ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「っ、ここだっ!」「わっ、え、なんだい、ギル。そんな慌てて」「あ、ああ。デオンか。頼む、匿ってほしいんだ」「よくわからないけど……ま、匿ってほしいというのはわかったよ。そこのベッドにでも潜ってるといい」「ああ、助かる!」

「……デオンさん? デオンさーん」「ん? はーい、誰かな」「失礼します」「おっと、清姫か……どうしたんだい?」「いえ、少し聞きたいことが……ますたぁを見かけませんでしたか?」「ギル? いや、見てないけど……どうかしたのかな?」「いえ……それならいいのです。お騒がせしました」

「……ふぅ。なるほどね。いつものメンバーに追いかけられてるわけか」「いやはや、そうなんだよ。ちょっといつメンにみつかってな」「……搾り取られて来ればいいじゃないか。いやじゃないんだろう?」「……そりゃそうだけど。あのメンバーはちょっと命の危険を感じるというか……」「ふふ、まぁいいや。どうかな。紅茶でも。ゆっくりしていくといい」「お、助かるよ。……ふぅ、いい香りだ。落ち着く味だな」「……うん、とてもいい茶葉でね」「ほー、俺もマリーに叩き込まれたけど、これは知らない……ちゃ、ば……」

「……お休み、ギル。……マリー、もういいよ」「ええ、そのようね。……ふふ、ギル、寝顔もきれいね」「うん、そうだね。……さ、マリー」「そうね。早くしないと。……人外も怖いけれど、人間……貴族や王族はもっと怖いのよ? 勉強になったわね、ギル?」

その後、玉座にて見つかった彼は、とてもやつれていたという。


それでは、どうぞ。


第十二話 逃亡、そして真名に二人目。

 港へたどり着いた俺たちは、大樹の中にある階段を駆け上がっていた。

 

「もう少しで船着き場だ」

 

 ワルドのその言葉に、マスターがほっとした表情を浮かべた。……その瞬間。

 

「っ! ワルドっ!」

 

 上空から急襲を受けたワルドが、体勢を崩す。

 

「白い仮面っ!?」

 

 こいつが、フーケや傭兵を雇い、俺たちを邪魔してきた、貴族派の男っ! 背の高さは俺やワルドぐらい。顔は隠されているからどんな顔をしているかはわからないが、ワルドと同じような杖を持っている。メイジか!

 白い仮面の男は、ワルドからマスターを奪い取り、こちらに魔法を放ってくる。

 

「させるか!」

 

 魔法を撃たれる前に踏み込み、デルフリンガーを一閃。男は杖を弾かれないよう上に向けた。これで射線からは外れた。

 マスターを抱えているから片手しか使えない男は、マスターを盾にするように抱え上げる。

 

「ちょっと! 離しなさいよ!」

 

 バタバタと暴れるマスター。その心意気は立派だが今は大人しくしておいてもらいたい。狙いが定まらん。

 体勢を崩して転んだワルドは頼れなさそうだし、俺が取り戻すしか、と思っていると、男は逃げようとし始める。

 

「やらせんよ!」

 

 意識が逃走に向いた瞬間、宝物庫を開いて自動人形に足を掴んでもらう。意識の外からのことに驚いたのか、動きを止める男。

 

「そこだ!」

 

 デルフリンガーを手放し、マスターをまずつかむ。

 

「マスターを離せ!」

 

 そして、隙だらけの顔面に拳の一撃。ついでだ、顔を拝んでやる!

 殴られた衝撃でマスターを離したので、引き寄せながら男の仮面が砕けた瞬間を見てやろうと視線を向けると……。

 

「消えた……?」

 

 まるで霊体化でもしたかのように、男が消えたのだ。……やはり、サーヴァント? 顔を見られるとまずいと思って霊体化して逃げたのか? そう考えていると、地面に投げたデルフリンガーがカタカタと喋り始めた。

 

「おでれーた……風の偏在か」

 

「偏在?」

 

 そんな会話を拾ったマスターが追加で説明をしてくれる。風の魔法に、『偏在』という自分の分身を作り出せる魔法があるらしい。その分身も魔法を使えるので、とても便利なのだとか。だが、スクウェアクラス以上じゃないと扱えないらしく、敵は少なくとも風のスクウェアクラスなのだという。

 そんな説明をしていると、転んで階段を転がり落ちていたらしいワルドが、息を切らせながら追いついた。俺の腕の中にいるマスターを見て、ふぅ、と安堵の息をついた。

 

「よかった。どうやら僕と同じような風のメイジが直接ルイズを狙いに来たようだね。……手紙は無事かい?」

 

 ワルドはマスターにいつもの柔らかい笑みを浮かべて尋ねる。手紙自体は俺の宝物庫なので心配することはないのだが……ま、それを知らないワルドがマスターに聞くのも間違ってはいないだろう。

 

「ええ、無事よ」

 

 マスターも余計なことは言わないようにしてるのか、簡単に答えるだけにとどめている。ま、細かく説明しても面倒だしな。

 

「ならば良いんだ。さ、次の刺客が来ないとも限らない。さっさと上ってしまおう」

 

「私は大丈夫だけど……ワルドは大丈夫?」

 

「はは、心配してくれるんだね。うれしいよ。でも、大丈夫。これでも魔法衛士隊の隊長だからね。やわな鍛え方はしてないのさ」

 

 そういって微笑むと、ワルドはマスターの頭を撫でてから、先頭を駆けだす。言葉通り、体幹にブレはないようだ。

 

「マスター、ワルドについていくんだ。後ろは俺が守るから」

 

「……うん、お願い」

 

 そういって、マスターは駆け出す。その後ろを走りながら、陰になっているところやらに視線を飛ばしていく。しかし、それからは襲撃を受けることなく、船着き場にたどり着いた。一隻の船が泊まっており、甲板には何人かの男たちが見張りもかねて眠っており、俺たちが駆け込んできた音を聞いて飛び起きる。

 

「ああん? なんでえ、おまえらは!」

 

 寝ぼけることもなく船員たちは飛び起きた後に警戒をあらわにする。

 

「船長はいるか?」

 

 そんな彼らに怯むことなくワルドは厳しい表情で船員に尋ねた。だが、船員たちも生死をかけた修羅場をくぐってきたからか、それにひるむことなく手元にあった酒瓶を掴んで一口ぐびっとあおる。ぷは、と一息ついてから、面倒そうに口を開く。

 

「ああ、今は寝てるぜ。用があるんだったら、また朝に出直すんだな」

 

 もう話は終わりだ、とばかりに船員がもう一口酒を飲んで、座り込む。また寝ようというのだろう。だが、それよりもワルドが杖を抜くほうが早かった。一瞬キョトンとした船員も、それが何かを認識した瞬間に目を見開いた。

 

「貴族に二度も同じことを言わせるのか? ……僕は、船長はいるかと聞いたのだ」

 

「貴族っ!?」

 

 座り込もうと姿勢を低くしていた船員は、驚いたのかそのまま尻餅をついて、ワタワタと立ち上がり、船内へ駆け込んでいく。他の船員たちも騒ぎの大きさに全員が起きだし、動き始めていた。そして、最初に声を掛けた船員が、船長らしき男を連れて戻ってきた。

 

「な、何の御用ですかな、貴族様」

 

 貴族であれば大変だが、なんでこんな時間に? 本当に貴族か? という疑問の色が濃い視線が、俺たちを舐めていく。

 

「私は魔法衛士隊の隊長、ワルド子爵である」

 

 その自己紹介に、船長の顔が驚愕に染まる。

 

「こっ、これはこれは……しかし、その子爵さまがこんな船に何か御用で?」

 

 揉み手まで始めた船長に、ワルドは容赦なく要求を告げる。

 

「アルビオンに今すぐ出発してもらいたい」

 

「今すぐ!? そんな無茶な!」

 

 身分の高い貴族だと分かってなお、ワルドの言葉に反論するということは、今の状況では絶対に不可能なのだということだろう。

 

「なんで今すぐだと無理なんだ?」

 

 このままワルドに任せるとワルドは「王命だぞ」とか言い始めそうなので、俺が割り込むことにする。俺に視線を移した船長は、詳しく説明をしてくれる。

 

「ラ・ロシェールにアルビオンが近づくのは明日の朝! それ以前に出港しちゃあ、風石が足りなくなりまさぁ!」

 

 なるほど、つまり『アルビオンが最接近したとき用の最短距離分の燃料しか積んでないから、途中で墜落する』ということだろう。海を行く船と違って、こちらの船はどちらかというと飛行機のようなものだ。そりゃ、燃料が足りないと落ちる。だが、それを聞いたワルドは、なるほど、とうなずくと、

 

「足りない分は僕が補おう。僕は風のスクウェアだ」

 

 おお。ワルドはあの大きな船を飛ばせるだけの魔法を使えるのか。流石エリート。足りない燃料を追加で補うよと言われれば、船長も頷かざるを得ない。

 

「ならば、あとは料金ですな。弾んでもらいますよ」

 

「積み荷は?」

 

「硫黄でさぁ。アルビオンでは今や黄金と同じ価値があるってもんで、高値を付けてくださいますからね」

 

「ではその運賃と同額を出そう」

 

 その言葉を聞いた瞬間、船長は悪そうにうなずいた。……いや、俺の主観だから別に悪い人ってわけじゃないんだろうけど……ま、強かじゃないとこういう商売では生きていけないのだろう。船長は船員たちに指示を出し始める。

 

「出港だ! もやいを放て! 帆を打て!」

 

 船員たちが命令通り、訓練された通りの、手際よく準備をしていく。そして、最後に船をつりさげているロープを外した瞬間、一瞬沈み、風石の力で浮かび上がる。風を受け、船が動き始める。

 

「おぉ……」

 

 ヴィマーナとは違った感覚だ。自分の体が固定されておらず、不安定な足場。動きも恐ろしく安定しないもので、だからこそ新鮮に思えた。真夜中の空を、木造の船が飛んでいく。……素晴らしい光景だ……。

 そんな風に感動していると、マスターがそういえば、と口を開いた。今はワルドも風石の補助でいないため、話をするにはもってこいだった。

 

「……ねえ、セイバーは大丈夫なの? その、あんまり強そうには見えなかったんだけど……」

 

「ん? ああ、あの子は三つ宝具があってね。……そのうち、二つまでの使用を許可してる」

 

「どんな宝具なの?」

 

 首をかしげるマスターに、そうだな、と少し考えてから、答える。

 

「一つ目は、聖剣みたいなもんだ。名を……」

 

 そこで、俺は一度呼吸をする。そして、その名を。あの子を英霊たらしめる宝具のうちの一つの名を口にする。

 

「『三聖人の声聞き立ち上がる少女(ラ・ピュセル)』」

 

・・・

 

「はぁっ!」

 

 この剣は、抜いただけで私のステータスを啓示スキルのランク分引き上げ、さらにスキルも新たに付与される、という、私をただの村娘から戦える者に変える、聖なる剣だ。

 このおかげで、私はこの恐ろしいゴーレムや、大量にやってくる傭兵たちとも渡り合えているのだ。猛烈に怖いから、戦ってるときはちょっと余裕なくなっちゃうけど。

 

「んぅ! もぉっ、ゴーレムをなんとかしないと……! でも、私だけの力じゃ……」

 

 ゴーレムは岩でできていて、私の武装じゃどうしようもない。後ろにいるあの三人の力が必要だ。……だから、私は二つ目の宝具を使うことにした。一つ目の宝具は鞘から抜くだけで発動する宝具であったが、これはきちんと真名を解放せねばならない。

 だから、私は後ろのみんなに声を掛ける。

 

「キュルケさん! 今からそちらの三人を強化します! なので、ゴーレムは任せます!」

 

「え!? え、ええ!」

 

 戸惑っていたキュルケさんだが、すぐに考えをまとめたのか、ギーシュさんとタバサさんに声を掛け、準備をしていた。

 だから、私もすぐに準備をする。右手に持った剣ではなく、左手に持った獲物の封を解く。長く、太い槍のようなものに巻き付いていた布が、封を解かれて広がっていく。これは、私が持って駆けた旗。私の戦いの証。その名を、真名を開放するための口上を高らかに叫ぶ。

 

「私は先で駆ける者! この旗のもとに集え、勇あるものよ! 我が主はここにありて同胞たちを導く!」

 

 そして、旗を高く掲げる。

 

「我が旗は同胞たちの力となる! 真名開放! 『先駆け鼓舞する旗持ち乙女(アン・ソヴェール・オルレアン)』!」

 

 魔力が体から旗を通じて神秘として流れ出ていく。この宝具は、自分のカリスマスキルのランクに応じて自身が『味方』と認識したもののステータスをアップさせるという支援宝具。だけど、それでいい。私は戦いには向かないけど、仲間がいる。

 後ろからワルキューレが走ってきて、ゴーレムに取り付いていく。七体しか出せないはずのワルキューレが、倍の十四体に増えていた。それをはがそうとゴーレムが動く前に、ギーシュさんがワルキューレを『錬金』する。それは、油。体中に取り付いたワルキューレが油へと錬金され、ゴーレムを油まみれにしていく。そこへ、キュルケさんのファイアボール。一気にゴーレムが火に包まれ、その炎をタバサさんの風の竜巻が勢いを後押ししていく。

 

「……うっぷ」

 

 その光景に、ちょっとだけトラウマを刺激される。……やっぱり、炎に包まれるというのを見るのはいい気はしない。

 

「お、女の子として、吐くわけには……ぎ、ギルさんに嫌われちゃう……」

 

 寸でのところでなんとか吐き気を抑えると、すでにゴーレムは崩れかけており、肩の上に乗っていた人影もいつの間にか消えていた。……これで、あとは傭兵たちを吹っ飛ばすだけだ。

 

「じゃあ、最後の仕上げと行きますか!」

 

 気合を入れるように声を上げてから、私は動揺している傭兵たちに突っ込んだ。

 

・・・

 

 空を飛ぶ船に乗ってしばらく。ワルドは船長に話を聞きに行くと言って船長室へと行ってしまったので、甲板では俺とマスターが二人して外を眺めていた。

 

「あんたの船は早すぎたから、こんなにゆっくり景色を見るのは久しぶりね」

 

 そういって、ほう、と息を吐くマスター。

 

「セイバーたち、大丈夫かしら」

 

 しばらく空を見つめていたマスターが、ふっとつぶやく。

 

「……大丈夫だって。俺のほうのパスでは、もう魔力を引っ張ってないから、たぶん戦闘は終わってるよ」

 

 俺に刻まれた宝具を通じて、セイバーが無事であろうことはすでに分かっている。大きい魔力の動きがあったので、第二宝具まで開放したのだろう。それならば、あそこにいる『味方』は強力にバックアップされる。フーケもある程度被害を被れば自ら引くだろうし、そうなれば傭兵はギーシュたちの敵ではないだろう。

 

「ま、彼らは大丈夫だしさ、こっちはこっちの仕事を終わらせようぜ」

 

「そうね。……戦争の真っただ中のアルビオン……『白の国』、か」

 

「『白の国』?」

 

「ええ。……見ればわかるわ」

 

「ふぅん。……あ、月」

 

 こちらに来てからの一番の驚き、『赤と青の二つの月』に視線を向ける。……なんというか、月と言われると妙にむずむずするのだが……まぁ、今考えても詮無きことか。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

 二人並んで景色を見ていると、マスターが声を掛けてくる。

 

「あんたのいたところっていうのは……月が『一つ』なのよね?」

 

「ああ」

 

「魔法も、大っぴらには使われてないのよね?」

 

「ああ。王も貴族も、残ってる国のほうが珍しいくらいだ」

 

 俺の言葉を聞いて、そう、とつぶやいて、マスターはこちらをしっかりと見上げる。

 

「あんたが異世界の王様で凄い幽霊でも、今は私の使い魔なんだからね! それを忘れないこと! いい!?」

 

 人差し指をびしぃ、と俺に突き付けながら、力強くそう宣言した。……今のやり取りで何を思ったのか、何を決意したのかはわからないが、その宣言にはマスターなりの想いがあるのだろう。ならば、サーヴァントとして尊重しないわけにはいかないな。

 

「ああ、もちろん。君が契約を切らない限り、俺は君を守るよ。……約束だ」

 

「ふんっ」

 

 顔を赤くしたマスターが、そっぽを向きながら鼻を鳴らす。……こういう時のマスターのこの行動は、恥ずかしい時の行動だ。それくらい俺にもわかる。

 

「そういえばマスター、帰ったら頼みがあるんだが……」

 

「? なによ」

 

「文字を教えてほしいんだ」

 

「はぁ? ……って、そうよね、あんたは王様っていっても異世界のだもんね。言葉がわからなくてとうぜ……じゃあなんで話せてるのよ!?」

 

「そこはほら、英霊不思議パワーってことで」

 

 宝具なんてものがあるんだから、それくらいは不思議じゃないだろう。

 

「なによそれ。……まぁいいわ。文字が読めなきゃ不便なこともあるだろうし……仕方ないわねぇ。優しいこの私が! 教えてあげるわ!」

 

「流石マスター。よっ。大統領!」

 

「だいとーりょーってなによ?」

 

「俺の世界でのほめ言葉の一つだよ」

 

 俺の言葉を信じたのか、ふぅん、と小さく納得の息を吐いたマスターは、そういえば、と思い出したように口を開いた。

 

「文字が読めないっていうけど……あんたの宝物庫にはそういうの解決するマジックアイテムみたいなの無いの? 変なゴブレットとかメイドとか入ってるくらいなんだし、『文字が読めるようになる眼鏡』くらいありそうだけど」

 

「……っ!?」

 

「……え、まさかあるの!? 『その手があったか!』みたいな顔してるけど! 探してなかったの!?」

 

「い、いや、ほら、宝物庫って基本武器の宝具とかしか入ってないし、あの、ほら、言葉とか文字とか、その世界の『常識』は聖杯からくるから、それが来ないってことは自分で勉強するしかないんだなって……」

 

「ヌケてるわねー……」

 

 マスターの呆れたような声を受けながら、俺は宝物庫の中を検索する。……うぉぉ、『文字が読めるようになる虫眼鏡』『文字を解読するモノクル』『どんな言語も翻訳して読み上げてくれる人形』などなど『文字 翻訳』だけの検索で大量に出てきたぞ……! 宝物庫の検索エンジンが優秀すぎる!

 

「で、あったの?」

 

「……あった」

 

「そ。じゃあ、文字は別に教えなくていいわね」

 

「いや、それでも帰ったら教えてほしいんだ」

 

「はぁ? 別に、宝具であるんだったらいいじゃない」

 

 疑問を表情に浮かべるマスターに、それでも、と首を振って否定する。

 

「宝具を使わなきゃ文字が読めないより、何も使わなくてもちゃんと文字が読めるほうがいいからさ。もしかしたら宝具が使えないことがあるかもしれないだろ?」

 

「……宝具に関してはあんたが詳しいから、そういうならそうなんでしょうね。……ん、良いわ。教えるって決めたしね。決めたことはちゃんとやらないと」

 

 俺の我儘に近いお願いを快諾してくれたマスターに感謝を伝え、ついでとばかりにアルビオンについて詳しく聞こうとすると、背後から声が掛けられる。どうやら、ワルドが戻ってきたようだ。船長から色々話は聞けたのだろうか。

 

「色々と興味深い話が聞けたよ。国王の軍はニューカッスル付近で包囲されて苦戦しているそうだ」

 

「包囲されているということはまだ睨み合えている……皇太子はまだ生きてる可能性が高いな」

 

 まぁ、敵側がなぶっているだけということも考えられるけど……長引かせていい戦じゃないだろうし、これは国王軍が優秀というべきか。しかし、包囲されているのは困るな。向かうのも困難だし、そんな状態なら接触するのも一苦労だろう。

 ワルドのグリフォンも長い間は飛行できないだろうし……これは本格的にライダーの召喚が急務になってきたな。誰がいいかなー。長距離移動ができるといえばドラゴンだし、ドラゴンライダーのケツァルとか? でもうちの土下座神様が嫌ってるからなー。まぁ、敵対しているっていうよりかは身体的コンプレックスっぽいけど。ま、あんなナイスバディで霊基登録されてしまったことを恨むんだな。

 あとは……やっぱりアストルフォかなー。俺の事慕ってくれてるし、理性蒸発してるから素直だし。無茶を言ってもなでたりだとかで満足してくれる生前の侍女隊みたいないい子だし。……たまにいつの間にか同衾してたりすることあるけど……これでも気配には聡いほうなんだが……。アサシンクラス適性はないはずだよな? ……謎である。

 

「さて、手段については到着してから考えるとしよう。なに、どちらも他国の貴族を公然と攻撃はできないだろう。隙はあるはずさ。そこを突破するしかない。……大丈夫だよルイズ。こんな時のために、僕がいるんだからね」

 

 そういって、ワルドはルイズに微笑む。それから、こちらをちらりと見て、一つ頷く。『お前もマスターを守れよ』という意味なのだろう。こちらももちろんだ、とうなずきを返す。

 

「それでは、そろそろ休んだほうがいい。スカボローの港への到着は、明日の朝になる予定だからね」

 

 そういって、ワルドは「もう少し船長と話がある」と言って去っていった。

 その姿を見送ってから、マスターに部屋で休もうか、というと、素直に頷いてくれた。明日のことを思ってか顔が少し強張ってはいるが、がちがちに緊張しているわけではないし、問題はないだろう。適度な緊張感は必要だからな。

 部屋に送った後、そのまま寝ずの番兼寝るまでの話し相手として、しばらく同じ部屋で過ごしたのだった。

 

・・・

 

 夜中。眠りについたマスターに自動防御宝具を半分割り当て、俺は部屋を出た。セイバーとのパスを感じ取りながら、甲板で夜風に当たる。

 

「怪我はしてないようだな。……遠すぎるからか念話が通じないようだが……こんなものなのかな?」

 

 実戦で召喚宝具を使ったのは初めてなので、あんまりよくわからないのだ。うぅむ、サーヴァント初心者で、神様……通常の聖杯戦争での聖杯からの知識がない状況というこのトラブルも重なり、少し不安になってしまった。ちょっとセンチな気分という奴だ。マスターと同じくらい、セイバーやギーシュ、タバサやキュルケは大切な子だ。心配もする。

 

「頼んだぞ、セイバー……」

 

 俺のつぶやきが届くはずもなく、風に消えていく。

 さて、俺がこうして甲板に出てきたのは、夜風に当たるためだけではなく、新しい英霊を召喚しようと思ったのだ。クラスはアサシン。ライダーと迷ったのだが、現状は機動力よりも気配遮断により気づかれずに周囲を守り、奇襲に対策するべきだと思ったのだ。今回は奇襲をかけてきたのが山賊のような神秘を持たない相手や、白い仮面の男といった神出鬼没の敵に関しても、アサシンならば対応できるだろうと思ったのだ。

 クラスは決まったが……肝心な英霊は誰にするか……。酒呑か静謐か……二人とも周りに被害をもたらす系サーヴァントなんだけど、俺と仲いいから手伝ってもらいやすいっていうのが利点だよなぁ。……よし、酒呑を呼ぶとしよう。そうと決まればと宝具を発動する。

 

「魔力を回す……。来い、アサシン! 『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』!」

 

 前回とは違い、コツは掴んでいるので、宝具を発動し、英霊を手繰り寄せる。あの子が来るとちょっと夜が忙しくなるけど、まぁそれはそれ。とても頼りになる英霊なのだ。

 

「よし、成功だ!」

 

 魔法陣が輝き、魔力が人の形を編んでいく。小柄で、二本の角が生えた、和装の……和装、の……?

 

「サーヴァント、アサシン! ええと、しょ、召喚に応じ参上しました! さ、何を倒します?」

 

 ……出てきたのは、酒呑童子ではなく、人間の英霊。あれー? 最初が成功したから安心してたけど、まだ使いこなせてないのかなー?

 

「えーっと、酒呑童子……じゃないよね?」

 

「? はい!」

 

 よかった。酒呑童子がこんなイメチェンしてたら、まさかの酒呑童子リリィとかありえるのかと思った。……髪の毛はストレートのロングだけど黒いし、顔だちも西洋ではない。小柄だし胸もないし美少女だし……うん、わからん。

 服装は簡単な着物のようなもの。手元が見えないほどに着物の袖は長く、かぐやの羽衣のようなものを背中に羽織っている。

 

「えーっと、ステータスは……」

 

 ステータスを確認しようと思ったが、俺の宝具の不具合か、まだわからないようだ。でもセイバーほどのバグではないみたいなので、自己紹介してもらえれば情報は開示されるだろう。

 

「名前を聞いてもいいか、アサシン」

 

「あ、はい。私の名前は……んー、どっちかな」

 

 そういって、少し視線を上に向け、顎に手を当てて考えるそぶりを見せてから、アサシンは答える。

 

「うん、こっちかな。私の名前は、『小碓命』といいます! よろしくお願いしますね!」

 

 その名前を聞いて、一瞬キョトンとした俺は悪くないと思う。……え、おうす、の、みこと……? 

 

「たぶん、『日本武尊』のほうが聞き覚えあると思いますけど、アサシンだとこの姿になるみたいですね!」

 

 そういって微笑むアサシンに、俺は冷や汗を一つ流すのだった。

 

・・・




ステータスが更新されました。

真名:ジャ繝ウ繝・ダ繝ォ繧ッ――召喚時のエラーにより、言語変換に失敗。解析中。

クラス:セイ繝エ繧。繝シ――召喚時のエラーにより、言語変換に失敗。解析中。 性別:女性 属性:秩序・善

ステータス:筋力・E 耐久・E+ 敏捷・E 魔力・B 幸運・C 宝具・A++

クラス別スキル

対魔力:☆

■■:D

固有スキル

繝シ繝ウ:A

カリスマ:■+

■人:A

透化:■
――第一宝具解放後、詳細解明。

■■放出:A
――第一宝具解放後、詳細解明。

心眼(■):E
――第一宝具解放後、詳細解明。

■■■の加護:A
――第三宝具発動後、閲覧許可。

矢除けの加護:■
――第三宝具発動後、閲覧許可。

宝具
三聖人の声聞き立ち上がる少女(ラ・ピュセル)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:一人

第一宝具:立ち上がった少女の物語。

先駆け鼓舞する旗持ち乙女(アン・ソヴェール・オルレアン)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:1000人

第二宝具:仲間の先を駆ける乙女の物語。

■■■■■■■■■■■(■■■■・■■■)
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:10人

第三宝具:奇跡のその先へ向かった■■の物語。

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