ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「そういえば、あの固有結界の中にはいたんでしょうか?」「あの固有結界?」「ほら、あの征服王さんの」「ああ、あれに。誰が?」「あの名言、『文化がちがーう!』を生み出したエウメネスさんですよぅ!」「あー……いたのかなぁ」「もし会うことがあったら聞いておいてくださいね!」「その時はたぶん戦争不可避なんだけどそれは……」


それでは、どうぞ。


第九話 違う文化は急にはわからない。

 ――時間は舞踏会の前にさかのぼり、俺が召喚を果たし、サーヴァントに事情を説明した後。俺はその子を連れて厨房へと向かっていた。その道中で、隣を歩くサーヴァント……セイバーに、ため息をつきつつ話しかける。

 

「まったく。こんな時に『何か食べたいですぅ』とは。天然娘っぷりは健在か」

 

「そっ、そんなあざとくは言ってないですよね!? ぶーぶー! 意図的に私の地位を貶めるのはやめてくださいっ!」

 

「はいはい、りょーかいりょーかい」

 

「ほんとにわかってますー? ……それにしても、ギルさんは不思議な環境で不思議な状況に陥らないといけない呪いでも受けてるんですか?」

 

 そういって、セイバーはあざとく小首をかしげて俺に聞いてくる。

 

「否定できないのがつらいところだな……っと、ついたな」

 

 マルトーかシエスタがいてくれればいいんだが……舞踏会の準備で忙しいかな?

 のぞき込んだ厨房には忙しそうに調理器具を振るうマルトーの姿。他にも何人か調理をしている人と、それを運ぶメイドが見えるが……シエスタの姿は見えないな。流石に調理中のマルトーに声をかけるわけにも、と踵を返そうとすると、調理器具を振るうマルトーと目が合った。

 礼儀として会釈をすると、マルトーは調理の手を止めてこちらにやってくる。

 

「おぉ! 『我らの英雄』! ギルじゃあねえか!」

 

 そういって、俺の肩に手をかけて笑いかけてくるマルトー。いつも通り、とても気持ちの良い性格をしている男である。

 

「忙しいところを邪魔してしまったようだな」

 

「気にすんな! 料理自体はだいたい目途がついてるし、あとは始まってから調理しないといけねえもんだけだからよ!」

 

「なるほど。……ならば、ちょっとばかり我儘を聞いてもらってもいいだろうか」

 

「おお? なんだよいきなり改まって」

 

「食材はこちらで出すから、料理を作ってほしいんだ」

 

 そういって、机の上に食材を展開する。彼の腕ならばこの食材も扱いきれるだろう。うん、普通の人ではこの宝物庫産の野菜とか無事に調理できなさそうだし。

 

「おぉ! こいつは驚いた! シエスタから聞いていたが、本当にこんな不思議な蔵を持ってんだな!」

 

「本当の使い方はこうじゃないんだけどね。それで、どう? 忙しいなら厨房の一角を貸してくれるだけでいいんだが……」

 

「そんなの、聞かれるまでもねえ! 腕を振るわせてもらうぜ!」

 

「俺とこの子の二人分をお願いしたいんだが」

 

「ん? おお? 後ろにいたのか。気づかんかったぜ! いや、すまんな!」

 

 俺の後ろに隠れていたセイバーを前に押し出して、マルトーに紹介する。

 

「セイバーっていうんだ。よろしくしてやってくれ」

 

「ほーん? 変わった名前だな。ま、いっか。名前だけってことは、シエスタとかと同じ平民か」

 

「んー、まー、平民っちゃ平民……だよな?」

 

「ですねぇ」

 

 俺とセイバーの二人して小首をかしげる。うん、まぁ、セイバーも出自的には平民……ってことでいいな。

 今は鎧も外しており、ズボンにシャツにブーツというどこからどう見ても一般人にしか見えない服装となっている。これなら怪しまれることもないだろう。

 マルトーは俺の出した食材を抱えて厨房へ向かった。「その辺のテーブルに座って待っててくれ」といわれたので、大人しく二人して座っておくことにした。

 

「……そういえば、セイバーでいいんだよな?」

 

「? はい、そうですけど……。あ、最初に噛んだのをまだ引っ張るんですか!? 確かに滑舌も悪いし噛んじゃうこともありますけど、自分のクラス名は間違えないですよ、もう!」

 

 頬を膨らませて、ふい、とそっぽを向かれてしまった。……むむ、サーヴァントの中でも幼いほうの彼女は、こうして感情表現が豊かなのが特徴だ。喜怒哀楽がはっきりしているというか……変わり者が多い英霊たちの中でも、まともな部類に入るだろう。

 

「適性になるほどの剣の逸話あったっけ……?」

 

「え? 剣ですか? ……んー? 特に剣の逸話はなかったと思いますけど……?」

 

「そうなのか。……不思議なこともあるものだ」

 

 お互いに首をかしげていると、あ、とセイバーが思い出したように手を叩く。どうしたんだろうか。

 

「そういえば、あの神様からお手紙預かってます」

 

「手紙?」

 

 まぁ、今まで呼び出しもされなかったし向こうにも顔を出せなかったので、何かしらの問題が起こっているとは思ったが……。

 

「はいっ。私のスキルに乗せれば、召喚の際に神様からのメッセージを届けられるからって、任されちゃいました!」

 

 えっへん、とごく普通の胸を張るセイバーは、懐から便箋を出して俺に渡してきた。

 

「……神様はなんか言ってたか?」

 

「えーっと「これを渡してくだし」とか、なんか喋りにくそうにこれを渡してきただけですけど……」

 

「なんだそれ」

 

 そう苦笑しながら、俺はセイバーから受け取った手紙を開く。……ん? なにこれ。

 手紙には、機械でプリントしたのかと思うくらい丁寧に『ぼすけて』とだけ書いてあった。ぼす? え?

 

「なにこれ」

 

「……なんでしょう?」

 

 俺の反応が気になったのか後ろからのぞき込んでいたセイバーが俺と一緒に首をかしげる。でも、なんかこの言葉、聞いたことあるような。あれ、二通目が入ってる。重なってたのか。ぺらり

 

、とめくってみると、そこにも謎の文字列が。

 

「えーと……なんて読むんだこれ」

 

 『τ(≠T=レヽUゃレニ、ζ,ぅレヽω±яёヵゝレナмаUT=★ξちらм○(≠を⊃レナτ』と書いてあるようだが……うぅむ、神様のところで使われてる言葉とか? 聖杯から情報きてればなぁ。こういうのも一発でわかってたんだけど……。

 こういう時に聖杯からの知識って大事だったんだなぁと再確認する。

 

「うーむ、謎だな」

 

 神様から魔力は俺に流れてきているし、神様自身が俺を呼べないのはいつもの不手際かと思っていたけど……。

 

「……そういえば」

 

「ん?」

 

「なんか、神様いつもと違いましたね。言葉もそうなんですけど、顔色がちょっと変だったような?」

 

 言葉遣いと顔色が変な神様……。ダメだ。俺にとってはそれでいつもどおりだから、違和感を感じ取れない……!

 ……結局、とりあえずもうちょっと動きがあるまでは気にしないことにした。

 

・・・

 

「おーいしー!」

 

 マルトーが出してくれた料理に舌鼓を打つ目の前の少女を見ながら、うんうんとうなずく。おいしいよね、ここの料理。舞踏会までは時間もあるし、この子はここでお手伝いでもさせておこうかな。たぶん俺以外があの場所に入ったらまたなんか問題おきそうだし。

 俺の考えを伝えると、セイバーはそうですよねぇ、とうなずいた。

 

「貴族さんが面倒なのは私もよくわかりますから。ここでお手伝いしてますよ」

 

「それならよかった。……シエスタ、こいつを頼むな」

 

 途中で俺たちの料理を配膳してくれていたシエスタに、そう頼んでおく。召喚されてからの「ドジっ子なんじゃないか」という疑惑は晴れていないのだ。しっかり者のシエスタに頼んでおけば安心だろう。

 

「はいっ。よろしくお願いしますね、セイバーさん!」

 

「こちらこそっ。えへへ、お友達できちゃった!」

 

 嬉しそうに小さくガッツポーズをとるセイバーと、それを見て微笑むシエスタに癒しを感じながら、俺は立ち上がる。

 そろそろ舞踏会も本格的に始まるだろう。その前には会場入りしておきたい。

 

「それじゃあ、俺はいってくるよ」

 

「はいっ。行ってらっしゃいませ!」

 

「いってらっしゃい、ギルさんっ」

 

 シエスタとセイバーに見送られながら、俺は厨房を後にした。

 

・・・

 

 舞踏会の行われる会場に入ると、視線が俺に集中している気がする。いや、実際にしているな、これは。なんでこんなに集中しているか……は、考えるまでもないか。あの決闘騒ぎ以来、変な意味で俺の存在は知れ渡ってるしな。

 基本的に避けられていた俺が、こうして舞踏会会場にいるのがこの微妙な空気の原因だろう。

 うぅむ、こういうのはちょっと気まずい。だれか知り合い……。あ、ギーシュ君。

 

「げっ」

 

 目が合った瞬間に「うわ、見つかった」みたいな声を出したので、彼に話しかけるとしよう。近づいていくと、彼の周りにいた友人たちはそそくさといなくなってしまった。が、まぁいい。俺はギーシュ君に用件があるのだ。

 

「やぁ」

 

「や、やぁ……」

 

「まぁ、そんなに警戒するなって。ちゃんとみんなに謝って貰ったから、お互い恨みっこなし、だろ?」

 

 あの事件のあと、ギーシュ君にはシエスタをはじめとした巻き込んでしまった人たちへの謝罪を済ませて、恨みっこなしということにはしている。……まぁ、本心は別として。そのせいでシエスタが恐縮してしまうという事件もあったはあったが、すでにあの決闘騒ぎの件は無事解決、となった。

 

「それに、君とは色々と話してみたかったんだ。ほら、俺もここに来る前は妻の多い身だったからさ」

 

「な、そうだったのか!? で、でも君は『二股をかけたほうが悪い』って……」

 

「あれは言葉が正確じゃなかったな。『二股をかけて、それで悲しませてしまった君が悪い』だ」

 

「……そうか。まぁ、過去のことは水に流すとしよう。……で? 君は何人の女性と? 三人? それとも五人か?」

 

 興味津々、といった様子で俺に聞いてくるギーシュ君。うんうん、思春期男子らしい興味の持ち方だ。いいと思うよ、俺は。まぁ、聞かれたからには答えてやろう。俺は内心で少しだけ意地悪く笑いながら、問いに答えるべく口を開く。

 

「ふっふっふ。最大で……あれ、最大で何人だったか。五百までは数えてたんだが……」

 

「え? ご、ごひゃ……五百ぅ!?」

 

 ギーシュの突然の大声に、会場中の視線が再びこちらに集まる。あ、いや、なんでもないんすよ。大丈夫なんで、それぞれご歓談ください。

 

「それどうやって殺されないようにしてたんだ君ぃ!」

 

「まぁ、その時は王様だったからねぇ」

 

 俺自身のことやら色々と説明しながら話をしていると、十数分後にはお互いに打ち解け合っていた。 

 ギーシュが俺の話を与太話だと切り捨てずに聞いてくれたのは、やはりあの自動人形たちのことが大きいようだ。それからは、ギーシュの友人たちもだんだんと輪に混ざって、男同士でしかできないくだらない話で盛り上がった。……いやぁ、学生で若々しい彼らと話が合うなんて、まだまだ俺も若いってことかな。

 そんな風に盛り上がっていると、落ち着いた会場がまたざわつき始める。……今回は俺たちのことじゃないようだ。みんなしてそわそわし始め、身だしなみを整え始める。それは俺の目の前のギーシュたちも例外ではなく、特にギーシュは髪やらを気にし始める始末。それ、たぶん気にしたら一生決まらないと思うぞ、とツッコミつつ、みんなの様子にそろそろ舞踏会が始まるのか、と視線を会場に走らせる。これからダンスを申し込むのだから、身だしなみを気にするのは当然か。

 俺はどうするかな。マスターはなぜかいないし、キュルケは俺がここに入ってからずっと男子生徒に囲まれていて話すらできてないし、タバサは……あ、食べるほうに夢中ですかそうですか。なにあの子。腹ペコ属性もちか。王様とかそれに連なるものだったりするんだろうか。俺の中の腹ペコ属性持ちの代表格である青い騎士王を思い出しながら、そっと視線を外す。今度タバサにはおいしいものをプレゼントするとしよう。

 そんな風に悩んでいると、会場の入り口が大きく開かれ、会場が一瞬静かになる。俺も気になってそちらに視線を向けるのと、声が聞こえるのは同時だった。

 

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~りぃ~!」

 

 ほへぇ、良いところのお嬢さんだったのか。そういえば彼女が貴族だという話は聞いたけど、どんな貴族か、は聞いたことなかったなぁ。

 そんなことを考えながら、入ってきたマスターを上から下まで一通り見つめる。うん、いつものあの長い髪をバレッタでまとめ、白いパーティドレスに身を包んでいる。あ、やっぱり白だったか。うんうん、良いと思うよ。黒はタバサとかぶっちゃうもんな。

 ドレスのセンスがいいからか、マスターの魅力を最大限に引き出している。それに見とれていた男子たちが、大慌てでマスターへと群がっていく。お、キュルケのほうからも何人かマスターに流れたぞ。やったなマスター。君の魅力はキュルケにも太刀打ちできるようだ。

 まー、あれだな。今まで『ゼロ』だの呼んでて全く相手にもしてなかったノーマークの少女の美貌に遅ればせながら気づいた男たちが驚き慌てているのだろう。

 

「すっごいもんだ」

 

 テーブルに誰もいなくなってしまったので、宝物庫からいつものワインと酒器を取り出す。あの様子だとしばらくマスターはこちらに来ないだろう、と思ってのことだったのだが……。

 

「暇そうね?」

 

 腰に手を当て、胸を反らすように張ったマスターが、俺の座っているテーブルのそばまで来ていた。

 

「む、いや、そんなことはない。このワインのテイスティングに手間取っていてな」

 

「何も気にせずグビグビ飲んでた気がするけど?」

 

「……まぁ、うん。暇だったよ」

 

 ギーシュたちがいなくなってからは特に、というのは飲み込んでおく。

 

「それで? あんたのマスターたる私のこの姿を見て、何か感想はないのかしら?」

 

「ああ、綺麗だよ」

 

「っ。そ、そう。まぁ、あたりまえよね!」

 

「そういえば、公爵家だったんだ」

 

「ああ、そういえばその話はしなかった気がするわね」

 

 ま、その辺はいいじゃない、とマスターは話を切って、言いにくそうに口を開く。

 

「……踊らないの?」

 

「そのまんま返すよ。そんなに綺麗になったんだから、踊ればいいじゃないか」

 

「……相手がいないのよ」

 

 ぷい、と顔を背けてまったく意味のない嘘をつくマスター。いやいや、あんだけ声をかけられてたじゃないか、とツッコミを入れると、顔を真っ赤にして目を見開き、何かを言おうと口をわなわなとふるわせ……。

 

「踊ってあげても、よくってよ」

 

 そういって、俺に手を差し出したのだ。……まさかである。まさかこの子からダンスに誘ってもらえるとは。

最初踊る気はなかったが、誘われては仕方があるまい。マスターはわざわざ他の男からのお誘いを蹴ってまで誘ってくれたのだ。……ふっふっふ、無駄に磨いた社交界スキルの一つ、『社交界の礼節:B+』を見せるときだな。

 

「ああ、よろしく頼むよ、マスター」

 

 マスターの手を取って、立ち上がる。それから、楽士たちの演奏に合わせてステップを踏んで、くるりと回る。

 

「流石は王様ね。ダンスも修めてるなんて」

 

「そういうのにうるさい子がいたんだよ。王様ならこれもできないと、これもできないと、って」

 

 あの時は口癖が映ってしまったからな。

 

「……ヴィヴ・ラ・フランス、か」

 

 そういえばこの国もフランスっぽいけど……王女様とかいるんだろうか。ちょっと会ってみたい気もする。あんなお転婆ではないだろうけど。

 考え事をしながらも、時間は過ぎる。体に染みついたダンスのステップは、意識を他の事に向けていても問題なく踊りは終わりに向かう。

 

「……ねえ」

 

 ダンスの途中。音楽に紛れて、小さなつぶやきのような声が聞こえてきた。こちらを見上げる小さなマスターが、恥ずかしそうに言葉を続ける。

 

「ありがとうね。ゴーレムと一緒に戦ってくれて。あの灰色の大男から守ってくれて」

 

「今の俺は君のサーヴァント。当然のことを、当然のようにこなしただけさ」

 

 それから、俺たち二人は一曲終わるまで、言葉を交わすことなく踊り続けた。……話さなくとも、伝わることはあるのである。

 

・・・

 

 余談ではあるが。

 

「……タバサ、まだ食べてるのか、君は」

 

 マスターと踊り終えた後。言い寄られるのに嫌気がさしたマスターは休憩がてら、自動人形を連れてバルコニーのほうへといってしまった。流石に一人に……厳密にいうと違うけど……してやろうと思い、さて俺はどうしようかと視線を走らせると、黒いドレスに身を包んだタバサが、ダンスもせずに……というかそんなもの見向きもせずにパクパクと食事をしているのが見えた。

 彼女と話すのもいいだろう、と思って近づき話しかけると、タバサはもぐもぐと咀嚼しつつこちらに振り向いた。

 

「んく。……今日はたくさん食べられる」

 

 表情は変わっていないように見えるが、嬉しそうだ。まぁ、クール無口っ娘の相手には慣れている。隠された感情くらい、読み取れるのだ。

 ちなみにキュルケのほうはまだ忙しそうである。今でようやく折り返しくらいだろうか。男子生徒たちの列も、なんとなく終わりが見えてきているようだ。

 

「王さまは、これ、食べた?」

 

「うん? サラダ……か? いや、まだこれは食べてないな」

 

「おいしい」

 

 そういわれ、皿に盛られたサラダを渡される。……ふむ、この娘からのおすすめならば、食べてみる価値はあるだろう。健啖家のようだし、味覚がおかしいわけでもないだろうしな。

 フォークでまとめて刺し、口に運ぶ。ドレッシングのにおいが少しだけする。ふむ、これは中々……。

 

「むっ!? むごっ!?」

 

 苦いっ!? 苦いぞこれ! いや、この玉ねぎとかの野菜じゃないな!? この葉っぱか!?

 

「ご、く……。た、タバサ? この葉っぱは……」

 

「はしばみ草。このサラダの、一番のポイント」

 

 ……そ、そうかー。この子、こういうタイプかー。

 

「……みんな、苦いといって残す。……おいしくない?」

 

 悲しそうな表情を浮かべ、こちらを見上げるタバサ。……俺が、そんな顔を見て悲しませるわけにはいかない……! 

 

「いや、うん、奥深い味だな。こう、噛むほどに味の広がりを見せるというか……」

 

「! そう。はしばみ草は奥が深い。サラダだけではなくて、他にも使えないか研究中」

 

 俺の対応は正解だったようだ。タバサはキラキラとした瞳ではしばみ草について語ってくれる。

 ……うん。しかしこうしてみるとはしばみ草、悪いものではないな。苦いが、不味いわけではないし。炒め物とかしてみたらどうだろう。ゴーヤチャンプルーみたいな。あとは……青汁? その辺は研究が必要だろうが、感情をあまり出さないこの娘が興味を持っていることなのだ。協力することに否やはない。

 

「王さまは違いの判る男。さすが」

 

「ありがとう。他にお勧めはないかな? あんまり食べてないからお腹が減っていてな」

 

「ん。なら、これは食べるべき」

 

 そこからは、タバサに勧められた料理を食べ、途中キュルケが混ざってワイワイと騒ぎ、休憩から戻ってきたマスターがキュルケにかみつく形で参戦し、とても騒がしく、楽しい時間を過ごしたのであった。

 

・・・ 

 

 ――夢を見た。欠けてはいない、過去の夢を。

 

「ルイズ! ルイズ!? どこへ行ったの! まだお説教は終わっていませんよ!」

 

 場所は学園ではなく自分の生家。その中庭で、母親が自分を探し回っている。夢の中で優秀な姉二人と魔法の成績を比べられ、よく物覚えが悪いと叱られていたのだった。それが嫌で隠れていた植え込みの中。そこから、誰かの靴が見える。

 

「ルイズお嬢様は難儀だねぇ」

 

「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに」

 

 召使たちの声だ。おそらく、自分を探している母親から命じられ、ここまで探しに来たのだろう。召使たちの言葉に悔しくて歯噛みしている間に、召使たちはがさごそと自分のいる植え込みのすぐ近くを探し始めた。

 このままでは見つかる、と流れ始めた涙もぬぐわずにそこから逃げ出していく。

 その先は、自分が『秘密の場所』と呼んでいる中庭の池だ。そこはあまり人が寄り付かず、うらぶれてしまった中庭の片隅。周りには季節の花も咲き、池の真ん中には白い石でできた東屋のある小さな島すらあるのだが、すでに自分以外の家族全員から興味を失われている忘れられた池。

 叱られるたびにこの忘れられた池へとやってきて、その中庭の島のほとりにある小舟へと逃げ込み、隠れていたのだった。小舟の上には毛布も用意しており、いつものようにその毛布へともぐりこんだ。

 誰の声も聞こえない池のほとりで舟の中、一人でいると、中庭の島にかかる霧の中から、マントを羽織った立派な貴族が表れた。年のころは十六歳ほど。夢の中の自分は六歳くらいになっているので、十歳ほど年上に見える。

 

「泣いているのかい? ルイズ」

 

 つばの広い羽根突き防止に隠れて顔が見えないが、その声の主が誰だかすぐにわかった。子爵さまだ。近所の領地を相続した、年上の貴族。夢の中の自分は、少しだけ鼓動が早くなるのを自覚する。憧れている子爵さま。晩餐会もよく共にした。そして、父と彼はある約束を交わしている……。

 

「子爵さま。いらしてたの?」

 

 幼いとはいえ女の子。憧れの人にみっともないところを見られてしまい、思わず顔を伏せてしまう。

 

「今日は君のお父様に呼ばれたんだ。あのお話のことでね」

 

「まぁ……!」

 

 うつむいていたルイズの顔は、朱に染まる。

 

「子爵さまはいけない人ですわ……」

 

「はは、僕の小さいルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」

 

 朗らかに笑いながらおどける子爵に、慌てて自分は首を横に振る。

 

「そんなことは……でも、わたしまだちいさいし……よくわかりませんわ」

 

 はにかみながらそう言った自分に向けて、子爵の帽子の下の顔がニッコリと笑顔になる。そして、こちらに手を差し伸べてくる。

 

「ミ・レイディ。手を貸してあげよう。ほら、もうじき晩餐会が始まる」

 

「でも、わたし……」

 

「ああ……また怒られたんだね? 安心しなさい。僕からお父上にとりなしてあげよう」

 

 小舟の上の自分に手が差し伸べられる。大きな手。憧れの子爵さまの手。

 その言葉にうなずき、立ち上がってその手を握ろうとしたとき――。

 

「わっ」

 

 突風が吹く。風は子爵さまの帽子を飛ばし、草や砂が舞い上がる。慌てて顔を腕で覆うと、次の瞬間には……。

 

「え……?」

 

 そこは中庭ではなかった。黄金の玉座の間。その入り口に、自分はへたり込むように座っていた。そこから玉座へは真っ赤な絨毯が伸びていて、その両脇を挟むように様々な格好をした、共通点のなさそうな人たちが、様々なものを持って等間隔に並んでいた。

 ……いや、一つ共通点があるというなら。全員が『女性』であるということだろか。色んな人種、色んな年の女性が、玉座までの道を囲んでいた。

 そして、その道の終着点。玉座には、予想通り……。

 

「やぁ、マスター」

 

「ぎ、ギル……」

 

 自身の使い魔である、ギルの姿が。玉座に腰掛け、肘置きで頬杖をついているギルは、こちらを見てにこりと笑う。

 

「ここに迷い込んでくるなんて、いけないマスターだな」

 

 くつくつと楽しそうに笑うギル。『ここ』って……この玉座は何なのだろう。まさか、ギルが王様をやっているときの……?

 

「だいたい何考えてるかわかるけど、『ここ』は俺の座だよ。生前こんなところには住んでなかったからね」

 

「あ、そ、そうなの」

 

 ならば、この城はともかく、この周りを囲む女性たちは何なのだろうか。

 

「この子たちは俺が宝具で呼び出せる、絆を結んだ英霊たちなんだ。マスターは直接見てるわけじゃないから顔も姿もぼんやりとしか見えないだろうけど」

 

 確かに、女性だということもわかるし鎧をまとっていたり奇妙な剣を持っていたりするのは見えるが、細部を見ようとするともやがかかるようだ。

 

「まぁ、俺が召喚した子が一人いるから、それはあとで紹介するよ。……マスター、ここに迷い込んだことは、あんまり気にしないほうがいい」

 

 そういうと、玉座から立ち上がったギルがこちらに向かって歩いてくる。そして、自身の目の前で片膝をつくと、手を伸ばし、頭をなでてくる。

 

「ここには、過去、現在、未来関係なく、俺が召喚できる英霊がいる。……今を生きる君に、ここは合わないだろう。――さぁ、帰ると良い」

 

 頭に置かれた手が離れていき、ギルが立ち上がる。それと同時に、目の前がだんだんと白く、ぼやけていく。

 ……ああ、夢から醒めるのだ、と冷静に思いながら、その感覚に身をゆだねる。

 

「あの人をよろしくね、ルイズ」

 

 ギルの声ではない、そんな声が聞こえた気がした。

 

・・・




真名:繧ク繝」繝ウ繝・繝?繝ォ繧ッ――召喚時のエラーにより、言語変換に失敗。

クラス:セ繧、繝エ繧。繝シ――召喚時のエラーにより、言語変換に失敗。 性別:女性 属性:秩序・善

ステータス:筋力・E 耐久・E+ 敏捷・E 魔力・B 幸運・C 宝具・A++

クラス別スキル

対魔力:☆

■■:D

固有スキル

繝シ繝ウ:A

カリスマ:■+

■人:A

透化:■

■■放出:A

心眼(■):E

■■■の加護:A

矢除けの加護:■

宝具
■■■■■■■■■■■■■■(■・■■■■)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:一人

第一宝具:立ち上がった少女の物語。

■■■■■■■■■■■■(■■・■■■■■・■■■■■)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:1000人

第二宝具:仲間の先を駆ける乙女の物語。

■■■■■■■■■■■(■■■■・■■■)
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:10人

第三宝具:奇跡のその先へ向かった■■の物語。

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