ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
「……ありゃ、まずいかなー」
気配を消して、主さまの主さまを怪我人ごと守れる位置で待機していると、目の前の戦場が一変したのがわかる。たぶん、主さまも気づいてるだろう。弱めだけど、あれは、太陽に類する英霊だ。どうする、助けに行くべきか? ……暗殺者の利点は、気配遮断だ。そして、それは攻撃態勢に移行した時点で消失する。……見た限り男の人なので、一応気配遮断は有利に判定されるはず。だから、『何かいる』くらいは気づくだろうけど、『何がいる』かはわからないだろう。……それは、見えない脅威で縛る暗殺者の優位。
それに、あのレベルの戦いなら、余波も凄まじいことになるだろう。それを防ぐには、ここから離れるわけにはいかない。……どうしますか、主さま。
「決めるなら早くしろ、マスター。脅威は目の前だぞ」
「……よく、わからんが……貴様、私を助けられるのだな!?」
「そのための全力を振るおう」
「よ、よし! ならば、私が逃げるまでの時間を稼げ!」
「……それはよいが、逃げるのは勧められんな」
「なに?」
なにやらやり取りをしている向こうの主従。警戒する主さまの前で、召喚された英霊は視線だけを巡らせ……。
「何かが潜んでいる。おそらく、逃げようとした瞬間にお前を背中から刺すつもりだろう」
「……ふむ」
焦っていた向こうのおじさんも、英霊の落ち着いた言葉と態度に感化されたのか、すっと息を整えた。……戦いの覚悟を決めたようだ。
「なるほど、因果関係はわかったぞ? つまり、普通の使い魔契約と同じか。主が倒れれば、貴様は消えてしまうのだな?」
「うむ、聡明な主で助かる」
むぅ、どうするか。男なら確かに逃げようとする瞬間の背中を刺すこともできるだろう。……でもなぁ、この二人が戦った時の余波はボクでも危ないものだ。どーするんだろうなー。
「……」
念話が飛んでくる。……はい、了解。『防御に専念。二人とも俺が抑える』ね。どーやるんだか。……って、ん?
「く……これ、は……」
「ウェールズさまっ!」
どうやら、気絶していた怪我人が起きたようだ。んー、治療のできる暗殺者ではないのでボクにはどうにもできないですけど、まぁ目覚めたのならよいでしょう。
それから、主さまの主さま……あ、めんどい。大主さまでいいや。大主さまが起こったことを説明した。サーヴァントに対しての事前知識はあったらしく、なるほどと納得していた。
「っ!?」
そんなことを考えていると、突然の暴風が吹き荒れ、顔を思わず覆ってしまった。視線を向けると、斉射される数十の宝具と、相手の振るう巨大な槍がぶつかり合った衝撃で風が吹き荒れたのだ。なんて馬鹿力。あれだけの宝具を一気に打ち出せる主さまも主さまだけど、それを片手で振るった槍で弾く相手も相手だ。意味わからない。
だけど、主さまが優勢だ。あれだけの雨あられ、背後のマスターを守らなければならない相手はあの場から動けないだろう。そして、神性の高い相手には、主さま必殺の宝具がある。……いや、殺せはしないけど。
「お前っ! ……私は自身でなんとかする! 貴様は力を振るえ!」
「……了承した。マスターの勇気に感謝する。……それと、私を呼ぶのなら、ランサーと呼ぶがよい」
「……『
そういうと、おじさんは杖を構えて何かを唱えながら後方に跳ぶ。……きちんと警戒してるな。あれは狙えないだろう。いや、まぁ、無理なのはわかってるんだけどね? ほら、今も……。
「っ……!?」
っぶなー……。声でそうになりましたよ。だって、弾かれた宝剣が今顔の横数寸の所通っていきましたよ? これボクのこと考えてませんよね?
あ、そっか。気配遮断のせいで主さまもボクの居場所わからなくなってるのか。……まー、主さまも男の人だしなぁ。
聖堂の中は、まるで砲撃でも受け続けたかのような様相を呈してきた。……そりゃ、そうだ。こんなレベルのサーヴァントが戦えば、余波だけで吹き飛ぶ存在もいるほどだろう。宝具を降らせながら剣を振るい、槍と剣、斧やらなんやらがぶつかり続ける。時々おじさんに向けて放たれる宝具だが、それは本人の宣言通り、自分でなんとか躱しているようだ。ち、しぶとい。
「ど、どうしよう……ギル、手助けしたほうが……」
大主さまは杖を握ってあたふたしているが、怪我人がその杖を抑える。
「下手に、手を出さないほうがいい。……それよりも、ここから離れることが先だ。……ぐ! す、まない……肩を貸してもらえるだろうか?」
肩を抑えた怪我人が、大主さまに肩を借りて少しずつ聖堂の出口に向かっていく。失った血が多すぎるのか、ほとんど大主さまが引っ張っているようなものだ。まぁ、でも行動は正しい。嵐が近くに来ているのなら、逃げるか、頑丈な建物に引きこもるかの二択だ。普通の人間なら、逃走を選ぶ。
隠れつつも飛んできそうな宝具の軌道を変えて、一応二人を守りながら後退するのだが……。
「っ! あ……!」
熱線が飛び、崩れた瓦礫で出入り口が防がれてしまった。……あと残る脱出路は、あの戦いの向こう側。大きく開いた壁の穴一つ。……詰んだ、かな?
「マスター! 陰に隠れていろ! 動かなければそれでいい!」
「あ、う、うんっ!」
その言葉を聞いて、大主さまはずりずりと怪我人を運んで、新たに自身のブラウスを破って当て始めた。すぐに真っ赤に染まるけれど、血は止まりかけてきている。あれならば、死にはしないだろう。陰に隠れるように指示したのは、ボクが守りやすくするためだろう。ナイス主さま。
「で、ランサー……でいいんだよな。引く気はないのか?」
「素直に退かせてくれるのならば、俺もうれしいのだが」
「ま、そうなるよな」
そういって、武器を構えなおす二人。っていうか、主さまに食いついてる割には、見える値の弱さと実際に見える強さに違和感しかない。何かのスキルかな? だから、不意を突けるにつけれないんだよなぁ。真名がわかればなぁ。少しはそこから推測できるんですけど……。
「千日手だな」
「だなぁ……だが、千日はかからんよ。あとどれくらい、お前に魔力が残っている? ……マスターから引き出さざるを得なくなるまで、あと何秒、全力駆動できる?」
「……」
「そこが、俺のずるいところでな。すまないが、条件は同じじゃないんだ」
主さまがいうのは、魔力の引き出し先のことだろう。相手は自分の保有魔力と、マスターからの魔力で動いている。それに対して、主さまは保有魔力、マスターからの魔力、そして、『神様からの魔力』で動いてる。比率にすると、二対一対七くらいだ。圧倒的におかしい。
それでこうまで拮抗しているのは、主さまによると座でスキルを戦闘用にしていなかったから、だそうですけど……普通、英霊ってスキル好きに付け替えられないですよね? やっぱりこの人おかしいよ。
「どうする?」
その問いかけは、相手に主導権を渡しかけない、危険なものだった。……だが、早く決着をつけねば、相手のサーヴァントもジリ貧になる。……乗らねばならない、危険な賭け。
「……仕方あるまい。確かに、こちらも余裕があるわけではないというのは事実だ」
ごう、と空気が熱を持つ。相手の魔力が、炎へと変換されているのだ。その怒涛の勢いに、自身の勘が正しいことを確信する。あれは、太陽の炎。浮かび上がる体に、円形に翼のようなものが三対六翼、展開されていく。
手に持つ槍も開き、魔力が渦巻いていく。
「マスター、すまないが少しだけ魔力をもらう。我慢してもらいたい」
「ぐ、ぅ……!?」
すでに保有魔力も底をつきかけていたのだろう。マスターであるおじさんから、魔力を少しだけ引っ張ったようだった。おじさんの顔が苦しそうにゆがむ。
「……ああ、そうか、それは……思い出した」
それを見上げながら、乖離剣を取り出した主さまが、遠いものを見る目でにやりと笑った。
「『施しの英雄』。そうだ、真名を、カルナと言ったな」
真名。そのカルナという名前が頭に入った瞬間、戦場で浮かぶあの英霊の力が正しく理解できた。……真名を看破することで無効化されるスキルを持っていたんですねぇ。効果としては、自分の能力を隠蔽、もしくは弱体化させたように見せるものだろう。
だからわかる。――ココ、ヤバイ。
「『
「『
ちょ――! 聖堂壊さないようにって言ってましたよね!? 抑え気味に戦ってたんですよね!? 大主さまを巻き込まないようにしてたんですよね!? 馬鹿なの!? 馬鹿なんですね!? 馬鹿なんだよ絶対!
「……
「……
もー! 馬鹿! 馬鹿ばっか!
雷光の一撃と、時空断層がぶつかり合う。余波が風と雷となって辺りを破壊していく。それを見て、ボクは武器を取り換える。それは、私には大きくて、不釣り合いな両刃の剣。それを頑張って床に突き刺して、魔力を流し込む。真名開放でなくても、この剣はボクの意思を組んでくれる。炎に変換された魔力は、思い通りに後ろの二人を含めたドームを作り出す。
「だっ、え? だ、誰!?」
「いいから伏せてくださいっ!」
「あ、う、うん? うんっ!」
戸惑いつつも、大主さまは伏せてくれた。攻撃態勢に移行したと判断されて、気配遮断がとけちゃったみたいです。まぁ、仕方がないですよね。
暴風と飛び散る雷を、炎を渦巻かせて、正面で受け止めるんじゃなくて、左右に受け流すように防ぐ。こんなの真正面から受けてたらいくら魔力があっても足りないですからね。しばらく耐えていると、だんだんと主さまの乖離剣が相手を押していく。いっけー主さまー! やっちゃえやっちゃえー!
「くっ……!」
カルナの表情がゆがむ。流石に燃料切れですかね? 押し切る直前、カルナの背後の羽が散る。……効力が切れた? 墜ちたカルナだが、黄金の鎧が砕けていて、消耗しているとはいえ、まだ戦えそうだ。……だけど、これで趨勢は決したように思えますけど……。
ボクも宝具に回す魔力を止め、剣を手に立ち上がる。聖堂は中で嵐でも起きたようにボロボロになっていて、今にも崩れそうだ。顔をゆがめたカルナが、それでも巨大な槍を構えて主さまと相対する。
「……すでに、勝負はついたかな?」
「……ああ、すでに俺にはお前と戦う力は残っていないだろう。……俺とお前の勝負は、決着がついたようだ」
乖離剣の回転を止めた主さまが、乖離剣を持つ手とは逆の手を上げた。空間がゆがんで、宝具たちが頭を出してくる。
「……『俺とお前の勝負』は、な」
そういって、カルナは主さまを迂回するように踏み込む。……んぇ? なにそれ、主さまじゃなくて、その後ろに用がある、みたいな……。
「――! アサシン! 後ろだ!」
こちらに視線を向けずに、主さまが叫ぶ。え、後ろ?
「……あっ」
そうだった。アサシンの優位は、『どこにいるかわからないこと』。だって、見えてる盾なんて、避ければいいだけだから。剣を振るい、駆け出す。
『背後の二人を襲うカルナのマスター』を退けるために――!
「大主さまっ。横っ!」
「ふぇ? な、ワルド……!」
あの嵐の中みたいな間を縫って、それであの怪我人と大主さまを狙ったんだ……!
ボクは馬鹿だ! 主さまに任せればいいって、そう簡単に判断した……!
『二人を抑える』って主さまが言ったからって、乖離剣の真名開放、その間の注意力の散漫なんて、予測できたのに!
だだだん、と宝具が発射される音。すぐ後に、甲高い音が聞こえたから、たぶんカルナがはじいたのだろう。固定砲台の主さまは、こういう時の動きに弱い。真正面からであれば城壁のような堅牢さで守り、大嵐のような激しさで敵を撃滅する主さまだが、その内に入られれば弱いのだ。……あの人は、王で、神様で、戦士じゃないから。だから、ボクが。……戦えるボクが、戦わなきゃなのに!
「は、あぁぁぁぁっ!」
光る杖。あれは、確か持っている杖の性能を上げるもの! 間に、合え!
「武具など無粋。――真の英雄は、目で殺す!」
杖に振り下ろした剣。大きくて扱いづらいそれに、衝撃。
うそ、でしょ。あの距離で、打ち抜いてきた……!?
なにこの人、戦いの天才かなんかなんですか!? アーチャーよりアーチャーしてるよこのランサー!
「よくやったランサー!」
「くっ、エア・ハンマー……!」
「きゃぅっ!?」
近づくおじさん……ワルドを前にして、大主さまは怪我人をかばうように重なるけれど、その怪我人本人は呪文を唱え、大主さまを主さまの方へと吹き飛ばした。……ワルドのやったことと同じことを、やったのだ。怪我人は、それを見届けて、嬉しそうに微笑んで……。
「だ、だめっ……!」
主さまに受け止められた大主さまが手を伸ばすのが見える。……あ、ダメだ、これ。
「が、ふ……!」
今度こそ胸に突き刺さった杖を引き抜いたワルドに、剣を振り下ろす。助けられないなら、仇を討つだけ。だけど、振り下ろした剣は、横からの槍に止められる。
「防ぐなぁ、英雄ぅ……!」
「すまぬな。これでも主なのだ。どれほど下衆であろうと、思いは本物なのでな」
「ば、か、に、し、てぇぇ……!」
力を込めても、成長しきっていないボクの力では、目の前の武芸の天才の防御は突破できない。そのままカルナはワルドを抱えると、返す槍で壁を破壊し、そこから飛び出していった。
……あとに残ったのは、死体一つと、どうしようもない敗北感だけ。……やられたのだ。
近づいてくる大主さまに、頭を下げる。……顔を見られたくないっていう理由も、ちょっとありますけど。だって今、たぶんすごい醜い顔してる……。
「……すみません、あなた様の期待に背きました……」
「いや、これは、俺の責任だ。……マスターを、他の奴に任せようとした、俺のな。……マスター、すまなかった」
「あ、謝らないでよ……! あんたたちは、何にも悪くない、んだから……!」
泣きそうになっている大主さまを、主さまは涙を拭って慰める。……さすが女殺し。神様から冗談で「あなたの神様としての権能は性交ですね!」とか言われて本人も否定できなかったとか妙な逸話が残ってるだけはある。……んー、でもボクみたいなのも落としてるってことは、女殺しだけじゃなくて……あ、これ以上言うとまずそう。やめとこ。
って、あ! なにそれ! いつの間に抱きしめて慰めてるわけ!? いつの間にそんなところまで進んだんですか!? んもー! また女の子が増えるー!
「……さて、そろそろ落ち着いたか? ……砲撃も始まっている。どうにかして逃げないとな」
「もう、誰もいないんだから、あの船で飛びます?」
「それが一番かも……ん?」
ぼこん、と聖堂の床に穴が開く。……敵兵、ではないですね。感覚が優しいものですから。
「……どこまで掘り進めるんだい、ヴェルダンデ? って、光が見え……なんだここ!? 廃墟か!?」
「ギーシュ!」
「ん? おぉ! ギルではないか! なるほどなぁ。君の指輪に惹かれたというわけか」
・・・
ひょっこりと頭を出したギーシュの使い魔、ヴェルダンデと、その主人のギーシュ。時間がないながらも話を聞くと、フーケを排した後、追いついてきていたヴェルダンデと合流。そして、タバサのシルフィードでこのアルビオンまで飛んできたあと、俺の装飾品に惹かれて穴を掘り進め始めるヴェルダンデ。それを追いかけてきたら、ここに来た、と。
「流石だ、ヴェルダンデ。ミミズは流石に宝物庫に入っていないから、帰ったら何か他のものを手配するとしよう」
モグモグ、と独特の鳴き声をするヴェルダンデを撫でてやる。……うん、可愛い可愛い。
「それじゃあ、帰るとし」
「マッスター!!」
「ほべん」
真正面から腹部にタックルされ、途中まで喋っていたせいもあり、変な声が出てしまった。受け止めはしたものの、尻餅をついてしまった。飛び込んできて抱き着いてきているのは、何を隠そうセイバーだ。
「えぇぇぇぇん! 寂しかったですぅー!」
「……なに、このおんな。……あ、えと、あなた様? この人、誰です?」
「……だれー、このひとー」
えっぐ、ぐす、と泣きながらアサシンを見上げるセイバーと、なんか顔に陰りが出つつもセイバーを見下ろすアサシン。なんだ……? さっきと変わらないほどの緊張感が、この二人の間に発生しているようだ。なんでだろうか。
「ああ、二人とも初対面か。こっちがアサシン。小碓命。で、こっちがセイバーの……」
「え?」
「ん?」
俺の言葉に、セイバーが首をかしげる。……なんだ?
すぐに自信を指さして、キョトンとしながら尋ねてくる。
「セイバー?」
「ああ、セイバー。そういってたろ?」
なぜかステータスは文字化けしてたからわかんなかったけど、自己紹介ではそういって……。
「私、セイヴァーですよ?」
「あ、だから文字化けの文字数が合わなか……え?」
ステータスが更新されました――。その無機質なメッセージが、頭の中に響く。そのクラスには、燦然と輝くセイヴァーの文字。……あ、救国だから? 世界規模じゃなくてもセイヴァーってなれるんだ……。
「……え、むしろ何でセイバーだと思ってたんです? だって剣の逸話とかないじゃないですか、私」
「いや、確かに。……うん、確かにそうだ」
この子の逸話に、剣でなんかしたってことはないだろう。救国の聖女とまで言われた彼女だ。ルーラーとアヴェンジャーの彼女は見たことあったけど、そっか、この子、セイヴァー適性もあるんだ……。
「あー……そっかぁ、この人と話しててなんか食い違うときあるなーって思ってたけど、これかー……」
そういって、セイバー……いや、セイヴァーはがっくりと肩を落とした。いや、言いずらいしそれこそセイバーと間違えそうだから、もう真名で呼ぶか。
「……その、すまんな、ジャンヌ」
「いーですよー。ルーラーの私とアヴェンジャーの私にチクるだけなんでー」
「それはまずい」
座に帰った時にネチネチされてしまう。「自分のサーヴァントのクラスを間違えるなんて」とか「女ならだれでも一緒だと思ってんじゃないの?」とか言われてしまう。主にアヴェンジャーのほうに。
「いやなら、帰り道に甘やかしてくださいねー」
「……はいはい、解決したなら帰りますよー、あなた様ー」
ニッコリ笑うジャンヌと、頬を膨らませたアサシンに押されて、他のみんなが入っていった穴の中へと進んでいく。
「あ、ちょっと待ってくれ」
そういって、ウェールズの下へ向かう。
……即死、だったか。助けたかったのだが、無駄に苦しませてしまったようだ。すまない。
「……」
死を悼み、指から風のルビーを抜き取る。王女に、残せるものはこれだけだからだ。遺体は……この地に残した方がいいだろう。この聖堂と共に、この地に眠らせる。
血まみれのマントを外し、宝物庫から上等な布を取り出し、かぶせる。手を組ませ、服を整え、全身を隠す。
「……もう行くよ、ウェールズ」
そう言い残して、俺はアサシンとジャンヌの待つ穴へと向かった。
・・・
穴を抜けると、ふっと落ちた。……え、落ちた?
「きゃあああっ!?」
「ひゃうぁぁぁあ!?」
「おおおぉおぉぉぉ!?」
ジャンヌもアサシンも俺も、三者三様の悲鳴を上げて落下して、シルフィードに受け止められた。
シルフィードの上にはタバサやキュルケ、ギーシュにマスターがすでに乗っており、口にはヴェルダンデが不満そうな鳴き声を上げながら銜えられていた。
「ちょい多いな。……よし、『
そういって、俺はシルフィードからマスターを抱えて飛ぶ。本来なら真っ逆さまだが、とん、と宝物庫から出てきた黄金の船に着地する。ジャンヌとアサシンも、俺を追って飛び降りてくる。
「よし、速度をシルフィードに合わせて、自動操縦で……」
ふわり、とシルフィードに並んだ船を見て、キュルケが目を輝かせる。
「あら! それは前に見たあれね! 帆もないのに進む船!」
「……あぶない」
身を乗り出しすぎたからかタバサに首根っこを引っ張られたキュルケだが、こちらを興味深そうに眺めるのはやめないようだ。
ギーシュは……銜えられたヴェルダンデに話しかけたりしているので、こちらには見向きもしていない。……凄まじい使い魔愛である。あれの数パーセントでもいいから、マスターにあればなぁ。
「……なによ?」
「いや、マスター、俺のこと好き?」
「ひゃわっ!? な、にゃにゃっ!? にゃにをっ!?」
聞いてみたはいいけど、これ嫌いって言われたら立ち直れんな。やめておこう。
「……いや、やっぱいいや。変なこと聞いた」
「……別に、その、いいケド」
ぷい、とそっぽを向いたマスターは、ぶつぶつと何かを言っている。……この近距離で聞こえないということは、聞かせる気の無いつぶやきなのだろう。可愛いなぁ、と癒されていると、両側から軽い衝撃。
「私は、マスターのこと好きですよーっ。……クラス名、間違えられましたけどーっ」
「ボクもです! あなた様のこと、好きですっ。……他の女に、目移り激しいですけど、ね?」
衝撃だけではない。アサシンの方からはひたり、と刃物を当てられている。あれ、ナチュラルに脅されてる?
「ん、んー。風が気持ちいいなぁ」
至近距離に三人もいるのに、俺の言葉は誰にも届いていないようだった。……うぅ、寂しいなぁ。
・・・
シルフィードを追いかけながらトリステインへと向かっていくと、腕の中のマスターがぽつぽつと話し始める。
「ギル。……ギル?」
「ん、ああ、なんだ、マスター」
こちらを見上げるマスターは、顔を赤くしており、恥ずかしがっているであろうことは明らかだった。……それでもまぁ、手が飛んでこないだけ、成長したんだろうなぁ。
「あの、ワルドと一緒にいたあいつも……サーヴァント、なの?」
ああ、カルナのことか。……今回は宝具を打ち合い、相手の魔力不足でなんとか勝ち越したように見せただけで、状況としては負けていた。相手の目的が達せられた時点で、俺の負けなのだ。……俺が、もう少しちゃんとしていれば、ウェールズも助けられただろうし、何より……マスターを悲しませることはなかった。
……その前の、ワルド戦ですでに俺自身が馬脚を現してたのも問題だろう。……弱点、まだ直ってないんだよなぁ。
「そうだよ。カルナ……インドってところの英雄で、弓の天才。……『ランサー』クラスで現界してるみたいだけどな」
「……私が、ちゃんとマスターやってたら、勝てた?」
「いや……いや、マスターはよくやってくれていた。ただの俺の実力不足だよ」
決めた。神様の処へ可及的速やかに向かい、スキルをきちんと整えてくることにしよう。
……何で今いけないのか、っていうのすら解決はしていないけど……。
「ワルドは、そのカルナってやつと逃げたのよね?」
「……ああ」
「じゃあ、また、来るのかしら」
「うん、きっと」
「……色々、教えて。あんたの力とか、マスターとして何をしたらいいかとか……この、新しく増えた女のこととか」
「あ、ボク男ですよ?」
「……え?」
「……えへ」
マスターをのぞき込むようにしながら、笑うアサシン。間違いなく可愛い。あの理性蒸発ライダーとは別ベクトルの可愛さである。
「えぇー!?」
……こうして、トリステインへの旅路は賑やかに過ぎていくのだった。
・・・
ステータスが更新されました。
真名:ジャンヌ・ダルク
クラス:セイヴァー 性別:女性 属性:秩序・善
ステータス:筋力・E 耐久・E+ 敏捷・E 魔力・B 幸運・C 宝具・A++
クラス別スキル
対魔力:☆
■■:D
固有スキル
繝シ繝ウ:A
カリスマ:■+
■人:A
透化:D
宝具『
無私の心によって精神面への干渉を弱体化させる精神防御。
魔力放出:A
宝具『
武器や自身の体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
ジャンヌ・ダルクは元がただの少女のため、『
このスキルによって、ジャンヌはマスターの魔力消費の負荷を増やしていく。
心眼(偽):E
宝具『
第六感による危険察知。詳しくは分からないものの、戦闘中に限り悪寒として危険を察知することが出来る。
戦闘に集中していたり、焦っていたりすると気付かないことが多い。
■■■の加護:A
――第三宝具発動後、閲覧許可。
矢除けの加護:■
――第三宝具発動後、閲覧許可。
宝具
『
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:一人
ジャンヌ・ダルクが聞いた『声』と共に授けられた剣。
聖カトリーヌ、聖マルグリット、大天使ミカエルからの祝福がかかっており、啓示のランクに応じてステータスアップ、スキルの付与がされる。
ジャンヌの啓示のランクはAなので、幸運と魔力以外のステータスが3ランクアップし、スキル『透化:D』『魔力放出:A』『心眼(偽):E』が付与される。
『
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:1000人
ジャンヌが仲間と認めた対象がレンジ内にいるならば、最大補足の範囲内で任意の対象のステータスをアップさせることが出来る。
アップするステータスはジャンヌのカリスマのランクに左右される。
ジャンヌのカリスマのランクはB+なので、対象の幸運以外のステータスを2+アップさせる。
『
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:10人
第三宝具:奇跡のその先へ向かった■■の物語。