ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

14 / 64
「瞳といえば」「……急にどうしたんだ」「いえ、やっぱり眼に関する能力って多いじゃないですか。メデュ……アンさんとか、ティー……彼女とか」「え、なに、魔眼持ってたら名前言っちゃいけない感じになっちゃうの?」「? どうしたんです、ギr……金ぴかさん」「……土下座神様」「はい?」「泣くぞ」「えっ!? えぇっ!?」「いいのか」「なにそれかわい……ダメですぅっ!」

何だかんだで土下座神様は甘いのでした。


それでは、どうぞ。


第十三話 その瞳に映る、白き国。

 召喚したアサシン……小碓命に現状やら色々と話していると、そういえば、と懐から一枚の便箋を取り出す。

 

「これは?」

 

「あの女神さまからのお手紙みたいですよ。なんか前見た時より面白い顔になっていましたが……どうしたんでしょうね?」

 

 これはセイバーも同じようなことを言っていたな。『顔色が悪い』だとかなんだとか。前の手紙もいまだ解読できていないし……あ、手紙といえば。宝物庫からフーケの手紙も取り出し、『文字解読の眼鏡』を取り出す。ついでにこっちも読んでおこう。

 フーケの手紙には、『今夜あんたらが泊まっているところを襲撃する予定。白い仮面の男の下で例の調査中。男については未だ正体分からず』という内容であった。……うん、俺が悪いからあれだけど、襲撃についてはもうちょっと早く知りたかったなぁ……。フーケは全く悪くないんだが。

 それにしても、一番近くにいるはずのフーケですらあの白い仮面の男についてはわからないのか。……謎である。小碓命にはその辺もちょっと気を付けてもらいたいな。

 

「で、こっちの神様の手紙はっと」

 

 開くと、前回とは違って読めるものの……数字ばかりだった。『32032123521232048085801311928005』? なんだこりゃ。あ、二枚目。『4421047221046343135221247134038005』……暗号か……?

 

「んー……わからん! って、そうだ」

 

 マスターからツッコミを受けたばっかりだし、宝物庫を探してみよう。『暗号 解く』っと。……お、出てきた出てきた。暗号解読の宝具である。それにこの手紙を通せば、翻訳されて複製されるはず……しかし、この手紙を通した宝具はそのまま手紙を戻してくる。……え? 暗号じゃないの、これ。じゃ、じゃあ、セイバーが来た時の手紙を通して……え!? これも暗号じゃないの!? だって普通に読めないぞ!? これを暗号じゃなくて『言語』として使ってたのか……!? まて、『暗号解読』の宝具は『暗号じゃない』というし、『言語解読』の宝具を通しても『俺の知ってる言語(にほんご)を使っている』ためにそのままに見えるし……マジでなんなんだ、この手紙……。

 

「はー、世界には……というか日本にはまだまだいろんな言葉があるんだなぁ……」

 

 とりあえず解読を諦め、手紙も宝具も片づける。

 

「……小碓命」

 

「はい?」

 

「常に気配遮断でマスターの近くへ。ある程度は俺が対応するから、俺が間に合わないとき。本当にどうしようもない時だけ、気配遮断を解いてマスターを守ってほしい」

 

「……ええ、わかりました。それが出来れば、褒めてくれますよね?」

 

「もちろんだとも」

 

 俺が即答でうなずくと、アサシンははにかんで意気込むように拳を握った。それから、すぅ、とアサシンの気配が薄くなっていく。気配遮断の結果だろう。俺は最初から最後まで認識していたのでいまだにアサシンを認識できているが、何も知らない人間が見れば、俺は一人に見えるはずだ。

 

「よし、これで奇襲対策はできた。……部屋に戻るか」

 

 最期に、甲板からの景色を一通り楽しんでから、マスターの眠る部屋へと踵を返した。

 

・・・

 

 翌朝。甲板にいる船員の「アルビオンが見えたぞー!」という声を聞いて、マスターをおこす。

 

「アルビオンについたようだぞ、マスター」

 

「むにゃ……ほんと?」

 

 眠そうなマスターが船から落ちたりしないよう、一緒に甲板へと上がり、前方へと視線を向ける。遠くに、雲の塊のようなものが見えて……それが、巨大な島のようなものだと理解する。

 

「でかいな……」

 

「ふふん、そうでしょ? 前に家族で旅行しに来た時は私もそんな感じだったわ」

 

 そういって笑うマスター。近くの船員の話だと、あと数時間で到着するという。うーむ、到着予定の港からどうやって王城へ行くかだなぁ……。

 そんなことを考えながら近づくアルビオンを見ていると、ワルドもやってきた。

 

「お、ワルド。もう風石の補助はいいのか?」

 

 俺の問いに、少しだけ疲れたようにワルドは答える。

 

「ああ、もう目と鼻の先だしね。あとは残った風石の力だけで行けるようだ」

 

 そういって自分で自分の肩を揉むワルド。ふむ、あとで栄養ドンクでも差し入れるか。あんまり効き目の高すぎない、普通の人間でも大丈夫そうな栄養ドリンクは……っと。

 宝物庫を検索する俺を邪魔するように、鐘の音が響く。早いリズムのそれは、警鐘といっていいほどのものだ。そのすぐ後に、「右舷前方より船が接近してきます!」と叫び声。

 

「……嫌な予感がするな」

 

「確かに。マスター、俺のそばへ。離れるな」

 

 小碓命も近くにいるようだが、空中に投げ出されてはどうしようもあるまい。あれが例えば軍の船で、こちらを沈めようとしてくるなら、俺が飛行宝具を開放する必要があるしな。こちらの船から手旗を振り信号を送るが、相手からの返答はないようだ。それを見ていた別の船員が、船長の下へと慌てて駆け寄ってくる。

 

「船長! あの船は旗を掲げていません!」

 

「な! そ、それではあの船は空賊か!」

 

 ……なるほど、空を飛ぶ賊だから空賊……この世界ならではの賊だな。しかしまずいな。対抗するなら『宝石と黄金の飛行船(ヴィマーナ)』しかないけど……それをこの衆人環境の中で見せるのは面倒を引き起こすだろう。特にワルド。なに言われるかわかったもんじゃない。

 

「……ん?」

 

 スキル『千里眼』が、遠くの空賊船の動きを捕らえる。座でランクを下げていたままこっちに来てしまったので『たまに未来の見えるただの良い眼』でしかないが、空賊船の上で動く空賊くらいは見えるのだ。あれは……うぅん、まだちょっと確定じゃないな。だが、もしかしたらピンチではないのかもしれない。

 

「ギル……」

 

「安心しろ、マスター。俺がいる限りマスターに手出しはさせないよ」

 

 周りの会話を聞いて不安になったらしいマスターを撫でて、安心させるように微笑む。笑いかけるのは不安な子に対して有効なのだ。ここで俺も不安そうにしていれば伝播してしまうからな。

 

「……さて、これがどう出るかは……冠位(グランド)じゃない俺にはわからないなぁ」

 

 花の魔術師とか魔術王とかキングハサンとかならわかるんだろうけど……その辺に伝手はないしなぁ。あ、いや、会ったことないわけじゃないけど……おそらく彼らからの俺の印象最悪だろうしなぁ。……おっと、思考がわきに逸れたな。

 とりあえず、俺の態度で少しは安心してくれたらしい。俺の蔭に隠れてはいるものの、マスターは今にも泣きだしそうな顔を和らげた。

 なんとかこの船も逃げようと回頭するが、すでに捕捉されているらしい。相手からの威嚇射撃が飛び、向こうから手旗信号が送られる。

 

「船長、停船命令です!」

 

「く……!」

 

 船長は最後の望み、とワルドを見るが、首を振られる。

 

「魔法はこの船を浮かべるのに打ち止めだ。素直に停船するんだな」

 

 ワルドのその言葉でもう打つ手がないことを悟ったのか、船長は「破産だ……」と肩を落としながら船員たちに停船を命令する。裏帆を打ち、行き足の弱まった船が空賊船に追いつかれる。空賊船の甲板の上にはメガホンを持った船員がいて、「空賊だ! 抵抗するな!」とこちらに怒鳴りかけてくる。

 

「空賊……!?」

 

 マスターが俺の背後から驚いた声を出す。その間に空賊船が並び、鉤爪ロープが投げ込まれ、こちらの船に斧やら銃やらを持った男たちがロープを伝ってやってくる。メイジもいるらしく、一緒に乗っていたワルドのグリフォンが眠らされた。……相手の無力化に手慣れているな。それなりに修羅場はくぐっているらしい。

 砲はすべてこちらを向いており、船員も向こうのほうが多く、メイジもいる。抵抗は無駄だろう。無駄なだけで『やれない』わけじゃないが。

 そして、空賊の中からひときわ偉そうなのが一人、一歩前に出てきた。派手な格好をしており、髪の毛はぼさぼさで無精ひげも生えており、腰布にはフリントロック銃と曲刀を差しており、左目には眼帯。『賊の頭』と言えばこんな感じ、というイメージを全部くっつけたような男が、ぎろりと鋭い視線をこちらに向ける。

 

「船長はどいつでぇ」

 

 ドスの利いた声でそう言って、辺りを見渡す。それに答えて、船長が手を上げる。それを見た空賊の頭はドスドスとこちらに近づいて、抜いた曲刀で船長の頬をぺたぺたと叩く。顔はニヤついており、すでにこの『狩り』が成功したことを確信しているのだろう。

 

「船の名前と、積み荷は?」

 

「トリステインの『マリー・ガラント』号。積み荷は『硫黄』だ」

 

 おぉ、と空賊たちから声が漏れる。『同量の黄金と同じ値段』と言われた火の秘薬だ。相当な稼ぎになるのだろう。空賊の頭は船長から帽子を取り上げて、自分が被る。

 

「船ごと全部買った。代金は……てめえらの命だ」

 

 その言葉に船長が震え、船員たちもがっくりと肩を落とす。それから頭はこちらに視線を向ける。

 

「おっと、貴族の客まで乗せてんのか」

 

 そういってマスターに近づいてくる。ぎゅ、と俺の服を握りつつも、マスターはひるむことなく胸を張る。……空賊の頭がマスターの顎に手を伸ばす。

 ……だが。

 

「まぁまて。マスターは君の船で皿洗いをするには勿体ないほどの子でね」

 

 ――それは許さんぞ。俺のマスターなのだ。勝手に触られては困る。

 

「あん? なんでぇお前。この女の召使かなんかか?」

 

「まぁサーヴァントっちゃあサーヴァントだけど……それはいいんだよ。とりあえず、『賊』に触ってほしくはないんだよね、この子を」

 

 そういって、頭の伸ばした手を掴む。……む? これは……。

 頭の手を見て、俺は確信した。『これはピンチではあるが危機ではない』。

 

「ちっ、離しやがれ!」

 

 ぶん、と俺の手を払う頭。舌打ちをしながら、興が冷めたのかそれ以上マスターに絡むことなく空賊たちの下へ戻っていった。空賊たちは『マリー・ガラント』号の船員たちに曳航を手伝わせて、俺は腰のデルフリンガーを、そしてワルドとマスターは杖を取り上げられた。これで、無力化されたわけだ。……いやまぁ、俺以外は、だけども。

 

「さてと、マスター。ちょっと予定は狂ったけどアルビオンには行けるみたいだぞ。よかったな」

 

「よくはないでしょ!? 捕まってるのよ、空賊に!」

 

「……ルイズ、なんというか、君の使い魔君はその、剛毅……だな?」

 

 マスターのツッコミに、ワルドが引き気味に続く。いやまぁ、ちょっと変わったバカンスみたいなもんだ。それから、ワルドが船室の積荷なんかを見て回っている。俺たちが閉じ込められた船室は積荷置き場でもあるし、俺達を閉じ込めておく牢屋代わりでもあるらしい。まぁ、今は俺達……ワルドとマスターも『積荷』と言う扱いなのだろう。

 活動的なワルドとは反対に、マスターは壁にもたれかかって座り込んでしまった。おいおい、スカートでそんな座り方したら見えちゃうじゃないか。足を閉じなさい足を。

 

「マスター、おなかは減ってないか?」

 

「減ったけど……まだ我慢は出来るわ」

 

「そうか。……なら、取り合えずコレでも」

 

 宝物庫を小さく開き、一口サイズのお菓子を取り出す。これで少しは気も紛れるだろう。

 

「……ふふ、ありがと」

 

 少しだけ笑って、マスターはお菓子を口にする。それから少しして、おい、と扉から声を掛けられる。一番近い俺が近づくと、「食事だ」と開かれた扉からスープの皿が差し出される。食事は出すんだな、と妙な関心をしつつ手を伸ばすと、ひょいと引っ込められる。……それは俺が一番嫌いなからかい方だぞ、おい。

 こめかみに怒りのマークを浮かび上がらせながら皿を差し出した男を見ると、「質問に答えてからだ」と笑う。ちょっと怒りの感情を浮かべていた俺が反応を遅らせている間に、マスターが立ち上がって先に答えてしまった。

 

「言ってごらんなさい」

 

「お前達、アルビオンには何のようなんだ?」

 

「旅行よ」

 

 マスターはいつものように腰に手をあて胸を張るいつものポーズを取って答えるが、男はその返答に笑う。

 

「へえ、トリステインの貴族が、今時のアルビオンに旅行? 一体何を見学するつもりだ?」

 

「そんなこと、貴方にいう必要は無いわ」

 

「さっきはこの護衛の後ろで震えてたくせに強がるじゃねえか」

 

 耐え切れなかったのか、声を上げて笑った男は、皿と水を置いて再び扉を閉め、鍵を掛けた。それを見届けてから、マスターの元へスープを持っていく。

 

「マスター、食べておけ」

 

「……あんな連中の施しは受けられないわ!」

 

「そういわずに。俺の分も食べていいからさ。……この場合は『飲んで』かな?」

 

 そっぽを向くマスターに、食べないと身体持たないぞー、とスプーンで一口分掬ってあーん、と声を掛ける。

 

「ちょっ、馬鹿キングっ。こんなところで、そんなっ……」

 

「恥ずかしいならさっさと食べないとなー。ほら、あーん」

 

「う、うぅ……ばか、ほんとばか……! あ、あーん!」

 

 恥ずかしさの余りかマナーとか全部考えていない様子で、スプーンにはむっ! と可愛らしく食らい付くマスター。そして、俺からスプーンと皿を奪い取ると、スープを飲み始める。……半分位したらワルドにもあげろよ?

 

「……ふぅ」

 

 君は本当に要らないのかい? とワルドから聞かれたが、やんわりと断っておいた。二人の体力温存が優先だ。俺は魔力で何とかできるしね。言わないけど。

 ワルドも流石に食後すぐに動き回るつもりはないらしい。壁に凭れて黙り込んでいる。マスターも座り込んで、俯いてしまった。

 

「おい、おめえら」

 

 そんなとき、扉が開いて先ほどの食事を持ってきた男とは別の男がやってきた。さっきの男は太っていたが、今度の男はやせぎすだ。

 

「聞き忘れてたんだが、もしかしてアルビオンの貴族派か?」

 

 マスターはその男を睨み返すだけで答えない。ワルドも、帽子の影から視線を向けるだけで沈黙を貫いている。

 

「おいおい、だんまりじゃわからねえじゃねえか。でもまぁ、そうだとしたら失礼したな。俺達は貴族派の皆さんのお陰で商売させてもらってるんだ。王党派に味方しようとする酔狂な連中がいてな。そいつらを捕まえる密命を帯びているのさ」

 

「……じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の軍艦なのね?」

 

 鋭い視線のまま、マスターは男に問い返す。

 

「いやいや、俺達は雇われてるわけじゃねえ。あくまで対等な関係で協力し合ってるのさ。ま、そこはおめえらには関係ねえんだがな。……で、どうなんだ? 貴族派なのか? もしそうだったら、きちんと港まで送り届けてやるぜ」

 

 ……君達は知らないのだな。このマスターのことを。そんなこといったら、このマスターは……。

 

「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか。馬鹿いっちゃいけないわ。私は王党派への使いよ。まだあんたたちが勝ったわけじゃないんだから、アルビオンは王国だし、正当なる政府はアルビオンの王室ね。で、私はトリステインを代表してそこに向かう貴族なんだから、大使なのよ。だから、あんた達には大使としての扱いをあんた達に要求するわ」

 

 一息でそう言い切ったマスターは、ふんすと鼻を鳴らす。一瞬あっけに取られていた空賊も、少しして笑い出す。……いや、俺も少し笑ってるけど。こう、上手く隠してるけどな?

 

「いやはや、正直なのは確かに美徳だが、お前達、ただじゃすまないぞ」

 

「別に。あんた達に嘘ついて命乞いするくらいなら、死んだほうがマシよ」

 

「よく言ったマスター。それでこそ我が主」

 

 素直に俺も賞賛しておく。そんなやり取りを見てから、空賊は「頭に報告してくる」と部屋を出て行ってしまった。

 

「ふん、私はね、最後まで諦めるつもりはないわ」

 

 おー、と小さく拍手する。こんな小さいの立派な決意である。……さて、近づいてくるこの足音は……さっきのか。どう判断されたかな、頭の人には。

 足音に気付いたのか、二人も扉に視線を向ける。扉が開かれたそこには、先ほどのやせぎすの男が。

 

「頭がお呼びだ。きな」

 

・・・

 

 狭い通路を通り、細い階段を上り、俺達が連れてこられたのは、立派な部屋だった。後甲板の上に設けられたこの場所が、空賊船における船長室のようだ。扉の向こうには豪華なディナーテーブルがあり、その一番上座のところに派手な格好の男……空賊たちの頭が腰掛けていた。

 こちらに視線を向けつつ、手では大きな水晶の付いた杖を弄っている。なんと、頭はメイジらしい。……まぁ、貴族じゃなかったとしてもメイジとは力の象徴みたいなもんだ。不思議ではないだろう。

 そんな頭の周りでは、柄の悪い空賊たちがニヤニヤ笑ってこちらを見ている。俺達をつれてきたやせぎすの男が、俺達に声をかける。

 

「おい、頭の前だ。お前達、挨拶しろ」

 

 しかし、そんな言葉に従うマスターではない。いつものように腕を組んで頭を睨みつけている。それを見て、頭も周りの空賊たちと同じようににやっと笑った。

 

「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」

 

 これ以上矢面に立たせるわけには行かないと俺がでしゃばろうかと思ったが……震えているマスターを見て、思いとどまる。彼女は戦っているのだ。戦っているものを邪魔するのは、サーヴァントとしてやってはいけないことだ。サーヴァント()がやるべきことは、マスターを無用な災いから遠ざけること。守ることと、過保護になることは違うのだ。彼女の命と誇りを守る。それが俺の役割なのだ。

 震えつつも、マスターは気丈に答えた。

 

「大使としての扱いを要求するわ。そうじゃなければ、ひとっこともあんた達となんか口を利くもんですか」

 

 だが、幾ら貴族で魔法使いと言っても小娘の言葉だ。まともに取り合ってもらえるはずも無く、ガン無視されて次の質問が飛んでくる。

 

「王党派っつったな?」

 

「……ええ、言ったわ」

 

 少し間が空いたのは、「ひとっことも喋らない」の辺りが引っかかったからだろう。だが、答えねば話も進まないので、仕方なく喋ったというところか。

 

「何しに行くんだ? あいつらは明日にでも消えちまうぜ?」

 

「あんたらに関係ないでしょ」

 

 頭はマスターの素気無い反応にも反応することなく、次の言葉を口にする。

 

「貴族派に付く気はないか? あいつらは今メイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」

 

「死んでも嫌よ」

 

 即答するマスターに、頭は大声で笑う。

 

「いやいや、トリステインの貴族は気ばかり強くってどうしようもないな。……まぁ、どこぞの国の恥知らずどもよりは何百倍もマシだが」

 

 更に、笑った頭はそのまま立ち上がった。その上、笑い方が先ほどまでのねちっこいものから爽やかなものに変っている。……やはり、あの手の指輪は本物だったか。俺の『コレクター:EX』を舐めちゃいかんな。

 

「おっと失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなければな」

 

 その言葉と同時に、周りに控えていた空賊たちが、先ほどまでのニヤニヤ笑いをやめて一斉に直立した。

 頭はそんな空賊たちを尻目に、カツラを取り、眼帯も取り外し、付け髭を剥がし、顔をタオルで拭う。先ほどまでの空賊の頭はどこへやら。目の前には金髪のイケメンが! ……『変装:B』くらいかな? おっと、アサシンが凄い顔して睨んでる……気がする。気配遮断であんまりわかんないけど。

 

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……まぁ、本国艦隊と言っても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。だから、その肩書きよりはこちらのほうが通りがいいだろう」

 

 金髪のイケメンは居住まいをただし、威風堂々名乗った。

 

「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・デューダーだ」

 

 おお、これは『カリスマ』持ちですわぁ。こっちの世界来て初めてかもしれないな。

 マスターは先ほどまでの顔を崩し、口をあんぐりと開けて驚きを表現している。ワルドは「ほう」とでも言いたげな表情で、興味深そうにウェールズを見つめている。

 ウェールズはにっこりと爽やかな笑みを浮かべると、マスターたちに席を勧めた。

 ぽけっと立ち尽くすマスターだが、声を掛けて椅子を引いてやるとあわあわしつつもそこに座った。しかし、あまりの衝撃に言葉が見つからないのか、ウェールズのほうを見たままその顔を確認するように見ている。

 

「ふふ、その顔は、どうして空賊風情に身をやつしているんだ、と言う顔だね。……いやなに、簡単さ。金持ちの反乱軍には次々と補給物資が送り込まれる。ならばその補給線を断つのは戦の基本。……と言っても、素直に旗を掲げて襲撃すれば反乱軍の船に囲まれてしまう。そのために旗を降ろし、空賊を装うのも、いたしかたないことなのだよ」

 

 悪戯が成功した子供のような笑みで、ウェールズは続ける。

 

「それにしても大使殿には誠に失礼なことをした。しかしながら、君たちが王党派ということが中々信じられなくてね。なんせ、国外に我々の味方をしてくれる貴族がいるなど夢にも思わなかったのだ。君達を疑い、試すような真似をしてすまない。……さて、用件を聞こうか」

 

 ウェールズにそう問われても、マスターは未だに再起動を果たしていないようだ。そんなマスターに代わって、ワルドが優雅に頭を下げ、口を開いた。

 

「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かってまいりました」 

 

「ふむ、姫殿下とな。君は?」

 

「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」

 

 それから、ワルドはマスターと俺をウェールズに紹介してくれた。

 

「そしてこちらが、姫殿下より大使の大任を仰せつかった、ラ・ヴァリエール嬢とその使い魔にございます、殿下」

 

「なるほど……! 君のように立派な貴族が私の親衛隊に後十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることも無かったろうに。……して、その密書とやらは?」

 

 その言葉に慌てて立ち上がったマスターに、俺が宝物庫(ふところ)から出した密書を渡す。封蝋だけでも証明できるとは思ったが、一応姫から借りている指輪も添えて渡しておく。俺からその二つを受け取ったマスターはウェールズに近づいていくが、数歩前で止まる。まだ密書を手渡せる距離ではない。

 

「あの……」

 

「なんだね?」

 

「その、失礼ですが……本当に皇太子様?」

 

 躊躇いがちに口にされたその疑問に、ウェールズは笑って答えた。

 

「うむ、その疑問も当然だろう。しかし、僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。……ああ、丁度いい。それがあるなら、証拠をお見せしよう」

 

 そう言って、ウェールズは自身の薬指についている指輪を外すと、手紙とともにマスターが持つ指輪に近づける。すると、二つの指輪は魔力を共鳴しあい、虹色の光を振りまく。なるほど、コレが『水と風が作る虹』と言う奴か。マスターの持つ『水のルビー』とウェールズの持つ『風のルビー』を見たときに謎に思っていた効果が、コレで見れたわけだ。……え? そんなスキルあるのかって? 『コレクター』と『千里眼』を合わせれば宝具でもない限り解読できるよ。

 

「この指輪は、アルビオン王家に伝わる風のルビー。そしてそれは、アンリエッタがはめていた、水のルビー。そうだね?」

 

「は、はい」

 

「水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ」

 

「大変失礼をばいたしました」

 

 マスターは一礼して、手紙をウェールズに渡す。ウェールズはその手紙を愛おしそうに見つめると、花押に接吻し、慎重に封を開いて中の便箋を取り出し読み始める。

 とても真剣な顔である。……ふぅむ、これはもしかすると……。ふぅん?

 俺の中のおっさんの部分がその様子をニヤニヤと見つめていることに気付く。……年下の初々しい恋愛をニヤつきながら見守るおっさんの気分である。いや、うん、ミレニアムレベルの年下だけども。

 

「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従姉は」

 

 ほう! ほほう! そういう系なのか! いとこどうしで違う王家の皇太子と姫……ふむふむ、しかし政略結婚によって引き裂かれる二人……ふぅむ、これは、応援するべきだ。すべきだが……この状況だものなぁ。

 

「……何百面相してんのよ。ほら、行くわよ」

 

「……む?」

 

 俺がうんうん唸っている間に話は進んでしまったらしい。取り合えず客室が割り当てられることになり、もう少し近づくまで休んでいくことになったらしい。

 割り当てられた部屋でマスターから聞いた話だと、今回の目的である『手紙』はニューカッスル城というウェールズの居城にあるらしいので、そこまで向かうことになったらしい。

 『白の国』アルビオン。……白い仮面の男は流石に追ってこれはしないだろうが……戦争真っ只中の王国か。

 

・・・

 




クラス:アサシン

真名:小碓命 性別:? 属性:混沌・善

クラススキル

気配遮断:B+

サーヴァントとしての気配を立つ。隠密行動に適している。さらに、男の下へ忍び寄る際には、有利な判定を受ける。
ただし、自身が攻撃態勢に移ると気配遮断は解けてしまう。


保有スキル

単独行動:A
マスターが不在でも行動できる。ただし、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターからのバックアップが必要。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
天照大神の系譜である。

変装:A
自身の衣装、髪型、所作等を変え、自身の身分を偽る技法。ランクが高ければ高いほど見破られず、他人になり切れる。
このランクであれば、別人になれるどころか性別、骨格までも変えることができる。
美少女に変装し、熊襲健の下へと潜入、暗殺をした逸話と、後述の宝具、『■■■■(■■■■■■■■)■■■■(■■■■■■■■■■)』より。


能力値

 筋力:C+ 魔力:B 耐久:D 幸運:B 敏捷:B+ 宝具:EX

宝具

■■■■(■■■■■■■■)■■■■(■■■■■■■■■■)

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:2人

え、コレですか? ボクの服と短刀ですよ! ……フフ。

■■■■(■■■■■■■■)■■■■(■■■■■■■)

ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:200人

これはですね、ちょっと今のクラスだとおっきくてあんまり使いこなせてないんです。……切れ味は、良いんですけどねぇ?

■■■■(■■■■■■■■)■■■■(■■■■■■■■■)

ランク:EX 種別:■■宝具 レンジ:― 最大補足:―

ボクは、死んでも君とは離れたくないんです。ずっと。……ずぅっと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。