのように顔を上げ。
「ふぇっ!?☆ な、なんだろ~☆ 居眠りしちゃったぁ☆」
「ん、ああ、そう、だな」
再びてへぺろこつんと照れる神様に、笑いかける。思わず頭を撫でそうになって、そのペガサス盛りを崩しそうだ、と躊躇する。寸でのところで頬に手を当てて、むにむにと頬をいじる。
「ひゃぁ?★ ど、どしたのー?★」
なんというか、跳ねる星が少し雰囲気を変えたように感じた。戸惑っているからだろうか。
「神様。必ず元に戻す。待っててくれ」
「?★ ?★ よ、よくわからないけど~……★ 待てっていうなら、待つよっ☆ ウチ、いい女だしっ☆」
「……ああ、神様はいい女だよ」
自分の体が黄金の粒子になっていく。……ここにいるのも限界が近いらしい。ラインを辿って無理やり来たようなもんだしな。
……また来れるのはいつになるやら、と思っていると、目の前の神様が、先ほどまでとは違う、穏やかな笑みになって一言。
「……待ってる、からね☆」
……凄まじいヤマンバメイクのギャル顔でそういうまじめなことを言うんじゃないよ……まったく。
・・・
「……っと」
意識が戻ると、それを察したように自動人形がこちらに近づいてくる。すっと差し出された水を貰い、飲み干す。……うん、あの原色ジュース、凄まじい味だったからな……。飲み干したコップを渡すと、ジャンヌとアサシンが実体化する。今までは霊体化していたらしい。
「おかえりなさい。その……様子はどうでした?」
「いや……うん、色々と、様子がおかしかったな……」
「最初にお話しした時とずいぶん……ええと、様変わりしていたようなので……」
あれは『様変わり』で収まるもんじゃないだろう……。もうちょっと詳しく説明してもらいたかったぞ……。
「ああ、あの様子は、やはり常とは違っているものだったのですね。初めて会った時は初雪のように白い肌でしたのに、急に日焼けでもしたのかと小麦色を超えた……その、なんでしたっけ。しげる色? そんな黒々とした色してましたもの」
しげる……? あ、某松崎さんか。なんて表現教えられてるんだアサシンは。教えたのは……今数名思い浮かんだので、あとでその筆頭の迦具夜にはとても嫌なものを送っておくとしよう。
兎に角、目覚めたのなら色々と確認する事がある。元々あった『女神の加護』スキルを変更した、このスキル……『癒しの加護』は、おそらく今の土下座神様の権能の一部を借り受けたものになるのだろう。
『呪い』『毒』『封印』『麻痺』などの弱体化スキルを無効、回復するスキルだ。『女神の加護』と違って、『運命への介入』『生死の逆転』『最高神の一部権能の行使』などは出来なくなったが、それでも魔法のあるこの世界では破格のスキルだろう。ランクもB++と高めだ。
流石に自分より高位な存在である土下座神様の解呪は出来ないようだが……まぁ、魔力のラインはまだ繋がってるから、いけるようになったらまたあの部屋に行くとしよう。……いま確認してみたが、すぐにはいけないようだ。今回無理矢理通った所為で俺と神様のラインが緩んでしまっている。もう一度すぐにいけないことは無いようだが……その場合は消滅して『座』に戻るまで神様とのつながりはなくなると見ていいだろう。
「……その顔を見るに、余りいい情報は得られなかったようですね」
「まぁ、情報量そのものは多かったけども……」
情報が多すぎて「どうかなってる」のは分かったけど、「どうなってるのか」は分からなかったからな……。
「でも、すぐにまずい状態ではなさそうだったんだよな」
「ふむ……では、しばらく様子を見ることにして……こちらはこちらで大マスターを見守ることにしましょう」
「ですねぇ。大主さまはあのランサーのサーヴァントを召喚した男に狙われていましたし……いつもより眼を光らせることにしましょう」
アサシンの言葉に、俺とジャンヌはうんうんと頷く。
そこで漸く周りを見る余裕が出来たのだが、未だに二つの月は昇っており、まだ夜のようだ。
「と言ってももう夜更けです。そろそろ空も白んでくる頃ですよ」
ベッドに眠るマスターは、未だにすぅすぅと静かに寝息をたてている。布団がずれているので、それを直すついでにマスターの頭を撫でる。
「……良く寝てますね」
「だな。ははは、起きてるときはやんちゃな子だけど、こうして寝てると年相応の顔してるよなぁ」
「ふふ、流石は『子供で国が出来る王』と呼ばれただけはありますね……」
「……それはまぁ、若気の至りというか」
「へえ、若気の至りでああいうことするんだぁ」
「え、何の伝承見た? ……あれか? ……それともアレか?」
凄いねっとりとした顔をしてこちらをニヤニヤ見上げてくるジャンヌに、俺は首を傾げつつ記憶を探る。
俺の話は何故か世界中に散らばってるらしく、関係のない英霊とかに話が通ってることがある。聖杯ではなく俺の宝具で召喚された英霊たちは基本知識や常識を俺から得るので、そのつながりなのか俺の知らない俺の伝承を知っていることもあるのだ。
「どれでしょー? いやー、マスターをからかうのは楽しいなぁ」
「それで後になって仕返しされてひぃひぃ言うのはあなたですよ?」
「うぐ……」
顔を真っ赤にしてしまったジャンヌを、アサシンが笑いながら撫でる。同じくらいの年齢で召喚されているので、仲もいいのだろう。良いことだ。
「そうだ。これからの基本方針だけど……。アサシン。君には基本的に気配遮断や霊体化でマスターの周りを守って欲しい」
「了解です。……あの、上手く出来れば褒めて……くれますよね?」
「もちろん。益も無いのに俺の召喚に付き合ってくれてるんだ。見返りに、俺に出来ることなら何でも言ってくれよ」
「……ん? 今なんでもするって」
「言ってないから黙ってような、ジャンヌ」
お決まりのネタをぶち込もうとするジャンヌを黙らせて、こいつ外見だけじゃなくて中身も迦具夜に似てきたな、とウチの筆頭問題児にお仕置きを決定しつつ、次にジャンヌに声を掛ける。
「ジャンヌは俺と一緒にマスターの近くに着くぞ。タンク役だな」
「……女の子タンク役にする英霊王……」
「言うんじゃない。宝具とか立ち回り的にジャンヌを前衛に置かないとなんだよ。……まぁほら、ちゃんとしたセイバー召喚するから」
「女の子の、ですよね?」
「……そうなんだよなぁ」
宝具の特性的に、どんな強い英霊を呼ぼうとも『女性の後ろで守られる俺』というのは覆らないのだ。悲しいことに。いや、たまに女性じゃないのも来るけどさ。
まぁ、その……後方火力型の英霊である為にあんまり前衛戦に向いていないのもあるんだけど……。
「ま、いいですよー。どんなの呼ぶか気になりますし。ふふ、お友達になれるような、やさしい子がいいかなー」
そう言って、ジャンヌははっ、と何かに気付いたかのように眼を見開いた。
「そっ、そうだっ。お友達っ。シエスタちゃんにまだただいま言ってないです!」
「……マスター寝てるから、静かになー?」
この部屋自体に結界宝具を置いているので、この部屋の外へ音は漏れないし、外側からある程度の魔術までなら遮断し、中での魔術行使は妨害されるようになっている。
更にマスターのベッド周りはもう一段階結界を張っていて、あんまり部屋の中の音も届かないようにはなっているが……こんな使い手でもないキャスタークラスでもない俺が使った結界宝具なんて高が知れているので、大きすぎる声を出されるとベッドのほうの結界は音を通してしまうのだ。
ある程度の会話なら問題はないが、今のジャンヌのように大声を出されると……。
「うぅん……?」
「……ほらー」
むにゃむにゃ言いながらマスターが目を開きかけているので、近づいて何度かおなかの辺りを優しくぽんぽんと叩く。
「まだ寝ててもいいぞー」
「……んぅ、寝るぅ」
……うんうん、この数日間、十歳の君には中々ハードな日々だったよなぁ。そういえば、タバサも年齢は聞いていないけれど同い年くらいだろうし、後で彼女にも話を聞いておかないと。なにやら凄腕らしきことはオスマンが言っていたけれど……それでも、少女には変わりない。キュルケは……何だかんだハートは強そうだ。だけどまぁ、またお茶に誘うとしよう。
そんなことをつらつらと考えながらマスターを寝かしつけていると、また穏やかな寝息が聞こえてくる。
「……よし」
「手馴れてますねえ」
「そりゃな。何人の子供を寝かしつけてると思ってるんだ」
確かに、と苦笑するジャンヌとアサシンに俺も笑いかけて、それでは今日は解散、と告げる。
「召喚は明日の昼ごろ試す予定だから、その間はジャンヌ、アサシン共にマスターについてて欲しい」
「はーい」
「わかりました」
今日は特に予定も無い、普通の授業の日のはずだ。午前中は朝の用意やら帰ってきた挨拶やらをして、昼に英霊召喚。そして、午後はその召喚した英霊と話し合いをして、今後の方針を決めるとしよう。
霊体化する二人を見届けて、俺は何時も通り宝物庫から出した椅子に座った。……さて、今日は何して暇潰すかなぁ。
・・・
朝、マスターはゆっくりめに目覚める。その頃には俺も読んでいた本を閉じたりやってた作業を一時中断して、マスターの部屋からそっと出ていく。
なぜかはわからないが、急に着替えを見られたりするのを恥ずかしがり始めたので、こうして気を使っているのだ。……本人から言われたわけではないのだが、自動人形から着替えを渡されたマスターがいそいそとベッドに仕切りを作り始めるようになったので、こうして自ら出ているのだ。
「……ふぁあ……。おまたせ」
「あくびをしながら出てくるなんて、行儀が悪いぞ、マスター」
「うっさいわね」
指摘されたのが恥ずかしかったのか、マスターは少しだけ頬を染めて、そっぽを向きながらそう答えた。
部屋の中で自動人形にきちんと身だしなみを整えられているからか、服装だけではなくチャームポイントのピンクブロンドの長髪も整えられていた。ぷいとそっぽを向いたときにふわりとそれが広がるのだが、そこに自動人形の仕事の完璧さと、そしてマスターの元々の美しさが表れていて、とてもほっこりとするのだ。
「朝ごはん、厨房に食べに行くんでしょ?」
ジャンヌをちらりと見て、マスターがそう言った。
マスター個人としても一緒に食堂で食べる許可を取ってもいいとまで言ってくれていたのだが、俺にジャンヌにアサシンに、となると流石にマスターへの風当たりも負担も大きくなってしまうだろう。一応俺の扱いは『使い魔の変な平民』ということになっているのだし、ジャンヌなんかは『護衛の平民』くらいの認識だろう。アサシンに至ってはそもそもここにきてひと月もたっていないし、気配遮断で常にマスターを陰から見守ってもらっているせいで、生徒たちには認識すらされてないだろう。
「はい! シエスタちゃんにもあいさつしなきゃですし!」
「マスターはゆっくり朝食をとっておいで。こっちはこっちで済ましておくから」
「ん。わかったわ。今日も一日することもないでしょうし、自由にしてていいわよ」
帰ってきてからの行動としては、マスターがまた学院生活を送る上で、アサシンが見守り、俺とジャンヌが一応部屋に詰め、一番近くで世話をしたり不測事態に対処する自動人形がついて、という形をとっている。
マスターが授業を受けていたりする時の、貴族以外がいると目立つときにはアサシンが見ていてくれて、それ以外は自動人形がそばについていてくれている。
ということで、マスターの厚意に甘えて、俺たちは厨房へと向かうことになったのだった。
・・・
「マルトー、シエスター。いるかー?」
朝食の時間も終わりかけなので、厨房はもう後片付けに入っているようだった。
その中に顔を出し、二人を呼ぶ。俺のことを覚えてくれていたらしく、厨房のコックたちが呼びに行ってくれた。
「おぉ! 久しいな我らの英雄!」
「ああ、その呼び方は久しいなぁ」
でも俺のことはギルって呼んでくれって言っただろう? と笑いかけると、マルトーも呵々と大笑した。ばんばんと肩を叩く彼は、俺と共にいるジャンヌを見ると、おお、と感嘆の声を上げた。
「お前さんのことはシエスタから聞いてるぞ。仲良くしてくれてるみたいじゃねえか」
「はい!」
マルトーの言葉に
ジャンヌは笑って答える。マルトーはそいつはよかった、とまた笑う。
「もう片付けも終わるからよ、一緒に賄いでも食ってけよ!」
腕を振るうからよ、とマルトーは腕まくりをして厨房へ消えていく。座ってろ、と言われたので、ジャンヌと共にシエスタを待つことに。
少しして、料理のいい匂いと共に軽い足音が聞こえてきた。
「お待たせしましたー」
「シエスタちゃんっ!」
料理をテーブルへ運んできたのは、久しぶりに会うシエスタであった。
何週間も経っているわけでもないのに、なんだか懐かしく思ってしまうのはあの日々が濃かったからだろうか。
「お久しぶりです、ギルさん、ジャンヌさん」
「うんっ、お久しぶりっ」
それから、二人は今までの空白期間を埋めるように食事をしながら姦しく楽しそうに盛り上がっていた。
「それで、その時に大きいゴーレムが……!」
「ええっ!? ぶ、無事だったんですか!?」
「なんとかねー。あ、その時は傭兵も来ちゃって大変だったんだから!」
色々喋っているジャンヌだが、密命に関して話さなければある程度は話していいと伝えている。
シエスタもそんなに口の軽いほうではないだろうし、人に広めるようなことはしないだろう。
「すごいことになっていたんですね……」
今まで学院の中しか知らなかったシエスタが、実際の戦いの話を聞いて怖がったりしないかと心配だったが、杞憂だったようだ。
驚いたりしているものの、ジャンヌの話を聞いてドキドキワクワクしている様なので、大丈夫だろう。
二人の話を聞いていると、どぉん、と爆発音。……ああ、マスターか。次は何爆破したんだろうか。
「す、すごい音がしましたね……」
「多分マスターだな」
「あー、あの魔法ですか……」
っていうか防音の魔法とかかかってないんだろうか、あの教室……って、そういえばマスターの魔法は宝物庫の『固定化』も破壊するレベルの爆発だったか。それなら防音を突き抜けてくるのも納得だ。
……というか、爆発させてしまったのなら片づけに行くか。俺の宝物庫があればまた短い時間でできるだろう。
かたん、と立ち上がる。食事も食べ終わっており、食後のお茶を飲んでいる今の状態なら、食器を片付けて教室に向かえばちょうどマスターが所在なさげになっているころだろう。まったく、またクラスメイトの挑発か何かに乗ったのだろう。怒りの感情から魔力の収縮、爆発まではほとんどタイムラグなかったからな。
最初の時の錬金の時みたく、また授業中に何か実習を告げられて、それで暴発したに違いない。
「申し訳ないけど、ちょっと後片付けに行ってくるよ。ジャンヌ、シエスタと一緒にいてもいいけどどうする?」
「んー……いえ、私もお手伝いに行きますよー」
「あ、なら私も……」
「いいのか?」
シエスタは厨房の仕事があるんじゃ、と思ったのだが、それもあるんですが、と前置きして話し始めた。
「あの、以前お話しされてた、ギルさん専属のお話ですが、学院長までお話ししてくださったんですよね。辞令というか、もう半分ギルさんの専属になってるみたいで……」
ああ、あの。そういえばオスマンにフーケ討伐やら密命の件やらで恩着せがましく褒美をねだって、シエスタの件ねじ込んでたんだった。
「今まではギルさんがいなかったので厨房優先だったんですけど、ギルさんが戻ってこられたのなら、私はそっちを優先にするように、って。マルトーさんも了解してくれてるので、ここにいる間はギルさんのお傍につかせてください」
そういって笑うシエスタに、それはありがたい、と返す。
これで、こちらの常識を教えてくれる子がまた一人増えたのだ。しかも、貴族ではわからないこととかを知っている可能性が高いので、それも期待できるだろう。それに何より……。
「じゃあ、行きましょうか、シエスタちゃん!」
「はいっ。お掃除は得意なんです!」
ジャンヌの友達になってくれるというのが、一番ありがたいことなのかもしれない。
・・・
「ああ、いたいた」
「……ギル」
俺の予想通り教室を掃除しているマスターが、俺を見つけて気まずそうに顔をそむける。
「うひゃあ、すごいことになってますねぇ。なんで爆発して水浸しになるんです?」
うるさいわね、とジャンヌに答えたマスターは、コルベールの油の入った発明品を爆発させ、それが燃え広がりそうだった時に水魔法で消したためにこの惨状なのだ、と説明してくれた。
あー、水魔法か。消火活動したのなら仕方がないな。
宝具で水を操るのは若干の得意分野なのだ。さて、自動人形にはマスターの着替えと掃除の手伝いをしてもらうとして。
「シエスタ、水を集めるから、捨ててきてもらってもいいか?」
「え? あ、はい。大丈夫ですけど……水を集めるならモップが必要ですよね? 持ってきますね」
「いや、大丈夫」
「え?」
「これを使えばすぐ解決だ」
そういって、俺は『水を集めて球体にする魔術』を使用する。これは魔術書の宝具を使っているので、俺が魔術行使しているわけではない、というのがミソだ。
教室中に飛び散っていた水が、意思を持つように集まり、球体へと変わっていく。俺のレベルではこの教室中の水を集めるので精いっぱいだが、それでも十分だろう。シエスタは信じられないものを見たという顔でそれを見つめている。
「よし、あとはこれをバケツか何かで捨ててきてもらいたいな」
「……そんなもんまで宝物庫にあるのね」
呆れたような顔をしたマスターが、シエスタと同じように水の球体を見つめている。
「わぁ……これ顔洗うの楽になりそうですねぇ」
ジャンヌがなにやらずれた感想を言うのに苦笑しながら、俺は球体を邪魔にならないところに移動させる。
「さて、掃除開始だ。三十分で終わらせるぞー」
おー、という声が、ボロボロの教室内で響いた。
・・・
自動人形が修理をし、清掃は俺とジャンヌとマスター、そして細かいところをシエスタに手伝ってもらい、宣言通り三十分ほどで教室は元通りの状態へと戻った。
前回の作業がいい経験になっているのか、自動人形たちの修復スピードが上がっているように思える。今もねじり鉢巻きして「一仕事終わったぁ」みたいに額を拭う姿の自動人形が何体かいるぐらいだしな。……なぜ職人みたいな巻き方してるんだこの子ら。服装はメイド服のままだからか、とても違和感を覚えてしまう。表情も動いてないし。
そして、俺たちは教室を後にして、次の授業へ向かうというマスターを送り、ついでに「厨房作業やってみたいです!」とわがままを言うジャンヌをシエスタと共に厨房へと送り、一人でこうしていつもの洗濯場まで来ているのだった。
「さて、セイバーとは言ったものの……誰にしようか」
前線で戦えるような子で、さらにどちらかというと守る側の……あ。
「……よし。『
魔力が流れ込み、宝具が発動する。
荒れ狂う魔力が風を生み、その風が土埃を上げて――。
「……サーヴァント、セイバー。ここに」
清廉な空気を纏った、剣の英霊が姿を現した。
・・・
クラス:セイバー
真名:■■■■ 性別:女性 属性:秩序・善
クラススキル
対魔力:■++
騎乗:B
保有スキル
■は天にあり:A
■は■にあり:A
手柄は■にあり:A
矢除けの加護:A■
夜叉■■:B
守護騎士:B
能力値
筋力:C 魔力:D 耐久:B 幸運:A+ 敏捷:A 宝具:A
宝具
『
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1人