ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「こんな俺だけど、友達は結構いいやつばかりでな。はは、懐かしいなぁ」「へぇ……どんな友達だったの?」「ん? そうだな、サーヴァントに性癖を暴露させるためだけに令呪を切るような男とか、ウェディングドレスが似合うのは誰かって投票で女性陣を押さえて一位になった男とか……個性的なやつらだったなぁ……」「……こ、個性的……?」「覚えておくといいぞ、マスター。『変人』っていうのを柔らかく伝えたいとき、『個性的』っていうのはとても便利な言葉だ」「……そうね。私も『個性的』な使い魔がいるから、積極的に使っていくわ」「なんだと!? 俺のことを変人扱いとは、血迷ったか!?」「……ギルさんの場合、自覚がないのが一番問題ですよねー」「セイバー、あんたもこの気持ちわかってくれる?」

それでは、どうぞ。


第十話 遠き友、忍び来る。

 舞踏会から数日後。学院が再び騒がしくなってきた。どうしたんだろうか、と最近仲良くなって話すようになったギーシュに聞くと、なんでも急きょトリステイン王国の王女、アンリエッタ姫殿下がこの学院に行幸することとなり、その日の授業はすべて中止。生徒や教師たちは出迎えるための式典の準備などに忙しいんだそうだ。

 

「ふぅん……お姫様ねぇ」

 

「お姫様! 女の子のあこがれですよねぇ!」

 

 この国の王女に会ってみたいなぁ、とか思ってたら王女が学院に来るとか、俺のせいじゃ、と少し罪悪感にとらわれるものの、ま、いっかと思いなおす。ちなみに今ごろ来ているころだろうが、マスターより「隠れていること」と命令されてしまった俺は、中庭にてテーブルやらを広げ、セイバーと一緒にお茶を飲んでいるところだ。セイバーはしきりに女の子の夢である「お姫様、お嫁さん」について自動人形に熱く語っているが、肝心の相手がそいつじゃなぁ……。

 紅茶をいれたりお菓子を擁してくれた自動人形は、「ちょっとどうにかしろよこいつ」という思念を送ってくる。いや、夢見る少女は止められないわー。

 

「シエスタちゃんはどう思います!?」

 

「ふぇっ!? わ、私ですか?」

 

 あまり反応しない自動人形を諦め、次にセイバーが標的にしたのは、「お茶を飲むならお友達も!」とセイバーがごね、俺がマルトーに頼み込んでなんとか連れてきたシエスタだった。先ほどまで席には座っていたものの緊張からかがちがちに固まっており、自動人形からの給仕もびくびくしながら受ける始末。そんな状態の彼女に急に質問なんてしたら、そりゃあたふたもする。

 

「え、えーと……そ、その、お、恐れ多くてそんなの、想像もできません!」

 

「あー、そうですよねー。お姫様どころかお貴族様だもんなー」

 

 シエスタの反応に、セイバーも乗り出していた身を戻した。

 

「そういえば、前の話どうなりました?」

 

「前の? ……ああ、シエスタに俺のメイドになってもらう話か」

 

 セイバーは数少ないお友達のシエスタとかなり意気投合したらしく、以前のギーシュに絡まれた話を聞いたセイバーが「こんなにいい子が他の貴族の子たちにいじめられたりするのはダメだ」とお金を払って転職してもらおうと発案したのだ。……っていうかこいつナチュラルに俺に金払わせる気か。いや、俺専属にするならそれは正しいけど。

 

「っていうかなんで俺? マスターとかお前とかの専属になってもらえばいいじゃん」

 

「えー。だってギルさんのマスターさんって貴族さんですけど……あんまり今は力ないですよね? それよりはちゃんと守る力のあるギルさんがいいかと! それにほら、私はそういうメイドさんがつく立場とか耐えられませんし!」

 

 とても満開の笑みでそういったセイバーは、自信満々にこちらを見てくる。……うん、まぁ、メイドを一人増やしても俺的には問題ないが……自動人形でほぼ事足りるしなぁ。

 

「でも、まじめな話、いつまでもその『同じ顔同じ体同じ服』の自動人形さん大量に使い続けるのもちょっと難しいですよね。学院内ならともかく、外からの人がいる状況とか」

 

「……まぁ、それは確かに」

 

 あの決闘騒ぎの時に六人表れたあの自動人形だが、対外的には『完成度の高いメイドゴーレム』ということになっている。数も六人だけ見られたので、いつも出す数は六人以下に限定して、いっぺんに出すぎないようには調整しているのだが……まぁ、いちいちそういう引っ掛かりを作るよりはメイドとして使う自動人形を一人に限定して、その穴埋めとして現地でメイドを雇う、と。

 ……ふむ、そう考えるといい案に思えてきた。それに何より、シエスタは『この世界』の人間なのである。俺の知らないこととか、いろいろ知っているはずだ。ちょっと感情的になりやすいマスターとかには聞けないことも聞けるかもしれない。そういう情報源としても価値が高いだろう。

 

「よし、じゃあマルトーやオスマンに掛け合ってみるかぁ」

 

「それがいいですっ! やりましたね、シエスタ! あなたもギルさんのサーヴァントですよ! えと、クラスは……『ハウスキーパー』とか? ……宝具、防御系になりそー」

 

 シエスタが英霊か。……うん、戦闘力ゼロっぽい。癒しのためのサーヴァントだな。

 

「あ、そうそう。シエスタ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

 そういえば、と今のうちにシエスタに聞けることを聞いておく。セイバーも友達との会話が楽しかったのか盛り上がり、お茶会が終わったのは日も暮れ始めたころだった。

 

・・・

 

 片付けも一瞬で終わり、セイバーと自動人形と共にマスターの部屋に帰る。扉を開けると、なにやらベッドに座ってぼうっとしているマスターがいた。

 

「マスター?」

 

「? ……ああ、ギルとセイバーじゃない。帰ってきたのね」

 

 そういったマスターは再びぼうっとし始める。……どうしたんだろうか。いつにもまして抜けてそうだ。

 

「どしたんでしょ、ギルさんのマスターさんは。いつもよりアホ面ですよ?」

 

「セイバーにだけは言われたくないだろうな」

 

「ど、どういうことですかー!?」

 

「そういうことだよ」

 

 俺に食い掛かってくるセイバーの頭をなでてなだめる。子供扱いに、さらにむきー! と燃え上がったセイバーと遊んでいると、こんこん、とノックの音。最初に長く二回。短く三回。誰かが来たみたいだが、こんなに規則正しく……暗号のようなノックとは……。

 そのノックに反応したのは、今までずっとぼんやりとしていたマスターだった。今までの気の抜けた顔が嘘のようにばっと顔を上げて、扉へと駆け寄る。

 

「マスター?」

 

 知り合いなんだろうか、と思いながら、マスターの開いた扉の向こうに視線を向ける。黒いフードをかぶった影。……お、ちらりと見えた顔は少女のものだ。誰だろうか。

 

「あなたは……?」

 

 自分で開けておいて、怪訝そうな顔をするマスター。ノックの仕方自体に覚えはあっても、相手は初対面ということだろうか。セイバーにマスターの前に出てもらって、俺が応対することにしよう。

 

「見たことのない顔だ。学院生じゃないな? ……マスター、下がって」

 

 そういって、俺は鞘からデルフを抜く。まだ俺のことが怖いのか、カタカタふるえるものの騒ぎはしなかった。うんうん、えらいぞ。以前までは抜いたら「ヒャアアアアアア!」だったので、しばらく慣らしをしていたのが功を奏したな。

 相手は懐から杖を抜き、なにやら呪文を唱え始めた。……が、この部屋はすでに結界を張ってある。『魔術を霧散させる』という結界で、俺の鎧と同じレベルの魔術に対しての耐性を持っている。彼女が唱えた魔術も、魔力を霧散させて発動は失敗に終わる。

 

「!? ま、魔法がっ」

 

「……怪しい。杖は取り上げさせてもらおうか」

 

 装備を換装させ、アサシンモードとなった自動人形が、黒フードの少女から杖を取り上げる。魔法が無効化されたことと、意識の外からの行為に驚いた少女のフードがめくれ、顔があらわになる。そこで、マスターが反応した。

 

「ひっ、姫様!?」

 

「姫? ……王女か」

 

 マスターのその言葉に、俺は剣を下げる。どうやらマスターの知り合いであるらしい。いま学院に来ているという王女様なのだろう。

 

「怪しい人じゃないわ! 杖を返しなさい!」

 

「ああ」

 

 俺の思念で、自動人形は杖を姫に返す。おっかなびっくりと受け取った姫。そんな姫にマスターが声をかけようとして……途中で姫にさえぎられる。

 

「姫様、もうしわけありませ――」

 

「ルイズ! ああ、ルイズ!」

 

 慌てて膝をつくマスターに、姫は感極まったように抱き着く。

 

「姫様、このような下賤な場所にお越しになるなんて……」

 

「懐かしいルイズ! そんなに堅苦しい他人行儀は止めてちょうだい! あなたとわたくしはおともだちじゃないの!」

 

「……もったいないお言葉でございます、姫殿下」

 

 態度を昔のものにするようにと言う姫と、苦しそうな顔をしながらも元の態度を貫くマスター。

 

「やめて! ああ……もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないというの……!」

 

 そういって、わぁ、と手で顔を覆ってしまう姫。……なんというか、感情表現豊かな姫様である。流石にその態度にはマスターも感じるものがあったのか、跪いたまま伏せていた顔を上げた。

 

「私のことを覚えていてくださったなんて……」

 

 そういって微笑んだマスターは、少しだけ姫に対する態度を和らげたようだ。昔の思い出を二人で話して、たまに笑い声が漏れる程度には打ち解けたらしい。それから、余裕ができたのか、姫がそういえば、と口を開いた。

 

「ええと、ルイズ。あなたのお部屋は……その、ずいぶん賑やかなのね?」

 

 姫は俺たちサーヴァント、そして自動人形に目を向けた後、部屋の内装にも目を向ける。……いやぁ、ちょっと趣味のもの置きすぎたかな。飾り始めた日よりもかなり装飾のなされた部屋は、一学生の部屋というよりは……うん、王の私室くらいにはグレードが上がっているだろう。

 

「あ、あはは……」

 

「それで、そちらの方たちは? ご学友ですか?」

 

「あ、いえ、その、使い魔と、使い魔のメイドと、使い魔の使い魔です……」

 

「まぁっ。その、昔から変わっていたと思っていたけど……変わったことをしているのね」

 

 その説明しかないとはいえ、正直に言うなぁ、この子は。

 

「とりあえず、立って話もなんだろう。二人とも、座るといい。自動人形、お茶を。セイバー、俺たちは部屋を出ておこうか」

 

 俺がそういうと、姫はいえ、と俺たちを押しとどめた。

 

「使い魔と主人は一心同体といいます。それに、学院でのルイズの様子を聞きたいわ」

 

 そこまで言われるのなら、と俺とセイバーも参加する。一応主人であるマスターを立てて、俺とセイバーは立ちっぱなしだ。いや、疲れないからいいんだけどね。

 マスターが話すのは、俺を召喚してからの、様々な騒ぎのこと。

 

「なんと……ルイズ、あなた本当にすごいことに巻き込まれていたのね」

 

 姫は口に手を当て、優雅に驚いている様子だった。こういうところからも、育ちの良さが見て取れるな。ただまぁ、昔からの知り合いとはいえ、話しすぎな気もするけど。っていうか、英霊とか異世界とか、信じるんだなぁ……。

 

「異世界でも、王は不自由なものでしたか?」

 

 自動人形が用意した紅茶を飲み、一息ついた姫がこちらにそう問いかけてきた。

 異世界で『も』ってことは、彼女は不自由を感じているのだろう。若いお姫様や王子やらによくある、『籠の中にいる』ような閉鎖感の話だろう。

 

「んー……俺はそれなりに自由にやってたかなー。ついてきてくれる人もいたし、助けてくれる人もいた。こうして、今も助けてくれる子がいたりね」

 

 そういって、セイバーの頭をなでてやる。なついた子犬のように目を細めて受け入れてくれるセイバーと俺を見て、姫はまぶしいものを見るようにこちらを見上げた。

 

「……そう、ですか。……ならば、やはりわたくしだけが……」

 

 最期のほうは消え入るようになったつぶやきが、俺たちに届く前に消えていく。その様子が気になったのか、マスターが口を開く。

 

「姫様? ……どうか、なさったのですか?」

 

 その言葉に、姫は無理やりに作ったような笑みで答える。

 

「結婚するのよ、わたくし」

 

「それは……おめでとうございます」

 

 姫の表情からそれがうれしいものではないと判断したのか、祝いの言葉をかけるマスターの表情も沈んでいるように見えた。

 そんな暗い雰囲気に部屋が包まれ、セイバーが耐え切れずにオロオロし始めると、姫がため息をつく。

 

「姫様……?」

 

「いえ……なんでもないの。ごめんなさいね。こんなこと、あなたに頼めるはずもないわ……」

 

「なんでもないってことないはずですっ。あの明るかった姫様が、そんな風に暗い表情でため息をつくなんて……何か、悩みがおありなのでしょうっ?」

 

 食いつくように身を乗り出したマスターの言葉に、それでも姫はまだ暗い表情のまま首を横に振る。

 

「いえ……いえ、話せません。忘れてちょうだい、ルイズ」

 

「そんな! 昔はなんでも話し合ったじゃありませんか! 私をおともだちと呼んでくださった姫様が、そのおともだちにも悩みを話せませんか?」

 

「ルイズ……わたくしをおともだちと呼んでくれるのね……。うれしいわ」

 

 ようやく、この部屋に来て本当の意味で姫が笑った。そして、一つ頷くと、語り始める。

 

「今から話すことは、誰にも話してはいけません」

 

 そういって俺たちにも視線を向けてくる。その視線に、俺たちはうなずきを返す。

 

「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」

 

「ゲルマニア!? あんな野蛮な成り上がりどもの国に!?」

 

「仕方がないの。同盟を結ぶためのものなのですから」

 

 姫は、そのままハルケギニアの政治情勢を説明していく。

 アルビオンという国の貴族たちが反乱をおこし、今にも王室が倒れそうなこと。そして、その反乱軍が王室を倒してしまえば、次はトリステインに侵攻してくるであろう、ということ。それに対抗するために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。同盟を結ぶためには国と国との結びつき……つまり、王族同士の結婚、となったようだ。

 それで、姫はそのために嫁ぐことになったらしい。

 

「なるほどな……」

 

「そうだったんですか……」

 

 その結婚を望んでいないことは、口調からも明らかだった。……なるほどな、それは不自由と思っても仕方があるまい。しかし、そのこと自体は姫の『悩み』ではないだろう。望んでいない相手との結婚自体は、すでに諦めがついているように思える。

 ならば、他の事……たとえるなら、その同盟がもしかしたら結ばれないかもしれない、そんな事態になる可能性……。

 

「礼儀知らずの反乱軍たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。二本の矢も、束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね」

 

「ああ、なるほどぉ。三本より二本、二本より一本、ですもんね!」

 

「その通りです。なので、この婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しています」

 

「そんな、もしそんなものが見つかったら……」

 

 ルイズの言葉に反応するように、姫が両手で顔を覆って崩れ落ちる。な、なんと……芝居のようだ。

 

「おお、始祖ブリミルよ……この不幸な姫をお救いください……」

 

 なんというか、作家系サーヴァントが見たら騒ぎ始めそうなほどの芝居がかった仕草だ。

 

「言ってください! 姫様! 婚約を妨げる材料というのは何なのですか!?」

 

 マスターも席を立ち、崩れ落ちた姫に駆け寄り、まくしたてる。両手で顔を覆ったまま、姫は苦しそうにつぶやいた。

 

「……わたくしが以前したためた、一通の手紙なのです」

 

「手紙……?」

 

「そうです。それが反乱軍の手に渡れば……すぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」

 

「どのような手紙なのですか?」

 

「……それは、言えません。でも、それをゲルマニアの皇室が読んでしまえば、この私を許さないでしょう。婚約はつぶれ、トリステインとゲルマニアの同盟は反故となり、トリステインは一国にてアルビオンに立ち向かわねばならないでしょう」

 

「そっ、その手紙は!? 一体その手紙はどこにあるのですか!? トリステインに危機をもたらす手紙とやらは!」

 

「それが……手元にはないのです。実は、アルビオンにあって……」

 

「アルビオン!? で、では、すでに敵の手中に!?」

 

「いえ……その手紙を持っているのは、アルビオンの反乱軍ではありません。その反乱軍と戦いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が……」

 

「皇太子? プリンス・オブ・ウェールズですか? あの、凛々しき王子さまが?」

 

 姫はその言葉にうなずくと、言葉を続ける。

 

「ああ! 破滅です! ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱軍にとらわれてしまう! そうなれば、あの手紙も明るみに出てしまう! そうなれば、破滅です! このトリステインは破滅してしまいます……!」

 

 話の流れで理解したのか、マスターが息をのむ。

 

「では、姫様……私に頼みたいことというのは……」

 

「無理よ! 無理よルイズ! わたくしったら、混乱しているんだわ! 冷静に考えてみれば、反乱軍と王党派が戦争を繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがないのよ!」

 

「何をおっしゃいます! たとえ地獄の釜の中であろうと、竜のアギトの中であろうと、姫様のためならば! それにこれはトリステイン全体の、ひいてはおともだちである姫様の危機でございます! どうかこのわたくしめに、その一件、ぜひともお任せくださいますよう!」

 

「マスターの行くところに俺も行く。絶対に守るから、安心していいぞ、マスター」

 

「ギル……と、当然よ! あんたは私の使い魔なんだからっ」

 

 そういって、マスターはツンとそっぽを向きながら言う。少なくない感謝の気持ちがつながりを通じて流れ込んでくるので、少しは俺を頼ってくれているようだ。あの舞踏会以来、少しだけマスターの性格が柔らかくなったように感じる。

 

「このわたくしの力になってくれるというの、ルイズ! わたくしの一番のおともだち!」

 

「もちろんですわ! 姫様!」

 

 マスターと姫が、手と手を取り合って熱い口調で語り合う。すると、姫は感極まったのか泣き始めてしまった。

 

「これが真の忠誠ですわ! 感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません、ルイズ!」

 

 それから、姫とマスターは少しだけ懐かしい話に花を咲かせ始める。マスターの言葉に肩の荷が下りたのか、姫も打ち解けて笑顔を浮かべるようになった。

 そして、さっそく明日の朝出立することを伝えると、姫はうなずきを返した。

 

「ルイズの使い魔さん」

 

「うん?」

 

「わたくしの大事な大事なおともだちを、これからもよろしくお願いしますね」

 

 そういって、姫は左手をすっと差し出す。……これはあれか。手の甲にちゅっとするやつか。

 

「わぁっ、これ、見たことありますよ! ちゅってやるやつですよね!」

 

「そんな! 使い魔にお手を許すなんて! ……あ、でもこいつ王様なのよね……じゃあいいのかしら……?」

 

 ちゅっとするといっても、実際に口はつけないらしいしね。そう思いながら、姫の手を取って少しだけ屈み、すっと口を近づける。……うん、やっぱりウチの姫様に教わったマナー講座はこの世界でも活かせるらしい。流石マリー。ヴィヴ・ラ・フランス!

 

「そういえば、朝出立って言ってたけど……アルビオンってのは遠いのか?」

 

「うーん、遠いっていえば確かに遠いけど、それより船が問題よね」

 

 そういって、マスターはアルビオンについて話してくれた。いわく、空を飛んでいる国らしく、空を飛ぶ船でしか行けないとのこと。……ヴィマーナで行くか?

 

「あの黄金の船ね? それもいいけど……目立たないかしら?」

 

「あー……そういえば戦争中だったか。ということは向こうも空飛ぶ船で戦ってるんだろ? なら、少し見つかりやすいかもしれないな」

 

 隠蔽、偽装の効果があるとはいえ、本当の乗り手ではない上に俺はキャスターではないので、本場のメイジたちに見破られる可能性はあるだろう。一応密命ということだし、馬かなんかで船着き場まで行き、そこで船に乗っていくのが一番かもしれない。

 

「セイバーもそういう隠蔽系のはないだろ?」

 

「ですねー。いやほら、目立つ系ならたくさんありますが」

 

「やめてくれ」

 

 そういえば確かにこの子の宝具は目立ったな。特に第三宝具。

 俺たちが移動についてどうするか話していると、姫がその話を聞いたのか、補足してくれる。

 

「移動途中についてのお話ですか? それならば、護衛に魔法衛士隊グリフォン隊隊長を向かわせましょう。本当ならば部隊をつけたいところですが、任務の機密性から大部隊をつけるわけにもいきませんし……その点、彼ならば人格も腕も信用できます」

 

「なるほど……」

 

 ならば、足並みを合わせる意味でも、無駄に俺の力を広めないためにも、普通に馬で行くのがいいか。マスターもそれに同意らしく、うんうんとうなずく。どうしようかな。ライダー今のうちに召喚しておくべきか……?

 そんなことを考えていると、姫も話を終えて部屋を出ようとする。……あ、その前にアレなんとかしないと。

 二人に向かって、俺は扉を指さしながら話しかける。

 

「それで……さっきから外でギーシュがこの部屋をのぞいたり聞き耳立てようと必死になってるけどどうする?」

 

「は? ……ん? 聞き耳たて『ようと』ってどういうことよ」

 

「そりゃ、この部屋に結界を張ってるからに決まってるだろ。マスターと俺以外の魔術の使用妨害、探知魔法の阻害、この部屋を外から見えないようにしたりとか、防音防諜防災諸々いろんな加護とかね」

 

「いつの間に私の部屋にそんなことしてんのよ!」

 

 いやだってほら、マスターの部屋、隙だらけだったし。一番寛げるように、部屋は安全じゃないとね。防御宝具も使ったある種の人外魔境である。この部屋の中の神秘は相当なもんだ。

 

「あ、だから『ディテクト・マジック』が発動しなかったのですね……」

 

 そういって、姫が自分の魔法の杖を見ながらつぶやく。ああ、そういえば部屋に入ってきたときに何か唱えようとしてたね。ディテクトってことは探知魔法かなんかなのか? と思ってマスターに聞くと、そのとおりらしい。魔法がかかっていないかとか、汎用性の広い魔法らしい。

 

「どこに耳が、目があるかわからないから、と使おうと思っていたのですが……あの時はあまりの驚きにすっかり唱え直すのを忘れていました。ですが、防諜されているのなら安心ですね」

 

 そういって微笑む姫。で、どうすんのさ、外で変なポーズになってるギーシュ君は。

 

「……聞かれてはいないのよね?」

 

「ああ」

 

「なら、あんたが帰してきてよ。そしたら、姫様を送るから」

 

「ん、了解」

 

 そう言って、姫には一旦見えないところに隠れてもらうことに。それから部屋の扉を開けると、扉に体重をかけていたのか、ギーシュが転がるように部屋の中に入ってきた。

 

「あいたぁっ!?」

 

「……本当にこんなことになるんだ」

 

 セイバーが変なことに驚愕しているが、構わずギーシュの首根っこを掴んで持ち上げる。気まずそうに笑うギーシュに、俺も苦笑しながら問いただす。

 

「ここは女子寮だぞ、ギーシュ。この部屋には俺の張った結界があるから何も聞こえないし鍵穴からも何も見えなかっただろう? さて、言い訳を聞こうか」

 

「あ、あはは……そ、そのだね、夜に散歩をしていたら麗しき姫殿下が寮に入っていくのを見て……その、あとをつけてみたら……なんと! あのヴァリエールの部屋に入っていくじゃあないか! それで色々と部屋の中の様子を知りたいと悪戦苦闘していたんだがね……。頼むよギル! 麗しき姫殿下と一度でいいからお話を……!」

 

「あ、あんた! あとをつけてきたっていうの!?」

 

 マスターがギーシュの言葉に眦を吊り上げる。あー、うん、そうだよね。お姫様をストーカーとか、まぁ許されることじゃないよね。

 そのままだと乗馬用の鞭でも取り出しそうなほどに爆発寸前のマスターを押さえ、セイバーに任せてギーシュに声をかける。

 

「残念。もうこの部屋にはいないんだ。お忍びで来たみたいだからね。窓からこっそりと送り届けたんだ」

 

「そっ、そんなぁ……!」

 

「……というか、あの子……なんだっけ、あの本命の。……あー、そう、モンモンちゃんとは仲直りできたのか?」

 

「ああ、モンモランシーのことかい? それはだね、えっと、現在修復作業中というかなんというか……」

 

「それで姫に、か。俺が言うのもなんだけど、こういうのは一人に絞っていったほうがいいと思うぞ。っていうか姫はちょっと高嶺の花過ぎないか?」

 

「ふっふっふ。バラの花は高貴なる花! なれば、姫殿下にももちろん似合うということさ! 僕の美しさが通用しない女性はいないのさ!」

 

 手慣れた様子で造花の薔薇の形をした杖を取り出し、ふふん、とどや顔を披露するギーシュ。……いや、そこまで貫けられればすごいよ。

 

「それはまぁ自由だし構わないけど……とにかく姫は帰ったよ。ほら、ギーシュも他の人に見つかる前に帰ったほうがいいんじゃないか?」

 

「そうよっ。そもそも女子寮に侵入っていうのが許されざることだわ! たとえここに姫様がいたところで、会わせられるもんですかっ!」

 

「ほらほら、どうどうですよ、ギルさんのマスターさん。はい、しんこきゅー。ひっひっふー」

 

「あやすな! 私は子供じゃないんだからっ」

 

 どたばた暴れ始めるマスターと、それを抑えるセイバー。流石に筋力Eとはいえ、女の子一人抑えるくらいはわけないらしい。隠れている姫も、それを見て表情を柔らかくさせている。……古い友人のこんな姿を見てほおを緩ませるとか、過去の二人の間の友情の育み方に若干の疑問を覚えるものの、スルーしてギーシュを部屋の外へ運び出す。

 

「というわけで、ギーシュ、ハウス」

 

「なっ、こ、このギーシュ・ド・グラモンを犬扱いとはっ」

 

「グラモン?」

 

 ギーシュが犬扱いを不当として放った言葉に、姫が反応してしまった。しかも立ち上がって。……あーあー。

 立ち上がって発言した後、ハッとなったのか口に手を当てて「しまった!」という顔をしているが……もう遅いだろう。声も姿も、ばっちりギーシュに確認されてしまった。

 

「やっぱり! 姫殿下! その麗しきお姿、間違いないと思っておりました!」

 

「え、ええ。それよりも、あなた……グラモン元帥の?」

 

「息子でございます、姫殿下!」

 

「……なるほど」

 

 そういって、姫は少し考え込むそぶりを見せた。……考えていることは少しわかるが、変なことは言うなよー?

 

「へー! 元帥さんの息子さんなんですね! なら、お姫様の力になってくれるんじゃないですか?」

 

「ばかっ、セイバー!」

 

「え? ……あ、密命でしたっけ」

 

 マスターがセイバーに注意をするが、時すでに遅し。全部を聞いていたギーシュが、目をきらりと光らせ、姫に跪きながら口を開いた。

 

「なにやら姫殿下にはお力が必要なご様子! このギーシュ・ド・グラモン、姫殿下のお役に立ちたいのです!」

 

「そうなのですか……あなたも、私の力になってくれるというのですね」

 

 そういって、姫が微笑んだ。……あー、こりゃダメな流れだ。ここまで来たら、もうギーシュも共犯にするしかないだろう。

 そうして新たにマスターからギーシュに説明がなされ、その間姫は皇太子に向けて手紙をしたため始めた。

 

「……始祖ブリミルよ……」

 

 ……何かを憂いた表情をした姫は、自分の書いた手紙を見て、さらに何かを書き加えたようだった。……文字がわからないので内容はわからないが。むむむ、この任務が終わったら文字の勉強をするとしよう。流石に不便になってきた。

 それから、書き上げた手紙に封をして、自身の指輪と共にマスターに渡した。

 

「母君から受け継いだ、『水のルビー』です。せめてものお守りとして……そして、道中もしお金に困ったなら、これを売って旅の資金にしてください」

 

「そ、そんな大事なもの――!」

 

「受け取って、ルイズ。これが私の、せめてもの誠意。この指輪が、きっとあなたを守ってくれますように」

 

 姫から手紙と指輪を受け取ったルイズは、それを胸に当てて真剣な瞳で姫を見た後、頭を深く下げた。

 そして、その夜はギーシュを帰し、姫を送り届けて終わった。……あーもう、セイバーはあとで折檻だ。まぁ、あんまり策略謀略に触れてきた子じゃないし、うっかり口にすることもあるだろうから、軽めに尻叩きだな。大丈夫。神様も病みつきになるお仕置きだから。

 

「あ、あれ? な、なんか寒気が……風邪かなー?」

 

「いいや? それは悪寒と言ってな? ……俺にお仕置きされることが確定した時に感じるんだよ」

 

「ひ、ひっ、ぎ、ギルさんのマスターさんっ、お助け――」

 

「残念。魔王からは逃れられない」

 

 その日、マスターであるルイズは、そのあとのことを黙して語りたがらなかった。それから、お仕置きという言葉を聞くと、セイバーと二人して、カタカタフルフルと震えるようになるのだった。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

真名:怜喧縺代・繝シ繝――召喚時のエラーにより、言語変換に失敗。

クラス:セ繝シ繝ウ――召喚時のエラーにより、言語変換に失敗。 性別:女性 属性:秩序・善

ステータス:筋力・E(B) 耐久・E+(B+) 敏捷・E(B) 魔力・B 幸運・C 宝具・A++

クラス別スキル

対魔力:☆

■■:D

固有スキル

繝シ繝ウ:A

カリスマ:■+

■人:A

透化:■
――第一宝具解放後、詳細解明。

■■放出:A
――第一宝具解放後、詳細解明。

心眼(■):E
――第一宝具解放後、詳細解明。

■■■の加護:A
――第三宝具発動後、閲覧許可。

矢除けの加護:■
――第三宝具発動後、閲覧許可。

宝具
■■■■■■■■■■■■■■(■・■■■■)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:一人

第一宝具:立ち上がった少女の物語。それは、少女に力を与える。

■■■■■■■■■■■■(■■・■■■■■・■■■■■)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:1000人

第二宝具:仲間の先を駆ける乙女の物語。そして、乙女は仲間を鼓舞する。

■■■■■■■■■■■(■■■■・■■■)
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:10人

第三宝具:奇跡のその先へ向かった■■の物語。最後に、■■は――。

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