ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「……ねえギル。この服なに?」「ん? ああ、ゴスロリ服っていってだな」「……ふぅん? ……そう」「着てみたいなら、着てもいいんだぞ?」「は、はぁ!? こんな、あんたの蔵から出てきた怪しい服、着れないわよ! っていうか、もしかして私に着せたくて見せたわけ!?」「いや、そういう意図はなくてだな……って、聞いてないか。……あ、ちょっと出かけてくる」「ん、いってらっしゃい」

「……行った、かしら? ……えへへ、結構、可愛い服じゃない」

「●REC」


それでは、どうぞ。


第十五話 文句を言いつつも

 翌朝。『イーグル』号の甲板で、俺はアサシンと並び、出航を待っていた。

 

「……マスターも結婚かぁ」

 

「なに辛気臭い顔してるんですか、もう」

 

 つんつん、と俺の頬をアサシンがつつく。やめい。

 

「そんな落ち込むなら奪ってくれば良かったのにぃ」

 

「んなこと出来るか。望まないものなら兎も角、マスターもワルドに対して悪い感情は無かったろ」

 

 多分初恋か何かだからっぽいけど、それでも嫌ってはいないみたいだしな。

じゃなきゃ流石に許可はださんよ。

 

「……ん?」

 

「? どうしました?」

 

「いや……なんだろう、この魔力の流れ」

 

 俺の千里眼に干渉する魔力が流れ込んでくる。これは、スキルに干渉されてる……? スキル『千里眼』の機能を一部改ざんして、特化させている?

 

「俺の千里眼が変だ。……むむむ、スキルに関してはあんまり詳しくないからなぁ。……かといって婦長とか呼んだ日には眼ごとくり貫かれそうだし……」

 

「んー、ボクもちょっとその辺は専門外ですね。あ、洗ったらなんか神様出てくるかもですよ! 三柱くらい!」

 

「……やめろ。俺もちょっと神様に足突っ込んでるから、出来ないって言い切れないのが怖い」

 

 そこまで上位の神様じゃないから多分出来ないけど。それでも可能性あるのは嫌だ。……さて、どうするべきか。……素直にこの魔力に従ってみるか? 嫌な魔力ではないしな。

 そう思って、俺は千里眼に流れ込む魔力を受け入れる。

 

「……む?」

 

 ……そこに映し出されていたのは――。

 

・・・

 

 朝、急にワルドに起こされたルイズは、城の礼拝堂まで連れてこられていた。昨日ギルとの話をしていたせいでベッドに入ってからも考え事をしており、睡眠不足で寝ぼけ頭だったルイズは、戸惑いながらも手を引かれるままにやってきた。「今から結婚式をするんだ」と言うワルドに、混乱しているうちに新婦の冠を載せられ、マントも純白の乙女のマントに取り替えられた。これも、新婦しかつけることを許されぬものだ。混乱してされるがままのルイズも、漸く事態を認識したが、反応のないルイズに了承を得たと思い込んだワルドをとめるにはもう遅く、すでにブリミル像の前に二人並んで立っているところだった。

 

「では、式を始める」

 

 皇太子としての正装に身を包んだウェールズが、結婚式を進めていく。

 気がついたところで混乱した頭ではどうすればいいかも浮かばず、ただただウェールズの言葉を聞くだけだった。

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。何時は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」

 

 隣に立つワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。

 

「誓います」

 

 その言葉を聞いたウェールズはにこりと笑って頷いた後、次はルイズに視線を移した。

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女……」

 

 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げているのを、ふわふわとした頭で聞いている。

 ああ、ワルドとの結婚式なのね、と頭で理解していても、その意味を理解するのを心が拒否しているようだった。

 なんでだろ、とルイズは考えを巡らせた。この国の人たちは確かにお馬鹿さんばっかりで、それに対して暗く落ち込んではいたけれど、ここまででは無いと思う。後は、その後にあいつと話をして……あ、ここにいないんだ。「守る」っていったのに。嘘だったのね。……でも、当然か、とも思った。昨日のことで大分失望させただろうし。

 そこまで思い出したときに、昨日慰められたときのことを思い出した。……瞬間、体温が上がったようだった。それを隠す為に顔を俯かせる。

 

「新婦?」

 

 その様子に、ウェールズが怪訝そうな声を出した。はっとしてそちらへ視線を戻すと、二人がこちらをのぞきこんでいた。

 

「緊張しているのかい? 初めてのときは事が何であれ、緊張するものだからね」

 

 そう言って、ウェールズは続ける。

 

「まぁ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。……では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において――」

 

 ルイズは、ダメだ、と思った。このままではダメだ、と。確かに初恋だった。ワルドと結婚したら、きっと大事にされるとも思った。……だけど、こんな流されたままじゃ、自分の意思で決めていないんじゃ、結婚なんて出来ない。左手に刻まれた令呪の意味を、昨日知った。きちんとした意思の大切さ。それが、この左手にある令呪なのだと今では分かったから。

 だから、ルイズはぶんぶんと頭を振った。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ワルド。私、貴方とは結婚できない」

 

 気分でも悪いのか、と聞こうとしていたウェールズは、その言葉に驚いた。

 

「新婦は、この結婚を望まぬのか?」

 

「はい。その通りでございます。お二方には大変失礼をいたすことになります。……が、私はこの結婚を望みません」

 

 毅然とそういいきったルイズの姿に、ワルドが顔をゆがめた。二人の前にいるウェールズは困ったように首をかしげ、残念そうにワルドに告げた。

 

「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけには行かぬ」

 

 ウェールズのその言葉を気にすることなく、ワルドはルイズの手を取る。

 

「緊張しているんだ。……そうだろう? 君が、僕との結婚を拒むわけがない」

 

「ワルド、ごめんなさい。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったのかもしれない。……でも、私は自分で決めて進みたいの。こんなあやふやな意思で、貴方と結婚は出来ない」

 

 ルイズの肩を、ワルドががっしと掴む。表情が、変化していく。

 

「世界だ。世界だルイズ。僕は世界を手に入れる。そのために君が必要なんだ!」

 

 豹変し、凄まじい剣幕で詰め寄るワルドに、ルイズは恐怖を覚えた。この人は、誰だ。そう思うほどに、目の前のワルドは記憶の中のワルドと似ても似つかなかった。そのまま、ルイズに言い聞かせるように言葉を荒げていく。

 

「僕には君が必要なんだ! 君の能力が! 君の力が!」

 

 そういわれて、ルイズはハッとした。ワルドの姿が、昨日のギルに力を振るうことを願おうとした自分に重なったからだ。……外から見たら、こんなにも恐ろしいものだったのか、とルイズは別の意味で恐怖した。

 このワルドは、昨日までの私なのだと、一歩後ずさりながら安堵した。私は、これにならずに済んだのだ、と。あの黄金の使い魔が、とめてくれたから――。

 

「子爵、君はフラれたのだ。潔く……」

 

 流石にこの剣幕は尋常では無いと止めに入るウェールズの手が、ワルドに跳ね除けられる。まさかの事態に、ウェールズは立ち尽くしてしまった。

 

「ルイズ! 君の才能が僕には必要なんだ!」

 

「そんな、才能あるメイジじゃないわ。……学院でも、ゼロって……」

 

「だから何度も言っている! 自分で気付いていないだけなんだよルイズ!」

 

 ルイズの言葉を遮るように叫ぶワルド。そして、痛いほどに握られた肩に、顔を歪めながら、ルイズは口を開いた。

 

「そんな、そんな結婚、死んでも嫌よ! あなたは私を愛してるんじゃないわ! あなたが愛してる……必要としてるのは、私の中にあるとか言う、ありもしない魔法の才だけ! ……酷い。酷いわ。こんな侮辱はないわ!」

 

 痛さと悲しさに涙まで出てきたルイズは、何とかワルドを引き離そうともがく。その様子に、ウェールズも引き離そうと近づく。が、払われるだけではなく今度は突き飛ばされてしまった。流石のウェールズも、怒りに顔を赤く染め、立ち上がりながら杖を引き抜いた。

 

「何たる無礼! 何たる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」

 

 そこまで言われて、ワルドは漸くルイズから手を離す。優しい笑顔を浮かべるが、それはどこまでも薄っぺらい、嘘で固められたものだった。

 

「こうまで言っても、ダメかい? 僕のルイズ」

 

「嫌よっ。誰が貴方と結婚なんかするもんですか!」

 

 ワルドは天を仰ぐ。

 

「この旅で、君の気持ちを掴む為に、随分努力したんだが……」

 

 大仰な仕草で、ワルドは首を振る。

 

「こうなっては仕方ないな。目的の一つは諦めるしかないだろう」

 

「目的?」

 

 ルイズの言葉に、ワルドは禍々しい笑みを浮かべながら頷いた。

 

「そうだ。このたびにおける僕の目的は三つあってね。その内の二つだけでも達成できただけでも、よしとしよう」

 

「達成? ……二つ?」

 

 ルイズが嫌な予感を感じて尋ねると、ワルドは右手を上げて人差し指を立てる。

 

「まず一つは君だよ、ルイズ。君を手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」

 

 次に、中指も立てた。

 

「二つ目の目的は、ルイズ。君が持っている、アンリエッタの手紙だ」

 

 そこまで言われて、ルイズはハッとした。ワルドの目的は、三つ目の目的は……!

 

「そして三つ目」

 

 ウェールズがワルドの目的に思い至り、呪文を詠唱し始める。……しかし、余りにも遅すぎた。ワルドはその二つ名の通り、閃光の様にすばやく杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させる。杖が青白く光り、ウェールズの胸をその杖で貫いた――。

 

「なっ!?」

 

「こ、これは……!?」

 

「盾……?」

 

 ――かに思われた。ウェールズの目の前に展開された盾を滑り、狙っていた胸ではなく肩口に杖が突き刺さる。美しい装飾が施されているその盾は、あろう事か空中に出来た波紋から出てきていた。

 

「ぐぅっ!」

 

「ちっ……!」

 

 その異常事態に一番に反応できたのは、さすがというべきか、ワルドだった。杖を手元まで戻すと、二撃目を放つべくステップを踏んで……!

 

「がっ!」

 

 盾の陰から飛んで来た、剣に迎撃された。真正面から受けるわけにも行かず、ワルドはその一撃を杖で防ぐ。……が、軌道を逸らし直撃は避けられたものの、衝撃でウェールズから離れた場所へ跳んでしまった。

 

「……泣かせたな」

 

 そして、体勢を整え、顔を上げたワルドが見たのは、ウェールズとルイズの二人を守るように人を形作る黄金の粒子。そこから聞こえるのは、聞き覚えのある声。

 

「俺はお前に、マスターを任せた。……泣かせないと、幸せにすると言ったよな? ……だが、お前を責めるのはよそう。ワルド、貴様を読みきれず、マスターを任せてしまった、俺の失態だ」

 

 次第に黄金の粒子は人を模り、そこには、見たことのある男。しかし、見たことない格好の男。黄金の鎧を着け、紅きマントを下げた、ルイズの使い魔の姿であった。

 

「故に、俺は後片付けをするとしよう。すまない、マスター。怖がらせた」

 

「ギル……! ギルぅっ……! おっそいのよ! ばかぁ!」

 

「ああ、後一歩だった。あそこで『視』えていなかったら、間に合わなかっただろう。流石は、マスターと言ったところかな」

 

 そう言って、ルイズの使い魔……ギルは、ワルドを視界に入れる。

 

「さて、王らしく裁定を言い渡すとしよう。……疾く自害せよ」

 

 その言葉には、隠しきれない怒りがあった。

 

・・・

 

 キレちまったよ、と言う心境で、ワルドと相対する。マスターの視界を得ていたお陰で何とかウェールズは助けられたが、声は聞こえなかったので何があったのかは分からなかった。……だけど、ワルドがマスターに詰め寄り、ウェールズを殺そうとし、マスターが泣いている。それだけで、ある程度は分かる。取り合えず、ワルドを潰せばよいのだ。

 

「奇怪な……! その浮かぶ武具は何だ!」

 

「言ってもわからんだろうよ。お前はここで死ぬ。苦しまぬよう、なんてことはしないよ。……精々、苦しんで後悔して死ね」

 

 宝物庫の扉を開き、宝具たちがワルドを貫かんと待機している。……アサシンは伏兵対策にマスターたちの下にいてもらうため、ここからは俺一人での戦いだ。……相手は接近戦も出来る魔法使い。ランク的に、もしかしたら俺の対魔力を通ってくるかもしれない、油断ならぬ相手だ。

 

「『王の(ゲートオブ)……」

 

 目前の相手を目標に定める。十数本の宝具が、ワルドに指向される。

 

財宝(バビロン)』!」

 

 爆発するような音を立てて、宝具が飛んでゆく。赤い線を残すほどの速度で、ワルドに迫る。

 

「ちっ!」

 

 ワルドはがむしゃらに飛んで転がり、土煙の中に消えていく。だが、その程度で見失う目はしていない。

 

「そこっ!」

 

 四発の宝具が方向を変えて飛んでいく。転がったワルドには躱せない……と思ったが、不自然な突風がワルドを吹き飛ばした。

 

「ぐぅっ!」

 

「なるほど、『エア・ハンマー』で自分を飛ばしたか」

 

 『閃光』の二つ名を持つだけはある。呪文の選択、詠唱の速度、実行に移すまでの覚悟の速さ。それは、戦場で培われた経験なのだろう。

 

「く……ユビキタス・デル・ウィンデ……」

 

「させん!」

 

 速度を重視して、二本宝具を飛ばす。杖で一本弾かれ、もう一本は躱される。その間に詠唱が完成したのだろう。ワルドの体が五人に分身する。ち、これが風の『偏在』!

 俺を取り囲むように陣取り、呪文を詠唱し始める。ちっ、近すぎるな。

 

「せっ!」

 

 宝物庫から宝剣を一本抜き、一人目の杖を弾く。その間に、他の二人が詠唱を完了させ、エア・ハンマーを放ってくる。

 

「ふっ!」

 

「甘い!」

 

 一歩後ずさり魔法をよけると、残った二人が光らせた杖を手にこちらに攻め込んできていた。

 一撃目を宝剣で受け、二撃目をデルフリンガーで叩き落す。その衝撃で体を浮かせたワルドの一人に、思い切り蹴りをぶち込む。

 

「がっ!」

 

 ぼん、と軽い音を立ててワルドが消える。……なるほど、致死量のダメージを受けたら消えるのか。まぁ、全員に致死量のダメージを与えてやるつもりだから、関係はないけどな。

 

「おおぅっ!? 急に抜かれたと思ったら、扱いが乱暴じゃねえかっ!?」

 

「おお、震えなくなったな」

 

 それはいいことである。これで扱いやすくなった。……あとは、これで自分の真の姿を思い出してくれればなぁ。一応宝物庫にぶち込んだこともあって、デルフリンガーの力は把握している。……あとは、デルフリンガー自身が姿を戻そうと思ってくれればなぁ。

 

「っと」

 

「ちぃっ!」

 

 右からの一撃を一歩引いて避ける。考え事をしていた隙を突かれたが、その程度でくらってやるほど甘くはない。 

 面制圧をしようかとも思ったが、あまりやりすぎるとこの聖堂も崩れそうだ。流石にそうしてしまえば、マスターたちを危険にさらしてしまう。

 

「おらぁっ!」

 

 空気を切り裂く音を立ててデルフリンガーが振り下ろされる。どがっ、と鈍い音を立てて聖堂の床に突き刺さる。すぐに反撃が来たので、デルフリンガーから手を離し、前に一歩進む。

 ち、分身も同じ力を持っているからか、どうにかして連携をとっているからか、動きに隙が少ない。お互いにお互いの隙をカバーし合い、休むことなく攻め立て続けてくる。

 

「面倒な……!」

 

「はははっ! 後ろに足手まといを連れていては、流石の貴様も鈍るか!」

 

 確かに、背後には怪我をしているウェールズと、それを手当てするマスターがいる。……それを守りながらというのは、確かに足かせだろう。だが。

 

「この程度、ハンデにもならんよ、ワルド」

 

 機関銃の発射音と間違うほどの音を立てて、宝具が飛んでゆく。ワルドも三人は躱したが、一人は手足を吹っ飛ばされ、そのまま動きが鈍ったところを宝具に串刺しにされ、消えた。

 

「このっ……!」

 

 呪文の詠唱が始まる。……これは、エア・ハンマーか。

 完成した呪文が、俺の目の前に迫る。……流石に、エア・ハンマーの攻撃範囲くらいは見切って……。

 

「くっ!?」

 

 背後からの一撃に、たたらを踏んだ。これは、雷撃!? 慌てて背後を確認しようとするも、目の前に迫るエア・ハンマーにぶち当たり、体勢を崩す。

 

「ギルっ!」

 

 マスターからの声が飛ぶ。視線だけを後ろに向けると、いつの間にか回り込んでいたワルドが、こちらに杖を向けているところだった。ち、エア・ハンマーとあの杖を光らせる呪文だけだと思っていたが、雷も放てるらしい。これは、油断していた。

 

「くそっ」

 

 回り込んだワルドが着地する瞬間を狙って、宝具を一発撃ちこむ。ろくに狙えなかったからか、腕を一本吹き飛ばすだけにとどまった。血が流れていないところを見るに、あれも分身なのだろう。消せなかったのは痛い。

 

「後ろばかり見ていていいのかね!?」

 

「はっ、言ってろ!」

 

 隙をついて前進してきていた腕を失ったワルドの一撃が迫る。が、あえてぎりぎり避けることによって伸びきった腕をつかみ、引き寄せた体に膝を入れる。

 

「ごあっ!?」

 

「まだまだ!」

 

 そのまま腕をひねって押し倒し、宝剣で頭を突き刺す。力を入れすぎて床に刺さってしまったが、別に手放しても痛いものではない。突き刺さったままの宝剣から手を離して新しい剣を抜く。

 

「ほらほら、今の一撃はよかったが、もうあと二人だ。どうする?」

 

「ち……!」

 

 俺の斜め左右前に立ち、じりじりと隙を伺うワルドを挑発するが、それで突っ込んでくるほど我を忘れてはいないらしい。背後に宝具を展開し、こちらも準備万端に構える。……どちらが本体かはわからないが、両方つぶせばいいだけだ。

 俺とワルドの間に、一瞬の静寂が満ち……からん、という小さな瓦礫の落ちる音で静寂が破られた。

 

「てっ!」

 

「はぁっ!」

 

 宝具が発射されたのと同時に、二人のワルドが駆け出してくる。

 ぼん、と空気が爆発するような音を立てて、エア・ハンマーがはさみうちのように飛んでくる。それを後ろにステップを踏んでよけたときには、すでに次の呪文が完成していた。雷撃が凄まじい速度で向かってくる。先ほどより大きく後ずさって避けると、大きく二人が回り込んできた。

 雷撃を放ってきたのと別のワルドが、風を起こして砂埃を巻き上げる。目つぶしか! だが、この程度!

 

「はっ!」

 

「なに!」

 

 砂埃をおこしたのに見失うことなく宝具を発射してきたのに驚いたのか、二人は一瞬止まりかける。だが、すぐにこちらへ踏み出し、杖で俺を貫こうと迫る。

 躱された宝具はワルドたちの背後に刺さり、大きな音を立てる。剣を持っているのと別の手に魔槍を持ち、二人のワルドからの攻撃を防ぐ。槍で杖を払い、剣で杖を受け流す。

 

「せあっ!」

 

 左から来ていたワルドが、杖を払われ、そのままの勢いでけりを放つ。それを槍では間に合わないので鎧のついている腕で受け、右のワルドに剣を振るう。

 

「ちっ!」

 

 手元に戻した杖で受けられるが、ぎりぎり、と押し込んでいく。その間に左から詠唱の声が聞こえてきたので、一歩下がろうと動き出す。……が、足がついてこない。体だけが勢い良く後ろへ……つまり、背後に転びそうになった。……足を掛けられた!? ち、妙なことをっ!

 背後に倒れこみそうになりつつ、牽制の意味を込めて両手の武器を振るう。

 

「ふっ! ……はっ、どうしたガンダールブ! 貴様の力はこの程度かっ!」

 

 身を屈めて躱したワルドが、俺をあおるように口を開く。

 

「やかましいっ」

 

 バク転をして、体勢を立て直す。ワルドはそうはさせまいと俺に迫り、杖を振るう。

 槍で払い、目についた右のワルドを切り裂こうと剣を振るうが、左にいたワルドが割り込んでくる。

 

「ちっ!」

 

 かばったということは、今右にいるワルドが本体か!

 もう一度剣を右のワルドに振るうと、左にいたワルドが防ごうと杖を割り込ませてくる。

 

「そこっ!」

 

 だが、最初から狙いは左の偏在! 杖を突きだしたその腕を軌道を変えた剣で切り裂いて、そのまま右のワルドへ視線を移す。これで、終わりだ!

 左手の槍を本体のワルドに突き刺すと、その槍はワルドに突き刺さり……。

 

「ぐっ!」

 

 ぼん、と音を立てて消えた。

 

「なに……!?」

 

 本体じゃない!? かばったのが本体だったのか!

 気づいた時にはもう遅く、目前には切り裂いた腕が飛んできていた。血を吹き出しながら飛んできたその腕は、俺の視界を遮るのに十分で……。

 

「終わりだ、ガンダールブ」

 

 気づいた時には、杖を片手で構えたワルドが、懐へと潜り込んでいた。

 

「ちぃ……!」

 

 間に合わん! できるだけダメージの少ないところに受けて……!

 そう考えていると、俺とワルドの間で、小さな爆発が起きた。俺とワルドは、その爆発に巻き込まれ、お互い反対側に吹っ飛んでいく。

 

「くっ、ぐ!?」

 

「お、っとぉ!」

 

 吹き飛ばされつつも、お互いに体制を立て直して着地する。

 俺とワルドの二人は、一斉に同じところに視線を向けた。

 

「……ルイズ……!」

 

「マスター……助かった」

 

 息を荒くしながら、杖を構えるマスターが、そこにはいた。

 

「ご、ごめん、ギル! ワルドだけに、当てようとしたんだけど……!」

 

「……いや、十分だ」

 

 この世界の魔法を知らなかったせいで追い詰められてしまったのは、自業自得である。それを助けてもらったのだ。感謝こそすれ、文句など出るはずもない。

 俺の対面で血の出る腕を押さえ、膝をつくワルド。……終わり、か。

 

「くそ! こんな、こんなはずでは……! ガンダールブ! 貴様のその、妙な力さえなければァっ!」

 

 般若のような形相で、こちらをにらむワルド。……もう、品切れとみていいな。

 そう思って宝物庫を展開する。

 

「最後に、言い残すことはあるか、ワルド」

 

「は、最後? 最後だと……!? ほざけ、私はここから逃げて……な!?」

 

 ワルドが顔をゆがめる。痛みに、だろうが、それは切断された腕のではないようだ。なにやら、新たな痛みを感じているような……?

 急なことに首をかしげていると、ワルドの足元に見たことのある魔力の流れが起こる。……おいおい、まさか。

 

「ち、不味いな! 『王の(ゲートオブ)……」

 

 宝具を発射しようとする直前。

 

財宝(バビロン)』!」

 

 魔力の嵐が巻き起こり、その中にいた存在に、発射した宝具を弾かれてしまった。

 ……ち。これは、本当にまずいか……?

 

「――問おう」

 

 ワルドを守るように現れたその存在は、離れていてもわかるほどに凄まじいプレッシャーを放っている。その姿はまるで日輪。

 

「いやはや、これはまずい」

 

「お前が、俺を呼び出したマスターか――」

 

 流石の俺でもわかる。これは、太陽に類する英霊だ……!

 

・・・




「はい?」「お前じゃない。座ってろ」「みこーん……」「ハーイ?」「お前でもない。座ってろ」「ンー、冷たいデース……」「じゃあ、私ー?」「……太陽と陽の目は違うような……」「そーおー?」「じゃあわらわ?」「あー、でも今までで二番目にちか……」「あ、ではー、壱与もー?」「……」「ああんっ、勝手に座にきた壱与にお仕置きキタコレぇぇんっ!」

「……え、キャットはスルー? うむむ、しかしまぁ、オリジナルにそれの子孫疑いにその後継者……やっぱり日本は未来にいきてんナー」


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